札幌地方裁判所小樽支部 平成13年(ワ)7号 判決 2004年1月26日
主文
1 被告は,原告らに対し,それぞれ1546万4932円及びうち1406万4932円に対する平成12年1月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し,その3を被告の,その余を原告らの各負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実
第1当事者の求めた裁判
1 原告ら
(1) 被告は,原告らに対し,それぞれ2867万6208円及びうち2607万6208円に対する平成12年1月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
(3) 仮執行宣言
2 被告
(1) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告らの負担とする。
第2当事者の主張
1 請求原因
(1) 当事者等
C(平成4年9月10日生。)は,平成12年1月27日,低酸素状況における窒息及び低体温により死亡し,翌28日午後1時35分ころ,北海道小樽市ab丁目c番に所在するx(周囲を市道に囲まれた南北に長く伸びる緑地帯で,その内側には遊歩道及び公園が設けられている。)の中央部付近の雪中約1.5メートルの位置に埋もれている状態で発見された(以下,Cが発見された地点を「本件事故現場」という。)。Cは,死亡当時満7歳で,d小学校の1年生であった。
原告AはCの父,同BはCの母であって,いずれもCの法定相続人である。
(2) 事故の発生(以下「本件事故」という。)
ア Cは,平成12年1月27日(以下「本件事故当日」という。)午後2時30分ころ,x内の本件事故現場にあった雪穴に入って遊んでいた。
イ 被告は,そのころ,ロータリ除雪自動車(登録番号はe。以下「本件除雪自動車」という。)でx周辺の市道f線の拡幅除雪作業(道路脇に寄せられた雪を除去して本来の道幅に広げる作業。以下「本件除雪作業」という。)をしていたが,これは被告の土木部が直接担当して行ったもので,被告の職員であるD及び同臨時職員であるEが,それぞれオペレーター,作業助手として,同除雪自動車を操作し,道路上の積雪を機械で吸い上げてダクトを通して吹き飛ばす方法により行ったものであった。
ウ Cは,本件除雪自動車が投雪した雪により雪穴が塞がれたため,雪穴に閉じこめられて脱出できなくなり,窒息及び低体温により死亡した。すなわち,本件除雪自動車が吹き飛ばした雪は,x側に投雪され,x端から道路側になだらかに傾斜した雪山状態の積雪の上に堆積し,雪の斜面を伝って徐々にxの中央部分に流れ落ちるか,直接x内に吹き飛ばされるかするのであり,このいずれかによって雪穴に到達してこれを塞いだのである。
(3) 責任原因
ア 自動車損害賠償保障法3条に基づく責任
本件除雪自動車は自動車損害賠償保障法にいう「自動車」に該当するところ,除雪作業の装置はロータリ除雪自動車の固有の装置であり,これを用いて除雪をすることがロータリ除雪自動車の本来の使用方法であるから,本件除雪自動車による除雪作業は,当該装置の用い方に従い用いたものとして,同法のいう「運行」に該当する。
被告は,本件除雪自動車を所有し,これを自己のために運行の用に供して本件除雪作業を行っていたところ,同除雪作業によりCが死亡したのであるから,これにより生じた損害を賠償する責任を負う。
イ 国家賠償法1条1項に基づく責任
本件除雪作業は,被告の事務であり,その除雪作業に従事したのは被告の職員であるD及び臨時職員であるEであるから,本件除雪作業は,国家賠償法1条1項にいう「公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行う」場合に該当する。
ロータリ除雪自動車で道路拡幅のための除雪作業を行う際には,除雪車のシュートからの投排雪により人の生命及び身体に危害を及ぼすおそれがあり,特に,本件事故の発生したxは,付近に小・中学校が存在し,児童,生徒の遊び場としてよく利用されていたのであるから,被告は,同所に子供が立ち入り,除雪作業によりその生命及び身体に危害を及ぼすおそれがあることを容易に予見することができた。
したがって,D及びE(以下「Dら」と略称する。)は,本件除雪作業に当たっては,ロータリ除雪自動車による投排雪の落下地点やその周囲に人がいないことを運転席から目視し,死角となる場所についてはロータリ除雪自動車から降車して目視することにより確認するか,その投排雪によって危険が及ぶ範囲に人が立ち入らないように事前又は作業中に注意を促し又は警告するか,若しくは人が立ち入らない時間帯に除雪作業を行うなど,上記の危険を防止する措置を執るべきであった。
しかるに,Dらは,投排雪の落下地点が運転席から死角になっていたにもかかわらず,これらの措置を執ることを怠り,漫然と本件除雪自動車の運転席から見える範囲のみを見て周囲に人がいないものと軽信して本件除雪作業を行い,Cを死亡させた。
したがって,被告は,これにより生じた損害を賠償する責任を負う。
ウ 国家賠償法2条1項に基づく責任
