札幌家庭裁判所 昭和59年(家)1928号 1990年9月17日
主文
相手方は申立人に対し、金133万9610円を支払え。
理由
第1申立の趣旨及び実情
1 趣旨
申立人は相手方に対し、当事者の離婚まで、申立人の生活費として昭和59年2月から月額15万円の、申立人が相手方の暴行により受けた傷害を治療するための入通院治療費として昭和59年1月から月額5万円の、申立人居住の土地・建物にかかる相手方の分割返済金として昭和58年12月から別紙借入金分割支払表(編略)記載の毎月の弁済金の、各金員の支払を求める。
2 実情
(1) 申立人と相手方とは、昭和47年3月28日婚姻の届出をした夫婦である。申立人は、昭和58年1月13日相手方の不貞、暴力等を理由に夫婦関係調整の調停を申立てたが、相手方は、同年4月26日から自宅に帰宅せず、右調停は同年12月27日不成立により終了した。申立人は、相手方から不当に遺棄され、相手方による後記傷害により稼働できず生活は困窮しているが、相手方は昭和59年2月以降申立人に対し生活費を支払わない。
(2) 申立人は、昭和58年3月28日相手方から頭突きや手拳で殴打するなどの暴行を受けたことにより、右肩関節周囲炎、頸椎捻挫の傷害を負わされ、同年6月23日から同年9月16日まで○○○○病院に入院し、その後も通院治療を続けている。
(3) 相手方は、昭和52年7月申立人肩書住所地所在の土地・建物を購入して改築するなどし、昭和52年8月株式会社○○相互銀行から900万円を、昭和56年11月○○金融公庫から310万円をそれぞれ借入れ、右土地・建物を担保に供したが、右借入金につき昭和58年12月以降月々の分割金を返済しない。しかし、申立人は右土地・建物に居住しており、これを処分されると生活できなくなるため右の分割金の支払を余儀なくされている。
(4) そこで、申立人は相手方に対し、申立の趣旨に記載の各金員の支払を求める。
第2当裁判所の判断
1 家庭裁判所調査官作成の調査報告書(添付の各資料を含む。)その他本件記録中の一切の資料を総合すると次の事実が認められる。
申立人と相手方は昭和47年3月28日婚姻の届出をした夫婦である。申立人は、昭和53年ころから相手方の不貞を邪推し、興信所に調査を依頼するなどして、相手方がAと浮気をしているものと確信し、そのことを何かにつけて言動に強く現わすようになった。相手方は、申立人の誤解を解くため、Aと不貞の関係にないことを弁明したが、申立人に聞き入れてもらうに至らず、これを巡って夫婦喧嘩が繰り返され、双方暴力沙汰に及ぶことも少なくなかった。殊に、昭和57年8月27日ころには、申立人が、夜遅く帰宅した相手方に対しAとの仲を疑ったことから口論となり、激昂した申立人において包丁を持ち出したり、昭和58年3月27日未明には、相手方が、口論の末申立人を階段から突き飛ばし、翌28日深夜には双方つかみ合いの喧嘩の末申立人において負傷するなど険悪な状態が続いた。このような状況の下で、相手方は昭和58年3月31日付で警察官を依願退官し、同年4月26日自宅を出て一時娘夫婦宅に身を寄せ、以後申立人と別居している。
その間、申立人は、昭和58年1月31日夫婦関係調整の調停を申立てたが(当庁昭和58年(家イ)第×××号)、同年7月27日相手方から離婚の調停が申立てられ(当庁昭和58年(家イ)第××××号)、両調停事件は同年12月27日いずれも不成立により終了した。なお、相手方は申立人に対し、別居後、昭和58年4月には20万円を、以後昭和59年3月ころまでの間は月額7万円ないし12万円を送金していた。しかし、昭和58年12月には相手方の所有する申立人居住土地建物のローンの支払を一時止め(昭和59年3月から再開)、昭和59年4月以降は申立人に対し生活費等を支払っていない。申立人は、昭和59年2月15日婚姻費用分担の調停を申立てたが(当庁昭和59(家イ)第×××号)、相手方は同月27日離婚請求本訴事件を提起し(札幌地方裁判所昭和59年(タ)第××号)、これに対し、申立人は、同年3月23日離婚等請求反訴事件を提起した(同庁同年(タ)第××号)。同年5月16日婚姻費用分担の調停は不成立となり同日本件審判手続に移行した。
