札幌家庭裁判所 平成10年(少)2519号 1999年3月09日
主文
少年を札幌保護観察所の保護観察に付する。
理由
(罪となるべき事実)
少年は、
第1 Dと共謀の上
1 平成10年9月9日午後3時30分ころ、札幌市○○区○○×丁目×××番×××号所在のE方前歩道上において、同所を歩行中のFが、右手に持っていた同人所有の現金1万円及び商品券等8点在中の手提袋1個(時価合計5000円相当)をひったくり窃取した
2 同日午後11時55分ころ、札幌市○○区○□××丁目×番××号所在の○○北西側歩道上において、同所を歩行中のGが、左手に下げていた同人所有の現金2万7000円及びハンドバック等9点(時価合計45万7000円相当)をひったくり窃取した
第2 A、B及びCと共謀の上、平成10年9月3日午前0時ころ、札幌市○△区○△×丁目××番××号所在の○○荘敷地内において、同所に駐車中のH所有のオートバイ1台(時価5万円相当)を窃取した
ものである。
(法令の適用)
すべての事実につき 刑法60条、235条
(処遇の理由)
本件は、少年が、平成10年10月15日本件各非行事実により当庁において中等少年院送致決定(一般短期処遇勧告付き)を受け、これに対して少年の付添人が抗告をなし、同年11月4日抗告審が「本件各非行の態様や少年が本件各非行を反省し更生の意欲を持っていること、保護者である両親も適切な指導監督を行う覚悟であることなどから社会内における専門家の指導によって再非行防止を図る余地があるから、試験観察等により少年の動向を観察するなどしてその可能性を検討することなく直ちに少年を中等少年院に送致した原決定は著しく不当である。」として原決定を取消し、本件を当庁に差し戻すとの決定をなしたため、審判開始となったものである。
当裁判所は、平成10年12月7日、少年について当庁家庭裁判所調査官の試験観察に付するとの決定をなし、経過を観察した。
1 本件非行に至る経緯など
(1) 少年は、中学校卒業までは、やや判断力に未熟なところがあり、成績も格別よくないものの明るく元気に通学しており、また小学校時代から打ち込んでいた課外の野球部活動も熱心に行っており、特別問題になるような行動はなかった。
(2) 少年は、平成8年4月、工業高校に進学し、野球部にも入部し活動していたが、野球部が期待していたような内容のものではなかったため平成9年4月ころ同部を辞め、以後は目標を失い、同級生であるAとともに同人が付き合っていた不良集団の仲間に入るようになって、同人宅やその仲間の家にたむろしてはタバコを吸って過ごし、それにつれてテスト前でも勉強をしないというような、けじめのないだらしない生活を続けるようになった。
(3) 少年は、単位不足で3年生に進級できなくなってしまったことから、平成10年4月30日、工業高校を中退して、通信制の○○高校4年生に編入し、アルバイトをしながら頑張っていたが、同年8月、夏休みになったことから気がゆるみ、Dなど本件共犯者らと夜間に遊ぶことが増え、両親から再三注意を受けていたにもかかわらず、夜遊びを止めることはできなかった。
(4) 少年は、平成10年8月31日、夜遅くにコンビニエンスストアで友人と出会って話し込み、帰宅が午前0時を越えてしまい、家の鍵をかけられたうえ電話に出た父親からもきつく叱責されたため、帰りづらくなり、友人方に泊まるようになった。また、少年は、弟からも、いつになく両親が怒っている旨告げられ、家に帰れば殴られるかもしれず、もう家には帰れないと思い込んでしまった。
(5) 少年は、そのような生活を送るうちに、足代わりにするために本件第2の事実記載の窃盗事件を起こし、更に、PHS代金の支払いに窮したDから執拗に空き巣狙いを誘われ、それより容易に実行できるうえ発覚しにくいと思えたひったくりを提案し、共同してひったくりを行うこととした。当初少年がオートバイを運転し、Dがひったくりを担当したところ、うまくいかなかった。そのため、再び、Dは、空き巣ねらいを提案し、少年以外の者と空き巣ねらいを実行するなどしたが、少年は空き巣ねらいには参加せず、再度ひったくりを提案し、女性であれば手提げ鞄を持っていることが多く、その中に財布を入れていることも多いだろうと考えて、女性を狙うことにし、役割も、Dがオートバイを運転し、少年がひったくりを担当することとした。
そして、本件第1の事実記載の各窃盗事件(以下「本件ひったくり事件」という)に及んだものである。なお少年によれば、実際にひったくりを実行してみると意外に簡単に成功したため、少年らは、日課のようにひったくりを繰返したということである。
2 少年の性格など
少年は、自己認識や状況認識が甘く、わがままで甘えの感情が強い。また、社会的な枠組みに従って行動したり、その場にふさわしい行動をとることが難しく、身勝手な理屈で行動しがちな面がある。
3 原決定後の状況
(1) 少年は、原決定を受けて月形学園に収容されたが、平成10年11月4日原決定が取り消されることによって自宅に帰住した。以後、両親の指導を受けて、回転寿司店でアルバイトをしながら翌年4月の○○高校への再転入(けじめを付ける趣旨で一旦退学)を目指すこととなった。
(2) 少年は、平成10年12月7日、当庁調査官の試験観察に付するとの決定を受けた。
(3) 少年は、自宅に戻ってからは緊張した生活を続け、アルバイトも休まず、また休日に出歩くこともなくなった。少年は、両親とも穏やかに話をすることができるようになり、両親も積極的に少年の気持ちを受け止め指導するよう努めている。少年によれば、少年鑑別所、少年院において本件ひったくり事件については、安易に金が手に入ったことで味を占めたことが分かった、被害者や親の気持ちが全然分かっていなかったことが分かった、けじめをつけるためにも少年院に行っても、謙虚に他人の意見に耳を傾けようと思ったということである。
(4) 少年の両親は教育に熱心ではあるもののこれまで十分な効果をあげられなかったことを反省し、今後は少年の気持ちも受け止め、できる限り少年と話し合って適切な監護指導を行っていきたいと考えており、現実に効果をあげつつある。
4 結論
以上のほか、本件法律記録、本件社会記録に表れた一切の事情を考慮すると、本件各非行の内容の悪質性や少年の前記のような性格からすれば、在宅処遇の場合、少年が両親との円満な関係を築けずその指導を嫌った場合には、再び家出し、再非行の不安がないわけではないものの、少年、両親ともその関係の改善には熱意を示していること、少年も本件の手続をとおして反省する機会を与えられ、内省も進んでいること、試験観察中も遵守事項をおおむね守ることができ、更生への意欲があると思われること、将来の目標も定め規則正しい生活を送れるようになったこと、少年の両親の指導にも期待できること等からすれば、現段階で少年を施設に収容するまでの必要性はなく、社会内処遇によってその更生を図ることが相当と判断される。
そして、上記事情に照らすと、少年に対しては専門家による指導や監督が必要と認められるから、少年法24条1項1号、少年審判規則37条1項を適用して少年を札幌保護観察所の保護観察に付することとして、主文のとおり決定する。
(裁判官 石田敏明)