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札幌地方裁判所 昭和46年(行ウ)13号 判決 1974年7月29日

原告 村上勲 外一名

被告 北海道教育委員会

主文

被告が原告らに対してなした昭和三九年一一月一二日付各戒告処分はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の申立および主張

原告ら

(請求の趣旨)

主文同旨

(本案前の主張に対する答弁)

1  被告の引用する最高裁判例は地方公共団体の議員に関するものであるところ、右議員は、憲法九四条によつて保障される強度の自治権の下で各議員と対等平等の関係に立つのに比べ、地方公務員の勤務関係は私法上の雇用関係と同じ性質の

ものであり、地方公務員に対する懲戒処分は議員の懲罰とは本質的に異なるから、右最高裁判例は、本事案の先例とはなり得ない。

2  また、原告らは、本件戒告処分によつて昇給昇進等の関係で莫大な経済的、精神的不利益を蒙るから、右処分の取消を訴訟において求める適格を有するものであつて、本事案は、司法審査になじまないものではない。

(請求原因)

一  当事者

原告らは、被告の任命にかかる教育公務員であり、昭和三九年一一月一二日当時、原告村上は檜山郡上ノ国村(現在は上ノ国町)立滝沢中学校長、原告大家は同村立上ノ国中学校教諭であつた。

二  本件戒告処分

被告は昭和三九年一一月一二日付で原告らに対し、地方公務員法(以下、地公法という。)二九条一項一号、二号にもとづき、左記の理由により本件戒告処分を行なつた。

(一) 原告村上に関し、

「檜山郡上ノ国村天の川かん排事業に関して、教職員団体の業務と称して参加するに当り、所属職員川端武郎(以下、訴外川端という。)に対して、昭和三九年三月二四日から四月一三日までの間において五日間の職務専念義務の免除(以下、義務免ともいう。)を承認したことは、上ノ国村条例第四号「職務に専念する義務の特例に関する条例」(以下、本件条例という。)に反する措置であり、校長としての職務上の義務に違反するものである。」

(二) 原告大家に関し、

「檜山郡上ノ国村天の川かん排事業に関して、教職員が職員団体の義務と称して参加するに当り所属長からなんらの承認をも得ることなく、みだりに勤務場所を離れこれに参加したことは、職務上の義務に違反するものである。」

三  本件条例の解釈

1 争う。

2 本件条例二条三号は、義務免を受けられる場合の一つとして、「もつぱら職員団体の業務に従事する場合」と規定するか、右は、以下の理由により、職員団体の業務にもつぱら従事する職員(以下、組合専従職員という。)に限つて適用されるものではない。

(1) 本件条例と同様に義務免につき規定している北海道条例として「北海道職員の職務に専念する義務の特例条例」(以下、道義務免条例という。)があるが、その二条三号には本件条例と異なり「もつぱら」の文言がなく、道義務免条例二条三号は組合専従職員に限つて適用されるものではないと解されているのであるところ、本件条例は村条例として当然に北海道条例を基礎にして制定されているのであるから、本件条例についても道義務免条例と同様に解釈されるべきであるし、仮にそうでないとすれば地方自治法一四条四項により、本件条例二条三号のうち道義務免条例に抵触する部分は無効であるといわなければならない。

(2) 北海道条例および上ノ国村条例として各々「職員団体の業務にもつぱら従事する職員に関する条例」(以下、一括して専従条例という。)があり、組合専従職員については右専従条例によつて専従休暇が認められているのであるから、本件条例二条三号を組合専従職員に限つて適用あるものと解釈すると、同条号は全く無用の条文と化してしまう。

(3) 専従条例においては、専従休暇期間中の給与は支給されない旨規定されているが、本件条例によつて義務免の承認を得た場合は給与の支給がなされているところ、現実に組合専従職員が給与の支給を受けた実例はないのであるから、本件条例二条三号を被告主張のように解釈し適用した事例はないことになり、結局両条例はその適用対象を異にしていると解すべきである。

(4) 専従休暇の承認権者は被告である(専従条例二条)のに対し、義務免の承認については被告のほか被告から委任を受けた学校長もその権限を有する(本件条例二条)点で両条例は異なるから、本件条例は専従以外の組合活動を対象としたものと解される。

(5) 本件条例の根拠法は地公法三五条であるのに対し、専従条例のそれは同法五条一項、三五条、五二条五項(昭和四〇年改正前)であるから、この点からも両条例の規制の対象は異なると解すべきである。

3 以上の諸点を考慮すると、本件条例二条三号における「もつぱら」の文言は、むしろ立法上の過誤とみるべきであり、仮にこの文言に強いて解釈を加えるとすれば、右文言は「勤務時間内においてもつぱら組合業務に従事する場合、すなわち勤務体制から一〇〇パーセント離れる場合。」の意味に解釈すべきであり、またそれが現実の運用でもあつた。

そして原告村上は、訴外川端からの義務免の承認の請求が、右にみた「もつぱら組合業務に従事する場合」に該当すると解釈したからこそ、承認を与えたのである。

4 さらに本件条例は、昭和二六年における右条例制定以来本件処分に至るまで、道義務免条例と全く同一に解釈運用されてきたのであり、またそのように解釈運用すべき労使慣行が存在していた。

また、北海道内の各市町村における義務免に関する条例は、そのほとんど全部が、本件条例と同じ規定の体裁をとつているところ、被告は、現に係属中の他の争訟(札幌地裁昭和四六年(行ウ)第九号、道人事委昭和四四年(ホ)第一一九―一二五号、同昭和四五年(ホ)第四―三八号、および七二―八〇号)においては昭和四一年春まで非専従の組合員に対しても義務免の承認を与えてきた旨主張している。

四  本件戒告処分の違法性

(一) 原告村上関係

1 構成要件該当性がないこと

(1)(イ) 原告村上は、前記訴外川端が昭和三九年三月二四日、同二七日、同二八日、同三〇日および四月一三日、当時上ノ国土地改良区の手によつて進められていた天の川かん排事業をめぐる農民組合等の活動を支援するという北海道教職員組合(以下、北教組という。)檜山地区協議会の決定にしたがい、右支援活動(以下、本件支援活動という。)に参加するため義務免の承認を求めてきたことに対して、それぞれ義務免の承認(以下、本件承認という。)を与えたものであり、右承認のあつた前記五日のうち四月一三日を除く四日はいずれも春休み期間中であつた。

