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札幌家庭裁判所夕張出張所 平成12年(家)18号 2000年11月16日

主文

本件申立てをいずれも却下する。

理由

第1申立ての趣旨

申立人は、知的障害者更生施設「c学園」(以下、「c学園」という。)に入所している本人の弟にあたり、本人の財産を守るため、本人につき補助開始の審判と、これに伴い補助人の同意を要する行為の定め及び代理権の付与の各審判を求めるものである。

第2当裁判所の判断

1  本件記録によれば、次の事実を認めることができる。

(1)  本人は、昭和17年○月○日、亡B(以下「亡B」という。)とC(大正8年○月○日生。以下「C」という。)の長男として、申立人は、昭和27年○月○日、亡BとCの三男として、それぞれ出生した。

(2)  本人は、中学校を卒業後、鉄工所に勤務し、昭和61年ころ退職した。その後、b病院への入退院を繰り返したが、平成5年6月ころからc学園に通所するようになり、平成6年10月5日、E心身障害者総合相談所により「精神薄弱(軽度)」との判定を受け、同日、入所措置となった。入所にあたっての手続は、Cが行った。

以後、本人は、c学園内で生活をしている。

(3)  申立人は、中学校卒業後、何度かの転職を経験し、平成元年から現在の勤務先で、タクシー運転手として稼働している。

申立人は、昭和59年3月17日、妻と婚姻し、長女(昭和59年○月○日生)及び長男(昭和62年○月○日生)をもうけ、肩書地で生活している。

(4)  Cは、平成9年3月26日、特別養護老人ホーム「d園」(以下、「d園」という。)に入所した。

申立人は、その後、Cから本人名義の家の管理を任せる旨の委任状を受け取り、家の様子を見に行くようになった。一方、しだいに、本人の預貯金など他の財産管理も申立人が行った方がよいと考えるようになり、自らの法的立場を明確にしたいこともあって、平成12年5月1日、本件申立てをするにいたった。

(5)  本件申立てを受けて、家庭裁判所調査官(以下「調査官」という。)に対して調査命令が出された。調査官が本人と面接をしたところ、申立てや同意の意味、その効果についての理解に特に問題はうかがわれず、本人は、財産管理を援助する人を法的に選任する必要はない旨明確に述べた。

そこで、平成12年9月21日、審問期日を開いて本人を審問したところ、本人は、調査官に対して述べたと同様、財産管理を援助する人を法的に選任する必要はない旨あらためて述べた。

2  そこで検討するに、本人は、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分であり、補助類型に該当することをうかがうことができる。このため、補助開始の審判をするには、本人の同意を要件とするところ、前記1(5)のとおり、本人は、財産管理を援助する人を法的に選任する必要はない旨明確に述べており、本件申立てについて同意していないといわざるを得ない。申立人は、本人が本件申立てについて同意しないのは、他の兄姉に気兼ねをしている等の理由からではないかと述べる。しかしながら、本件記録によれば、本人が他の兄姉やその他のものに気兼ねをして本件申立てに同意しないことをうかがうことができる事情は認められない。

3  以上のとおりであるから、補助開始につき本人の同意がない本件申立てについては却下するほかなく、そうであるならば、補助人の同意を要する行為の定め及び代理権の付与を求める前提を欠くことになるのであるから、よって、主文のとおり審判する。

(家事審判官 瀬戸啓子)

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