札幌地方裁判所 昭和52年(ワ)3078号 判決 1979年7月20日
甲事件原告
平塚武彦
ほか四名
乙事件原告
佐藤ミネ
甲・乙事件被告
株式会社中央馬匹輸送
ほか一名
主文
一 被告らは各自原告平塚浩司に対し金一六一万六五七九円及び内金一四九万六五七九円に対する昭和五二年三月七日から、内金一二万円に対する本判決確定の日の翌日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは各自原告平塚武彦、同平塚禮子、同平塚弘、同大野和子の各々に対し、一二一万六五七九円及び内金一〇九万六五七九円に対する昭和五二年三月七日から、内金一二万円に対する本判決確定の日の翌日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告らは各自原告佐藤ミネに対し金四九二万一五九〇円及び内金四四七万一五九〇円に対する昭和五二年三月七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用中原告佐藤ミネと被告ら間に生じたものはこれを一〇分しその三を原告佐藤ミネのその余を被告らの各負担とし、原告佐藤ミネを除くその余の原告らと被告らとの間に生じたものはこれを二分しその一を右原告らのその余を被告らの各負担とする。
六 この判決は原告ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
(甲事件原告ら)
1 被告らは各自
原告平塚武彦、同平塚禮子、同平塚弘、同大野和子のそれぞれに対し金二三五万八九一〇円及び内金二〇五万八九一〇円に対する昭和五二年三月七日から、内金三〇万円に対する本判決確定の日の翌日から、それぞれ完済まで年五分の割合による金員を、
原告平塚浩司に対し金三〇五万八九一〇円及び内金二六五万八九一〇円に対する昭和五二年三月七日から、内金四〇万円に対する本判決確定の日の翌日から、それぞれ完済まで年五分の割合による金員を、
それぞれ支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行の宣言。
(乙事件原告)
1 被告らは各自原告佐藤ミネに対し金六四一万六七九四円及び内金五八一万六七九四円に対する昭和五二年三月七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行の宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁(被告ら)
1 原告らの被告らに対する請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 甲事件原告ら(以下原告平塚らともいう)の請求原因
1 事故の発生
訴外平塚治行(以下「亡治行」という)は、次の交通事故により、事故発生直後死亡した。
(一) 日時 昭和五二年三月七日午前一時三〇分頃
(二) 場所 上川郡新得町字新得基線三六(国道三八号線)
(三) 加害車両 普通貨物自動車(札一一り六一五四号)
(四) 右運転者 被告真田新二(以下「被告真田」という)
(五) 被害者 亡治行、訴外若原武
(六) 事故の態様 亡治行、訴外若原の二人は、前記日時場所において、道路左側の歩道を歩行中、後方帯広方面から進行して来た被告真田運転の加害車両にはねられた。
(七) 結果 亡治行は、右肺臓破裂のため同日午前一時四〇分死亡した。
2 責任原因
(一) 被告株式会社中央馬匹輸送(以下「被告会社」という)は、事故時本件加害車両を保有し、これを被告真田に運転させ、自己の営業のため運行の用に供していたのであるから、自賠法第三条により、本件事故によつて生じた損害を賠償すべき義務がある。
(二) 被告真田は、本件加害車両を運転していて自己の前方不注視によつて本件事故を発生させたのであるから、民法七〇九条により、本件事故によつて生じた損害を賠償すべき義務がある。
3 損害
亡治行及び原告平塚らは本件事故により次のとおりの損害を被つた。
(一) 亡治行の逸失利益 金四四〇万四五五〇円
亡治行の生年月日 明治三四年八月五日(七五歳)
職業 家畜商
