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札幌地方裁判所 昭和42年(ワ)40号 判決 1967年2月28日

原告 小笠原正敏

被告 山本タツ

<ほか一名>

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(請求の趣旨)

1、被告山本タツは原告に対して、別紙目録記載の土地につき、

(1)  北海道知事に対し農地法五条の許可申請手続をせよ。

(2)  右許可のあったことを条件として所有権移転登記手続をせよ。

2、原告と被告板垣良治との間で、前項の土地につき、原告が農地法五条の許可を条件とする所有権を有することを確認する。

3、訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決を求める。

(請求の原因)

1、訴外田中惣治は、昭和二九年三月一日に、江別市江別四八六番地所在の畑一九八三平方メートル(二反歩)を、所有者の橋本勇から買い受けたが、非農家で買受資格がないため、友人の山本仁三次名義でその所有権を取得した。昭和三四年三月末頃この土地は田中から板垣ヤスに贈与され、同年四月四日このうち南西部の間口・奥行各一八・一八メートル(一〇間)の部分三三〇平方メートル(一〇〇坪)をヤスから原告が代金一二万円で買い受けた。別紙目録記載の土地(以下本件土地という)は、昭和三九年三月二七日土地区画整理法にもとづく換地処分により、原告が買受けた右部分の換地とされた土地である。

2、前記一九八三平方メートルの土地は、登記簿上も橋本から山本仁三次名義に所有権移転登記がなされていたが、同人は昭和三八年六月一二日に死亡し、被告山本タツがこれを相続して、同年一〇月一二日その旨の登記を了した。本件土地は現在同被告名義の所有として登記されている。

3、原告への売主板垣ヤスも、昭和三六年三月一一日に死亡し、被告板垣良治がその権利義務一切を承継した。

4、そこで、原告は本件土地の実質的な所有者として、形式的な所有名義人にすぎない被告山本タツに対し、北海道知事に対する農地法五条の許可申請手続と、その許可を条件とする所有権移転登記手続を求め、被告板垣良治との間で、本件土地につき原告が「農地法五条の許可を条件とする所有権」をその字義どおりの権利として有することの確認を求める。

(被告らの欠席)

被告らは郵便による適式な呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。

理由

一、原告主張の事実をもってしては、被告山本に原告が求めるような許可申請手続をする義務があるとすることはできない。

原告は、まず、本件土地の従前の土地を含む畑一九八三平方メートルをもとの所有者橋本勇から買い受けた田中惣治が、農地買受適格をもたないため、山本仁三次名義でその所有権を取得し、登記簿上も同人名義に所有権移転登記がなされた旨を主張する。そして、この事実によれば、橋本と田中の間では、売買による所有権移転の合意はあっても、これについて農地法三条あるいは五条の許可がなく、橋本と山本との間では、たとえ所有権移転につき農地法三条あるいは五条の許可があったとしても、山本が所有権を取得すべき私法上の原因は存在しなかったのであるから、田中も山本もその所有権を有効に取得したものといえず、本件土地の所有権はなお橋本に帰属しているものとするほかはない。

それゆえ、真実の所有権者でない山本仁三次の相続人であるという被告山本タツは、せいぜい本件土地の登記簿上の所有名義を真実の所有者(原告の主張によれば右のとおり橋本勇)に戻すことができるだけであって、自分で持ってもいない所有権を原告に移転することはできず、原告主張の事実からは、その義務もない。農地法五条の許可は私人間で行われた農地移転行為の効力を補完する性格をもつものであるから、被告山本に所有権移転の義務が予想されない以上、右許可を申請する義務もない。その履行を求める原告の請求は、主張自体失当である。

二、原告は被告山本に対して、さらに、前記許可を条件とする所有権移転登記手続を求めている。

しかし、原告の主張によれば、前示のとおり、被告山本は本件土地の所有権を原告に移転することができず、そのため農地法五条の許可申請義務もない。かりに北海道知事においてその許可をしたとしても、これに符合するような私法上の所有権移転行為がないから、この許可を手がかりとするだけでは、原告が被告山本に対し本件土地の所有権移転登記請求権を取得することはできない。それゆえ、原告の右請求は理由がない。

三、被告板垣良治に対する請求は、原告と同被告間の債権関係としてではなく、字義どおり、「農地法五条の許可を条件とする所有権」の確認を求めるものであるが、このような条件付所有権は物権として法律上認められていないから、右請求は、その余の点について判断するまでもなく、すでにこの点において理由がない。

四、以上のとおり、原告の請求はいずれも理由がないから、失当としてこれを棄却することとし、民訴八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 平田浩)

<以下省略>

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