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札幌地方裁判所 昭和26年(行)14号 判決

原告 三田合資会社

被告 北海道知事

一、主  文

被告が北海道磯谷郡南尻別村字初田三百三十五番原野六十六町九反三畝二十五歩について、昭和二十四年十二月二日附北海道公報に公告してなした買収処分は無効であることを確認する。

被告が前項の土地について、原告に対し昭和二十六年十月十七日買収令書を交付してなした買収処分はこれを取消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、主文と同趣旨の判決を求め、その請求の原因として

(一)、昭和二十三年十月十五日当時の訴外北海道農地委員会は、原告所有の主文掲記の土地(以下本件土地という)について、旧自作農創設特別措置法(以下自創法という)第三十条第一項第一号および第七号によるいわゆる未墾地ないし附帯地買収計画を樹立し、その旨北海道告示第八二九号を以て同年同月二十六日北海道公報に公告した。原告は、右買収計画を不服として同年同月二十一日訴外北海道農地委員会に異議を申立てたが、同委員会は、同年十二月二十四日右異議申立却下の決定をした(右決定は、同年同月二十七日原告に送達された)ので、原告は、これに対し昭和二十四年一月十九日被告に訴願したところ、被告は、同年二月二十四日右訴願棄却の裁決をし、右裁決書謄本は、同年三月八日原告に送達された。

(二)、しかるに、被告は、爾後の手続において、原告に対し、右買収計画にもとづく買収令書を交付し得たにかかわらずこれを交付することなく、同年十二月二日附北海道告示第九八八〇号を以て北海道公報に所定事項を公告して、右令書の交付に代え、本件土地の買収処分をした。かかる処分は、手続上重大な瑕疵があるものとして当然無効であるから、その無効なることの確認を求める。

(三)、被告は、昭和二十六年十月十七日原告に対し、右買収計画にもとづく買収令書(昭和二十四年七月二日附北海道お第百三十三号)を再交付した。右交付を以て本件土地についての買収処分がなされたことになるとしても、本件買収計画については、つぎのような違法がある。

(イ)、凡そ買収においてその目的たる土地の範囲が具体的に特定されていなければならないにもかかわらず、本件買収計画にあつては、本件土地のうちどの部分が自創法第三十条第一項第一号にいわゆる未墾地買収で、どの部分が同法条項第七号にいわゆる附帯地買収であるか何等その範囲が特定されていない違法がある。

(ロ)、訴外北海道農地委員会は、北海道告示第八二九号を以て本件買収計画についての縦覧期間を昭和二十三年十月十五日から同年十一月三日まで二十日間と定めながら、前記の如く同年十月二十六日に至つてはじめてその旨の公告をしたから、結局その法定期間を充足していない違法がある。

(ハ)、そうでないとしても、本件土地は、表土浅く、その下層は礫を以て形成されている岩石地であり、大部分三十度前後の急傾斜地をなし、殊に沢流に沿う箇所は傾斜の甚だしい岩石地であるから、元来農耕には不適地である。そればかりでなく、林業をも営業目的とする原告は、本件土地に対し、うち二十二町歩については昭和十五年春九万千本の、うち二十四町七反歩については同年秋十万八百本の、うち五町歩については昭和十六年春二万本のカラマツをそれぞれ植栽し、更に右地域に一万本のカラマツを補植するなど、多大の労力と経費を投じて、専ら植林造成に努めているものであり、現在成育中のカラマツは、十三年生のもの十万千五百本、十二年生平均のもの二万千六百本を計し、これ等資源は、今後十年を出でずして建築その他の有用材となり得る状態にある。かかる植林地を今更ら潰滅して強いてこれを開墾の用に供することは、国民経済のうえからみても、これを存置して現在の林木育成を継続することに比し極めて不利なことである。そのうえ、本件土地は、水源地として下流水田の潅漑の用に供せられており、本件土地の立木が伐採されるとなると、用水を減じ、延いては耕作に支障を来たす実状にある。これ等の点を無視してなした本件買収計画は、違法である。

右の如く違法な買収計画にもとずき、被告が前記買収令書の交付によつてなした本件買収処分も亦違法であるから、その取消求める。

以上の次第で本訴請求におよんだと述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は、「原告の請求は、いずれも棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として

