札幌簡易裁判所 平成22年(ハ)21210号 判決 2011年1月14日
原告
X株式会社
代表者代表取締役
A
訴訟代理人
B
被告
Y
訴訟代理人弁護士
徳中征之
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求の趣旨
被告は、原告に対し、六万五六〇〇円及びこれに対する平成二二年五月一一日から支払済みまで年六%の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、原告が被告に、金貨二枚の売買代金及び遅延損害金の支払を請求するのに対し、被告が、本件契約は、実質的には金銭消費貸借契約であり、超高金利の暴利契約であるから、公序良俗に違反し無効と争う事案である。
二 争点 公序良俗違反
(原告の主張)
(1) 原告は、被告に対し、平成二二年五月一日、①ウイーンハーモニー金貨1/4オンス一枚を代金四万六五〇〇円、②同金貨1/10オンス一枚を代金一万九一〇〇円(以下①②の金貨を「本件金貨」という。)で売り渡した(以下「本件売買契約」という。)。
(2) 本件売買契約の代金支払日は平成二二年五月一〇日としたが、同支払日は被告が指定したものである。
(3) 被告から、代金支払後に金貨の価値が上がった場合、売るにはどうしたらいいか聞かれたので、原告担当者(本件訴訟代理人B)は、以前顧客から聞いていた出張買い取りの店を個人的に被告に伝えた。
(4) 本件売買契約は、金銭消費貸借契約ではない。
(被告の主張)
(1) 被告は、平成一四年に新潟地方裁判所新発田支部において破産免責決定を受けたため、クレジットカードを使用できなかった。そのため、被告は、平成二一年八月ころから、いわゆる「ヤミ金融」を継続して利用するようになり、本件売買契約当時、その対応に追われていた。
(2) 被告は、平成二二年四月下旬ころ、そのころ発行のスポーツ新聞に、「お金が必要な方」、「当日即現金化」等の記載のある原告の広告を見て、原告方で資金を調達する決心をした。
(3) 被告は、平成二二年五月一日、原告店舗を訪問したが、店舗内は、カウンターと仕切りのある面談室が三室ほどあるだけで、ショーケースもなく、商品の展示もされていなかった。
(4) 被告は、応対に出た原告の店員に対し、システムを尋ねたところ、店員は、「金貨を後払いでお売りします。」と答えた。被告が金貨は転売できるか、と聞くと、店員は「いくら必要ですか。」と聞いたので、被告は「五万円。」と答えた。
(5) その後、店員は、パンフレットとインターネットの相場を印刷したと思われる用紙を被告に示し「その金額ですと、だいたいこれ(大きめの金貨)とこれ(小さめの金貨)になります。金額は、当店での販売価格六万五六〇〇円になります。これを高いところでだいたい四万二〇〇〇円くらいで買い取ってもらえます。どうされますか。」と言ったので、被告は、「お願いします。」と答えた。
(6) すると、店員は被告に、申込用紙への記入を求め、被告は同用紙に、被告の氏名、住所、生年月日、勤務先、給料額及び家族の氏名、住所等を記載した。その後、五分ほどして、店員は被告に、審査が通った旨告げた。
(7) 上記に続けて、店員は被告に、契約書への記入、捺印を求め、契約書の金額欄を示して「こちらの六万五六〇〇円が金貨の金額になりますので、こちらを五月一〇日にお支払い下さい。」と言った。また、店員は、「五月一〇日に二万円を支払うと、五月一〇日付で返済期を一〇日後とする六万五六〇〇円の売買契約をします。」との説明もした。
(8) その後、契約書の控え及び本件金貨を受け取った際、被告は店員に、金貨を買い取ってくれるところを尋ねたが、店員は「宝石のCさんだったら先ほどの四万二〇〇〇円に近い金額で買い取ってくれますが、もっと高く買い取ってくれる人を紹介しましょうか。」と言ったので、被告は「お願いします。」と答えた。
