札幌簡易裁判所 平成17年(ハ)451号 判決 2005年10月13日
札幌市中央区南2条西1丁目
第75松井ビル7階
原告
デイサポートのシンエイこと
●●●
札幌市●●●
被告
●●●
同訴訟代理人弁護士
米屋佳史
同
林賢一
同
堀江健太
主文
1 被告は,原告に対し,金6万5213円及び内金6万5022円に対する平成16年1月7日から支払済みまで年26.28パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを4分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1 被告は,原告に対し,金24万2685円及びこれに対する平成16年1月1日から同年1月6日まで年18パーセントの,平成16年1月7日から支払済みまで年26.28パーセントの各割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言申立
第2請求の原因の要旨等
1 原告は,平成14年6月21日登録番号北海道知事(1)石第02595号の登録を受け,商号「デイサポートのシンエイ」の名称でに日賦貸金業を営業している個人である。
2 原告は,被告に対し平成15年2月13日から平成15年12月8日まで合計325万円を次の約定で貸し付けた。
(1) 返済方式 後利息元利均等日賦返済
(2) 各回の支払金額 4000円
(3) 利息年率 年5割4分7厘5毛
(4) 遅延損害金 年5割4分7厘5毛
(5) 元金の弁済期 平成16年6月25日限
(6) 返済期間 各回の支払いは,平成15年12月9日から各週火,水,木,金曜を集金とした116回の日賦返済で平成16年6月25日までに完済する。
(7) 上記,日賦返済につき一度でも支払いを怠ったときは,当然に期限の利益を失い,元本及び利息並びに遅延損害金を一時に支払う。
3 被告は,原告に対し上記借入債務につき,別紙1の元利金計算書の弁済年月日欄記載の日に支払金額欄記載の金員を支払った。
4 被告は平成16年1月6日の支払いを怠り,同日の経過により期限の利益を喪失した。
なお,平成16年1月1日から同年1月5日まで,休日のため原告は営業しておらず,期限の利益を猶予した。
そこで上記支払いにつき利息制限法に定めた利率で法定充当すると,別紙1の元利金計算書のとおり,平成15年12月31日現在において残元本は24万2685円であり,請求の趣旨記載のとおりの支払いを求める。
5 被告の主張等に対する反論等
(1) 被告の主張はまったく根拠がない。原告と訴外株式会社信用保証センター(以下「訴外会社」という。)とは,組織上,経営上,資本上,損益上その他の関連がなく無関係であり,被告が貸付時に支払った5パーセントにあたる金額を原告に支払ったのではなく,原告とは経営上全く関連性がない訴外会社に被告が振込みしている。
訴外会社は,平成11年4月資金需要者のための債務保証を目的とした会社で,●●●が長崎県に創業した会社であり,原告とは独立別個の法人,原告に至っては個人であり,別個の経済主体である(甲1号証)。したがって,被告は双方の関連性を主張できない。
(2) 信用保証委託契約の制度は,借り主の信用を補充し,金融業者の危険を回避するために重要な制度であり,信用保証委託契約自体が公序良俗に反するとは言い難く,また,同契約締結のために一定の保証料が徴求されているからといって,この徴求が公序良俗に反するともいえないのは甲2号証で明らかである。
(3) 原告との金銭消費貸借契約と,訴外会社との信用保証委託の契約は,当事者を異にする別個の契約であるから,原則として訴外会社に支払う保証料は,利息制限法3条所定の債権者の受ける元本以外の金額には該当せず,利息とはみなされないというべきである。もっとも原告が100パーセント出資して設立した会社(信用保証会社)であるなど,信用保証料金及び事務手数料などの徴求によって得る保証会社の利益が,最終的には原告に帰属するなどの特殊な事情がある場合には,例外的に信用保証会社が受ける保証料などが利息制限法3条のみなし利息に当たるという場合もあり得るが(最高裁平成15年7月18日判決),本件において,原告と訴外会社がそのような特殊な関係にはない。
よって被告が主張する不当な請求には該当しない。
なお,その余の反論等は,別紙平成17年5月30日付け準備書面及び平成17年8月11日付け準備書面のとおりである。
第3被告の答弁等
1 請求の原因の1項及び2項の事実は認め,3項及び4項の事実は否認する。
2 原告からの借入金につき被告の行った弁済は,別紙2の計算書のとおりである。訴状添付の別紙1の元利金計算書との違いは,貸付日における弁済の有無であり,貸付日以外の日の被告の弁済額は争わない。
