札幌簡易裁判所 昭和51年(ハ)1344号 判決 1978年1月19日
原告 北海道電力株式会社
右代表者代表取締役 四ツ柳高茂
右訴訟代理人弁護士 田村誠一
同 広岡得一郎
同 河谷泰昌
同 斎藤祐三
被告 山中哲也
<ほか二名>
右訴訟代理人 江原孝次郎
被告 加藤敬
右訴訟代理人 花崎平
被告 村山トミ
<ほか二名>
右訴訟代理人 山中哲也
被告 中橋勇一
右訴訟代理人 村山トミ
被告 村上朋子
被告 北田正夫
右訴訟代理人 熊谷みどり
被告 熊谷明史
右訴訟代理人 熊谷みどり
被告 山城一郎
右訴訟代理人 村上朋子
被告 江原孝次郎
被告 橋本昭男
右訴訟代理人 橋本和美
主文
1 被告山中哲也は原告に対し、金三、五〇一円及びこれに対する昭和五一年九月一日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。
2 被告榊原真利子は原告に対し、金四、五四九円及びこれに対する昭和五一年九月二一日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。
3 被告高橋敏明は原告に対し、金五、八三五円及び内金四、九八二円に対する昭和五一年九月一日から、内金八五三円に対する同年九月二日からそれぞれ支払いずみまでいずれも年六分の割合による金員を支払え。
4 被告加藤敬は原告に対し、金五、八七二円及びこれに対する昭和五一年九月二日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。
5 被告村上トミは原告に対し、金二、七四三円及び内金一、二七三円に対する昭和五一年九月一日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。
6 被告花崎平は原告に対し、金一〇、〇七〇円及びこれに対する昭和五一年九月五日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。
7 被告桜谷雅は原告に対し、金二、七三七円及びこれに対する昭和五一年九月八日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。
8 被告中橋勇一は原告に対し、金三一、六三八円及び内金二九、七六四円に対する昭和五一年九月一日から、内金一、八七四円に対する同年九月三日からそれぞれ支払いずみまでいずれも年六分の割合による金員を支払え。
9 被告村上朋子は原告に対し、金五、五四七円及びこれに対する昭和五一年九月三日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。
10 被告北田正夫は原告に対し、金一一、一一一円及びこれに対する昭和五一年九月二日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。
11 被告熊谷明史は原告に対し、金四、七七一円及びこれに対する昭和五一年九月一日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。
12 被告山城一郎は原告に対し、金四、八一八円及びこれに対する昭和五一年九月一日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。
13 被告江原孝次郎は原告に対し、金七、九三八円及びこれに対する昭和五一年九月一日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。
14 被告橋本昭男は原告に対し、金二七、一五三円及びこれに対する昭和五一年六月二一日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。
15 原告の被告高橋敏明及び被告中橋勇一に対するその余の請求はいずれもこれを棄却する。
16 訴訟費用は被告らの負担とする。
17 この判決の1ないし14項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 原告申し立ての請求の趣旨は、被告高橋敏明及び被告中橋勇一を除くその余の被告らについては主文と同旨である。
被告高橋敏明及び被告中橋勇一についての請求の趣旨は次のとおりである。
