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札幌家庭裁判所 平成18年(少)489号 決定 2006年6月16日

少年

A (昭和63.10.10生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は,平成17年9月6日午前3時45分ころ,○○市○○区○○×番地○○公園に所在する「○○」東側通路において,B(当時25歳)が,通行人から金員を強取しようとして,C(当時26歳)に対し木の枝様のもので後頭部を殴打するや,少年も上記Bに加勢しようと考え,上記Bと意思を相通じて,後頭部や右大腿部を足蹴りにするなどの暴行を加えてその反抗を抑圧した上,同人所有の現金約6000円及びキャッシュカード4枚等在中の財布1個(時価合計2600円相当)を強取した。

(事実認定の補足説明)

1  少年及び付添人は,本件強盗がBによる単独犯行であると主張し,強盗の共同正犯の成立を否認するので,以下検討する。

2  関係各証拠によれば,概ね争いのない事実として,次の事実が認められる。

(1)  少年は,平成17年4月28日,北海少年院を仮退院した後,△△市で父と同居し,同年8月ころから,暴力団関係者がいる会社で土木作業員として稼働していたが,同年9月2日ころ家出し,知人のBに付いて○○市に赴いた。Bは,本件当時,○○市に所在する暴力団○○組の関係者で,少年は,同16年初めころにBと知り合い,以後親しく付き合っていた。少年は,同17年9月2日ころから本件当日までの間,Bと行動を共にすることが多く,上記○○組の事務所や,両名共通の知人で△△出身のDの車などに泊まりながら無為徒食の生活を送り,同月5日までには所持金をほとんど使い果たしていた。

(2)  少年とBは,同月5日深夜に○○公園に赴き,そのまま同公園内にいた。Bは,同月6日午前3時45分ころ,北から歩いて来るCを見かけると,付近に落ちていた木の枝を拾ってCの左横ないし左斜め前方から接近したが,CがBを避けて通り過ぎたため,Cを追いかけ,拾った木の枝で,Cの背後からその後頭部を1回殴った。Cは,所持していたレジ袋をBに投げつけ,歩道に沿って南へ走ったが,約10メートル南の地点でBに追いつかれ,歩道脇の草地付近で,左半身を下にして横向きに倒された。さらに,Bは,倒れているCの正面に立って木の枝で殴ったり足蹴りするなどした上で,Cのズボンのポケットから財布を奪い,少年と共に北へ走って逃げたが,同公園北側出入口付近まで来たところで,少年が携帯電話を落としたことに気づいたため,一旦犯行現場付近に戻って携帯電話を拾い,再び北側出入口付近の駐車場を通って逃走した。他方,Cは,被害直後に最寄りの○○交番に駆け込み,本件被害を申告した。なお,上記犯行の間,現場周辺には,B,少年及びC以外に人はいなかった。

(3)  Bは,少年と共に○○川河川敷まで来ると,少年の前で,Cの財布の中から現金のみを抜き取り,同財布を○○川に投棄した。

3  関係者の証言とその信用性について

(1)  Cの証言

ア 証人Cは,当審判廷において,次のとおり証言した。

Cは,コンビニエンスストアで買物をして帰宅する途中,○○公園の北側出入口から同公園内に入り,南に向かって同公園内の池の近くまで歩いて来たとき,左前方の草地に2人の男が立っているのが見えた。一方の男(以下「X」という。)がCの方に歩いてきたが,そのままだとXとぶつかりそうであったので,Xを避けるように右側に寄り,同人の横を通り過ぎた。他方の男は,木の下に立っていた。その後,Cは,背後から足音が聞こえて振り返ろうとした瞬間,Xに後頭部を殴られたため,歩道に沿って南へ走って逃げたが,Xに後ろから服のフードを掴まれて動きを止められた。そして,Xが,フードを掴んだままCの右横から正面に来て,Cと向き合う形になった時,Cは,背中の辺りに強い衝撃を受けて転倒し,歩道脇の草地の上に左半身を下にして横向きに倒れたところを,正面に立つXから,棒状の物で頭を4,5回殴られたり,足を4,5回蹴られた。さらに,Cは,後頭部に手を回して組んでいたが,背後からその手の甲を1,2回蹴られた。この際,Cは,手の甲を蹴った者を直接見ていないが,XがCの正面に立ち,Cの後頭部には足が届かないところにいたことと,X以外の人物の影が見えたことから,2人の男に襲われたと認識した。

