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札幌地方裁判所岩内支部 平成17年(ワ)13号 判決 2006年1月27日

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原告

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原告

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原告ら訴訟代理人弁護士

宮原一東

静岡市駿河区南町10番5号

被告

株式会社クレディア

同代表者代表取締役

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同代理人支配人

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主文

1  被告は,原告●●●に対し,46万9686円及び内金21万4474円に対する平成16年12月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を,内金25万円に対する平成17年6月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告は,原告●●●に対し,102万6250円及び内金77万2786円に対する平成17年3月2日から支払済みまで年6分の割合による金員を,内金25万円に対する同年6月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  この判決は,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

主文同旨

第2事案の概要

本件は,原告らが,被告に対し,被告からの貸付けにつき支払われた利息について,利息制限法1条1項に定める利息の制限額を超える部分を元本に充当すると過払金が生じ,かつ,被告は民法704条所定の悪意の受益者であるとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金(原告●●●は21万4474円,原告●●●は77万2786円)の返還及びこれに対する過払金の発生日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による利息の支払(なお,過払金の発生日から最終弁済日(原告●●●につき平成16年12月28日,原告●●●につき平成17年3月2日)までは確定利息の支払)を求めるとともに,貸金業者である被告は,貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として,信義則上,取引履歴の開示義務があるのに,原告らからの開示要求に応じなかったものであり,そのために原告らはその間債務整理ができず,弁護士に依頼して本件訴訟を提起せざるを得なくなったとして,不法行為による慰謝料20万円及び弁護士費用5万円の合計25万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成17年6月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求している事案である。

1  前提となる事実((3)の事実以外は当事者間に争いがない。)

(1)  貸金業を営む株式会社である被告は,別紙1「原告●●●利息計算書」の「年月日」欄,「借入金額」欄,「弁済額」欄記載のとおり,平成12年4月10日から平成16年12月28日まで,3回にわたって原告●●●に金銭を貸し付け,56回にわたって原告●●●から弁済を受けた(なお,被告の行った取引には,被告が取引を承継した株式会社パブリックのものを含む。以下同じ。)。

(2)  被告は,別紙2「原告●●●利息計算書」の「年月日」欄,「借入金額」欄,「弁済額」欄記載のとおり,平成8年8月2日から平成17年3月2日まで,29回にわたって原告●●●に金銭を貸し付け,108回にわたって原告●●●から弁済を受けた。

(3)  上記(1)及び(2)の各貸付け(以下「本件各貸付け」という。)の約定利率は,利息制限法1条1項所定の制限利率を超過している。(弁論の全趣旨)

2  争点

本件の争点は,被告が悪意の受益者か否か(争点①)及び過払金に付する利息の利率(争点②)並びに全取引履歴を開示しなかったことの不法行為の成否(争点③)であり,この点に関する当事者の主張は次のとおりである。

(1)  被告が悪意の受益者か否か(争点①)について

(原告らの主張)

被告は,利息制限法所定の制限利率を超える利息を徴収することについて悪意であり,民法704条所定の悪意の受益者に該当する。

(被告の主張)

ア 民法704条の悪意は,全法秩序の中で判断されるべきである。そして,被告の貸付けの利息は,利息制限法を超えるものの,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資取締法」という。)からは合法であり,被告は貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)に則り貸付けを行っているから,被告に悪意はない。

イ 被告は,貸金業法に則り,貸付けに当たり同法17条所定の書面を作成交付し,返済の都度同法18条の書面を作成交付する業務運営体制により,主観的にこれらの書面を交付しているとの認識を有しているから,被告に悪意はない。

ウ 民法704条の悪意の受益者とは,利息制限法所定の利率を超える利息が元本に充当し尽くされ,完済になったことを知りながら,さらに利息等の金員を受領した者と解すべきであり,被告はいつ原告らが過払になったかを認識していないから,被告に悪意はない。

エ 仮に,被告が悪意の受益者であるとしても,今日の資金需要者が擁護されているという社会的経済的力関係及び上記ウのような書面の交付等により,原告らについて貸金業法が求める資金需要者の利益の保護が達せられているという本件における取引状況からすれば,原告らの利息の請求を認めることは,原告の利益を偏重するものであり,衡平を失する。

