札幌高等裁判所 平成15年(ネ)109号 判決 2003年7月16日
控訴人 国
代理人 田口治美 桂井孝教 齊藤章夫 天満三樹 ほか2名
被控訴人 札幌不動産コンサルタント株式会社
主文
1 原判決を取り消す。
2 Aと被控訴人との間の別紙金銭消費貸借契約目録<略>記載の各金銭消費貸借契約を取り消す。
3 被控訴人は、控訴人に対し、7985万8073円及びこれに対する平成13年10月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
5 この判決の主文第3項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 第1次請求
被控訴人は、控訴人に対し、7985万8073円及びこれに対する平成13年10月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 第2次請求
主文第2、3項と同旨
4 第3次請求(予備的請求)
被控訴人は、控訴人に対し、次のとおりの金員を支払え。
(1) 186万8459円
(2) 平成17年12月31日限り6935万8073円
(3) 上記(2)の6935万8073円に対する平成15年1月1日から平成17年12月31日まで年2分の割合による金員
(4) 上記(2)の6935万8073円に対する平成18年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員
(5) 平成18年12月31日限り1050万円
(6) 上記(5)の1050万円に対する平成15年1月1日から平成18年12月31日まで年2分の割合による金員
(7) 上記(5)の1050万円に対する平成19年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員
5 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
6 第2、3、4項の各金銭支払請求部分につき仮執行宣言
第2事案の概要
本件は、控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人の代表取締役であるAが平成12年11月15日から平成13年2月27日までの間に5回にわたってA個人の預金口座から被控訴人の預金口座に振り込んだ合計7985万8073円について、それらは、いずれもAから被控訴人に対する期限の定めのない金銭消費貸借契約による貸付金であったとして、国税徴収法62条による同貸付金の差押え及び同法67条による取立権に基づいて、上記金員及びこれに対する差押通知が被控訴人に到達した日の翌日である平成13年10月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、これに対し、原審が上記貸付金はいずれも期限の定めのある貸付金で、かつ、いずれについても弁済期が到来していないとして、控訴人の請求を棄却する旨の判決を言い渡したところ、控訴人は、請求の趣旨及び請求原因を追加し、前記控訴の趣旨記載のとおりの裁判を求めて控訴したものである。
当審において追加された請求原因の要旨は、以下のとおりである。なお、第1次請求と第2次請求との間に控訴人の利益の差等は認められないから、両請求の関係は選択的であり、第3次請求とその余の請求との関係は予備的であると認める。
第1次請求について 上記各金銭消費貸借契約が通謀虚偽表示により無効であることによる、Aの悪意の受益者である被控訴人に対する不当利得返還請求権及び遅延利息請求権(債権者代位権に基づいて代位行使)
第2次請求について 詐害行為取消権に基づく上記各金銭消費貸借契約の取消し並びに取消しによる返還請求権及び遅延利息請求権
第3次請求について 上記各金銭消費貸借契約に貸付金返済の確定期限あることが認められ、かつ、第1次、第2次請求とも認められない場合には、約定利息請求権に基づく既発生利息及び各確定期限までの将来利息の各請求権並びに将来の各確定期限後の元金及びそれぞれの支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求権
1 <証拠略>から容易に認められる事実
(1) Aの父Bは、平成3年○月○日に死亡し、C及びAのほかのBの子らが共同相続した。