Cは,本件当時Xの顔を見ており,後日Bの顔を見て,Xとよく似ていると思ったが,他方の男の顔は見ていない。

イ Cは,本件被害を受けた直後から一貫して,2人組の男からこもごも暴行を受けた末に財布を奪われた旨供述している上(平成17年9月6日付け,同18年4月7日付け,同月8日付け,同月16日付け各警察官調書,同月17日付け検察官調書2通),当審判廷においても,上記のとおり,2人組の男から襲われた状況について具体的かつ迫真的に語っており,その内容に不自然,不合理な点は見出せない。

ウ これに対し,付添人は,①Cの供述には転倒原因につき変遷があること,②本件犯行現場が暗かったため,Cが2人の男に襲われたと誤解した可能性があることを指摘し,C証言の信用性を否定するので,以下検討する。

確かに,Cは,転倒原因について,平成17年9月6日の取調べの際は,「Xの男に蹴られたり,他方の男に前から殴られたりしたのです。そして,私はこらえ切れずにその場で倒れてしまいました。」と供述し,同18年4月7日の取調べの際は,「私は必死に走っていたので定かではありませんが,走っている最中に右足を真後ろから蹴られたような感触があり,バランスを崩してしまい,転倒してしまったのです。」と供述していたところ,同月16日の取調べにおいて,上記供述を変更し,「Xに棒のような物で1回殴られた後,南方向へ走って逃げたのですが,約10メートル走ったところで,当時着ていた服のフードを掴まれて,体勢が少しのけ反るような格好となり,そのまま歩道と草地の境界辺りまで移動していました。その場で,Xは左手でフードを持ったまま,私の右斜め前の方へ回り込み,右手で私の左腕を殴ってきました。その最中に,突然,背中の肩の少し下の辺りに強い衝撃を受けて,突き飛ばされて草地の上に倒されていました。」と述べている。

しかしながら,Cは,深夜帰宅途中に人気のない公園で突然に襲われ,極度に動転していたことは疑いなく,被害の態様,順序,場所等のすべてを正確に観察・記憶・再生することは困難であり,一部分に変遷が生じることはやむを得ない。そして,Cが,当審判廷において,上記変遷について,「今年4月7日の取調べの際に転倒原因について聞かれましたが,その時点では,自分の動きが止まった瞬間を思い出せず,足に何か当たったような感じがしたので,そう答えました。しかし,同月16日の取調べのとき,当時の自分の服の写真を見せられたり,現場検証を行ったりして,動きが止まった瞬間を思い出しました。」旨説明しているところ,記憶の不鮮明な部分が後日写真や現場を見ることによって喚起されることもあり得ないわけではないから,上記説明が不自然,不合理とまではいえない。そうすると,Cの供述の上記変遷をもって,C証言の全体の信用性を左右するとまではいえない。

次に,本件非行は深夜の公園で行われているが,「被害現場の視認性について」と題する平成18年4月20日付け捜査報告書によれば,本件非行現場の視認状況は周辺の街路灯により良好であり,約4メートル離れても着衣・人相が識別できる程度の明るさがあったと認められることから,Cが,視認性の悪さによって犯人の人数を誤解することも考えがたい。

エ さらに,CがB及び少年とは面識を有さず,犯人の人数について特にこだわるべき理由もないことに照らすと,少なくとも「まずBから暴行を受け,転倒した後に,Bを含む2人組から同時に暴行を受けた。」旨のCの証言は,十分に信用することができる。

(2)  Bの証言

ア 証人Bは,当審判廷において,本件非行の客観的状況に関し,次のとおり証言した。

Bは,まず,付近に落ちていた木の棒を拾って,Cに近づき,「どこ行くの」などと声をかけたが,Cが避けるようにして通り過ぎたので,拾った木の棒で,Cの背後から後頭部を殴り,走って逃げようとするCを追いかけて捕まえた上,Cの正面に回り込み,殴ったり蹴ったりした。このとき,少年が,Cの右斜め後ろから走ってきて,Cの背後からタックルするように体当たりしたため,Cは,芝生の上に左半身を下にして横向きに倒れた。Bは,Cの腹側に立って,木の棒で叩いたり,足や腹を蹴ったりしたが,少年も,Cの背中側から,同人の頭や背中を蹴っていた。その後,BがCの財布を奪い取り,少年とともに逃走した。

