大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

札幌地方裁判所 昭和40年(ワ)1192号 判決 1968年4月16日

原告

大村サダ

被告

大光衣料品株式会社

ほか一名

主文

被告らは、連帯して原告に対し金一、八五〇、〇〇〇円および内金六〇〇、〇〇〇円に対する昭和四〇年九月三〇日から、残金一、二五〇、〇〇〇円に対する昭和四二年一二月五日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを三分し、その二を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の申立

一、原告の申立

(一)  被告らは、連帯して原告に対し金二、九一七、六八八円および内金一、〇〇〇、〇〇〇円に対する昭和四〇年九月三〇日から、残金一、九一七、六八八円に対する昭和四二年一二月五日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は、被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

二、被告らの申立

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二、当事者の主張

一、原告の請求原因

(一)  事故の発生

被告真田一三は、昭和四〇年九月三〇日午前一〇時五〇分ころ、普通貨物自動車(登録番号品四に八七〇七号、以下「被告車」という。)を運転して札幌市西一一丁目通り(通称石山通り)を南から北に向けて進行中、同市南三条西一一丁目交差点路上で、折から同市南三条通りを西から東に向け進行し前同交差点に進入してきた原告運転の小型乗用自動車(登録番号札五は六五三七、以下「原告車」という。)に衝突して原告車を破損し、原告に対し頸椎むち打ち損傷の傷害を負わせた。

(二)  責任原因

1 被告真田は、左記過失により右事故を惹起せしめたものであるから、民法七〇九条にもとづき原告の受けた後記損害を賠償すべき義務がある。すなわち、被告真田は本件事故発生当時被告車を運転し、時速四〇キロ以上で札幌市西一一丁目通りを北進し、事故現場交差点を直進しようとしたが、その際同被告は、右交差点手前約二〇メートルの地点で、右交差点南三条通り西側から右交差点に先入して右折の合図をしながら一時停止していた普通貨物自動車(幌付有蓋車)を被告車の進路前方に認めた。このような場合、自動車を運転する者としては、右交差点に先入して停止中の自動車があり、かつそのかげの部分は見通しのきかない状況であつて他の自動車が居合せる恐れも予想されるから、充分減速徐行し、右停止中の普通貨物自動車等の動向に対処して安全を確認しつつ進行し、もつて衝突等の事故発生を未然に防止すべき注意義務があつた。しかるに、右被告は、これを怠り、右貨物自動車のかげの部分に他車がないものと軽信し、ほとんど従前と同じ速度のまま右停止中の自動車の直前を通過しようとして漫然右交差点に進入した。ところが右貨物自動車は被告車の直前で発進し右折を完了したが右貨物自動車のかげの部分には同じく右折のため一時停止していた原告車があり、被告はこれをわずか約六・七メートル手前ではじめて発見したため、急制動をかけたが及ばず被告車左前部を原告車右前部に衝突させるに至つたものである。

2 被告会社は、その事業のため被告真田を雇用していたものであり、本件事故は同被告が被告会社の事業執行中に惹起したものであるから、被告会社は民法七一五条にもとづき原告の受けた後記損害の内1.を賠償すべき義務がある。更に、被告会社は、被告車の所有者であり自己のためこれを運行の用に供していたものであるから自動車損害賠償保障法三条にもとづき原告の受けた後記損害の内2.ないし7.を賠償すべき義務がある。

(三)  損害

本件事故により原告は次のとおりの損害を蒙つた。

1 原告車の修理費用 金七四、一三〇円

2 入院ならびに通院による治療費 金一〇、〇一三円

すなわち、(イ)原告は本件事故により昭和四〇年九月三〇日から同年一一月五日まで訴外いとう整形外科病院に入院して、治療費金六七、〇〇〇円を要したが、原告は自動車損害賠償責任保険金により右入院費として金六六、三三四円を受領したので、これを控除した残金六六六円、(ロ)同年一一月六日から翌四一年一一月一一日までの間四回右いとう整形外科病院に通院加療した治療費金一、〇六二円、(ハ)その頃五回にわたつて北大附属病院に通院加療した治療費金六、〇三一円、(ニ)昭和四〇年一二月一一日から翌四一年二月一四日まで五回東京慈恵会医科大学附属病院に通院加療した治療費金二、二五四円、以上(イ)ないし(ニ)合計金一〇、〇一三円の損害を受けた。

