札幌地方裁判所 昭和53年(ヨ)108号
債権者
伊藤博美
債権者
橋本春雄
右両名代理人弁護士
猪狩康代
(ほか六名)
債務者
北海道急行トラック株式会社
右代表者代表取締役
長谷川冨蔵
債務者代理人弁護士
藤野義昭
同
富岡公治
主文
一 債権者らが債務者の従業員たる地位にあることを仮に定める。
二 債務者は、昭和五一年一二月一日以降本案判決確定に至るまで毎月二八日限り、債権者伊藤博美に対し、金一九万九六〇〇円の、債権者橋本春雄に対し、金一九万三三六〇円の割合による各金員(但し、いずれも毎月の税金、社会保険料を各控除する)を仮に支払え。
三 債権者らのその余の各申請を却下する。
四 申請費用は債務者の負担とする。
理由
第一申請の趣旨及び理由
別紙(一)申請書写記載のとおり。
第二答弁の趣旨及び理由
別紙(二)答弁書写記載のとおり。
第三当裁判所の判断
一 本件疎明資料によると、会社は、肩書地(略)に本店を、小樽、旭川、釧路、函館等の道内主要地に営業所を置き、従業員約三四〇名、車両約二二〇台を有して貨物自動車運送事業を営む法人であること、債権者伊藤博美(以下伊藤という)はおそくとも昭和四六年二月までに、債権者橋本春雄(以下橋本という)は同四一年九月、それぞれ会社に乗務員(運転手)として採用された者であるが、右両名は同五一年一一月二七日会社から右両名主張の解雇理由によって解雇通告を受けたことが一応疎明される。
二 次に、本件疎明資料を綜合すると、右解雇通告に至るまでの経緯は次のとおりであったことが一応疎明される。
1 会社には従業員をもって組織された労働組合である北海道急行トラック従業員組合(以下組合という)があり、昭和五一年九月当時伊藤は右組合の副執行委員長、橋本は代議員であった。組合は結成以来会社に対しストライキ等の実力行使をしたことはなかったし、会社の役員は組合の役員を会社の費用で酒席に招待したこともあり、会社と組合は協調的な間柄を保っていた。
2 会社の現業部門には路線事業部と区域事業部とがあり、後者には輸送課陸便係と同整備係、同航送係(以下航送係という)がある。航送係は事務所を小樽営業所の一角に置き、小樽を起点として道内各地に航送関係貨物をトレーラーにより輸送することを主な業務としている。航送係の乗務員数は本件解雇通告前伊藤、橋本を含め計一八名であった。尚組合の副執行委員長は二名で、伊藤の他航送係業務運行主任である神勝男(以下神という)がこれを務めていた。
3 航送係は昭和四六年ころ航送課として発足したものであるが、その後乗務員の労働条件について次のような改善が行なわれた。
(一) 昭和四八年八月ころ、札幌営業所から航送係に配置転換になった乗務員と従前からの航送係乗務員との間に基本給の格差があることがわかり、航送係乗務員からこの是正を求める声が起ったため、同年一一月ころ、会社は航送係乗務員の基本給の引き上げを行なって調整をはかり、事後的に組合委員長の了解をとった。
(二) 昭和四八年ころ、小樽港へのフェリーボートの入港数の増加により航送係乗務員の日曜日出勤の回数が多くなり、伊藤が区域事業部次長に対し改善を求めたことが契機になり最低八時間分の休日出勤手当を支給する取扱いが確定した。
(三) 昭和四九年の春闘の際の会社組合間の賃金協定で未解決のまま保留されていた航送係乗務員のトレーラー手当増額の問題について、その後航送係乗務員の希望額が組合によってとりまとめられ、同年五月会社と組合との交渉の結果トレーラー手当の増額が決定実施された。伊藤及び橋本は航送係の利益を代弁するためこの交渉に加わったが、当時伊藤は単なる組合執行委員であり、橋本は何ら組合の役職についていなかった。
4 会社は、昭和五一年八月三〇日、航送係乗務員が就労する小樽遠軽間の直行トレーラー路線である遠軽線を廃止して、小樽・旭川間及び旭川・遠軽間の二便に区分し、かつそれまでの乗務員のツーマン体制をワンマン体制に切替えることを実施した。それまで航送係乗務員は一か月に二、三回の割合で遠軽線に就労し、一回につき運行手当など約七〇〇〇円月額にして約一万四〇〇〇円ないし二万一、〇〇〇円の収入を得ていたため、同路線の廃止により代りに他の仕事につくことによって得る収入を考慮しても、相当大幅な減収を免れないことになった。会社は右減収額を平均一万二、三〇〇〇円程度と予想しながら、これを補填するための何らの具体的措置も講じなかったし、事前に組合に予告や協議の申し入れもしなかった。(なお右実施前に会社から神に対し遠軽線廃止の話を伝えてあることが疎明資料から窺えないでもないが、神が航送係の業務運行主任であることを考慮すると、同人が副執行委員長であることから当然にこれをもって組合の執行部に対する正式の通知あるいは協議の申し入れがあったとは認め難い。)
