札幌地方裁判所 昭和62年(行ウ)4号 判決 1995年11月13日
原告
北海道教育委員会
右代表者委員長
櫻井護夫
右訴訟代理人弁護士
山根喬
右同
佐々木泉顕
右同
市川隆之
右指定代理人
成田直彦
右同
横山健彦
右同
山田寿雄
右同
今村欣子
被告
北海道地方労働委員会
右代表者会長
山畠正男
右指定代理人
中島一郎
右同
熊本信夫
右同
伊藤隆一
右同
出野広
右同
旅河雅一
右同
西山光輝
右同
真田徳美
参加人
林博子
右同
高橋その
右参加人ら訴訟代理人弁護士
後藤徹
右同
横路民雄
右同
川村俊紀
主文
一 被告が、昭和五三年道委不第二九号事件につき、昭和六二年三月二七日付けでした別紙命令のうち、主文第一項を取り消す。
二 訴訟費用は被告の負担とし、参加によって生じた訴訟費用は参加人らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
主文同旨
第二事案の概要
本件は、原告が、参加人らが北海道教職員組合(以下「北教組」という。)の実施したストライキに参加したことを理由として、参加人らをいずれも懲戒(戒告)処分に付したことから、参加人ら及び北教組が、被告に対し、右各懲戒処分は、原告の不当労働行為であると主張して救済の申立てをしたところ、被告が、右申立てにつき、別紙命令記載のとおり、請求にかかる救済の一部を認容する命令を発したため、原告が、被告に対し、右命令には、労働組合法(以下「労組法」という。)七条一号等の解釈を誤った違法があると主張し、右命令のうち、主文第一項の取消しを求めている事案である。
一 争いのない事実及び証拠により明らかな事実
1 参加人ら及び北教組
(一) 参加人林博子
参加人林は、昭和四三年三月、北海道根室高等学校を卒業し、昭和四五年九月、根室市の臨時職員となって根室市立根室西高等学校に勤務し、昭和四七年四月一日、同校の事務生(いわゆる単純労務職員)となり、昭和四九年四月一日、同校が根室市から北海道へ移管されたことに伴って、道の職員となったが、その後昭和六一年三月三一日、同校を退職した。
なお、参加人林は、昭和四九年四月一日から、北教組の組合員として登録され、本件当時(すなわち、後記のストライキ当時。以下同じ。)、北教組根室支部高校部西高分会に所属していた。
(二) 参加人高橋その
参加人高橋は、昭和四七年三月、日本女子体育短期大学を卒業し、昭和四七年五月一日、北海道函館盲学校に寮母として採用されたが、寮母の定数過員を解消する措置により、昭和五一年四月一日、同校の介護員(いわゆる単純労務職員)となり、昭和五三年四月一日、再び同校の寮母に、さらに昭和六三年四月以降は、北海道函館聾学校の寮母となって、現在に至っている。
なお、参加人高橋は、昭和四七年五月一日から、北教組の組合員として登録され、本件当時、北教組函館支部函館盲学校分会に所属していた。
(三) 北教組
北教組は、北海道内の公立学校の教職員等によって組織された団体であり、上部団体である日本教職員組合(以下「日教組」という。)に加盟している。本件当時、約三万名の組合員を有していた。
2 本件訴えの提起に至る経緯
(一) 懲戒処分
原告は、参加人らが北教組の実施した昭和五二年二月一七日及び同年四月一五日の各ストライキ(以下「本件各ストライキ」という。)に参加したことは、単純労務職員の争議行為を禁止した地方公営企業労働関係法(以下「地公労法」という。)附則四項(平成三年法律第二四号による改正前のもの、現五項、以下同じ。)、同法一一条一項に違反するとして、参加人らに対し、地方公務員法(以下「地公法」という。)二九条一項に基づき、昭和五二年九月一二日付けで、いずれも懲戒処分として戒告の処分(以下「本件各処分」という。)をした。
参加人らは、本件各処分の結果、その後の普通昇給期において、その昇給措置が三か月延伸された。
(二) 救済の申立て
参加人ら及び北教組は、昭和五三年九月三日、被告に対し、原告が参加人らを本件各処分に付し、三か月の昇給延伸措置を行ったことは、参加人らに対する不利益取扱いであり、かつ、北教組の組合活動に対する支配介入であるから、労組法七条一号及び三号に該当し、不当労働行為であると主張して、本件各処分の取消し、昇給延伸措置の撤回、それに伴う実損の回復、支配介入行為の禁止を求めて、救済の申立て(昭和五三年道委不第二九号事件)をした。
参加人ら及び北教組が求めた救済の内容は、次のとおりである。
(1) 被申立人(原告)は、申立人(参加人ら)に対し、昭和五二年九月一二日付けで行った戒告処分を取り消し、処分の日以後、前記処分がなかったものとして取り扱わなければならない。
(2) 被申立人は、申立人(北教組)の正当な組合活動に対し、戒告処分をするなどして、組合の運営に支配介入行為をしてはならない。
(三) 救済命令
被告は、右申立てにつき、昭和六二年三月二七日付けで、別紙命令記載のとおり、請求にかかる救済の一部を認容する命令(以下「本件命令」という。)を発し、同年四月八日、その命令書の写しを原告に交付した。
本件命令の理由の要旨は、次のとおりである。
(1) 本件各ストライキは、次のとおり、労組法七条一号の「労働組合の行為」に該当する。
単純労務職員は、一般職に属する地方公務員であるが、その労働関係その他身分取扱いについては、特別の法律が制定施行されるまでの間は、地公労法(一七条を除く。)及び地方公営企業法(以下「地公企法」という。)三七条から三九条まで(一部を読み替える。)の規定が準用され、民間企業における労働者と同じように、労組法及び労働関係調整法(以下「労調法」という。)等の規定がほぼ全面的に適用されるため、労働組合を結成して、賃金、労働時間等の労働条件に関し、団体交渉をし、労働協約を締結することによって、労使間の諸問題を解決するとされているが、単純労務職員が、独自の労働組合を結成して、労使間の諸問題を解決することは、事実上、困難であることから、単純労務職員は、職員団体に加入し、いわゆる混合組合を形成することが一般的であり、参加人らも、教職員等が組織する北教組に加入し、いわゆる混合組合を形成していたところ、いわゆる混合組合は、その構成員である単純労務職員の労働条件の維持改善を図ることを目的とする限りにおいて、労働組合としての性格を有するのであり、本件各ストライキ、昇給延伸措置の復元等の単純労務職員の労働条件の改善にかかわる点で、労組法七条一号の「労働組合の行為」に該当する。
(2) 参加人らの行為は、次のとおり、労組法七条一号の「正当な行為」に該当する。
ア 単純労務職員については、地公労法一一条一項によって、争議行為が禁止されているところ、人事委員会の給与勧告制度がなく、給与の改善が、必ずしも法的に保障されているとはいえないこと、また、単純労務職員については、労働条件の改善が、団体交渉をし、労働協約を締結することによって図られるべく定められているところ、昇給延伸措置につき、原告が、北教組との間で同意を得ることができないまま、参加人らを含む単純労務職員に対し、一方的にこれを実施したことなどを考慮すると、参加人らが、昇給延伸措置の復元、労働条件の改善等を要求して、本件各ストライキに参加したことには、やむを得ない理由があった。