前記離婚等請求事件については、昭和63年9月14日第1審判決において、双方の離婚請求は認容されたが、申立人の主張した離婚慰謝料等に対しては、その一部が認容されたに止まった。申立人は、同月28日控訴し(札幌高等裁判所昭和63年(ネ)第×××号)、相手方に対し離婚慰謝料を請求し、さらに財産分与を求めている。
2 以上の事実関係の下で、相手方が申立人に対して負担すべき婚姻費用の程度について検討する。一般に、夫婦間の婚姻費用分担の程度は、いわゆる生活保持義務であって、夫婦が同居した場合と同程度の生活水準を他方に維持させる義務が存する。そして、婚姻関係が破綻している場合であっても、夫婦である以上、夫は妻に対し婚姻費用分担義務を免れる訳ではない。しかし、婚姻費用分担は本来夫婦共同生活体の下で相互に協力扶助義務を尽くすことを基礎とするものであるから、夫婦間にこのような共同関係を欠くに至り、将来回復の見込みもないときは、夫婦の共同関係の稀薄化に伴いその分担額も相当程度軽減されると解すべきである。
本件では、当事者間の婚姻関係は既に破綻し、修復の余地がないものと認められる。そして、その破綻原因は、相手方の不貞を邪推しこれを執拗に言動に現わし続けた申立人の態度や申立人の誤解を解くことを放擲した相手方の態度、これに伴う双方の葛藤、夫婦間の口論、暴力沙汰等円満な家庭生活を維持するについての双方の諸々の努力不足が長年蓄積したことに起因するというべきである。このように、婚姻関係破綻の責任が双方に存し、一方の有責性が他方のそれに勝るものと決し難い本件のような場合においては、婚姻費用分担の軽減の程度は、<1>申立人が婚姻費用分担の調停を申立てた昭和59年2月から当事者双方が離婚訴訟を提起するに至った同年3月(当事者の別居後約1年経過)までの間は、生活保持義務を前提として標準生活水準(相手方と同程度の生活水準)に準拠する、<2>当事者双方の離婚請求が認容され、申立人が控訴して離婚慰謝料及び財産分与を求めた昭和63年9月(当事者の別居後約5年半経過)までの間は、生活保持義務と生活扶助義務の中間的なものを前提として健康体裁水準(標準生活水準から教養娯楽費等を除いたもの)に準拠する、<3>昭和63年10月以降は生活扶助義務を前提として生活保護基準に準拠すると解するのが相当である。
なお、婚姻費用分担の始期については、相手方において、前記住宅ローンの支払を止めていた時期があったことをも考慮し、申立人が婚姻費用分担の調停を申立てた昭和59年2月とする。
3 そこで、これを前提として婚姻費用分担額を検討するに、前掲各資料によれば次の事実が認められる(以下、計算関係については小数点以下四捨五入とする。)。
(1) 申立人の基礎収入の算定について
<1> 総収入等
申立人は、肩書住所地において相手方所有の土地(札幌市白石区○○○×丁目○××番)建物(同所同番地所在家屋番号××番、木造2階建居宅)(以下「申立人居住土地ないし建物」という。)を相手方から無償で使用し、単身で生活している。
申立人は、その所有土地(札幌市白石区○○×丁目○××番×宅地及び同区○○×丁目○××番×宅地)上に建物(同区○○×丁目○××番地×及び××番地×所在家屋番号××番×の×、木・鉄筋コンクリート造3階建共同住宅)を所有し、アパートとして他に賃貸している(以下右建物を「ニューコーポ○○」という。)。各年度の右賃料収入は、別表1(編略)(申立人の基礎収入)の「ニューコーポ○○」欄に記載のとおりである。
申立人所有の右土地上には、他に賃貸されている建物(同区○○×丁目○××番地所在家屋番号××番の×、木造2階建居宅)が存する。申立人は、これをもと所有していたが、昭和52年11月15日相手方の扶養家族であることの認定を受ける必要からその登記名義を娘のBに変更し(以下右建物を「B名義の建物」という。)、引続き他に賃貸している。右賃料収入は昭和58年5月ころまでは申立人名義の銀行口座に振込入金され、その後B名義の口座に振込まれるようになったが、その使途はB名義の建物にかかる固定資産税及び建物更生共済掛金をはじめ申立人居住建物にかかる建物更生共済掛金や申立人が契約者及び被保険者となっている生命保険料に費消されている。右のとおり、右建物がB名義に変更された経緯、建物の利用状況、賃料収入の使途を総合すれば、実質的には右賃料をもって申立人の収入と認めるのが相当である。各年度の右賃料収入は別表1(申立人の基礎収入)の「B名義の建物」欄に記載のとおりである。