xは,冬期間は,周囲の市道の拡幅のため除雪した雪の堆積場所となっていたところ,同公園は冬期間でも出入りが自由であったため,子供達が同公園内で雪穴やかまくらを作って遊ぶことが多かった。このような雪穴やかまくらは,その入口がロータリ除雪自動車による投排雪により塞がれたり,その天井が崩落することなどにより,中にいる子供が閉じこめられて脱出が不可能となり,窒息するなど人の生命及び身体に危険を及ぼすおそれが多分にあるものであった。
被告は,xを設置,管理していた上,xをロータリ除雪自動車による除雪の雪捨て場として利用していたのであるから,このような危険を予測し,x内に安全監視員を配置し,学校等を通じて危険防止のため警告したり,又はx内に注意を促す標識を設置するなど,上記の危険を防止する措置を講じるべきであった。
しかるに,被告は,これらの措置を何ら講じなかったから,xは,通常有すべき安全性を欠いていたといえる。
本件事故は,このようなxの設置,管理の瑕疵により発生したものであるから,被告は,これにより生じた損害を賠償する責任を負う。
(4) 損害
ア 逸失利益 2568万0087円
(ア) 基礎収入については,賃金センサス平成11年第1巻第1表産業計・企業規模計・学歴計・女性労働者全年齢平均(345万3500円)によるのが相当である。Cは,本件事故当時7歳で,18歳から67歳までの49年間就労が可能であったところ,生活費控除率を3割とし,ライプニッツ方式(ライプニッツ係数は,7歳から67歳までの60年に対応する同係数の18.9292から,7歳から18歳までの11年に対応する同係数の8.3064を控除した10.6228による。)により中間利息を控除すると,その逸失利益は,2568万0087円となる。
(イ) 慰謝料 2400万円
(ウ) 葬儀関係費用 246万9309円
(エ) 病院費用 3020円
(オ) 上記(ア)ないし(エ)の合計額 5215万2416円
イ 相続
原告らは,いずれもCの法定相続人であるところ,Cの死亡により,アの損害賠償請求権を法定相続分(2分の1ずつ)に従い相続した。
ウ 弁護士費用 520万円
被告が上記金額の損害賠償金を任意に支払わないため,原告らは,弁護士に委任して本件訴訟を遂行することを余儀なくされた。被告は,これにより原告らが支払を約束した弁護士費用のうち,520万円(原告1名につき260万円ずつ)を支払うのが相当である。
(5) よって,原告らは,被告に対し,自動車損害賠償保障法3条,国家賠償法1条1項又は同法2条1項に基づく損害賠償請求として,それぞれ2867万6208円及び同金員から弁護士費用を控除した金額である2607万6208円に対する本件事故発生日である平成12年1月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する認否及び被告の主張
(1) 請求原因(1)の事実は認める。
(2) 同(2)アの事実は不知,同ウの事実は否認し,同イの事実は認める。
本件除雪作業とCの死亡との間には因果関係は認められない。
本件除雪自動車によって除雪された雪は,x内には飛ばされず,x外周の雪山の頂上部分から道路側の斜面に雪を積み上げるように投雪されたものである。したがって,Cの発見されたx中央部には本件除雪作業の影響は全くなかったのであり,Cがその作業により死亡するとは到底考えられない。
また,Dらは,路面方向及び投雪方向について注意深く観察していたところ,本件除雪自動車の運転席からの視野は広く,運転席における視線の高さも約2.8メートルあるため,x内部の見通しも可能であり,投雪の落下地点は十分確認することができた。本件除雪作業中,Dらは,投雪の落下地点を目視し,確認しながら作業を続けたのであり,Cの存在は無論のこと,子供の遊んでいる姿,あるいは衣類,遊び道具等子供の存在を推測させるものも全く視認していない。
原告らの主張するように投雪がCを埋めたということはあり得ないことである。
原告らの主張する事故態様によれば,Cは本件事故当日の午後3時過ぎころ死亡したと考えるのが相当であるところ,これは,鑑定によるCの死亡推定時刻が同日の午後10時ころとされていることと矛盾する。
Cが雪穴に入っていたところ,何らかの原因により雪穴が崩落してこれに閉じこめられた可能性や,本件事故当日に行われた捜索のため雪穴が崩壊したり,雪穴の上に雪をかぶせてしまった可能性もあり,Cの死亡原因は不明であるといわざるを得ない。
(3)ア 同(3)アのうち,本件除雪自動車の所有者が被告であることは認め,その余は争う。
仮に,本件除雪作業によってCが死亡したとしても,これは,除雪の方向や手順,場所等といった除雪作業内容に起因したものであって,ロータリ除雪自動車の操作によって発生したものではないから,これをもって自動車損害賠償保障法にいう「運行」に該当するということはできない。
したがって,被告は自動車損害賠償保障法3条に基づく責任を負わない。
イ 同(3)イのうち,本件除雪作業が被告の事務であること,これに従事したのがDらであることは認めるが,法的主張は争う。
冬期間に子供達がxの中で遊ぶことが常態化していたことはなく,本件除雪作業を行ったDらもこれまでx内で遊んでいる子供の姿を見たことはなかったし,付近住民から除雪作業に当たって子供達の存在に注意するよう申入れを受けたこともなかったのであるから,Dらが,本件除雪作業において,x内に子供が存在し,その生命及び身体に危険を及ぼすおそれがあると予見することは不可能であった。
