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札幌地方裁判所 昭和51年(ワ)1834号 判決 1979年9月20日

原告・反訴被告 多田恒二

右訴訟代理人弁護士 荒谷一衛

被告 札幌市農業協同組合

右代表者理事 国本栄

被告・反訴原告 脇屋又吉

右両名訴訟代理人弁護士 文仙俊一

主文

一  原告・反訴被告多田の本訴請求をいずれも棄却する。

二  原告・反訴被告多田は被告・反訴原告脇屋に対し金二〇〇万円及び内金一〇〇万円に対する昭和五三年二月二三日から完済迄年五分の割合による金員を支払え。

三  被告・反訴原告脇屋のその余の反訴請求を棄却する。

四  訴訟費用は、原告・反訴被告多田と被告組合との間においては全部原告・反訴被告多田の負担とし、原告・反訴被告多田と被告・反訴原告脇屋との間においては、本訴、反訴を通じ、被告・反訴原告脇屋に生じた費用の五分の一を被告・反訴原告脇屋の負担とし、その余は原告・反訴被告多田の負担とする。

五  この判決は、被告・反訴原告脇屋の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告・反訴被告多田(以下、原告という)

1  本訴につき

(一) 被告組合及び被告・反訴原告脇屋(以下、被告脇屋という)は各自、原告に対し金六六、四三一、〇〇〇円及び内金五四、二九一、〇〇〇円に対する昭和四六年九月三日から完済迄年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は、被告組合及び被告脇屋の負担とする。

(三) 仮執行宣言

2  反訴につき

(一) 被告脇屋の反訴請求を棄却する。

(二) 反訴費用は、被告脇屋の負担とする。

二  被告組合

(一)  原告の本訴請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は、原告の負担とする。

三  被告脇屋

1  本訴につき

(一) 原告の本訴請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は、原告の負担とする。

2  反訴につき

(一) 原告は被告脇屋に対し金五四〇万円及び内金三〇〇万円に対する昭和五三年二月二三日から完済迄年五分の割合による金員を支払え。

(二) 反訴費用は、原告の負担とする。

(三) 仮執行宣言

第二当事者の主張

一  本訴につき

1  原告の本訴請求原因

(一) 被告組合は昭和四三年一〇月一日旧藻岩農業協同組合等一一の農業協同組合の合併により設立され、旧藻岩農業協同組合の権利義務を承継したものであり、被告脇屋は旧藻岩農業協同組合の理事でその代表者であったもの、原告及び訴外麻田志信はその組合員であったものである。

(二) 原告は昭和三九年一〇月頃旧藻岩農業協同組合代表者被告脇屋との間で、原告所有の左記(1)ないし(3)の土地の売却処分につきこれを同組合に委任する旨を約した。なお訴外麻田もその所有の左記(4)の土地につき同様委任した。

(1) 旧札幌市南区南沢五一八番一畑二町六反二畝一五歩のうち五、七四〇坪

(2) 旧同番二原野一町八反五畝二七歩のうち五、三二五坪

(3) 旧同番三畑五反

(4) 旧同番五原野六反

(三) 従って旧藻岩農業協同組合は原告に対し善良なる管理者の注意を以て右委任事務を処理すべき義務を負うから、その買主の選定に当っては売買契約締結以前にその売買代金の支払能力及び若し何らかの事情により右売買契約上の債務不履行の事態に立至って損害賠償の責任を追及しなければならない場合におけるその買主の負担能力の有無につき調査し、その不安のない者を買主として選定すべく、又売買契約の内容についても、一方的に原告にとり不利益なものでないようにすべき注意義務があるというべきである。又被告脇屋は同組合の理事として同組合の右事務を処理するに当り、同組合に対しやはり善良な管理者の注意を以てこれをなすべき義務があり、従って具体的には前示同様の注意義務があるというべきである。

しかるに被告脇屋は旧藻岩農業協同組合を代表し、かつ原告及び訴外麻田代理名義で、昭和四〇年二月一六日訴外株式会社日生実業(以下、訴外日生実業という)代表取締役神敬治との間で、左記内容の売買契約を結んだのであるが、訴外日生実業は前記支払能力及び負担能力のないものであり、又その内容は原告にとり一方的に不利なものであることが明らかであるから被告脇屋が右契約を締結したことは同被告の右組合に対する債務不履行でありひいて同組合の原告に対する債務不履行となるものであり、しかも被告脇屋には重大な過失があるものである。

