札幌家庭裁判所 平成12年(家)20034号 2000年10月04日
主文
本件申立てをいずれも却下する。
理由
第1申立の趣旨
本人について補助を開始するとの審判及び本人のために本人名義の定額預金を含む定期性預金の引き出し、解約行為等の預金管理行為について補助人に代理権を付与するとの審判を求める。
第2当裁判所の判断
1 本件及び関連事件(札幌家庭裁判所平成12年(家イ)第683号)の各記録によれば、次の事実を認めることができる。
(1) 本人は、大正4年○月○日出生し、昭和17年12月16日、E(以下「夫」という。)と婚姻して、長男D(昭和18年○月○日生。以下「D」という。)、長女E(昭和21年○月○日生。以下「申立人」という。)及び二女C(昭和23年○月○日生。以下「C」という。)をもうけた。
昭和56年、夫が死亡した。
(2) 平成4年、本人は、C夫婦と肩書地で同居するようになった。
(3) 平成10年2月、本人は脳梗塞で倒れて入院した。同年5月、本人は、リハビリのため老健施設に移り、同年9月自宅に戻ったが、10日後に吐血して再び入院した。同年11月、本人はリハビリのため転院し、平成11年3月、自宅に戻り、現在、週3回のデイサービスを受けている。
(4) 本人が脳梗塞で倒れたのをきっかけに、C夫婦が本人の財産を管理するようになった。
(5) 平成12年4月14日、Dと申立人は、Cが本人の財産管理を行うのは不適切であるとして、Cを相手方とする親族間の調整を求める調停を申し立て、(平成12年(家イ)第683号。以下「別件調停事件」という。)、同年5月12日、第1回調停期日が開かれた。Cとともに出頭した本人は、今後もCと同居し、生活していきたい旨述べた。
申立人は、別件調停事件の第1回調停期日後である同月25日、前記第1記載の審判を求めて申立て(以下「本件」という。)をした。これを受けて、家庭裁判所調査官(以下「調査官」という。)に対して、調査が命ぜられた。
(6) 7月12日、別件調停事件が不成立で終了した。
(7) 7月31日、本人は、実妹B(以下「B」という。)との間で、本人の財産管理や身上監護に関する契約についての代理権をBに与えることを主たる内容とする任意後見契約を締結し、その登記を了した(登記番号第2000-975号)。
(8) 本人は、調査官に対して、本件の申立てに賛成できない旨述べ、第1回審問期日においても、同じ趣旨を述べた。
2 以上を前提にして検討するに、申立書に添付された診断書によれば、現在、本人に、痴呆の初期症状が出現しているとの記載があり、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分であって、補助類型に該当することを窺うことができるところ、補助開始の審判をするにはそもそも本人の同意が必要である。この点、本件申立てにあたっては、本人が署名押印した同意書が提出されている。しかしながら、前記1(8)のとおり、その後本人は本件の申立てに賛成できない旨明確に述べるに至っており、別件調停事件における経過や審問期日における本人の供述態度からすると、これは本人の真意に基づくものといえ、自己決定権の尊重という法の趣旨からすると、現在、本人は、本件申立てに同意していないといわざるをえない。
また、前記1(7)のとおり、本人は、Bと任意後見契約を締結し、登記している。このように、すでに任意後見契約を締結し、登記している場合、さらに補助開始の審判をするには、本人の利益のために特に必要と認められることを要件とするところ、本件においては、そのような事情は認められない。
3 以上のとおりであり、本件においては、補助開始の審判をする理由がない。よって、主文のとおり審判する。
(家事審判官 瀬戸啓子)