また,本件除雪作業に当たって,Dらは,いずれも本件除雪自動車の運転席から前方や投雪地点を注視して作業をし,通常の除雪作業において要求される注意義務は尽くしていた。
さらに,除雪作業の必要性,緊急性等に照らすと,除雪時間を子供のいない時間帯に制限することは困難であるし,安全性に問題がない限り,このような制限の必要はない。
このように,Dらには,本件除雪作業を行うについて,故意も過失もないのであるから,被告は,国家賠償法1条1項に基づく責任を負わない。
ウ 同(3)ウのうち,被告がxの設置,管理をしていたことは認め,xが冬期間除雪した雪の堆積場所となっていたこと,子供達が公園内で雪穴やかまくらを作って遊ぶことが多かったこと,被告がxを雪捨て場として利用していたことは否認し,雪穴やかまくらの危険性は不知,法的主張は争う。
除雪された雪が積まれていたのはxの周囲であってxの内部ではない。被告は,xを設置,管理する者として,同公園内の遊具等の諸設備や,同公園の造作,構造等につき安全管理を行う義務を負うものの,同公園内の雪穴崩壊等による事故を防止する措置を講ずることは,営造物自体の設置,管理責任とは関係のない事柄である。冬期間に子供が雪穴を掘り,その中に入って遊ぶことは至る所で行われており,xのみがその危険性を有しているものではない。雪穴崩壊等による事故の危険性は,いわば自然環境(積雪)と人為的作業(雪穴)とに基づき,どこででも起こりうる一般的なものであって,営造物の設置,管理に基づく危険責任の法理とは次元の異なる問題である。
また,xにおいては,これまで本件のような雪穴による事故は一切発生しておらず,住民などからその危険性を指摘されたこともないから,被告がこのような事故の発生を予見することは不可能であった。
したがって,被告は,国家賠償法2条1項に基づく責任を負わない。
(4) 同(4)アは争う。同(4)イのうち,原告らがCの法定相続人であることは認め,その余は争う。同(4)ウのうち,原告らが弁護士に本件訴訟の遂行を委任したことは認め,その余は知らない。
3 抗弁(過失相殺)
原告らは,xが本件事故のような事故発生の危険性を有する場所であることを十分承知していたのであるから,Cに対して,その危険性につき日頃から注意し,x内に立ち入ったり,雪穴に入って遊ばないよう指導,監督すべきであったが,このような指導監督を行わず,頻繁にCをx内で遊ばせていた。本件において,被告に何らかの責任が認められるとしても,損害賠償額の算定に当たっては,このような原告らの落度を被害者側の過失として斟酌すべきである。
4 抗弁に対する認否
抗弁のうち,原告らがxが危険性を有する場所であることを承知していたことは認めるが,被告の主張は争う。
本件除雪自動車の投排雪が原因で雪穴が塞がれることによる危険性についていえば,あらかじめ親が子供に注意,指導していたとしても,本件のように,平日,低学年の子供の下校時ころに,事前及び除雪作業時の警告も一切なく除雪作業が行われた場合には,Cのような幼い子供が危険を回避することはおよそ期待できないのであり,除雪作業を行う被告の側において危険を予測し,防止措置を講ずるほかに被害の発生を防ぐことはできない。
したがって,原告らの側に過失は認められない。
理由
1 請求原因(1)について
請求原因(1)の事実については当事者間に争いがない。
2 請求原因(2)について
(1) 請求原因(2)イの事実は当事者間に争いがない。
(2) そこで,請求原因(2)ア及び同ウについて判断するに,前記1及び2(1)の事実に加え,証拠(甲第3,第4,第6ないし第9,第17,第20ないし第26,第28,第29及び第34号証,乙第2ないし第9号証,証人F,同G,同D及び同Hの各証言並びに原告B本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,同認定を覆すに足りる証拠はない(括弧内に主要な証拠を掲記する。)。
ア xの状況等(甲第6,第17及び第20ないし第23号証,証人Fの証言並びに原告B本人尋問の結果)
xは,小樽市ab丁目c番に所在する,全長(北東方向から南西方向にかけての長さ)約440メートル,全幅(北西方向から南東方向にかけての長さ)約36メートルの,長方形の形状でその中心部が公園として利用されている敷地であり,その長辺の両側を,幅員約7.3メートルの一方通行の市道(市道f線及び市道g線)に挟まれている。
xには,本件事故当時積雪があり,同公園の外周は,市道を除雪する除雪車の排雪等が積み上げられて壁状の雪山となっていた。また,同公園内の積雪の状態は,上記雪山部分と比較して積雪量は少なく,同雪山から同公園の中心部に向かい谷のような形状になっていたが,同公園は近隣の居住者が除雪する際の排雪場所となっていたこと,通路のように踏み固められた部分があったことなどから,その積雪量は一定ではなかった。
本件事故現場は,xの中央部よりやや南東側にあり,同公園とこれに接する市道f線との間の上記壁状の雪山の外縁部から本件事故現場までの距離は,本件除雪作業後において約3.85メートルであった。