被告は,原告から貸付けを受けるにあたり,原告に対し保証料の名目で貸付金の5パーセントにあたる金額を支払っている。原告はこの金額を訴状の元利金計算書において支払金額に加えておらず,本来請求しうる額を超えた不当な請求を行っている。このような不当な請求が許されるべきではなく,別紙2の計算書によっても6万5022円の残元本が存在するが,原告に対しては上記金額以上の利得を得させる理由はない。
よって,原告の請求は棄却されるべきであるが,仮に上記金額につき原告の請求が一部認容されるとしても附帯請求については認められるべきではない。
3 保証料との名目により原告が受領した金銭が利息制限法における「利息」に該当するか,まず,保証料名目の金銭の帰属先について
原告は、保証料という名目で被告から貸付額の一定の割合の金銭を受け取っているが,これは貸付金の弁済として原告が受領したものではなく,信用保証供与の対価として訴外株式会社信用保証センター(以下「訴外会社」という。)が受領したものであるとする。
そこで,保証料との名目により原告が受領した金銭の帰属先が原告と訴外会社のいずれであるのかにつき検討する。
(1) 保証料名目の金銭の帰属先の立証責任
ア これについては,被告が「保証料名目の金銭の帰属先が原告であること」の立証責任を負うのではなく,原告が「保証料名目の金銭の帰属先が訴外会社であること」の立証責任を負う。
なぜなら,利息制限法3条において「前二条の規定の適用については,金銭を目的とする消費貸借に関し債権者の受ける元本以外の金銭は,礼金,割引金,手数料,調査料その他何らの名義をもってするを問わず,利息とみなす。」とされており,借主である被告が元本以外の金銭を提供したことを主張することで,同条によりこのような金銭が利息と推定されることとなるのである。
これについて最判昭46・6・10は,たとえ費用の名義で受けた金銭であっても債権者が現実に費用として支出しなかったものは,利息とみなされるとし,債権者が現実に費用として支出したことは債権者が立証すべきであると判示しており,同条但書の「費用」であることの立証責任が貸主にあることを明確に判示している。
このような判例の考え方に立てば,元本以外の金銭が貸主に現実に帰属していないことの立証責任は当然貸主が負担することとなるはずである。
イ また,本件において,原告は訴外会社を代理して受け取っているのであり,そもそも同条における「債権者の受ける」金銭ではないとの主張が考えられるが,このような部分の立証責任についても当然貸主である原告が負うというべきである。
仮に立証責任が借主にあるとすると,現実に貸主が代理人ではないこと(代理権の不存在)について借主が立証することとなるが,そもそもある事情の不存在について立証責任を負わせること自体妥当でないことに加え,貸主が借主より金銭を受け取る際に第三者の代理人という立場を偽装した場合には,借主が代理権の不存在について立証することは,ほぼ不可能となり,そのような立証の責任を借主に負わせるのが不合理であることは明らかである。
つまり,立証責任が貸主にあるとしなければ,上記の立証の困難性から,本件であれば領収証の発行名義人を訴外会社とする等の行為により原告はいとも簡単に同条を潜脱できることとなってしまうが,このような解釈は,同条に例示されるような元本以外の名義を用いることによって利息の制限を潜脱することを防ぐという同条の立法趣旨にも反するものである。
(2) 本件の場合
以上のように,保証料との名目により原告が受領した金銭の帰属先が訴外会社であることについては,原告が立証責任を負うのであるが,本件において原告は何らの主張立証も行っていない。また,原告と訴外会社が存在するのかということ自体立証する必要があることは勿論であるし,訴外会社から原告に対して保証料との名目の金銭の受領権限が授与されたのかどうかの立証もなされなければならない。
4 保証の実体の不存在
仮に,保証料との名目の金銭が,訴外会社に帰属しているものであるとしても,なんら保証の実体がないのであれば,訴外会社と原告の関係がいかなるようなものであるかを問わず,単に原告と訴外会社が協力して,出資法の制限を超える金銭を被告より徴収しているだけのことである。
原告は,訴外会社より,被告の債務につき保証を受けているにもかかわらず,代位弁済を受けることなく被告に対し訴訟を提起している。真実訴外会社より保証がなされているのであれば,そもそもこのような訴訟を起こすということは考えられないはずである。
以上に述べたように,原告が被告から保証料という名目で徴収した金銭は,利息制限法にいう利息に該当する。なお,その余の主張や反論等は,別紙平成17年5月30日付け準備書面2,平成17年6月27日付け準備書面3及び平成17年9月1日付け準備書面4のとおりである。
第4当裁判所の判断
