大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌地方裁判所 昭和31年(ワ)409号 判決 1958年5月29日

原告 株式会社日本勧業経済会破産管財人 小町愈一

被告 株式会社北海タイムス社 外一名

主文

原告に対し被告会社は別紙目録(一)記載の家屋中階下約三十一坪、被告藤本義明は右家屋中二階約十坪の明渡をせよ。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は被告会社は原告に対し別紙目録(一)記載の家屋中階下約三十一坪を明渡し且つ昭和三十一年六月八日より右明渡済に至るまで一ケ月金参千円の割合による金員の支払をせよ被告藤本義明は原告に対し右家屋の中二階約十坪を明渡し且つ前同日より右明渡済に至るまで一ケ月金六百九拾五円の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は被告等の負担とするとの判決並びに仮執行の宣言を求めその請求原因として訴外株式会社日本勧業経済会は訴外奥山昭夫外五名の申立により昭和二十九年七月十六日東京地方裁判所において破産の宣告を受け原告は同日右破産会社の破産管財人に選任されたものである、しかして別紙目録(一)記載の家屋は同目録(二)記載の宅地と共に右会社が昭和二十八年一月二十八日売買に因りその所有権を取得し同年三月四日これが登記手続を了したものであるが同会社は同年十月頃被告株式会社北海タイムス社に対し右家屋中階下約三十一坪を賃料一ケ月金参千円の約で期間の定めなく賃貸し被告会社は当時これを職員の居住に使用しており現在は被告会社余市支局として階下全部を占有している。しかるところ原告は訴外会社の破産管財人として右不動産を適正な価格をもつて換価しその売得金を破産債権者に配当すべき任務を有するので破産法第五十九条第一項前段の規定に基き前記賃貸借契約を解除することを選択し昭和三十一年六月五日附内容証明郵便をもつて被告会社に対し賃貸借契約解除の意思表示をなし右は同月七日同被告に到達したから同日をもつて右契約は解除せられたものである。仮りに右主張が容れられないとしても原告は前記内容証明郵便により借家法第一条の二同第三条第一項の定めにより解約の申入れをなすにつき正当の事由あることを理由として前記賃貸借契約を解約する旨通告したから右通告後六ケ月を経過した同年十二月八日をもつて右賃貸借契約は終了した。よつて原告は被告会社に対し請求趣旨記載の家屋の明渡及び昭和三十一年六月八日以降右明渡済に至るまで賃料相当額一ケ月金参千円の割合による損害金の支払を求める。

次に被告藤本義明は昭和二十八年一月前記破産会社の余市出張所長を命ぜられ、右会社が別紙目録(一)記載の家屋を取得以来その二階約十坪に職員として無料で居住して来たものであるが破産会社の支払停止に伴い昭和二十九年三月一日解雇となり余市出張所もその頃閉鎖されたのであるそこで原告は昭和三十一年六月五日附内容証明郵便をもつて同被告に対し民法第五百九十七条、第二項第三項の規定により右使用貸借契約を解除する旨通告し右は同月七日同被告に到達したから同日をもつて右契約は終了した。よつて原告は同被告に対しその占有する二階約十坪の明渡並びに同年六月八日以降右明渡済に至るまで賃料相当額一ケ月金六百九十五円の割合による損害金の支払を求めると陳述した。

被告会社訴訟代理人は請求棄却の判決を求め答弁として原告主張の予備的請求原因事実は否認するがその余の事実は認める。しかし原告主張の如き契約解除の効果は発生しないと陳述した。被告藤本義明訴訟代理人は請求棄却の判決を求め答弁として原告主張事実は認めるか同被告は目下失業中で病気の身体に家族を抱え生計の途も立たない実情に在るので原告の請求には応じられないと陳述した。