本件事故当日以前から,本件事故現場付近には児童が横になって入ることができるほどのL字形の雪穴があり,実際に児童がその中に入って遊ぶことがあった。
なお,小樽市内においては,本件事故前々日の平成12年1月25日夜から翌朝にかけて4ないし5センチメートルの降雪があり,同月26日午後から本件事故当日である同月27日の午前中までは十数センチメートルの降雪があったが,午後零時から同5時にかけては降雪はなかった。
イ 被告による除雪作業(甲第7ないし第9号証,乙第2ないし第5号証並びに証人F及び同Dの各証言)
被告は,土木部において小樽市内の除雪作業を担当していたところ,同部は,同市を4つの区域に区分し,そのそれぞれに第1ないし第4ステーションを置き,職員を配置しているが,第1,第3及び第4ステーションの除雪作業は除雪業者に外注し,xを含む市内中央部を担当する第2ステーションについてのみ被告が直接担当して除雪作業をしていた。
本件事故当日の午後2時30分ころから同日午後4時過ぎころまでの間,被告の職員であり,本件事故当時第2ステーションに勤務していたDは,同ステーションの運行管理者の指示により,被告の臨時職員のEとともに本件除雪自動車を使用してxの周辺の市道の拡幅除雪作業を行った。同拡幅除雪作業は,d小学校付近を起点とし,x沿いの市道f線を北東方向に向かって進行し,本件事故現場付近の除雪作業は午後3時ころに実施された。
本件除雪作業に使用された本件除雪自動車は,全長716センチメートル,幅260センチメートル,高さ339センチメートルの大きさで,車体の最前部下側に取り付けられたオーガという名称のスクリュー状の羽根を回転させることにより雪を吸い込み,これをブロアという名称の投雪装置によって直接,または車体上部前方に設けられたシュートという名称の筒型の装置を通じて外部に飛ばして投雪する仕組みとなっている。シュート及びこれに付属するキャップは投雪位置を調節するための装置で,シュートの向き,キャップの上下及び転回などの操作によって雪を飛ばす方向(左右及び上下角)を調節することができる。また,ブロアは,ギアを1速から3速まで変化させることができ,これにより投雪距離を調節することができる構造となっており,本件除雪自動車の最大投雪距離は,仕様書上,シュートを使わず直接ブロアケースの投雪口から投雪した場合,1速では18メートル,2速では27メートル,3速では35メートルである。また,本件除雪自動車の最適な条件を想定した場合の最大除雪量は1時間当たり2100トンである。本件除雪自動車で除雪した雪は,オーガで集められた後,シュートを通じて投雪される過程で圧縮されて投雪されるため,投雪される雪の元の状態にもよるものの,投雪前の雪よりも締まった状態になることが多い。
Dらが除雪作業のためxに到着したところ,市道f線の積雪の状態は,付近住民が除雪をして道路のx側に投げ捨てた雪が道路の中央付近までせり出してきている状態であった。xの外周は,前記アのとおり,従前の除雪の際の排雪等により,市道に沿って壁状の雪山となっていたところ,Dらは,この雪山の頂上付近にシュートから出る雪をぶつけるようにして同部分に雪を積み上げるように投雪した。同除雪作業の際,本件除雪自動車は,ブロアのギアを1速とし,シュートの高さは最大限にのばした状態で,その向きはxの方向である左前方に向けられ,シュートに付属するキャップを調節して下方へ雪を落とすように調整されていた。本件除雪自動車による投雪は相当多量のものであったが,投雪された雪は,雪山の上に積み上げられるものと道路側にこぼれ落ちるものがあった他,x内に流れこむものもあった。本件除雪自動車の運転席は地上約2.8メートルの高さにあり,前記の雪山の頂上よりも高かったため,同運転席からx内部の半分以上を見渡すことができたが,雪山の裏側には運転席から見えない部分もあった。本件除雪作業中の本件除雪自動車の進行速度は,人が歩行する程度の速度であった。
ウ 本件事故当日のCの行動及び捜索状況等(甲第3,第4,第20ないし第22,第24ないし第26,第28,第29及び第34号証,乙第6ないし第9号証,証人F,同G及び同Hの各証言並びに原告B本人尋問の結果)
(ア) Cは,本件事故当日の午後1時45分ころ,d小学校から下校し,同日午後2時15分ころ,xに近接して所在する伯母方に立ち寄り,伯母のIに対して「xで友達と遊んでくる。3時30分には帰る。」などと言って遊びに出かけた。その時のCの服装は,上下がつなぎの赤色のスキーウェアで,帽子が赤色,手袋及び長靴がピンク色であった。
(イ) Cが同日午後4時ころになってもI方に戻らないため,Iは,Cの安否を心配し,自宅の周辺やx内で大声を上げるなどしてCを探したが見つからなかった。
同日午後4時30分ころにI方にCを迎えに行った原告Bは,IからCが帰って来ないと聞き,x内等で大声を上げてCを呼ぶなどして探したが,Cは見つからなかった。この時,既に辺りは暗くなっていたが,x内は街路灯が点灯していたため,ある程度の明るさがあった。
同日午後5時30分ころ以降は,Iの夫や長男に加えて小樽警察,小樽市消防団,被告職員,付近住民等が捜索に参加し,x内の積雪をスコップで掘り返し,棒を雪に刺して検索するなどした他,翌28日の午前零時30分ころからはミニユンボ2台を使用してx外周の雪山を除去したが,Cは見つからず,同日午前1時30分ころ,捜索作業は一旦中止された。
