札幌地方裁判所 昭和48年(モ)1496号 決定 1974年1月31日
申立人の表示 別紙申立人目録記載のとおり
主文
札幌地方裁判所昭和四八年(ワ)第四一八号火力発電所建設禁止請求事件につき申立人全員に対し、訴訟上の救助を付与する。
理由
一本件申立の理由は、別紙訴訟救助申立書記載のとおりである。
二当裁判所の判断
1 一件記録によれば、申立人らは本案訴訟において環境権に基づき相手方が計画している伊達市長和地区における重油専焼火力発電所の建設の差止を請求しているものであつて、そのいわゆる環境権が具体的にいかなる権利であるかについては未だ主張上必ずしも明確ではないのであるが、申立人らの本案訴訟における主張内容を詳細に検討すれば、自然環境に対する侵害のみならず申立人らの個別的な生命・健康・財産(農業および漁業)権に対する侵害をもその理由として主張している趣旨とも解しえないではないから、前記本案訴訟は、その主張自体全く理由がないものとは即断できず、申立人らに勝訴の見込みがないとはいえない。
2(一) 民事訴訟法一一八条所定の「訴訟費用ヲ支払フ資力ナキ者」とは訴訟費用を支払つたとすれば自己および家族の生活を困難にすると判断されるものをいい。その有無は、当該事件における訴訟費用の支払をなすべき個々の当事者の具体的な資力と支払を要する訴訟費用の額との相関関係において決定せられるべきものである。
(二) そこで本案訴訟において必要とされる訴訟費用額についてこれをみるに、現段階においては、申立人らにおいていかなる証拠調べの請求が必要であり、いかなる検証および鑑定が必要となるかについては明確には予測しえないものがあるが、この点については、別に当庁に係属する鳴海元了ほか四九名が相手方を被告として提起した前記の重油専焼火力発電所の建設禁止を求める訴訟事件(昭和四七年(ワ)第九二九号火力発電所建設禁止請求訴訟事件)に付随して右鳴海元了らが申立てた訴訟救助事件について、札幌高等裁判所が右訴訟費用を概算して金二、二三五万円と認定した(同庁昭和四八年(ラ)第三八号、昭和四九年一月二三日決定)ことは当裁判所に職務上顕著な事実であり、同決定が当裁判所に対して拘束力を及ぼすものではないことは、右決定が別件の決定である以上当然のことであるが、右鳴海元了らが提記した別件訴訟と前記本案訴訟とはその請求の原因において大部分が共通し、その請求の趣旨は彼此全く同一であることが記録上明らかであつて両事件は早晩併合審理されなければならない関係にあるものであるし、いま、本件申立人らについて札幌高等裁判所の前記決定が採用した立場と別異な扱い(右鳴海元了らの前記訴訟救助申立事件についての原決定、当庁昭和四八年(モ)第八二四号、昭和四八年九月一〇日決定参照)をするとすれば、ほぼ同様の境涯のもとに同一の訴訟を追行する前記両事件の原告らの間に不衡平が生ずることは避けられないのみならず、右両事件が併合された場合、申立人らが予納すべき訴訟費用の計算、徴収の事務をいずらに複雑煩瑣なものとし、そのことが場合によつて訴訟遅延の原因にならないとは保しがたいところであつて、まさに害あつて利なきものといわざるを得ないのであつて、かかる事情を考慮すれば本件において必要とされる訴訟費用の額については、右決定と同じく一応右金額は二、〇〇〇万円余にのぼると推認するのを相当とする。
(三) つぎに申立人らの資力について審案するに疏明資料によれば、申立人らのうち昭和四七年度における年間所得額(所得税申告額、以下同じ。)が金一〇〇万円を超えるものは、佐藤勝史、合田幸夫、定田征一、井上和則、木村益己、湯浅勝義、大野富雄、新海日出雄、佐藤幸雄、曾根保尾、武田義夫、植村秋光、宮川清、松下新一朗、広瀬義信、井上康男、棟方律子の一七名にすぎず。他の申立人らの所得はいずれも年間金一〇〇万円以下であり、右一七名について見ても、そのうちの最多所得者である大野富雄(年間所得額金二五六万九三九五円)にしても妻及び夫成年の子三人を扶養しているし、木村益己をのぞくその他のものもその事情は右大野富雄とほとんど同一であり、また木村益己には扶養家族こそないがその年間所得は金一〇三万五〇〇〇余円であることが認められる。
右事実によれば、申立人らが、当裁判所が別に申立人らに対し追納を命じた申立人一人当たり金一七四六円の訴提起の手数料すらも負担する資力がないかどうかについては若干の疑念がないではないのであるが。この手数料及び前記認定の訴訟費用額についてはこれを負担すべき資力がないことが疏明されたと解するのが相当である。
(四) 以上の次第であるから申立人らの本件申立は、いずれも正当として認容し、主文のとおり決定する。
(原島克己 太田豊 末永進)
申立人目録<略>
訴訟救助申立書<略>