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札幌家庭裁判所 平成10年(少)1971号 1998年10月15日

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、

第1  Dと共謀の上

1  平成10年9月9日午後3時30分ころ、札幌市○○区○○×丁目×××番×××号所在のE方前歩道上において、同所を歩行中のFが、右手に持っていた同人所有の現金1万円及び商品券等8点在中の手提袋1個(時価合計5000円相当)をひったくり窃取した

2  同日午後11時55分ころ、札幌市○○区○□××丁目×番××号所在の○○北西側歩道上において、同所を歩行中のGが、左手に下げていた同人所有の現金2万7000円及びハンドバック等9点(時価合計45万7000円相当)をひったくり窃取した

第2  A、B及びCと共謀の上、平成10年9月3日午前0時ころ、札幌市○△区○△×丁目××番××号所在の○○荘敷地内において、同所に駐車中のH所有のオートバイ1台(時価5万円相当)を窃取した

ものである。

(法令の適用)

すべての事実につき 刑法60条、235条

(処遇の理由)

1  本件各非行の態様等について

(一)  本件罪となるべき事実第1記載の各窃盗について

本件各窃盗は、少年が、Dと共に行ったひったくりの事案である。少年らは、オートバイを利用し、被害者の背後から近づき、後部座席に乗った者が所持品をひったくるという方法で、1週間前後の間に、合計6、7回に亘って、窃盗を繰返しており、本件各窃盗は、その最後の2回にあたるものである。

(二)  本件罪となるべき事実第2記載の窃盗について

本件窃盗は、少年が、Aら共犯者と共に、オートバイを盗んだ事案である。少年は、少年の弟の友人が窃取してきたオートバイを、盗難車と知った上で、Bと共に、右オートバイに乗ってA方に出かけたが、Aが、右オートバイに乗って出かけた際、盗難車であったため警察に領置されてしまったことから、帰りの足が必要となったとして、共犯者らと、本件犯行に及んでいる。

2  少年に対する処遇について

(一)  (1) 少年は、平成8年4月、高校に進学し、野球部に入部し活動していたが、平成9年4月ころ、野球部を辞め、以前からの友人であったAが、不良集団とつきあうようになったため、少年もその仲間に入るようになり、それ以降は、仲間の家にたむろして、たばこを吸って過ごすことが続くようになった。また、右不良仲間が、勉強などしないなどといっていたのに影響を受け、少年は、テスト前でも勉強をしなくなっていった。そして、平成10年2月、友人らと遊んでいるうちに午前0時ころになってしまい、父親から怒られることに極端な恐怖心を抱き、少年は、そのまま友人宅に宿泊を続け、親に迎えに来てもらうまで家に帰ることが出来なかった。

(2) 少年は、同年4月30日、単位不足で進級できなくなってしまったことから、高校を中退し、通信制の○○高校4年生に編入したが、同年8月、夏休みになったことから気がゆるみ、本件共犯者らと夜間に遊ぶことが増え、同月末ころには、両親から再三注意を受けていたにもかかわらず、夜遊びを続けていた。

そして、同月31日、夜遅くにコンビニエンスストアで友人と出会って話し込み、帰宅が午前0時を越えてしまい、母親に鍵をかけられ、電話に出た父親からもきつく叱責されたため、帰りづらくなり、D方やB方に泊まっていた。また、少年は、弟に電話を掛け家の状況を聞いたが、その際、いつになく両親が怒っている旨告げられ、家に帰れば殴られるかもしれず、もう家には帰れないと思い込んでしまった。

(3) そのような状況の下、少年は、PHS代金の支払いに困ったDから空き巣ねらいを持ちかけられた。しかし、少年は、空き巣ねらいをすることなど嫌だったので、曖昧な返事をしていたが、執拗にDから誘われたため、少年から、空き巣ねらいよりも発覚しにくく、かつ容易に実行できると考えたひったくりを提案した。

そこで、少年とDは、共同してひったくりを行うこととしたが、当初少年がオートバイを運転し、Dがひったくりを担当したところ、うまくいかなかった。そのため、再び、Dは、空き巣ねらいを提案し、少年以外の者と空き巣ねらいを実行するなどしたが、少年は空き巣ねらいには参加せず、再度ひったくりを提案し、女性であれば手提げ鞄を持っていることが多く、その中に財布を入れていることも多いだろうと考えて、女性を狙うことにした。また、役割分担も、Dがオートバイを運転し、少年がひったくりを担当することとした。

そして、実際にひったくりを実行してみると簡単に成功したため、少年らは、以後日課のようにひったくりを繰返し、本件各窃盗に至っては、午後3時30分ころに1度ひったくりをし、現金等を手にしたにもかかわらず、夜になり暇になったことから、再度ひったくりを実行しており、極めて安易にひったくりを繰返していることが認められる。

(4) 本件オートバイ窃盗についても、少年は、以前から、少年の弟の友人が窃取してきたオートバイを、無免許で使用し、また、少年の友人に右オートバイを貸すなどしており、8月31日以降、家に帰れないと思い込んでいた状況において、自分らが使用していた盗難車が警察に領置されたことから、足がなくなったなどとして、極めて安易にオートバイ窃盗に及んでいる。

(二)  少年の性格及び行動傾向を見ると、自己認識や状況認識が浅く、わがままで甘えが強いこと、幼稚な万能感を抱いているため、社会的な枠組みに従って行動したり、その場にふさわしい行動をとることが難しく、場当たり的な欲求の充足に関心を奪われては手前勝手なことをしがちであること、年齢相応の義務や責任に対する認識が不足しており、些細なつまずきで意欲を衰えさせ、安易な行動を繰返すことが多いこと、周囲からの評価を気にするあまり、背伸びをして見栄や虚勢を張りやすく、大胆で向こう見ずな行動に走る傾向が見られることが認められる。

(三)  なお、少年の家庭環境を見ると、少年及び弟の養育に熱心な両親が健在であり、少年にも、これまで表立った非行歴は認められない。

しかし、その一方で、弟は友人が窃取してきたオートバイを預かるなどし、少年も、右オートバイを盗難車と知りながら無免許で使用し、友人に貸したりするなどの行為が見られた。また、少年は、一旦、家庭から離れて自由気ままな生活を始めると、本件各非行のように、極めて安易に窃盗行為を繰返していた。これらの事実からすると、両親の少年に対するこれまでの養育監護は、少年の規範意識の確立にはさほど役にたってはいないといわざるを得ない。

したがって、両親の少年に対する監護は、これまでとは異なった視点によるものが必要となると解されるが、少年の両親は、この点について、以前に増して、いっそう厳しく指導していくと述べるに止まっており、このまま在宅処遇を選択しても、少年の根本的な問題点の解決にはつながらないと解さざるを得ない。また、少年を在宅で処遇した場合、少年が再び両親の厳しい指導を嫌って家出をした際には、本件同様の再非行が懸念される。

(四)  よって、少年には、この際矯正教育を施し、被害者感情や自己の行為が社会に与えた影響について厳しい認識を持たせ、社会人としての自覚や規範意識を身につけさせる必要がある。

ただし、少年には保護処分歴がないこと、少年の反社会的な傾向はそれほど進んでいないこと、保護者の指導意欲は十分に認められることからして、上記処遇は一般短期処遇課程での集中的な矯正教育により所期の目的を達しうると考える。

(結論)

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して少年を中等少年院に送致することとし、主文のとおり決定する。

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