3 通院交通費 金六、一〇〇円

すなわち、昭和四〇年一〇月二二日から同年一一月一〇日までの間五回北大附属病院へ通院に要した交通費金六、一〇〇円。

4 診断書作成費 金二、七〇〇円

すなわち、昭和四〇年一一月一〇日、同四二年七月二五日、同年八月一日北大附属病院において、同年七月一七日いとう整形外科病院において本件損傷につき診断書の作成交付を受けた費用金二、七〇〇円。

5 得べかりし利益の喪失による損害 金一、七五四、七四五円

すなわち、原告は、宝石類の委託販売業を営み本件事故当時月額金一二〇、〇〇〇円の営業利益をあげていたが、本件事故による負傷のため昭和四〇年一〇月一日から同四一年一二月三一日までの一五ケ月間休業を余儀なくされ、その間、前記利益一ケ月金一二〇、〇〇〇円の割合で計算した金一、八〇〇、〇〇〇円の得べかりし収入を喪失した。しかし、その内、前記責任保険金により休業補償費として金四五、二五五円を受領したので、これを控除した残金一、七五四、七四五円が原告の受けた損害である。

6 慰藉料一、〇〇〇、〇〇〇円

すなわち、原告は、前記各病院に入院あるいは通院加療中、前記傷害による頭痛、眼の疲労、耳の異常や異和感・倦怠感などを感じ、後遺症の不安が増大し、原告の肉体的、精神的苦痛は甚大であつた。従つて、右精神的苦痛の慰藉料として金一、〇〇〇、〇〇〇円。

7 弁護士費用 金七〇、〇〇〇円

以上、総計金二、九一七、六八八円が本件事故により原告が蒙つた損害である。

(四)  よつて原告は、被告らに対し、右損害金二、九一七、六八八円および内金一、〇〇〇、〇〇〇円(慰藉料)に対する事故発生の日である昭和四〇年九月三〇日から、残金一、九一七、六八八円に対する弁済期後である昭和四二月一二月五日から各完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、被告らの答弁ならびに抗弁

(一)1  請求原因(一)の事実は認める。

2  同(二)1の事実は否認する。

3  同(二)2の事実中、被告真田が被告会社の被用者であること、本件事故が被告会社の事業の執行中になされたものであること、および被告会社が被告車の所有者であり、自己のため自動車を運行の用に供するものであることを認め、損害賠償義務の存在は争う。

4  同(三)の事実はすべて不知。

(二)  免責の抗弁

1 被告真田および被告会社は、被告車の運行について過失はなく、本件事故はもつぱら原告の過失に起因する。

すなわち、本件事故現場交差点は、東西に通ずる幅員約一三メートルの南三条通り道路と、南北に通ずる幅員約三〇メートルの西一一丁目通り道路とが直角に交るところであつて、右西一一丁目通り道路は、右南三条通り道路に対し、優先道路になつていた。被告真田は被告車を運転して西一一丁目通り交差点にさしかかつたところ、同交差点南三条通りに普通貨物自動車が右折の合図をしながら一時停止をして被告車の北進通過を待つていた。そこで被告真田は、右優先通行権に従い、約一メートルの間隔をおいて右貨物自動車の前方を通過した。他方、原告は、右貨物自動車のかげの部分にあたる南三条通り左側端から右交差点に進入右折しようとしたのであり、このような場合には、右西一一丁目通りは原告車の進行する南三条通りに対して優先道路にあたり、また右貨物自動車のため右西一一丁目通りの見通しがきかなかつたのであるから、右交差点に進入する際には充分に安全を確認すべきであつた。ところが、原告は右注意義務を怠り、自己進路の安全を確かめずに、漫然と右交差点に進入した過失によつて本件事件が発生したものである。

2 本件事故当時、被告車に構造上の欠陥、機能の障害はなかつた。

(三)  過失相殺の抗弁

かりに、被告らに本件事故による損害の賠償義務があるとしても、本件事故の発生については、右(二)1.記載のとおり原告にも過失があるから、被告らの損害賠償額を定めるについては、右原告の過失を斟酌すべきである。

