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札幌地方裁判所 昭和52年(ワ)257号 判決 1978年3月23日

昭和五二年(ワ)第一一三号・同年(ワ)第二七五号事件

原告 甲野一郎

同 甲野花子

右原告両名訴訟代理人弁護士 下坂浩介

昭和五二年(ワ)第一一三号事件

被告 北海道

右代表者知事 堂垣内尚弘

右指定代理人 大西秀彦

<ほか二名>

昭和五二年(ワ)第一一三号事件

被告 山口留吉

右被告両名訴訟代理人弁護士 斎藤祐三

昭和五二年(ワ)第二五七号事件

被告 小林幸作

右被告三名訴訟代理人弁護士 宮永廣

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

(昭和五二年(ワ)第一一三号事件)

1  被告北海道及び被告山口留吉は、連帯して、原告甲野一郎に対し金三〇〇万円、原告甲野花子に対し金一〇〇万円を各支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

(昭和五二年(ワ)第二五七号事件)

1  被告小林幸作は、原告甲野一郎に対し金五〇〇万円、原告甲野花子に対し金二〇〇万円を各支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  各被告とも

1  主文と同旨。

2  被告北海道及び被告山口留吉について、担保を条件とする仮執行免脱の宣言。

第二当事者の主張

(請求原因)

一  原告甲野一郎(以下、原告一郎という)は、昭和四九年七月当時、石水産業株式会社名下に不動産仲介業を営んでいたが、昭和五一年一〇月四日、札幌地方裁判所昭和五〇年(わ)第五五四号、同年(わ)第六三一号、昭和五一年(わ)第四四二号横領等被告事件の被告人として懲役二年六月に処する旨の判決を受け、これに対し、同原告は、札幌高等裁判所に控訴したが(昭和五一年(う)第二三五号)、昭和五二年四月二八日、同裁判所で控訴を棄却する旨の判決がなされ、後、同判決は確定し、同原告は現に函館少年刑務所に服役している。

二  右刑事事件において確定した罪となるべき事実は左記のとおりである。

被告人は、昭和三五年ころから、札幌市内の不動産会社に勤めたりした後、昭和四七年九月から同市内で、自から不動産売買を業とする株式会社を設立経営したが営業不振で約一年半でこれをやめ、昭和四九年一月からは造園業に転じたがこれも経営状態が思わしくなく、金銭に窮し、

第一、一、近藤とめのから依頼され、同人所有にかかる雑種地を岡部利明に代金八〇〇万円で売り渡し、昭和四九年四月二四日同人から右代金の内金として現金一六〇万円を受取り、右近藤のため預り保管中、同月二五日札幌市豊平区豊平六条八丁目「石水産業」事務所において、右現金一六〇万円を自己の用途に費消する目的で着服横領した

二 同年五月一〇日右岡部から、右売買代金の一部として額面一六〇万円の小切手一通を受取り、換金のうえ右近藤のため預り保管中、同日右事務所において右現金一六〇万円を自己の用途に費消する目的で着服横領した

三 同年六月五日右岡部から、右売買代金の一部として額面八〇万円の小切手一通を受取り、換金のうえ右近藤のため預り保管中、同日岩見沢市四条六丁目一二番地の一株式会社北海道拓殖銀行岩見沢支店において、右現金八〇万円を自己の用途に費消する目的で着服横領した

第二  被告人は、飯田恒利所有にかかる札幌市琴似町発寒九一四番地の二〇及び五二所在の雑種地一七四平方メートルを自己が買い受けて所有しているように装って、他に売却し売買手付金名下に金員を騙取しようと企て、昭和四九年六月末日ころ、札幌市豊平区中の島一条二丁目小林幸作方において、同人に対し「発寒の土地は私が買収をかけて買ったもので、自分の所有になったものだ、名義はまだ自分のものにしていないが、それは移転登記には経費が要るし、転売予定でいたので移転登記していないのです。」などと嘘をついて購入方を勧め、右小林をして右土地は被告人の所有で、売買契約を結べば、有効に所有権が取得できるものと誤信させ、よって同年七月五日、同所において右小林との間に右土地に関し代金三二四万円の売買契約を締結し、即時同所において、同人から右売買の手付金名下に現金一〇〇万円の交付を受けてこれを騙取した