5 ところで、右廃止に先立ち、伊藤は、会社が遠軽線廃止を検討していることを知って、これに組合が取り組むべきであると考え、昭和五一年八月一八日組合の三役会議の席上遠軽線廃止問題に対する組合の態度をただしたが、神副執行委員長から「伊藤は労働者根性丸出しだ。会社とは労使協調路線でやっていくべきだ。」などと非難されて同人と口論になったため、組合が右の問題にどのように対処するかの結論は得られずに終った。
更に、伊藤は、同年九月四日、労使協議会に先立って開かれた組合の執行委員会において、右の問題をとりあげるように提言したが、結局とりあげられないまま時間切れで話はうやむやになってしまった。
6 同月一一日夜、小樽営業所において、会社と航送係乗務員との間で職場懇談会が開かれ、会社側から常務取締役谷内英男(以下谷内常務という)、区域事業部長、同次長等が出席し、乗務員側も途中から出席したものを含めほとんど全員が出席した。席上、会社側から遠軽線廃止が業務の改善を目的としたものである旨の説明がなされ、これに対し橋本が「なぜ組合に通告せずに一方的に廃止したのか。」「遠軽線を復活して欲しい。」と要望したところ、会社側は、「業務改善だから組合を通す必要がない。」と述べた。また。会社側は、乗務員側からの減収補填の要望に対し、「不満なら組合を通じて話を出せ。」と言ったままであった。
懇談会終了後、乗務員達は、遠軽線廃止問題に関する会社側の説明に不満で納得がいかなかったため、橋本の呼びかけに応じて翌日右問題について職場集合を開催することを決めた。
7 九月一二日(日曜)午前小樽営業所において、伊藤が座長、橋本が司会となって航送係乗務員の職場集会が開催され、各乗務員から遠軽線廃止について憤まんの情が次々と表明された末、結局会社に対し話合いを要求し、九月一四日までに話合いの日時を回答して貰いたいとの要望書を出すこと、もし会社が応じない場合は同月一六日に車をとめることにつき全員の合意が成立した。
右要望書は、九月一二日付をもって「区域航送乗務員一同」から「所属長殿」宛てで、現行運行体系に不満であるので、「1現運行手当の増額、2現運行体系の改善、3その他」を議題とする会社との話合いを要求する旨、及び話合いの日時を同月一四日までに連絡して欲しい旨を記載内容として作成され、同月一三日工藤春夫運輸課長の机上に提出された。
8 右要望書は翌一四日朝工藤課長から清水作男区域事業部長を介して谷内常務に渡された。谷内常務は清水部長に対し「1の議題については組合を通じて出すように、2、3の議題については具体的な内容を明らかにしたうえで、それが職場懇談会の議題ということであれば懇談会を開催する」旨回答するようにと指示し、同部長は同日夕刻航送係乗務員らに右の回答を伝えた。伊藤は航送係乗務員詰所にいた乗務員らの要望により更に直接谷内常務に電話で右回答の内容を確認したところ、清水部長の回答と同旨であったので右乗務員らに伝えた。航送係乗務員らは、右会社の回答やこれまでの組合の態度から、このままでは問題が解決されないと考え、同月一六日(月曜)までに状況が変らなければ既定方針どおり職場大会を開いて車をとめることを確認し、橋本は工藤課長に対しその旨を伝えた。工藤課長は上司や神とも協議をしたうえ、各乗務員に対し、一六日には平常どおり勤務につくよう指示した。
9 九月一六日朝、状況が変らなかったので、航送係乗務員は、会社が話合いの日時の指定をせず、話合いに応じようとしない態度が明らかになったとして、車を止めて就労せず、会社側からの午前中三回にわたる就労命令に従わなかった。同日午前一一時ころ、組合の金田一辰夫執行委員長が詰所に来て、組合を通さずに勝手なことをしたと非難したので、伊藤が、遠軽線廃止問題を組合でとりあげずにいたことを批判し、また橋本が、航送係乗務員の要望に対する会社の誠意のない態度について説明したところ、金田一委員長は、組合の方で裁判にかけてでも会社と闘うと述べたので、乗務員達は減収問題を組合に一任することとした。また同日午後二時三〇分ころ、谷内常務が詰所に来て、処分問題は自分に一任するようにと説得したため、乗務員達は協議のうえこれを了承することとし、結局同日午後四時ころ、右職場放棄は解除された。なお本件職場放棄に参加した航送係乗務員は前夜函館線に就労するため行動から外された者一名を除き一七名全員であった。