(ロ) そもそも春休み等の学校休業期間は教職員の自主研修のためにあり、同期間中の出勤時に相当する時間内において、自宅を離れ、または個人的用務を行なうことの当否はすべて教職員の自主的判断に任されているのであつて、休業期間中教職員が組合活動その他の自宅研修以外の行為をする場合に学校長の義務免の承認を得ていた事例、および右承認を得ないことにより処分された事例は、戦後二〇余年の間本件を除いて皆無であつた。

(ハ) したがつて、原告村上は訴外川端に対し、そもそも義務免の承認を与える必要もなかつたのであるから、本件承認行為は何ら適法、違法の法的評価を受ける余地がない。

(2) 仮に右(1)が認められないとしても、原告村上は、訴外川端の義務免の承認請求が春休み中でもあり、学校業務上も全く支障がないと認めて、本件条例二条三号に基づいて本件承認を与えたのであり、右訴外人は組合専従職員ではないが、本件条例二条三号の解釈は前記三記載のとおりであつたから、原告村上の本件承認行為は全く適法である。

(3) したがつて原告村上の本件承認行為を違法としてなされた本件戒告処分は違法である。

2 不当労働行為

(1) 原告村上の地位

原告村上は、学校長の地位にありながら北教組に所属する組合員であり、昭和三六年以降の被告からの再三の組合脱退の勧告、強要にもかかわらず、昭和三九年当時なお右組合員であつた。

(2) 不当労働行為の意思

(イ)<1> 本件条例二条三号の解釈については、前記三4記載のとおり、道義務免条例と同一に解釈するという長年の慣行があつた。

<2> さらに義務免の承認手続については、学校業務に支障のないかぎり、学校長においてその承認を与えてよいという長年の慣行があつた。

<3> 春休み等の休業期間中において、旅行、買物、散歩等日常の私的用務に従事したことについては、被告は教職員の職務専念義務違反の有無を問題とすることはなかつた。

(ロ) にもかかわらず、被告は、右(イ)<1><2>の各慣行を突如変更し、また右(イ)<3>と異なり休業期間中の組合活動を対象とする本件承認行為についてのみ本件戒告処分をしたのであつて、右処分は、前記(1)の地位にある原告村上を嫌悪し、報復的な措置として、また組合に所属する他の学校長に対する見せしめ的意図のもとに行なわれたことが明らかである。

(3) したがつて、本件戒告処分は、原告村上が前記北教組の組合員であることの故をもつて不利益な取扱をしたものに該当するから、憲法二八条、地公法五六条に違反し無効である。

3 期待可能性の不存在

(1) 本件条例二条三号については、前記三4記載のとおり、道義務免条例と同一に解釈するという長年の慣行があり、戒告は、右解釈慣行を変更するにつき事前にこれを周知させるための指導その他の措置を全く講じていなかつた。

そして戒告が、本件条例につき本訴において主張するような解釈を公式に明示したのは、原告村上が本件義務免の承認を与えてから六ケ月以上も経過した昭和三九年一一月一二日の本件戒告処分発表時であつた。

(2) そこで原告村上は、従前の解釈論にしたがつて本件承認を与えたのであり、本件承認当時被告主張のような解釈論を知る由もなかつたから、原告村上に対し、訴外川端からの義務免の請求を不承認とするように期待することは全く不可能だつた。

(3) したがつて原告村上の本件承認行為を違法なものとして行なつた本件戒告処分は違法である。

(二) 原告大家関係

1 構成要件該当がないこと

(1) 原告大家が北教組の本件支援活動に参加したのは昭和三九年三月二七日と三〇日であり、右両日は春休み期間中であつて学校業務に何ら支障をきたすことはなかつたのであるから、原告村上関係における1(1)記載のとおり、原告大家の右行為は、もともと学校長の義務免の承認を必要とするものではなかつた。

(2) したがつて、原告大家の本件支援活動への参加行為を違法なものとして行なつた本件戒告処分は違法である。

2 不当労働行為

(1) 原告大家は、昭和三九年三月二七日と三〇日、北教組の本件支援活動に参加したものであり、これは職員団体の正当な行為である。

(2) 不当労働行為の意思

春休み等の休業期間中は、前記四(一)1(1)記載のとおり、教職員の自主研修が認められており、日常的な私的用務については何ら問題とされたことはなく、また、組合活動その他の自宅研修以外の行為について学校長の承認を得ないことにより処分された事例は戦後二〇余年間全くなかつたのであり、さらに当時の学校長であつた訴外沢田誠は原告大家の本件支援活動への参加行為を知りながら何らの規制措置をとることなく、これを認めていたのであり、このような事情があつたにもかかわらず、被告は原告大家に対し、本件戒告処分を行なつた。

(3) したがつて、本件戒告処分は、原告大家が職員団体の正当な行為をしたことの故をもつて不利益な取扱をしたものに該当するから、憲法二八条、地公法五六条に違反し無効である。

3 処分権限の濫用

仮に右1、2がいずれも認められないとしても、原告大家に対する本件戒告処分は、以下の理由により、被告がその処分権限を濫用して行なつたものであるから、地公法二九条に反する違法なものである。

(1) 前記訴外沢田は、前記2(2)記載のとおり、原告大家の右参加行為を知りながら、何らの規制措置をとることなくこれを認めていた。

(2) さらに前記2(2)記載のとおり、原告大家の右参加行為によつて学校業務に何ら支障をきたした事実はなく、また、春休み中の教職員の活動について処分された事例も他にないのであるから、本件戒告処分は、他の場合と著しく均衡を失する。

五  原告らは、本件戒告処分につき、北海道人事委員会に対して行政不服審査法による審査請求をしたが、昭和四六年三月一九日、同委員会は本件戒告処分を承認する旨の裁決をした。

六  よつて、原告らは被告に対し、本件戒告処分の取消を求める。

被告

(本案前の答弁)

一  本件各訴を却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

(請求の趣旨に対する答弁)

一  原告らの各請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

(本案前の主張)