(2)  過払金に付する利息の利率(争点②)について

(原告らの主張)

被告は商人であり,原告らから徴収した利得を営業に使用し,莫大な収益を上げている。したがって,過払金に付する利息の利率は,年6分の商事法定利率によるべきである。

(被告の主張)

利息制限法所定の制限を超えて支払われた利息及び損害金についての不当利得返還請求権は,法律の規定によって発生する債権であり,商行為によって生じた債権又はこれに準ずるものと解することはできないから(最高裁昭和55年1月24日第一小法廷判決・民集34巻1号61頁参照),これに付する利息の利率は,民事上の一般債権として,民法404条所定の年5分の民事法定利率によるべきである。

(3)  全取引履歴を開示しなかったことの不法行為の成否(争点③)について

(原告らの主張)

原告らは,被告に対し原告らの全取引履歴の開示を再三求めたにもかかわらず,被告はこれを開示しなかったものであり,そのため,原告らは本件訴訟を提起せざるを得なかった。

このような被告の取引履歴の不開示は,違法性を有し,不法行為を構成する。

(被告の主張)

被告は,個人情報保護法,同法施行令,金融分野における個人情報保護に関する金融庁ガイドラインに基づき,保有個人データである取引履歴の開示請求に応じる「保有個人データ開示・訂正・利用停止等の手続(開示等請求手続規則)」を定めて公表するとともに,原告ら訴訟代理人の取引履歴の開示請求に対し,被告が定める手続により開示を請求するよう,被告会社取扱支店社員を通じて原告ら訴訟代理人に案内し,所定の手続書面を送付したが,原告ら代理人は,開示申請書の作成と委任状等代理権を証する書面の提示を拒むなど,被告所定の手続を取ることなく,開示を一方的に請求するのみであった。

適法な代理人資格の確認を取れない中で取引履歴を開示することは,個人情報保護法20条に定める安全管理措置に反することになるから,被告は開示することはできない。

したがって,被告が,被告の開示手続を無視する原告ら訴訟代理人の開示請求に応じないとしても違法性はなく,不法行為とはならない。

第3当裁判所の判断

1  不当利得返還請求について

(1)  被告が悪意の受益者か否か(争点①)について

弁論の全趣旨によれば,被告は,本件各貸付けの約定利率が利息制限法1条1項所定の制限利率を超過していたことを認識していながら,本件訴訟において,貸金業法に則り貸付けを行っているとか,貸金業法17条及び18条の書面を作成交付した旨を抽象的に主張するのみで,貸金業法43条1項所定のみなし弁済の要件に該当する具体的な事実を一切主張立証しないことが認められ,これによれば,被告はみなし弁済規定所定の要件を欠き,その適用を受けられないことを知っていたと推認することができる。

そうすると,利息制限法所定の制限を超えて支払われた利息金が元本にすべて充当され,元本が完済となった後の弁済については,被告は法律上の原因がないことを知りながらこれを受領したものと認められるから,被告は民法704条所定の悪意の受益者と認められる。

これに対し,被告は,原告らの利息制限法所定の利率を超える利息の支払がいつ元本に充当し尽くされ,いつから原告らが過払になったかを認識していないから,悪意の受益者には当たらないと主張するが,利息制限法所定の利率を超える利息を付して,みなし弁済規定所定の要件を具備しないまま取引を継続した本件のような場合には,過払金が発生するに至った取引状況自体を認識していれば,当該取引状況を利息制限法に逐一引き直して計算するまでもなく,法律上の原因がないことを知りながら弁済を受領したと解して差し支えないというべきであるから,被告の主張は理由がない。

また,被告は,仮に,被告が悪意の受益者であるとしても,社会的経済的力関係及び本件における取引状況からすれば,原告らの利息の請求を認めることは衡平を失すると主張するが,被告の主張する社会的経済的状況を前提にしたとしても,そのことが被告が悪意の受益者に該当するとの上記認定を左右するものではない。被告の主張は独自の見解というほかなく,採用の限りではない。

(2)  過払金に付する利息の利率(争点②)について

商人が一方又は双方の主体となる企業取引においては,資金の需要が多く,資金が効率よく利用されるのが通常であり,そのため,商人が債権者である場合には非商人よりも高率の利息の支払を要求することが正当化されるし,商人が債務者である場合には非商人よりも高率の利息の支払を期待せしめることとなる。商法514条の商事法定利率が,民事法定利率を超える利率を定めているのも,このような趣旨に基づくものである。