10 本件職場放棄は、会社と業務提携中の大栄運輸興業株式会社(京都に本社を置き、右会社と本件会社は北海道側と本州側で互の貨物の集配を行なって来た)の貨物を含む当日の貨物の配送に渋滞を来たしたが、会社が他から傭車したためもあって、滞貨は一、二日間に処理された(なお、同年一〇月二〇日大栄運輸の申し入れにより両社間の右業務提携は解除されたが、同解除が会社主張のように、専ら本件職場放棄によってもたらされたと認めるに足りる資料はない)。
11 会社は、本件職場放棄の後、航送係乗務員からの事情聴取を行ない、その結果に基づき、昭和五一年九月末ころ開かれた役員会において、処分問題を検討したところ、伊藤及び橋本を懲戒解雇すべきであるという意見が支配的であったが、谷内常務の要望で結論を暫く留保することとした。その後谷内常務は伊藤に対し、本件職場放棄の責任をとって自ら辞職するように勧告したが、給与保障等の面で折合いがつかず話はまとまらなかった。そのため、結局当初の役員会の意見どおり伊藤及び橋本を懲戒解雇することとなり、昭和五一年一一月二六日、右両名に対し、翌二七日付で前認定のとおり懲戒解雇する旨の各通告書が手渡された。
会社は右両名の処分に並行して、班長職にあった航送係乗務員二名を減給処分に付し、他の一三名の航送係乗務員に始末書を提出させた。
12 なお、遠軽線廃止による減収問題は、昭和五一年一一月一六日、同月一九日開催の労使協議会において検討され、減収分は補填する内容で解決された。
13 伊藤は三年以上前に起した物損に至らない接触事故を除いては事故を起したことはなく、これまで無欠勤、処分を受けたこともなかった。橋本は三年前接触事故で減給処分(賞与)を受けたことがあるほかは事故を起したことはない。また入院治療のための病休を除いては欠勤はない。両名共に勤務成績は普通である。
三 以上の事実関係に照らし、本件解雇の効力について判断する。
1 会社が解雇理由として主張する事実の存否
(一) 前認定の事実によると、本件職場放棄は組合の構成員である航送係乗務員という職場組織によってなされたものであるところ、右について組合の指示あるいは承認はなかったものと一応認められる。
もっとも労働協約四四条の二によると、一箇所に固有の問題については、当該職場組織とこれに対応する会社機関とが交渉をなし得る旨定められていることが明らかである。しかし、遠軽線廃止による減収問題は直接的には航送係乗務員のみに関する問題であるけれども、全体の運行手当、体系にも関連し得るものであるから、一箇所に固有の問題であると断定するには疑問がある。また、右乗務員らが右問題について会社と交渉し得る余地があるとしても、この場合でも組合は団交事項を留保しており、本来団交権を持たない右職場組織がその交渉事項につき独自に争議行為をなし得るものとは認め難い。
また前記要望書が会社に提出されたのは九月一三日であり、翌日中に話合いの日時を決めて回答せよというのは、いかにも性急に過ぎ、また回答がない場合直ちに職場放棄をもって対応するというのも、緊急性、必要性からみて疑問なしとしないのであって、労働協約第四六条に照らすと、本件職場放棄が組合の承認の下に行われたものであると仮定しても、右放棄は手段としての相当性を欠いたものであることは否み難く、正当な争議行為の範囲を逸脱したものとの評価は免れない。
従って、伊藤、橋本は、会社の業務命令に違反して職場放棄をしたものと一応認められ、右所為は就業規則五九条二項三号にあたるものというべきである。
(二) 会社は、伊藤、橋本が要望書に対する回答を同僚に正確に伝えなかったとし、それが本件職場放棄の原因になったと主張するが、右経緯は前項で認定したとおりであって、右主張事実は疎明されない。
(三) 会社はまた、伊藤、橋本が同僚を教唆煽動して本件職場放棄をさせたとし、これも解雇理由として主張する。しかし、本件においては右事実を認める疎明資料は十分でなく、遠軽線廃止に伴なう減収問題は航送係乗務員各自にとってその利害に関わる重要な問題で、本件職場放棄がこれに加わった者全員の合意に基づくものであることは前認定のとおりであり、伊藤、橋本は組合の役員をしていたことから中心的役割を果したにとどまると認められる。
2 解雇権の濫用