原告の主張事実中

(一)の事実は認める。

(二)の事実のうち被告が買収令書の交付に代えて原告主張のように公告して本件土地の買収処分をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。凡そ買収計画についての異議訴願の不服申立の手続が完了すれば、その後の手続として、買収計画の認可、買収令書を以てする買収処分のなされることはもとより当然のことであつて、被告において、この手続を看過する筋合のあろう筈はない。すなわち、被告は、原告に交付すべき昭和二十四年七月二日を買収期日とする本件土地の買収令書(北海道お第百三十三号)をその経由機関である岩手県農地部長にあてて昭和二十四年九月十三日書留郵便を以て送附した。それにもかかわらず、原告は、被告に対し、右令書の受領証、対価に関する委任状の返送等をなさず、徒らに時日を経過するので、被告は、自創法第九条第一項但書の規定によりその交付に代えて公告したのであるから、右公告によつてなされた本件買収処分は、手続上何等の瑕疵なく、有効である。

(三)の事実のうち被告が原告主張の日に原告主張の右買収令書を再交付したこと、原告主張の日に、その主張のような縦覧期間の公告をしたこと、本件土地が多礫性であること、原告が本件土地に対し昭和十五、六年度においてカラマツを植栽し、現在その生育中であることは認めるがその余の事実は争う。被告が右の如く買収令書を再交付したのは、右令書が原告に対して交付されていないことが本訴において明かになつたためである。従つて、前記の如く買収令書に代わる公告を以てなされた本件土地についての買収処分が手続上の瑕疵ある無効なものとしても、右令書の再交付によつて、右買収処分は適法になされたこととなり、原告主張の如き何等の違法はない。すなわち

(イ)  本件土地についての買収計画にあたつては、実地について調査をなし、うち四十二町歩は自創法第三十条第一項第一号にいわゆる未墾地として、うち二十四町九反三畝二十五歩は同法条項第七号にいわゆる附帯地としていずれも買収の区域を図面の上で具体的に特定し、なお、右各面積については所定の様式を以て縦覧に供していたから、本件土地の買収範囲が具体的に特定しないとの違法はない。

(ロ)  本件土地の買収計画は、昭和二十三年十月一日附北海道公報第四七〇四号に登載してその公告手続がなされたところ、偶々右公報は、同年同月二十六日に至つて同日附の公報とともに頒布されたので、同日はじめて右公告がなされたこととなるにしても、右公告による縦覧期間は、同年同月十五日から二十日間とされていて、その終期である同年十一月三日までには、なお相当の期間を存し、遠隔の地にある利害関係人といえども、十分に縦覧し得て、その利益の伸張には何等支障のない状態のもとに公告されているものといい得るから、これを目して違法とすることは当らない。

(ハ)  本件土地のうちいわゆる未墾地として買収した前記四十二町歩は、その傾斜二十度以内で、礫度も低く、本件土地附近の農家が、これとほぼ同一の性質を有する土地について営農をしている実例に徴し正しく開墾適地というべく、その余の二十四町九反三畝二十五歩は、或は傾斜三十度に達する部分があり、或は岩石が点在し、或は多礫性のため開墾には適しないが、右四十二町歩の利用上必要な土地である。而して、本件土地の下方に連る初田部落の農家は、平均して小面積の水田を経営するに止まり、家畜の飼料畑又は採草地は勿論二、三男の分家用地にも恵まれない実情にあつて、本件土地は、つとに同部落農家においてその開拓を希望しているものである。一方本件土地に対し原告の植林したカラマツの生育状況をみるに、うち九町歩については、おおむね生育良好であるけれども、うち約十四町四反歩については生育不良である。かかる状況にある植林地は、これを存置して林木育生の用に供するよりも、これを農業目的に転換して土地の農業上の利用を図る方が、国民経済のうえからみても遙かに有利である。そのうえ、本件土地は、原告が植林する以前数十年間は無立木の状態であつたにもかかわらず従来同一の水量が湧出していることに鑑み、本件土地を開墾することによつて、その下流水田の潅漑には何等支障を来すものではない。以上の次第であるから、本件買収計画については何等の違法なく、従つてこれにもとづく本件買収処分は適法である。よつて、原告の本件請求は、いずれも失当である。

とのべた。(立証省略)

