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札幌地方裁判所小樽支部 昭和30年(ワ)116号 判決 1960年9月20日

原告 神道大教小樽三吉中教会

被告 宗教法人神道 外一名

主文

一、被告等は原告に対し小樽市豊川町二〇番地の一二所在、木造亜鉛鍍金鋼板葺二階建居宅建坪六三坪二合五勺外二階一〇坪のうち別紙図面記載赤斜線によつて表示した部分に該当する二階三坪を除くその余の部分を明渡せ。

一、被告宗教法人神道は原告に対し右建物について札幌法務局小樽支局昭和二八年一二月二十九日受付第九八七〇号をもつてなされた所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。

一、原告のその余の請求を棄却する。

一、訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「(一)、被告等は原告に対し小樽市豊川町二〇番地の一二所在木造亜鉛鍍金鋼板葺二階建居宅建坪六三坪二合五勺、外二階一〇坪のうち別紙図面記載の赤斜線によつて表示した部分に該当する二階三坪を除くその余の部分を明渡せ。(二)、被告宗教法人神道は原告に対し右建物につき、札幌法務局小樽支局昭和二八年一二月二九日受付第九八七〇号をもつてなされた所有権保存登記並びに同支局昭和三一年三月九日受付第一七四二号をもつてなされた公衆礼拝用登記の各抹消登記手続をせよ。訴訟費用は被告等の負担とする。」

との判決並びに建物明渡を命ずる部分につき仮執行の宣言を求め、

その請求原因として、

一、原告神道大教小樽三吉中教会(以下単に原告教会と称する)は、訴外宗教法人神道大教(以下単に訴外法人と称する)なる教派に属する法人格なき宗教団体であつて、その代表者は主管者である訴外渡辺鉱之助である。

二、請求の趣旨(一)記載の建物(以下単に本件建物と称する)は、もと原告教会の主管者であつた訴外亡黒沢千作の所有に属していたところ、右訴外人が昭和一八年二月頃死亡した際、これを相続した訴外沢山清次郎より原告教会が贈与を受け、爾後原告教会がこれを所有しているものである。

三、ところで被告等は本件建物のうち請求の趣旨(一)記載の部分を占有しており、また本件建物について被告宗教法人神道(以下単に被告法人と称する)のため、請求の趣旨(二)記載の各登記がなされている。

四、右被告等の占有並びに被告法人名義の各登記は本件建物に対する原告教会の所有権を不法に侵害するものであるからその排除を求めるため本訴請求に及んだ。

と述べ、

被告等訴訟代理人は、「原告の請求はいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決を求め、

請求原因に対する答弁として、

一、第一項記載の事実は知らない。

二、第二項記載の事実中、本件建物が訴外亡黒沢千作の所有に属していたこと及び同訴外人が昭和一八年二月頃死亡し訴外沢山清次郎が相続したことは認めるが、その余の事実は否認する。本件建物の所有関係は後記のとおりである。

三、第三項記載事実中、被告法人が本件建物のうち原告教会主張の部分を占有し且つ本件建物につき原告教会主張の如き登記がなされていることは認めるが、その余の点は否認する。なお本件建物中原告教会主張の部分に被告麻生がその家族と共に居住しこれを使用していることは争わないが、同被告は被告法人の代表役員として業務上本件建物に居住しているのであるから同被告が個人として被告法人の占有と別個独立の占有をしているものではない。

と述べ、

更に原告教会の請求原因事実に対する反対主張として、

一、本件建物はもと訴外法人に所属していた神道大教小樽三吉中教会なる法人格なき宗教団体(以下単に中教会と称する)の主管者をしていた訴外亡黒沢千作の所有に属していたものであり、中教会の礼拝用建物として使用されていたのであるが、右訴外人が昭和一八年二月頃死亡した際これを相続した訴外沢山清次郎より中教会が本件建物の贈与を受けその所有権を取得したものである。

二、然るところ当時訴外法人の教師であつた被告麻生は訴外黒沢の死亡後程なくして訴外法人より事実上中教会の主管者を命ぜられ、その後昭和二二年五月二七日に至り正式にその任命を受けたのであるが、被告麻生は中教会の事実上の主管者であつた頃から自己の代務者として訴外亡長谷川定市を中教会に常勤させ、同訴外人死亡後は訴外工藤某、同養田某、更に訴外渡辺鉱之助を順次中教会の留守番として本件建物に居住させていたが、いずれもその器でなく中教会の宗教活動は停滞し衰微の一途をたどるのみであつた。