「被告高橋敏明は原告に対し、金五、八三五円及びこれに対する昭和五一年九月一日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。
被告中橋勇一は原告に対し、金三一、六三八円及びこれに対する昭和五一年九月一日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。」
第二 原告主張の請求原因の要旨は次のとおりであって、そのうち被告らが原告から継続して電気の供給を受けた事実又は受けている事実は争いなく、その余の事実は証拠及び弁論の全趣旨によって認めることができる。
右判示事実によれば、原告の被告らに対する請求は、そのうち被告高橋敏明及び同中橋勇一に対しそれぞれ年六分の割合の遅延損害金を求める附帯請求部分を除き、その余はいずれも理由があるからこれを全部認容し、右被告高橋敏明の附帯請求については、そのうち未払料金対象月昭和五一年六月分までの分に対する分及び同対象月同年七月分に対するその弁済期同年九月一日の翌日以後の分は理由があるからこれを認容し、前同七月分に対するその余の分はまだ弁済期が到来していないから遅滞の責に任ずるいわれなく同部分は理由がないから棄却し、被告中橋勇一の附帯請求についても、そのうち未払料金対象月同年六月分までの分に対する分及び同対象月同年七月分に対するその弁済期同年九月二日の翌日以後の分は理由があるからこれを認容し、前同七月分に対するその余の分は前同様理由がないから棄却することとし、訴訟費用については、原告一部敗訴の場合であるが敗訴部分が附帯請求に関するものであることを考え民事訴訟法九二条ただし書きにより全部被告らに負担させ、仮執行の宣言について同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。
一 原告は一般の需要に応じて電気を供給することを業とする株式会社である。
しかして、原告は、電気事業法二一条により同法一九条に基づき通商産業大臣の認可を受け、同法二〇条所定の公表義務を履践した原告の電気供給規程に基づき一般の需要家と電気需給契約を締結して電気を供給し、一般の需要家は同規程に基づき供給を受けた電気の料金支払い債務を負うものである。
二 原告は一般の需要家である被告らとの間に次のような電気需給契約を締結し、被告らに対し、継続して電気の供給を行ない、又は行っている。
1 被告山中哲也
契約成立日 昭和四八年七月(復活)
契約種別 従量電燈乙(契約電流二〇アンペア)
需給場所 札幌市東区本町一条六丁目四番地 共栄荘
《中略》
三 前項の原告が被告らに供給した電気の料金は昭和四九年五月二一日通商産業大臣認可(同年六月一日実施)にかかる原告の電気供給規程及び昭和五一年六月一五日同認可(同年六月二六日実施)にかかる原告の電気供給規程に基づき算定されるが、これによれば料金はひと月ごとに算定され、検針日から次の検針日までの検針期間の電力量計の読みにより使用電力量を定め、右検針日に料金支払義務が確定し、右支払義務確定日の翌日から起算して二〇日以降に支払われる場合には右二〇日以内に支払われる額の五パーセントの割合の割増額が翌月料金に加算され、そして、料金は支払義務確定日の翌日から起算して五〇日を経過した場合その翌日から履行遅滞となる定めである。
更に、右算定された料金に対しては、地方税法四八六条により料金を課税標準として使用地所在の市町村から使用者に所定税率による電気税が課され(免税点の定めがある。)、同法四九一条、四九五条により電気事業者たる原告がこれを料金とともに徴収することになっている。
なお、前記二箇の原告の電気供給規程については、原告はいずれもその実施の一〇日以上前から原告の本店、支店、支社、営業所並びに電業所の各店頭の公衆の見やすい箇所に従前の供給条件を変更するところの新たな認可を受けた右電気供給規程をそれぞれ掲示して電気事業法二〇条所定の公表義務を履践し(ちなみに、右掲示を行った営業所、事業所の数は昭和四九年認可のものについては三一七箇所、昭和五一年認可のものについては三〇八箇所である。)かつ、原告は全需要家への周知徹底を図るため、右各認可にかかる供給規程の実施前に、各契約種別ごとに電気料金改定の具体的な内容を記載した文書(散らし)を需要家全戸に配布したほか、これら改定内容を一〇紙にわたる日刊新聞紙上に広告するとともに、テレビ放送等を通じて繰り返えし宣伝を実施した。
