札幌地方裁判所 昭和52年(わ)98号 判決
主文
被告人武蔵商事株式会社を罰金四〇〇万円に、
同武蔵清一を罰金二〇〇万円に、各処する。
被告人武蔵清一において右罰金を完納することができないときは、
金一万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
起訴状記載の公訴事実を引用する。
(証拠の標目)
一、被告人兼被告会社代表者の当公判廷における供述
一、同人の検察官に対する供述調書二通二通
一、大蔵事務官の同人に対する質問てん末書九通
一、登記官作成の登記簿謄本
一、大蔵事務官作成の調査事績報告書(一〇通)及び脱税額計算書(二通)
一、武蔵清一作成の上申書
一、大蔵事務官の武蔵信一(八通)、土肥福治(四通)、菅沼孝雄、中川正夫及び佐立義夫に対する各質問てん末書
一、武蔵信一及び土肥福治の検察官に対する各供述調書
一、押収してある覚書帖及び法人税決議書綴(昭和五二年押第一一九号の1、2)
(法令の適用)
判示事実は、被告人武蔵清一につき法人税法一五九条に、同武蔵商事株式会社につき同法一六四条、一五九条に該当。被告人武蔵清一につき罰金刑選択。併合罪加重につき刑法四五条前段、四八条二項、労役場留置につき同法一八条各適用。
(量刑について)
租税ほ脱事犯は国民の納税義務を不正な手段で免れるものとして、また一般の納税意識に著しい悪影響を及ぼすものとして、厳しい非難に値する犯罪であることはいうをまたない。本件は、二年度にわたって合計約一、八〇〇万円にのぼる多額の脱税を行ったものであり、ほ脱率も昭和四八年度において五三%、昭和四九年度において三八%と高い率を示している。被告人武蔵清一は武蔵商事の最高責任者として脱税を計画し決定していたもので、その責任は極めて重い。また本件犯行の動機は、貸倒れの発生に対する防衛及び被告人武蔵清一の老後の不安に対する備蓄というのであるが、事業は概ね順調に発展していたようであるし、また武蔵清一がその家庭状況から引退後の生活に不安を抱いた心情は理解できなくはないけれども、いずれもそれほど差し迫った必要性があったこととは認めなれないうえ、そもそも、租税ほ脱事犯における情状として、こうしたいわば誰にでも存しうる動機にあまり重点を置くことは相当でない。
とはいえ、右の動機が一応理解しうるものであって、脱税によって蓄積された裏金か特に違法な目的のために支出されたのではなく、武蔵清一の個人的用途にも一部あてられられてはいるが、主たる目的は、中小企業の脆い体質を考慮した会社経営基盤の強化にあったことは、それなりに情状として考慮されてよい。また、伊藤忠肥料農機販売株式会社からの受取リベートについては、法律上ほ脱の意思は否定できないが、あまり悪意がなかったことも認めるにやぶさかでない。さらに、本件犯行の態様は、比較的単純であって、特に悪質功妙というほどの手段は用いていないうえ、国税当局の調査に対しても、武蔵清一が第一回目の質問調査において否認した点を除けば、その後は協力的であったように見受けられる。そして、当然のことではあるが、被告会社は、既に、正規の本税額を納付したほか、重加算税として合計約五五〇万円を支払い、なお延滞税、法人事業税等の地方税の納付も完了し、現在では、本件脱税による利得はすべて失われている。
以上のような情状に加え、被告人武蔵清一は、五十余年にわたり、一途に事業に打込んできたものであって、事件発覚後はひたすら悔悟謹慎の生活を送っていると認められること、同人が既に七五才という老令であることから再犯のおそれもないことを考慮すれば、会社とともにそれ相当の罰金刑を受けることはやむをえないとしても、被告人武蔵清一について、あえて懲役刑を選択して犯行防過を図ることは、必要性もなく、かえって今後の人生に懲役刑の汚名だけはなんとかして避けたいという被告人の心情に過度の打撃を与えるおそれなしとしない。同種事件の量刑傾向も考慮したうえ主文のとおり量刑することとした次第である。
(裁判官 金築誠志)
起訴状
左記被告事件につき公訴を提起する。
昭和五二年二月二一日
札幌地方検察庁
検察官検事 高野健二
札幌地方裁判所 殿
本店所在地 岩見市一条西一丁目九番地
武蔵商事株式会社
(代表取締役 武蔵清一)
本籍 岩見沢市二条東七丁目八番地二
住居 同右
職業 会社役員
在宅 武蔵清一
明冶三四年三月一三日生
公訴事実
被告人武蔵商事株式会社は、岩見沢市一条西一丁目九番地に本店を置き、肥料・農業生産資材及び石油製品の販売等を事業目的とする資本金五、〇〇〇万円の株式会社であり、被告人武蔵清一は、被告人会社の代表取締役としてその業務全般を統轄しているものであるが、被告人は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上金・受取りリベートの除外、土地建物の譲渡収入の圧縮等をして薄外預金を蓄積するなどの不正な方法によつてその所得を秘匿した上、
第一 昭和四八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の所得金額が五七、六六三、二六一円であり、これに対する法人税額が二〇、二五六、四〇〇円であるにもかかわらず、昭和四九年二月二八日、岩見沢市二条東四丁目五番地一の所轄岩見沢税務署において、同税務署長に対し、所得金額は二八、三七六、八六五円であり、これに対する法人税額は九、五〇一、七〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により被告人会社の右事業年度の正規の法人税とその申告税額との差額一〇、七五四、七〇〇円を免れ
第二 昭和四九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の所得金額が五五、三五七、一七八円であり、これに対する法人税額が二〇、三七八、三〇〇円であるにもかかわらず、昭和五〇年二月二八日、前記岩見沢税務署において、同税務署長に対し、所得金額は三六、〇七三、七〇七円であり、これに対する法人税額は一二、六九一、九〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により被告人会社の右事業年度の正規の法人税額とその申告税額との差額七、六八六、四〇〇円を免れ
たものである。
罪名及び罰条
法人税法違反 同法第一五九条、第一六四条第一項