そして,民法704条が悪意の受益者に対する利息請求権を認めているのは,悪意の受益者の損害賠償責任の最小限度を確保しようとするものであるところ,商事法定利率に関する上記趣旨に鑑みれば,受益者が商人であり,かつ,利得した金員を営業に使用したとみられる場合には,商事法定利率に相当する額をもって確保されるべき損害賠償責任の最小限度とみることができるから,民法704条により悪意の受益者が支払義務を負う利息の利率は,商事法定利率によるのが相当である。

これを本件についてみると,被告が商人であり,かつ,被告が原告らから得た金銭をその営業に使用したことは明らかであるから,被告は,原告らに対し,過払金に商事法定利率である年6分の割合による金員を付して返還すべきである。

被告は,過払金の不当利得返還請求権について商法522条の短期消滅時効が適用ないし類推適用されないこと(最高裁昭和55年1月24日第一小法廷判決・民集34巻1号61頁参照)との均衡を主張するが,過払金の不当利得返還請求権について商法522条が適用ないし類推適用されないのは,同請求権には商事取引関係の迅速な解決のため短期消滅時効を定めたという同条の趣旨が妥当しないからであり,この論理は,これと趣旨を異にする商法514条ないし民法704条の解釈に直ちに妥当するものではないから,この点に関する被告の主張は理由がない。

(3)  過払金等の額について

以上によれば,被告は,原告らに対し,過払金及びこれに対する過払金発生日から支払済みまで年6分の割合による利息を付した額の金員の支払義務を負うことになるところ,原告らについてこれを計算した結果は,別紙1及び2の「残元金」欄及び「未収過払利息」欄に記載のとおりである(なお,上記計算により求められた原告らの残元金(過払金)の額は,いずれも原告らの請求額を上回るが,これは,上記計算は,うるう年計算した額と平年計算した額を,小数点以下を切り捨てた上で合算しているのに対し,原告らの請求額の計算は,これらにつき小数点以下を含めて合算しているためである。)。

被告は,平成17年8月29日付け準備書面の別紙1及び2(被告が開示した原告らとの間の取引履歴及び利息制限法の制限利率による引直し計算の一覧表)において,原告らに遅延損害金が発生することを前提とするかのような計算をしているが,いかなる原因に基づいて遅延損害金が発生するのか全く不明であるし,本件各貸付けにおいて原告らに遅延損害金の支払義務が発生したことを認めるに足りる証拠は存しないから,被告の上記計算は採用しない。

(4)  小括

したがって,別紙1及び2の「残元金」欄及び「未収過払利息」欄に記載の額と同額か,これを下回る額の金員の支払を求める原告らの請求はいずれも理由がある。

2  不法行為について

(1)  全取引履歴を開示しなかったことについての違法性の有無(争点③)について

ア 証拠(甲12ないし22,24)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(ア) 原告ら訴訟代理人宮原一東弁護士は,原告らから債務整理を依頼され,原告●●●については平成17年1月19日付け債務整理開始通知(甲12)で,原告●●●については同年3月11日付け債務整理開始通知(甲19)で,被告に対し,原告らの代理人となる旨の通知をするとともに,原告らの正確な負債状況を確認するため,本件各貸付けについて,過去の全取引履歴の開示を要請する旨,また,その調査完了後に債務整理方針等を通知する旨を通知した。しかし,被告は,取引履歴の一部しか開示しなかった。

(イ) 宮原一東弁護士は,平成17年1月27日付け(甲13),同年2月10日付け(甲14),同月23日付け(甲15),同年3月31日付け(甲16),同年5月7日付け(甲18)の各通知書により,被告に対し,原告●●●の全取引履歴の開示を求めるとともに,被告の指定した書式を用いて,同年4月20日付け個人情報開示申請書(甲17)をもって,被告に対し,原告●●●の全取引履歴の開示を求めたが,被告はこれを開示しなかった。