年収 金一九〇万一三〇〇円
但し、年収は昭和五一年賃金センサス、第一表、産業計、男子労働者、学歴計、六〇歳以上の収入による。
生活費控除 三五パーセント
就労可能年数 四年
中間利息控除 新ホフマン方式により年五パーセントの中間利息を控除する
(算式 1901300×(1-0.35)×3.564≒4404551)
右亡治行の逸失利益は、同人の相続人である右原告平塚ら五名が、法定相続分に応じた五分の一に相当する金八八万九一〇円(円未満切捨)ずつを、それぞれ相続した。なお原告佐藤ミネは亡治行の死亡まで二〇年間同棲生活をしていたものではあるが、亡治行は同人が死亡した場合に、原告佐藤ミネには財産を相続させない意思を明確にしていたものであるから、本件では原告佐藤ミネには慰謝料のみが考慮されるべきである。
(二) 葬儀費用 金一〇〇万円
原告平塚浩司は、亡治行の葬儀を執行し、これに要した費用として合計金一一二万四三〇八円を支払つたが、本件においてはこのうち、金一〇〇万円につき損害として請求する。
(三) 慰謝料 合計金一五〇〇万円
本件加害車両の運転者被告真田は亡治行らをはねたあと、そのまま五キロメートル程狩勝峠方面へ逃げ、同車両から降りて山の中へ逃走したものであり、かかる法に違反するのみならず人道上も許すべからざる行為等を参酌すると原告平塚ら各自金三〇〇万円が相当である。
(四) 損益相殺(弁済予定額を含む) 合計金九五一万円
原告ら五名は、被告会社から支払われた金一万円の香典を、各自金二〇〇〇円ずつ受領したほか、本件加害車両の強制保険に賠償金の請求をしており、右保険から原告平塚浩司は金二二〇万円、その余の原告ら四名は各自金一八二万円(合計金九五〇万円)の弁済が受けられる予定であるから、原告ら各自の損害額からこれを控除する。
(五) 弁護士費用 合計金一六〇万円
原告平塚ら各自の請求債権額は、前記(一)、(二)、(三)の損害合計額から、(四)の既弁済額及び弁済予定額を差引いて原告平塚浩司は金二六五万八九一〇円、その余の原告らは各自金二〇五万八九一〇円となるところ、原告平塚らは本件訴訟の追行を弁護士藤井正章に委任し、同人に対し着手金及び成功報酬として、各自認容額の約一五パーセント相当額を支払う旨約しており、原告平塚浩司は金四〇万円、その余の原告ら四名は各自金三〇万円の弁護士費用支払債務を負担している。
4 結論
よつて、原告平塚らは被告ら各自に対し、請求の趣旨記載のとおりの金員と、このうち弁護士費用を差引いた各金員に対する事故の日である昭和五二年三月七日から、各弁護士費用に対する本判決確定の日の翌日から、それぞれ完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 乙事件原告(以下原告佐藤という)の請求原因
1 本件事故の発生 原告平塚らの請求原因1と同様である。
2 被告らの責任 原告平塚らの請求原因2と同様である。
3 原告佐藤と亡治行の関係(扶養請求権の存在)
(一) 原告佐藤は、昭和三〇年一二月五日亡治行と結婚し、上川郡新得町において夫婦共同生活を開始した。以来本件事故時まで二〇余年に亘り原告佐藤は亡治行の妻として、同人の収入により家計を賄う等その実態は完全な夫婦関係であつたが、婚姻届の手続をしなかつたため、法律上は内縁関係にとどまつていた。
(二) 原告佐藤は、右のとおり亡治行が本件事故によつて死亡するまで継続して事実上の夫婦として生活して来たのであるから、亡治行に対し、妻として法律上の扶養請求権を有し、亡治行の収入の全部によつて扶養を受けていたのに、本件事故によりその請求権を侵害され後記のとおりの損害を被つた。
4 損害
(一) 扶養喪失による損害 金二八一万六七九四円
(1) 原告佐藤と亡治行の夫婦共同生活には、他に同居の親族がおらず、また亡治行が扶養義務を負つていた者もいなかつたから、亡治行の収入の全部が原告佐藤と亡治行の生活費として使われ、そのうち少なくとも四〇パーセントが原告佐藤の扶養にあてられていたから、原告佐藤は亡治行の死亡によりこれを失つた。