イ 参加人らの職務の内容は、単純であり、その公共性は、希薄である。
ウⅰ 参加人らは、本件各ストライキの当日、北教組の指令によって、所属する学校の教職員とともに、一時間三五分から二時間一五分までの間、単に職場を離脱したにすぎず、参加人らの行為は、単純な不作為にとどまり、他の職員の職務の執行を積極的に妨害することなどに及んでいない。
ⅱ 北教組函館支部函館盲学校分会は、参加人高橋が本件各ストライキに参加することによって、児童及び生徒の指導に支障が生じないように、寮母及び介護員を関連する場所に配置した。
また、参加人林の職務は、その内容、本件各ストライキの時間帯等からみて、本件各ストライキの当日、支障なく行われた。
エ したがって、参加人らの行為は、形式的には、地公労法一一条一項の保護する法益を侵害するとしても、その程度は極めて軽微であり、本件各ストライキに至る経緯、その目的、参加人らの職務の内容、その公共性の程度、参加人らの行為の態様、その職務の執行に与えた影響、単純労務職員の法的地位等の事情を勘案すると、参加人らの行為は、労組法七条一号の「正当な行為」に該当する。
(3) 本件各処分は、参加人らに対する不利益取扱いであり、かつ、北教組の組合活動に打撃を与え、その運営に対する支配介入であるから、労組法七条一号及び三号に該当し、不当労働行為であるが、右申立てに対する救済としては、諸般の事情を考慮すると、本件命令の主文第一項の限度で足りる。
なお、参加人林は、昭和六一年三月三一日、根室西高等学校を退職し、北教組を脱退したが、右申立てにつき、請求放棄の意思表示がない限り、本件命令の主文に表示された被救済利益を有する。
二 争点
1 原告の主張
(一) 北教組の性格
被告は、次のとおり、北教組が、労組法七条の不当労働行為につき、救済を申し立てる資格を有しないにもかかわらず、これを有するとして、かつ、参加人らの行為が、労組法七条一号の「労働組合の行為」に該当しないにもかかわらず、これに該当するとして、本件命令を発したのであるから、本件命令には、労組法二条、五条一項及び七条一号の解釈を誤った違法がある。
(1) 労組法二条は、「「労働組合」とは、労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。」と規定し、「労働組合」というためには、労働者が主体となって組織することが必要であるとされているところ、地公法五八条一項は、一般職に属する地方公務員に関して、労組法を適用しないと規定する(ただし、地方公営企業職員及び単純労務職員を除く。)ので、一般職に属する地方公務員は、労組法三条の「労働者」に当たらないから、教職員が主体となって組織する北教組は、地公法上の職員団体であって、労組法上の労働組合ではない。
また、仮に、職員団体としての性格と労働組合としての性格を併有する混合組合というものを想定するとしても、その団体は、現行法に従って、地公法上の職員団体であり、かつ、労組法上の労働組合でもあると解釈される場合でなければならないのであり、労働組合としての性格を有するということは、本件に即すると、単純労務職員が主体となって団体を組織し、教職員がこれに加入するというように、職員団体が、実質的にも労働組合としての実体を備えていなければならないが、北教組は、そのような実体を備えておらず、労働組合としての性格を有するということはできない。
(2) 労組法五条一項は、「労働組合は、労働委員会に証拠を提出して第二条及び第二項の規定に適合することを立証しなければ、この法律に規定する手続に参与する資格を有せず、且つ、この法律に規定する救済を与えられない。」と規定しているから、労組法七条の不当労働行為につき、救済を申し立てる資格を有するのは、同法二条が定める要件を充足する労働組合のうち、同法五条二項が定める規約を有するものに限られるところ、北教組のように、地方公営企業職員及び単純労務職員を除く一般職に属する地方公務員が主体となって組織する、いわゆる混合組合は、前記(1)のとおり、労組法上の労働組合ではなく、それ自体として、労組法七条の不当労働行為につき、救済を申し立てる資格を有しない。
(3) 労組法七条一号の「労働組合の行為」というためには、同法二条が定める要件を充足する労働組合の行為であることが必要であり、同法五条一項ただし書が、同法七条一号の不当労働行為につき、労働者個人の申立てを認めているのは、同法二条が定める要件を充足する労働組合のうち、同法五条二項が定める規約を有しないものの組合員にも、同法七条一号による救済を与えるためであり、労組法上の労働組合ではない団体の構成員に同法七条一号による救済を与えるためではないのであって、北教組のように、地方公営企業職員及び単純労務職員を除く一般職に属する地方公務員が主体となって組織する、いわゆる混合組合は、前記(1)のとおり、労組法上の労働組合ではないのであるから、その構成員の行為が、同法七条一号の「労働組合の行為」に該当する余地はない。
また、仮に、同法七条一号の「労働組合の行為」は、労組法上の労働組合の組合員の行為に限定されないという立場に立つとしても、単純労務職員は、現行法上、労組法上の労働組合に加入することも、地公法上の職員団体に加入することもできるところ、単純労務職員が、労働組合に加入すれば、その法律関係は、地公労法及び労組法によって処理されるべきであり、職員団体に加入すれば、その法律関係は、地公法によって処理されるべきであり、地公法五六条は、「職員は、職員団体の構成員であること、職員団体を結成しようとしたこと、若しくはこれに加入しようとしたこと又は職員団体のために正当な行為をしたことの故をもって不利益な取扱を受けることはない。」と規定するのであるから、職員団体に加入した単純労務職員は、労組法七条一号ではなく、地公法五六条によって保護されると解するべきである。
なお、単純労務職員については、地公法上の不利益処分に関する不服申立制度の適用が除外されている(地公労法附則四項、地公企法三九条一項)が、労組法上の不当労働行為制度は、労働者の団結権を保障することを目的とするのに対し、地公法上の不服申立制度は、職員の身分保障を実効あるものとし、公務の能率を増進することを目的とするのであり、両者は、その目的を異にし、一方の制度の適用がなければ、他方の制度の適用があるという関係にあるものではなく、また、単純労務職員は、現行法上、労働組合に加入するか、職員団体に加入するかという組織を選択する自由を有するのであるから、単純労務職員が職員団体に加入した場合には、労組法上の不当労働行為制度による保護を受けることはできないと解しても、何ら不都合ではない。
(二) 参加人らの行為の正当性
被告は、次のとおり、参加人らの行為が、地公労法附則四項が準用する同法一一条一項の禁止する争議行為であり、労組法七条一号の「労働組合の正当な行為」に該当しないにもかかわらず、これに該当するとして、本件命令を発したのであるから、本件命令には、地公労法一一条一項及び労組法七条一号の解釈を誤った違法がある。
