札幌地方裁判所 昭和51年(ワ)1309号 判決 1977年12月19日
原告 小山トキ
右訴訟代理人弁護士 馬場正昭
被告 綿谷静江
右訴訟代理人弁護士 高田照市
主文
被告は原告に対し金二二五万八、七五七円およびこれに対する昭和四九年五月一一日から昭和四九年五月三一日までの間年一割五分の割合による金員と昭和四九年六月一日から右金員支払済まで年三割の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は原告の勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
(原告)
被告は原告に対し金二二五万八、七五七円および昭和四九年四月三〇日から右支払済まで年三割の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は仮に執行することができる。
(被告)
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
(請求原因)
原告は、川辺光春に対する札幌簡易裁判所昭和四五年(ロ)第五五〇三号手形金請求事件の仮執行宣言付支払命令正本にもとづき、同人が第三債務者たる被告に対して有する左記の貸金債権(以下、本件債権という)の内金二二五万八、七五七円の債権に対し、札幌地方裁判所昭和四九年(ル)第四〇四号、同年(ヲ)第四九四号事件において債権差押ならびに転付命令をえた。
1 貸付年月日 昭和四九年三月四日
2 貸付金額 金一、一〇〇万円
3 弁済期日 同年五月三一日
4 利息 年一割五分
5 損害金 年三割
6 抵当権 札幌法務局北出張所昭和四九年三月七日受付第九五六九号をもって別紙物件目録記載の建物につき第三順位の抵当権を設定。
よって、原告は被告に対し右転付金二二五万八、七五七円およびこれに対する昭和四九年四月三〇日から右支払済まで年三割の割合による約定遅延損害金の支払を求める。
(請求原因に対する認否)
認める。
(抗弁)
川辺光春は、昭和四九年四月二〇日、本件債権を塚本末枝に債権譲渡し、被告は、同日、塚本に対し書面をもって右債権譲渡を承諾した。
(抗弁に対する認否)
否認。
(再抗弁)
原告の本件債権に対する差押および転付命令は、昭和四九年四月三〇日、第三債務者である被告に送達されており、被告のなした右承諾は、確定日付によらないものである以上、右差押および転付命令に対抗しえない。
(再抗弁に対する認否)
本件債権に対する差押および転付命令が、昭和四九年四月三〇日、被告に送達されたことは認め、その余は争う。
第三証拠《省略》
理由
一 請求原因第一項の事実は、当事者間に争いがない。
二 《証拠省略》によれば、本件債権は、抵当権付債権であるが、川辺光春は、昭和四九年四月二〇日、塚本末枝に対し抵当権と共に本件債権を譲渡し、被告が、右同日、これに承諾を与えたこと、次いで、塚本は、札幌法務局北出張所昭和四九年五月四日受付第一七三〇二号をもって本件債権譲渡に伴って右抵当権の移転を受けたとしてその旨の付記登記手続を了したことの各事実が認められ、これに反する証拠はない。
とすれば、被告の抗弁は採用しうる。
三 次に、原告は、第三債務者である被告に本件債権に対する差押・転付命令が送達された以上、本件債権の取得を対抗しうると主張する。
被告に対する本件債権の差押および転付命令が、昭和四九年四月三〇日送達されたことは当事者間に争いがない。
さらに、《証拠省略》によれば、本件債権の差押および転付命令が、同年五月一一日川辺に送達されたことが認められる。
前記認定のとおり、川辺は、塚本に対し抵当権を付して本件債権を譲渡したものであり、このような場合、抵当権の独立性を認めることはできず、抵当権は、債権譲渡に付随した効果として譲渡債権と共に債権譲受人に移転するものと解すべきである。従って、塚本が、抵当権について移転の付記登記手続をなしたとしても、抵当権を基礎付ける債権の譲渡を第三者に対抗する要件を具備しない以上、右抵当権付債権の取得を債務者以外の第三者に対抗しえない。又、債権に対する転付命令が債務者および第三債務者に送達されたときは、その債権の存する限り右債権は債権者に移転し、爾後は債権の移転につき通知又は承諾等何らの手続を要せずして債務者、第三債務者およびその他の第三者に対しこれを対抗しうることとなる。被告は、川辺の塚本に対する本件債権の譲渡を昭和四九年四月二〇日書面により承諾したが、《証拠省略》においても明らかなように確定日付を備えた承諾でない。かえって、第三債務者である被告に対しては昭和四九年四月三〇日、又、川辺に対しては同年五月一一日、原告の本件債権に対する差押ならびに転付命令がそれぞれ送達されており、これにより原告は、川辺の被告に対する本件債権の譲渡を受け、同時に第三者に対する対抗要件を具備したと認められる。けだし、先にものべたように、本件は、抵当権のみが債権と別個に譲渡された場合でないから、抵当権自体の二重譲渡のような法的関係は生じないのであって、債権の譲渡を債務者以外の第三者に対抗しうるかという観点から解決されるべきである。
なお、原告は、債権の差押・転付命令が第三債務者に送達されることにより、その効力が生ずると主張するが、差押命令はともかく、転付命令がその効力を生ずるには、第三債務者への送達だけでは足りず、債務者への送達をも必要と解するべきである。従って、本件の場合、転付命令が、債務者である川辺に送達された昭和四九年五月一一日その効力を生じ、原告は本件債権を取得し、同時に第三者に対する対抗要件を具備したというべきである。
原告の再抗弁はこの限度で理由がある。
四 ところで、本件債権の弁済期が、昭和四九年五月三一日であること、弁済期までの利息が年一割五分、それ以降の損害金が年三割と約定されていることは当事者間に争いがない(なお、この点は《証拠省略》によっても明らかである)。
とすれば、債権の転付命令がなされた場合は、券面額にて単に元本についてのみならずこれに従属すべき将来の利息債権に付てもその利息が約定なると法定なるとを問わず共に差押債権者に移転すると解されるところ、原告の本訴請求のうち金二二八万八、七五七円とこれに対する原告が本件債権を取得した昭和四九年五月一一日から同月三一日までの約定利息年一割五分、同年六月一日以降右支払済まで年三割の割合による約定損害金の支払を求める限度において理由があるのでこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担については、本件訴訟の経過や係争内容等に照らし民事訴訟法第八九条、第九二条但書を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 星野雅紀)
<以下省略>