札幌家庭裁判所 昭和40年(少)3418号 1965年11月25日
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
一、少年の非行
少年は、昭和四〇年一〇月○○日午後二時頃、友人のAの誕生祝に呼ばれていたので同人が自分の専用の部屋として使用している札幌市南八条西一丁目、○々○守○方中二階八畳間に赴いた。ところが、これより先、BとCが、たまたまデパートで知り合つた女子高校生○沢○子当一六年と同○上○紀当一五年を言葉巧みに同所に連れ込んだところ、右B、Cと居合わせたAおよび同人の誕生祝客のD、Eの五名(いずれも少年)が、右両女を交互に強姦することを共謀するに至り、先ずAが○沢○○子を、Dが○上○紀を、それぞれその一隅のカーテンの蔭や、奥六畳間に離れて敷かれた敷布団の所に連れて行き、突然掛布団をかけ、肩を引張り、引き倒し、のしかかり、手足を押え、着衣を引張り脱がせ、全裸にするなどの暴行を加え、「静かにしろ」「脱がなければ破るぞ」などと告げ、その意に反すればいかなる危害を加えるかもしれない態度を示して脅迫し、それぞれ同女らの反抗を抑圧して強いて姦淫しようとしていた時に、丁度少年が同所に来合せたこととなつた。そこで少年においても、その場に女の上着が置かれている等の状況と、右Eから、A、Dはじめ皆がそれぞれ女を姦淫しようとしている旨告げられた事から、前記の事態を察し、自らも劣情を催し、これを機会に右AとDの暴行脅迫を利用して前記五人の少年と交々同女らを姦淫しようと考え、
(1) ここに、右少年らと右○上を交互に強姦することを共謀し、同時頃、同所の奥六帖間で、前記のとおり暴行脅迫を加えて強姦しようとしたが陰茎が勃起しなかつたため中止したDに続き、少年が同女に乗りかかり、押えつけるなどの暴行を加え、その反抗を抑圧し強いて同女を姦淫したのであるが、ところが、少年の右実行中にAの誕生祝にやはり同人から呼ばれていたFをはじめG、H、Iの四名(いずれも少年)が同所に来て、ねている同女らに少年ほか一名がそれぞれ抱きつき、同女らが「止めて」などと言いながら抵抗している状態を見、また、Aらから女を交代で姦淫している旨を告げられ参加をすすめられたので、少年と前記Aら五名が交互に同女らを強姦していることを知り、右Fら四名においても劣情を催し、これを機会に既になされた暴行脅迫を利用して前記六名と交互に同女を強姦しようと考え、少年をのぞくAら数名と同女を強姦することを共謀し、ここに上記一〇名が順次共謀して、同時頃から約二時間の間、同所奥六帖の間で、同女に対し、少年に引き続いて、A、F、G、H、Cにおいて、順次前記同様の暴行脅迫を加えてその反抗を抑圧し、或いは、同女が前者の暴行脅迫により抗拒をあきらめていることを知りながら、同女にのしかかつて強いて姦淫し
(2) (1)と同様に前記のとおり○沢○○子に対する強姦を共謀し一部を実行していたA、D、E、B、Cと同女を交互に強姦することを前同様に共謀し、ついで(1)記載のとおり犯行現場に来たFら四名と前同様にAらを通じて共謀
し、ここに上記一〇名が順次共謀して、同時頃から約二時間の間、同所八帖間のカーテンで仕切られた一隅で、同女に対し、A、E、B、C、Iらにおいて交互に前記同様の暴行脅迫を加えて反抗を抑圧し、或いは同女が前者の暴行脅迫により抗拒をあきらめていることを知りながら、同女にのしかかり、強いて姦淫しようとしたが、同女が腰を動かしたり、少年らが不馴れの為陰茎を没入できなかつたり、陰茎が勃起しなかつたため、いずれもその目的を遂げなかつたものである。
二、適条
(1)の事実 刑法第一七七条第六〇条
(2)の事実 同第一七七条第一七九条第六〇条
三、保護の必要性
少年は、小学校三年時から祖母と母のみの家庭に育ち、中学二年時○○中学に転校してから、喫煙や○田○光(昭和四〇年四月、母校の先生に対する刃物を示しての脅迫、
暴力行為等処罰に関する法律違反保護事件で中等少年院に送致)、本件共犯A、Dらのグループとの不良交友、外泊などの行為があつたので、母が心配して埼玉県下の親戚に少年を預け、昭和三九年春同地の中学を卒業後、東京都下の私立高校に入学させたが、勉学の意欲なく態度も悪く数回肉体関係をし、二個月余通学したのみで退学し、母の許に帰つて再び前記少年らとの不良交友を復活させ、札幌の繁華街で同年一〇、一一月の約二個月と一二月の約一〇日間をバーテン見習として働きその間約一個月間一人でアパート生活をし、知り合つた女と肉体関係を結ぶなどしたが、その他は徒遊し、昭和四〇年一月上京してバーテン見習として住込んで働いたが、七月に帰省したまま帰らなかつたので解雇され八月中はバーテン学校に入るとか友人との紛争を解決するとかの口実で東京札幌間を往復するのみで徒食し、その後は従前の不良交友を復活し毎日定職もなく母から小遣をもらい飲酒、パチンコ、時にはA方に泊るなど徒遊し、だらしのない生活を送つているうちに、本件非行に至つたものである。そして、少年は本件強姦の共謀に最初から参加したものではないとはいえ、一旦参加すると積極的に行動するなど犯情悪質である。
少年は、社会性の未熟な、意欲も持続性もない弱志者で、意志の自立性は乏しく、軽佻的で、怠惰で享楽的で、我がままで、自分の思いどおりにならないと承知できないと言つた性格で、また反省心に乏しく本件非行についても充分な反省はなされず、権威、社会に対する不信感を抱いている。
少年の家庭は、父が行方不明で、母は少年の不しだらな生活にも規制を全く及ぼすことが出来ず、少年の弟も家庭裁判所に係属するなどその監護教育能力は乏しく、一方、少年も家庭が面白くないと感じているなどの事情があるから少年をこの様な家庭においていては、少年の性格的な脆弱さを矯正し、同時に健全な社会規範意識をもたせ反省心を身につけさせることはできないものと解され、また、埼玉県下の親戚も既に少年が一度預けられ失敗しているから、社会資源として適切ではない。
その他少年の成育歴、生活環境、資質など諸般の事情を考えると今後の少年の健全な育成のためには、この際中等少年院に収容して規律ある集団生活の中で職業訓練その他各種心身の訓練を施し、その教化改善をはかることが適切であると判断される。
よつて、少年法第二四条第一項第三号を適用し、主文のとおり決定する。
(裁判官 野田殷稔)