原告らは地方公務員であり、被告が原告らに対してなした昭和三九年一一月一二日付各戒告処分(以下、両者を一括して本件戒告処分という。)は特別権力関係に基づく行政監督権(服務規律権)の作用であつて、しかも免職処分等と異なり内部規律の範囲内に属する問題であるから、本件処分の取消を求める争訟は司法審査になじまない性質のものである。

この点に関し、最高裁判所昭和三五年一〇月一九日判決、同昭和三五年三月九日判決に示された法理は、本事案について適用されるものである。

(請求原因に対する答弁)

一  認める。

二  認める。

1  地方公務員も全体の奉仕者として地方公共団体の職務に専念しなければならない義務を負つているのであるから、法律または条例に定められている右専念義務の免除の制度は、非常災害による出勤不能の場合または職員が長期研修を受ける場合等に例外的に認められたものと解すべきであり、したがつて右免除に関する条例の解釈運用は、公務優先の原則を前提としながら、右免除によつて公務の民主的、能率的運営に支障をきたすことのないよう、厳格になされなければならない。

2  争う。

本件条例二条三号が組合専従職員に限って適用されるものであることは、右条号の文言上明らかである。

(1) 道義務免条例二条三号の解釈が原告主張のとおりであることは認める。

しかし、義務免は、当該職員の服務に関する事項であつて地方自治法一四条四項にいう行政事務に該らないから、本件条例が道義務免条例とその内容を異にしても同条項違反の問題は起らず、また地公法三五条によれば義務免に関する定めを各地方公共団体の条例に委ねているから、本件条例が道義務免条例とその内容を異にすることは法自体が許容しているものであつて、両条例を同一に解釈すべき必然性はない。

(2) 本件条例はいかなる場合に職員の義務免が認められるかを限定的に列挙したものであるのに対し、専従条例は本件条例二条三号に基づく専従職員についての承認手続、承認の効果、分限等に関し具体的に規定したものであつて、両条例の制定目的および趣旨は別異のものである。

(3) 組合専従職員が給与の支給を受けた実例がないことは認める。

しかし義務免の制度と給与の支給とは別個のものであつて、義務免を受けた者が当然に給与の支給を受けられるものではない。

本件条例によつて義務免を受けた者がその期間中の給与を減額されないのは、北海道学校職員の給与に関する条例(上ノ国村の教職員については、市町村立学校職員給与負担法に規定する学校職員の給与に関する条例で準用される。)一三条および北海道学校職員の給与の支給に関する規則(上ノ国村の教職員については、市町村立学校職員給与負担法に規定する学校職員の給与の支給に関する規則で準用される。)一〇条によつて、給与制度上別途に保障されているからであり、ただ本件条例二条三号については、専従条例の場合と全く同様に給与が支給されないのであつて、同条号と専従条例とで給与の取扱いに差異はない。

(4) 上ノ国村における専従休暇の承認も義務免の承認もともに上ノ国村教育委員会の権限に属する事項であつて、被告はいずれについても承認権者ではない。

また、義務免の承認については、上ノ国村学校管理規則により、学校長も村教育委員会の委任を受けてその権限を行使しうるのであるが、本件条例二条三号については、専従条例と同様に学校長には承認権が委任されていないのである。

(5) 両条例の各根拠法が原告主張のとおりであることは認める。

しかしこのことから、本件条例二条三号の解釈につき原告主張のような結論は出てこないどころか、前記(2)記載のとおり、かえつて被告の主張を根拠づけるものである。

3  争う。これは原告の独自の見解にすぎない。

4  本件条例の制定の年度のみ認め、その余はすべて否認する。

上ノ国村教育委員会は、本件条例制定以来一貫して同条例二条三号は組合専従職員にのみ適用されるという解釈をとつてきた。

(一)

1  争う。

(1)(イ) 認める。

(ロ) 春休み中における組合活動その他自宅研修以外の行為について職務専念義務違反を理由とする処分の例が他に存在しないことは認める。

右の事実は原告のような違法な行為が他に存在しない証左である。

また、春休み等の休業期間は、児童、生徒に対して授業を行なわない日であるにすぎず、勤務を要することに変りはない。

(ハ) 争う。

(2) 訴外川端が組合専従職員でないことは認めるが、その余は争う。

本件条例二条三号は前記のとおり組合専従職員にのみ適用されるものであるから、原告村上は訴外川端の義務免承認請求に対し、不承認とすべきであつた。

したがつて原告村上の本件承認行為は、地公法三二条、三五条、地方教育行政の組織および運営に関する法律(以下、地教行法という。)四三条に違反する。

(3) 争う。

(1)  原告村上が学校長の地位にあることおよび昭和三九年当時北教組の組合員であつたことは認めるが、その余は否認する。

(2)

(イ)<1>  否認する(前記三4記載のとおり)。

<2>  否認する。

仮に原告主張のとおりの慣行があつたとしても、右慣行は、前記三1記載の地方公務員の職務専念義務に反するから、労使慣行としての法的効果を認めることはできない。

<3>  争う。

(ロ)  争う。

(3)  争う。

(1)  否認する。

上ノ国村教育委員会は、前記三4記載のとおり、本件条例二条三号につきはじめから被告主張のとおりの解釈をとつてきており、その解釈に何らの変更もないのみならず、右条例制定以来、管内の校長会等において、右解釈を周知させるための指導をしばしば行つてきた。

(2)  争う。

(3)  争う。

(二)

1  争う。

(1) 原告大家が本件支援活動に参加した日が原告主張のとおり春休み期間中であつたことは認めるが、その余はすべて否認する。

前記のとおり、春休み中といえども勤務を要することに変りがないのである。

のみならず本件条例二条三号は前記三記載のとおり組合専従職員についてのみ適用されるものであつて、組合専従職員でない原告大家の勤務時間中における組合活動は許されないのであるから、原告大家の義務免にもとづく本件支援活動への参加行為は、地公法三二条、三五条および地教行法四三条に違反するものである。