以上を合計すれば、申立人の各年度の総収入は、別表1(申立人の基礎収入)の「総収入」欄に記載のとおりとなる。
<2> 控除すべき支出
i 公租公課等
申立人の各年度の固定資産税及び都市計画税は、別表1(申立人の基礎収入)の「固定資産税等」欄に記載のとおりであり、その内訳は、申立人所有の土地及びニューコーポ○○につき昭和59年度15万6880円、昭和60年度16万1900円、昭和61年度16万7670円、昭和62年度16万8450円、昭和63年度16万9300円、平成元年度17万0500円、平成2年度(半年分)8万5250円,B名義の建物につき昭和59年度から昭和62年度までいずれも年額9370円、昭和63年度から平成2年度までいずれも年額9300円(但し、平成2年度は半年分4650円)である。
申立人の各年度の住民税は、別表1(申立人の基礎収入)の「住民税」欄に記載のとおりである。
申立人の各年度の国民年金保険料及び国民健康保険料は、別表1(申立人の基礎収入)の「社会保険料」欄に記載のとおりであり、その内訳は、国民年金保険料につき昭和59年度7万4640円,昭和60年度8万0880円、昭和61年度8万5200円、昭和62年度8万8800円、昭和63年度9万2400円、平成元年度9万6000円、平成2年度(半年分)5万0400円、国民健康保険料につき昭和59年度及び昭和60年度は0円,昭和61年度1万0350円、昭和62年度3万7910円、昭和63年度4万2230円、平成元年度2万0500円、平成2年度(半年分)2万7460円である。
なお、申立人は、申立人居住建物及びB名義の建物につき○○協同組合の建物更生共済掛金を支払っているが、これらはいずれも後に満期共済金がおりる貯蓄性のものであるから、申立人の基礎収入の算定に当たり控除しない。また、申立人が契約者及び被保険者となっている生命保険料3口(いずれも受取人は相手方から申立人の娘ないし息子に変更されている。)についても、いずれも申立人側の利益となるものであるから、同様に控除しない。
ii 負債
申立人は、昭和55年4月10日前記ニューコーポ○○の購入資金として○○相互銀行から1400万円を借入れ、昭和61年8月まで月額15万9324円返済していたが、同年8月27日○○信用金庫から1500万円を借入れ、○○相互銀行に対する未償還分846万2429円を一括返済して清算した。そこで、ニューコーポ○○の住宅ローン返済金として考慮すべき金額は、昭和61年8月までは○○相互銀行に対する月額15万9324円とし、同年9月以降は、○○信用金庫に対する返済金のうち、本来○○相互銀行に対する未償還分846万2429円を完済(平成4年4月)までに要する月数(68か月)で除した平均月額12万4447円の限度で認めるのが相当である。各年度におけるニューコーポ○○の住宅ロ一ン返済額は、別表1(申立人の基礎収入)の「住宅ローンの返済」欄に記載のとおりである。
なお、申立人は、他からの借入金その他の負債をも婚姻費用に当たるものとして縷々主張しているが、弁護士費用及び裁判費用にかかる借入金がその性質上婚姻費用として考慮されないことはいうまでもないし、その他の生活費等(但し、医療関係費はその実費を後記iiiで考慮する。)に費消したとする借入金についても、具体的な使途において婚姻費用の内実に見合った生活水準の維持に必要であるものか否か判然とせず、結局本来自己の責任において負担すべきものであるから、考慮の外に置く。
iii 医療関係費
申立人の各年度の各病院における入通院治療費等は、別表1(申立人の基礎収入)の「医療費」欄に記載のとおりであり、これらを申立人の基礎収入の算定に当たり控除すべき支出として認める。その内訳は別表2(編略)(治療関係費一覧表)に記載のとおりである。
