札幌家庭裁判所 平成14年(家)2161号 審判 2003年2月27日
主文
札幌市厚別区長Aは、申立人とBとの間に平成○年○月○日出生した長男であるCにつき、その名を「曽〇」とする出生届の追完届を受理せよ。
理由
第1 申立ての趣旨及び実情
1 申立ての趣旨
主文同旨
2 申立ての実情
(1) 平成○年○月○日、申立人とBとの間に、長男であるCが出生した。
(2) 申立人は、同月29日、長男の名を「曽〇」とする出生届を提出したが、その際、窓口の担当係官から「曽」は、新たに出生した子につけることができない字とされていると言われたため、申立人は、やむなく長男の名を未定として出生届を提出した。そのため、長男につき、子の名を未定とする戸籍への記載がされた。
(3) 申立人は、その後、長男の名を「曽〇」とする名の追完届を提出したが、札幌市厚別区長Aは、同年12月4日、同届出を不受理とした。同追完届の不受理の理由は、「曽」が、戸籍法50条2項及び戸籍法施行規則60条で定められる子の名に用いることが認められている文字以外の文字であり、子の名に使用できない文字であるというものであった。
(4) しかし、札幌市厚別区長の追完届の不受理処分(以下、「本件処分」という。)には不服があるので、主文同旨の処分を求め、本件申立てに及ぶ。
第2 当裁判所の判断
1 省略
2 ところで、戸籍法50条1項は、子の名には常用平易な文字を用いなければならないとした上、同条2項で、常用平易な文字の範囲は命令で定めるとし、これを受けた戸籍法施行規則60条は、常用平易な文字の範囲につき、当用漢字表に掲げる漢字、戸籍法施行規則別表第2に掲げる漢字及び片仮名又は平仮名に限定しているが、その趣旨は、子の名に複雑、難解な漢字が用いられ、命名された本人や周囲の関係者に社会生活上の不便や支障を与えることを防ぐ点にある。そして、その趣旨にかんがみれば、戸籍法施行規則60条に列挙されている子の名に使用できる文字は限定列挙であって、市町村長はこれに従った戸籍行政事務を行えば足りると解される。
もっとも、戸籍法118条、特別家事審判規則15条が、戸籍事件についての市町村長の処分に対しては家庭裁判所に不服の申立てをすることができ、不服の申立てに理由があるときには家庭裁判所は当該市町村長に相当な処分をするよう命じなければならないとしている趣旨や、戸籍実務上、家庭裁判所による名の変更許可の審判に基づく名の変更届出については、それが戸籍法施行規則60条に定める文字以外の文字を用いている場合でもこれを受理する扱いとされている事実(昭和56年9月14日付け法務省民二第5537号法務局長、地方法務局長あて民事局長通達一の4参照)にかんがみれば、家庭裁判所が、事後的に、子の名に使用できない文字を含む名を子に命名することが相当か否か判断し、新たに市町村長に出生届や追完届を受理するよう命じることは当然許されるものと解される。
3 そして、その判断は、性質上、子の名に使用された文字が、複雑、難解な漢字であり、命名された本人や周囲の関係者に社会生活上の不便や支障を与えるか否かによって判断する他ないが、この観点からすると、「曽〇」の名は、戸籍法50条1項、2項、戸籍法施行規則60条の趣旨に照らしても、妥当性を持つ名であることは明らかである。
第3 結論
以上の次第であるから、特別家事審判規則15条に基づき、主文のとおり審判する。