(ウ) 宮原一東弁護士は,平成17年3月15日付け(甲20),同年4月1日付け(甲21)の各通知書により,被告に対し,原告●●●の全取引履歴の開示を求めるとともに,被告の指定した書式を用いて,同月21日付け及び同年5月9日付け個人情報開示申請書(甲22,24)をもって,被告に対し,原告●●●の全取引履歴の開示を求めたが,被告はこれを開示しなかった。

(エ) 原告らは,平成17年5月31日,本件訴訟を提起した。被告は,同年8月29日付け準備書面1(宮原一東弁護士は同月30日受領)をもって,原告らの全取引履歴を開示した。(当裁判所に顕著な事実)

イ ところで,貸金業者は,債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り,貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として,信義則上,保存している業務帳簿(保存期間を経過して保存しているものを含む。)に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負うのであって,貸金業者がこの義務に違反して取引履歴の開示を拒絶したときは,その行為は,違法性を有し,不法行為を構成するものというべきである(最高裁平成17年7月19日第三小法廷判決・裁判所時報1392号5頁参照)。

これを本件についてみると,前記アに認定した事実によれば,被告は,原告ら訴訟代理人から,原告らの全取引履歴の開示を再三求められながら,その一部しか開示せず,原告らが本件訴訟を提起した後の平成17年8月末に至るまでこれを拒絶し続けたことが認められ,しかも,その経緯において開示要求が濫用にわたることを窺わせる事情は全くないのであるから,このような被告の行為が不法行為を構成することは明らかである。

ウ 被告は,原告ら訴訟代理人が,被告に対する取引履歴の開示請求の際,被告の定める個人情報保護法等に則った手続に従わなかったため,取引履歴の開示を拒絶せざるを得なかったとして,被告の開示拒絶行為に違法性はない旨主張する。

しかしながら,上記イのとおり,貸金業者が負う取引履歴の開示義務は,貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として,信義則上,負担するものであるから,債務者による取引履歴の開示請求の方法は,法的性質や要件・効果を異にする個人情報保護法に基づく個人データの開示請求をする場合の開示手続(例えば,同法29条1項所定の手続)によるべき必然性はなく,金銭消費貸借契約の当事者間において相当と認められる方法であれば足りるというべきである。

そうすると,貸金業者は,このような信義則上の付随義務の履行を求める債務者ないしその代理人による取引履歴の開示請求に対し,その請求が同法29条1項に基づく個人情報取扱事業者たる貸金業者の定めた開示手続に準拠したものでないとの一事をもって,これを拒むことは許されず,その拒絶行為はなお,違法性を有し,不法行為を構成するといわざるを得ない。

したがって,この点に関する被告の主張は理由がない。

エ また,被告は,原告ら訴訟代理人弁護士が被告の定める手続に従わないまま開示請求をした結果,同弁護士について適法な代理人資格の確認を取れなかったとも主張する。

しかしながら,前記アのとおり,宮原一東弁護士は,被告に対し,債務整理開始通知(甲12,19)を送付しているところ,これらの通知は,その記載上,弁護士等が債務処理の委託を受け,その処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとる旨の貸金業法21条1項6号の通知であることは明らかであり,しかも,弁護士法により,弁護士又は弁護士法人でない者が,弁護士又は法律事務所の標示又は記載をすることが処罰の対象となっていること(同法77条の2,74条1項)を併せ考慮すれば,上記各債務整理開始通知は,宮原一東弁護士の代理人資格を明らかにするものとして何ら不足はないというべきであり,これを超えて,被告の主張する方法をもって代理人資格を明らかにすべき合理性は極めて乏しいといわざるを得ない。

したがって,この点に関する被告の主張も理由がない。

(2)  慰謝料及び弁護士費用の額について

以上によれば,被告の取引履歴の開示拒絶行為は不法行為を構成するところ,上記(1)アに認定した経緯や,本件訴訟提起後の被告の対応等を総合考慮すれば,被告の不法行為により原告らが被った精神的苦痛を慰謝すべき慰謝料の額は,原告ら各自につき,それぞれ20万円を優に超えるものと認められる。

また,上記不法行為と相当因果関係にある弁護士費用の額は,原告ら各自につき,それぞれ5万円と認めるのが相当である。

(3)  小括

よって,この点に関する原告らの請求も理由がある。

第4結論

以上によれば,原告らの請求はいずれも理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。

(裁判官 澁谷勝海)

<以下省略>

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