(一) しかしながら、本件職場放棄に至る紛争の発端は、会社の事前の予告も協議もなしに、突然遠軽線を廃止したことにある。遠軽線廃止が、会社の経営上合理的理由があるとしても、これにより航送係乗務員の収入が相当程度の減少を来たすことは会社も予め十分承知していたことであり、労働条件の最たるものである賃金につきこのような不利益な変更が生じる場合、会社としてはその補填のための具体的措置を講じるとか、事前に組合に予告協議をして十分な説明をし納得を得るよう努力しなければならなかったと考えられる。しかしながら、会社が右のような具体的措置を講じたという事実も、また事前に予告し協議の機会を持ったという事実も全く認められない。遠軽線廃止はまさに突然の措置であり、これに対して不利益を受ける航送係乗務員から不満の声が起こったのは無理からぬことと思われる。またこれに対し、会社から組合に対し、問題解決のために協議の機会を持とうと働きかけたこともなかったし、航送係乗務員に対し、会社がこの問題の解決をはかる意志があることを積極的に示したこともなかったものと認められ、以上の会社の対応はかなり不適切であったとのそしりを免れない。
(二) 次に、組合としても、遠軽線廃止問題は、直接には組合員の一部のみの利害に関わるとはいえ、減収という重大な不利益をもたらす問題であるから、積極的にこれをとりあげ、会社と交渉して適切な解決がなされるよう努力すべきであったと思われるのに、組合がそのような行動に出た事実は認められない。伊藤の二度にわたる提言は組合にとりあげられずに終っており、委員長にも熱意をもって問題解決に努力しようとする態度が乏しく、従来の会社と組合の間柄からみて、航送係乗務員らが、問題解決のための取組みを組合に期待することは極めて望み薄な状況であると考えたことも無理からぬことであるということができる。そうして、過去にも航送係乗務員の労働条件の改善については、組合を通じて要望が会社に入れられたほかに、組合を通じることなく職場の要望が契機となって要望が入れられて改善措置のとられた例があることは前項で認めたとおりであり、右の例も考慮して本件要望を出すに至ったものと推認される。
(三) 次に本件職場放棄の態様は車の乗務につかないという争議行為としては比較的平穏なものであり、その結果についても貨物の渋滞は一両日中に解消され重大な損害を与えているものとは認め難い。
(四) 以上に認定の、本件職場放棄に至る経緯、とりわけ会社の不適切な対応が本件紛争の原因となっていること、本件職場放棄の態様、結果、両名の役割、勤務状況、を綜合して考慮すると、会社が伊藤、橋本両名に対して懲戒解雇の処分をもって臨んだのは苛酷に過ぎ相当性を欠いたものといわざるを得ず、解雇権の濫用になるものと認むべきである。従って本件解雇の意思表示は無効というべきである。
四 以上の次第であるから、伊藤、橋本の両名は依然として本件解雇通知を受けた日以後も会社の従業員たる地位を有し、かつ賃金支払請求権を有するものと認める。
本件疎明資料によると、債権者両名は会社から支給される賃金のみを生活の資として妻子を養っている労働者であること、本件解雇前三か月間の右両名に対する平均賃金の額は、右両名主張のとおり、伊藤が一九万九、六〇〇円、橋本が一九万三、三六〇円を下らない額であって、毎月二八日限り右賃金が支給されていたが、会社は昭和五一年一二月一日以降右両名を従業員として取扱わず、右各賃金を支給しないこと、また本件解雇通知後、債権者らはいずれも失業保険を受給し、受給期間経過後はアルバイトによる収入に頼って来たものであり、生活は益々苦しくなって来ていることが認められ、以上の事実によれば、本件においては前記各賃金の全部(但し、税金および社会保険料についてはこれを控除するを相当と認める)について支払を求める緊急の必要性があるものというべきである。
五 結論
よって、債権者らの本件申請中、賃金のうち、毎月の税金、社会保険料分の支払を除くその余の地位保全、賃金支払を求める申請部分についてはこれを認容し、その余の部分についてはこれを却下し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九二条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 丹宗朝子 裁判官 野崎彌純 裁判官 飯田喜信)
別紙(一) 地位保全仮処分申請書
申請の趣旨
一、債権者らが、債務者の従業員たる地位にあることを仮に定める。
二、債務者は、昭和五一年一二月一日以降本案判決確定にいたるまで、毎月二八日限り、債権者伊藤博美(以下「債権者伊藤」という。)に対し一ケ月金一九万九、六〇〇円の、債権者橋本春雄(以下「債権者橋本」という。)に対し一ケ月金一九万三、三六〇円の割合による金員を仮に支払え。
との裁判を求める。
申請の理由
一、当事者
1 債務者北海道急行トラック株式会社(以下「会社」という。)は従業員約三〇〇人、車両約二二〇台を有して貨物輸送業務を営む法人である。