(2) しかして、亡治行は本件事故当時七五歳(明治三四年八月五日生)の健康な男子で牛馬の売買仲介をする家畜商であつたが、その収入は賃金センサス昭和五一年一巻一表産業計、学歴計の六〇歳以上の男子労働者の平均賃金と少なくとも同額の収入をあげていた。また亡治行の就労可能年数は四年である。
(3) よつて、原告佐藤の侵害された扶養請求権の現価は金二八一万六七九五円となるので、本訴では右のうち金二八一万六七九四円の賠償を求める。
(算式 1975700×0.4×3.5643≒2816795)
(二) 慰謝料 金三〇〇万円
原告は亡治行と夫婦として生活してきたものであるから民法七一一条に基づき固有の慰謝料請求権を有しており、それは金三〇〇万円が相当である。
(三) 弁護士費用 金六〇万円
5 結論
よつて、原告佐藤は被告らに対し連帯して、金六四一万六七九四円及び弁護士費用を除く金五八一万六七九四円に対する本件事故の日である昭和五二年三月七日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
三 請求原因に対する認否
1 各原告らの請求原因1項については、同項(六)のうち「歩道を歩行中」との点を否認し、その余の各事実は認める。
2 同2項については、(一)は認め、(二)は否認する。
3 原告佐藤の請求原因3は不知。
4 原告平塚ら請求原因3、原告佐藤の請求原因4については、各原告らがそれぞれ、訴訟代理人に本件訴訟を委任したことは認め、その余は不知ないし争う。
なお、亡治行は家畜商であつたがほとんど収入がなく生活保護を受けるよう勧められていたものであり、その収入の大部分は内縁の妻である原告佐藤との生活費にあてられていたものであるから、亡治行の逸失利益の計算については生活費控除は収入の五割が相当である。また原告平塚らは被告真田が所謂轢き逃げをした旨主張するが同被告は本件事故の発生に驚愕し、その責任の重大さにおののき自殺して被害者に詫びようとしたものであり責任を逃れようとしたものではないから慰謝料の算定につき悪しく勘案すべきではない。しかして以上の損害額につき各原告ら間で妥当に分配すべきものである。
四 抗弁(過失相殺)
亡治行は酒に酔つており、且つ積雪の為に道路幅が狭くなつているので右側通行をなすべきであるのに、道路左側を歩行した過失があり、この過失は三割を下らない。
五 抗弁に対する認否(原告平塚ら)
否認する。
第三証拠〔略〕
理由
一 事故の発生とその原因
原告平塚ら及び原告佐藤(以下各原告らという)らの請求原因1項の事実は亡治行が歩道を歩行中本件事故が生じたとの点を除き当事者間に争いがない。
右争いのない事実にいずれも成立に争いのない甲イ第一号証の一ないし六、同第二号証の一ないし三、同第三号証の一及び三、同第四、第五号証及び弁論の全趣旨を綜合すると次の事実を認めることができ、これを左右するに足りる証拠はない。
1 本件事故現場付近は、幅員六・九メートルの歩車道の区別のないアスフアルト道路で南方から進行して半径六〇〇メートルの左カーブとなつており本件衝突地点の北方(加害車の進行方向)五メートルの地点から最高速度時速五〇キロメートルに制限されている。本件事故現場の周囲は畑地で積雪が道路面と同じ位の高さになつており、道路左側には中央線から約二・八メートル付近まで積雪がある状態であつたが、視界を妨げる障害物はなく、見通しは良好である。
2 被告真田は昭和五二年三月六日午後一一時すぎころ本件加害車を運転して帯広市を出発し札幌市へ向い、途中睡気を催したためガソリンスタンドの広場に車を停め三〇分間程仮睡をとつたのち、再び出発し、本件事故発生日時ころ本件現場付近にさしかかつたのであるが、再び睡気を催し頭がもうろうとして前方注視が十分できなかつたのに、そのまま時速約六〇キロメートルで進行したため、左前方約一六・五メートルに接近してはじめて人影を発見したが、急ブレーキ等の回避措置を講ずるいとまもなく加害車前部を道路左側を歩行中の訴外若原武及び亡治行に衝突させた。
3 一方亡治行と訴外若原武は本件事故現場付近は積雪の為有効幅員が狭くなつていたため、後方からの車両に気をつけながら道路左側の積雪部分との境付近(センターラインから約二・六メートル左側付近)を亡治行が前方に、訴外若原武が後方になり一メートル位の間隔を保ちながら歩行していた。訴外若原武は後方から接近する加害車のライトに気づき更に左側に寄つたが、前記のとおり加害車に衝突され、右肋骨骨折等の傷害を負い、亡治行は肺臓破裂等により死亡した。