三、そのため被告麻生は昭和二四年一〇月一七日当時中教会の信徒総代四名のうち訴外長谷川正司、同吉田小一郎、同湊みつの三名の出席を得て中教会の再興につき信徒総代会議を開き協議の結果、(1) 中教会は訴外法人より離脱する。(2) 中教会は同じく訴外法人から離脱すべき神道大教中央大教会、同北海道大教会、同東雲祠宇(以上三教会を以下単に三教会又は他教会と称する)と合併し新らたに宗教法人としての宗教団体を設立する。(3) 右新設する宗教法人はその教派の名称を神道、神殿の名称を大平山三吉神社、事務所の名称を神道総局、格式を日本全国の総本山、代表役員を被告麻生とし、中教会の信徒代表はそのまゝ大平山三吉中教会の信徒総代として残留する。(4) 右(1) の離脱、(2) の合併についてその時期及び方法は被告麻生に一任する。以上の決議をなした。

四、その後程なく被告麻生は三教会につきそれぞれその主管者として前項同旨の意思決定をなした上(右三教会はいずれも信徒を有せず従つて教会としての意思決定は主管者であつた被告麻生単独の意思決定で足りた)、昭和二五年一月頃本件建物に移住し中教会の事務をとるに至つたが、昭和二五年一〇月三一日訴外法人に対し前記各教会の離脱の意思表示をなした上、同年一二月二三日、当時施行されていた宗教法人令に則り札幌法務局小樽支局において、前項記載の如き四教会の合併により成立した宗教法人神道の設立登記をなした。

従つてこのとき前所有者訴外沢山清次郎より本件建物の贈与を受けた中教会は右合併により解散して消滅するとともに、本件建物所有権は右中教会より合併によつて新設された宗教法人神道に当然承継されたものである。なお右法人は現行宗教法人法が施行されるに及んで昭和二八年四月一八日前同支局に法人登記をなし現在の被告法人に至つたものである。

五、なお昭和二四年一〇月当時、前記中教会には所属教派よりの離脱他教会との合併及びこれに伴う解散につき何等特別の規定を有しなかつたのであるから、右の手続をするについては通常の事務決定と同様、教会主管者の発議により信徒総代会の決議にもとずいてこれをなすことができ、信徒総会の決議、教派主管者の承認、信徒に対する公告等は一切不要であつた。

と述べた。

原告訴訟代理人は原告教会の請求原因に対する被告等の反対主張に対し

一、被告等の主張に係る神道大教小樽三吉中教会こそまさに原告教会そのものであつて右中教会と原告教会とは同一の宗教団体である。

二、被告麻生が中教会の主管者に任命されたとの事実を争う。訴外黒沢千作死亡後はその後継者として昭和二二年二月頃訴外渡辺鉱之助が中教会の主管者に任命され、その頃より現在に至る迄本件建物に居住し原告教会の事務を処理してきたものである。また、被告等主張のような信徒総代会の決議がなされたとの事実も争う。

三、仮に中教会の訴外法人からの離脱、他教会との合併につき被告等主張のような手続がなされたとするもこの手続は次のような理由により無効である。即ち(1) 、中教会が、法人格なき宗教団体であつたこと及び所属教派からの離脱、他教会との合併及びこれに併う解散の手続に関し何等特別規定を持つていなかつたことは被告等主張のとおりである。然りとすれば、人格なき社団としての中教会はその意思決定並びに議決機関の権限等につき民法の社団法人に関する規定の準用を受けるべきであるから、右中教会の存立に関する右特別事項については中教会の信徒総会の決議が必要である。(2) 、当時施行されていた宗教法人令はその第一一条において不動産の処分につき、その第一二条において解散につき、また、中教会の所属教派であつた訴外法人の当時の教規第一四二条によれば教会の合併解散につき、いずれも所属教派たる訴外法人の主管者の承認を必要とする旨定められている。(3) 、現行宗教法人法はその第二三条において不動産の処分につき、第二六条第二項において被包括関係の廃止につき、いずれも責任役員の決議の他信徒に対する一定期間前の公告を要する旨定めている。従つて信徒総代会の決議のみによつてなされた中教会の訴外法人からの離脱、他教会との合併及びこれに併う解散の手続は右(1) ないし(3) の理由により無効である。

と述べた。

立証として

原告訴訟代理人は、

甲第一ないし同第四号証、同第五号証の一及び二、同第六ないし同第一一号証、同第一二号証の一及び二、同第一三号証の一ないし三、同第一四号証の一及び二、同第一五及び同第一六号証、同第一七号証の一ないし三を提出し、証人小堀ツル、同渡辺キミ、同福一光(以上いずれも二回)、同沢山清次郎、同左近貫一、同北川勝朗、同長谷川正司の各尋問を求め、乙号各証の成立については第一ないし第六号証は認める、第七号証は不知、第八及び第九号証は認める、第一〇号証は作成名義人の署名が本人の署名であることは認めるが、成立は否認する、第一一号証は不知、第一二及び第一三号証、第一四号証の一ないし五、第一五号証の一及び二は認める。

