札幌地方裁判所 昭和63年(ワ)873号 判決
(抄録)
「一 先ず、本件リース契約の成否について検討すると、<証拠>によれば、Y1の代表取締役であったY2は、請求原因1のような契約条項の記載のあるリース契約申込書のユーザー欄にY1及びその代表取締役の記名、押印をし、また、その連帯保証人欄にY2の記名、押印をして、これをMを介して、Xに差し入れたことを認めることができる。そして、Y1代表者兼Y2本人は、Y2が右契約申込書をXに差し入れた時期が昭和六一年春頃であると供述し、<証拠>にも、これに沿うような記載があるけれども、直ちにこれを採用することはできず、右の時期は、以下に説示する一連の経緯に照らして、昭和六〇年八月二六日頃であったことが明らかである。したがって、Y1及びY2は、右申込書を差し入れたことによって、右の頃、Xに対して、それぞれ本件リース契約及び連帯保証契約の申込の意思表示をしたものというべきである。右各契約申込の意思表示が通謀虚偽表示であって無効であるとするYらの抗弁は、これを認めるに足りる証拠がなく、排斥を免れない。
そして、<証拠>によれば、Xは、昭和六〇年八月二六日頃、Yらに対して、引受け通知書を送付して、右各申込に対する承諾の意思表示をしたことを認めることができ(右引受け通知書を受領していないとするY1代表者兼Y2本人の供述は、措信できない。)、ここにXとY1との間の本件リース契約及びXとY2との間の連帯保証契約が成立したものということができる。
二 そこで、本件リース契約の内容についてみると、先ず、本件リース契約の目的たる本件リース物件の内容については、<証拠>によれば、オフィス・コンピューター・ミロクMS TOGETHERは、MがT(株式会社東芝)からOEM提供を受けたハードウェアにオペレイティング・システムとして最新日本語UNIX SYSTEM Vを搭載したうえ企業の会計、営業その他の総合管理システムとしての各種のアプリケイションソフトウェアを結集したいわゆるパッケージ商品であって、その全体としての代価の相当部分をソフトウェアのそれが占めており、もとよりハードウェアとソフトウェアとが一体として取引の対象とされるものであって、本件リース契約の目的としての本件リース物件も、このようなハードウェアとソフトウェアの双方を含むものであったことを認めることができる。証人Aの証言中、以上の認定に反する部分は、本件リース物件の右のような特質を看過して、コンピューターのソフトウェアのリース取引の一般論から演繹するものに過ぎないのであって、到底採用することができない。
次に、先に認定したとおりの本件リース契約の契約条項によれば、Y1は、サプライヤーたるMから本件リース物件の引き渡しを受けてその検査を遂げ、数量、品質等を確認したうえ、Xに対して初回のリース料を支払うべきものとし、右初回リース料支払いの日をリース期間六〇か月の開始日とし、また、Y1は、Xに対し、前記の初回のリース料のほか、初回のリース料を支払った日の属する月の翌々月以降のリース期間中毎月一〇日限り所定のリース料を支払うべきものとしているのであるが、その趣旨は、ユーザーは、リース主の履行補助者としてのサプライヤーからリース契約の目的物の引き渡しを受けて、それが契約の趣旨に適合したものであることを確認したうえで、リース主に初回のリース料を支払うべきものとすることによって、この初回のリース料の支払いに対してリース取引において通常行われている『物件借受証』の交付と同様の意味と機能とを付与することとし、リース会社においては、これによってサプライヤーからユーザーにリース契約の目的物が引き渡されたことを確認したうえで、その売買代金をサプライヤーに支払うこととするとともに、この初回リース料支払いの日をもってリース期間が開始するものとし、ユーザーにおいては、同日以降のリース料の支払義務を負担するに至るものとするにあると解するのが相当である。
