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札幌地方裁判所 昭和56年(わ)849号 判決 1981年11月26日

主文

被告人鈴木勝三を懲役四年六月及び罰金四〇万円に、被告人鈴木明子を懲役三年六月に処する。

被告人両名に対し、未決勾留日数中各九〇日を、それぞれその懲役刑に算入する。

被告人鈴木勝三においてその罰金を完納することができないときは、金二、五〇〇円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人両名は、共謀の上、

第一  昭和五五年六月二四日頃、札幌市中央区大通西三丁目一〇番地所在第一勧業銀行札幌支店において、岡崎重臣及び宗像實乘らが営利の目的で大韓民国から覚せい剤を輸入しようとしていることの情を知りながら、同人らが輸入しようとしている覚せい剤の買付資金の一部として現金六〇万円を同人らに交付して提供し、もって、同人らが営利の目的で、同月二七日、自称韓国人イル・スン・ジャ(IL-SUNG-JA)をして、大韓民国釜山所在コーリアエアカーゴサービスリミテッド(KOREA AIR-CARGO SERVICE LTD.)に対し、覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンの結晶性粉末約四五七グラムを隠匿した布団一枚を国際航空貨物便で札幌市西区《番地省略》所在○○ビル二階メナード化粧品△△△△店店主金本良植宛てに運送するよう委託させ、同月二八日、同国釜山空港から日本航空九五八便航空機に積載させて、同日午後六時三五分頃、千葉県成田市三里塚字御料牧場一の一所在新東京国際空港に到着させ、その頃これを本邦内に持ち込み、覚せい剤を輸入するに際し、右犯行を容易ならしめてこれを幇助し

第二  法定の除外事由がないのに、営利の目的で、同年七月四日、札幌市西区《番地省略》所在□□□□×××号室の当時の被告人両名の居室において、覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンの結晶性粉末二〇〇グラムを所持し

たものである。

(証拠の標目)《省略》

(証拠説明)

弁護人は、判示第二の営利目的による覚せい剤約二〇〇グラムの所持の事実につき、右覚せい剤のうち、約一〇〇グラムについては、予め、仕入値で売却することが決っていたのであるから、被告人両名に利益を得る意図はなく、営利目的は存しなかった旨主張するので判断する。前掲証拠によれば、被告人両名は、宗像から覚せい剤の輸入に必要な資金として六〇万円を用立てて欲しい旨依頼され、その際、同人から輸入に係る覚せい剤のうち三〇〇グラムをグラム当り六、〇〇〇円で譲り渡してもよい旨の申入れがなされたので、右依頼を引き受けたこと、そこで被告人鈴木勝三は、佐藤某から右資金六〇万円を借り受けることになったが、その条件として同人に覚せい剤一〇〇グラムを仕入値と同額のグラム当り六、〇〇〇円で交付することとなったため、右一〇〇グラムを除く残余の覚せい剤について、これをグラム当り一万五、〇〇〇円位で密売し、利益を得ようと意図していたこと、昭和五五年七月四日、判示第二記載の□□□□×××号室に本件輸入に係る覚せい剤約四五七グラムが持ち込まれ、宗像及び被告人鈴木勝三らにおいてこれを小分けした後、同被告人がその中から覚せい剤約一〇グラム入りのパケ二〇袋(合計約二〇〇グラム)を宗像より受取り、そしてパケ一〇袋(合計約一〇〇グラム)ずつを二つの茶封筒に分けて入れ、これを茶ダンスの引き出し内に一括収納していたこと、同被告人は、この段階では未だいずれの覚せい剤を佐藤に交付するか決めておらず、これが特定したのは、その後同被告人が札幌市内のパチンコ店で佐藤と会って同人に対し現実に覚せい剤約一〇〇グラムを手交した時点であったこと、他方、被告人鈴木明子は、被告人鈴木勝三から佐藤との間の前記取決めを聞かされていなかったことから、入手した覚せい剤約二〇〇グラムについて、これを一万三、〇〇〇円位で密売できると考えていたが、その具体的処分については、これが営利、非営利を問わずその一切を被告人鈴木勝三に任せていたことが認められる。そうだとすると、被告人両名について、佐藤に交付すべき約一〇〇グラムの覚せい剤につき、利益を獲得する意図がなく営利の目的はなかったものと一応言わざるを得ないが、被告人両名が共謀の上、□□□□×××号室において本件覚せい剤約二〇〇グラムを所持した時点では、具体的にそのうちのどの約一〇〇グラムの覚せい剤が佐藤に交付されるものか未だ特定されていない状況にあったのであり、このように、営利目的を帯有する覚せい剤とその目的のない覚せい剤とが未だ分別不可能(営利目的を帯有する覚せい剤とその目的のない覚せい剤のそれぞれの量を観念的に数字の上で分別することは可能であっても、個々の覚せい剤につき、それがいずれの意味の覚せい剤であるかを確定することは不可能)の状態のまま所持されている場合には、その所持に係る覚せい剤全体が不可分一体のものとして、一個の営利目的所持罪を構成すると解すべきであるから、本件においては、結局約二〇〇グラムの覚せい剤全体について営利の目的をもった所持罪が成立すると言うべきである。従って、弁護人の前記主張はこれを採用することができない。

(累犯前科)

一  被告人鈴木勝三は、(1)昭和五一年三月三日札幌地方裁判所で覚せい剤取締法違反、銃砲刀剣類所持等取締法違反の各罪により懲役一年(四年間執行猶予・付保護観察、昭和五二年七月一二日右猶予取消決定確定)に処せられ、昭和五三年一二月一八日右刑の執行を受け終わり、(2)昭和五二年六月一七日釧路地方裁判所で覚せい剤取締法違反の罪により懲役八月に処せられ、昭和五三年一月一七日右刑の執行を受け終わったものであって、右事実は右裁判の判決書謄本、調書判決謄本及び検察事務官作成の同被告人に関する前科調書によってこれを認める。