(ウ) Cの捜索作業は同日午前8時30分ころから再開され,同日午後からはミニユンボ2台を使用して積雪を掘り起こす作業が行われたところ,同日午後1時35分ころ,本件事故現場の雪中からCが死亡した状態で発見された。
Cの遺体は,本件事故現場の雪中に存在した,周囲の一部が氷の壁状になった雪穴の中から仰向けになった状態で発見された。同雪穴は,その最下底部が地表から20センチメートルの位置にあり,幅及び奥行き各約1.2メートル,深さ約1.16メートルの大きさで,その南側には,幅約1.2メートル,高さ約1メートル,奥行約30センチメートルの横穴が付属していた。同雪穴は,xと市道f線との間の壁状の雪山(前記ア参照)の麓の位置にあり,同雪穴の南側は,同雪山の頂上に向け,急勾配の登り面となっていた。
発見時,Cの遺体の周囲にあった雪は,新雪ではなかったが,救助に当たった消防署の救助隊員が素手で容易に取り除くことができる程度の柔らかさであり,前記の雪穴の周囲の一部のような氷の壁状のものとは明らかに異なるものであった。また,この際,Cの遺体の上に大きな雪塊や氷塊が乗っているということはなかった。Cの遺体が掘り出された後の雪穴の底部には少量の小石大の玉雪があり,この玉雪を取り除いた場所からCの手袋と帽子が発見された。
(エ) 一般に,窒息死は空間内の酸素が欠乏して生じる場合などの他,外部から胸郭が圧迫されることにより,呼吸に必要な胸郭の拡張が妨げられ,呼吸運動を行うことができずに生じる場合もある(いわゆる圧死)ところ,圧死の場合は胸腹部の表皮剥脱や皮下出血,肋骨や胸骨の骨折,顔面や頸部のうっ血が認められることが多いが,Cの遺体にはそのような所見はなかった。
(3)ア 以上に認定した事実を前提として検討するに,前記(2)ウ(ウ)のとおり,Cは,平成12年1月28日の午後1時35分ころ,本件事故現場の雪中から死亡した状態で発見されたところ,前記(2)ウ(イ)のとおり,Iが本件事故当日の午後4時ころにはx内等でCの捜索を開始し,その後原告Bらも捜索に参加してx内を検索し,大声でCを呼ぶなどしたにもかかわらずCが発見されなかったことに照らすと,Cは,同日午後2時15分ころ以降雪穴に入って遊んでいたところ,午後4時ころまでに本件事故現場の雪中に埋没していたと推認できる。
そして,前記(2)イのとおり,被告は同日午後3時ころに本件事故現場付近の除雪作業を行ったのであるが,前記(2)ウ(ウ)のとおり,本件事故現場が同雪山の麓の位置にあり,同雪山の頂上から本件事故現場にかけて急勾配の下り斜面となっていたことに加え,前日から十数センチメートルの降雪があり,その投雪量も相当のものであったことに照らすと,同雪山の頂上付近に向けて投雪された雪が同雪山の斜面をなだれ落ちて本件事故現場に到達することは十分考えられるところであり,実際に,本件除雪作業と同様の条件を設定して行ったとされる再現実況見分(甲第18号証)においても,投雪された雪が本件事故現場として設定した位置を25センチメートル超え,最大でシュートから6.85メートルの位置に達していることが認められるのである(なお,同再現実況見分の際の立会人であったDらがC死亡に係る業務上過失致死被疑事件の被疑者の立場にあったことに照らすと,同人らは,雪が遠くまで飛びすぎないように細心の注意を払って再現を実施したものと考えられるのであり,このような心理的障害のなかった本件除雪作業の際には,同再現実況見分時よりも更に多くの雪が本件事故現場に到達したのではないかとうかがわれるところである。)。
このように,本件除雪作業に使用された本件除雪自動車が,市道上の雪を本件事故現場まで投雪するのに十分な能力を有していたこと,本件除雪作業の際実際に執られた除雪方法によっても,投雪された雪が本件事故現場まで到達した可能性が十分あったといえることに加え,前記(2)ウ(ウ)のとおり,Cの遺体の発見時,遺体の周囲にあった雪が柔らかく,本件除雪作業によって投雪されたものである可能性が強いこと,遺体の上に大きな雪塊や氷塊が乗っているということはなく,また,同(2)ウ(エ)のとおり,Cの遺体には圧死の場合に認められることが多い胸腹部の表皮剥脱や皮下出血,肋骨や胸骨の骨折,顔面や頸部のうっ血などの所見がなかったことから,雪穴の崩落などによりCが圧死したなどの可能性は考えにくいこと,前記(2)アのとおり,小樽市内においては本件事故当日の午後零時から同5時にかけては降雪はなく,その間にCが自然降雪により雪穴に閉じこめられた可能性はないことに照らすと,Cは,本件事故現場の雪穴に入って遊んでいたところ,遅くとも本件除雪作業が行われた本件事故当日の午後3時ころまでに,本件除雪自動車が投排雪した雪が同雪穴になだれ込んだことにより同雪穴が塞がれたため,同雪穴に閉じこめられて脱出できなくなり,午後3時過ぎころからそれほど時間が経過しないうちに窒息及び低体温により死亡したと推認するのが相当である(なお,前記(2)ウ(ウ)のとおり,Cの遺体が掘り出された後の雪穴の底部には少量の小石大の玉雪があり,これは,その形状等から本件除雪作業の際に本件除雪自動車により除雪された雪であると考えられるものの,同玉雪が本件除雪作業の際に雪穴の中に入ったものであるのか,それとも捜索作業の際に雪穴の中に入ったものであるのかは不明であるといわざるを得ず,同玉雪の存在自体は,本件事故現場への投雪を推認させるものとはいえない。