(1) 地公法三七条一項、地公労法一一条一項は、国家公務員法九八条二項、国営企業労働関係法一七条一項(昭和六一年法律第九三号による改正前の公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)一七条一項)と同様に、一切の争議行為を禁止しているが、公務員の争議行為が禁止されることは、最高裁判所の確立した判例である。
これは、公務員は、公共の利益のために勤務するものであり、公務の円滑な運営のためには、その担当する職務内容の別なく、それぞれの職場においてその職責を果たすことが必要不可欠であって、公務員が争議行為に及ぶことは、その地位の特殊性及び職務の公共性と相容れないばかりでなく、多かれ少なかれ公務の停廃をもたらし、その停廃は勤労者を含めた国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、またはその虞れがあるからである(最高裁判所昭和四三年(あ)第二七八〇号昭和四八年四月二五日大法廷判決参照)。
しかしながら、公務員についても憲法によってその労働基本権が保障される以上、この保障と国民全体の共同利益の擁護との間に均衡が保たれることを必要とすると解されるところ、地方公務員は、法定の勤務条件を享受し、かつ、法律等による身分保障を受けながらも、一般に、その勤務条件の維持改善を図ることを目的として職員団体を結成すること、結成された職員団体に加入し、または加入しないことの自由を保有し(地公法五二条三項、地公労法附則四項、地公企法三九条一項)、さらに、当局は、登録された職員団体から職員の給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、及びこれに附帯した一定の事項に関し、交渉の申入れを受けた場合には、これに応ずべき地位に立つ(地公法五五条一項)ものとされているのであるから、私企業におけるような団体協約を締結する権利は認められないとはいえ、原則的にはいわゆる交渉権が認められており、しかも職員は、右のように、その職員団体における正当な行為をしたことのために当局から不利益な取扱いを受けることがなく(同法五六条)、また、職員は、職員団体に属していないという理由で、交渉事項に関して不満を表明し、あるいは意見を申し出る自由を否定されないとされている(同法五五条一一項)。さらに、地方公務員のうち、単純労務職員は、労働組合を結成し、若しくは結成せず、又はこれに加入し、若しくは加入しないことができ(地公労法五条一項)、労働組合を結成した場合には、賃金、労働時間その他の労働条件に関する一定の事項につき、労働協約を締結することができるとされている(同法七条)。
このように、その争議行為等が、勤労者をも含めた国民全体の共同利益の保障という見地から制約を受ける公務員に対しても、その生存権保障の趣旨から、法は、これらの制約に見合う代償措置として身分、任免、服務、給与その他に関する勤務条件についての周到詳密な規定を設け、さらに人事行政機関として準司法機関的性格をもつ人事委員会を設けている。ことに地方公務員は、条例によって定められる給与準則に基づいて給与を受け、その給与準則には給料表のほか法定の事項が規定されるなど、いわゆる法定された勤務条件を享有しているのであって、人事委員会は、公務員の給与、勤務時間その他の勤務条件について絶えず研究を行い、その成果を地方公共団体の議会若しくは長又は任命権者に提出することとされ(地公法八条一項二号)、毎年少なくとも一回、給料表が適当であるかどうかについて、地方公共団体の議会及び長に同時に報告するものとし、給与を決定する諸条件の変化により、給料表に定める給料額を増減することが適当であると認めるときは、あわせて適当な勧告をすることができるとされている(同法二六条)。
以上に説明したとおり、公務員の従事する職務には公共性がある一方、法律によりその主要な勤務条件が定められ、身分が保障されているほか、適切な代償措置が講じられているのであるから、公務員の争議行為の禁止とその労働基本権の保障は、法体系の中で調和的に規定されているのである。
したがって、地方公務員の争議行為は、地公法三七条一項、地公労法一一条一項によって、文言どおりに禁止されているのであり、職務の内容、争議行為の目的、態様等によって、右各規定の解釈を左右するべき理由は全くない。
さらに、最高裁判所は、昭和五六年(行ツ)第三七号事件(昭和六三年一二月八日第一小法廷判決)及び昭和五七年(行ツ)第一三一号事件(昭和六三年一二月九日第二小法廷判決)において、最高裁判所昭和四四年(あ)第二五七一号昭和五二年五月四日大法廷判決(以下「名古屋中郵事件判決」という。)の、公労法一七条一項が憲法二八条に違反しないとする根拠として挙げている各事由が、地方公営企業職員及び単純労務職員の場合にも妥当するのであるから、地公労法一一条一項は憲法二八条に違反しないと判断している。
最高裁判所は、昭和五七年(行ツ)第一三一号事件において、名古屋中郵事件判決が、合憲の根拠として挙げている事由は、(1) 公務員である国営企業職員の勤務条件は、憲法上、国民全体の意思を代表する国会において、政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮を経たうえで、法律、予算によって決定すべきものとされており、労使間の自由な団体交渉に基づく合意によって決定すべきものとはされていないこと、(2) 国営企業の事業は、利潤の追求を本来の目的とするものではなく、国の公共的な政策を遂行するものであり、かつ、その労使関係にはいわゆる市場の抑制力が欠如しているため、争議権は適正な勤務条件を決定する機能を十分に果たすことができないこと、(3) 国営企業職員は実質的に国民全体に対してその労務を提供する義務を負っており、その争議行為による業務の停廃は国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、又はそのおそれがあること、(4) 争議行為を禁止したことの代償措置として、法律による身分保障、公共企業体等労働委員会による仲裁の制度など相応の措置が講じられていること、の四点に要約することができ、右各事由は、次のとおり、単純労務職員の場合にも妥当するとする。
ア 勤務条件決定の法理は、既に最高裁判所昭和四四年(あ)第一二七五号昭和五一年五月二一日大法廷判決(岩手県教組事件判決)において非現業地方公務員につき示されたところであるが、この理は、現業地方公務員たる単純労務職員についても妥当する。確かに、地公労法は、単純労務職員に対し、団結権を付与しているほか、いわゆる管理運営事項を除き、労働条件に関し、当局側との団体交渉権、労働協約締結権を認めている。しかし、労働協約締結権を含む団体交渉権の付与は、憲法二八条の当然の要請によるものではなく、その趣旨をできる限り尊重しようとする立法政策から出たものであって、地方公務員全般について妥当する勤務条件決定の法理を変容させるものではない。