1 請求の原因の要旨中1項及び2項記載の事実は当事者間に争いがない。なお,訴状添付の別紙1の元利金計算書は,貸付日における弁済分(保証料)が記載されていないが,貸付日以外の弁済額については当事者間に争いがない。
2 原告は,保証料の性格等について,平成17年5月17日付け準備書面において,次のように述べている。
① 原告と訴外会社は,経営上関連性がないこと
② 信用保証委託契約の制度は,借主の信用を補充し,金融業者の危険を回避するため重要な制度であること
③ 保証料等の利益が,最終的に原告に帰属するといった特殊な関係にはないこと
④ 保証料は被告が訴外会社に振込みしていること
等の4点を主張し,保証料名目下の金銭は利息制限法3条のみなし利息に該当しない,としている。
3 以上の原告の主張に対し,被告から反論がなされているが,弁論の全趣旨及び証拠によれば,原告の主張は採用できない部分が多い。つまり,第3回口頭弁論期日において,原告は,保証料名目の金銭は原則訴外会社の口座に振り込ませるものであるが,まれに債務者が振込を行うのが難しいようなときには貸付の時に預かることもある,債務者が直接訴外会社の口座に振り込んだときは,原告が領収書を発行することはない,平成15年ころ原告従業員として「●●●」という人がいた,としている。しかし,本件の全ての借入において,保証料名目の金銭を原告従業員に直接支払い,ないしは天引きされて領収書が交付されていることは,乙5号証のとおりである。なお,日付がないものが1枚あるが,他の借入分が揃っていること,借入金額と保証料額の一致も見られるので,日付空欄の領収書は,平成15年4月4日借入分と推認される。
また,乙5号証の領収書が原告従業員から渡されたものであることは,被告主張のとおり,保証委託申込書(乙1)の原告従業員記載部分の筆跡と領収書の金額・日付の筆跡が同一であること,領収書右下の係印というところに原告従業員である●●●の名前が書かれたものがあることにより,明らかであり,こうした点につき原告はなんら反論していない。
このように原告は被告から保証料名目の金銭を直接受領しているので,この点について,訴外会社から包括的な権限を与えられており,債務者に交付すべき領収書の綴りも渡されていることをも示している。
また,保証の申込書も原告が保有しており,貸付けの際に債務者に住所と氏名を記載させている。
さらに,乙3号証によると,平成16年8月12日付け保証料についての原告代理人あての回答書を訴外会社の顧問弁護士に作成してもらっていることが認められる。
また,甲4号証の信用保証基本約定書によると,その4条で信用保証料の料率は貸付金額の年率5パーセントないし14.6パーセントの範囲内で,別紙覚書により,原告の意見を参考に訴外会社が決定する,とされていること及び保証料率の変更に関する同約定書の5条でも,両社の協力関係等が規定されているが,実際には,前述のとおり訴外会社の領収書綴りや保証の申込書も原告が保有しているので,原告の意向に沿って保証がなされているものと推認できる。
4 次に訴外会社の保証システムについて
(1) 保証委託申込書(乙1号証)の第2条2,3項と信用保証基本約定書(甲4号証)の第4条3項,第7条2項によると,原告が債務者から徴収した保証料は,原告が振込む等して訴外会社に渡り,訴外会社が,4.8パーセントか5パーセントの事務手数料を取った後,残りを訴外会社がどこかにプールしている(会計処理する,としている。)。
このプール金は,形式的には訴外会社に帰属しているとしても,訴外会社の原告に対する保証債務の履行のためにプールされているものである。これにより最終的には原告に帰属することになる。とするのが被告の主張であるが,この点については,原告の反論がなされていない。
ただ,この訴外会社の保証の範囲が,原告が各債務者から徴収した保証料の金銭の合計額(事務手数料を引いた額)に限定される,と規定されている点は理解しがたい。保証料名目の金銭を金融業者が自ら徴収し,自らの名義でプールしていたのでは,出資法のみなし利息の規定が適用され,上限金利を超え出資法に反してしまう,だから,保証会社に事務手数料を払ってでも,保証料名目の金銭をプールしているのではないか,との疑問が生ずるのである。
さらに,原告は,訴外会社に代位弁済を請求していない。本件は信用保証基本約定書(甲4号証)の7条1項4号により,代位弁済の請求ができるケースであるが,その実行をしていず,被告代理人との交渉経過から回収困難とみなさなかったから,という原告の説明は,信用補充機能の説明としては,理解できないものである。
5 本件保証料を年率に換算すると,どの程度となるか
平成15年2月13日付け貸付けの際の保証料について