(ⅰ) 売買代金合計金四九、七四九、九七八円

(ⅱ) 支払方法 手付金六〇〇万円を本契約締結時に支払い、残金は六回に分割し、(イ)昭和四〇年五月三〇日に金二〇〇万円、(ロ)同年六月三〇日に金五〇〇万円、(ハ)同年八月三〇日に金五〇〇万円、(ニ)同年一〇月三〇日に金五〇〇万円、(ホ)同年一二月三〇日に金七〇〇万円、(ヘ)昭和四一年四月三〇日に金一九、七四九、九七八円を各支払うこと

(ⅲ) 原告及び訴外麻田は訴外日生実業の右買受目的が宅地分譲なることを了承し、訴外日生実業に対し前記土地につき測量、分筆、境界設定、道路指定申請、農地法に基づく農地の転用の許可申請その他の必要な手続につきこれを委任し、訴外日生実業はその費用を以てこれを行うこと

(ⅳ) 原告及び訴外麻田は本契約締結と同時に、前記土地につき訴外日生実業名義に所有権移転登記手続及び所有権移転請求権保全仮登記手続をし、かつ訴外日生実業の債権者のため抵当権を設定すること

(ⅴ) 訴外日生実業は本契約に基づく債務につき不履行あるときは、前記各登記の抹消登記手続をすること

(ⅵ) 原告及び訴外麻田は訴外日生実業に対し直ちに前記土地につき、宅地造成工事を施工することを承認すること

(四) 又被告脇屋は原告及び訴外麻田において右売買契約に基づく各登記手続につきその代理権を授与したことはないのに拘らず、旧藻岩農業協同組合を代表し、かつ原告及び訴外麻田の代理名義で昭和四〇年三月二日前記(二)の(2)及び(4)の各土地につき訴外日生実業名義に所有権移転登記を経由し、(1)及び(3)の各土地につき同様、所有権移転請求権保全仮登記を経由し、更に右各土地につき、債務者訴外日生実業、債権者訴外畑野政治、被担保債権昭和四〇年二月一六日付手形取引契約、元本極度額金一、三〇〇万円、損害金日歩八銭なる根抵当権設定登記を経由したが、この点につき被告脇屋には故意又は重大な過失があったから、被告脇屋及び旧藻岩農業協同組合は原告に対し原告がこれにより蒙った損害を賠償すべき義務がある。

(五) 仮に前記売買契約締結自体が債務不履行とはならないとしても、訴外日生実業は前記昭和四〇年六月三〇日支払分以降の履行につきこれを遅滞したが、旧藻岩農業協同組合は右委任契約上当然に訴外日生実業に対し右売買契約に定められた残代金の支払の請求及び右売買契約に基づきなされた前記各登記の抹消登記手続の履行の請求をなすべきであるのに被告脇屋はこれをなさないで放置したものであり、この点につき旧藻岩農業協同組合は前記委任に基づく原告に対する善管注意義務を怠り、又被告脇屋は重大な過失により同組合に対する善管注意義務を怠ったものである。

(六) 損害

(1) 原告及び訴外麻田は、訴外日生実業において前記売買代金につき昭和四〇年六月三〇日支払分以降の履行をしないので、昭和四六年八月二五日訴外日生実業に対し、一週間以内に右残代金全額を支払うよう催告し、かつ右期間内に右支払を履行しないときは、これを停止条件として右売買契約を解除する旨記載した文書を郵便で発送し、同郵便は翌二六日訴外日生実業に到達した。しかるに訴外日生実業は同年九月二日迄に右支払を履行しなかったから右売買契約は同年九月三日解除により消滅した。

(2) ところが訴外日生実業はこれより以前、前記(二)の(1)ないし(4)の土地につき計一九二筆に分筆のうえ、うち(1)ないし(3)の土地から分筆された別紙目録の土地計一三九筆の土地(以下、本件土地という)計七、九五九坪三三については既に第三者に対し譲渡してその所有権移転登記を経由してしまっていた。そのため原告は右契約解除を右第三者に対抗することはできないから右本件土地の所有権の回復は不可能となった。

(3) よって原告は次の損害を蒙ったものである。

(ⅰ) 本件土地計七、九五九坪三三の右契約解除時における価額相当額金五四、二九一、〇〇〇円(一m2当り約金二、〇六〇円)

(ⅱ) 弁護士費用金一、一一四万円

原告は被告組合及び被告脇屋において任意に右賠償をしようとしないので、やむなく昭和五一年五月一六日本件訴訟追行を弁護士荒谷一衛に委任し、成功報酬として金一、一一四万円を支払う旨約したものである。