イ 前記実況見分調書(甲第18号証)の信用性に関し,Dは,その証人尋問において,「再現実況見分の1回目の再現の後,除雪する雪の量が少なかったと警察が判断し,警察の指示により再度雪を集めて2回目の再現を実施することとなった。2回目の再現で除雪した雪の量は,本件除雪作業の時よりも明らかに多かった。」などと,実際の再現実況見分の状況と同実況見分調書の内容とが異なるともとれる供述をする。
しかしながら,甲第18号証に添付された写真のうち,36番ないし38番と43番ないし54番とを比較すると,両写真の積雪量等の積雪状況,特に街路灯付近の積雪状況から,まず36番ないし38番に撮影された再現が行われ,その後43番ないし54番に撮影された再現が実施されたことが明らかであり,これは,Dらが,1回目の再現に対して除雪する雪の量が多かったとの異議を申し立て,これにより2回目の再現が実施されたという当該実況見分調書の内容と符合するものであって,これに反する上記Dの供述部分は,採用することができない。
ウ 被告は,本件除雪自動車によって除雪された雪は,x内には飛ばされず,x外周の雪山の頂上部分から道路側の斜面に雪を積み上げるように投雪されたものであり,Cの発見されたx中央部には本件除雪作業の影響は全くなく,Cがその作業により死亡するとは到底考えられない旨主張する。
しかし,投雪された雪の一部がx内部に流れ込んでいたこと,本件除雪自動車の除雪能力,本件除雪作業時の投雪量,Cの遺体及びその周囲の状況等に照らしてCの死亡が投雪によるものと推認されることは前記認定のとおりであり,上記主張は採用することができない。
エ また,被告は,Dらは路面方向及び投雪方向について注意深く観察していたところ,本件除雪自動車の運転席からの視野は広く,運転席における視線の高さも約2.8メートルあるため,x内部の見通しも可能であり,投雪の落下地点は十分確認することができ,本件除雪作業中,Dらは,投雪の落下地点を目視し,確認しながら作業を続け,Cの存在は無論のこと,子供の遊んでいる姿,あるいは衣類,遊び道具等子供の存在を推測させるものも全く視認していないのであり,投雪がCを埋めたということはあり得ない旨主張する。
しかし,本件除雪自動車の運転席からx内部の雪山の裏側の一部に見えない部分があったことは前記認定のとおりである上,仮に死角がなく,かつ穴の中で遊んでいたCの姿が見えなかったからとしても,投雪がCを埋めたということがあり得ないとはいえないから,被告の上記主張は前記認定を何ら左右するものではない。
オ さらに,被告は,Cが雪穴に入っていたところ,何らかの原因により雪穴が崩落してこれに閉じこめられた可能性や,本件事故当日に行われた捜索のため雪穴が崩壊したり,雪穴の上に雪をかぶせてしまった可能性もあり,Cの死亡原因は不明であるといわざるを得ない旨も主張する。
しかし,Cの遺体に圧死の場合に認められることが多い胸腹部の表皮剥脱や皮下出血,肋骨や胸骨の骨折,顔面や頸部のうっ血などの所見がなかったことから,雪穴の崩落などによりCが圧死したなどの可能性は考えにくいことは前記のとおりであり,また,雪穴が崩落していない以上,Cが仰向けになっていた雪穴は露出して内部が容易に見える状態であったと推認されるところ,前記認定事実によれば,原告BがCを探し始めた本件事故当日の午後4時30分ころには辺りは既に暗くなっていたが,街路灯によりある程度の明るさがあったことが認められ,その後捜索に加わった小樽警察,小樽市消防団,被告職員,付近住民等も同様の明るさの下で捜索をしたものと推認されるのであって,捜索に携わった上記の者のいずれかが,上下赤色のスキーウェア姿で雪穴の中に横たわっていたCの姿を見落として,誤ってこの上に掘り起こした雪をかぶせてしまうという事態は想定しがたいのであって,被告の上記主張は採用することができない。
また,被告の上記主張は,Cが発見された当時の本件事故現場付近の状況は本件事故当日及び翌日に行われた捜索により本件事故発生当時とは変化してしまっており,Cの死亡原因を判断する証拠としての価値がない旨を主張するものとも解される。たしかに,上記捜索によって,x内部の雪の状態は本件事故当時とは大きく変化したことがうかがわれるが,前記認定の根拠の一つとなったのがCの遺体の周囲にあった雪が柔らかかったということであることに照らすと,捜索の過程でCの遺体の周囲の雪が固めらることはあっても柔らかくされることは考えられない以上,結局捜索による本件事故現場付近の状況の変化は,前記認定を何ら左右するものではないというべきである。
カ また,被告は,原告らの主張する事故態様によれば,Cは本件事故当日の午後3時過ぎころに死亡したと考えるのが相当であるところ,これは,鑑定によるCの死亡推定時刻が同日の午後10時ころとされていることと矛盾すると主張する。確かに,甲第26号証(医師J作成の鑑定書)には,Cの死後解剖着手時(同月29日午前10時)までに概ね1日半経過していると考えられる旨の記載がある。