(2) 争う。

2  争う。

(1) 原告大家が原告主張の日に本件支援活動に参加した事実は認めるが、その余は争う。

(2) 原告主張のように春休み期間中の処分の例が他に存在しないことは認めるが、その余はすべて否認する。

(3) 争う。

原告大家の行為は前記1記載のとおり違法なものであつて、職員団体のために正当な行為をしたものではないから、本件戒告処分は不当労働行為に該当しない。

3  争う。

(1) 否認する。

(2) 春休み中の教職員の活動について他に処分の事例がないことは認めるが、その余はすべて否認する。

他に処分の事例がないことによつて、原告大家の前記違法な行為が正当化されるものではない。

五  認める。

第二証拠関係<省略>

理由

第一本案前の主張についての判断

被告は、本件戒告処分は特別権力関係における被告の服務規律権に基づく内部的行為であつて司法審査の対象とならない旨主張するので、この点について判断するに、被告が市町村立中学校の教員である原告らの任命権者であることおよび被告が原告らに対し、昭和三九年一一月一二日付で本件戒告処分をなしたことは当事者間に争いがない。ところで、地方公務員に対する戒告処分は、明文上の根拠を有しない訓告、警告等と異なり地方公務員法(以下、地公法という。)二九条に規定された懲戒処分の一つであつて法律上の根拠を有するものであるから、この点において既に被処分者が蒙る不利益をもつて単なる事実上の不利益にすぎないものとはいい難いのみならず、被処分者は、爾後の昇給を延伸され、あるいは特別昇給から除外される等の具体的な不利益を蒙る(道内市町村立学校職員につき、道人事委員会規則七ー四〇五、昭和四八年四月一日道人事委員会事務局長通知第二六七号参照)のであるから、戒告処分は、被処分者の法的地位に直接の変動を生じさせるものであることがあきらかである。そうとすれば、戒告処分が任命権に基づく内部的行為であることの故をもつてこれに対する司法審査の余地を否定すべきいわれはない。けだし、任命権者は、その任命権に服する職員に対し、地公法二九条第一項所定の要件のもとに、その裁量により懲戒処分をなすことができるが、任命権者がなした戒告処分につき、同条項の要件を欠く等の明白な法令違背が存する場合はもちろん、かかる法令違背が存しない場合においても、任命権者の裁量の範囲を逸脱し、ないしは懲戒権を濫用したものと認められる場合においては、当該処分は違法たるを免れず、かかる場合において、被処分者が前述の如き法律上の不利益を蒙るのである以上、戒告が内部的規律に関する処分であることをもつて、これに対する司法上の救済を否定すべき特段の根拠とはなしえないからである。したがつて、本件処分が抗告訴訟の対象となりうる行政処分であることはあきらかである。

なお、右の点に関し被告の引用する裁判例はいずれも本件とは事案を異にし、当裁判所の右判断とは何ら牴触するものではない。

第二本案についての判断

一  原告らが被告の任命にかかる教員であり、昭和三九年一一月一二日当時、原告村上が檜山郡上ノ国村立滝沢中学校長、原告大家が同村立上ノ国中学校教諭であつたこと、被告が右同日付で原告らに対し、地公法二九条一項一号、二号に基づき、原告主張の理由により本件戒告処分を行なつたこと、右処分に対し、原告らが北海道人事委員会に行政不服審査法に基づく審査請求をしたが、昭和四六年三月一九日、同委員会が右処分を承認する旨の裁決をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、本件戒告処分に原告ら主張の違法があるかどうかについて判断する。

1  原告らは、第一に、学校における夏季、冬季、学年始、学年末等の各休業期間(以下、春休み等の休業期間という。)における行動については、教員の自主的判断に委ねられており、教員が右休業期間中に組合活動その他の自宅研修以外の行為をする場合に所属長の承認を得る必要はないから、原告村上が訴外川端に対し義務免の承認を与えた行為は何ら適法、違法の法的評価を受ける余地がないし、また原告大家が所属長から何らの承認も得ることなく本件支援活動に参加した行為も適法であり、したがつて原告らの右各行為を違法なものとして行なつた本件戒告処分は違法な処分である旨主張するので、まずこの点につき判断するに、原告村上が訴外川端に対し義務免の承認をしたことにつき、右承認の対象となつた日(四月一三日を除く。)および原告大家が所属長から何らの承認を得ることなく本件支援活動に参加した日がいずれも春休み期間中であつたことは当事者間に争いがない。

(一) そこでまず、春休み等の休業期間の性格を考えてみるに、右休業期間は、授業が行なわれないために学校内で行なうべき仕事が少なく、したがつて、平常どおり登校して通常の勤務体制に入る必要が必ずしもない時期であつて、現実においても本件戒告処分がなされた昭和三九年当時、休業期間中は各教員が登校の要否を自主的に判断し、これに基づいて行動している実状にあつたことは後に詳述するとおりである。しかし、右期間につき、職務に服すべき義務の全部または一部が免除されたと解すべき特段の根拠はないのであつて、右期間中といえども年次有給休暇中や義務免が与えられた場合のように、教員が勤務から全く解放された状態にあるものということは到底できない(成立に争いのない乙第七号証の三によつて認められる道教育長から直轄学校長あての通達(昭三四・七・一七、三四教職七八三)の内容も右の趣旨に副うものとして首肯できる。)したがつて、休業期間中といえども服務の義務を負う点においては平常と変りがないというべきである。もつとも、義務教育諸学校等の教諭等に対する教職調整額の支給等に関する法律の制定について、人事院が昭和四六年二月八日付でなした「教員の勤務時間については、教育が特に教員の自発性、創造性に基づく勤務に期待する面が大きいことおよび夏休みのように長期の学校休業期間があること等を考慮すると、その勤務のすべてにわたつて一般の行政事務に従事する職員と同様な時間的管理を行なうことは必ずしも適当でなく、とりわけ超過勤務手当制度は教員にはなじまないものと認められる。」旨の説明(成立に争いのない甲第三号証によつて認められる。)からも窺われる教員の職務の性質に鑑みると、休業期間中の教員の行動については教員の自主性が十分に尊重されるべきであり、勤務時間に相当する時間内の行動についても、かなりの範囲において、各教員の良識と自主的判断に委ねられているものというべきであるが、それにも自ら限界が存するのであつて、たとえば、教員が、通常の勤務と全く関係がなく、かつ自宅研修の一環と解する余地もないような特定の目的を達するための行動に積極的に参加するごときことはあきらかに右の限界を逸脱するものであり、したがつて、勤務時間に相当する時間内にかかる行動をとることは、有給休暇をとり、または義務免の承認を得た場合等の特段の事由が存するのでない限り教員の職務専念義務(地公法三五条)に違背するものといわなければならない。