イ 関係各証拠によれば,Bは,平成17年12月×日,事後強盗の容疑で緊急逮捕され,起訴後勾留中であった同18年3月×日,警察官に対して本件犯行を自供したものであるが,本件の外にも窃盗3件(被害額合計2万6030円),住居侵入窃盗2件(被害額合計4万3000円),傷害1件,大麻取締法違反1件の合計7件起訴されていることが認められることから,少年を本件に引き込んだとしても,Bの刑事責任全体に影響するところがほとんどないことは明らかである上,自らが本件強盗の実行行為の大部分を行っていることも自白しており,自己の刑事責任の軽減を意図して供述したとは考えがたい。そして,本件非行の客観的状況に関する上記B証言は,信用性の認められる前記C証言とも概ね合致するものであり,信用性の高いものというべきである。

(3)  Dの証言

ア 証人Dは,当審判廷において,本件後の状況について,次のとおり証言した。

Dは,本件の翌日ころ,友人から,○○公園で○○人が金を奪われたという事件があったことを聞き,その犯人は少年とBではないかと思い,少年とBに対し,「○○公園の事件おまえらじゃないべな。」などと問うたところ,少年は,これを否定せず,6000円を奪ったにもかかわらず,分け前を貰えず,Bが全部取った旨述べ,不満そうな顔をしていた。

イ Dは,少年とBの共通の友人であり,本件の前後において両名と行動を共にすることが多かったものであるが,当審判廷における証人尋問においても,特に少年に対して悪感情を有していることは窺われず,少年に対して不利な内容の虚偽供述をする動機も見あたらないから,上記D証言の信用性は高いものと認められる。そして,上記D証言によって認められるところの本件後の少年の態度は,少年が本件犯行に関与したことを十分に窺わせるものといえる。

4  少年の供述内容とその信用性について

(1)  少年は,捜査段階から本件犯行に関与したことを一貫して否認し,本件非行状況について,概ね次のとおり供述している。

少年は,平成17年9月5日深夜,Bとともに○○公園に行ってぶらぶらしていたところ,突然,Bが,ひったくりを行うと言い出した。少年は,捕まるのが嫌だったので断ったが,Bがしつこく誘ってきたため,同人と別れてDの家に行くことに決め,Dの家への行き方は分からなかったが,公園内を南に向かって歩き出したとき,Bが「おい」と言ったのが聞こえたので,振り向くと,約10メートル先でBが人を殴っているのが見えた。その被害者は,少年の方に走ってきて,側を通って約10メートル先で転んだ。Bは,倒れた被害者を殴ったり蹴ったりした後,しゃがんで手を伸ばし財布を抜き取るような動作をした。少年は,その間,Bや被害者から10メートルほど離れたところに立っていたが,気が動転してほとんど動けなかった。その後,少年は,Bとともに北へ逃げたが,その途中で,Bから「何か落としてないか。」と聞かれたので確かめると,胸ポケットに入れていた携帯電話を落としたことに気付いたので,本件の現場に戻り,自分が立っていた辺りに携帯電話が落ちているのを見つけ,それを拾って,○○川の河川敷まで逃げた。

(2)  このように,少年の供述は,前記のC証言及びB証言と矛盾する内容となっているが,少年は,関係各証拠によれば,平成18年4月4日本件の容疑で通常逮捕される直前に,警察官に対し,一旦は「9月の初めは△△にいた。」などと言って虚偽のアリバイを主張していたことが認められることや現在仮退院中であることに加えて,上記供述の中においてすら,○○公園からDの居場所へ行けるかどうかもわからなかったにも関わらず,Bと別れてDの居場所に行こうとしていたなどと不合理な弁解を述べていることに照らすと,たやすく少年の供述を信用することはできず,前記のC証言及びB証言の信用性と比較すれば,少年の供述のうち上記各証言に反する部分を採用することはできない。