(ⅲ) 本件土地の時価の鑑定料金一〇〇万円

原告は訴外林不動産鑑定士事務所に対し本件土地の昭和四六年九月三日当時の価額の鑑定を依頼し、昭和五四年四月三〇日同事務所に対し鑑定料として金一〇〇万円を支払ったものである。

(七) よって原告は被告らに対し各自、右損害金合計金六六、四三一、〇〇〇円及び内右弁護士費用並びに右鑑定料を除いた残金五四、二九一、〇〇〇円に対する昭和四六年九月三日から完済迄年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  本訴請求原因に対する被告らの認否

1の(一)の事実は認める。(二)の事実は否認する。なお農業協同組合がその事業として組合員の委託を受けてその所有に係る転用農地等の売渡をなすことは、昭和四五年法律第五五号の施行(昭和四五年八月一日)以前は、その事業の範囲に含まれていなかったものである。原告は自ら訴外日生実業を買主として選定し、かつ自ら折衝して原告主張の如き内容の売買契約を自身で締結したものであって、旧藻岩農業協同組合はその締結に際し原告から右売買代金の受領の代理権を与えられた外原告及び訴外日生実業から、右売買目的土地につき経由してある訴外財団法人北海道住宅公社(以下、訴外住宅公社という)名義の所有権移転請求権保全仮登記の抹消をなすべきことを委任されたに過ぎないものである。(四)の事実中原告主張の各登記が経由されたことは認めるが、その余の事実は否認する。(五)及び(六)の事実は知らない。

二  反訴につき

1  被告脇屋の反訴請求原因

(一) 原告は原告と訴外日生実業間の前記売買契約締結に当り、被告組合において何らその買主の選定及び契約内容の決定につき原告からこれを委任されたことはなく従ってこの点につき受任者としての債務不履行がないことを知りながら、――仮に知らなかったとすれば、過失がある――敢えて被告組合理事たる被告脇屋に同組合の右事務の処理につき前記債務不履行があり、かつこの点につき重大な過失があると主張して本訴提起に及んだものである。

(二) よって被告脇屋は次の損害を蒙った。

(1) 弁護士費用金二四〇万円

被告脇屋は右応訴のためやむなく昭和五二年一月二四日弁護士文仙俊一に対し右訴訟追行を委任し、着手金八〇万円、成功報酬金一六〇万円を支払う旨約したものである。

(2) 慰藉料金三〇〇万円

被告脇屋は昭和五二年三月迄本訴被告組合の理事でその代表者の地位に在ったものであるが、本訴提起により同組合内部において右の如き債務不履行があったのではないかと疑われ、そのため著しく信用を失うに至っただけでなく、同組合に対する道義的責任からの精神的苦痛も大きく、又社会的信用も毀損されるに至ったものであって、これらによる被告脇屋の精神的苦痛を慰藉するには金三〇〇万円の支払が相当である。

(三) よって被告脇屋は原告に対し右損害金五四〇万円及び内右慰藉料金三〇〇万円に対する本件反訴状送達の翌日たる昭和五三年二月二三日から完済迄年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  反訴請求原因に対する原告の認否

原告が本訴を提起したことは認めるが、その余の事実は否認する。

第三証拠《省略》

理由

第一  本訴について

一  《証拠省略》によれば、原告はもと旧札幌市南区南沢五一八番一畑二町六反二畝一五歩、旧同番二原野一町八反五畝二七歩、旧同番三畑五反、旧同番五原野六反を所有してその旨の所有権移転登記を経由していたものであるが、昭和三八年二月二三日訴外住宅公社との間で、右各土地につき売買予約をしたこと、訴外岡村与一ら五名も当時夫々自己の所有土地につき訴外住宅公社との間で同様に売買予約をしたこと、そして右原告ら六名はその頃訴外住宅公社から契約保証金名下に合計金三、〇〇〇万円の支払を受けると共に右各土地につき同年三月一四日訴外住宅公社名義に売買予約を原因とする所有権移転請求権保全仮登記を経由したこと、ところが訴外住宅公社は昭和三九年八月一〇日に至って右売買予約における特約に基づき、右原告ら六名に対し右売買予約を解除する旨の意思表示をすると共に前記契約保証金の返還を請求したこと、右原告ら六名はこれより先、右契約保証金三、〇〇〇万円につき同人ら間で夫々配分取得し、このうち原告は金六〇〇万円を取得していたものであるが、既にこれを費消してしまっていたので右返還を直ちに履行することは困難な状況に在ったこと、そこで原告は同様の事情に在った前記訴外岡村与一ら五名と共にその頃旧藻岩農業協同組合理事被告脇屋に対し右返還の延期の取決めの交渉をすることを懇請したこと、そして被告脇屋において斜旋の結果、同年八月三一日訴外住宅公社と前記原告ら六名間に、「(1)前記契約保証金の返還については、前記原告ら六名に訴外若松正二を加えた計七名においてうち金一〇〇万円を直ちに連帯して支払うこと、(2)残金二、九〇〇万円については右七名において夫々分割して、昭和四〇年八月三一日限りこれを支払うこと、(3)うち原告の右残金分割支払額は金六〇〇万円であること、(4)訴外住宅公社は右各分割金の支払を受けたときは、その分割支払をした者にかかる前記所有権移転請求権保全仮登記の抹消登記手続をすること。」の約が成立したこと、以上の事実を認めることができる。

