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札幌地方裁判所 昭和31年(わ)691号 判決 1958年11月24日

被告人 向出耕作

主文

被告人を禁錮六月に処する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和二十一年一月頃から肩書地において、電気器具ラジオ商を営み、同二十七年四月頃同所に電気機械器具の販売、修理を目的とする向出電機株式会社を設立し、右自宅に店舗を構え、その代表取締役となり自ら電気機械器具の販売修理にあたつていた者であるが、昭和三十一年四月中二回に亘り右店舗が盗難にあいその都度ベルをとりつけ、あるいはウインドおよび出入口外側の板戸に鉄鎖をめぐらすなど盗難予防に腐心していたところ、同年六月五日朝またもや前夜何人かが同店舗階下東側出窓鉄格子を乗り越え窓硝子を破つて侵入し、店内の物品が窃取されているのを発見したことから早急になんらかの対策を講ずることの必要性を痛感し、以前店員の高田全司から盗難予防のため電流を利用した人がある旨話されたことのあるのを思い出し、それが盗難予防上効果的であろうと考え、前記鉄格子および鉄鎖に電流を通じようと決意し、同日頃の午後八時頃、右店舗において、店員青柳弘二に手伝わせ、一次側百ボルト、二次側二百ボルト、二次電流八十ミリアンペアのラジオ用小型電源トランス一個(証第一号)を店舗奥の修理台上におき、その一次側リード線を一アンペアのヒューズ一本をとりつけたアンテナスイッチでビニール平行線に接続し、その端に差込プラグをとりつけ、右プラグを店舗内の北海道電力株式会社設備の電燈用ローゼットからコードで連結してあつたテーブルタップに差し込めるようにし、前記トランスの二次側リード線の一本をワニグチクリップで修理台下のコンクリート床に接地してあつたアース用配線および銅線(証第六号)に接続し、他方、長さ八十八糎幅約七糎の鉄板ベルト一枚(証第三号)を前記東側出窓南側内側の妻板上部に釘(証第四号)で打ちつけ右鉄板の一端が約三十糎張り出した地上より下部までの高さ約八十糎、幅約二米四十糎の右出窓外側の全幅にわたり、その下部において約九糎上部において約六糎張り出した長さ約六十六糎の三分丸縦鉄棒三十一本および長さ約三米六十糎の三分丸横鉄棒二本よりなる鉄格子の上部横鉄棒南端支え足に接触するようにしたうえ、二次側リード線の他の一本をワニグチクリップで右鉄板ベルトの屋内側の一端に接続し、更に店舗東側および北側ウインドならびに北側出入口の板戸の外部下方地上より高さ約七十糎のところに約六米にあたりめぐらされた鉄鎖(証第五号)の南端と右鉄格子下部横鉄棒北端支え足とをメッキ銅線(証第二号)で連結し、もつて差込プラグをテーブルタップに差し込みアンテナスイッチを入れて回路を閉じるときは、電燈用ローゼットからラジオ用小型電源トランス一次側コイルに百ボルトの交流電流が流れ、右トランス二次側コイルに二百ボルト、八十ミリアンペア以下の誘導電流を生じ、右電流が二次側回路の一部をなす前記鉄格子全部および鉄鎖に流れる装置をなしたものであるが、およそこのような装置は人体が接触すればこれに電撃を与え時としては生命、身体等に危害を与えるおそれが十分あるのであるからその装置をなすにあたつては、右装置は札幌市の繁華街たる狸小路に北面する店舗の東側即ち西六丁目道路に面して施こされたものであるので、一般の通行人はこれに接触して感電することのないよう必要な工作を施し、かつ、あらゆる状況下におけるその装置に流れる電流の人体に及ぼす影響の程度につき、自己の電気に関する知識を十分に活用し、それで足りない場合には、更に専門家の意見指導を徴するなどして仔細に研究、調査を遂げ、万一人がこれに接触しても絶対に電撃による死傷を与えることのないよう施工する等安全性確保のため適切な手段を講じ、電撃による事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに拘らず、右義務を著しく怠り、漫然八十ミリアンペア以下の電流であれば人体に流れてもその生命、身体に危害を与えることはあるまいと軽信して何等前記の如き工作、事前の研究、調査をすることなく、アンテナスイッチにとりつけられた一アンペアのヒューズが飛ぶことにより一次側回路の電流が一アンペアを越えないものであるとし、また店員の松野博に素手で前記鉄格子に触れさせ、同人の報告によりピリッとくる程度の電撃を与えるものであることを知つたにとどまり、その後同月十九日朝に至るまで毎夜午後十時過頃から翌朝午前六時頃までの間前記青柳弘二をしてテーブルタップにトランスの一次側リード線の一端にとりつけられた差込プラグを差し込んで前記鉄格子と鉄鎖に二百ボルト、八十ミリアンペア以下の電流を通じさせていたため、同月十九日午前二時頃同店舗東側の西六丁目通を通行中の湯浅烈史(当時十六年)、渡辺紳一(当時十六年)および東久敏(当時二十三年)の三名が前記鉄格子に接触し、同人等の体内に、それぞれ二百ボルトの電圧がかかり、たまたま当夜は小雨が降り着衣、靴がいずれも湿気をおびていたこともあつて体内の抵抗が低下しており、ために同人等の体内には大体五十ミリアンペア以上と推定される電流が流れ、よつて、その頃同所において右湯浅および渡辺の両名をいずれも感電死するに至らしめ、右東に対し加療約十日間を要する電撃傷を負わせたものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示所為は各刑法第二百十一条後段、罰金等臨時措置法第二条第三条に該当するが、これらは一個の行為にして数個の罪名に触れる場合であるから刑法第五十四条前段、第十条により犯情の最も重いと認められる渡辺紳一に対する重過失致死の罪の刑に従い処断することとし、所定刑中禁錮刑を選択し、その刑期範囲内で被告人を禁錮六月に処し、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文を適用して全部被告人に負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤竹三郎 田宮重男 岩野寿雄)

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