2 債権者伊藤は、昭和四六年二月一九日、同橋本は昭和四一年九月一二日、会社に雇用され、いずれも乗務員として勤務してきた。
二、解雇の意思表示
1 昭和五一年一一月二七日、会社は債権者両名に対し、懲戒解雇する旨の書面による意思表示をなした。
2 右書面に記載された解雇事由は、「昭和五一年九月一二日付をもって会社に提出した三項目の要望書に対する同月一四日の会社側の回答を正確に同僚に伝える努力を怠り、同月一六日職場放棄に至る大きな原因となった責任を有し、その結果、荷主ならびに企業経営に重大な損害と迷惑を与え、更に同僚に対し、上司の命令に従わないよう教唆、せん動した」というにある。
三、解雇にいたる経過事実
右懲戒解雇は後記のとおりの事由により無効であるが、その前提となる解雇に至る経過はつぎのとおりである。
1 会社は、本社を札幌(登記簿上は小樽)、道内各都市一二ケ所に営業所、大阪市に支店をおく。その現業部門は路線事業部と区域事業部からなり、後者には輸送課陸便係と輸送課航送係(以下「航送係」という。)が属する。債権者両名が所属する航送係は小樽におかれ小樽を起点として舞鶴間のフェリーで本州各地と結び、これを道内各地にトレーラーで貨物輸送するのが業務内容である。
2 航送係所属運転者の給料は、基本給と各種手当からなっているが、このうち小樽―遠軽間直行往復路線(以下「遠軽線」という。)は一航程の運行手当が金七〇〇〇円で一人につき月二ないし三回の乗務があった。ところが、昭和五一年八月下旬頃会社が右の遠軽線を廃止(旭川営業所へ移転)したため、航送係所属従業員は全員が月額金一万四、〇〇〇円ないし二万一、〇〇〇円の減収をきたすことになったが、その際会社は労働組合と事前の協議もせず、従業員に対する予告もせず右のような大幅減少に対する填補措置を決めることもないまま一方的に実施した。
3 同年八月二八日航送係従業員は全員出席して職場集会を開き会社に対し廃止の理由について釈明を求め、仮りに廃止がやむをえない場合は減収の填補措置を求めることとした。会社はこのため同年九月一一日の職場懇談会において谷内常務を出席させ「路線の廃止は業務改善であり組合を通す必要はない。減収の件は賃金問題になるから組合を通せ」との見解を示したが、航送係従業員の大幅減収に対する具体的補填措置は何も考えていないことが明らかになった。
そこで、航送係従業員は翌一二日全員で職場集会をひらき、更にひきつづき会社と協議をつくす必要を確認し、全員一致の意思で「九月一四日までに話し合いの日時を連絡して下さい。」という内容の要望書を作成して会社に交付した。
4 これに対し、会社から何の連絡もなかったので九月一四日午後六時ころ債権者伊藤が運転手詰所から谷内常務に電話したところ、右谷内は「賃金に関することは組合を通してこい」との従来の主張を繰り返すのみで、日時の設定についての回答はなかった。債権者伊藤は、その場で右電話の内容を他の従業員に伝えたところ、会社の誠意のない態度に強い不満をもちながらも、もう一度協議に応じるよう会社にうながすこととなった。
5 九月一六日(月曜日)午前八時、航送係従業員は会社から協議の日時の回答を聞いたうえで就労することにして全員運転手詰所に待機した。ところが、会社は就労を命じるのみで回答せず、時間を経過するうち午前一一時頃にいたって右組合の執行委員長である申請外金田一(以下「金田一委員長」という。)が右詰所で「この問題は組合として裁判にかけてでも闘うので委せてほしい」旨を述べ、その場にいた谷内常務も今後この問題を会社と組合執行部間で協議する旨確認したので全員これを納得し午後三時頃話し合いが終了した。
6 その後、二カ月余を経た一一月二七日会社は突然債権者両名のみを解雇した。
会社は債権者伊藤が組合副委員長に選任された昭和四九年一二月以降谷内常務が業務命令的にキャバレー、クラブ、料理屋に同行させるなど支配介入行為をつづけ、伊藤がこれに批判的な態度をとりつづけてきたこと、債権者橋本は、一一月六日会社から伊藤に対し退社を説得するよう求められたが、一一月一九日これを拒否したという事実が存在する。
四、解雇無効事由 その一 解雇理由不存在
1 会社のいう解雇理由のうち、「九月一四日谷内常務から債権者伊藤に対し、賃金問題は組合を通せと電話でのべたのにこれを他の航送係従業員に伝えず、誤った認識を与え、よって職場放棄にいたる大きな原因をつくった」というのは、前記のとおり債権者伊藤がその場で全員に伝えているから事実無根であるうえ、谷内の右見解は九月一一日の労使懇談会で示されていて全員が熟知していることであるから、これが伝えられなかったことと職場放棄との間に論理上因果関係は認められない。