本件についてこれをみるに、証人川端武郎の証言および原告大家弘本人尋問の結果によれば、訴外川端は、昭和三九年三月二四日、二七日、二八日、三〇日および四月一三日、その当時上ノ国土地改良区の手によつて進められていた天の川かん排事業をめぐる農民組合等の活動を支援する北教組の本件支援活動につき、自らの勤務場所を離れて上ノ国村役場等に出向いたうえ、すわり込み等の行動に加わり、またはこれを支援する等の行動をとつたこと、原告大家も、同年三月二七日および三〇日、同じく右支援活動に参加すべく自らの勤務場所を離れ、右同様の行動をとつたことがそれぞれ認められるところ、右のような行動は教員の通常の勤務とは全く関係がないのみならず、これを自宅研修の一環として評価する余地もなく、これにより川端らは、教員としての勤務体制から全く離脱したものであることがあきらかであるから、同人らは、有給休暇等の前述した特段の事由が存するのでないかぎり、これにつき職務専念義務違背のそしりを免れることができない。

そうとすれば原告大家が右支援活動に参加したことは教員の職務専念義務に違反する違法な行為であるというべきであり、また、原告村上が訴外川端に対し義務免の承認を与えたことについては違法であつたかどうかの評価を受けるべき筋合にあつたものであつて、それが春休み期間中であつたことの故をもつて直ちにかかる評価をする余地がなかつたものと解することはできない。

(二) そこで次に、原告村上が訴外川端に対して与えた義務免の承認行為が原告ら主張のように適法なものであつたかどうかについて判断するに、右川端が右承認当時組合専従職員ではなかつたことおよび原告村上が右川端に対し、本件条例二条三号を適用して義務免の承認をしたことは当事者間に争いがない。

原告らは本件条例二条三号が組合専従職員でない者にも適用されると主張するのでこの点について検討するに、本件条例は、その二条において「職員は、左の各号の一に該当する場合において、あらかじめ任命権者又はその委任を受けた者の承認を得て、その職務に専念する義務を免除されることができる。」としたうえ、その三号において「もつぱら職員団体の業務に従事する場合。」と規定しているところ、右条号は、その文言からも明らかなとおり、組合専従職員に対してのみ適用されるものと解するのが相当であつて、原告ら主張の解釈はとりえないものである。

この点に関し、原告らは、まず第一に、道義務免除例と本件条例とを比較したうえで、道義務免条例二条三号が組合専従職員に限つて適用されるものではないと解されていることから、本件条例もこれと同様に解すべき旨主張するが、道義務免条例は、同様の場合につき、「職員団体の義務に従事する場合」と規定し、「もつぱら」の文言を欠いているところ証人中島勉の証言によると、道義務免条例のように「もつぱら」の文言の記載のない都道府県条例は全国都道府県のうち、北海道を含むわずか三道県にすぎず、また、右文言のない市町村条例は全道約二八〇の市町村のうち、わずか七市町村余にすぎないことが認められ、右事実をも考慮に入れたうえで道義務免条例と本件条例の文言の相違を考察すると、両条例を原告ら主張のように同一に解釈すべき根拠はどこにもなく、また、両条例はその適用対象を各々異にしているから、両条例の解釈が右のように別異になることをもつて本件条例の右部分が地方自治法一四条四項により無効とされるものでもない。

原告らは、さらに、組合専従職員については専従条例が別に存在すること、専従条例が適用される場合には専従休暇期間中の給与が支給されないのに比し、本件条例によつて義務免の承認を得た者については給与が支給されること、専従休暇の承認権者と義務免の承認権者とが異なつていることおよび右両条例の根拠法が各々異なること等を根拠として、本件条例二条三号が組合専従でない教員が組合活動に従事する場合にも適用される旨主張する。しかし、本件条例と専従条例の各条文を対比して考察すると、本件条例が義務免の承認が与えられるべき場合をあきらかにしたものであるのに対し、専従条例は、本件条例を受けて、専従職員につき専従休暇の承認の手続、期間、効果等を定めたものであつて、両者はその目的を異にするものであることがあきらかであるから、本件条例二条三号の意義を前述のように解したからといつて、これにより同条号が無用の条文に帰する等の原告主張の如き不合理を生ずるものではなく、また、承認権者の点から右条号を原告主張のように解すべきいわれもないというべきである。

右によると、原告村上が当時組合専従職員でなかつた訴外川端に対し、本件条例二条三号を適用して義務免の承認を与えた行為は、右条号に違反する違法なものであつたといわなければならない。

(三) 以上によれば、本件戒告処分は、原告村上が訴外川端に対してなした右承認行為を違法なものとしてなされたことおよび原告大家が所属長から何らの承認を得ることなく本件支援活動に参加した行為を違法なものとしてなされたことにつき、原告ら主張の違法はなかつたといわなければならない。

2  そこで次に、原告ら主張の不当労働行為の点について判断する。

(一) 原告村上関係

(1) 原告村上が昭和三九年当時学校長の地位にあり、かつ職員団体たる北教組の組合員であつたことは当事者間に争いがない。

(2) 成立に争いのない甲第一、七号証、乙第一三、一四号証および証人川端武郎、同古俣芳衛、同上野秀勝、同木下保彦、同菊地義夫、同池端清一、同杉本省吾、同中島勉の各証言ならびに原告大家弘本人尋問の結果を総合すると、以下の事実を認めることができる。

