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札幌家庭裁判所 昭和45年(少)2379号 決定 1970年10月05日

少年 H・E(昭三〇・八・七生)

主文

少年を教護院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は中学校三年に在籍中の生徒であるが、精神分裂症を発病、疾患中の実母が昭和四四年五月入院したころより実父が少年に肉体関係を強要するに至り、少年においてもこれを拒否することもできないまま嫌々ながらこれに応じて以後昭和四五年九月ごろまでの間、継続的に実父との肉体関係を反復し、更に同年二月ごろには妊娠して同年七月妊娠中絶手術をするなど自己の徳性を害する行為をする性癖のあるものである。

もつとも、前記のとおり少年自身としては進んで実父とそのような関係を持つたわけのものではなく、むしろ、それを嫌悪し実父を憎んで短期間ながら昭和四四年六月および昭和四五年六月の再度にわたり家出をしたほどであつて、保護者としての監護義務を怠るばかりか少年の福祉と情操を害することの著しい所為を恥じぬ実父の行為の被害者としての立場にあるというべきものであるが、少年法第三条第一項第三号にいわゆる「自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖がある」といいうるためには物理的な強制の下に本件におけるような行為がなされたような場合はともかく、必ずしもそれが自発的な行為であることも、また、そのような性癖の形成につき少年自身に可非難性が存することも必要ではなく、特に本件にあつては一年以上の長期間にわたつて実父より強要されるままに肉体関係を消極的ながらも受忍し、学校や係属中であつた児童相談所あるいは補導にあたつた警察官などに十分相談することもしなかつたのであつて、このような非倫理的、反社会的行為を消極的に受忍し続けてきたこと自体、仮りに少年としてはそうするよりほかなかつたとしても、自己の徳性を害する行為をする性癖があるというべきである。

以上のような境遇にあるにしては今日のところでは少年の犯罪への危険性はそれ程高いとは思われないが、昭和四五年六月に家出をした際にはバーでホステスとして稼働したり、同年九月には街頭で出会つた男性のアパートに投宿して肉体関係を持ち、あるいは、旅館に投宿して代金を支払わずに去るなど次第にその行動は大胆になるに至つており、無銭で家出をした少年としては他にとりうる方法がなかつたとはいえ、このような経験が積み重なることによつてこのまま放置したのでは犯罪的危険性ないし累非行性が高くなることが予測され、その性格および環境に照して将来罪を犯す虞がある。

(法令の適用)

虞犯少年法第三条第一項第三号ニ

(本処分の必要)

少年の生育歴、生活環境、性格および行動傾向、実父の人格、精神状態等の詳細は家庭裁判所調査官作成の少年調査票、札幌家庭裁判所医務室医師作成の診断結果報告書、礼幌少年鑑別所の鑑別結果通知書に記載のとおりであつて、今後少年を健全に育成するためには、現在の生活環境、とりわけ実父の支配下より離脱させて相当の期間規律ある生活の訓練を受けさせて徳育を施し、少年の情操を高めることが必要であるので少年を教護院に送致するを相当と認め、少年法第二四条第一項第二号を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 村上敬一)

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