札幌地方裁判所 昭和57年(わ)667号 判決 1982年11月17日
裁判所書記官
磯野孝司
本店所在地
北海道苫小牧市大町一丁目四番一五号
法人の名称
有限会社 共楽
代表者の住居
北海道苫小牧市大町一丁目四番一五号
代表者の氏名
金沢秀雄こと金秀雄
本籍
北海道留萌市錦町一丁目一〇〇番地の一一
住居
北海道留萌市幸町三丁目三一番地
会社役員
永谷士
昭和一八年四月一八日
右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官竹田勝紀、弁護人林信一各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告有限会社共楽を罰金七〇〇万円に、
被告人永谷士を懲役四月に処する。
被告人永谷士に対し、この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告有限会社共楽(資本金三〇〇万円、以下「被告会社」という。)は、北海道苫小牧市大町一丁目四番一五号に本店を置き、北海道留萌市内に営業所を有するパチンコ等遊技場経営等を目的としていたもの、被告人永谷士は、被告会社の取締役支配人として同社の業務全般を統括しているものであるところ、被告人永谷は、被告会社の右業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部除外及び架空仕入の計上などの方法により所得を秘匿したうえ、
第一 昭和五三年七月一日から昭和五四年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の総所得金額が三、二六七万八、七七九円であり、これに対する法人税額が一、二二三万一、二〇〇円であるにもかかわらず、昭和五四年八月三一日、情を知らない佐藤英男をして、北海道苫小牧市旭町三丁目四番一七号所在の苫小牧税務署において、同税務署長に対し、その所得金額は一二五万五、一九七円であり、これに対する法人税額は三五万一、四〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出させ、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額とその申告税額との差額一、一八七万九、〇〇〇円の法人税を免れ、
第二 昭和五四年七月一日から昭和五五年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の総所得金額が、二、四七八万〇、七七一円であり、これに対する法人税額が九〇七万二、〇〇〇円であるにもかかわらず、昭和五五年九月一日、情を知らない右佐藤をして、前記苫小牧税務署において、同税務署長に対し、その所得金額は一一九万〇、一八九円であり、これに対する法人税額は三三万三、二〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出させ、そのまま法廷納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額とその申告税額の差額八七三万八、八〇〇円の法人税を免れ、
第三 昭和五五年七月一日から昭和五六年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の総所得金額が、二、二一三万三、一九〇円であり、これに対する法人税額が八三三万五、八〇〇円であるにもかかわらず、昭和五六年八月三一日、情を知らない右佐藤をして、前記苫小牧税務署において、同税務署長に対し、その所得金額は一三二万七、八四三円であり、これに対する法人税額は三九万八、一〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出させ、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額とその申告税額との差額七九三万七、七〇〇円の法人税を免れ、
たものである。
(証拠の標目)
判示全事実について
一 被告人永谷の当公判廷における供述
一 被告会社代表者金秀雄の当公判廷における供述
一 被告人永谷の検察官に対する供述調書四通
一 被告人永谷の大蔵事務官に対する質問てん末書九通及び同被告人作成の上申書
一 金秀雄の検察官に対する供述調書
一 金秀雄の大蔵事務官に対する質問てん末書五通
一 田村茂樹、樋口ハナ、佐藤英男の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 大蔵事務官作成の調査事績報告書三通
一 登記簿謄本二通
一 法人税修正確定申告書
一 検察官竹田勝紀作成の捜査報告書
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書
一 大蔵事務官寺井四郎作成の売上高調査書
一 大蔵事務官作成の商品棚卸高調査書
一 大蔵事務官作成の当期商品仕入高調査書
一 大蔵事務官作成の役員報酬調査書
一 大蔵事務官作成の厚生費調査書
一 大蔵事務官作成の消耗品費調査書
一 大蔵事務官作成の地代家賃調査書
一 大蔵事務官作成の旅費、交通費調査書
一 大蔵事務官作成の広告宣伝費調査書
一 大蔵事務官作成の租税公課調査書
一 大蔵事務官作成の受取利息調査書
一 大蔵事務官作成の雑収入調査書
一 大蔵事務官作成の未納事業税調査書
一 大蔵事務官作成の青色申告の承認の取消通知書
一 澤田善光作成の証明書
一 高橋努作成の証明書
一 押収してある法人税決議書一綴(昭和五七年押第二五二号の1)
判示第一の事実について
一 大蔵事務官作成の欠損金調査書
判示第三の事実について
一 大蔵事務官作成の給料手当調査書
一 大蔵事務官作成の通信費調査書
一 大蔵事務官作成の水道光熱調査書
一 大蔵事務官作成の雑費調査書
一 林信一作成の上申書
(法令の適用)
被告人らの判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項(法人の処罰につき一六四条一項、なお判示第一及び第二の事実については昭和五六年法律五四号による改正前のもの)に該当するところ、被告会社につき、これらの罪は刑法四五条前段の併合罪なので同法四八条二項により所定罰金額を合算した金額の範囲内で被告会社を罰金七〇〇万円に処し、被告人永谷につき、各処定刑中いずれも懲役刑を選択し、それらの罪は同法四五条前段の併合罪なので同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役四月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は被告会社の取締役支配人である被告人永谷が、同社の前経営者である金尚允の女性問題及び税金問題に関する各訴訟の解決並びに同社の経営の安定及び事業拡大を意図し、同社の売上げの除外、経費の水増しなどの方法により同社の所得額を偽って申告し、脱税したという事案であるところ、その期間は約三年の長期にわたるうえ、ほ脱税額合計は約二、八五五万円余りと多額で、ほ脱税率は通年して九六・三%と高率であること、その態様も、内容虚偽の公表帳簿の作成符丁による裏帳簿の作成、仮名、無記名の定期預金の利用など犯行態様が巧妙であること、また、いうまでもなく国民が負担する納税義務の公平な履行は民主国家存立の財政的基盤をなすものであるのに、本件犯行は右税負担の公平を害し、国民の納税意欲を失わせるに至り、ひいては申告納税制度の基礎さえも危うくしかねないものであって、社会的にも強い非難に値するものといわなければならず、被告人らの刑事責任は重大であるが、本件犯行の動機には酌むべき事情が認められるうえ、ほ脱にかかる本税はもちろん延滞税、重加算税も既に納付済みであること、再犯防止のために被告会社の監査役及び顧問税理士の指導監督を受けうる体制を整えていること、被告人永谷はこれまで前科前歴はないうえ、本件発覚当初から犯行を全面的に自白し捜査に積極的に協力しており、当公判廷においても改悛の情が顕著と認められることなど、被告人らに有利な事情もあるのでこれらを総合考慮し、主文のとおりの量刑をし、被告人永谷についてはその刑の執行を猶予することとした。(求刑被告会社につき罰金八〇〇万円、被告人永谷につき懲役四月)。
よって主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥田保 裁判官 岡原剛 裁判官 樋口裕晃)