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札幌高等裁判所 平成10年(く)29号 決定 1998年11月04日

少年 B・S(昭和56.2.24生)

主文

原決定を取り消す。

本件を札幌家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、附添人弁護士○○作成の抗告申立書に記載のとおりであるから、これを引用する。

諭旨は、要するに、少年の非行性・要保護性はさほど深刻化しておらず、また、社会内処遇によって更生できる条件が整っていることなどから、少年を中等少年院(一般短期処遇)に送致するとした原決定の処分は重過ぎて著しく不当である、というのである(なお、抗告申立書の抗告の理由一において「重大な事実の誤認」とあるのは、処分が不当であることの一事由として主張したものと認められる)。

そこで、記録を調査して検討する。

本件は、通信制の高校4年に在籍する少年が、夏休みに遊び仲間の本件共犯者らと夜遊びをし、平成10年8月31日夜、帰宅が遅いことを親に咎められたことをきっかけに自宅に戻らず、不良交友を続ける中で、これまで自己らが使用していたオートバイが盗難車であったため警察官に取り上げられたことから、足代わりに必要であるとして、同年9月3日深夜、A、B及びCと共謀の上、駐車中のオートバイ1台(時価5万円相当)を盗み出すという窃盗(原決定の罪となるべき事実第2)に及び、また、同月9日には、遊興費等欲しさから、いずれも、Dと共謀の上、オートバイに2人乗りをして、路上を通行中の女性(それぞれ77歳と52歳)に背後から近づき、その携帯する手提げ袋やバッグ等をひったくって窃取するという窃盗2件を敢行した(同第1の1及び2。被害は、1の件が現金1万円及び物品時価合計5000円相当、2の件が現金2万7000円及び物品時価合計45万7000円相当)、という事案である。

少年は、家出後の約一週間の間に、同じ態様のひったくり窃盗を数件繰り返していたとの事情も認められることもあって、動機・経緯・態様・結果とも併せた本件の犯情は甚だ芳しくない。

また、少年は、平成8年に中学を卒業して工業高校に進学したが、野球部を辞めAらとの不良交友に陥る中で学業にも身が入らなくなり、その結果、成績不良で留年を余儀なくされ、平成10年4月には、同校を退学して○○高校の通信制に転学したが、その後、前示の経緯で夜遊びを繰り返して本件の各非行に至ったこと、少年には、年齢相応の状況認識や責任感等が乏しく安易に行動に走るなどの性格上の問題があること、両親においても、少年の家出などに必ずしも適切十分な対応をしたとはいえないこと、このため、今後も交友関係や両親の対応等のいかんによっては再非行のおそれも懸念されることなどに照らすと、原決定が、少年の要保護性は高く、在宅による処遇は困難であると判断したことは、それなりに理解できないものでもない。

しかしながら、本件の各非行のうち、2件のひったくり窃盗の件は、発端がPHS代金の支払のために共犯者Dが空き巣狙いを発案したことによるもので、少年には追従的な面もあったこと、少年は、家庭裁判所の係属歴や警察等の補導歴を含めてこれまで全く前歴がなく、前記のとおり問題行動はみられたものの、その期間は比較的短期間であった上、本件非行の発端となった前記の家出も、偶発的な事情によるもので、就学意欲もないとまではいえないこと、不良交友の仲間である本件共犯者らも、中学時代の同級生などにとどまり、少年自身には暴力団や暴走族などとの関係も一切みられないこと、少年の両親においても、捜査段階から被害者らに対する慰謝の措置や被害弁償に努め(なお、被害品は捜査の過程で大半が被害者に回復されている)、単独であるいは共犯者の保護者と共同して被害者に謝罪したり示談するなどしたほか、身柄拘束中の少年に多数回にわたり面会を繰り返して少年と話し合い、これまでの自らの教育監護の在り方についても反省し、今後は適切な指導監督を行う旨決意を新たにしたこと、少年もこれを受けて、原審判廷において、自分の問題行動や本件について反省の情と被害者らに対する謝罪の気持ちを披瀝し、「再非行をしないためには、自分自身の行動に責任と自覚を持ち、美容師になるために努力する」旨述べており、本件で身柄を拘束され観護措置を受ける中で、事の重大さを実感し更生の意欲を示すに至っていること(なお、当審における事実取調べの結果、原決定後、少年は、少年院に収容されてからも一層反省の情と更生への意欲を高めていること、少年の両親らも少年院に面会に訪れて少年を激励した上、○○高校側とも話合いの機会を持ち、本件で少年はいったん自主退学することになるものの、将来の復学につき事実上の了解を取り付けていること、そして少年の希望に沿って美容師として技術を身につけられるよう助力する旨の意向を示していることが認められ、今後の家庭における指導力には期待が持てることが明らかである)などの事情を併せ考えると、少年については、社会内における専門家の指導によってその性格・傾向の改善と再非行防止を図る余地も十分に残されているものと判断される。

そうすると、試験観察等により少年の動向を観察するなどしてその可能性を検討することなく、直ちに少年に対して中等少年院送致の決定を言い渡した原決定は、時期尚早というべく、著しく不当といわなければならない。諭旨は理由がある。

よって、少年法33条2項、少年審判規則50条により、原決定を取り消し、本件を原審である札幌家庭裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 近江清勝 裁判官 渡邊壯 嶋原文雄)

〔参考1〕 送致命令

平成10年(く)第29号

決  定

本籍 札幌市○○区□□×丁目××番地××

住居 札幌市○○区□□×丁目×番××号

高校生(月形学園在院中)

少年 B・S

昭和56年2月24日生

右少年に対する窃盗保護事件について、平成10年10月15日札幌家庭裁判所が言い渡した中等少年院送致決定(一般短期処遇)に対し、附添人から適法な抗告の申立てがあり、これに対し、当裁判所は平成10年11月4日原決定を取り消し、事件を札幌家庭裁判所に差し戻す旨の決定をしたので、さらに少年法36条、少年審判規則51条により次のとおり決定する。

主文

月形学園長は、少年B・Sを札幌家庭裁判所に送致しなければならない。

(裁判長裁判官 近江清勝 裁判官 渡邊壯 嶋原文雄)

〔参考2〕 原審(札幌家 平10(少)1971号 平10.10.15決定)<省略>

〔参考3〕 原審処遇勧告書<省略>

〔参考4〕 受差戻審(札幌家 平10(少)2519号 平11.3.9決定)<省略>

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