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札幌家庭裁判所小樽支部 平成18年(少イ)1号 判決 2006年10月02日

主文

被告人を懲役3年に処する。

この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。

被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。

押収してあるミニデジタルビデオカセット3本(平成18年押第1号符号1ないし3)を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,平成14年4月から平成17年3月まで北海道a郡b町内の中学校で教員として勤務し,その後北海道c郡d村内の中学校で教員として勤務していたものであるが,その間の平成16年1月25日から平成17年5月29日までの間,別紙一覧表記載のとおり,前後20回にわたり,北海道a郡b町<以下省略>所在の当時の被告人方ほか北海道内において,犯行開始当時上記b町内の中学校に生徒として在籍していたA(平成元年○月○日生,当時14歳ないし15歳)が満18歳に満たない児童であることを知りながら,同表の「淫行の内容」欄記載のとおり,同児童をして,被告人を相手に性交させ,又は口淫させるなどの性交類似行為をさせ,もって,児童に淫行をさせるとともに,同児童をして,同表番号8ないし20の「児童ポルノの種類」欄記載のとおり,前後13回にわたり,同欄記載の同児童による性交等に係る同児童の各姿態をとらせ,これをデジタルビデオカメラで撮影して,それら姿態を視覚により認識することができる電磁的記録媒体であるミニデジタルビデオカセットに描写し,もって同児童に係る児童ポルノを製造した。

(証拠の標目) 省略

(法令の適用)

被告人の判示所為のうち,別紙一覧表番号1ないし20の児童に淫行をさせた点は,包括して児童福祉法60条1項,34条1項6号に,同表番号8ないし20の児童ポルノを製造した点は,包括して児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項,1項,2条3項1号にそれぞれ該当するところ,児童に淫行をさせた点と児童ポルノを製造した点は,それぞれ1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪として重い児童福祉法違反の罪の刑で処断することとし,所定刑中懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予し,なお同法25条の2第1項前段を適用して被告人をその猶予の期間中保護観察に付し,押収してあるミニデジタルビデオカセット3本(平成18年押第1号符号1ないし3)は,判示児童ポルノの製造の犯罪行為を組成した物で,何人の所有をも許さないものであるから,同法19条1項1号,2項本文を適用してこれを没収する。

(量刑の理由)

本件は,公立中学校の教師であった被告人が,教え子であった被害児童と交際する過程で自己を相手に性交や性交類似行為をさせ,もって,被害児童に淫行をさせるとともに,当該性交等をデジタルビデオカメラで撮影して記録し,もって,児童ポルノを製造したという事案である。

児童に淫行をさせた点に関しては,被告人は,教師として児童の保護と健全な育成に責任を負う立場にあったにもかかわらず,被害児童が,被告人に対する好意から,その求めを強く拒絶できないことに乗じて,性欲の赴くまま,1年以上の期間にわたり性行為ないし性交類似行為を反復継続したものであって,その犯情はまことに悪質といわなければならない。また,児童ポルノの製造に関しても,被告人は,被害児童の真意を何ら省みることなく,自己の興味にのみ基づいて繰り返し実行に至ったものであり,その犯情もまた悪質というべきである。本件犯行が被害児童の情操を深く傷つけるものであることは多言を要しないのであって,その健全な育成に対する悪影響が強く懸念されるところである。

ところで,弁護人らは,被告人は被害児童と真摯に交際し,将来は結婚しようと話していたから,違法性の意識を欠いていた旨主張し,被告人も当公判廷において同旨の供述をするところ,被告人と被害児童との間にそのような話題が出たことがあったとしても,中学生ないし高校生という成育の過程にある若年の被害児童が深い思慮に基づかずに述べた言葉に,教師である被告人が安易に同調し,これを助長するような言動をすること自体,教職にある者としてあるまじきものというほかない。しかも,被告人は,被害児童との交際が勤務先である学校や被害児童の親に露見することをおそれ,ひた隠しにしたばかりか,交際の真偽を追及された際には嘘をついていたのであって,このような態度は勤務先や被害児童の親からの信頼を裏切るものというほかなく,その交際が真摯なものであったとは到底認め難いところである。それにもかかわらず,前記のような供述をすること自体,被告人の認識の甘さと自己中心的かつ独善的な性向を示すものということができ,およそ酌量に値しないというべきである。したがって,前記弁護人らの主張は採用できない。