四 被告らは、原告から供給を受けた電気について次のとおり電気料金(一部電気税を含む。)の支払いをしていない。
1 被告山中哲也
対象月
電気の供給期間
未払金額
支払期限
(昭和年月)
五一・五
(昭和年月日)
自五一・四・六
至 〃 五・五
一、六九〇円の残額六八円
(昭和年月日)
五一・六・二五
〃 六
自 〃 〃 六
至 〃 六・五
一、六六九円
〃 七・二六
五一・七
自五一・六・六
至 〃 七・五
一、七六四円
五一・八・二五
合計三、五〇一円
他被告一三名分《省略》
総計 二七、一五三円
五 よって、原告は被告らに対し、それぞれ前記未払い電気料金(一部電気税を含む。)及びこれ(ただし、被告村山トミについては内金一、二七三円)に対する弁済期後の前記請求の趣旨どおりの商事法定利率年六分の割合の遅延損害金の支払いを求める。
第三 被告らは多くの主張をしているが、右主張はいずれも証拠上又は主張自体から原告の請求を排斥するにたる抗弁とは認められないので、民事訴訟法三五九条の趣旨によりその記載の要をみない。
しかしながら、被告らがいわゆる本人訴訟であることを考え、いくつかの問題点についてふれる。
一 被告らは、被告らが会員である「電気料金を旧料金で払う会」と原告との間に電気料金問題を話合いにより解決するという合意が存するから原告の請求は棄却されるべきであると主張する。
もし、右被告ら主張の合意に、原告において電気事業法の罰則の定めにもかかわらず電気供給規定と異なる需要家の納得する料金を取り極めるとか、料金問題について原告が訴権を放棄するとかの趣旨を含むとすれば、これは実体法上からも訴訟法上からも意味あるものといわなければならない。
ところで、証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告が昭和四五年春伊達町火力発電所建設の方針を決定し、昭和四八年一月通商産業大臣の認可を得、同年六月右建設工事の強行着工にふみきり、以来同工事の施工が進行していること、この間、現地一部住民の反対運動が漸次他地区の住民や労組、政党等を含む幅広い反公害、反開発の諸運動を誘発し、昭和四七年夏には現地住民から伊達環境権裁判といわれる伊達火発建設差し止めを求める訴等一連の訴が札幌地裁に提起され、また、この裁判を支援する運動も起ったこと、このような情勢下において、昭和四九年五月二一日通商産業大臣の従前の供給条件を変更する原告の新たな電気供給規程認可により電気料金が値上げされ、当時、世論の圧倒的値上げ反対で大手労組や消費者団体等が値上げ分不払い等の反対運動が行われたこと、そうした反対運動の一つとして、昭和四九年七月、伊達火発反対の支援運動をしていた女性など三人が右料金値上げの理由とされた、燃料費の高騰、諸物価の値上げ、社会的要因とサービスの向上等に納得できず、伊達火発などの建設資金に使われるのではないかとの疑問をもち、右解明のため、直接消費者と原告とで話し合う場の設定を企て札幌での「電気料金を旧料金で払う会」をつくり行動を開始し、会員が漸増し現在三〇名有余となっていること、右会員が当初毎月集金にくる原告の集金人に対し、値上げの理由が納得できないから説明してほしい、納得できれば新料金で支払ってもよい、説明できなければ説明できる人にきてほしい旨申し向け、自分なりに旧料金で計算し直した金額を提供して受領拒否され、このような状態が二ヵ月ほど続き、その後、いわゆる旧料金を直接届けて受領拒否や返却され、また、供託手続が却下されるなどして以来現金送金又は銀行振り込みの方法で旧料金を送金したこと、一方、原告が右のようないわゆる旧料金払いする者の漸増することもあり、その人らに新料金を納得させる意図から、昭和四九年一二月ころ、旧料金で払う会との話合いに応ずる旨告げたこと、以上の経過を経て、昭和五〇年一月三〇日から昭和五一年六月一〇日までに前後八回にわたり右両者間に話合いがもたれ、前半までは主として伊達火発をめぐる諸問題が論議され、料金問題については被告らの質問に原告側から料金値上げと伊達火発と無関係である、旧料金を受けとれない、電気は止めるとも止めないともいえない旨の答えがあり、また、値上げのための公聴会手続の不当が指摘されたが、後半の話合いはその間昭和五一年の電気料金再値上げと同年五月二〇日原告が被告らに本件支払命令を申し立てのこともあって、双方角立った交渉に終始し、料金問題についても特段の結論もえられないまま話合いが打ち切られたこと、以上の事実が認められる。