5  以上によれば,前記2記載の認定事実並びにC及びBの各証言により,少年は,Bが財物奪取の意思をもってCに対する暴行を開始したことを認識した(この事実は少年の供述からも優に認められる。)上,遅くともCが転倒した後,同人に対しBと共同して暴行を行ってCの反抗を抑圧し,BがCの金品を奪取した事実が認められ,少年には強盗罪の共同正犯が成立する。

(法令の適用)

刑法60条,236条1項

(処遇の理由)

1  本件は,少年が,成人の共犯者と敢行した強盗の事案であり,その動機に酌量の余地はなく,態様は悪質である。そして,被害者は,深夜公園内を通行中に見知らぬ相手から激しい暴行を受けた挙げ句に財布を奪われたものであり,その肉体的,精神的苦痛も大きいことに照らすと,少年の責任は重大である。また,少年は,一貫して本件非行への関与を認めず,不合理な弁解に終始しており,本件非行について真摯に反省しているとは認めがたい。

2  一件記録によれば,少年は,(1)平成15年12月8日,当裁判所岩見沢支部において,窃盗,暴行,傷害,道路交通法違反保護事件で在宅試験観察の決定を受けたが,再び自動車窃盗をしたため,同16年4月26日,中等少年院送致の決定を受け,北海少年院に入院したこと,(2)同17年4月28日に仮退院したが,同年6月ころから,D,B等の素行不良者との交友を復活させ,無断外泊を繰り返していたこと,(3)同年8月ころから,保護司との接触が途絶えがちになり,保護観察所からの再三にわたる出頭指示にも応じず,同年11月以降連絡が取れない状態になっていたこと,(4)同年9月2日ころ,地元の人間関係や金銭トラブルが原因で○○に来て暴力団事務所などに泊まりつつ,Bと行動を共にしている中で本件非行を行うに至ったこと,(5)同月13日ころ,△△市に戻り,同月下旬ころから□□市で17歳の女性と同棲生活を始めたものの,同年11月ころには再び△△市に戻り,素行不良者の従兄や勤務先の暴力団関係者との交友を続けていたこと,(6)体件の観護措置中も,鑑別所で,「暴力団の中には筋の通っている人もいるし,…仕事を責任をもってやっているので,暴力団とかかわることについて,僕自身そんなに悪いことだと思っていません。」などと暴力団に親和的な内容の作文を書いていたことが認められる。

3  少年は,前件の鑑別結果通知書において,周囲の人に追従することが多く,特に年長者に頼りやすいこと,軽率で慎重さに乏しい行動に出やすいこと,自己統制力が弱く,後先を考えずに欲求や衝動のままに行動しやすいことなどが指摘されていたところ,本件の鑑別結果通知書においては,感情を抑えて他者と接する力が身に付くなど成長した面も見られるが,暴力団との関わりについての問題意識が乏しく,素行不良者に依存する傾向が強いことなどが指摘されている。

4  一件記録によれば,少年の父母は,平成2年ころ少年と姉(昭和62年×月××日生)の親権者を母として離婚したが,平成3年8月××日に少年と姉の親権者を父に変更する旨の調停が成立した後は,父が親権者として情愛をもって少年を養育してきたことが認められる。しかし,父は,暴力団関係者等の素行不良者との交友を絶とうとしない少年に対して強い指導を行うことができなかったのであって,今後姉の協力が得られるとしても,直ちに家庭の監護力に期待することはできない。

5  以上のとおり,少年は,仮退院中であるにもかかわらず,暴力団関係者と交友する中で本件非行を行ったものであり,規範意識の欠如は甚だしく,その背景にある暴力団への親和性等の資質上の問題点,保護者の監護能力に鑑みると,少年を再度中等少年院に送致し,系統的な教育を施すことにより,本件非行の責任を厳しく自覚させるとともに,暴力団関係者との交友を絶つ強固な意思を持たせ,社会内で健全な生活をなし得る力を養うことが相当である。

6  よって,少年法24条1項3号,少年審判規則37条1項を適用して少年を中等少年院に送致することとし,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松嶋敏明 裁判官 菊井一夫 室橋秀紀)

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