二  被告人鈴木明子は、(1)昭和四九年一二月二七日札幌地方裁判所で覚せい剤取締法違反の罪により懲役四月(五年間執行猶予・付保護観察、昭和五二年七月五日右猶予取消決定確定)に処せられ、昭和五三年二月五日右刑の執行を受け終わり、(2)昭和五二年六月八日札幌地方裁判所で覚せい剤取締法違反の罪により懲役五月に処せられ、同年一一月七日右刑の執行を受け終わり、(3)昭和五三年三月二二日札幌地方裁判所で覚せい剤取締法違反の罪により懲役六月に処せられ、昭和五四年四月二〇日右刑の執行を受け終わり、(4)右(1)、(2)の刑の執行を受け終わった後に犯した覚せい剤取締法違反の罪により昭和五三年三月二二日札幌地方裁判所で懲役八月に処せられ、同年一一月五日右刑の執行を受け終わったものであって、右事実は右裁判の判決書謄本三通及び検察事務官作成の同被告人に関する前科調書によってこれを認める。

(法令の適用)

被告人両名の判示第一の所為はいずれも刑法六〇条、六二条一項、覚せい剤取締法四一条二項、一項一号、一三条に、判示第二の所為はいずれも刑法六〇条、覚せい剤取締法四一条の二第二項、一項一号、一四条一項にそれぞれ該当するところ、判示第一の罪については所定刑中いずれも有期懲役刑を選択してその刑のみで処断することとし、被告人鈴木勝三の判示第二の罪については情状により懲役と罰金とを併科し、被告人鈴木明子の判示第二の罪については懲役刑のみをもって処断することとし、被告人鈴木勝三の以上の各罪は前記前科との関係で再犯であるからいずれも刑法五六条一項、五七条により同法一四条の制限内で、被告人鈴木明子の以上の各罪は前記二の(1)、(2)、(4)の前科との関係で三犯であり、前記二の(3)の前科との関係で再犯であるから結局は、いずれも同法五九条、五六条一項、五七条により同法一四条の制限内で、それぞれ累犯の加重をし、被告人両名の判示第一の罪は従犯であるから同法六三条、六八条三号によりいずれも法律上の減軽をし、被告人両名の以上の各罪はそれぞれ同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条によりいずれも重い判示第二の罪の懲役刑に同法一四条の制限内で法定の加重をし(但し、短期は判示第一の罪の刑のそれによる)、その刑期及び所定金額の範囲内で被告人鈴木勝三を懲役四年六月及び罰金四〇万円に、その刑期の範囲内で被告人鈴木明子を懲役三年六月に処し、被告人両名に対し、同法二一条を適用して未決勾留日数中各九〇日をそれぞれその懲役刑に算入し、被告人鈴木勝三においてその罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二、五〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項但書を適用してこれを被告人両名に負担させないこととする。

(量刑の事情)

本件は、宗像らが営利の目的で大韓民国から大量の覚せい剤を輸入する際、被告人両名において右輸入に係る覚せい剤の一部を同人らから安価に譲り受けることを条件に輸入資金の一部として六〇万円を同人らに提供して右輸入を容易にし(判示第一の事実)、そして右輸入に係る覚せい剤のうち約二〇〇グラムを入手してこれを営利目的で所持した(判示第二の事実)という事犯であるところ、本件の覚せい剤輸入については、被告人両名の資金提供がなければ、その実現はかなり困難であったものと認められ、被告人両名が本件の覚せい剤輸入について果した役割を軽視することはできないこと、また、本件所持に係る覚せい剤は多量であり、その殆どを被告人鈴木勝三において密売し、巷間に拡散させたこと、被告人両名は右密売により利益を得て所期の目的を遂げたこと、また輸入された残余の覚せい剤もその殆どが宗像により密売され社会に害悪を与えていること、被告人両名にはいずれも実刑に処せられた同種前科があり、殊に被告人鈴木明子は同種前科が六犯に及んでいること等に鑑みると、本件の犯情は誠に悪質であり、被告人両名の刑事責任は重大であると言わざるを得ない。今猶覚せい剤事犯が跡を絶たず、国民の保健衛生及び公共の安全上極めて憂慮すべき状況を示していることを併せ考えると、本件のような営利目的による多量の覚せい剤輸入幇助事犯及び所持事犯に対しては厳しい態度で対処する必要がある。ただ、本件において、被告人両名は、自ら積極的に輸入幇助に及んだわけではなく、宗像から輸入資金の援助を要請されたのを契機に、同人の当時置かれていた境遇への同情も相俟って本件に加功するに至ったものと認められること、本件所持に係る覚せい剤のうち約一〇〇グラムについては所持の時点で既に前記輸入資金六〇万円を貸与してくれた佐藤に仕入値で売却することが決っており、実際には、これにより利益を上げることができないことが明らかであったこと、残余の覚せい剤を密売して得た利益は約二五万円程度であったと認められること、被告人両名は、本件で身柄を拘束された後婚姻し、当公判廷において、二人で人生をやり直す旨誓って反省改悟の態度を示していること、被告人鈴木明子は前記輸入資金六〇万円の調達及び本件所持に係る覚せい剤の密売には直接関与していないことなど被告人両名のために斟酌すべき事情もあるので、これらを総合考慮し、それぞれ主文の刑を量定した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 生島三則 裁判官 佐藤學 奥田正昭)

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