しかしながら,甲第29号証(上記J作成の回答書)によれば,上記鑑定書の作成者自身,「死体現象からだけでは,推定経過時間が真の死後経過時間と数時間のずれを生ずることもまれではない。」「鑑定人は,死亡時間を午後10時頃と意図して鑑定書に記載したのではなく,午後10時頃を中央値として,前後数時間の範囲にCの死亡時刻が存在すると考えられ,また,午後10時はその前後の死亡推定時刻帯の中で特に突出して真の死亡時刻と一致する確率が高いものではない。」などと述べており,これによれば,上記鑑定書の記載は,本件事故当日の午後3時過ぎころからそれほど時間が経過しないうちにCが死亡した可能性を完全に排除するものではないと解されるのであって,原告らの主張する事故態様が,上記鑑定書の記載と矛盾しているとまではいうことができない。
したがって,上記鑑定書の記載は,前記認定の妨げとなるものではない。
(4) 以上によれば,請求原因(2)ア及び同ウの事実が認められる。
(5) したがって,請求原因(2)の事実が認められる。
3 請求原因(3)ア(自動車損害賠償保障法3条に基づく責任)について
まず,原告らの主張する責任原因のうち,自動車損害賠償保障法3条に基づく責任について判断する。
本件除雪自動車の所有者が被告であることについては当事者間に争いがないところ,前記2(2)イのとおり,本件除雪作業は,Dらが,被告の業務として,被告の第2ステーションの運行管理者の指示により,本件除雪自動車を使用して行ったものである。
そして,自動車損害賠償保障法3条本文にいう「運行」とは,「人又は物を運送するとしないとにかかわらず,自動車を当該装置の用い方に従い用いること」をいい(同法2条2項),「自動車を当該装置の用い方に従い用いる」とは,自動車をエンジンその他の走行装置により位置の移動を伴う走行状態におく場合だけでなく,自動車の固有の装置をその目的に従って操作使用することを含むと解すべきところ,前記2(2)イのとおり,本件除雪自動車は,車体の最前部下側に取り付けられたオーガを回転させることにより雪を吸い込み,これをブロアから直接,または車体上部前方のシュートを通じて外部に飛ばして投雪する仕組みとなっているのであるから,これらの投雪装置は本件除雪自動車の固有の装置といえ,これを用いて行った本件除雪作業の際の投雪は,本件除雪自動車の固有の装置である投雪装置をその目的に従って操作使用したものということができ,自動車損害賠償保障法3条本文にいう「運行」に当たるということができる。
この点に関し,被告は,本件除雪作業によってCが死亡したとしても,これは,除雪の方向や手順,場所等といった除雪作業内容に起因したものであって,ロータリ除雪自動車の操作によって発生したものではない旨主張する。しかし,本件除雪作業の際の投雪が,自動車損害賠償保障法3条本文にいう「運行」に当たることは以上のとおりであり,Cが本件除雪作業の際の投雪により死亡したと認められることは前記のとおりであるから,被告の主張は採用することができない。
以上によれば,請求原因(3)アが認められ,被告は自動車損害賠償保障法3条に基づく責任を負うものと解するのが相当である。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,被告はC及び原告らに生じた損害を賠償すべき責任がある。
4 請求原因(4)(損害)及び抗弁(過失相殺)について
(1) 逸失利益 2568万0087円
前記のとおり,Cは,本件事故当時満7歳であり,本件事故がなければ,18歳から67歳までの間就労可能であり,その間,女子平均賃金相当額(同平均賃金額については原告ら主張の345万3500円をもって相当と認める。)の収入を得られたものと推認することができるから,生活費として3割を控除し,中間利息をライプニッツ方式で控除して(ライプニッツ係数は,7歳から67歳までの60年に対応する同係数の18.9292から,7歳から18歳までの11年に対応する同係数の8.3064を控除した10.6228)その逸失利益を算定すると2568万0087円(円未満切り捨て。以下同じ。)となる。
(2) 慰謝料 2000万円
本件事件の態様,Cが7歳という若年で人生を終えることになったこと,その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,Cが受けた精神的苦痛を慰謝するには,2000万円の支払をもってするのが相当である。
(3) 葬儀関係費用 120万円
証拠(甲第32及び第34ないし第36号証並びに原告B本人尋問の結果)によれば,原告らは葬儀関係費用(葬儀費用,仏壇仏具代,納骨堂費用,法要費用等)として合計246万9309円を支出したことが認められる(2分の1ずつ負担したものとみる。)が,このうち本件事故と相当因果関係のある損害として賠償を求めることができるのは合計120万円(原告1名につき60万円ずつ)と認めるのが相当である。
(4) 病院費用 3020円
証拠(甲第31及び第34号証並びに原告B本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば,原告らは,本件事故に係るCの病院費用として3020円を支払ったことが認められる(2分の1ずつ負担したものとみる。)。
(5) 合計
以上によれば,Cの損害額(上記(1),(2)の損害額の合計)は4568万0087円,原告ら固有の損害額(上記(3),(4)の損害額の合計)は120万3020円となる。