2 また、「両名が教唆せん動した」というのも、本件遠軽線廃止問題が航送係従業員全員にとって大幅減収という看過できない結果をもたらすため、全員がその解決に強い関心をもっていたこと前記のとおりであって債権者両名がことさら教唆せん動したというのは事実に反する。
副委員長の伊藤、代議員の橋本が支部組合員の世話役をするのは正当な組合活動であり、組合規約二六条は「本部支部の業務にあたる」ことが代議員の責務であることを規定しているのであり、かくて解雇事由とされた事実は、いずれも全く存在しないものである。
五、解雇の無効事由 その二 不当労働行為
1 会社は航送係従業員による右の九月一六日の行為が、いわゆる山猫ストとして違法であるという。
しかし、会社と組合との労働協約四四条の二には、「一カ所に固有の問題については当該組合機関―本件では航送係支部―と当該会社機関とが協議して解決を図るものとする」旨の現地協議条項が存在し、この協議をつくすことが会社としても、協約上の義務であるから、本件の場合会社による協議拒否は労働協約違反であり、右協議の日時の指定を要求して、回答あるまで不就労の行動をとったのは、正当な組合活動にほかならない。
したがって、正当な組合活動を「教唆せん動した」としてなした懲戒解雇は、それ自体労働組合法七条一号に該当し違法である。
2 ちなみに本件解雇の責任者である会社の谷内常務は、昭和五二年六月一日北海道地労委の審問―証人尋問―において、本件解雇言渡しの当時はもとより右証人尋問の時まで、労働協約の右条項の存在を失念していた旨を認めた。
3 債権者伊藤は昭和四七年組合執行委員、四九年一二月副委員長、同橋本は同五一年一月航送係支部選出の代議員、同年一〇月伊藤の後任として執行委員に選ばれているが、組合幹部に対する会社の日常的な酒食提供と、これによる組合支配の慣行に批判的であり、労働条件改善に熱心に取り組む組合活動を行ってきた。
会社が航送係従業員のなかから、特に債権者両名のみを選びだして懲戒解雇したのは、日頃両名の「組合活動」を嫌悪し、口実をもうけて企業外への放逐をねらったものにほかならず、この点でも右同条の不当労働行為に該当し違法である。
六、解雇無効事由 その三 解雇権の濫用
1 会社のいう懲戒解雇理由の根拠は労働協約三七条三項、就業規則五九条二項三号の「無断で職場をはなれ、職場放棄にみなされたとき」との条項にもとづく。
しかしながら、会社自ら前記のとおり労働協約四四条の二の「現地協議」条項を無視し、協議の日時の設定すらかたくなに拒絶したこと、また実際上も一人月額金一四、〇〇〇円ないし二一、〇〇〇円の減収をもたらす施策を断行するには、それなりの補填策を準備して従業員の動揺を防ぐのが経営者としての常識というべきであるのに、かかる配慮をしなかった会社の態度が前記九月一六日の結果を招来した主要な要因にほかならない。それにも拘らず、自らの非を棚にあげ、すべての責任を債権者両名に転嫁した本件懲戒解雇は、片手落ちも甚しく解雇権濫用であり、民法一条の三にもとづき無効である。
七、債権者らは本件解雇に至るまで毎月二八日に前月分の賃金を支給されており、右金額は債権者伊藤が金一九万九、六〇〇円、同橋本が金一九万三、三六〇円であった。
八、保全の必要性
1 債権者らは昭和五二年二月二二日北海道地方労働委員会に対し不当労働行為救済申立をなし、同地労委は、三回にわたる審問期日をひらいて債権者申請の証人及び会社申請の証人を取調べた末、昭和五二年一一月三〇日債権者の申立を全面的に認め、会社に対し原職復帰、復帰までの賃金等の支払い等を命じたが、会社は右救済命令に全くしたがわない。
2 債権者らは賃金を唯一の収入とする労働者であり、本件解雇の後はバックペイが支払われた時に返済する約束で失業保険を受給し、受給期間経過後は不定期のアルバイトによる収入に頼ってきたもので、解雇無効確認の本案訴訟を準備中であるが、速かに賃金の支払を受けなければ生活を維持できず、かくては解雇の撤回請求をつづけていくことすら困難に陥り、回復できない損害をこうむる危険がある。よって本申請におよんだ。
別紙(二) 答弁書
第一、申請の趣旨に対する答弁
債権者らの申請を却下する。
第二、申請の理由に対する答弁
一、一項は認める。
二、二項は認める。
三、三項1は認める。
四、三項2のうち前段は認めるが、後段は否認する。
五、三項3のうち会社の常務が昭和五一年九月一一日の職場懇談会に出席したことは認めるが、その余は否認する。
