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札幌地方裁判所 昭和55(ヨ)36 知的財産裁判例

主 文

1 本件申請を却下する。

2 申請費用は債権者らの負担とする。

理 由

第一 当事者の求めた裁判

一 債権者ら

1 債務者は本命令送達の日から別紙(三)、(四)表示のステンレス製牛乳缶型

容器をバター飴の容器として使用し、同容器を使用したバター飴製品の製造、販

売、頒布をしてはならない。

2 債務者方にある別紙(三)、(四)表示のステンレス製牛乳缶型容器及び同容

器を使用したバター飴製品に対する債務者の占有を解いて債権者の申立てた執行官

にその保管を命ずる。

この場合において執行官はその保管にかかることを公示するため適当な方法をと

らなければならない。

二 債務者

主文同旨

第二 当事者の主張

一 債権者ら 別紙申請の理由のとおり

二 債務者 別紙申請の理由に対する認否及び債務者の主張のとおり

第三 疎明(省略)

第四 当裁判所の判断

一 北誉がバター飴販売に使用した容器の形状が別紙(一)、(二)記載のとおり

であつたこと、北誉と観光名産との間で裁判があつたこと、北誉が破産宣告を受け

たこと、昭和五四年七月三〇日の新聞紙上に北誉及び債権者ら三社連名の広告を出

したこと、洞口が別紙(三)、(四)記載の形状の容器を製造し、これを債務者に

納入していること、債務者が別紙(三)、(四)記載の形状の容器に入れたバター

飴を北海道各地において販売していることは当事者間に争いがなく、疎明資料によ

ればその余の申請の理由事実及び債務者の主張事実が一応認められる。

二 ところで、債権者らは別紙(一)、(二)記載の容器と別紙(三)、(四)記

載の容器とは若干の相違があるものの全体的にみれば全く同一であり、商品として

混同のおそれがあると主張する。なる程、両者を比較すればステンレス製牛乳缶型

容器であることは主張のとおりであるが、子細に検討すれば債務者主張のとおりの

差異があり、殊に別紙(三)、(四)記載の容器においてはその蓋の部分に工夫が

加えられ、タバコの吸殻入れとなつているから、両者に誤認混同を生ずるおそれが

あるということはできず、その他債権者らの被保全権利及び保全の必要性を認める

に足る疎明はなく、保証を立てさせることによつて疎明にかえることも相当でな

い。

三 よつて、債権者らの本件申請を却下することとし、申請費用の負担につき民事

訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。

当事者目録、図面(省略)