(2) Aは、平成4年7月31日、C及びCが代表取締役に就任していた2社のタクシー会社との間で、裁判上の和解(以下「本件和解」という。)をした。本件和解には、Cが代表取締役に就任していたタクシー会社とAとの間の雇用関係やAが保有していた株式の譲渡に関する条項のほか、AとCとの間の共同相続関係について、要旨次のとおりの条項が含まれていた。
ア Aは、Bの公正証書による遺言が有効であることを確認する。
イ Cは、Aの遺留分減債請求が有効であることを確認する。
ウ Cは、Aに対し、平成4年8月末日に6968万6925円を、平成5年8月末日に1億3000万円を支払う。
エ 上記ウの合計1億9968万6925円は、Bの相続に係る相続税額を控除した上でのAの遺留分相当額であり、Cは、相続税の納付について、Aに負担をかけない。
なお、上記ウの金員は、いずれも本件和解条項に定めるAの訴訟代理人口座に振り込む方法で支払われた。
(3) Aの妻Dは、平成4年9月5日、札幌ミサワホーム株式会社(以下「ミサワホーム」という。)との間で、<住所略>の土地及建物を代金合計6600万円(うち、土地3051万4000円、建物3445万2427円、消費税103万3573円)で購入する旨の分譲住宅売買契約を締結した。同契約による売買代金については、D及びAからミサワホームに対し、同年10月27日までに全額支払われた。
(4) 被相続人をBとする相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)については、共同相続人中の本来の納税者であったCによる納税が滞り、平成12年2月14日現在の滞納税額は199億3243万2680円(うち、本税額は166億3725万4280円)であった。
(5) 金沢国税局長は、平成12年2月14日付けの「相続税の連帯納付責任のお知らせ」(<証拠略>)で、同日ころ、Aに対し、Aが本件相続税について相続税法34条1項の規定に基づく連帯納付責任を負っていること及び延滞税額が合計199億3243万2680円である旨を通知し、さらに、同年3月13日付けの「連帯納付責任に係る督促状」10通(<証拠略>)で、同日ころ、Aに対し、本件相続税についての連帯納付責任に基づく納付を督促した。
(6) Aは、平成12年3月16日、自己所有名義の建物の所有権を同年1月12日売買を原因としてDに移転する旨の所有権移転登記手続をした。
(7) Aは、平成12年5月31日付け「申入書」(<証拠略>)で、金沢国税局長に対し、上記督促に基づいてAが納付すべき金額が不明であること及び同月30日に国税局の職員が行ったAの貸金庫に対する捜査によって信用が失墜した旨通知した。
(8) 札幌国税局は、平成12年6月8日、本件相続税に係る滞納処分を金沢国税局から引き受けた。
(9) Aの代理人弁護士は、平成12年6月20日付け「通知書」(<証拠略>)で、札幌国税局長に対し、上記督促処分については不服審判の申立てをしたこと及び国に対し賠償請求をする予定であること等を通知した。
(10) Aは、被控訴人の資本金1000万円全額を出資した上で、平成12年10月20日、被控訴人を設立した。被控訴人の商業登記簿上の役員欄によると、被控訴人設立時の取締役にはA(代表取締役)のほか、E(Aの長女。)及びFが就任し、監査役にはDが就任したが、平成13年1月22日、Eが取締役を退任して監査役に就任し、同日、Dが監査役を退任して取締役に就任し、その他の役員は、同日、重任した旨の各記載がなされている。また、被控訴人の設立年度(平成12年10月20日から同年12月31日まで)及び第2期(平成13年1月1日から同年12月31日まで)の各決算報告書には、役員報酬を除く従業員給料・人件費等に該当する費目が存せず(ただし、第2期の損益計算書の販売・管理費中に「雑給」として7万5000円が計上されている。)、E及びFに対する各役員報酬はいずれも支給されておらず、Aに対しては被控訴人の設立年度に60万円、第2期に240万円が支給され、Dに対しては被控訴人の設立年度に役員報酬として21万円、地代・家賃として21万円が支払われ、第2期における役員報酬の支給はなく、地代・家賃として80万円が支払われた旨の各記載がなされている。なお、Eは昭和58年○月○日生まれの未成年者である。
(11) Aは、平成12年11月15日から平成13年2月27日までの間に、A個人名義の預金等の口座から被控訴人名義の預金口座に次のとおりの金員を振り込んだ。
ア 平成12年11月15日 1001万0000円
イ 平成12年11月16日 1000万0000円
ウ 平成12年11月17日 2992万2117円
エ 平成12年12月11日 1942万5956円
オ 平成13年2月27日 1050万0000円