通院回数については、同一日に同一医療機関の異なる診療科に通院した場合は、併せて1回とする。各通院に要した交通費については、○○○○病院、○○△△病院、△△△△病院、○○歯科医院及び○○鍼灸治療院について考慮する。各交通費(片道の実額)は、○○○○病院につき地下鉄(160円)ないしタクシー(1500円)を、○○△△病院につき徒歩ないしタグシー(450円)を、△△△△病院につき地下鉄(140円)ないしタクシー(1000円)を、○○歯科医院につき自転車ないしタクシー(450円)を、○○鍼灸治療院につきタクシー(1500円)を認める。そして、各交通機関の利用形態は、地下鉄と市電を乗り継ぐと不便であると認められる○○鍼灸治療院については往復のタクシー利用を、その余については2回に1回の割合で片道のタクシー利用を認めるのが相当である。申立人の各年度の通院交通費は、別表1(申立人の基礎収入)の「通院費」欄に記載のとおりであり、その内訳は、別表3(編略)(通院交通費一覧表)に記載のとおりである。
iv 特別経費
ニューコーポ○○の修繕費として、昭和60年度分26万5700円、平成元年度分10万6000円を認める。
以上を合計すれば、各年度の総収入から控除すべき支出は、別表1(申立人の基礎収入)の「控除合計」欄に記載のとおりとなる。
以上によれば、各年度の総収入から支出を控除した申立人の各年度の基礎収入月額は、別表1(申立人の基礎収入)の「基礎収入月額」欄に記載のとおり、昭和59年度8万5962円、昭和60年度0円、昭和61年度5万0656円、昭和62年度6万2911円、昭和63年度10万2296円、平成元年度7万011円、平成2年度10万2636円となる。
(2) 相手方の基礎収入の算定について
<1> 総収入等
相手方は、警察官として37年間勤務した後昭和58年3月31日付で退職し、同年4月26日申立人居住建物を出て申立人と別居後、昭和58年5月から肩書住所地の借家に単身で居住している。
相手方は、昭和58年4月から○○○○○警備保障株式会社に就職して給与収入を得ているほか、警察共済組合年金を受給している。各年度の給与ないし年金額は別表4(編略)(相手方の基礎収入)の「給与」欄ないし「年金」欄に記載のとおりである。
以上を合計すれば、相手方の各年度の総収入は別表4(相手方の基礎収入)の「総収入」欄に記載のとおりとなる。
<2> 控除すべき支出
i 公租公課等
相手方の各年度の所得税は別表4(相手方の基礎取入)の「所得税」欄に記載のとおりであり、その内訳は、給与所得につき昭和59年度11万3900円、昭和60年度11万6800円、昭和61年度14万8100円、年金所得につき昭和59年度14万4900円、昭和60年度41万4280円、昭和61年度40万1500円である。
相手方の各年度の住民税は、別表4(相手方の基礎収入)の「住民税」欄に記載のとおりである。
相手方の各年度の固定資産税及び都市計画税は、別表4(相手方の基礎収入)の「固定資産税等」欄に記載のとおりであり、その内訳は、申立人居住土地建物付近の道路用地につき昭和59年度8270円、昭和60年度9100円、昭和61年度1万円、申立人居住土地建物につき昭和59年度5万2050円、昭和60年度5万4910円、昭和61年度5万8230円、相手方所有土地(札幌郡○○町字○○×××番××宅地)につき昭和59年度2万2230円、昭和60年度2万4450円、昭和61年度2万6240円である。
相手方の各年度の社会保険料は、別表4(相手方の基礎収入)の「社会保険料」欄に記載のとおりである。
なお、相手方が支払っている生命保険料3口については、申立人の場合と同様、相手方の基礎収入の算定に当たり控除しない。
ii 負債
相手方は、昭和52年7月6日申立人居住土地建物を購入したが、その資金として、同年8月19日○○相互銀行から900万円の融資を受けた。右返済額は、通常月が月額4万6111円、毎年6月と12月には各22万0076円を加算したものである(但し、平成元年4月以降は変動金利性)。相手方は、昭和56年11月申立人居住建物の改造費として、○○金融公庫から310万円を借入れた。右返済額は、通常月が隔月で月額3万5591円、毎年6月と12月には各10万0823円を加算したものである。なお、右返済金中、昭和59年2月分3万5591円については、申立人の息子三枝一夫が連帯保証人として支払ったと認められるので、相手方の返済額には含めないこととする。以上、申立人居住土地建物にかかる各年度の返済金は、別表4(相手方の基礎収入)の「住宅ローンの返済」欄に記載のとおりである。
iii 家賃
