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札幌地方裁判所 昭和63年(モ)1471号 決定 1988年9月05日

原告

株式会社エスコリース

右代表者代表取締役

平山秀雄

右訴訟代理人弁護士

荒谷一衛

鷹野正義

右両名訴訟復代理人弁護士

松浦正典

被告

井家上愼一

右訴訟代理人弁護士

大野康平

片岡成弘

小林俊明

田中泰雄

大野康平訴訟復代理人弁護士

小田幸児

主文

本件を大阪地方裁判所に移送する。

理由

一被告は、主文同旨の決定を求め、その理由として、「原告主張の管轄の合意は存在しないから、本件は札幌地方裁判所の管轄に属さない。仮に札幌地方裁判所の管轄に属するとしても、同裁判所において審理をするときは、著しい損害を生じ、あるいは遅滞を免れないので、これを避けるためには、被告の普通裁判籍の所在地の裁判所である大阪地方裁判所に移送する必要がある。」旨を主張する。

これに対して原告は、「本件申立てを却下する。」との決定を求め、「原告と被告との間においては、本件について札幌地方裁判所を管轄裁判所とする専属的管轄の合意がある。」旨主張する。

二一件記録及び当裁判所に顕著な事実によると、

1  本件訴訟は、札幌市に本店を、東京都、大阪市その他に支店を有する原告が、大阪市内に住所を有する被告を相手として提起したものであり、その請求の要旨は、機械等のリースを業とする原告が、経営コンサルタントを業とする被告との間において、被告をユーザーとするコンピューター(ミクロスーパーパワーXⅡ(三〇MB))一台(以下「本件リース物件」という。)のリース契約(以下「本件リース契約」という。)を締結したところ、被告が本件リース契約に基づくリース料の支払いを怠ったとして本件リース契約を解除し、リース料残額相当の約定損害金の支払いを求めるものであること

2  これに対し、被告は、本件リース契約の成立を否認し、あるいは錯誤による無効などを主張して争う予定であり、右主張の立証のために東京近辺ないし近畿地方に在住する関係者多数の取り調べを請求する予定であること

3  本件リース契約に関しては、契約書(そこに記載されている被告の署名捺印が真正なものであることについては、被告において明らかに争わないものと認められる。以下「本件契約書」という。)があり、その中には、本件リース契約についてのすべての紛争は、札幌地方裁判所とすることに合意する旨の条項が存すること

4  本件契約書には、本件リース料の支払いについて、株式会社大阪銀行梅田支店の被告名義の普通預金口座から自動振替引落の方法により、原告がリース料の口座振替業務を委託しているJCB(株式会社ジェイ・シー・ビー、以下「JCB」という。)経由(JCBからの引落しとなる。)で原告に支払うものとする趣旨の記載があること

5  本件リース物件のサプライヤーは、訴外株式会社ミクロ経理(以下「訴外ミクロ経理」という。)であり、同社は、昭和六一年八月に二度の不渡りを出して銀行取引を停止され、その後同年九月に破産したこと

6  本件リース契約に基づくリース料(以下「本件リース料」という。)は、昭和六一年七月一〇日支払い分まで支払われていること

7  原告の提訴にかかる本件と同種の訴訟が多数当庁に係属するに至っていること

等の事実が認められる。

三そこで検討するに、

1  先ず、管轄の合意の成立についてであるが、被告は、前記のように本案において本件リース契約の成立もしくは効力を争う予定であり、本件リース契約と同時になされた管轄の合意についても同様の理由でその成立もしくは効力を争うが、管轄裁判所を決定するためにその点について本案と同様の審理をすることは、本案の審理をなすべき裁判所を決定する管轄制度の趣旨に照らすと相当でなく、このような場合には管轄の合意を記載した書面の成立の真否についての審理程度に止どめるべきものと解すべきところ、札幌地方裁判所を管轄裁判所とする旨の管轄の合意を記載した書面である本件契約書の成立の真正を認めることができるから、本件リース契約についてはともかく、右管轄の合意の成立はこれを認めることができるので、右管轄の合意が専属的なものであるか競合的なものであるかはさておき、本件について札幌地方裁判所に管轄を認めることができる。

2  してみると、本訴について札幌地方裁判所に管轄がないことを前提とする被告の移送申立ては失当というべきである。

3 ところで、本件リース料の支払方法については、本件契約書上、前記のような趣旨の記載があるところ、右のようにユーザーにおいて原告が口座振替業務を委託している指定会社の提携先金融機関にある預金口座からの自動振替引落しの方法で支払う旨の約定がある場合には、ユーザーは支払期日にその口座に請求金額相当額の預金残高を残して置かなければならず、またそれで足りるから、本件リース料支払債務の義務履行地については、これをユーザーである被告の預金口座のある大阪市とする旨の合意があるものと認めるのが相当である。

4 そして被告の住所地も、大阪市にあるから、本件リース料の支払いを求める本訴の法定管轄裁判所は、被告の住所地であり、かつ、本件リース料支払債務の義務履行地である大阪市を管轄する大阪地方裁判所であると認められる。

5 そうすると、札幌地方裁判所に管轄を認める前記管轄の合意は、右法定の管轄裁判所以外の裁判所である札幌地方裁判所に競合的に管轄を認める趣旨のものと解すべきである。

6 そこで民事訴訟法三一条の規定による移送の可否について検討するに、未だ弁論の十分尽くされていない段階ではあるが、本案について被告が予定している前記のような争い方から予想される争点、訴外ミクロ経理の倒産の時期と本件リース代金が不払いとなった時期とが相近接していること、原告提訴にかかる同種事案が多数係属している状況にあること等に鑑みると、本件はかなり根の深い事実上の問題点を孕んでいて、事案の真相を究明するには被告申請予定の証人等についてその相当数を調べる必要があるものと予想される。そして、本件事案の概要からみて、それらの証人等はいずれも東京近辺あるいは近畿地方に在住すると認められるから、これらの地方から遠隔の地にある当裁判所において審理することになれば、著しい損害又は訴訟の遅滞を来すおそれがあり、これを避けるために東京近辺若しくは近畿地方により近い被告の住所地及び本件リース料支払債務の義務履行地の管轄裁判所である大阪地方裁判所に移送する必要があると認められる。

四以上のとおり、被告の本件申立ては、民事訴訟法三一条の規定に基づく移送を求める限度で理由があるから、主文のとおり決定する。

(裁判官井口実)

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