なお前掲各証拠によると被告真田は本件事故発生に驚愕し被害者の救助にあたることなく約五・二キロメートル程そのまま進行したのち本件加害車を停め、要旨、「大変なことをして申し訳ない。許して下さい。」との書置を車内に残して雪原へはいつていつたが、寒さの為意識もうろうとしているところを警察官に発見され救助されたことが認められる。
二 責任
1 被告会社について
各原告らの請求原因2の(一)の事実は当事者間に争いがないから被告会社は各原告らに対し自賠法三条に基づき後記損害を賠償すべき義務がある。
2 被告真田について
前一の認定事実によると被告真田は睡気の為前方注視が十分できない状態であつたのにそのまま漫然と運転を継続し、亡治行らの発見が遅れ回避措置が全くとれなかつた過失があることは明らかであるから同被告は各原告らの後記損害を賠償すべき義務がある。
三 損害
1 原告佐藤について
(一) 扶養喪失による損害
成立に争いのない甲ロ第一号証、同第二号証の一、二、証人佐藤信廣の証言、原告平塚浩司本人尋問の結果によると、亡治行と原告佐藤は昭和三〇年一二月ころ結婚式を挙げ、以来亡治行が本件事故で死亡するまで同棲生活を続けていたが、両者とも再婚(当時亡治行は五五歳、原告佐藤は四五歳であつた。)であつたこと等から婚姻届はしなかつたこと、亡治行には離婚した先妻との間に原告平塚ら五名の子がおり、原告佐藤が同棲をはじめた当初しばらくの間は原告大野和子、同平塚弘が共に生活していたが、遅くとも昭和四〇年以降は亡治行と原告佐藤の二人で生活してきたこと、その後は亡治行と原告平塚ら(同人らはいずれも亡治行の居住する新得町を離れ、東京、横浜あるいは札幌方面に独立して生活している)の交渉は時候の挨拶程度であつたこと、その間亡治行は蹄鉄業や家畜商(馬喰)を営み、原告佐藤も農家の手伝いに出るなどして生計を維持してきたが、原告佐藤は昭和四八年ころから高血圧が原因で手足、下肢が不自由になり、同五〇年ころから機能回復訓練の為入院治療を受けるようになり、専ら亡治行の収入により生活してきたこと、原告佐藤は今日においても下半身不随の為車椅子による生活を送つていることが認められ反証はない。
右によると原告佐藤は二〇余年に亘り亡治行と準婚としての内縁関係にあつたものであるから亡治行に対し扶養請求権を有していたということができ、また現に要扶養状態にあるものであるから、被告らに対し右扶養請求権の侵害による損害の賠償を請求し得ると解される。
ところで証人佐藤信廣の証言、原告平塚浩司本人尋問の結果によれば、亡治行は明治三四年八月五日生れの健康な男子で新得町において長年の間蹄鉄業、家畜商をして生計をたてていたが、死亡当時も生活保護の申請をするよう勧められたこともあつたが、これを断り、家畜売買の斡旋等による手数料収入を得て生活していたことが認められること及び亡治行の年齢(当時七五歳)等を勘案すると亡治行は死亡当時昭和五一年賃金センサス一巻一表の企業規模計、産業計、学歴計の男子労働者の六〇歳以上(平均六三・八歳)の平均賃金の約七割に相当する一三八万二九九〇円の収入を得ていたものと推認され、第一三回生命表によれば亡治行の平均余命は七・一四年であるから同人の死亡時年齢、健康状態等に鑑みるとなお今後四年間は稼働できたものと認められる。そして前記事実によると右収入の大部分は亡治行と原告佐藤の生活費として費消されていたといえるから、少なくとも亡治行の収入の四割は原告佐藤の扶養にあてられていたと認めるのが相当である。
そして、原告佐藤の平均余命は四年を越えるものと認められるから、原告佐藤の扶養喪失による損害はホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して算出すると一九七万一五九〇円となる。
(算式 1382990×0.4×3.564≒1971590)
(二) 慰謝料