申請の理由

第一 被保全権利について

一 申請外北誉製菓株式会社(以下単に北誉という)は昭和四七年四月から別紙

(一)、(二)表示のステンレス製牛乳缶型容器(以下債権者容器という)を使用

して、同容器にバター飴を入れて「北海道名産バター飴」(以下債権者商品とい

う)として北誉の主力製品として大々的に売り出し、その販売区域は北海道全域に

更には広く本州観光地にまで及んでいた。

二 北誉の債権者商品はその特徴ある債権者容器を使用しているために酪農業の盛

んな北海道のイメージを彷彿させ北海道地域における特色ある観光土産品として広

く認識され、優良道産品としても認定され、更には雑誌パンフレツトに北海道の代

表的土産品として写真付で掲載されたり有名デパート及び北海道内のほとんどの土

産品店等で販売されるに至つていた。

三 従つて、昭和五〇年当時は既に北誉の債権者商品は債権者容器を使用していた

ため問屋、小売店及び一般消費者間において北誉の商品として広く認識されてお

り、債権者容器は北誉の商品を表示するものとしていわゆる周知性を有する商品表

示であつた。

四 そして北誉から申請外北海道観光名産株式会社(以下観光名産という)に対す

る不正競争行為差止事件に関する仮処分決定及び判決が業界新聞、日刊新聞等によ

り大々的に報道されるに及んで、問屋、小売店等業界においては債権者容器は北誉

の商品を表示するものであるとの認識はより一層確立され、その後は市場に類似品

等も出廻ることなく北誉の債権者商品は順調にその売上げを伸ばしていつた。

五 ちなみに北誉の債権者商品が北誉の製造販売する全商品の販売総額に占める割

合は約三〇パーセントであり、債権者商品が売れることにより、北誉の名が業界に

おいて周知になり、北誉の業界あるいは銀行等における信用が増進され、北誉が製

造販売する他の商品に対する業界からの引合いが増加するあるいは販路が拡張する

等のいわゆる営業面を考えた場合、債権者商品が北誉の営業面に占める割合は約九

〇パーセントにも達する。

六 従つて、北誉が債権者容器を使用した債権者商品を製造、販売しているという

事実状態は北誉の営業そのもの、少なくとも北誉の営業の重要な一部であるという

ことができ、北誉が債権者容器を使用して債権者商品を製造、販売している事実状

態は営業の譲渡として取引の対象となりうるものである。

七 現に北誉が破産宣告を受けた当時、北誉の取引先あるいは雪印、池田製菓等か

ら破産管財人に対して北誉が債権者容器を使用して債権者商品を製造販売している

事実状態を買取りたい旨の打診がなされている。

八 そこで北誉とかねてから取引のあつた債権者らはそれぞれ昭和五四年七月二一

日破産管財人から北誉が債権者容器を使用し同容器にバター飴を入れて「北海道名

産バター飴」として販売していた営業上の事実状態を意匠として買受けた。

九 そして債権者らは昭和五四年七月三〇日北海道新聞及び業界紙上に北誉がかね

て販売していた債権者容器を使用した債権者商品の意匠は債権者らが譲受けた旨の

広告を掲載するとともに直ちに債権者容器を使用し同容器にバター飴を入れて「北

海道名産バター飴」(以下同様に債権者商品という)としてその製造販売を開始し

た。

その販売先は北誉がかねて取引していた問屋、小売店と全く同一である。

一〇 現在では問屋、小売店等の業界において北誉が債権者容器を使用し、同容器

にバター飴を入れて「北海道名産バター飴」として販売していた営業の事実状態は

債権者らに引継がれ債権者らが同容器を使用して同容器にバター飴を入れて債権者

商品を製造販売しているということが認識されている。

一一 従つて、債権者容器は少なくとも問屋、小売店業界においては債権者らの商

品を表示するものとして広く認識されており、いわゆる周知性を有する商品表示で

あるということができる。

もし仮に債権者容器が債権者らの商品を表示するものとして未だ広く認識される

に至つていないとしても債権者らは破産管財人から北誉が債権者容器にバター飴を

入れて債権者商品を製造販売していた事実状態を意匠として譲受けたことにより債

権者容器という商品表示によつて表象される北誉のグツドウイルを正当に承継して

債権者容器を使用しているのであるから債権者らは債務者に対して不正競争防止法

第一条第一項第一号により、債務者の行為の差止を求める権利がある(参照東京高

判・昭・四八・一〇・九、判例タイムズ三〇二・一七〇)。

第二 債務者の不正競争行為

一 北誉は昭和四七年「北海道名産バター飴」を発売して以来、債権者容器の全て

を申請外洞口製缶所(以下洞口という)にその製作を発注し、洞口では北誉から発

注を受けて製造した債権者容器のうちごく少量を千葉県下の牧場に売却する以外は

全て北誉に納品していた。

二 しかし北誉と観光名産との前記仮処分決定に対する異議申立の審理の途中で、

債権者容器の原型を考案したのは申請外有限会社富士野金属(以下富士野という)