イ 単純労務職員の従事する業務は住民の福祉の増進を目的とするものであり、かつ、その労使関係にはいわゆる市場の抑制力が働かず、争議権が単純労務職員の適正な労働条件を決定する機能を十分に果たすことができない。
ウ 単純労務職員は実質的に住民全体に対しその労務を提供する義務を負っており、その業務は当該地域関係住民の福祉を増進し、その諸生活の利益に密接な関係を有するものであって、それが争議行為により停廃した場合には、行政運営に支障を生ぜしめ、地域関係住民の諸生活の利益ひいては国民全体の共同利益に悪影響を生ぜしめるおそれがある。
エ 争議行為を禁止したことの代償措置についてみると、単純労務職員は、一般職の地方公務員として、法律によって身分の保障を受け、その給与については、生計費、同一又は類似の職種の国及び地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定めなければならないとされている。加えて、地公労法は、単純労務職員が労働委員会に対し労組法二七条の規定による申立てをすることができるほか、一定の場合に同委員会があっ旋、調停、仲裁を行うことができることとしている。これらは、単純労務職員に対し争議権を否定する場合の代償措置として不十分なものということはできない。
よって、参加人らの行為は、地公労法一一条一項に該当し、違法であり、正当性を有しないのであるから、「労働組合の正当な行為」に該当しない。
(2) 被告は、本件命令において、前記一2(三)(2)アのとおりの判断をしているが、単純労務職員には労働組合を結成する途が開かれているのであるから、人事委員会の給与勧告制度がないことは当然であるが、道では、実際上、単純労務職員にも他の職員と同じ給料表を適用しているので、単純労務職員についても、他の職員と同様に、給与の改善が図られているし、本件は、単純労務職員が労働組合を結成して労働協約を締結しようとしているのではなく、職員団体に加入している場合であるから、地公法五五条二項によれば、労働協約を締結することができないことは明らかである。
また、被告は、本件命令において、前記一2(三)(2)イのとおりの判断をしているが、単純労務職員も地方公務員であり、その身分取扱いや職務の性質、内容等において、他の職員と多少異なることはあっても、その職務は、直接公共の利益のための活動の一環を成すものであり、参加人らのように、公教育に関係する単純労務職員の職務は、教職員と一体となって学校教育の効率的な運営を図るように強く要請されているのであるから、他の職員の職務の公共性と比べて、その公共性が希薄であるということはできない。
また、被告は、本件命令において、前記一2(三)(2)ウのとおりの判断をしているが、地公労法一一条一項の同盟罷業とは、労働者が、労働条件の維持改善等の主張を貫徹することを目的として、その一部又は全部が一斉に就労しないことをいい、そこにおける労務の提供の拒否は、職場離脱という単純な不作為で足り、それ以上に積極的に違法行為に及ぶ必要はなく、職場離脱による職務執行への影響については、必ずしも職務執行を阻害するという具体的な結果が現実に発生することを必要とするものではなく、当該争議行為が、性質上、業務の運営の能率を阻害する危険性があるものであれば足りるのである。すなわち、公務員の勤務する職場にあっては、職員全員が勤務時間中に法定された職務に服することが、職場の業務の正常な運営であり、多数の職員が一斉に職場を放棄すること自体が業務の正常な運営を阻害する争議行為である。
また、本件の場合には、参加人らは、昭和五二年二月一七日及び同年四月一五日の二回にわたり、他の組合員とともに職場を離脱し、児童、生徒に対する教育活動を平常どおり行うことを不可能にし、ないしは極めて困難な状態に陥らせたのであり、具体的にも公立学校の業務の正常な運営を阻害したことは明らかである。
2 被告の主張
(一) 北教組の性格
被告は、次のとおり、北教組が、労組法七条の不当労働行為につき、救済を申し立てる資格を有するか否かにつき、中央労働委員会が、南丹病院事件につき、昭和四三年一二月二一日付けで発した命令における「混合組合に加入している単純労務者については、労働組合法の適用があり、本来不当労働行為の救済は団結権に対する侵害を守るものであるから、混合組合は、これらの単純労務者に関する限り、労働組合法上の労働組合として不当労働行為の救済を求める資格を有するものと認めることが相当であ」る旨の判断と同様の立場に立つものである。
労働委員会を通じた行政的救済を含む不当労働行為制度は、憲法が規定した団結権の保障をより一層発展させ、その保障をより効果的に実現するために特に設けられた制度である。
単純労務職員は、結社の自由及び団結権の保護に関する条約(ILO条約第八七号)の批准に伴う国内法の改正によって、労働組合を結成することも、職員団体を結成することも、職員団体に加入していわゆる混合組合の構成員となることも自由となったのである。
このような経緯に照らすと、単純労務職員が職員団体に加入していわゆる混合組合の構成員となった場合には、単純労務職員が労働組合を結成した場合と同様に考えるべきである。いわゆる混合組合も、その構成員の労働条件の維持改善を図ることを目的とする団体である点では、実質上、労働組合としての性格を有するのであり、ただ、単純労務職員以外の構成員については、その職務の性質上、労組法の適用が除外されているにすぎないとみるべきであり、単純労務職員である参加人らについては、労組法の適用がある以上、北教組も、不当労働行為制度における行政的救済においては、労組法上の労働組合として取り扱うべきである。
(二) 参加人らの行為の正当性
労組法施行令一六条によれば、労働委員会は、その権限を独立して行うものとされているところ、労働委員会が、救済命令を発するか否かに当たっては、労働者の行為が、労組法七条一号の「労働組合の正当な行為」に該当するか否かを判断するべきであり、被告は、参加人らの行為につき、形式的には地公労法附則四項が準用する同法一一条一項の要件に該当する事実を認定するも、参加人らの行為が同条項の保護する法益を侵害する程度は、極めて軽微であり、諸事情を総合的に勘案すると、参加人らの行為は、なお「労働組合の正当な行為」であるということができると判断したのであり、被告は、審問の全趣旨によって、不当労働行為の存否を審査する機関として本件各処分を看過することができないと考え、本件命令を発したのである。
3 参加人らの主張
(一) 北教組の性格
別紙参加人らの主要要旨第一記載のとおり、いわゆる混合組合の行為は、単純労務職員にとって「労働組合の行為」に該当する。
(二) 参加人らの行為の正当性
(1) 別紙同第二記載のとおり、地公労法附則四項が準用する同法一一条一項の規定は、憲法二八条に違反する。
(2) 別紙同第三記載のとおり、地公労法附則四項が準用する同法一一条一項の規定は、憲法九八条二項、ILO八七号条約に違反する。
(3) 別紙同第四記載のとおり、参加人らの本件各ストライキへの参加に地公労法一一条一項を準用することは許されない。