三、理  由

本件土地が原告の所有に属し、これに対し原告主張のような経過で、その主張の買収計画の樹立ないし訴願の裁決がなされたことおよびその後の手続において、被告が買収令書の交付に代えて原告主張のように公告して本件土地の買収処分をしたことは当事者間に争いがない。

そこで、右公告の適否につき考察する。そもそも自創法第三十条の規定による買収については、同法第九条の規定の準用により買収令書の交付に代わる公告は、買収の対象である土地の所有者が知れないとき、その他令書の交付をすることができないときにはじめてなし得ること規定上明かである。被告は、原告に交付すべき昭和二十四年七月二日を買収期日とする本件土地の買収令書(北海道お第百三十三号)をその経由機関である岩手県農地部長にあてて昭和二十四年九月十三日書留郵便を以て送附したが、原告が右令書の受領証等の返送をなさず、徒らに時日を経過するので右法条但書により、その交付に代えて公告したと主張するけれども、かりに、右のような事実があつたとするも、このことを以ては、右法条但書の要件を具備した公告とはいわれない。ところで、成立に争いのない甲第五号証、乙第五号証、乙第六号証の一、二によると、本件土地の所有者は原告で、その住所は前記原告の肩書地であつて、被告においてこれを十分承知していたことが認められるから、右法条但書にいわゆる「土地の所有者が知れないとき」に当らないことは論をまたないし、成立に争いのない甲第六号証、前顕乙第六号証の一、二ならびに弁論の全趣旨を合せ考えると、被告は、本件土地の買収令書を岩手県知事にあて、昭和二十四年九月頃送付して、これを原告に交付することを委嘱したが同知事は、これを原告に交付することができたにもかかわらずこれが交付の手続を全然とらなかつたことが推認できるから、これまた右法条但書にいわゆる「令書の交付をすることができないとき」にも当らないものといわなくてはならない。されば、右公告は、前記法条但書の要件を全く欠いた違法のものというほかはないのであつて、前示買収令書の交付に代わる効力を生ずるものとはいい難い。従つて右公告によつてなされた前記買収処分は、手続上瑕疵があり、何等その効力を生じていないから、当然無効というべく、その無効なることの確認を求める原告の請求は正当として認容すべきものとする。

つぎに、被告が原告に対し本訴繋属中の昭和二十六年十月十七日に至つて前記買収令書を再交付したことは、当事者間に争いがないから、前段認定の如く、未だ本件土地についての買収処分のなされていない結果となる本件にあつては、右令書の再交付によつてはじめて右買収処分がなされたと認めるが相当である。

原告は、右令書の交付によつて、買収処分がなされたとしても

(イ)  本件買収計画にあつては、本件土地についての買収の範囲が具体的に特定されていない違法があると主張するが、成立に争いのない乙第二、四号証によれば、訴外北海道農地委員会が本件土地についての買収計画を樹立するにあたつて、うち四十二町歩は自創法第三十条第一項第一号にいわゆる未墾地として、うち二十四町九反三畝二十五歩は同法条項第七号にいわゆる附帯地としてその面積を区別し、図面の上に各買収の範囲を明確に特定していることが認められる。而して本件の如く本件土地が一括して買収の対象とされる場合には、買収によつてその所有権の政府に帰属する区域は自ら特定するから、更にそのうちどの部分が前記法条項各号いずれの買収に該当するかの買収範囲の具体的な特定は、右認定の程度でも何等支障のないものと解する。従つて、原告のこの点についての主張は採用しない。

(ロ)  原告は、本件買収計画についての公告は、その縦覧期間の始期後になされ結局その法定期間を充足しない違法があると主張する。訴外北海道農地委員会が、北海道告示第八二九号を以て本件買収計画についての縦覧期間を昭和二十三年十月十五日から同年十一月三日まで二十日間と定めて、同年十月二十六日にこれを北海道公報に公告したことは当事者間に争いがない。ところで、自創法第三十一条第四項、昭和二十二年三月二十八日農林省告示第二十五号の要求する縦覧期間は右公告の翌日である昭和二十三年十月二十七日から数えて二十日間すなわち同年十一月十五日までとなる理である。しかるに、右公告によりその期間を同年十月十五日から同年十一月三日(若し、右告示により訴外北海道農地委員会が十一月三日の祝日に執務する旨の公示をしないときは、その終期は十一月四日となる)まで二十日間と定めたのは、原告指摘のとおり右法令に違反すること明白である。しかし、自創法第三十一条第四項が、未墾地買収計画の書類の縦覧期間を二十日間と定めたゆえんのものは、同法条第五項同法第七条の法意に照し、未墾地買収計画の内容を利害関係人に知らしめ、土地所有者の異議申立権を侵害することなからしめる趣旨に出たものというべきであるところ、原告は前記公告に定められた期間内である昭和二十三年十月二十一日に本件買収計画に対する異議の申立をなし、その異議の理由につき実体的判断を受けたことは、その主張自体に徴し明白である以上、もはや原告において前記公告により定められた縦覧期間が、法定期間を充足しないことを理由としてその買収計画ひいては買収処分の違法を主張することは許されないものと解するのが相当である。

