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札幌地方裁判所 昭和51年(ワ)843号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一請求原因(一)の各事実、および同(二)の事実のうち、原告ら主張の日時に本件建物に火災が発生したことは当事者間に争いがないところ、被告らは、右火災により本件建物は滅失し、従つて、被告林ら五名と原告らとの間の賃貸借もこれによつて当然終了したと主張するので、以下、この点について判断する。

1 <証拠>を総合すれば、次の各事実が認められる。

(1) 本件建物は、建築資材の乏しい昭和二四年ころ、中古材を使用して建てられたものであるうえ、経年による損耗と、昭和三四年三月ころ隣接建物の火災により西側部分を類焼した際、応急修理をしただけであつたことなどのため、本件火災以前において既に一、二階の柱、土台の木材強度は、建築構造用に通常用いられる構造材強度の下限値を著しく下廻るものを含み、また構造耐力上有効な壁の量が建築基準法および同北海道施行条例の定める所要壁量に比べ著しく小さく、しかもそれらの壁の大部分が建物南側に偏在していることに加えて、柱のうち、いわゆる通し柱は二本のみであり、さらに二階部分の柱のうち、その直下の一階部分に柱があるものは半分以下であることなどから地震に対し脆弱であり、積雪荷重に対しても危険性の大きい不健全な建物であつた。

(2) 本件火災は二階踊り場付近から出火し、出火後三〇分位で消火されたが、火災は本件建物の中心部分にあたる前記出火場所から階段等を伝わつて上方へ燃え拡がり、その火災や消火作業のため本件建物の屋根はその相当部分が抜け落ち、三階部分はほとんど全焼して柱、壁などが炭化して残存したのみであり、また二階は、火元に近い階段踊り場付近の焼燬が特に激しく柱、間柱、梁桁などがほとんど焼けて使用に耐えない状況を呈し、原告阿部、同会社の各賃借部分は、その上部に火が入つたため天井、壁の上部および入口の扉がほぼ全面にわたり炭化ないし燻焼し、三階へ通じる階段の段板も二、三枚焼失した。しかし、一階部分は消火水が天井や壁一面および床にかかり、これによる汚損等が生じたものの、火災による被害は免れた。

(3) 罹災した本件建物を修復するとした場合、現行建築基準法上三階建の木造建築は認められていない関係上、二階建とせざるを得ないが、それでも二階部分の右(2)のような損傷状況からみて既存の建築材を流用することは不可能で、全て新しい材料を用いなければならず、しかも前記(1)のように構造材が脆弱なことから一階部分の構造材、土台等に相当の補強をする必要がある。そして、このような工事をしたとしても、本件建物に固有の右(1)認定にかかる根本的欠陥をほとんど免れることはできない。

以上の各事実が認められ、<証拠判断略>、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右事実関係に照し考えると、本件建物は本件火災以前において既に強度の点で不健全なものであつたことに加え、本件火災によつて二階、三階がほとんど全面にわたつて焼け落ちたというに等しく、しかも屋根の欠落によりそのままでは建物全体が雨露を防ぐ機能を失つていたというべきところ、これを法令上許容される二階建の建物として修復するには多額の費用を要することが明らかであり、そのうえ、右のように多額の費用を投じたとしても、本件建物に固有の既存の欠陥がなお残存することを免れないのであるから、本件火災によつて同建物は全体としてその効用を喪失し、滅失したものと解するのが相当である。

もつとも、前認定のとおり本件建物の一階部分は火災の直接的な被害は受けていないので、本件建物を一階建建物として修復することは物理的には可能であり、その費用もあまり多額を要しないのではないかとも考えられるが、その場合従前の本件建物と対比してその社会的、経済的有用性が著しく低下することは否めず、また一階部分の構造材、特に土台の強度に照してその耐用年数もさほど長くはないと推認されることからすれば、右修復義務を賃貸人たる被告林ら五名に課することは酷に失して相当とはいい難いから、このことも本件建物が本件火災により滅失した旨の前記判断を妨げるものではないというべきである。

そうすると、原告らと被告林ら五名との間の本件建物の各一部についての賃貸借契約は本件火災による建物の滅失により終了したものと言うべきである。

(尾方滋 田中優 矢村宏)

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