(9) すると、店員は「D」なる人物の携帯電話の電話番号を示し、「電話してみて下さい。」と言ったので、被告はその場で「D」に電話をし、「D」と金貨の買取、買取の場所等につき打ち合わせた。この電話のやり取りの間、店員はその場に居続けた。
(10) その後、被告は、店舗近くの場所でRV車で来た「D」と落ち合い、RV車内で同人に本件金貨を渡し、同人から現金四万二四〇〇円を受領した。
(11) 以上の取引の経過に鑑みれば、本件契約は金貨の売買に仮託した金銭消費貸借契約である。被告は、平成二二年五月一日に四万二四〇〇円を換金取得し、同年五月一〇日に六万五六〇〇円を原告に支払うのであるから、その差額は二万三二〇〇円であり、年一九九六%の割合による利息の超高金利契約である。被告は、当時、上記(1)のとおりの窮状にあり、どのような条件にも従わざるを得なかったのであるが、このような超高金利契約は暴利契約であり、公序良俗に違反し無効である。
第三当裁判所の判断
一 争点 公序良俗違反
(1) 《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。
ア 被告は、平成一四年に新潟地方裁判所新発田支部において破産免責決定を受けたため、その後、クレジットカードを使用できなかった。平成二二年四月下旬ころ、被告は、金銭に窮していたが、そのころ、スポーツ新聞掲載の原告の広告を見て、金員調達の目的で、平成二二年五月一日、原告店舗を訪ねた。
イ 上記広告には「新規オープン」、「お金が必要な方」、「当日即現金化」、「クレジットカード不要」、「商品代金後払いでOK」、「金・プラチナ・時計・宝飾品販売買取店」等の記載がある(乙二)。
ウ 前同日、被告は、上記店舗で原告の店員に、五万円の金員を必要な旨告げ、店員から、大小金貨各一枚を代金合計六万五六〇〇円にて代金後払いで買うと同金貨は四万二〇〇〇円程度で買い取ってもらえる旨の説明を受けた。
エ 被告は、換金目的で本件売買契約を締結することとし、「物品売買契約書」(乙一の一)に署名押印した。同契約書には「売買代金は六万五六〇〇円」、被告は、原告に対し、「平成二二年五月一〇日迄に」原告の営業所に「現金持参の上、全額を支払うものとする。」との条項があり、被告は店員から、その旨の説明を受けた。また、同契約書作成の前に、被告は店員から、申込書の記入を求められ、同書に被告の氏名、住所、生年月日、勤務先、給料額及び家族の氏名、住所等を記載した(甲六)。
オ 上記契約書作成の後、被告は店員から、本件金貨の買取先として「D」なる人物がいること及び同人の携帯電話を教示された。被告はその場で「D」に電話をし、「D」と本件金貨の買取、買取の場所等につき打ち合わせた。この電話のやり取りの間、店員はその場に居続けた。
カ その後、被告は、店舗近くの場所でRV車で来た「D」と落ち合い、RV車内で同人に本件金貨を渡し、同人から現金四万二四〇〇円を受領した。
(2) 本件取引当時の被告の経済的状況、(1)イの原告が掲載した広告の記載内容、同ウないしカの本件取引の経緯及び内容によれば、本件取引は、全体として見ると、原告が、新聞広告等により、正常な手段では金融を得ることが困難な被告を誘い込み、交付した金貨の換金を名目として被告に一定額を融資し、その数日後に売買代金の名目で融資額よりも高額の金員の回収を得ようとするもの、すなわち、実質上は金銭消費貸借契約であると認められる。
原告は被告に、平成二二年五月一日、四万二四〇〇円を貸し付け、被告は原告に、同年五月一〇日限り、六万五六〇〇円の返還を約しているのであるから、その差額二万三二〇〇円は利息とみなされる。これを年率に換算すると年率約二〇〇〇%弱の割合の高額な利息であり、暴利契約であることは明らかである。よって、本件売買契約(実質上は金銭消費貸借契約)は公序良俗に反し無効である。
二 以上によれば、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 脇山靖幸)