六、三項4のうち九月一四日午後六時頃、伊藤が谷内常務に電話したことは認めるが、その余は否認する。
七、三項5は否認する。
八、三項6のうち一一月二七日会社は債権者ら両名を解雇したことは認めるが、その余は否認する。
九、四項1、2は争う。
一〇、五項1、2は争う。
十一、五項3のうち伊藤、橋本の組合役員の経歴の事実は認めるが、その余は争う。
十二、六項1のうち前段は認めるが、後段は否認する。
但し、会社の懲戒解雇理由は労働協約三七条三項、就業規則五九条二項三号の他に一〇号の「正当な理由も無く会社又は上長の命に従わないとき」も存在する。
十三、八項1は認める。
十四、八項2は争う。
第三 債務者の主張
一、会社のなした懲戒解雇の根拠
債権者両名は債務者航送係所属従業員に教唆扇動して昭和五一年九月一六日午前八時から午後四時迄無断で職場放棄し(労働協約書第三七条三号、就業規則第五九条二項三号)、又正当の理由無く会社及び上長の業務命令に違反して就業しなかった(就業規則二項一〇号)。
従って、債務者の債権者らに対する本件解雇は有効であることは明白である。
二、債権者らは遠軽線廃止問題につき会社に誠意がないので会社に協議に応じるよう求める為本件職場放棄に及んだ旨主張するが、組合活動は就業時間外に行うべきものであり(労働協約一三条)、たとえ正当な組合活動であっても会社の承諾無しに就業時間内になされた場合懲戒処分の対象になることは当然のことである。
遠軽線は旭川経由の運航に変更されただけであり、会社としては廃止されてはいない。
即ち、従来は小樽から遠軽迄航送係従業員が直行して運送に従事していたが、小樽から旭川迄が航送従業員、旭川から遠軽迄が旭川営業所の従業員と分担して運送に従事するというように遠軽線の運行内容が変更になっただけである。
三、本件の遠軽線変更問題に伴う減収問題は労働協約四四条の二の「一ケ所に固有の問題」とはいえない。
1 即ち、労働協約第四四条の二(現地協議)は日常の個人的不満又は軽微な事項と並列的に「一箇所に固有の問題」を挙げているが、これは当該組合機関と当該会社機関とが組合の上部組織ないしは会社の上部の承認なしに決定出来る権限を有する軽微な事項を意味するのである。
航送係という組合機関に対置するべき当該会社機関は小樽現地駐在の工藤輸送課長であるが、工藤輸送課長にはこのような賃金及び重要な労働条件を決定する権限は無く、この点からしても遠軽線廃止問題は現地協議条項に該当しないことは明白である。
2 輸送課航送係集配手当は従来から他の賃金ないしは労働条件と同様に会社と組合との間で協定されている(乙八の一号証)。
従って集配手当の問題については会社と組合とが協議決定すべきものであり、現地協議条項には該当しない。
3 遠軽線変更問題については実施三カ月以上前に会社から組合の神副委員長に話を伝えてある。
従って、組合及び航送係従業員は実施迄の三カ月間の問いつにても労使協議会ないしは団体交渉の申出をして会社と話合いをする機会は存在していたのである。
四、会社は遠軽線変更にあたって事前に補填処置を採る何らの義務は無い。
会社は組合からの労働条件に関する協議の申入に対して労使協議会ないしは団体交渉に於いて話し合うべき義務を負担しているだけであり、会社の業務上の必要性から遠軽線を廃止し、何らの補填処置を採らなくても何ら法的に非難さるべきことは無い。
尚、債権者らは遠軽線変更により約二万円程度の大幅減収になる旨主張しているが、事実は他の仕事が出来るようになったプラスの面もあってせいぜい従業員一人あたり金二、〇〇〇円程度の減収にしかならないのである。
五、会社は遠軽線変更問題につき、組合と十分協議を尽くしている。
即ち、前記の通り会社は三カ月以上前に神副委員長を通じて伊藤、橋本等航送係従業員に話を伝えてあるほか昭和五一年九月一一日小樽営業所二階会議室に於いて会社側から谷内常務、清水区域事業部長、工藤運輸課長らが出席して神、伊藤両副委員長同席の上組合及び航送係従業員に対して遠軽線変更理由について説明し、協議話合の機会を持っている。
六、伊藤、橋本の両名自身も遠軽線変更問題は組合としてとりあげるべき問題で労働協約第四四条の二の現地協議条項に該当しないと考えたので昭和五一年八月一八日札幌市内ステーションホテルで開催された組合三役会議及び九月四日札幌市内八重州ホテルでの組合執行委員会に組合全体の問題として遠軽線変更問題をとりあげるよう提案したが、いずれも組合の多数意見となり得なかったが、それは組合内部の問題でそのことの故に会社の許可無しに職場放棄をする正当の理由となり得ないことは当然である。