相手方居住建物の各年度の家賃は、別表4(相手方の基礎収入)の「家賃」欄に記載のとおりであり、その内訳は、いずれも家賃月額2万6000円、共益費月額2000円、共益水道費月額1500円である。
iv 特別経費
警備保障会社に勤務する相手方の職業費としては、総収入の15パーセントを認めるのが相当である。
以上を合計すれば、各年度の総収入から控除すべき支出は別表4(相手方の基礎収入)の「控除合計」欄に記載のとおりとなる。
以上によれば、各年度の総収入から支出を控除した相手方の各年度の基礎収入月額は、別表4(相手方の基礎収入)の「基礎収入月額」欄に記載のとおり、昭和59年度が14万7546円、昭和60年度が12万5911円、昭和61年度が17万0403円となる。
4 婚姻費用分担額の算定
(1) 昭和59年2月及び3月分
生活保持義務を前提として標準生活水準(相手方と同程度の生活水準)に準拠するが、その算出方式としては労働科学研究所の総合消費単位を基礎として按分することが相当である。申立人(当時52歳、既婚女子、軽作業)の消費単位は90、相手方(当時56歳、既婚男子、中作業)の消費単位は105であり、昭和59年度の基礎収入月額は、申立人が8万5962円、相手方が14万7546円であるから、夫婦が同居したと仮定した場合の申立人の生活費充当額は下記計算式のとおり月額10万7773円となる。そして、相手方の分担額は、右申立人の生活費充当額から申立人の基礎収入を差引いた2万1811円(月額)であるから、相手方が分担すべき昭和59年2月及び3月分の婚姻費用は合計4万3622円となる。
(計算式) (8万5962+14万7546)×90/(90+105) = 10万7773円
(10万7773-8万5962)×2 = 4万3622円
(2) 昭和59年4月から昭和63年9月分
生活保持義務と生活扶助義務の中間的なものを前提として健康体裁水準(標準生活水準から教養娯楽費等を除いたもの)に準拠する。まず、生活保護法の保護基準に基づき申立人が受給したと仮定した場合の各年度の生活扶助費(月額)は、昭和59年度6万6032円、昭和60年度6万9228円、昭和61年度7万0812円、昭和62年度7万2260円、昭和63年度7万2712円、平成元年度7万4976円、平成2年度7万6670円となる。そして、厚生白書によれば、一般勤労者世帯と被保護勤労者世帯の消費支出の各年度の格差率は、昭和59年度67.1%、昭和60年度67.6%、昭和61年度68.6%、昭和62年度68.5%、昭和63年度68.3%であるから、前記生活扶助費を右格差率で修正した標準生活費(月額)は、下記計算式のとおり、昭和59年度9万8408円、昭和60年度10万2408円、昭和61年度10万3224円、昭和62年度10万5489円、昭和63年度10万6460円となる。そこで、いわゆる健康体裁水準の算定であるが、総務庁統計局の家計調査年報に基づき、全世帯の消費支出中、教養娯楽費及びその他の消費支出(但し、理美容サービス、理美容用品、身の回り用品、交際費、仕送り金を除く。)の合計額を節約可能金額とし、その割合を算出すると、下記計算式のとおり、昭和59年度20.56%、昭和60年度20.84%、昭和61年度21.00%、昭和62年度21.00%、昭和63年度21.36%となるところ、右の節約可能金額の割合分を標準生活費から控除した額をもっていわゆる健康体裁水準と認めるのが相当である。以上によれば、各年度の健康体裁水準に準拠した生活費(月額)は、下記計算式のとおり、昭和59年度7万8175円、昭和60年度8万1066円、昭和61年度8万1547円、昭和62年度8万3336円、昭和63年度8万3720円となる。
(計算式;標準生活費)
生活扶助額 格差率 標準生活費
昭和59年度 6万6032 ÷ 0.671 = 9万8408円
昭和60年度 6万9228 ÷ 0.676 = 10万2408円
昭和61年度 7万0812 ÷ 0.686 = 10万3224円
昭和62年度 7万2260 ÷ 0.685 = 10万5489円
昭和63年度 7万2712 ÷ 0.683 = 10万6460円
(計算式;節約可能金額)
教養娯楽費 その他の消費支出 節約可能金額