しかし、右認定事実中の話合いでは前記被告ら主張の合意そのものの存在の証拠とはならず、他に右被告らの主張事実を認めるにたりる証拠もなく、したがって、実体法的にも訴訟法的にも意味ある合意の問題は生じない。
二 原告主張の電気需給契約は公衆の日常生活に不可欠な電気の用益に関し原告の電気供給規程に基づき締結されるものでありいわゆる公共料金についての普通契約約款による附合契約と解されるところ、被告らは新料金を契約内容とすることを拒否し、旧料金で支払うことを明瞭に宣告し、新しい供給規程と異なる契約内容によって申し込み、口頭ないし抗議の書面でその意思を表示したのに対し、原告はそれを承知して送電してきたのであり、被告らの中にはいったん料金不払いとして送電停止を受けたが抗議すると原告が「旧料金で払う会の人とは知らなかった」と再び送電した例もあり、こうした状態で原告が送電を続けてきたことは原告の債務の履行行為そのものであるから旧料金で支払うことを内容とする被告らの申し込みに対する原告の承諾意思が推断されると主張する。
しかしながら、被告らが新料金を契約内容とすることを拒否し旧料金で支払うことを宣言したと主張するころには、すでに、新たに認可を受けた原告の電気供給規程は原告により電気事業法所定の公表義務が履践され、かつ、全需要家への周知徹底のための原告の宣伝、広報活動がなされているのであるから、被告らの主張はひっきょう一般需要家として電気の供給を受けながら、なお、新料金を内容とする契約の成立を否定することに帰し、このような現に他の一般需要家に対し実施中の原告の電気供給規程による契約の締結を拒否する旨の被告らの表示は信義誠実の原則に照らし何らの効力を生じないものといわざるをえない。
三 最後につけ加えるに、被告らは、原告の電気供給規程は電力会社が景気浮揚のための電力設備投資の促進を図る通産省とのゆ着のうえで料金値上げの認可を得、適正利潤の算入も疑わしく、また、昭和五一年の料金再値上げ決定のための公聴会もその手続に重大かつ明白な瑕疵があると主張し、右は前記原告の電気供給規程の内容たる料金の定めの不当及びその認可のために実施された公聴会の形式的又は実質的無効を理由に右供給規程の違法性を主張していると解される。
ところで、本件訴訟は、原告が前示支払命令申立てに際し前認定の一部被告らが送金したいわゆる旧料金を債務の本旨に従った弁済の提供とはならないとして原告においてこれを義務なく預り保管中の同預り金返還債務を新料金による未払料金と右支払命令送達と同時に対当額で相殺する旨の意思表示をし、その未払料金又は右相殺後の同料金残額の支払いを求める給付訴訟であり、右被告らの主張は前記のような普通契約約款による附合契約を要件とする給付訴訟において先決問題として右普通契約約款の内容たる料金の不当及び同料金を定めるために実施された公聴会手続の無効を理由として通商産業大臣の認可の取消、無効の判断を求めることほかならないが、このような公共料金といわれる電気料金の支払いを求める給付訴訟において行政処分たる通商産業大臣の認可の取消、無効を争うことができるとすることは、一般的には裁判所が附合契約について契約当事者の一方が独占的地位にあることによる権利濫用の有無、個々の契約約款の公序良俗違反の有無等を審査するために介入することができるとしても、いたずらに多数の紛議を醸成する結果となり不当というべく、むしろ、市民生活における紛争解決を目的とする現行訴訟制度としては、抜本的解決のため行政事件訴訟によりこれを争うべきことを予定していると解するのが相当である。
もっとも、行政事件訴訟にあっては、当事者適格、訴えの利益、出訴期間等多くの問題点があるが、右出訴期間の点については被告ら主張の公聴会手続の瑕疵が重大かつ明白な瑕疵にあたるかどうかが問題であるにしても、もし行政処分に重大かつ明白な瑕疵があるとするならば出訴期間の制約のない行政処分の無効等確認の訴えも提起でき、その他の問題点もそれ自体積極的に処理できないわけではなく、これを要するに、行政事件訴訟として紛争解決の方法があるのにこれを避けて、いわば受身の立場である給付訴訟の段階で行政処分の無効、取消を先決問題として処理することはできないというべきである。
(裁判官 樫田寅雄)