なお、被控訴人の設立年度(平成12年10月20日から同年12月31日まで)及び第2期(平成13年1月1日から同年12月31日まで)の前記各決算報告書による被控訴人の流動資産は、設立年度が7755万6625円(うち、普通預金593万7836円、投資預金7149万2332円)で、第2期が8812万9300円(うち、普通預金587万2202円、投資預金8225万7098円)であり、設立年度の借入運転資金6935万8073円に対する支払利息は14万2927円で、第2期の借入金7985万8073円に対する支払利息は155万9991円である。
また、Aが、平成12年分の所得税の確定申告において、平成13年3月14日に札幌南税務署に提出した確定申告書(<証拠略>)には、営業収入1063万6759円、被控訴人からの給与60万円、雑収入16万8173円の記載があるが、その他の不動産収入、利子収入、配当収入等については収入記載がなく、平成13年分の所得税の申告書(<証拠略>。平成14年3月7日提出)には、営業収入527万2006円、被控訴人からの給与240万円、雑収入155万9991円、一時収入1万7699円の記載があるが、その他の不動産収入、利子収入、配当収入等については収入記載がない。
(12) 金沢国税局長は、平成13年10月29日、国税徴収法に基づいて、次のとおりの債権(以下「本件対象債権」という。)を差し押え(以下「本件差押え」という。)、被控訴人に対する本件差押えの通知は、同月30日、被控訴人に到達した。
滞納税 本件相続税(平成13年10月29日現在の滞納本税158億3497万5699円、利子税15億7903万2100円、延滞税57億7228万500円以上合計231億8628万8299円)
差押債権<1> Aの被控訴人に対する別紙金銭消費貸借契約目録<略>1ない4記載の貸付金債権合計6935万8073円(ただし、履行期はいずれも即時)及び確定利息
差押債権<2> Aの被控訴人に対する別紙金銭消費貸借契約目録<略>5記載の貸付金債権1050万(ただし、履行期は即時)及び確定利息
(13) 金沢国税局長は、平成13年11月15日付け「差押債権支払督促書」(<証拠略>)で、被控訴人に対し、本件対象債権について同月26日までの支払を催告した。
(14) 被控訴人は、平成13年11月20日、国税不服審判所長に対し、本件差押えによって被控訴人の事業の継続に多大な支障が生じたことを理由として、本件対象債権の履行期を変更することを求める旨の審査請求(以下「本件審査請求」という。)を申し立てた。
(15) 被控訴人は、平成13年11月23日付け書簡(<証拠略>)で、金沢国税局職員に対し「平成13年10月29日の当社の債務について差押えされました件につき、当社としては弁済する方向で検討中であります、つきましては一度お話をしたいと思い、まことにかってではありますが12月7日午後にそちらに伺いたくご連絡したしだいであります。」旨通知した。
(16) Aは、平成13年12月7日、金沢国税局会議室で同国税局職員と面接し、同所で、本件対象債権の契約書であるとして、契約書様の書面の外観を同職員に示したが、内容を確認させるまでには至らなかった。
(17) 被控訴人は、平成13年12月24日ころ、国税不服審判所長に対し、本件審査請求の理由を本件対象債権の履行期については各借入金債務の本来の弁済期を履行期とすべきである旨の補正書を提出した。
(18) 国税不服審判所長は、平成14年2月8日、本件審査請求を却下する旨審判した。
(19) Aは、平成14年2月13日、札幌国税局で金沢国税局の職員と面接し、本件対象債権には、いずれも10年の履行期限が付されている旨及び各貸付毎に契約書が作成されている旨説明したものの、同国税局職員からのコピーの提出要請には応じなかった。
(20) 被控訴人は、本件訴訟の原審において、本件対象債権に関して被控訴人とAとが各貸付日にそれぞれ金銭消費貸借契約を締結した証拠として、いずれも貸主をAとし、借主を被控訴人とし、所定の収入印紙が貼付された要旨次のとおりの契約書5通(<証拠略>。以下「本件5通の契約書」という。)を提出した。
ア 貸付日 2000年11月15日
貸金額 1001万円
弁済期 元金の返済を2005年12月31日まで猶予する。しかし、被控訴人は、2010年12月31日までに全額返済しなければならない。
利息 年2パーセント(年末支払)
特約 経済事情等特段の社会変化が生じた場合には、A及び被控訴人は協議して利息及び返済期を変更できる。