《証拠省略》によれば、原告はその間前記土地のうち旧五一八番一畑二町六反二畝一五歩につき昭和三八年一〇月二九日重ねて訴外北野外吉及び同北野りゑに対する所有権移転請求権保全仮登記を経由し、又旧五一八番五原野六反につき訴外麻田志信との間で売買を約し、昭和三九年一一月一〇日訴外麻田に対する所有権移転登記を経由したことが認められる。

二  しかるところ原告において、「原告は昭和三九年一〇月頃旧藻岩農業協同組合に対し前記旧五一八番一畑二町六反二畝一五歩のうち五、七四〇坪、旧同番二原野一町八反五畝二七歩のうち五、三二五坪、旧同番三畑五反及び旧同番五原野六反につきその売却処分を委任した。」旨主張するのであるが、《証拠省略》によっては未だこれを認めることはできず、《証拠省略》中には原告の右主張に符合する部分があるが、これは後記認定事実と対比するとたやすく措信し難く、他に右主張事実を認めるに足りる証拠は存しない。

却って《証拠省略》によれば、原告は前記訴外住宅公社に対する契約保証金返還債務金六〇〇万円の支払を履行するためにはその所有土地を売却処分してその売得金を以てこれに充てる外方策はない状況であったので、前記旧五一八番一畑二町六反二畝一五歩及び旧同番二原野一町八反五畝二七歩、以上二筆の土地のうち原告自身の宅地に充てるべき部分を除いた残余の部分並びに旧同番三畑五反の売却処分を決意し、又従兄弟の仲にある訴外麻田志信に勧めて同人からその所有に属し、かつ右土地に隣接する土地である前記旧同番五原野六反の売却処分の委任を受け、かくしてこれらの土地の買主を求める事態に至ったこと、旧藻岩農業協同組合理事被告脇屋は昭和三九年一二月頃右原告の事情を察知するに至ったが、原告とは旧知の仲であったし、かつ原告が同組合の組合員でもあったので、(この点は当事者間に争いがない)これに協力する意図の下に、その頃訴外笠松歳雄に対し右事情を告げ知らせたこと、訴外笠松は当時土地造成業訴外日生実業が宅地造成用地を求めていることを聞知していたので、訴外日生実業代表取締役神敬治を原告に同道紹介したこと、そこで原告と訴外神とは以来前記土地についての売買契約締結につき、数回にわたり直接面接したり或いは現地を立会見分する等して折衝を重ねた結果、昭和四〇年二月三日に至り、前記土地につき売買予約をし、合計代金五一、二八二、〇〇〇円(坪当り金三、五〇〇円の割合)、代金支払方法、売買本契約成立時に金五〇〇万円、昭和四〇年五月に金三〇〇万円、同年六月に金五〇〇万円、同年一二月末日に残金全部を支払うこと、売買本契約締結と同時に原告は訴外日生実業に対して右土地につき所有権移転登記を経由すること等を約しその旨確約書と題する文書に記載して互いに取交したこと、しかるに訴外神は、果して原告において右代金を以て訴外住宅公社に対する前記契約保証金返還債務の履行に充て、その所有権移転請求権保全仮登記の抹消が確実になされることにつき、不安を抱いたので、そのためには旧藻岩農業協同組合をして右代金の受領代理人たらしめかつ右仮登記の抹消義務を引受けさせることを最善と考えるに至ったこと、そこで訴外神は同年二月中旬頃原告の右同意を得て同人を同道し、旧藻岩農業協同組合事務所に被告脇屋を訪ね、ここに初めて同人に対しこれを要請し、その承諾を得たこと、原告と訴外神とはなお互いに直接折衝のうえ同年二月一六日に至り最終的に「(1)売買目的土地を(ⅰ)旧五一八番一畑二町六反二畝一五歩、(ⅱ)旧同番二原野一町八反五畝二七歩、(ⅲ)旧同番三畑五反