原告らの所属する檜山地区の中学校および小学校においては、教員が勤務時間中に組合活動のために勤務場所を離れる場合に関する服務規律は、従来必ずしも厳格なものではなく、個々の教員が授業が行なわれている通常の時期において、組合活動に参加するために短時間勤務場所を離れるについては所属長の承認を求めるための正規の手続をとることなく、所属長に対し、単に予めまたは事後に口頭でその旨を申し出るだけで済ます取扱いがしばしばなされ、また組合活動のために長時間勤務場所を離れる場合でも、所属長の承認により、出張の扱い(正式の出張とは異なり出張旅費等は支給されない。)とするのが通例であつたこと、とくに春休み等の休業期間中に、個々の教員が買物、読書等の私的な行動をするについては、所属長に対し何らかの承認を求めることや事前に連絡をすることすらなく、長期の私的な旅行をする場合でもせいぜい所属長に対し旅行先等連絡場所を予め告げておく程度のことが行なわれていたにすぎなかつたこと、また、右休業期間中に組合活動に参加する場合においても、教員は、多くの場合右のような事前の連絡すらしないで自由に行動していたものであつて、以上いずれの場合においても、個々の教員が私的用務や組合活動をするにつき、所属長に対し、右のように便宜的な口頭の申出や事前の連絡をしただけで義務免や有給休暇等の正規の手続をとらなかつたこと自体が問題とされたり、そのことによつて何らかの懲戒処分を受けたことは全くなかつたこと、ところが昭和三九年初めころから、上ノ国村における天の川かん排事業に関する北教組の前記支援活動について、右支援活動に参加することが教員としてふさわしい行為であるかどうかが同地区の住民の間で問題とされ、社会問題にまで発展するに至つたので、北海道および上ノ国村各教育委員会においても、右にみたように従来の服務規律がきわめてあいまいであつたことに着目し、急きよ教員が職務を離れる場合の手続等を明確にし、地公法三五条の定める職員の職務に専念する義務の免除(すなわち義務免)に関する本件条例や道義務免条例等の解釈を明確にして各教員に対しこれを周知徹底させるように積極的に指導監督するようになつたこと、もつとも、右当初は右各教育委員会においても、本件条例二条三号が道義務免条例と同様に組合専従職員でない者についても適用があるかどうかについては必ずしも見解が統一されておらず、原告村上が訴外川端に対し義務免の承認をした同年三月ないし四月当時においても右の点に関する解釈が明確にはされていなかつたこと、そして原告村上のように学校長の地位にある者にとつても、その当時は義務免の制度の趣旨、目的について明確な認識がなく、まして一般の教員にとつては義務免という用語自体周知されておらず、原告村上が上ノ国村教育委員会等に呼出される等して本件処分が行なわれることがうわさされるにいたつた同年九月ころに至つてにわかに義務免の用語が一般の教員の間でも話題にのぼるようになつたこと、しかし、各学校の校長の間では、そのころに至つても、義務免の制度の趣旨については必ずしも十分には理解されておらず、教員が組合活動に参加する場合はすべて義務免の承認を得る必要があると指導したり、あるいは義務免については問題があるから有給休暇の承認をとるようにせよと指導したり、あるいは両手続の併用を指導するなど、各学校において組合活動参加のための承認手続に関する取扱いが必ずしも統一されていなかつたこと、したがつて、本件条例二条三号の定める義務免が組合専従職員でない者についても適用があるか否かの点については、右段階における各校長の理解はまちまちであつたこと、そして、本件処分が行なわれた日と同日である同年一一月一二日に同日付各地方教育局長、各直轄学校長および各市町村教育委員会教育長宛の北海道教育委員会教育長通達が発せられ、右通達において、教員が組合活動に参加する場合には義務免の承認手続を経なければならない旨および当該市町村が制定している職員の職務に専念する義務の特例条例に「もつぱら職員団体の業務に従事する場合」と規定されている場合は、右規定はいわゆる専従職員以外の職員には適用されない旨の明確な公定解釈がはじめて打ち出されたこと、以上の事実を認めることができる。

この点に関し、前記中島証人は、上ノ国村において学校管理規則を制定した昭和三二年一〇月一七日の時点ですでに本件条例二条三号が組合専従職員に限つて適用される旨の説明会がなされ、それ以降本件処分にいたるまで一貫して所属の各教員に対して右解釈を周知徹底させてきた旨供述し、前記乙第一四号証にもこれと同旨の記載があるが、右はいずれも前記甲第七号証、前記証人川端、同古俣、同上野、同木下、同菊地、同池端、同杉本の各証言および原告大家本人尋問の結果に照らし採用し難く、また、前記乙第一三号証によると、上ノ国村内の校長のうちには、右のような解釈を認識していた者もあつたことが窺われないではないが、それは例外的な存在であつて、一般には、右解釈が周知徹底していたものではなかつたことが同号証によつて認められるから、結局同号証も前記認定と何ら牴触するものではない。

(3) 右によると、教員が勤務時間中に勤務場所を離れる場合の服務規律について檜山地区の中学校等におけるその取扱いはきわめてあいまいなものであつたのであり、とくに春休み等の休業期間中においては、教員が義務免や有給休暇等正規の手続をとらずに組合活動に参加しても、従来そのことの当否が問題とされたりそれが懲戒処分の理由とされたりしたことはなかつたものであつて、これに加えるに、右休業期間中における組合活動その他自宅研修以外の行為について職務専念義務違反を理由とする懲戒処分の例が本件処分にいたるまで一度もなかつたこと(この事実は当事者間に争いがない。)をもあわせ考えると、本件処分は、本件条例二条三号の解釈につき、学校長の間ですら必ずしも明確な認識がなされていなかつた状況のもとにおいて、原告村上が同条例の趣旨を正しく理解し、休業期間中の教員の職務専念義務につき、従来の取扱いとは全く異なる厳格な取扱いをなすべきであつたことを同原告に期待し、これを前提としてなされた処分であつたということができるから、本件処分は、同原告と同様に学校長の地位にありながら職務専念義務に関してあいまいな取扱いをしていたものの、これに対して何の処分も受けなかつた他の学校長の場合と比較して権衡を失し、唐突の感を免れることができない。しかしながら、右事実をもつてしては、いまだ本件処分が、原告村上が北教組の組合員であることの故をもつて不利益な取扱いをしたものと推認するに足りない。