ものである(以下は本件に関係ないので省略する)。

三 しかしながら、原告一郎は、前記の詐欺、横領の各犯罪行為を行ったことはない。

四 原告一郎が、右実刑判決を受けるようになったのは、被告らの左のような行為が原因となったものである。

(一)  被告小林幸作(以下、被告小林という)は、原告一郎に刑事上の処分を受けさせる目的で札幌東警察署に対し、昭和五〇年五月中旬、右原告が前記詐欺罪に該当する行為を行った旨告訴するとともに、同年六月頃、同じく右原告が前記横領罪に該当する行為を行った旨訴外近藤とめのをして告訴させ、もって、虚偽の事実を申告して原告一郎を誣告した。

(二)  被告山口留吉(以下、被告山口という)は、昭和五〇年八月七日当時札幌東警察署に勤務していた地方公務員(警察官)であり、その頃、被告小林の前記虚偽申告に基づき、原告一郎の取り調べに当ったものであるが、同被告は、原告一郎が前記横領罪に該当する行為を行った旨供述したかのように同原告の供述調書を作成し、同原告をして右調書に無理に署名押印させた。

五 被告小林、同山口の右違法行為により、結局、原告一郎は前記のとおり無実の罪をきせられる破目となり、懲役二年六月の実刑判決を受けたのである。これによって、原告一郎、及び、その妻である原告甲野花子(以下、原告花子という)が受けた精神的苦痛は、はかりしれない。

よって、右両被告、及び、被告山口の属する公共団体である被告北海道は、いずれも右原告らの被った損害を賠償すべき義務があるところ、その損害は、被告小林の不法行為に関しては、原告一郎について金五〇〇万円、同花子について金二〇〇万円で慰藉されるのが相当であり、また、被告山口の不法行為に関しては、原告一郎について金三〇〇万円、同花子について金一〇〇万円で慰藉されるのが相当である。

六 結論

よって、原告らは、いずれも慰藉料として、被告小林に対し、原告一郎について金五〇〇万円、同花子について金二〇〇万円の支払を、被告山口、及び、同北海道に対し、原告一郎について金三〇〇万円、同花子について金一〇〇万円の連帯支払を各求める。

(請求原因に対する答弁)

一 被告山口・同北海道

(一)  請求原因一、二の事実は認める。

(二)  同三の事実は否認する。

(三)  同四、(二)の事実中、被告山口の身分及び同被告が原告一郎の取り調べに当ったことは認めるが、その余の事実は否認する。

(四)  同五は争う。

二 被告小林

(一)  請求原因一、二の事実は認める。

(二)  同三の事実は否認する。

(三)  同四、(一)の事実中、原告ら主張の頃、告訴がなされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(四)  同五は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  原告らの被告らに対する各請求は、いずれも、原告一郎に関する横領等被告事件(札幌地裁昭和五〇年(わ)第五五四号、同年(わ)第六三一号・昭和五一年(わ)第四四二号・札幌高裁昭和五一年(う)第二三五号)において確定された請求原因二記載の横領・詐欺の各犯罪行為を行ったことがなく、従って刑事責任自体が存在しないということを前提とするものであり、右前提が維持されなければ、原告らの請求は、いずれも、主張自体が意味を失うことに帰する関係にある。

そこで、まず、右前提が成立するか否かから判断を進めることとするが、そもそも民事訴訟手続において、刑事訴訟手続においてすでに確定した有罪判決の当否の判断に立ち入ることができるか否かは問題であろう。

思うに、法は、民事訴訟手続とは別個に刑事訴訟手続を設定し、刑事責任の成否を確定する唯一の手続として、その目的に適合した厳格な訴訟構造ならびに証拠法則等を規定しており、刑事判決によって刑事責任の存在が判断され、それが確定をみた場合にあっては、右刑事判決の正当性を否定するには、同じく刑事訴訟手続における再審、あるいは、非常上告の救済手段によるのほかはなく、これを民事訴訟手続において、確定された刑事判決の判断を覆すことは、既判力とは別個の理由に基づき許されないものというべきである。もし、そう解さずに、有罪判決が確定した後にも、被告人とされた原告一郎が、その犯罪事実を行ったものでない等主張して刑事責任自体の不存在を民事訴訟手続において主張して争い、同手続内で刑事判決の当否の審理、判断に立ち入り、その効果の不当を攻撃することが可能であるとすれば、刑事訴訟手続の存在意義自体が失われると解すべきだからである。

二  そうだとすれば、原告らの被告らに対する各請求は、その余の点判断するまでもなく、理由がないことが明らかであるから、いずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条 第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 稲垣喬 裁判官 増山宏 榮春彦)

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