、(ⅳ)旧同番五原野六反以上四筆の土地のうち原告自身の宅地に充てるべき部分二、三八六坪二二〇五及び当時境界につき紛争のあった部分一五一坪五を除いた残余部分とすること、(2)合計代金四九、七四九、九七八円、(3)代金支払方法、(ⅰ)同年二月一六日金六〇〇万円、(ⅱ)同年五月三〇日金二〇〇万円、(ⅲ)同年六月三〇日金五〇〇万円、(ⅳ)同年八月三〇日金五〇〇万円、(ⅴ)同年一〇月三〇日金五〇〇万円、(ⅵ)同年一二月三〇日金七〇〇万円、(ⅶ)昭和四一年四月三〇日金一九、七四九、九七八円、(4)原告は右代金の受領の代理権を旧藻岩農業協同組合に与え、訴外日生実業は右代金を旧藻岩農業協同組合に対して支払うこと、(5)右(3)の(ⅰ)の金六〇〇万円の支払がなされたときは、(イ)原告及び旧藻岩農業協同組合は右各土地につき前記訴外住宅公社名義の所有権移転請求権保全仮登記の抹消をなすべき義務を負担し、かつ(ロ)原告は右旧五一八番一畑二町六反二畝一五歩につき前記訴外北野外吉及び同北野りゑ名義の所有権移転請求権保全仮登記の抹消をなすべき義務を負担すること、(6)原告は本契約成立と同時に訴外日生実業に対し右目的土地につき所有権移転登記手続をし、訴外日生実業の債権者のため抵当権設定登記手続をし、かつ宅地造成工事を施工することに同意すること、(7)訴外日生実業はその債務不履行あるときは右各登記の抹消登記手続をなすこと。」の諸点につき合意に達したこと、そこで原告及び訴外神は昭和四〇年二月一六日再び旧藻岩農業協同組合事務所に被告脇屋を訪ね、同人立会のうえ自ら右合意内容に副って売買契約を結んだこと、以上の事実が認められるのであって右事実によれば原告はその主張の売買契約締結については、自ら訴外日生実業を買主に選定し、その内容についても自ら訴外日生実業代表取締役訴外神と折衝してこれを定めたものであり、更に自身その締結に当ったものであることが明らかである。

そうしてみると旧藻岩農業協同組合は未だ原告から右土地の売却処分につき委任されたものということはできず従って原告に対して、前記土地の売買につき、買主を選定する義務も、訴外日生実業のその代金支払履行能力、負担能力につき調査すべき義務も更には売買契約の内容につき原告に一方的に不利なものでないように定めるべき義務を負うべきいわれはないから、これを前提とする原告の主張は理由がないものといわなければならない。

三  前記旧五一八番一畑二町六反二畝一五歩及び旧同番三畑五反につき昭和四〇年三月二日訴外日生実業名義に所有権移転請求権保全仮登記が経由され、又旧同番二原野一町八反五畝二七歩及び旧同番五原野六反につき同日訴外日生実業名義に所有権移転登記が経由されたこと、右四筆の土地につき同日元本極度額金一、三〇〇万円、債権者畑野政治、債務者訴外日生実業なる根抵当権設定登記が経由されたことは当事者間に争いがない。

原告において、旧藻岩農業協同組合理事被告脇屋は原告から委任されていなかったのに擅に右各登記手続をした旨主張するのであるが、《証拠省略》によれば、訴外日生実業代表取締役神敬治は前示の如く売買契約が成立したので昭和四〇年二月一六日右契約に基づき被告脇屋に対し代金内金六〇〇万円を支払ったこと、そこで原告及び訴外麻田志信は右契約に基づき前記各登記手続に必要な書類を被告脇屋に交付してこれを委任したので、被告脇屋は直ちにこれを更に訴外神に交付し、訴外神はこれを使用して右各登記手続をしたものであることが認められ(る。)《証拠判断省略》