(4) 別紙同第五記載のとおり、参加人らの本件各ストライキへの参加は、労組法七条一号の「労働組合の正当な行為」に該当する。
第三争点に対する判断
一 前提事実
証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
1 二・一七ストライキに至る経緯
(一) 原告は、昭和五〇年一一月二五日、北教組に対し、北海道の財政事情の悪化を理由として、道立学校及び道費負担の市町村立学校の職員の給与等につき、次の措置事項を内容とする提案をした。
(1) 特別昇給は、昭和五一年度から、当分の間、停止する。
(2) 昭和五〇年一二月三一日に在職する職員につき、同日以後の次期昇給期を一二か月延伸する。
(3) 運用昇給短縮措置は、昭和五一年四月一日から、廃止する。
(4) 教員の初任給二号俸上積み措置は、同年一月一日以降の採用者につき、廃止する。
(5) 六〇歳を超える職員の昇給は、昭和五二年四月一日から、停止する。
(6) 六〇歳を超えて退職する職員の退職手当の算定にあたっては、六〇歳を超えた職員としての任期期間は、算定の基礎となる勤続年数に算入せず、また、算定の基礎となる給料月額は、当該職員が六〇歳に達した時の給料月額とする。
(7) 昭和五一年四月一日に六〇歳を超えている職員が昭和五二年四月一日以降に退職する場合、退職手当の算定の基礎となる給料月額及び勤続年数は、その者が六〇歳に達した日における等級号俸にかかる昭和五一年三月三一日の給料月額、及びその者が六〇歳に達した日における勤続年数とする。
(8) グリーン料金の支給は、昭和五一年一月一日から、当分の間、停止する。
(二) 北教組は、右提案を受け入ることはできないとして、同様の提案を示された自治労道本部、全道庁及び高教組の関係団体とともに、既得権剥奪阻止を掲げて、いわゆる地公四者共闘を結成し、右提案の白紙撤回を求めて、原告との間で交渉を重ねた。
さらに、地公四者共闘は、ビラの配付や道庁への座込みなどの抗議行動を展開し、昭和五〇年一二月五日には、午前半日の統一ストライキを実施した。
そこで、道は、右提案をそのまま実施することが困難であると判断し、同月七日、地公四者共闘に対し、右措置事項については、第四回道議会定例会に条例改正のための提案はせず、引き続き協議したい旨回答するに至ったため、地公四者共闘は、その後の抗議行動を中止した。
(三) しかし、道は、昭和五一年に入り、同年の第一回道議会定例会において、右措置事項につき、条例改正のための提案をしたいとの意向を示し、これを受けた原告は、同年一月二九日、北教組に対し、再び、同様の提案をした。
北教組は、これに反発し、右提案の白紙撤回を強く求めて、原告との間で交渉を重ねた。
また、地公四者共闘も、ビラの配付や署名活動、反対集会、街頭デモ、道庁への座込みなどの抗議行動を展開し、同年二月二〇日には、午前半日の統一ストライキを実施した。
道は、事態を打開するためには、一定の譲歩をする必要があると判断し、同月二四日、地公四者共闘に対し、昇給期間の延伸を除く、その余の各措置事項については、撤回ないし留保する旨回答するに至ったため、地公四者共闘は、同月二五日に予定していた統一ストライキを中止するなど、その後の抗議行動を中止した。
しかし、道は、昇給期間の延伸については、これを実施することにし、道議会において、同年三月三一日、北海道職員の給与の臨時措置に関する条例を議決・制定し、同日現在在職する全職員(単純労務職員も含む)につき、同日以後の次期昇給期を一二か月延伸する旨定め、そして、道は、同年四月一日から、これを実施した。
(四) 地公四者共闘は、右実施を受けて、その後は、昇給延伸の復元とそれに伴う実損の回復を求めて、職場集会などの運動を展開した。
また、北教組は、同年八月三一日、賃金の引上げ、賃金体系の改善、週休二日制の確立等を求める要求書を提出し、その中でも、昇給延伸の撤回とそれに伴う実損の回復を求めるなど、その後も、原告との間で、昇給期間の一二か月延伸を直ちに復元し、それに伴う実損を回復するよう、交渉を継続してきた。
(五) そして、北教組は、昭和五二年度には、昇給延伸の復元とそれに伴う実損の回復を実現させることを目標に、同年度の教育予算に関する交渉の中で、原告に対し、右の実現を強く求めるとともに、右交渉を強化して、道の予算原案の中に、昇給延伸の復元とそれに伴う実損の回復を盛り込ませるために、右原案が知事査定によって確定する直前にストライキを配置することとした。
しかし、原告は、北教組の右要求に難色を示し、同年二月一七日の交渉においても、原告教育長は、道の財政事情からみて右実現は困難であり、昇給延伸が一巡した後、さらに道の財政事情等を考慮した上で協議したい旨回答するにとどまった。
(六) また、原告は、北教組が、主任制の導入等に反対して、昭和五〇年一二月から昭和五一年一一月までの間に実施したストライキに関して、北教組の役員に対し、懲戒処分をする旨の方針を固め、昭和五二年一月二〇日、各市町村教育委員会に対し、右処分につき原告への内申を行うように求めた。
北教組は、これに反発し、同月二四日、原告との間の交渉の中で、右一連のストライキは、賃金合理化提案反対、主任制導入反対等の要求を実現するための行動であり、これに関して懲戒処分をすることは不当であるから、これを断念するように求めるとともに、各支部、支会を通じて、各市町村教育委員会に対し、原告への内申を行わないように求めた。
さらに、北教組は、同年二月一七日の右交渉の中でも、原告教育長に対し、内申の取りまとめ作業の中止、懲戒処分の断念を求めたが、原告教育長は、右方針を変更しなかった。
(七) かくして、北教組と原告との間の交渉は決裂し、北教組は、その席上、同日午後三時からストライキを実施することを通告した。
北教組は、右通告のとおり、昇給期間の一二か月延伸を復元し、それに伴う実損を回復すること、過去のストライキに関する懲戒処分を断念することなどを要求して、同日午後三時から二時間のストライキを実施した。
北教組の組合員は、北教組の指令に従い、午後三時から各職場を離脱し、市町村単位の要求貫徹集会に参加するなどした。このストライキに参加した組合員の数は、二万五七五一名に上り、全組合員数に占める割合は、八八・二八パーセントであった。
なお、原告は、同月一九日、昭和五〇年一二月から昭和五一年一一月までの間の右一連のスイトライキに関して、一九八名を懲戒処分にした。
2 四・一五ストライキに至る経緯
(一) 総評及び中立労連を中心とする春闘共闘会議は、七七年春闘において、その統一要求として、次の課題を掲げるとともに、平均一五パーセント以上の賃金の引き上げを要求した。
(1) 労働者の生活を守り改善するため賃金抑制の打破と賃金引上げ・全国一律最低賃金制度の確立
(2) 首切り失業反対・雇用保障制度の確立・週休二日制と週四〇時間制など労働時間短縮・定年延長など合理化反対
(3) 生活できる年金確保を中心とする年金制度の改善、医療制度の改善、生活保護基準の引上げなど社会保障の充実
