札幌家庭裁判所 平成13年(家)383号 審判 2001年6月11日
申立人 北海道●●児童相談所長 A
事件本人 B
保護者(事件本人親権者養母) C
主文
申立人が事件本人を児童養護施設に入所させることを承認する。
理由
第1申立の趣旨
主文同旨
第2当裁判所の判断
1 一件記録によれば、次の事実が認められる。
(1) 事件本人の親権者養母C(以下「母」という。)は、昭和○年に北海道室蘭市で出生し、准看護婦として働いた後、二度の婚姻と離婚を経て、昭和62年9月ころ、神奈川県三浦市において、当時働いていたスナックの店長であったDと知り合って同居するに至り、同人との間に事件本人(平成○年○月○日生。現在小学校6年生。)をもうけた。母は、平成3年4月ころ、Dと別居したが、このとき既に事件本人の弟E(平成○年○月○日生。現在小学校4年生。以下「弟」という。)を妊娠していた。
その後、母は、Fと知り合い、平成3年8月、同人と婚姻し、その際、Fと共に事件本人と養子縁組をして養母となった。なお、母は、Fと婚姻した後に弟を出産した。
そして、母は、平成4年6月、事件本人の親権者を母と定めて、Fと離婚し、北海道三笠市に転居した。
(2) 平成8年4月、事件本人は小学校に入学したが、その前後ころから母が自宅に引き籠もるようになり、事件本人にも不登校が見られるようになった。そして、同年10月、母が糖尿病により入院したことを契機として、事件本人と弟は、北海道a児童相談所での一時保護を経て児童養護施設に入所することとなった。
なお、母は、生活保護を受給して生活しており、これは現在に至るまで続いている。
(3) 母は、平成9年3月、Gと婚姻し、これに伴って、同年5月、事件本人と弟を家庭に引き取った。しかし、事件本人は、弟と屋外を歩いていたところや、電話ボックス内で一人で凍えていたところを警察等により保護されることが続き、同年9月15日、a児童相談所において一時保護された。そして、同年10月2日には、母の体調不良のために弟も同児童相談所により一時保護された。
しかし、同年11月4日、母の強い意向によって、事件本人と弟の一時保護は解除され、母が引き取った。
なお、Gは刑事事件を起こして身柄拘束され、母は、同年10月、Gと協議離婚した。
(4) 事件本人は、上記のとおり、母の許に引き取られたが、同年11月末ころから不登校となり、平成10年2月1日、再びa児童相談所に一時保護され、同月3日には弟も同様に一時保護された。そして、母が施設入所に同意したので、事件本人と弟は、同月12日、児童養護施設に入所となった。
その後、母は、北海道北広島市に転居し、前夫Gと同居した。
(5) 平成12年1月末ころ、母は、北海道●●児童相談所に事件本人と弟の引き取りを求めるようになり、その強い意向で、同年3月25日、事件本人と弟は母に引き取られた。その際、母は、養護施設においては、事件本人らに対する不当な監護が行われていると主張し、その後、児童相談所や福祉事務所などの関係機関との接触に拒否的な態度をとるようになった。
なお、母は、このころGと別居した。
(6) 母は、同年6月、急性肝炎のために入院し、事件本人と弟は、児童養護施設に一時的に預けられた。そして、同月30日、弟は帰宅を望んだので母の許に引き取られたものの、事件本人は帰宅を渋ったため、一時保護となった。
●●児童相談所は、この際に、母の事件本人に対する虐待を疑い、その旨、母に説明したが、母は、その指摘に対して抗議をする一方、一時保護を容認するかのような態度も示していたため、事件本人の一時保護は継続された。母は、その後も●●児童相談所等に対して執拗に抗議を続けていたが、同年8月28日、事件本人を児童養護施設に入所させることに同意したので、事件本人は、同年10月2日、児童養護施設に入所した。
しかし、母は、同年11月12日、上記の児童養護施設から事件本人を連れ出し、そのまま事件本人を自宅に連れ帰り、その後も事件本人の再入所に応じなかったため、事件本人の児童養護施設入所措置は解除された。
なお、同年10月2日、母に対して児童福祉司指導措置が執られていたが、母は、児童福祉司には全く対応しようとしなかった。
(7) 事件本人は、平成13年1月31日、下校後、数時間待っても自宅に入れて貰えなかったことから学校に相談し、自ら●●児童相談所での保護を求めたため、●●児童相談所は、事件本人を一時保護した。そして、翌日、●●児童相談所は、その旨を母に説明したが、母は興奮して攻撃的な態度をとり、この措置に承諾を与えなかった。
その後も、母は、事件本人を児童養護施設に入所させることに同意しないため、●●児童相談所は、同年3月5日、事件本人を児童養護施設に一時保護委託した上、本件を申し立てた。
なお、事件本人は、現在入所している上記施設での生活に適応しており、学校にも進んで通い、心身共に安定した生活を送っている。
(8) この間の母の事件本人に対する監護・養育態度については、母の精神状態が落ち着いている時期には格別の問題はなかった。しかし、母が体調を崩したり、その精神状態が不安定になっている場合には、母は、事件本人を登校させず、時には十分な食事も与えないことがあり、その他、体罰を加えたり、屋外に閉め出すなどということを繰り返していた。また、母は、弟と比べて事件本人により厳しく対応し、それが躾の当然のやり方であると考えており、弟も兄を蔑ろにする態度をとっていることが窺われる。
そして、母は、●●児童相談所などの関係機関の指導に対して拒否的な態度をとり、意に添わない指導を受けたときには攻撃的な態度さえ示しており、母の事件本人に対する監護・養育態度が改善される見通しは全くない。
(9) なお、母は、本件審判手続において、当庁家庭裁判所調査官による調査に対して拒否的な態度を示して協力せず、また、当裁判所による審問期日にも出頭しなかった。
2 当裁判所の判断
(1) 上記1に認定したとおり、本件は、事件本人が小学校に入学したころから、母の引き籠もりや事件本人の不登校が見られ始め、母の体調不良時などに、事件本人に対し、一時保護や児童養護施設入所の措置が執られていたが、その都度、母の強い意向で家庭引取となってきた事案である。そして、事件本人は、家庭に引き取られても、母の体調が悪化するなどして、数か月後には再び保護されるということを繰り返してきたものであり、この経緯に照らすと、事件本人に対する監護の在り方は、母の精神状態によって左右されていたといわざるを得ないものである。
このような母の監護の許で、事件本人は、母の精神状態の変化が予測できないことから不安を抱えた生活をせざるを得ず、心情的に安定した環境にはなかったことが容易に認められるものというべきである。
そして、上記認定の母の事件本人に対する体罰等は、事件本人の福祉を著しく害するものといわざるを得ないものである。
他方、母は、児童相談所等の関係機関の指導、援助に対して拒否的な態度をとっており、母がその指導、援助を受け入れて監護態度を改めることは考え難く、事件本人に対する母の監護状況が改善される見通しは全くない。
(2) 以上によれば、本件においては、児童福祉法28条1項に規定する児童福祉機関の措置権を行使すべき事態にあるというべきであり、事件本人の福祉のためには、相当期間、事件本人を児童養護施設に入所させて、これに安定的な生活環境を与えることが必要であるというべきである。
3 結論
よって、本件申立は理由があるから、主文のとおり審判する。
(家事審判官 貝原信之)