昭和59年度 2万3350+(6万8749-3万7335) = 5万4764円
昭和60年度 2万4191+(7万0970-3万8242) = 5万6919円
昭和61年度 2万4912+(7万2572-3万9434) = 5万8050円
昭和62年度 2万5238+(7万4420-4万0670) = 5万8988円
昭和63年度 2万7185+(7万7938-4万2941) = 6万2182円
(計算式;節約可能金額の割合)
全世帯の消費支出 節約可能金額 右割合
昭和59年度 26万6319 5万4764 20.56%
昭和60年度 27万3114 5万6919 20.84%
昭和61年度 27万6374 5万8050 21.00%
昭和62年度 28万0944 5万8988 21.00%
昭和63年度 29万1122 6万2182 21.36%
(計算式;健康体裁水準に準拠した生活費)
標準生活費 控除割合 健康体裁水準
昭和59年度 9万8408×(1-0.2056) = 7万8175円
昭和60年度 10万2408×(1-0.2084) = 8万1066円
昭和61年度 10万3224×(1-0.2100) = 8万1547円
昭和62年度 10万5489×(1-0.2100) = 8万3336円
昭和63年度 10万6460×(1-0.2136) = 8万3720円
従って、相手方の婚姻費用分担額は、申立人の各年度の基礎収入が各年度の健康体裁水準に準拠した生活費に満たない場合に、その不足額をもって充てれば足りるというべきである。右の生活費不足額は、下記計算式のとおり、昭和60年度月額8万1066円、昭和61年度月額3万0891円、昭和62年度月額2万0425円となる。
(計算式;申立人の生活費不足額)
健康体裁水準 申立人基礎収入 生活費不足額
昭和59年度 7万8175- 8万5962 = 0円
昭和60年度 8万1066- 0 = 8万1066円
昭和61年度 8万1547- 5万0656 = 3万0891円
昭和62年度 8万3336- 6万2911 = 2万0425円
昭和63年度 8万3720- 10万2296 = 0円
もっとも、昭和60年度における相手方の基礎収入は月額12万5911円であるから、相手方が申立人の生活費不足額(月額8万1066円)を支払った場合には、その生活水準は月額4万4845円となり、相手方は最低生活水準をも維持しえなくなる。そこで、相手方の最低生活水準を維持しうる限度で相手方が負担すべき婚姻費用を算定すると、相手方の基礎収入(月額12万5911円)から同年度の生活扶助費(月額6万9228円)を控除した月額5万6683円が相当である。なお、昭和61年度における相手方の基礎収入は月額17万0403円であるから、相手方が申立人の生活費不足額(月額3万0891円)を支払っても最低生活を維持できるし、昭和62年度においても同様であると推察できる。
そうすると、昭和59年4月から昭和63年9月までの相手方の婚姻費用分担額は、昭和59年度0円、昭和60年度68万0196円(5万6683円×12か月)、昭和61年度37万0692円(3万0891円×12か月)、昭和62年度24万5100円(2万0425円×12か月)、昭和63年度0円の合計129万5988円となる。
(3) 昭和63年10月以降
生活扶助義務を前提として生活保護基準に準拠する。従って、相手方の婚姻費用分担額は、申立人の各年度の基礎収入が各年度の生活扶助費に満たない場合にその不足分相当額をもって充てるべきであるが、下記計算式のとおり、いずれも0円となる。
(計算式;相手方の婚姻費用分担額)
生活扶助費 申立人の基礎収入 相手方分担額
昭和63年度 7万2712- 10万2296 = 0円
平成元年度 7万4976- 7万9011 = 0円
平成2年度 7万6670- 10万2636 = 0円
5 結論
以上の次第で、相手方は申立人に対し、婚姻費用の分担額として、既に履行期が到来している未払分である昭和59年2月分及び3月分4万3622円、昭和60年度分68万0196円、昭和61年度分37万0692円、昭和62年度分24万5100円の以上合計133万9610円の支払いをなすべき義務がある。
よって、主文のとおり審判する。