原告佐藤は前記のとおり亡治行の内縁の妻であるがその夫の生命が侵害された場合は民法七一一条の準用により加害者に対し精神的損害の賠償を請求することができると解されるところ、原告佐藤と亡治行の内縁関係の継続期間、その間の生活状況、亡治行の年齢、本件事故の態様等諸般の事情を斟酌すると原告佐藤の慰謝料は金二五〇万円が相当と認める。
2 原告平塚らについて
(一) 亡治行には相続人でない扶養権利者たる原告佐藤が存するところ、同原告の得べかりし扶養利益は結局亡治行の得べかりし純収益から賄われるものと解され且つ亡治行の得べかりし純収益はまず原告佐藤の扶養にあてられるべきものであるから、本件のように扶養権利者たる原告佐藤に得べかりし扶養利益が賠償される場合は、亡治行の逸失利益から右得べかりし扶養利益を控除した残余が相続人たる原告平塚らに帰属すべきものと解するのが相当である。そして前記のとおり亡治行の収入はその大部分が同人と原告佐藤の生活費に費消されていたこと等からすると亡治行自身の生活費はその五割とみるのが相当であるから、前記亡治行の年収、稼働可能期間、中間利息控除方式により算出すると原告平塚らが相続し得べき亡治行の逸失利益は金四九万二八九七円となる。
(算式 1382990×0.1×3.564≒492897)
亡治行の相続人が同人の子である原告平塚ら五名であることは弁論の全趣旨により認めることができるから原告平塚ら一人当りの相続分は金九万八五七九円となる。
(二) 慰謝料
亡治行の年齢、原告平塚らと亡治行の生活関係、本件事故の態様その他諸般の事情を勘案すると原告平塚らの慰謝料はそれぞれ一〇〇万円とするのが相当である。
(三) 葬祭費
原告平塚浩司の証言により成立を認める甲イ第六ないし第八号証及び右証言によると、原告平塚浩司は亡治行の葬儀を執行し、その費用として一〇〇万円を越える支出をしたことが認められるが、右のうち金四〇万円の限度で本件事故と相当因果関係にある損害とみるのが相当である。
四 過失相殺
既にみたとおり亡治行は深夜積雪の為幅員の狭くなつている道路の左側を歩行中後方から進行してきた加害車に衝突されたものであるところ、亡治行において道路右側端を歩行することが危険であるかその他止むを得ない事情があり道路右側端を通行していなかつたと認め得ない本件においては亡治行には道路右側端を歩行していなかつた点に過失の存したことを否定できないが、他方亡治行は道路の通行可能部分の左側端に沿つて通行していたもので、同人の位置から中央線までは約二・六メートルの距離があつたこと及び被告真田には居眠り運転に匹敵する前方不注視の重過失があつたこと等に照らすと前記亡治行の過失は本件損害の算定にあたり斟酌すべき必要はないと解するのが相当である。なお甲イ第四号証によると亡治行は本件事故当時飲酒していたことが認められるが、右飲酒が亡治行の歩行状態に影響を与えていたことを認めるに足りる証拠はない。
よつて、被告らの過失相殺の主張は理由がない。
五 損害の填補
原告平塚らが被告会社から各自二〇〇〇円(合計一万円)の支払を受けたことは右原告らの自認するところである。
六 弁護士費用
本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと各原告らが本件事故による損害として賠償を求めうる弁護士費用は、原告佐藤は金四五万円、原告平塚らは一人当り金一二万円(合計六〇万円)とするのが相当である。
七 以上のとおりであるから、各原告らの本訴請求は被告ら各自に対し、原告平塚浩司に対し一六一万六五七九円及び右のうち弁護士費用を除いた一四九万六五七九円に対する本件事故の日である昭和五二年三月七日から、弁護士費用一二万円に対する本判決確定の日の翌日から、原告平塚武彦、同平塚禮子、同平塚弘、同大野和子それぞれに対し、一二一万六五七九円及び右のうち弁護士費用を除いた一〇九万六五七九円に対する本件事故の日である昭和五二年三月七日から、弁護士費用一二万円に対する本判決確定の日の翌日から、原告佐藤ミネに対し四九二万一五九〇円及び右のうち弁護士費用を除いた四四七万一五九〇円に対する本件事故の日である昭和五二年三月七日から、それぞれ支払いずみにいたるまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 宗宮英俊)