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札幌地方裁判所岩見沢支部 平成18年(ワ)58号 判決 2007年1月12日

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原告

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訴訟代理人弁護士

新川生馬

横浜市西区浜松町2番5号

被告

株式会社栄光

代表者代表取締役

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主文

1  被告は、原告に対し、55万5027円及び内53万5146円に対する平成18年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを4分し、その1を原告の、その余を被告の各負担とする。

4  この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

被告は、原告に対し、135万9610円及び内70万5361円に対する平成18年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2当事者の主張

1  原告の主張

(1)  不当利得金返還請求について

原告は、被告との間で、平成6年ころ、借入限度額内で何回でも反復継続して借り入れすることができる金銭消費貸借契約を締結した。

原告と被告は、それ以降、少なくとも、平成6年4月18日から平成18年1月17日まで、別紙「計算書(原告主張)」記載のとおり借入・返済を繰り返した(なお、平成6年4月18日時点の借入元本残高については、被告が取引資料を開示しないため、同日時点の残高を1000円の限度で認めるものである。)。

原告の被告に対する弁済は、利息制限法所定の利率を超える利息に基づくものであり、原告と被告との間の取引を、制限利息の限度で引き直して計算すると、別紙「計算書(原告主張)」記載のとおり、過払金が発生している。

この過払金は、債務が存在しないのに支払われた金員であって不当利得金であり、被告は貸金業者でありながら悪意をもってこれを受益したものである。

平成18年8月4日時点での過払金(不当利得金元金)及びその利息金の合計額は、別紙「計算書(原告主張)」記載のとおり、それぞれ70万5361円及び25万4249円である。

よって、原告は、被告に対し、不当利得金元金として70万5361円並びにその平成18年8月4日までの利息金として25万4249円及び上記元金に対する同月5日から支払済みまで年5分の割合による利息金の支払いを求める。

(2)  不法行為に基づく損害賠償請求について

貸金業者は、債務者から取引履歴の開示を求められた場合には、その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り、貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として、信義則上、保存している業務帳簿に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負い、これに反したときは、その行為は不法行為となると解すべきである。

ここで、原告は、本件訴えの提起に先立ち、被告に対し、繰り返して契約当初からの取引履歴の開示を求めたが、被告は、取引履歴の資料を保有しているにもかかわらず、特段の事情もなく、これに応じなかったため、債務整理ができず、本件訴えの提起を余儀なくされたものである。

したがって、被告の上記行為は、不法行為を構成する。

上記不法行為により、原告は、精神的苦痛を被ったところ、これを慰謝するためには、30万円が相当である。

また、原告は、本件の訴訟提起及び追行を弁護士である原告代理人に委任したところ、その報酬のうち10万円は、上記不法行為と相当因果関係のある損害である。

よって、原告は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として40万円の支払いを求める。

2  被告の主張

いずれも否認する。

第3当裁判所の判断

1  不当利得金返還請求について

(1)  甲第5号証によれば、平成6年4月18日から平成18年1月17日までの間の原告と被告との間の取引の経過は、別紙「計算書(認定)」記載のとおりであると認められる。

なお、不当利得金の返還を請求するに際して、不当利得金の発生を基礎付ける事実の立証責任は、第一義的には不当利得金の発生を主張する当事者が負うと解すべきところ、原告は、平成6年4月18日時点での借入金元本残高について、これが1000円であったと主張するも、甲第5号証によれば、同日時点での残高は20万円であったと認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(2)  ここで、当裁判所は、同一の貸金業者と顧客との間で当事者間で貸付けと返済が繰り返され、その貸付けに際して利息制限法所定の利率を超える利息が定められていた場合において、利息制限法所定の利率を超える利息の支払いにより過払いが生じ、貸主が不当利得金返還債務を負っている状態で、新たな貸付けがされたときには、顧客においてその不当利得金返還請求権の内容を具体的に認識することが一般的に困難であることに照らして、相殺の意思表示をせずとも、その不当利得返還請求権及びこれに対する利息の請求権が新たな借入元本に当然に充当され、その際、当該他の借入金債務の利息の利率が利息制限法所定の利率を超えるときには、貸主は、充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができないと解する。

そして、本件においては、被告は、原告に対し、利息制限法所定の利率を超える利息を付す条件で繰り返して貸付けをしていたのであるから(甲5)、過払金(不当利得金)は、その後に発生した借入金債務に充当されたものと解するのが相当である。

このとき、借入金債務への充当の順序は、民法489条3号、491条1項に照らし、不当利得金の利息、元金の順で、元金の間では、先に発生したものから後に発生したものの順で充当されるものと解するべきである。

(3)  なお、甲第5号証及び弁論の全趣旨によれば、被告は、貸金業者であり、また、利息制限法所定の利率を超える利息を含めた弁済を受領していたことが認められる。

したがって、被告は、利息制限法所定の利率を超える利息の弁済を受け、利息制限法所定の利率にしたがって過払分を元本に充当計算し、なお過払金(不当利得金)が生じたときには、そのときから、その不法利得について悪意の受益者であったと認めるのが相当である。

(4)  以上を前提として、原告と被告との取引について、貸付けと返済に加えて、貸付金に対する利息の率を利息制限法所定の年1割8分として、返済による不当利得金及びこれに対する利息の各発生、これらの新たな借入れへの充当の関係を整理すると、別紙「計算書(認定)」記載のとおりとなることが認められる(なお、同別紙中、金額の数字が負の数であるものは、不当利得金であることを示す。また、同別紙中、残元本額欄より右側の経過利息額欄及び利息累計額欄の各記載は、不当利得金についての経過利息額及びその累計額を記したものであり、利息累計額欄には、新たな借入れがあるときは、これへの充当前の数額を記している。)。

(5)  以上のとおりであるから、原告は、被告に対し、不当利得金元金として53万5146円並びに平成18年8月4日までの利息として合計1万9881円及び上記元金に対する平成18年8月5日から年5分の割合による利息を請求することができる。

2  不法行為に基づく損害賠償請求について

原告は、被告に対し、繰り返して契約当初からの取引履歴の開示を求めたが、被告は、取引履歴の資料を保有しているにもかかわらず、特段の事情もなく、これに応じなかったため、債務整理ができず、本件訴えの提起を余儀なくされたと主張する。

しかしながら、本件の全証拠によっても、被告が開示した(甲5)平成6年4月18日より前に、原告と被告とが取引をしていたと認めることはできず、また、仮に同日より前に原告と被告との取引があったとしても、被告がその履歴の資料を保有していると認めるに足りる証拠もない。

したがって、その余の点について検討するまでもなく、不法行為についての原告の主張は認めることができない。

3  結論

以上のとおりであるから、原告の請求は、主文第1項掲記の限度で理由がある。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 守山修生)

<以下省略>

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