イ 貸付日 2000年11月16日
貸金額 1000万円
弁済期以下は、アに同じ
ウ 貸付日 2000年11月17日
貸金額 2992万2117円
弁済期以下は、アに同じ
エ 貸付日 2000年12月11日
貸金額 1942万5956円
弁済期以下は、アに同じ
オ 貸付日 2001年2月27日
貸金額 1050万円
弁済期 元金の返済を2006年12月31日まで猶予する。しかし、被控訴人は、2011年12月31日までに全額返済しなければならない。
利息以下は、アに同じ
2 争点
本件の主たる争点は、本件対象債権の履行期であり、副次的に本件5通の契約書の作成経緯等が争われ、当事者双方の主張の要旨は次のとおりである。
(控訴人の主張)
(1) 本件対象債権は、いずれも履行期の定めのない貸金債権である。
なお、本件5通の契約書は、いずれも本件差押え後に、各貸金がいずれも当初から履行期について定められていたことを作出するために作成されたにすぎず、少なくとも作成日及び履行期に関する記載部分は真実に反する虚偽記載である。
(2) 仮に、本件5通の契約書がいずれも各作成日に作成され、かつ、履行期に関する各記載どおりの合意がなされたとするならば、控訴人は、(3)ないし(5)のとおり主張を追加する。
(3) Aと被控訴人との間に本件5通の契約書記載どおりの各金銭消費貸借契約が成立したとすると、それは、平成12年2月14日ころ、「相続税の連帯納付責任のお知らせ」(<証拠略>)を受領し、同年3月13日ころ、「連帯納付責任に関する督促状」(<証拠略>)を受領したAが、個人資産の被控訴人への移転を仮装して個人資産に対する滞納処分を免れる目的で、被控訴人を設立した上で、被控訴人代表取締役を兼ねて締結した虚偽表示であって無効であり、被控訴人は悪意の受益者であるから、控訴人は、Aに代位して、不当利得として本件5通の契約書により貸付金名目で交付された金員の返還及び遅延利息の支払を求める。
(4) また、Aと被控訴人との間に本件5通の契約書記載どおりの各金銭消費貸借契約が成立したとすると、それは、Aの責任財産を減少させる行為であって、しかも、被控訴人の代表取締役がAであったことから、被控訴人がAから金員を受領することがAの責任財産を減少し、債権者を害するものであると知っていたことは明らかである。したがって、控訴人は、詐害行為取消権に基づいて、本件5通の契約書による各金銭消費貸借契約を取り消した上で、貸付金として交付された金員の返還及びと遅延利息の支払を控訴人に対し直接なすことを求める。
(5) 仮に上記(3)、(4)の主張がいずれも認められないとしても、本件5通の契約書によれば、各金銭消費貸借契約に基づく既発生利息部分については即時の取り立てを妨げる事情はなく、また、期限未到来の各元金並びに将来発生する約定利息及び遅延損害金については、それぞれ、現実の請求が可能となった時点における履行を確保する必要がある。したがって、上記(3)、(4)の主張が認められない場合には、予備的に既発生利息金の支払と将来発生する元金等についての将来の支払を求める。
(被控訴人の主張)
(1) 本件対象債権は、いずれも履行期の定めのある貸金債権である。
本件5通の契約書は、いずれもその作成日付に作成されたものであり、Aと被控訴人との間の契約内容は、本件5通の契約書記載のとおりであった。また、各貸付の目的は、被控訴人に運転資金として貸し付けた上で、被控訴人に投資業を営ませる方が、運用利益が発生した場合に税法上有利であったからである。したがって、本件5通の契約書による金銭消費貸借契約は、いずれも実体を伴ったものであって、虚偽表示ではない。
(2) 控訴人主張の(4)及び(5)はいずれも争う。
(3) なお、控訴人が本件請求の前提としているAの連帯納付責任の存在を争う。
すなわち、Aが負担すべき連帯納付責任は特定しておらず、また、共同相続人の相続税に対する連帯納付責任が認められるためには、各共同相続人が相互に他の共同相続人固有の納付義務部分について連帯納付責任を負うという相互関係あることを要するところ、Aは本件相続税についての主たる納税義務がないから、CがA固有の納付義務部分について連帯納付責任を負うという関係が認められない以上、AにのみCの納税義務について連帯納付責任を負わせることはできない。