四  《証拠省略》によれば、訴外日生実業は前記売買代金の支払については、昭和四〇年二月一六日金六〇〇万円、同年五月三〇日金二〇〇万円の支払をしたが、同年六月三〇日支払分金五〇〇万円、同年八月三〇日支払分金五〇〇万円、同年一〇月三〇日支払分金五〇〇万円については、その支払のため夫々右弁済期を満期とする各額面金五〇〇万円の約束手形を旧藻岩農業協同組合宛振出したものの、その決済が困難であったため、同年七月中原告の同意を得たうえ、右額面金五〇〇万円、満期同年六月三〇日の手形についてはうち一部を弁済し、残金三〇〇万円の支払のため改めて額面金二〇〇万円、満期同年八月三〇日なる約束手形及び額面金一〇〇万円、満期同年八月三一日なる約束手形を旧藻岩農業協同組合宛振出し、又右額面金五〇〇万円、満期同年八月三〇日の手形についてはこれを延期、書替えて、額面金五〇〇万円、満期同年九月三〇日なる約束手形を同様振出し、前記額面金五〇〇万円、満期同年一〇月三〇日の手形についてはこれを延期、書替えて、額面金五〇〇万円、満期同年一一月三〇日なる約束手形を同様振出したが、訴外日生実業は前記額面金二〇〇万円、満期同年八月三〇日の手形を不渡りとし、事実上倒産してしまい、以後右売買残代金の支払を履行していないものであることが認められる。

ところで原告において、旧藻岩農業協同組合は訴外日生実業に対し右履行及び前記各登記の抹消登記手続を請求すべき義務があるのにこれを怠った旨主張するのであるが、これを認めるに足りる証拠はなく、旧藻岩農業協同組合は原告から単に前記売買代金の受領の代理権を与えられ、前記訴外住宅公社名義の所有権移転請求権仮登記の抹消を委任されたに過ぎないものであり、前記土地の売却処分を委任されたものでないことは前示のとおりである。してみると原告の右主張はやはり採用し得ない。

五  そうしてみれば、原告の被告組合及び被告脇屋に対する本訴請求はその余の点につき判断する迄もなく理由がなく失当というべきである。

第二  反訴について

一  原告と訴外日生実業との間の前記売買処分については、原告は旧藻岩農業協同組合に対してこれを委任したことはなく、却って自ら訴外日生実業を買主として選定し、その契約内容も自ら訴外日生実業代表取締役神敬治との間で折衝してこれを定めかつ締結したものであることは前示のとおりである。

しかるに原告は敢えて本訴において被告脇屋に対して右委任を主張してかつ被告脇屋において旧藻岩農業協同組合理事としての業務執行に当り善管注意義務の懈怠があると主張して損害賠償を訴求したものであるが、被告脇屋の利益を不当に侵害するものであることは明らかであり、かつ少くとも過失があるということができるから、原告は被告脇屋に対してこれにより同人が蒙った損害を賠償すべき義務がある。

二1  《証拠省略》によれば、被告脇屋は右本訴に応訴するため昭和五二年一月二四日弁護士文仙俊一に対し右訴訟追行を委任し、着手金として金八〇万円を支払い、かつ成功報酬金一六〇万円の支払を約したことが認められる。

ところで本件事案等諸般の事情を考慮すると、被告脇屋は原告に対し右弁護士費用のうち金一〇〇万円の限度でその賠償を求め得るものというのが相当と考えられる。

2  又《証拠省略》によれば、被告脇屋は昭和四七年四月から昭和五二年四月迄の間被告組合の理事組合長の地位に在ったものであることが認められるが、本訴提起によりその主張内容が被告組合の内部の者にも知れ渡りそのため被告脇屋の信用に多大の不利な影響を与えたであろうことは容易に推認し得べきであり、被告脇屋がこれにより精神的苦痛を受けたことも亦たやすく推認し得るところであり、これを慰藉するには前記諸般の事情を考慮し、原告から被告脇屋に対して金一〇〇万円の支払がなされるのが相当と考えられる。

三  そうしてみれば、被告脇屋の反訴請求は、原告に対し右合計金二〇〇万円及び内右慰藉料金一〇〇万円に対する本件記録上反訴状送達の翌日たることの明らかな昭和五三年二月二三日から完済迄民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるが、その余は理由がない。

第三  よって原告の被告らに対する本訴請求を棄却し、被告脇屋の反訴請求につき前示金二〇〇万円及び内金一〇〇万円に対する昭和五三年二月二三日から完済迄年五分の割合の遅延損害金の支払を求める限度においてこれを認容し、その余は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行宣言につき同法第一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 磯部喬)

<以下省略>

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