第三、証拠関係 〔略〕

理由

第一、請求原因(一)の事故発生の事実については当事者間に争いがない。

第二、そこで請求原因(二)の責任原因およびこれに関する抗弁(二)について判断する。

(一)  被告真田が被告会社の被用者であり、本件事故が被告会社の事業の執行中になされたものであること、および被告会社が被告車の所有者であり、自己のため自動車を運行の用に供するものであることは当事者間に争いがない。

(二)  〔証拠略〕を総合すれば次の事実を認めることができる。すなわち、被告真田は、本件事故当日の昭和四〇年九月三〇日午前一〇時五〇分ころ、被告車を運転して時速四〇キロメートルで札幌市西一一丁目通り(車道幅員約三〇メートル)を北進し、右西一一丁目通りと南三条通り(車道幅員約一三メートル。一時停止の標識がある。)とが交差している同市南三条西一一丁目交差点(信号の設置はない。)から約二〇メートル手前付近で、左方南三条通りから同交差点内に約二・三メートル進入して右析の合図をしながら一時停止していた普通貨物自動車(幌付有蓋車)およびこれに後続する一、二台の自動車を認めたこと、しかるに、被告真田は、被告車が原告車に優先して右交差点を進行する権利があるから、そのままの状態で進行しても右貨物自動車の前方約一メートルの間隔で無事通過しうるものと軽信し道路左側から約五メートルの地帯を漫然ほぼ同一速度で進行して右交差点を北進横断しようとしたところ、右貨物自動車は被告車の接近直前に発進して横断右析を完了したこと、他方原告は原告車を運転して、右貨物自動車の北側で一時停止していたが、右貨物自動車に右方視界をさえぎられ右方の安全を確認できずにいたところ、右貨物自動車が発進したので原告もこれに続いて、南側西一一丁目通りの安全を確かめないまま右交差点中央にむけやや徐行をはじめたこと、被告真田は右貨物自動車のかげに原告車がいることに気付かず右交差点に進入し右貨物自動車が発進右析した後になつて漸く被告車の前方約六・七メートルの地点に原告車を発見して急制動の措置を構じたが間に合わず、右交差点内において被告車左前部を原告車右前部に接触させ、よつて本件事故を惹起させたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する前示各書証および原告大村サダならびに被告真田一三本人尋問の結果はいずれも信用できず、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。

被告らは、被告車の進行する道路が原告車の進行する道路に対して優先道路であつたから、右進行につき何ら過失はないと主張するが、自動車運転者たる者は、十字路交差点を横断する場合には、左右の安全を確かめつつ横断すべき注意義務のあることはもちろん、被告真田は、本件交差点にさしかかつた際、自己の左前方約二〇メートルに、南三条通り道路上から貨物自動車ほか一、二台の自動車が自己の進路前方の交差点を右折進入しようとして先入し一時停止しているのを認めたのであるから、このような場合には、右先入停止中の自動車が先に発進することもありうるし、またその北側は見とおせない状況で他の自動車が居合せることも予測されることであつたので、自己の進行する道路が優先道路であると否とを問わず、右停止中の普通貨物自動車等の動向および見通しのきかない部分の交通状況を考慮して、安全な運転をなしうるよう充分減速徐行して衝突等の事故発生を未然に防止すべき注意義務があつたものというべきである。しかるに、前記認定事実によれば、被告真田は、本件事故発生前に右注意義務を怠つたものというべきであつて、被告真田に過失のあつたことは明らかであるといわねばならない。

(三)  他方、原告車を運転する原告においても、南三条通りを東進して本件交差点にさしかかつた際、右交差点を右折進入しようとしたのであるが、交差点を右折進入する場合は、あらかじめ道路の中央寄りに自車を進行させておくべきにもかかわらず、道路左側寄りに位置進行したため自車の南側に一時停止した貨物自動車によつて南側西一一丁目通りを見とおすことができない状態に陥つた。このような場合には、右貨物自動車の通過を待つて自ら右西一一丁目通りの見通しを回復したうえ、充分安全を確認して本件交差点に進入すべきであつたにもかかわらず、漫然と右貨物自動車に追従して本件交差点に徐行進入したため、被告真田運転の被告車に衝突されたもので、本件事故発生につき原告にも過失があつたものというべきである。従つて、原告の右過失は、原告の損害賠償額を算定するに際し、斟酌されなければならない。