(6) 過失相殺
前記2のとおり,本件事故は,Cがx内の雪穴に入って遊んでいた際に発生したものであるところ,証拠(証人G及び同Dの各証言)及び弁論の全趣旨によれば,xに面した市道においては,本件事故以前から拡幅のための除雪作業が行われていたこと,平成11年から本件事故当時にかけての冬期間にも数回除雪作業が実施されていたことが認められる。そして,前記2(2)イのとおり,同除雪作業がxの方向に投雪することにより実施されていたこと,その投雪量も相当多量であったこと(前記2(2)イは主に本件除雪作業の際の除雪方法について述べたものであるが,本件全証拠によっても本件除雪作業が通常の除雪作業と特に異なる方法により実施されたとはうかがわれず,x周辺の除雪作業は普段から前記2(2)イのような方法により実施されていたと推認できる。)に照らすと,ロータリ除雪自動車による除雪作業中にx内で児童が遊んでいた場合,同除雪自動車が投雪した雪が児童にかかり,又はぶつかるなどして児童の生命及び身体に危険を及ぼす危険性があったというべきであり,原告B自身,その本人尋問において,本件事故以前からこのような危険性を認識し,Cに対して,「除雪車が来たら危ないよ」などと注意していたというのである。そして,原告Bがその本人尋問において述べるところによれば,Cはd小学校から下校後,xで遊ぶことが多かったというのであるから,原告らとしては,Cをxで遊ばせるに当たっては,除雪作業があった場合にはこれに近づかないように注意し,又は保護者が同伴したり,大人の目の届くところで遊ばせるなど,前記危険を回避するための措置を講ずる必要があったというべきである。しかるに,原告らは,本件事故当日においても特にこのような措置を執ることもなく,幼い子供だけでxに行って遊ぶことのできる状況を放置したのであり,これは親として尽くすべき子供に対する監護義務を怠ったものであって,本件事故については原告ら側にも過失があったものといわざるを得ない。そして,本件除雪作業の内容,本件事故の態様,原告ら側の過失の内容等を総合考慮すると,原告らの過失は4割であると認めるのが相当である。
この点に関し,原告らは,あらかじめ親が子供に注意,指導していたとしても,本件のように,平日,低学年の子供の下校時ころに,事前及び除雪作業時の警告も一切なく除雪作業が行われた場合には,Cのような幼い子供が危険を回避することはおよそ期待できず,除雪作業を行う被告の側において危険を予測し,防止措置を講ずるほかに被害の発生を防ぐことはできず,原告らの側に過失は認められない旨主張する。
しかし,本件事故当時のCの年齢に照らすと,除雪作業の際x内部に投雪された雪が流れ落ちてきて危険であることについて,教えれば理解することが不可能であったとはいえず,かつ,本件除雪作業時の本件除雪自動車の進行速度は人の歩行速度と同じ程度であったことは前記のとおりであり,また除雪作業の際にはかなりの音を発するものと推認されるから,Cが本件除雪作業の際に自ら危険を回避することは決して不可能ではなかったというべきである。
したがって,原告らを含めた被害者側に落ち度がなかったということはできないのであって,原告らの主張は採用することができない。
よって,上記の過失割合(4割)により前記(1)ないし(4)の損害額を減じて過失相殺すると,Cの損害額(前記(1),(2)の損害額の合計)は2740万8052円,原告ら固有の損害額(前記(3),(4)の損害額の合計)は,72万1812円(それぞれ36万0906円)となる。
(7) 相続
原告らは,Cの損害額2740万8052円につき,法定相続分に従い2分の1ずつ損害賠償請求権を相続した(原告1人あたり1370万4026円)。これに,原告ら固有の損害額の36万0906円ずつを加算すると,原告らの損害額は,それぞれ1406万4932円ずつとなる。
(8) 弁護士費用 各140万円(合計280万円)
本件事案の内容,難易度,認容額などを考慮すると,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては,原告らそれぞれにつき140万円と認めるのが相当である。
(9) したがって,損害額の合計は,原告らそれぞれにつき1546万4932円となる(原告ら2人の合計額は3092万9864円である。)。
5 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告らの本訴請求は,原告らそれぞれにつき1546万4932円及び同金員から弁護士費用を控除した金額である1406万4932円に対する本件事故発生の日である平成12年1月27日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余はいずれも理由がない。
よって,原告らの請求を上記の限度において認容し,その余を棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,64条,65条1項本文を,仮執行の宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 蓮井俊治 裁判官 加藤亮 裁判官 徳井真)