(4) ストライキ権奪還・労働基本権確立・組合活動の自由の確保
(5) 独占禁止法改正・公共料金値上げを中心とするインフレ反対・大幅減税と不公平税制の改革・低家賃公共住宅の大量建設など勤労国民生活の擁護
(6) ロッキード汚職糾弾・安保条約廃棄・刑法改悪反対・交通政策確立・地方財政危機突破・民主教育確立など民主主義擁護
(二) 春闘共闘会議の右要求を受けて、日教組、自治労、都市交、全水道、全農林、全開発等によって組織される公務員共闘会議は、その統一要求として、次の課題を掲げるとともに、平均一六パーセント、二万六〇〇〇円以上の賃金の引上げを要求した。
(1) 労働者階級の生活を守り改善する賃金引上げ
(2) 不当処分阻止と刑事弾圧粉砕など労働基本権確立
(3) 週四〇時間労働と週休二日制を中心とする労働時間短縮
(4) 年金や医療を中心とする共済組合制度の改善
(三) 春闘共闘会議、公務員共闘会議の右要求を受けて、日教組は、その統一要求として、次の課題等を掲げるとともに、平均一六パーセント、三万円以上の賃金の引上げを要求した。
(1) 職務職階差別賃金体系の廃止と誰もが最高号俸に到達しうる通し号俸制の実現
(2) 学校事務職員の賃金の教育賃金水準との均衡、行政職給料表とは別建ての独自の給料表の実現
(3) 高校、障害児学校の実習助手、寮母の教育職二等級昇格の実現
(四) 春闘共闘会議、公務員共闘会議、日教組の右要求を受けて、北教組は、その要求として、次の課題等を掲げるとともに、平均二〇パーセント、三万円以上の賃金の引上げを要求した。
(1) 教育関係労働者の賃金を大幅に引き上げること
(2) 差別分断賃金の導入をやめ、給料表の通し号俸制を実現すること
(3) 教育関係労働者の賃金体系と配分を改善すること
ア 学校事務職員の賃金については、教育における産業別統一賃金を展望し、行政職給料表とは別建ての、初任給から生涯にわたる教員賃金水準との均衡と職務職階賃金制度の廃止による通し号俸制の確立、事務職員以外の教育関係職種をも包含し得る「学校事務職給料表」の実現をはかること
イ 障害児学校の介助職員に対しては教育職給料表の適用をはかること
(4) 教職員の諸手当を改善すること
(5) 特別昇給については、昭和四五年九月一八日及び昭和四六年三月一七日付けの「確認書」並びに「覚書」の趣旨に基づいて給与改善の一環として実施すること
(6) 教育関係労働者の給与上の不合理を是正すること
(7) 教職員の自主的な研修活動を奨励するとともに、これを促進するため、旅費を大幅に増額すること
(8) 社会保障制度の確立をめざし、教育関係労働者の福利厚生の向上をはかること
(9) 教育関係労働者の週休二日制を確立し、教育荒廃を解消するための学校五日制の実現については、早急に実施のための準備をすすめること
(10) 教育関係労働者の労働基本権を尊重し、不当な行政処分に伴う昇給延伸等を早急に回復すること
(11) 教育関係労働者をはじめ北海道関係公務員労働者の生活を破壊する賃金切下げ合理化及び既得権剥奪の措置は絶対に行わないこと
(五) 北教組は、右要求を実現するため、原告との間で交渉を続け、昭和五二年四月八日の交渉の席上、同月一五日早朝からストライキを実施することを通告し、公務員共闘会議の統一行動として、右通告のとおり、賃金の大幅な引上げ、主任制導入反対、昇給延伸に伴う実損の回復等を要求して、同日早朝から二時間のストライキを実施した。
北教組の組合員は、北教組の指令に従い、始業時から各職場を離脱し、市町村単位の要求貫徹集会に参加するなどした。このストライキに参加した組合員の数は、二万五六一四名に上り、全組合員数に占める割合は、八六・八四パーセントであった。
3 参加人林の本件各ストライキへの参加
(一) 参加人林の勤務していた根室西高等学校では、本件当時、教員三七名(校長、教頭、養護教諭を含む)、実習助手一名、事務職員三名(事務長を含む)、事務生一名、公務補二名が勤務していた。
(二) 本件当時、参加人林の担当していた職務は、校長室、事務室の掃除、校内連絡、文書の収受、発送、来客の受付、授業料の徴収に関する事務、給与の引去りに関する事務、生徒への諸証明の発行に関する事務、共済組合等に関する事務、法規、公報等の追録の加除等であり、その月額給与は、二・一七ストライキ当時、九万三八〇〇円(行政職給料表七等級四号俸)、四・一五ストライキ当時、九万七九〇〇円(同表七等級五号俸)であり、実質的な手取りで七万五〇〇〇円前後であった。
(三) 本件当時の勤務時間は、午前八時から午後四時三五分までであったところ、参加人林は、昭和五二年二月一七日及び同年四月一五日、北教組の指令により、本件各ストライキに参加し、同年二月一七日には午後三時から午後四時三五分までの一時間三五分、同年四月一五日には午前八時から午前一〇時までの二時間、それぞれ他の教職員とともに職場を離脱した。
(四) 参加人林の担当していた職務は、前記(二)のとおり、多岐にわたるが、その中で比較的頻度の高いものは、文書の収受、発送と生徒への諸証明の発行であったところ、文書の収受、発送については、その取扱量は格別多くなかったことから、短い時間で終わるものであり、生徒への諸証明の発行についても、朝のうちに申請するように教員から生徒への指導が徹底していたので、そのための作業は午前中に終わるものであった。
したがって、参加人林が本件各ストライキに参加したからといって、根室西高等学校の業務に多大な支障が生じるということはなく、現実に支障が生じたわけでもなかった。
4 参加人高橋の本件各ストライキへの参加
(一) 参加人高橋の勤務していた函館盲学校では、本件当時、教員二四名(校長、教頭、養護教諭を含む)、寮母八名、介護員一名が勤務していた。
児童、生徒の数は、五三名であり、そのうち、昭和五一年度には三三名が、昭和五二年度には三一名が寄宿舎で生活していた。そして、いわゆる重複学級を含めて、幼稚部一、小学部七、中学部五の各学級に編成されていた。
(二) 参加人高橋の担当していた職務は、本件当時、寄宿舎生に対する生活指導やその他の事務処理等であった。
函館盲学校の寮母、介護員の職務の具体的な内容は、午前六時に寄宿舎生を起床させる準備をし、午前六時三〇分に各部屋を回って起床指導を行い、午前六時四五分には自主トレーニングをし、その後、洗面、掃除の指導をし、午前七時三〇分には朝食が始まり、朝食指導を行い、午前七時五〇分には登校の準備をし、登校指導によって外回りをして午前八時一五分には学校へ着き、帰寮後、各部屋の見回り、洗濯、掃除をし、もし病人がいる場合には、通院の引率や看護にあたり、その後、児童、生徒の下校時刻に合わせて、五、六名の寮母が午後一時ころから午後三時ころまでの間に出勤し、児童、生徒の生活指導にあたり、介護員は、全盲児や重複児のいる部屋の生活指導を手伝うというものであった。
参加人高橋の月額給与は、本件当時、九万三八〇〇円(行政職給料表七等級四号俸)、実質的な手取りで六万円余りであり、寮母であったころと比べると、約三万円下がっており、夫の給与と合わせても一三万円余りであった。