また、Aが本件和解に基づいて遺留分相当額として受領した1億9968万6925円中には、実質的にはCからAに対する慰謝料総額8000万円が含まれているので、同慰謝料額を控除した1億1968万6925円に基づいてA固有の相続税額を仮計算すると、同金額の68パーセントに該当する8138万7109円がA固有の相続税額となる。そして、同相続税額については、Aについての法定納期限である平成4年12月31日から5年を経過した平成9年12月31日に時効消滅したから、Aの責任限度額は3829万9816円となる。ところで、控訴人がこれまでにAに対し実行した差押の総額は本件差押え分を含め1億0292万5618円であり、本件差押えのうちの超過部分6462万5802円は超過差押であって無効である。
第3当裁判所の判断
1 本件対象債権の履行期及び本件5通の契約書の作成経緯について
(1) 本件全証拠によっても、本件5通の契約書がそれらの各作成日付に作成されていたと認めることはできないものの、前記事案の概要摘示の事実によれば、本件対象債権に対応する各金員は、いずれも別紙金銭消費貸借契約目録<略>記載の各貸付日にAの預金口座から被控訴人の預金口座に振り込まれたこと、被控訴人の創立年度及び第2期の決算報告書には、本件対象債権に該当する金員がそれぞれ長期借入金として記載され、年2パーセントの金利に相当する金員が支払利息としてそれぞれ計上されていたこと、Aの平成12年及び平成13年分の各所得申告書中には上記支払利息に対応すると認められる収入の記載が雑収入の項目になされていたこと、したがって、被控訴人は本件差押え前から本件対象債権について年2パーセントの利息が定められた長期借入金として経理処理していたことに照らすと、Aと被控訴人との間には、本件対象債権について、本件5通の契約書記載のとおりの金銭消費貸借契約(以下「本件各貸金契約」という。)が成立していたと認めるのが相当であり、他にこれを覆すに足りる証拠はない。
したがって、本件対象債権については、Aと被控訴人との間において、現実に金員の授受がなされ、かつ、その返済方法について本件各貸金契約のとおりの契約が締結されているのであるから、本件各貸金契約が虚偽表示である旨の控訴人の主張は理由がない。
(2) ところで、前記事案の概要において摘示した事実中のAの平成12年分及び平成13年分の各所得申告書の記載によれば、Aには、本件対象債権の原資となった各預金のほかに見るべき現預金等の資産はないものと認められ、Aが本件各貸金契約に基づいて、被控訴人に対し、総額7985万8073円の金員を貸し渡したことは、Aが現実に保有していた責任財産を減少させるものであり、Aの債権者を害する行為であることは明らかである。
そして、本件各貸金契約は、いずれもAが被控訴人の代表者を兼ねて締結したものであるから、被控訴人は、本件各貸金契約がAの責任財産を減少させる行為であることを明らかに認識していたものと認めることができる。
したがって、控訴人の本件請求のうち、詐害行為取消権に基づく請求部分は理由があり、また、これまで認定した事情に鑑みると、詐害行為によって交付された金員の返還及びそれに対する遅延損害金の支払については、被控訴人から直接控訴人に対してなすべきことを認めるのが相当である。
(3) なお、被控訴人は、Aの本件相続税についての連帯納付責任の額が明らかではないとか、Aが本件和解で遺留分相当額として受領した金員中にはCからAに対する慰謝料が含まれていたとか、本件差押えは超過差押であり、超過部分は無効である等の主張をするが、前記事案の概要摘示の事実によれば、Aが本件和解に基づく遺留分相当額として1億9968万6925円を受領済みであることが明らかに認められ、他に上記受領金員が遺留分に関係しないものであったと認めるに足りる的確な証拠はないし、国税徴収法に基づく債権差押処分としての本件差押えについて超過差押をいう被控訴人の主張部分は国税徴収法についての被控訴人独自の見解にすぎず採用することができない。また、相続税の連帯納付責任が各共同相続人間の各固有の納付義務に対する相互の連帯納付責任であることに基づくものであるとする被控訴人の主張部分もまた、被控訴人独自の見解にすぎず採用することができない。被控訴人のその他の主張部分については、いずれも被控訴人限りの独自の見解にすぎないか、あるいは、上記認定の詐害行為取消権の行使を左右しないものと認められる。
2 以上の次第であるから、控訴人の本件各請求のうち、通謀虚偽表示に基づく第1次請求は理由がないが、詐害行為取消権に基づく第2次請求は理由がある。
第4結論
よって、原判決を取り消した上で、控訴人の本件請求を認容することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 山崎健二 橋本昇二 森邦明)
別紙 金銭消費貸借契約目録<略>