(ハ)  更に、原告は、本件土地は開墾不適地であると主張する。これに対し被告は、本件土地のうち前記二十四町九反三畝二十五歩は開墾不適地であることを認めて争わないから、本件土地のうち前記四十二町歩が開墾不適地であるかどうかについて判断する。

凡そ、自創法のもとで、開墾して農地とすることが可能な土地であるかどうかは、自然的、社会的、国民経済的諸見地から仔細に考察してこれを定めなくてはならない。そこで、まず、自然的社会的観点から考えてみるに、証人瀬尾春雄、谷口末吉の各証言および鑑定人瀬尾春雄の鑑定ならびに検証の各結果を綜合すると本件土地は、函館本線蘭越駅の北西方約十八粁の地点に位し、その間を通ずる省営自動車道路には約二粁を距てているに過ぎず、本件土地の下方は、水田に接続し、水利の便も良好であるが、元来、本件土地は、集塊岩等の岩石を基盤とする多礫性の土地であつて、前記四十二町歩のうち、若干の手を加えて農耕地として利用し得る土地は、僅かに二町余歩に止まり、除石することによつて農耕適地となるものは、約十六町歩であるが、これとて必ずしも将来性を期待し得ず、その余は、全く農耕に適しない土質であることが認められる。成立に争いのない乙第一号証の一、二、第二号証、証人藤原巳代治、松井英太郎、北川佐太郎の各証言中右認定に反する部分は、にわかに信用し難い。以上の事実を併せ考えると、右土地は、その社会的見地からは、開墾に適する土地といい得るとしても、その自然的条件からみて、農業上の利用としてはこれを開墾して農地とすることは不相当と判断するのほかはない。もつとも証人北川佐太郎の証言によつてその成立を認め得る乙第十号証に同証人の証言ならびに検証の結果によると、右土地にはよもぎ、笹等の牛馬の飼料となる雑草が密生していること、地元部落農家が右土地の開放を希望しているのは、主として、これを採草放牧の用に供し、従来の営農を酪農経営に改めて、その地位の安定を得ようとしていることがうかがえるし、本件買収計画当時においては、未墾地中にかかる土地も包含していたと解せられないでもないが、その後の改正によつて、自創法は、未墾地と牧野を区別しており、右土地の買収処分が右改正後になされておることに鑑みるときは、他に特段の事情のない本件にあつては、右土地が採草、放牧に適するからといつて、これを未墾地として買収することができるものではない。これに加えて、証人小野貞三山中良造の各証言に検証の結果を綜合すると、原告は、林木育成の目的を以て、本件土地に対し昭和十五年春九万千本、同年秋二万本、昭和十六年秋一万本のカラマツを各植栽し、その活着状況は概して良好で、その利用経級に達するときは、巨額の収益を挙げ得る現況にあることが認められるから、農地の開発が緊急の重要国策の一つであることを考慮に入れても、前段認定の事実に対比すると、右四十二町歩の土地は、国民経済的見地からいつてもこれを存置して林木育成の用に供する方が、これを潰滅して強いて農地とすることよりも有利であると判断される。すなわち、右土地を開墾可能の未墾地とし、更にこれを前提としてその利用のために必要ありとして本件土地のうちその余を附帯地としてなした本件買収計画は、相当性をかくから違法というべく、従つて、右買収計画にもとずいてなされた本件買収処分も又違法というのほかはなく、その取消を求める原告の請求は正当として認容すべきものとする。

よつて、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 猪股薫 中村義正 杉山克彦)

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