(三) 二・一七ストライキ当時の勤務時間は、午前七時一五分から午後四時まで、四・一五ストライキ当時の勤務時間は、午前六時四五分から午後三時三〇分までであったところ、参加人高橋は、昭和五二年二月一七日及び同年四月一五日、北教組の指令により、本件各ストライキに参加し、同年二月一七日には午後一時四五分から午後四時までの二時間一五分、同年四月一五日には午前六時四五分から午後八時四五分までの二時間、それぞれ他の教職員とともに職場を離脱した。
(四) 北教組函館支部函館盲学校分会は、組合員が本件各ストライキに参加することによって、児童、生徒への指導に支障が生じないように、参加人高橋を含む八名の寮母、介護員を保安要員として配置し、参加人高橋が本件各ストライキに参加して職場を離脱するにあたり、昭和五二年二月一七日には、午後一時四五分から午後二時一五分まで二名、午後二時一五分から午後二時三〇分まで三名、午後二時三〇分から午後四時まで六名を、また、昭和五二年四月一五日には、午前六時四五分から午前八時四五分まで二名を配置し、緊急の事態に備えたものの、両日ともに病人はなく、全員が登校し、寄宿舎に残った児童、生徒もなく、特に事故が生じたということもなかった。
5 本件各ストライキに関する懲戒処分
原告は、本件各ストライキに参加したことを理由として、各市町村教育委員会の内申に基づき、北教組の組合員に対し、昭和五二年九月一二日、同月二〇日、同年一一月一八日、同年一二月二八日、昭和五三年二月一〇日の五回にわたり、合計二万五八九〇名を懲戒処分にした。その内容は、停職二か月が一一名、減給一か月ないし二か月が一八四名、戒告が二万五六九五名であった。
なお、夕張市及び上砂川町の各教育委員会は、内申を行わなかったため、二市町管内の学校に所属していた北教組の組合員は、懲戒処分を受けなかった。
二 北教組の性格(争点1(一)、2(一)及び3(一))について
地公労法附則四項、同法五条一項によれば、単純労務職員は、その労働関係その他身分取扱いに関し、特別の法律が制定施行されるまでの間、単純労働職員だけで地公労法上の労働組合を結成することができ、その場合には、地公労法、労組法、労調法が適用されることになり、例えば、単純労務職員が労働組合の正当な行為をしたことを理由に不利益取扱いを受けた場合には、労組法七条一号本文が適用されることになる。
一方、地公労法附則四項、地公企法三九条一項、地公法五二条ないし五六条によれば、単純労務職員は、単純労務職員だけで地公法上の職員団体を結成することができるとともに、他の一般職の地方公務員が結成する職員団体に加入し、いわゆる混合組合を組織することもできる。
しかし、地公労法附則四項、地公企法三九条一項によれば、単純労務職員には、地公法上の不利益処分に関する不服申立制度の適用が除外されていることから、単純労務職員以外の一般職の地方公務員が主体となって組織する混合組合については、もし、これを地公法上の職員団体としてのみ取り扱うべきであるとするならば、そこに所属する単純労務職員は、地公法上の不利益処分に関する不服申立制度による救済も、労組法上の不当労働行為制度による救済も受けることができないという極めて不都合な結果となる。
そもそも、単純労務職員以外の一般職の地方公務員も、憲法二八条の「勤労者」に当たることに変わりはなく、いわゆる混合組合も、その構成員の労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを目的とする団体であるという点では、実質上、労働組合としての性格を有するところ、単純労務職員以外の一般職の地方公務員については、その職務の性質にかんがみ、例外として労組法の適用が一般的に除外されているにすぎないのである。
そして、単純労務職員が他の一般職の地方公務員と同じ職場で勤務する場合には、単純労務職員の数が比較的少なく、また、各所に散在して勤務することが多いのが実情であり、単純労務職員だけで労働組合を結成することは、事実上困難であり、その団結力も十分ではないことから、単純労務職員は、他の一般職の地方公務員が結成する職員団体に加入し、いわゆる混合組合を組織することが多く、本件においても、それぞれ北海道内の公立学校に勤務していた参加人らは、その所属する学校の教職員とともに、非現業地方公務員である教職員が主体となって組織する北教組に加入していたことに照らすと、単純労務職員については、単純労務職員だけで労働組合を結成しない限り、労組法上の不当労働行為制度による救済を受けることができないとすることは、憲法二八条の保障する団結権を実質的に保障しようとする不当労働行為制度の趣旨にもとることになりかねない。
したがって、単純労務職員以外の一般職の地方公務員が主体となって組織する混合組合においても、そこに所属する単純労務職員は、労組法上の不当労働行為制度につき、救済を申し立てる資格を有するというべきであるし、右単純労務職員が混合組合の構成員として行った行為も、労組法七条一号本文の「労働組合の行為」に当たると評価することができるというべきであり、参加人らの本件各ストライキへの参加は、右「労働組合の行為」に当たるということができる。
なお、原告は、北教組が、労組法七条の不当労働行為につき、救済を申し立てる資格を有しないにもかかわらず、被告は、これを有するとして、本件命令を発したとも主張するが、本件は、参加人らの救済の申立てにつき、被告が右申立てを認容した部分の取消しを求めるものであるから、原告の右主張は失当である。
三 参加人らの行為の正当性について
1 憲法二八条違反(争点1(二)並びに3(二)(1)及び(3))について
単純労務職員である参加人らも、地方公務員であり、その勤務条件は、政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮により、国会及び地方議会が定める法律及び条例、予算に基づいて決定されるべきものとされており、私企業におけるような団体交渉による労働条件の決定という方式が当然には妥当せず、争議権は、団体交渉の裏付けとしての本来の機能を発揮する余地に乏しく、かえって、その労使関係には、いわゆる市場の抑制力が働かず、争議権が単純労務職員の適正な労働条件を決定する機能を十分に果たすことができないのである。
そして、単純労務職員の従事する業務は、当該地域関係住民の福祉を増進し、その諸生活の利益に密接な関係を有するのであって、それが争議行為により停廃した場合には、行政運営に支障を生ぜしめ、地域関係住民の諸生活の利益ひいては国民全体の共同利益に悪影響を生ぜしめるおそれがあるものといわざるを得ない。
一方、地公労法は、一般の私企業の場合にはない強制調停(附則四項、同法一四条三号ないし五号)、強制仲裁(附則四項、同法一五条三号ないし五号)の途を開いていることなどからすると、争議権を否定する場合の代償措置が不十分であるということもできない。