七、会社と組合との間の労働協約第四六条に平和条項義務が締結され、「会社及び組合は双方両者間に紛争が起きた場合はこれを平和的に解決するため、あらゆる努力を試みた上でなければ全体としても部分としても争議行為を行なわない」と規定されている。
本件については伊藤、橋本の両名は会社と十分な折衝交渉の努力を尽すことなく、短絡的且つ一方的に労働協約就業規則に違反する職場放棄に及んだものであり、就業時間内に業務命令に従って就業することは労働者の基本的な義務であるから、これを故意に破るよう他の従業員を教唆扇動した伊藤、橋本の両名が解雇さるべきことは当然である。
即ち、会社は九月一一日に常務以下が出席した職場懇談会を開催し、九月一三日に提出された要望書に対しても九月一四日清水部長を通じて要望書1項については組合を通せ、2、3項については具体的事項を提出してくれば職場懇談会を開催して協議する旨回答している。
要望書1項については従来から会社と組合との間で労使協議会ないしは団体交渉をして解決しているのであるから、会社の組合を通せという回答は当然のことである。
2項、3項についても現行運行体系の改善、その他とあるのみであまりにも不明確且つ漠然としているので具体的事項を提出せよという会社の回答は当然というべきである。
ところが、伊藤、橋本の教唆扇動により航送係従業員は翌九月一六日突如として違法な就業時間内の職場放棄に突入したのである。
これは前記の通り平和条項違反でもある。
八、会社と組合とは賃金手当の問題については必ず会社と組合とが労使協議会ないしは団体交渉を通じて問題解決にあたっており、各個の従業員と現地会社機関とが決定したという事実は一切無い。
1 昭和四八年九月、会社は航送係従業員の基本給を平均五、〇〇〇円引上げたが、これは会社が全営業所の従業員間の賃金格差を是正するため自主的にとった措置で、航送係従業員の要求に応じて為したものではない。
2 会社は昭和四七年八月から当初三時間分、後には八時間分の日曜出勤手当を支給するようにしたが、これは「あかしあ丸」等のフェリーの小樽港への入港が日曜日になったことに伴い、日曜日の業務量が増大したのでそれに伴う日曜出勤手当を支給することにしたのであって、決して航送係従業員の現地協議条項適用の要求に対して為されたものではない。
3 会社と組合とは昭和四九年の春闘において航送従業員のトレーラー手当を増額したが、これは航送係従業員のみの所謂現地協議条項適用ではなく、会社は社長、組合は当時の二階堂委員長、亀山書記長間で取り決められたのである。
九、会社の谷内常務は伊藤を飲食に誘ったが、それは共に小樽在住の人間という個人的立場から為したもので、それをもって支配介入というのは全く事実に反する。伊藤自身それを承知しているからこそ谷内常務の誘いを断ったことは全く無く、伊藤の方から再三谷内常務を麻雀に誘っているのである。
一〇、伊藤、橋本の両名はこもごも「俺達の言うことを聞かないと村八分にするぞ」「反対するような者は航送課にいてもらっては困る」「多数決には従ってもらう」「一人ずつ気構えを言ってくれ」「職場放棄をやるのは俺達の強制ではなくて一人一人が自分の考えで職場放棄に入るというふうにしなければまずいから形だけでも全員発言してくれ」等他の従業員をして強圧的に教唆扇動して九月一六日の違法な就業時間内職場放棄に追い込んだのである。
従って、伊藤、橋本がその責任をとって懲戒解雇さるべきは当然であり、伊藤、橋本に教唆扇動されてやむなく職場放棄した他の従業員も全員会社から相応の処分を受けている。
十一、前記の通り債務者の債権者らに対する本件懲戒解雇が有効であることは明白であります。
債権者らの本件地位保全仮処分申請は断行の仮処分であり、労働事件という事案の特殊性からして事実の認定の上で証人尋問をして正確な認定をすべき事案であり、口頭弁論手続、証拠調手続等精密な訴訟手続をすべき事件であると考えます。
従って、本件は単なる形式的な手続だけで決定をなすべき事件ではないと考えるものです。
全国の各裁判所においてもこの種の事件においては口頭弁論手続を経て決定をなしているのが通例です。
本件においては地労委の決定があるわけですが、債務者が前記したように右決定には重大な事実の誤認が各所に存在するのであり、三権分立の建前からいっても地労委という行政委員会の判断を裁判所がそのまま正当であるとして精密な審理をする必要が無いと考えるならば、それは司法権の公正さを欠如していると考えますので是非とも口頭弁論において精密な審理をされるよう心から要望するものです。
以上