であることが判明したため、北誉は右異議申立に対する判決が言渡された後は、債

権者容器の一部の製作を富士野に発注し、富士野からも納品させていた。

三 北誉が破産し、債権者らが破産管財人から北誉が債権者容器を使用し同容器に

バター飴を入れて「北海道名産バター飴」として販売していた営業上の事実状態を

意匠として譲受けた後、債権者らは洞口及び富士野に対して債権者容器の製造販売

を依頼したところ、富士野はこれを了承したが、洞口は検討してみるとだけ返答し

た。

四 ところが、洞口は昭和五四年八月初めころから債権者容器と同じ材質であるス

テンレスを使用して、別紙(三)、(四)表示のステンレス製牛乳缶型容器(以下

債務者容器という)を製作しはじめ、同年一一月末ころ債務者に対し、債権者容器

を開発したのは自分であるから債権者容器は自分が自由に販売できると申し向け

て、債務者容器を販売した。

五 債務者はかねてから北誉と取引をし、「北海道名産バター飴」を扱つており、

北誉と観光名産との仮処分及び異議申立に対する判決等について知悉しているにも

かかわらず、債務者は債務者容器を使用し同容器にバター飴を入れて「北海道銘菓

バター飴」として道東及び道央方面において昭和五四年一二月初ころから販売をは

じめた。

第三 債権者商品と債務者商品との混同について

一 不正競争防止法第一条第一項第一号においていう「他人の商品たることを示す

表示と同一若しくは類似のもの」とは、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれ

があるか否かによつて決すべきであり、それには商品に使用された表示がその外

観、称呼、観念等によつて取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に

考察すべきであり、しかもその具体的な取引状況に基づいて判断すべきである。

二 従つて、右類似のものというには、商品表示が細部にわたるまで完全に一致す

ることが必要とされるわけではなく、取引事情を全体として観察したうえ、一般需

要者ないし取引者において、これを同一又は類似のものと考えるのが通常であるか

否かによつて決すべきである。

三 そしてまた、その商品表示のイメージを構成する主要な部分で共通のものがあ

れば、その商品表示は全体として類似があるものとみることができる。

四 そこで本件についてこれを見ると

債権者らの商品も債務者の商品もともにその商品のイメージを構成する主要な部

分は、バター飴の容器としてステンレス製牛乳缶型容器を使用していることであ

り、しかも債権者容器と債務者容器とが異なつている点は、債務者容器の方が債権

者容器よりも高さが低いこと、債務者容器は蓋の上部が平で花びらの様に波状にな

り、更につまみのついた小さな蓋がついて、その蓋の下は穴があいており、取手の

部分が段々になつて胴部分に牛の打出しがあるのに対し、債権者容器は蓋の部分が

逆円すい状に広がつており取手の部分が平になつて胴部分には牛の打出しがない

が、それ以外の点は債権者容器と債務者容器とは全く同一である。

そして右の違いは債権者容器と債務者容器とを比較した場合、ごく細部の違いで

あるに過ぎず全体的にみれば債権者容器と債務者容器は全く同一と考えることがで

きる。

五 なお、債権者商品と債務者商品のラベル、包装箱には若干の相違点があるが、

そもそもステンレス製牛乳缶型容器入りバター飴を購入しようとする問屋、小売

店、消費者等はその包装箱、ラベルによつてではなく債権者容器そのもので商品を

選択すると見るのが相当であるから債権者商品と債務者商品の包装箱、ラベルに若

干の相違点があるとしても直ちに債権者商品と債務者商品との間に混同が生じなく

なるわけではない。

六 債権者商品と債務者商品がともにバター飴であること、観光土産品であるこ

と、商品を求める消費者が観光客であること、両商品がともに観光土産店で販売さ

れ、同一系統の取引者によつて取り扱われる等々を前提にしてステンレス製牛乳缶

型容器、包装箱、ラベルを全体的に見て債権者商品と債務者商品とを比較した場合

両者の間には商品表示の類似が存し、その出所については同一又は何らかの関係が

あるのではないかと思わしめる混同のおそれがあるといわなければならない。

第四 営業上の利益を害されるおそれについて

一 営業上の利益を害されるおそれとは現実に不正競争行為がなされた場合で現実

に営業上の利益を害されたことは要しないが、営業上の利益を害される蓋然性があ

る場合をいう。

二 本件についてこれを見るに

(一) 債務者は道東方面における有数の菓子類の問屋であり、かねてから北誉と

債権者商品の取引を行ない、自己の販売系路を利用して各小売店に債権者商品を販

売していたが、債務者は昭和五四年一二月ころから債務者商品を自己の販売系路を

利用して各小売店に販売し出した。

(二) 一方債権者らは北誉がかねてから取引していたと同一の問屋、小売店等に

対して債権者商品を販売しており、右販売先は債務者の販売先と重複している。

(三) 債権者らの販売先と債務者の販売先が重複していることにより債権者らに

対して各取引先から同一商品が出廻つているが債権者らと債務者との関係はどうな

のかとか価格が統一されていない等の問合わせや苦情が相次いで寄せられている。

(四) そしてまた債権者らの取引先と債務者の取引先とが重複しているところで

は現実に債権者らの商品は販売できなくなつている。

等々の事情を考慮すると債権者商品と債務者商品との間に商品の出所について現

に混同が生じており、債務者の商品の販売がなお行なわれる場合には債権者らが営

業上の損害を受けることは明らかである。

三 従つて、債権者らは不正競争防止法第一条第一項第一号により債務者の債務者

容器を使用した債務者商品の製造販売販布の差止を求めることができる。

以上

申請の理由に対する認否及び債務者の主張

一 申請の理由のうち、北誉がバター飴販売に使用した容器の形状が別紙(一)、

(二)のとおりであつたこと、北誉と観光名産との間で裁判があつたこと、北誉が

破産宣告を受けたこと、昭和五四年七月三〇日の新聞紙上に北誉及び債権者ら三社

連名の広告を出したこと、洞口が別紙(三)、(四)の形状の容器を製造し、これ

を債務者に納入していること、債務者が別紙(三)、(四)の形状の容器に入れた

バター飴を北海道各地において販売していることは認めるが、その余は争う。

二 北誉が菓子容器に使用した缶は、Aから納入を受けたものであつて、右形状は

北誉独自のものではなく、すでに容器として公知のものであり、その意匠について

の権利も存続期間満了により公有財産に帰しているから、北誉の商品表示としての

周知性を取得しない。

三 債権者らは昭和五四年七月二一日北誉の破産管財人から「営業上の事実状態を

意匠として」譲受けたと主張するが、その対象は何か全く明らかでなく、被保全権

利はない。

四 別紙(三)、(四)の形状の容器は、上面を一〇片の花弁よりなる花形とし、

摘み蓋をとればタバコの吸殻を容れるすかし穴を設け、プレゼント用としてリボン

が結着されている。この容器に名称を付するならば、タバコ吸殻入れ兼用集乳缶と

いうべく、債権者の別紙(一)、(二)の集乳缶とは全くその外観、形状を異にし

ているから、商品の混同のおそれはない。

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