したがって、このような契約条項によるリース契約にあっては、ユーザーは、サプライヤーからリース契約の目的物の全部または一部の引き渡しを受けず、かつ、リース主に対して初回のリース料を支払っていない以上、リース主に対して、リース料の支払義務を負うことはない一方、仮に、サプライヤーからリース契約の目的物の全部又は一部の引き渡しを受けていないにもかかわらず、ユーザーがリース主に対して初回のリース料を支払い、これによってサプライヤーがリース契約の目的物をユーザーに引き渡したものと誤信したリース主がその代金をサプライヤーに支払った場合又は信義則上これと同視すべきような事情がある場合においては、ユーザーは、その後のリース料の支払義務を免れるものではないというべきである(<証拠>によれば、本件リース契約の契約条項中には、『リース主は、リース物件の瑕疵について一切の責を負わず、隠れたる瑕疵があったときも、ユーザーは、サプライヤーとの間でその解決を行い、リース主に対しては一切の請求をいたしません。』との趣旨のいわゆる瑕疵担保責任免除条項が含まれていることが認められるけれども、右の条項は、リース契約の目的物の全部又は一部の引き渡し未了については、以上に説示したところと矛盾する限度においては、適用がないものと解するのが相当である。)。
三 これを本件についてみると、<証拠>によれば、本件リース物件のソフトウェアは、本件リース契約締結当時の昭和六〇年八月当時においては未完成であって、昭和六一年四月頃にようやくその完成をみたのであったが、Mは、昭和六〇年八月頃以降、資金繰りに窮していたこともあって、当初の二、三か月ないし数か月分のリース料は販売促進費名下にMにおいてこれを負担するとの特約までしたうえで、全国的に多数のユーザーに対してXを始めとするリース会社との間でミロクMS TOGETHERについてのリース契約を締結させ、未だユーザーにリース契約の目的物を引き渡していないのに、ユーザーのために初回のリース料を支払うなどして、リース会社からその売買代金の支払いを受けていたこと、Y1が本件リース契約を締結したのも、Mの右のような営業方針による拡販活動によってのことであって(もっとも、MとY1との間においては、本件リース契約によってY1が支払うべきリース料の一部をMにおいて負担するとの特約があったことを認めるに足りる証拠はない。)、Y1の代表取締役であったY2は、本件リース契約においても、通常のリース取引と同様、その目的物である本件リース物件の引き渡しを受けてからリース期間が開始するものであり、それ以降にリース料の支払義務が生じるものとの認識の下に、昭和六一年七月頃にMから本件リース物件のうちオペレイティング・システムさえも添付されていないハードウェアが納入されるまでリース料を支払うことなく、そのまま放置していたこと、ところが、Mは昭和六〇年九月二〇日頃、Y1からはなんらの委託も受けておらず、また、Y1に対してはなんらの通知、連絡もしないままに、Xに対して、Y1のために本件リース契約による初回のリース料九万三六四〇円を支払い、その後も、同年一一月から昭和六一年六月まで毎月本件リース契約による所定のリース料を支払ったこと、Xは、右のとおり本件リース契約による初回のリース料が支払われたことによって、本件リース物件がY1に引き渡されたものとして、昭和六〇年九月頃、Mに対して、本件リース物件の売買代金四三三万五〇〇〇円を支払ったこと、ところが、Mは、昭和六一年九月五日に破産宣告を受けて倒産し、結局、Y1に対して本件リース物件中のソフトウェア一切を引き渡さないままとなって、Y1は、本件リース契約の目的を達することができなかったことの各事実を認めることができる(ただし、右事実中、Mが昭和六一年九月五日に破産宣告を受けて倒産したことは、当事者間に争いがない。)。
以上の事実によれば、Y1は、Mから本件リース物件の重要な一部であるソフトウェアの引き渡しを受けておらず、かつ、Y1自身として初回のリース料を支払った訳ではないのはもとより、Mに初回リース料の支払いを委託したなど、Xが初回リース料の支払いがなされたことによって既にY1がMから本件リース物件全部の引き渡しを受けたものと信じてMにその売買代金を支払ったことに責めがあるなど、信義則上、Y1自身が初回のリース料を支払ったのと同視すべきような事情があるものとはいえないから、Y1は、先に説示したところに従い、Xに対して、本件リース契約に基づくリース料の支払義務を負うことはないものというべきである。」