以上のとおり,本件犯行は教職にある者に寄せられた信頼を根底から覆す裏切行為というべきであって,被害児童及びその保護者である母親が被告人の厳罰を希望するのも無理からぬところがあり,本件が地域社会に与えた衝撃もまた大であったと考えられる。被告人の刑事責任は重大である。

しかしながら,他方,被害児童らの宥恕を得るまでには至らないものの,被害児童に対し示談金として100万円を支払っていること,被告人は,当公判廷において,被害児童に対する謝罪の念を述べ,今後は被害児童らに接近しない旨約束し,被告人の父及び妹も当公判廷において今後の被告人の指導監督を誓約していること,被告人は本件により懲戒免職となり,教員資格を失うほか,本件が広く報道されるなどして社会的制裁を受けていること,被告人には前科前歴がなく,正式裁判を受けるのは今回が初めてであることなど,被告人のために有利に斟酌すべき事情も認められる。

以上の諸事情を総合考慮し,今回に限り,被告人に社会内において更生の機会を与えることとし,なお,本件犯行の特性に鑑み,その更生には専門家による長期間にわたる継続的な指導が不可欠であると考えられることから,保護観察を付することとし,主文のとおり判決する。

(求刑 懲役4年及びミニデジタルビデオカセット3本の没収)

別紙一覧表

犯行年月日時

(平成)

犯行場所

淫行の

内容

児童ポルノの種類

1

16年1月25日ころの

午後3時39分ころから

午後4時6分ころまで

北海道a郡b町<以下省略>

所在の当時の被告人方

性交

2

16年2月7日ころの

午後4時48分ころから

午後4時59分ころまで

同上

性交

3

16年2月21日ころの

午後4時44分ころから

午後4時59分ころまで

同上

口淫等

4

16年3月14日ころの

午前10時45分ころから

午前10時53分ころまで

同上

口淫等

5

16年5月8日ころの

午後8時31分ころから

午後8時40分ころまで

同上

性交

6

16年5月23日ころの

午後1時23分ころから

午後1時31分ころまで

同上

性交

7

16年5月23日ころの

午後4時22分ころから

午後4時29分ころまで

同上

口淫等

8

16年7月24日ころの

午後6時50分ころから

午後7時15分ころまで

同上

性交

児童Aによる性交に係る同児童の姿態

9

16年7月28日ころの

午後7時19分ころから

午後7時32分ころまで

同上

口淫等

児童Aによる口淫等の

性交類似行為に係る同児童の姿態

10

16年7月28日ころの

午後7時47分ころから

午後7時51分ころまで

同上

口淫等

同上

11

16年9月4日ころの

午前9時35分ころから

午前9時59分ころまで

同上

性交

児童Aによる性交に係る同児童の姿態

12

16年10月11日ころの

午後8時16分ころから

午後8時19分ころまで

同上

性交

同上

13

16年10月30日ころの

午後4時2分ころから

午後4時30分ころまで

同上

性交

同上

14

16年12月5日ころの

午後2時29分ころから

午後2時36分ころまで

同上

性交

同上

15

16年12月19日ころの

午前9時1分ころから

午前9時8分ころまで

同上

性交

同上

16

17年1月2日ころの

午前10時12分ころから

午前10時50分ころまで

同上

性交

同上

17

17年3月13日ころの

午前9時4分ころから

午前9時5分ころまで

北海道a郡b町<以下省略>

所在の当時の被告人方

性交

児童Aによる性交に係る同児童の姿態

18

17年3月13日ころの

午後1時12分ころから

午後1時17分ころまで

同上

性交

同上

19

17年5月28日ころの

午後6時9分ころから

午後6時25分ころまで

北海道内に駐車中の

自動車内

口淫等

児童Aによる口淫等の性交類似行為に

係る同児童の姿態

20

17年5月29日ころの

午後4時47分ころから

午後4時56分ころまで

北海道内

性交

児童Aによる性交に係る同児童の姿態

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