したがって、地方公営企業職員の争議行為を全面一律に禁止する地公労法一一条一項は、同法附則四項によって、地方公営企業職員以外の単純労務職員の争議行為を全面一律に禁止する場合をも含めて、憲法二八条に違反するということはできないのである。このことは、最高裁判所大法廷判決(昭和四四年(あ)第二五七一号昭和五二年五月四日判決)の趣旨に照らして明らかであるというほかない(最高裁判所昭和五六年(行ツ)第三七号昭和六三年一二月八日第一小法廷判決、同昭和五七年(行ツ)第一三一号昭和六三年一二月九日第二小法廷判決、同昭和五九年(行ツ)第三六号平成元年四月二五日第三小法廷判決参照)。
2 憲法九八条二項違反(争点3(二)(2))について
証拠(<証拠・人証略>)によれば、国際労働機関(以下「ILO」という。)は、労働基本権に関する条約として、昭和二三年(一九四八年)に「結社の自由及び団結権の保護に関する条約」(ILO条約第八七号、以下「ILO八七号条約」という。)を、また、昭和二四年(一九四九年)には「団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約」(ILO条約第九八号、以下「ILO九八号条約」という。)を採択し、我が国も右各条約を批准していること、ILO八七号条約は、三条一項において、「労働者団体及び使用者団体は、その規約及び規則を作成し、自由にその代表者を選び、その管理及び活動について定め、並びにその計画を策定する権利を有する。」と、八条二項において、「国内法令は、この条約に規定する保障を阻害するようなものであってはならず、また、これを阻害するように適用してはならない。」とそれぞれ規定していること、ILO条約の遵守を確保するためにILO理事会に設けられた監視統制機構である条約勧告適用専門家委員会、実情調査調停委員会及び結社の自由委員会は、ILO八七号条約及び同九八号条約に関する意見又は報告において、次のとおりの見解を繰り返し表明していることを認めることができる。
(一) ストライキの全般的禁止は、組合員の利益を向上かつ擁護するために(八七号条約一〇条)労働組合が活用しうる手段とその活動を組織する権利(三条)に重大な制約を加えており、したがって、結社の自由の諸原則とはあいいれない。(例えば、一九八三年条約勧告適用専門家委員会報告二〇五項)
(二) 公務において、あるいは公的、準公的もしくは私的なものであるとを問わず、不可欠業務において、ストライキ権を制限ないし禁止しうるという原則は、法規が公務や不可欠業務をあまりにも広範囲に定義する場合には、無意味となってしまう。公的機関の代行者としての資格で行為する公務員や、国民全体もしくはその一部の生命、個人的安全ないし健康に対してその中断が危険をもたらす業務に、禁止を限定すべきである。さらに、公務や不可欠業務においてストライキが制限ないし禁止されている場合には、職業上の利益を擁護する不可欠な手段の一つを否定されている労働者を保護するために、適切な保障が与えられるべきである。制限は適切、公平かつ迅速な調停仲裁手続によって代償されるべきであり、その手続においては関係当事者があらゆる段階で参加でき、かつあらゆる事例において裁定が当事者双方を拘束すべきである。いったん下されたこの裁定は、迅速かつ全面的に実施されるべきである。(例えば、同報告二一四項)
しかし、ILO諸機関の右各条約に関する意見や報告は、専門的な権威ある意見として、各国政府に対し、その報告等の趣旨に沿った国内労働立法の整備や労働政策の是正等を要望する趣旨のものということはできても、そこで採られた解釈がILO条約を解釈する際の法的拘束力ある基準として法源性を有するに至っているものと認めることはできない。そして、弁論の全趣旨によれば、ILO八七号条約は、もともと、ストライキ権を取り扱うものではないという了解のもとに採択されたことが認められ、本件全証拠によっても、この了解が変更されたものと認めることはできないのであるから、地方公営企業職員の争議行為を全面一律に禁止する地公労法一一条一項は、同法附則四項によって、地方公営企業職員以外の単純労務職員の争議行為を全面一律に禁止する場合をも含めて、ILO八七号条約三条一項及び八条二項に抵触し、その結果として、憲法九八条二項に違反するということはできない。
3 労組法七条一号の正当性(争点1(二)、2(二)及び3(二)(4))について
以上によれば、単純労務職員についても、その争議行為は、地公労法附則四項、同法一一条一項によって、単純な職場離脱行為を含め、全面一律に禁止されるのであるから、参加人らの本件各ストライキへの参加は、同法附則四項、同法一一条一項に違反するものといわざるをえない。
そして、同法附則四項、同法四条によれば、単純労務職員に関する労働関係についても、その労働関係その他身分取扱いに関し、特別の法律が制定施行されるまでの間は、地公労法の定めるところにより、同法に定めのないものについては、労組法等の定めるところによるとするところ、単純労務職員の争議行為については、前述のとおり、地公労法附則四項が準用する同法一一条一項に一切の行為を禁止する旨の定めがあるのであるから、その争議行為について、更に労組法七条一号本文を適用する余地はない(単純労務職員に準用される地公労法、その他労働関係法規のもとでは、不当労働行為救済の対象となる「労働組合の正当な行為」とは、要するに争議行為を除く、その他の正当な行為に限定されている)というべきであり、被告、参加人らの主張するような、地公労法附則四項、同法一一条一項に違反する争議行為のうちにも、なお労組法七条一号本文の「正当な行為」に当たるものがあるという解釈を採用することはできない。
もっとも、前記認定の事実(前提事実)によれば、参加人らに対する本件各処分は、特に参加人らの職務内容や経済的状況、本件各ストライキ参加の目的と参加態様、参加時間、参加したことにより職務に及ぼした実害の不存在等の諸事情、そして本件各ストライキ参加者に対する原告による一律画一的な処分権限の発動の経緯等に照らすと、原告は、参加人らが本件各ストライキに参加したというただその一事のみで、参加人ら各人の個別事情を深く考慮せず、本件各処分に付したきらいがあり、その各処分は、懲戒権行使の濫用に当たるおそれが多分にあると解せられるけれども、かかる不利益処分に対しては、その取消し・無効確認の訴訟手続で対処するのが筋であると解せられる。
したがって、参加人らの本件各ストライキへの参加は、労組法七条一号本文の「正当な行為」に当たらないから、被告は、本件命令を発するにあたり、この点に関する判断を誤ったというべきであり、本件命令は、その点において違法であり、取消しを免れない。
四 結論
よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法八九条、九四条後段、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大澤巖 裁判官 見米正 裁判官 才原慶道)
《別紙》 命令
1 被申立人は、申立人林博子及び高橋そのに対し、昭和五二年九月一二日付けでなした戒告処分を取り消し、処分の日以降、当該処分がなかったものとして取扱わなければならない。
2 申立人のその余の申立ては、これを棄却する。