第三、そこで、原告が本件事故により蒙つた損害額について判断する。

1  自動車修理費用 金七四、一三〇円

〔証拠略〕を総合すれば、本件事故により、原告車は破損し、その修理のため原告は株式会社北共自動車工場に自動車部品代金三〇、二八〇円、修理工賃金四三、八五〇円以上合計金七四、一三〇円を支払つていることが認められる。

2  入院治療ならびに通院加療費 金一〇、〇一三円

〔証拠略〕を総合すると、原告は本件事故により、少くとも原告主張どおりの入院治療ならびに通院加療費の損害を受けていることが認められる。

3  通院交通費 金六、一〇〇円

〔証拠略〕を総合すると、原告は本件事故による傷害を治療するため昭和四〇年一〇月二二日から同年一一月一〇日までの間五回北大附属病院に通院しタクシー代として交通費金六、一〇〇円を支出したことが認められる。

4  診断書作成費 金二、七〇〇円

〔証拠略〕を総合すれば、原告は本件事故による傷害について自動車損害賠償責任保険の給付請求等に要する診断書の作成のため診断書作成費合計金二、七〇〇円を支出したことが認められる。

5  得べかりし利益の喪失による損害金 金一、七〇九、七四五円

〔証拠略〕を総合すれば、原告は訴外谷金商店から宝石類の委託販売を引受けて宝石類売上高の二割の報酬を受けていたものであり、本件事故当時、右売上高は月額金六〇〇、〇〇〇円、その報酬は月額金一二〇、〇〇〇円にのぼつていたこと、経費としては毎月ガソリン代金三、〇〇〇円程度を支出していたのみであること、本件事故による負傷のため事故翌日の昭和四〇年一〇月一日から同四一年一二月三一日までの一五ケ月間にわたつて休業するのやむなきに至つたことおよび原告は、本件事故により自動車損害賠償責任保険金四五、二五五円を休業補償費として受領したことが認められる。従つて、右休業期間、前記報酬月額金一二〇、〇〇〇円から経費月額金三、〇〇〇円を控除した月額金一一七、〇〇〇円の割合で計算した金一、七五五、〇〇〇円の得べかりし収入から原告が給付を受けた保険金四五、二五五円を控除した残金一、七〇九、七四五円が原告の受けた損害となる。

6  慰藉料 金六〇〇、〇〇〇円

原告が慰籍算定の基礎として主張する事実は、〔証拠略〕によつて認めることができ、他方原告にも前記認定のとおり過失が認められ、かつ経済的な損失としてはかなり多額に填補がなされることになるから原告の精神的苦痛に対する慰藉料は、金六〇〇、〇〇〇円をもつて相当とする。

7  弁護士費用 金七〇、〇〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告は本件事故により、その損害賠償請求訴訟を弁護士二宮喜治に委任し、その費用として金七〇、〇〇〇円を支出したことが認められる。

以上の事実が認められ、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。従つて、本件事故により、原告は前記1.ないし7.の損害額合計金二、四七二、六八八円の損害を蒙つたものというべきである。

しかしながら、さきに認定したとおり、本件事故発生については原告にも過失があるから右過失を斟酌することとし、前記1.ないし5.および7.の損害額合計金一、八七二、六八八円のうち約三分の一を減じた金一、二五〇、〇〇〇円および前記6.の慰藉料金六〇〇、〇〇〇円以上合計金一、八五〇、〇〇〇円が、被告らの原告に対して賠償すべき損害額と認める。

よつて、原告は、被告真田に対して民法七〇九条にもとづき、被告会社に対して民法七一五条および自動車損害賠償保障法三条にもとづき、連帯して、金一、八五〇、〇〇〇円および内金六〇〇、〇〇〇円の慰藉料については事故発生の日である昭和四〇年九月三〇日から、残金一、二五〇、〇〇〇円に対する弁済期後である昭和四二年一二月五日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は、正当であるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三宅弘人)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例