札幌地方裁判所室蘭支部 昭和29年(ヨ)34号 決定 1954年9月04日
申請人 株式会社日本製鋼所
被申請人 日本製鋼所室蘭製作所労働組合
主文
一、別紙目録記載の土地およびその地上にある建物百三十一棟、延建坪四万五千百三十三坪のうち被申請人組合事務所(別紙図面黄色の部分)および申請人会社室蘭製作所裏門より同事務所に至る通路(同図面赤色の部分)をのぞくその余の部分に対する被申請人組合の占有を解き、申請人の委任する執行吏の占有に移す。
二、被申請人組合は所属組合員を執行吏の右占有中ある土地および建物内に立入らしめてはならない。
被申請人組合の組合員は第三項記載の業務を行う場合の外、右土地および建物内に立入つてはならない。
三、執行吏は申請人の申出により申請人が右土地および建物内においてその従業員を指揮し業務を行うことを許すことができる。
四、執行吏は前各項記載の趣旨を公示するため、適当な方法をとらなければならない。
(注、無保証)
理由
(疎明された事実)
申請人会社は近年の経済不況その他の原因により昭和二十八年四月以降毎日二千万円内外の赤字を示し、昭和二十九年五月には赤字合計実に数億円の巨額に達するに至つたので、赤字を克服し企業の採算を維持するためには、人員整理を含む企業合理化が必要であるとし、昭和二十九年六月十七日より同年七月五日迄十三回にわたり被申請人組合らが所属する日本製鋼所労働組合連合会に対して整理人員数ならびに整理基準等各種の説明資料を示して団体交渉を重ねたが遂に妥結するに至らなかつた。そこで申請人会社は同年七月八日右整理基準に基ずき被申請人組合員高橋一外九百名に対して同日限り解雇すること、解雇の予告手当金および退職手当金等は同月十八日までに室蘭製作所事務所で支払う旨の解雇通知をなし、且つ又、同日以降これらの者の申請人会社の工場内における就労を拒否するための措置をした。然るに、被申請人組合は解雇の無効を主張して右解雇の通知を受けた者の強制就労および他の従業員には会社が賃金計算事務のために設けた出欠、遅刻、早退を証するタイムカードの打刻を禁じた。しかも被申請人組合は工場敷地表裏の出入門を集団の実力を以つて管理し、出入りの会社従業員、得意先来客等に対して身分証明書の呈示を求めるなどの挙に出たため、申請人会社は同年七月二十日被申請人に対し翌二十一日午前六時から作業所閉鎖をなす旨の通告を発し、同日午前三時より同五時までの間に別紙図面の赤色の部分に杙を立て有刺鉄線を張りめぐらし、又、表門を閉鎖した外、表裏の出入門ならびに作業所主要工場出入口等に作業所閉鎖宣言書を掲示するなど適法に作業所閉鎖を実施した。
ところが、被申請人組合は同日午前五時五十分頃その組合員をして、右閉鎖施設を破壊除去して集団の実力により組合員を閉鎖地区内およびその建物内に立入らしめてこれを占拠し、爾来申請人会社の度重なる警告ならびに作業所閉鎖の措置があつたのに拘らず、尚依然として右占拠の状態を持続しているものである。
(当裁判所の判断)
思うに、申請人会社の解雇通知の当否、或はその解雇の効力の如何はしばらく論外として、いやしくも経営者である申請人会社が争議の手段として適法な作業所閉鎖を実施したものである以上被申請人組合員の右閉鎖地区内えの立入りは違法であること多くいうまでもない。而して、当裁判所は当事者間の団体交渉その他争議中の経緯にかんがみ、仮処分決定の要否およびその時期等につき慎重を期したのであるが、今や申請人会社の事業に関連する企業の倒産破産等の危機が続出し、又は種々の社会問題をも派生しつつあるとき(これらの問題は必しも申請当事者の責任に帰するべきではないにしても)もはやこれ以上の遅延をゆるさないものと考え、敢えて主文のとおり決定した次第である。
(裁判官 安久津武人)
(別紙目録・図面省略)