と述べ、

被告等訴訟代理人は、

乙第一ないし第一三号証同第一四号証の一ないし五、同第一五号証の一及び二を提出し、証人長谷川正司、同菅谷清治、同吉田小一郎並びに被告麻生本人(二回)の各尋問を求め、甲号各証の成立につき、第一号証は不知、第二ないし第四号証は認める、第五号証の一は郵政官吏作成部分を認めその余の部分は不知、同号証の二は不知、第六ないし第九号証は不知、第一〇号は郵政官吏作成部分のみ認め、その余の部分は不知、第一一号証は不知、第一二号の一及び二、第一三号証の一ないし三、第一四号証の一及び二、第一五及び第一六号証、第一七号の一ないし三は認める。

と述べた。

理由

一、原告教会が神道大教の教義の宣布、祭祀の執行、信徒の教化育成を目的とし、訴外大橋達他一三〇名内外の信徒並びに教師を以つて構成されている法人格なき宗教団体であつて、その代表者として、原告教会を包括するところの教派である訴外法人より任命された原告教会の主管者をおき現に渡辺鉱之助がその主管者であることは弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第一号証(証明書)成立につき争いのない甲第二号証(神道大教々則の一部)及び同第三号証(証明書)、並びに証人渡辺キミの証言(第一、二回)によつて明らかである。

二、よつて以下本件建物が原告教会の所有に属するものなりや否やにつき判断を進めることにする。

(一)、先ず本件建物がもと訴外亡黒沢千作の所有に属するものであつたところ、昭和一八年二月頃右訴外人死亡し、相続によりその所有権を取得した訴外沢山清次郎が、その頃訴外法人と被包括関係にあつた中教会に本件建物を贈与したことは当事者間に争いがない。

(二)、被告等は、中教会は他教会との合併の結果消滅し、本件建物所有権は合併により新設された被告法人に承継された旨抗争するのでこの点について考えてみるに、被告等が主張する合併手続がなされた当時中教会には同教会の合併乃至解散の手続につきこれを律すべき規則その他の組識法は何等存在しなかつたことは当事者間に争がなく、また被告等がその包括関係から離脱した旨主張する訴外法人の規則は、その第一四二条に「教会の設立、合併、解散、移転又は教会規則の変更等は管長の承認を受けなければならない。」と規定するだけで、教会自身の履践すべき合併乃至解散の具体的手続については何等触れるところがないことは成立に争のない甲第二号証同第十七号証の一乃至三と弁論の全趣旨を綜合して認めうるところである。更に当時施行されていた宗教法人令をみると、その第十二条において、宗教法人は規則の定めるところにより解散をすることができるが、この場合は総代の同意乃至その属する宗教団体の承認を得ることを要する旨規定するだけで、外に宗教法人の合併乃至解散の手続に関し何等規定するところがない。以上のように法人格なき社団たる中教会の合併乃至解散手続について中教会自身及び上位団体たる訴外法人は何等の規則をもたず、宗教法人今にも準拠すべき規定がない。そうだとすれば中教会が消滅を結果する合併をする場合には、民法第六九条を類推適用して信徒総会の解散決議を経ることを要するものと解するのが相当である。しかるところ当時中教会信徒総会の合併決議がなかつたという事実は弁論の全趣旨に徴し明白である。してみれば被告等の主張する合併手続はしよせんその効力を発生するに由なきものといわなければならない。他方被告等が中教会の合併手続の基本として主張する昭和二四年一〇月一七日の信徒総代会の合併決議なるものが果して存したかどうかについて考えてみるに、証人長谷川正司(第一回)同吉田小一郎の各証言並びに被告麻生本人尋問の結果(第一回)を綜合すると、昭和二四年当時における中教会の信徒総代は長谷川正司、吉田小一郎、小田幸吉、湊みつの四名であつたことが認められるところ、被告等は右総代のうち小田幸吉を除く三名が出席して合併の決議をした旨主張する。しかしながら本件弁論に顕われた全証拠によつても右主張事実を肯認するに足らない。即ち証人吉田小一郎、同長谷川正司(第一回)の各証言には、一応被告等の右主張事実を窺わせる供述部分もあるが、これを更に検討すると、証人吉田小一郎は、単に中教会が被告法人に変わるについて信徒総代会議で相談した旨供述するだけで決議のなされた日時はおろか、決議の具体的内容特に中教会と他教会との合併については何等これを明らかにしておらずまた証人長谷川正司は第一回の尋問の際、被告法人設立当時の信徒総代四名が代表して被告法人を設立することを承認した旨供述するが、他方、被告法人は中教会を変更しただけで他の教会をも含めたものではない旨明白に供述しているのである。以上のようなわけで吉田、長谷川両証人の前記供述部分は被告等の前記主張事実に関する当裁判所の心証を形成せしめるに充分でない。また被告麻生本人尋問の結果(第一、二回)のうち、前記合併に関する信徒総代会の決議に関する部分は、証人長谷川正司の証言(第二回)及び同証言内容の補足資料である甲第一一号証並びに弁論の全趣旨と比較検討すると、信徒総代長谷川正司、同吉田小一郎の両名が右会議に出席の上前記の合併に同意したという点を肯認するに充分ではない。以上いずれの点からみるも中教会が他教会との合併により消滅した旨の被告等の主張は排斥を免れず、他に特段の事情の認むべきものがない本件においては中教会は依然存続して本件建物を所有していたものといわなければならない。