すなわち、前記各証拠によれば、天の川かん排事業をめぐる前記支援活動に関して、昭和三九年一一月一二日付で懲戒処分を受けた者は、本件各原告の他は当時檜山郡江差町立江差中学校長であつた訴外中川留三郎であつて、同人は、同年三月二四日から四月二四日にいたるまでの間、四名の所属教員に対し、義務免の承認をしたことが江差町条例に違反する措置であり、校長としての職務上の義務に違背するものであるとの理由により、原告らと同じく戒告処分を受けたものであることが認められるところ、同人が原告村上と同様北教組の組合員であつたか否かの点については本件全証拠によつても明らかではなく、また、原告村上と同様に校長の地位にありながら同原告と同様に同年三月ないし四月当時前記支援活動に関して義務免の承認を与えたにもかかわらず何らの処分も受けなかつたとか原告村上の場合よりも軽微な処分で済まされた事例が他に存したかどうかの点についての立証もないのであつて、これらに前記認定のとおり、右支援活動が当時社会的にも問題となつたのを機に、被告が従来のあいまいな服務規律をより厳格にしようとしたことが本件処分の一契機をなしていることをもあわせ考えると、結局、前認定の各事実によつては、原告村上に対する本件処分が同原告が北教組の組合員であることの故をもつて不利益な取扱いをしたものと認めるに足りないのである。以上のほかには、本件処分が原告村上に対する不当労働行為であることを推認させる事実を認めるに足りる証拠はない。

(二) 原告大家関係

原告大家に関して原告らが主張するところは、本件戒告処分は原告大家が職員団体の正当な行為をしたことの故をもつて不利益な取扱いをしたものに該当するというにあるから、まず、原告大家が本件支援活動に参加したことが職員団体の正当な行為に該当するかどうかの点について判断するに、地公法五二条一項によれば、職員団体とは職員がその勤務条件の維持改善を図ることを目的として組織する団体またはその連合体をいうのであり、同法五五条一項によれば、「地方公共団体の当局は、登録を受けた職員団体から、職員の給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、及びこれに付帯して、社交的又は厚生的活動を含む適法な活動に係る事項に関し、適法な交渉の申入れがあつた場合においては、その申入れに応ずべき地位に立つ」のであつて、これと労組法七条の趣旨を綜合して考察すれば、少くとも政治的な行為であつて、しかも職員の給与、勤務時間その他の勤務条件およびこれに付帯する事項の維持改善を図ることと全く関連を有しないものは職員団体の正当な行為に該当しないと解すべきである。

本件についてこれをみるに、前記各証拠によれば、本件支援活動は、上ノ国村において、農民組合等が上ノ国土地改良区の経理等に不正があつたとして起した抗議行動につき、北教組が昭和三九年三月を中心として右農民組合等の行動を支援する行動であることが認められるところ、北教組が農民のこのような行動を支援した動機、目的は、本件各証拠によつては必ずしもあきらかではなく、また農民のこのような政治的活動を支援することが直ちに職員の勤務条件等を維持改善することと関連を有するものということはできないから、結局右支援活動は、勤務条件等と全く関連のない政治的活動の域を出るものではなく、したがつて、原告大家の前記行為が職員団体の正当な行為であつたということはできない。そうとすれば、原告大家が右行為をしたことの故に同原告を不利益に扱つたとしても、これをもつて不当労働行為ということはできない。

3  そこで次に、原告ら主張の期待可能性の不存在ないし処分権限の濫用の点について判断する。

(一) 原告村上関係

原告らは、原告村上が訴外川崎からの義務免の請求を不承認とするように期待することが不可能であつた旨主張するところ、右主張は、ひつきよう同原告の右承認行為を理由とする本件戒告処分が被告の有する処分権限を濫用したものないしは裁量の範囲を逸脱したものであつて違法であるというにあると解されるから、以下は右処分権限の濫用ないし裁量の逸脱の有無について検討する。

前記甲第一、七号証および前記証人川端の証言によると、原告村上は、昭和六年に教員となつて以来継続して教職に従事し、昭和二六年二月から現在にいたるまでは引続き学校長の地位にあつたものであるが、学校長に就任いらい、所属の教員が勤務時間中に組合活動に参加する場合には、当該教員から口頭でその旨の申出がなされるのを常とし、同原告は、その都度これを了承する扱いをしていたこと、ところが、同原告が出席した昭和三九年二月開催の学校経営研修会において、道の係官から、義務免の趣旨等に関聯して、教員が勤務時間中に組合活動に参加するについての承認は義務免の承認に該るが、その手続については従来の慣行どおりで差支えない旨の説明がなされたこと、同原告は、義務免という言葉自体は昭和三四年ころから知つていたものの、その制度の趣旨内容についての確たる認識がなく、右研修会における係官の説明によつて初めてこれを理解したものであつたが、その際には本件条例二条三号の義務免が組合専従職員に限つて認められるものである旨の説明はなかつたこと、他方、同原告は、訴外川端から従来前記天の川かん排問題に関して種々の相談を受けていたが、昭和三九年になつて右の問題がにわかに世間の注目を浴び、前記研修会において義務免について説明がなされたこともあつて、本件支援活動に参加することについては慎重に対処するように同人に勧めていたところ、同年三月から四月にかけて同人から右支援活動に参加する旨口頭で申入れを受けたので、同原告は、同人の右支援活動に参加する日が一日を除いて他はいずれも春休み期間中であつたために学校の授業にも支障がないものと判断し、義務免の承認の趣旨で右申入れを承認したこと、右承認は、同原告が訴外川端に対し、単に口頭で同人の申入れを了承する旨を伝えたものにすぎず、出勤簿等の書面上に義務免の承認をした旨の記載をする等の形式を整えた処理は何もなされなかつたし、川端としても、それまで同原告と右支援活動の問題についてしばしば話し合つてきたことおよび春休み期間中の私的活動につき従前安直に取り扱われてきたことから、右の支援活動に参加するとの申入れについても、正規の手続に則つて義務免の承認を求めることを念頭においてなしたものではなく、従来の方法にしたがつて単に右支援活動に参加する旨を同原告に伝えたにすぎなかつたこと、次いで同年五月に開催された校長研修会において、同原告は、被告の函館支部係官から、教員が勤務時間中に組合活動をする場合には義務免の承認によつて処理してよいと思うが、天の川かん排問題をめぐる本件支援活動についてはやや疑問があるので本庁に照会した後改めて指示をすることとし、それまでは従来の慣行どおりで差支えない旨説明を受けたが、ここでも本件条例二条三号が組合専従職員に限つて適用される旨の説明はなかつたこと、さらに同月一八日の上ノ国村教育委員会において同原告が右支援活動の問題に関して調査を受けた際にも、前記川端に対する本件承認手続が義務免であれば問題ない旨の説明を受けたこと、ところが、同年九月一〇日ころになつて、同委員会は、同原告のなした右承認手続には問題があるとの見解を示し、その後上ノ国村の校長会において被告から、本件条例は組合専従職員に限つて適用される旨の説明がなされ、さらに本件処分がなされた同年一一月一二日、被告教育長の前記通達において、本件条例に関する右解釈が正式に発表されるにいたつたこと、以上の事実を認めることができ、これを覆えすに足りる証拠はない。

