札幌家庭裁判所 昭和56年(少)3206号 決定 1981年10月15日
少年 H(昭○・○・○生)
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(罪となるべき事実)
少年は、いわゆる暴走族「○○」の総長であつたところ(現在は、同暴走族の相談役)、昭和五六年五月下旬ごろ、同暴走族の顧問であるA(当時三八歳、もと○○組系の暴力団員)から、「覚せい剤をやつている若い女の子を世話してくれ、二人頼む。」「ピンコでも良いけど、できれば若くて、かわいい女を捜してくれ。ただし、病気もちはだめだぞ。」「俺のほかに、もう一人やりたい奴がいるんだ。」等と、性交の相手方となる若い女性を捜してくれるように求められたことから、同暴走族の副総長であつたB(当時一七歳、現在は同暴走族の総長)、同暴走族に所属するC(当時一七歳)らと共謀のうえ、同年五月二四日午前一時ころ、札幌市○○区○×条○×丁目所在、「○△」前付近路上において、前記Aが求めている性交の相手方にさせる女性として、かねて、前記のCと顔見知りであつたD子(昭和○年○月○日生)、連れのE子(昭和○年○月○日生)らを世話することにして、同女らが、いずれも一八歳未満であることの情を知りながら、Cにおいて、同女らに対し、「ちよつと頼みたいことがあるんだけど、お前シヤブをやつたことあるか。」「ある物を運んでくれたら、覚せい剤を回してやつても良いぞ。」等と申し向けて、言葉巧みに誘いかけ、同日午前一時三〇分過ぎころ、札幌市○○区○×条○×丁目(通称○通り)まで、同女らを誘い出したうえ、同所付近において前記のD子、E子の二名を、前記のA、F(当時四四歳位、もと暴力団○○の幹部)らに引き渡し、いずれも、同市○区○○×条×丁目××番地所在、「○○ホテル」において、
一 前同日午前三時ごろ、上記ホテルの二〇号室で、前記のD子をして、前記のFを相手方として淫行するに至らしめ
二 前同日午前三時ごろ、上記ホテルの一七号室で、前記のE子をして、前記Aを相手方として淫行するに至らしめ
もつて、児童に淫行させたものである。
(適用法条)
児童福祉法三四条一項六号、六〇条一項
刑法六〇条
(G子に関する部分につき、犯罪の成立を否定した理由)
本件において、検察官は、審判に付すべき事由として、前記「罪となるべき事実」欄で認定した事実のほか、その冒頭事実を前提としたうえ、「昭和五六年五月二四日午前四時ごろ、G子(昭和○年○月○日生をして、H(本少年)を相手方として、淫行するに至らしめ、もつて、児童に淫行させたものである。」旨の事実についても、送致しており、本件の各証拠によれば、同事実を認めることができる。換言するならば、少年は、前記の日時・場所において、G子を相手方として、同女と性交したことは明らかである。
しかしながら、児童福祉法三四条一項六号における「児童に淫行をさせる行為」とは、児童をして、異性である他人と性交させる行為をいうのであつて、上記のG子については、少年自身が、他の共同正犯者と共に、同女を誘い出してきたうえ、自らが同女と性交した行為は、他の法条に違反する場合のあることはさておき、本件の児童福祉法三四条一項六号に該当しないものというべきである。
(処遇の理由)
少年は、昭和五六年三月二四日、札幌家庭裁判所で、傷害・暴力行為等処罰ニ関スル法律違反の各罪により、保護観察処分を受けたが、その後も不良交遊を絶ち切れない等のまま、本件犯行に至つたものである。
本件は、Aから、少年に対する依頼に基づきなされるに至つたものであるが、本件犯行において、少年の果たした役割は、決して軽視しえないものが認められる。
以上のほか、社会調査及び鑑別の各結果によつて明らかとなつた少年のこれまでの行動、性行並びに少年の現在の生活環境に鑑み、少年の健全なる育成を図るためには、今後、少年を施設に収容のうえ、規律ある生活のもとに、少年に対し、自らの内省と生活態度の改善等を主眼とした矯正教育をする必要があるものと認め、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 野口頼夫)