(三)、しこうして、中教会は被告法人が成立し現実に宗教活動を開始する前後を通じて、神道を宣布し、本件建物を礼拝用施設として春秋二回に亘る祭祀の執行が続けられ、原告教会の現主管者渡辺鉱之助が訴外法人の教師として本件建物を管理し中教会の儀式、行事に関与し他の教師とともに信徒の教化、育成のことに当つていたものであり、他方信徒は若干の増減、異動はあつたにせよ数十名を数えていたこと及び昭和三〇年七月十七日小樽市手宮の錦豊会館において開催された中教会の信徒総会に被告法人発足以前から引続き中教会の信徒であつた相当数の者が出席していることは証人小掘ツル、同渡辺キミ(以上いずれも第一、二回)、同福一光(第一回)同長谷川正司(第二回)同北川勝朗の各証言並びに弁論の全趣旨を綜合して肯認できる(被告本人尋問の結果(第一、二回)のうち右の認定に牴触する部分は信用しない)。以上認定事実並びに弁論の全趣旨に徴すると、中教会は被告法人の成立及びその宗教活動にも拘らず存続し現在に至つているものといわなければならない。

以上のようなわけで本件建物はしよせん原告教会の所有に属するものといわなければならない。

三、而して被告法人が本件建物中原告教会主張の部分を占有し、且つ本件建物について原告教会主張の如き登記を経由していることは当事者間に争いがない。

又被告麻生が本件建物中原告教会主張の部分にその家族と共に居住していることは同被告の認めるところであるから、同被告も又本件建物中原告教会主張の部分を占有しているものと云うべきである。何故なら法人の代表機関が物件を占有する場合常に必ずしも機関個人としての占有が機関資格に基く占有に包含されてしまうものではなく、本件の如く被告麻生が単に被告法人の業務のためのみでなく同被告個人の私生活のためにもその家族と共に本件建物に居住しこれを使用している以上、同被告は自己のためにする意思を以つて本件建物に居住している、即ち被告法人の直接占有とは別個独立の占有をしているものと云うべきだからである。

四、してみれば原告の本訴請求中、被告等に対し本件建物のうち請求の趣旨(一)記載の部分の明渡を求める部分及び被告法人に対し本件建物につき被告法人のためなされている所有権保存登記の抹消登記手続を求める部分はいずれも理由があるからこれを認容すべきである。

次に被告法人に対し本件建物につき、被告法人のためなされている礼拝用建物登記の抹消登記手続を求める原告の請求の当否について考えてみるに、宗教法人法の右登記に関する各規定の趣旨を綜合検討すると、右登記は礼拝の用に供する宗教法人の所有不動産のみについて許されているのであつて、同法第七〇条第一項にいわゆる「所有権移転の登記をしたとき」とは、右登記のなされている建物が宗教法人の所有に非らざるものとしてその名義の所有権保存登記の抹消登記手続がなされた場合をも含むものと解するのが相当であるから登記官吏は右の抹消登記をしたときは職権により同時に当該建物につきなされている礼拝用建物登記をも抹消すべきものといわなければならない。従つて原告の本訴請求のうち、本件建物に関する所有権保存登記の抹消登記手続のほかに更に本件建物の礼拝用建物登記の抹消登記手続を求める部分は法律上その利益がないから、これを棄却すべきものである。

五、よつて原告の請求は被告等に対し本件建物のうち請求の趣旨(一)記載部分の明渡及び被告法人に対しその名義の所有権保存登記の抹消登記手続を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は訴の利益がないから棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第九二条、第八九条を適用し、なお仮執行の宣言の申立については相当でないと認めるのでこれを却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 山田近之助 石崎政男 井野場秀臣)

図<省略>

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