理由

訴外株式会社日本勧業経済会が訴外奥山昭夫外五名の申立により昭和二十九年七月十六日東京地方裁判所において破産の宣告を受け同時に原告がその破産管財人に選任せられたこと及び別紙目録(一)記載の家屋は同(二)記載の宅地と共に右破産会社が昭和二十八年一月二十八日売買に因りその所有権を取得し同年三月四日これが登記手続を了したものであることは本件各当事者間に争のない事実である。

そこで先づ原告の被告会社に対する主張につき判断するに被告会社が昭和二十八年十月頃前記破産会社から目録(一)記載の家屋中階下約三十一坪を賃料一ケ月金参千円と定め期限を定めずに賃借しその当時はこれを職員の居住に使用していたが現在においては被告会社余市支局として階下全部を占有していること、及び破産管財人たる原告が破産法第五十九条第一項の規定に基き右賃貸借契約を解除することを選択し昭和三十一年六月五日附内容証明郵便をもつて被告会社に対し契約解除の意思表示をなし右は同年同月七日被告会社に到達したことはこれ亦当事者間に争のない事実である。

しかして賃貸人が破産の宣告を受けた場合にその宣告前に締結された賃貸借契約につき破産法第五十九条の適用があるか否については説の分れるところであるが同法には特にこの場合を除外する旨の規定がなくむしろ同法第六十三条において借賃の前払又は借賃債権の処分につき破産債権者に対抗し得る限度を定め又賃借人が破産の宣告を受けた場合につき民法第六百二十一条に特別の規定を置いているところからみてこれを積極に解するのが相当である。ところで右破産法第五十九条の注意は双務契約における当事者の一方が破産の宣告を受けた場合にはその双方を公平に保護すると同時に破産手続の終結を迅速ならしめることを目的とするのであつて破産という特別の事情下においてはその当事者間の法律関係は専ら破産法によつて規律せられることになり破産管財人は破産財団に属する財産を換価しこれを総破産債権者に配当することを終局の目的として財産の管理をなす法定の職責を有するのであるから建物の賃貸借契約につき破産管財人が同法条第一項により契約解除を選択しその意思表示をした場合には借家法第一条の二の制約を受けることなく賃貸借契約は解除となり賃借人は破産法第六十条に従い右解除によつて蒙るべき損害賠償につき破産債権者としてその権利を行うべきものと解するをこれ亦相当とする。

はたしてそれならば本件被告会社との前掲賃貸借契約は適法に解除せられたものというべきであるから同被告は原告に対し別紙目録記載(一)の家屋中階下約三十一坪を明渡すべき義務を有することは勿論である。

尚原告は被告会社に対し賃貸借契約解除後における賃料相当額の損害金の支払を求めているが右賃貸借契約の解除が目的家屋の換価の必要上なされたものであることは前認定のとおりであるから原告が解除後賃料相当額の得べかりし利益を喪失することは特別の事情に属するところ原告はこの点につき何等主張立証をしていないのであるから右損害金の支払を求める原告の主張はこれを採用する由がない。

つぎに被告藤本義明に対する家屋明渡の請求原因事実については同被告の認めて争わないことであつて、右事実によれば原告と同被告間の別紙目録(一)記載の家屋中二階約十坪の使用貸借契約は昭和三十一年六月七日をもつて終了したこととなるから同被告は原告に対し右家屋の明渡をしなければならない。しかし原告の同被告に対する契約終了後明渡済に至るまでの損害金請求の主張は前被告会社に対する主張と同様の理由によりこれを排斥する。

よつて原告の本訴請求は爾余の点につき判断するまでもなく被告等に対しそれぞれの家屋明渡を求める限度においてのみ正当として認容せられるがその余は失当としてこれを排斥すべきであるから訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条仮執行宣言につき同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山孝)

目録

(一)北海道余市郡余市町大字大川町百七十九番地の二十

家屋番号 同町第二七五番の二

一、木造亜鉛鍍金鋼板葺二階建居宅

建坪三十一坪外二階坪十坪

(二)同所

宅地 五十六坪五合一勺

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例