右によると、原告村上は、訴外川端から本件支援活動に参加するため学校を離れる旨の申出がなされたのに対して、このような場合組合専従職員ではなかつた川端に対して義務免の承認をすることは本件条例二条三号が許容するところであつて何ら違法ではないとの認識のもとに右承認をしたものであることが窺われるのであるが、本来学校長の地位にある同原告としては、教員の職務専念義務等服務規律一般につき十分な知識を有していなければならず、本件条例二条三号が前記のとおり組合専従の場合にのみ適用されるものであることについても十分に認識していなければならなかつたのであつて、同原告が右承認当時たまたま右条号の正確な意義を知らなかつたからといつて、そのことの故に右条号に牴触する承認をしたことにつき直ちにその責を免れうるものではなく、むしろ右条号の理解に欠けるところがあつたことにつき学校長の地位にあるものとしての職責を十分に果たしていなかつたとの非難を受ける余地がないではない。

しかしながら、右認定のとおり、同原告が右の承認をした当時、教員の任免その他服務規律に関する一般的な監督権限を有する被告および上ノ国村教育委員会においても本件条例の解釈が必ずしも明確にされておらず、これに関する各学校長に対する指導も徹底されていたとはいえない情況にあつたこと(なお、この点に関し、前記乙第一三号証が右認定事実と何ら牴触するものでないことは、前記のとおりである。)からすると、原告がその当時組合専従職員ではなかつた川端に対し、本件承認を与えることは右条例に違反するものであるとの認識を持つことはほとんど期待できず、したがつて、これにつき条例違反はないと考え、ないしは、これに牴触するかどうかにつきさしたる関心を持たなかつたとしても、それはまことに無理からぬところであつたといえるのである。これに加えるに、前記認定のとおり、春休み等の休業期間中において組合活動その他自宅研修以外の行為をするについては、長期の旅行等を除くほか、所属長に対し口頭で承認を求めることすらほとんど行なわれていなかつた等、勤務時間中に教員が組合活動をする場合に関する服務規律がきわめてあいまいであつたこと、同原告が右承認をした日は一日を除いていずれも春休み期間中であつて(これは当事者間に争いがない。)、同原告は、川端が本件支援活動に参加しても学校業務に支障をきたさないと判断して右承認をしたものであり、また、現実に学校業務に支障を生じたとの事実を認めるべき資料は何もないこと、他方、教員が春休み中に組合活動その他自宅研修以外の行動をしたことにつき、職務専念義務違反を問われて懲戒処分に付された事例はこれまでに存在せず、また学校長が義務免手続を知らぬままに、教員が組合活動等に参加する場合につき出張扱いとしたことに対し、処分がなされた例もなかつたのであつて、本件処分は、かかる意味において前例のない処分であつたこと、しかも原告が組合専従でない場合につき義務免の承認をしたことに対し何らの警告もなされたことがなく、突如として本件処分がなされたこと等の諸般の事情を総合して考察すれば、同原告が行なつた本件承認行為に対し戒告処分をもつてのぞんだことは、右承認行為の違法の程度が必ずしも重大ではなく、かつ右承認をしたことにつき同原告を責むべき事情に乏しかつたのに対し、処分によつて同原告が蒙る不利益は、名誉の著しい毀損のみならず、昇給延伸あるいは特別昇給の停止等の経済的な不利益にも及ぶ重大なものであるから、彼比著しく均衡を失したものということができるのであつて、これを要するに同原告に対する本件処分は、裁量の範囲を逸脱したものないしは権限を濫用したものであつて違法な処分であつたといわなければならない。

(二) 原告大家関係

前記証人中島の証言によると、有給休暇の届出をしたうえで本件支援活動に参加した者もあつたことが認められ、原告大家のように有給休暇あるいは義務免等の特段の事由がないのに右支援活動に参加したことは前述のとおり職務専念義務に違背する違法な行為であつたということができるが、同原告が右支援活動に参加したのは昭和三九年三月二七日と三〇日のみであつて、右両日はいずれも春休み期間中であつたところ、従来勤務時間中における組合活動その他勤務場所を離れる行為に関する服務規律がきわめてあいまいであつて、とくに春休み等休業期間中においては長期の旅行等を除いては所属長に対し何らの承認を求めることもなく勤務場所を離れる教員が多く、これに対する管理体制もはなはだ不十分であつたこと、義務免の制度およびその趣旨についても、同原告が右支援活動に参加した当時各教員の間で必ずしも周知徹底されておらず、本件処分を機縁にして前記教育長通達によつてはじめて右に関する明確な指導や説明がなされたものであつて本件支援活動につき事前に各教員に対し右の点につき警告する等の措置は何もとられなかつたこと、春休み中における組合活動その他自宅研修以外の行為について職務専念義務違反を理由とする処分の例がかつてなかつたことはいずれも前記のとおりであつて、これらの点からすれば、同原告が所属長に対し何らの承認を得ることなく右支援活動に参加した行為に対して戒告をもつてのぞんだことは、これまた右行為の違法の程度が必ずしも重大ではなく、かつ同原告を責むべき事由に乏しいのに対し、本件処分によつて蒙る同原告の不利益は重大であつて、彼比対比して考察するときは、本件処分は著しく均衡を失した重い処置であつたということができるのであつて、同原告に対する本件処分もまた、裁量の範囲を逸脱しないし権限を濫用した違法なものであるといわなければならない。

第三結論

以上によると、原告両名に対して行なつた本件戒告処分は、いずれも違法であつて取消を免れない。

よつて、右処分の取消を求める原告らの本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 橘勝治 稲守孝夫 大和陽一郎)

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