原告は,被告に対し,平成15年2月13日に20万円を貸し付け,訴外会社は,原告を通じ保証料として1万円の支払を受けた。被告は同年3月10日,原告から30万円の貸付けを受けたうえ,前回の借り受けた残金を返済し,借受金は消滅したが,保証料は返還されなかった。この場合,保証期間を26日として保証料の年率を算出すると,次のとおり,70.1パーセントとなる。
①1万円÷20万円÷26×365=0.701
このようにして2回目以降の借受けについて,各保証料の年率を算出すると,次のとおりとなる。
平成15年3月10日借受分は,
②1万5000円÷30万円÷26×365=0.701
平成15年4月4日借受分は,
③1万7500円÷35万円÷28×365=0.651
平成15年5月1日借受分は,
④2万円÷40万円÷36×365=0.506
平成15年6月5日借受分は,
⑤2万円÷40万円÷51×365=0.357
平成15年7月25日借受分は,
⑥2万円÷40万円÷47×365=0.388
平成15年9月9日借受分は,
⑦2万円÷40万円÷39×365=0.467
平成15年10月17日借受分は,
⑧2万円÷40万円÷53×365=0.344
(なお,最終回借受分は返済日未確定により省略し,以上の平均年率は,51.4パーセント)
6 原告は,前記第4の2の保証料の性格等について,その④で保証料は,被告が訴外会社に振込みしている,と主張していたが,その後平成17年8月11日付け準備書面で,原告は,被告ら資金需要者の多忙等の理由により,その利益を考え,保証委託金を一旦預かり金として計上する場合もある。その場合あくまで預かり金のため,借り受けている訴外会社の領収書を一旦発行し,土曜,日曜,祝日を除く銀行の3営業日以内に,原告から訴外会社に速やかに送金しているので,保証委託金の帰属先は訴外会社である。と主張を変えた。その他の保証料の性格等については,従前のままである。それでこれらに対する判断をまとめると次のとおりである。
(1) 利息制限法3条は,金銭を目的とする消費貸借に関し債権者の受ける元本以外の金銭は,礼金,割引金,手数料,調査料その他何らの名義をもってするを問わず,利息とみなす。但し,契約の締結及び債務の弁済の費用は,この限りでない。と,規定しており,その文言上金銭を目的とする消費貸借に関し借主が交付する金銭であっても,債権者が受けるものでない金銭は,原則として,同条のみなし利息には当たらないというべきである。しかし,同条の趣旨は,1条の定める利息の制限の潜脱行為を防ぐことを意図した規定であり,債権者以外の第三者が借主から金銭を受ける場合であっても,債権者及び第三者が,法による利息の制限を潜脱することを目的とし共同して,第三者が借主から金銭の交付を受けるような形態であるときは,その金銭は,3条所定のみなし利息に当たると解するべきである。
これを本件についてみると,証拠,弁論の全趣旨及び前記第4の1ないし5によると,①原告は,被告に対し,制限利率を超える利息の支払いを受ける約束で本件貸付けを行っていたこと,②原告は,被告が訴外会社の保証を受けることを条件としていたこと,③訴外会社は,被告と訴外会社との保証委託契約締結業務及び保証料徴収業務を,原告に委託していたこと,④訴外会社は,その保証による本件貸付けが,制限利率を超える利息支払いの約束があったことを知っていたこと,⑤訴外会社が,被告から支払いを受けていた保証料は,年率に換算すると,前記第4の5項のとおりであり,その平均は,51.4パーセントとなり,それ自体制限利率を著しく超える高率なものであったこと,⑥原告は,本件保証料がそのように高率であることを知っていたことが認められる。
(2) これらによると,原告及び訴外会社は,法による利息の制限を潜脱することを目的とし密接な連携をもって共同して,訴外会社は,被告から本件貸付けに関して保証料を受けていたものというべきである。したがって,訴外会社が受けていた本件保証料は,3条所定のみなし利息に該当するので,これに反する原告の主張は採用することができない。
7 本件の争点である保証料は上記のようにみなし利息に当たるので,原告が支払を受けた金員の他訴外会社が支払を受けた本件保証料につき,弁済充当を行うと被告提出の別紙2の計算書のとおりとなる。なお,被告は,平成16年1月6日の支払を怠り,同日の経過により期限の利益を失っているので,平成16年1月7日から支払済みまで遅延損害金の支払義務が認められる。
以上によれば,原告の本件請求は,残元金である6万5022円,未払利息191円及び残元金に対する平成16年1月7日から支払済みまで利息制限法の制限内である年26.28パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は棄却すべきである。
なお,仮執行宣言については,相当ではないからこれを付さないこととする。
(裁判官 隨念冠也)