札幌高等裁判所 平成15年(ラ)10号 決定 2003年2月24日
抗告人
あおぞら債権回収株式会社
同代表者代表取締役
元川正文
同代理人弁護士
角田伸一
債務者
甲野太郎
第三債務者
社会保険診療報酬支払基金
同代表者理事長
末次彬
第三債務者
北海道国民健康保険団体連合会
同代表者理事長
林陽
主文
1 原決定を次のとおり変更する。
2 抗告人の申立てにより,同抗告人の原決定書別紙請求債権目録記載の請求債権の弁済に充てるため,同目録記載の執行力のある債務名義の正本に基づき,債務者が各第三債務者に対して有する原決定書別紙差押債権目録(1),(2)記載の債権を同但書の内容に従い差し押さえる。
3 債務者は,前項により差し押さえられた債権について,取立てその他の処分をしてはならない。
4 第三債務者らは,第2項により差し押さえられた各債権について,債務者に対し,弁済をしてはならない。
理由
1 本件抗告の趣旨及び理由は別紙執行抗告状及び執行抗告理由書の各写しのとおりである。
2 本件記録によれば,債務者と大地みらい信用金庫(旧商号 根室信用金庫)との間には,債務者が大地みらい信用金庫に対し,2586万9317円及びうち1960万2459円に対する平成8年2月1日から支払済みまで年14.00パーセントの割合による金員を支払うべき旨の仮執行宣言を付した支払命令(釧路簡易裁判所平成8年(ロ)第235号)が存し,抗告人は,平成14年4月10日,承継執行文を得た上で,同債務名義に基づいて,債務者の第三債務者らに対する債権の差押えを申し立てたこと,同申立てに係る差押対象債権については,債務者が平成14年6月1日から平成19年5月末日までの診療によって第三債務者らそれぞれに請求し得る社会保険診療報酬及び生活保護法に基づく診療報酬(以上は,第三債務者社会保険診療報酬基金に対する請求分)並びに国民健康保険法に基づく診療報酬及び老人保健法に基づく診療報酬・公費負担医療費(以上は,第三債務者北海道国民健康保険団体連合会に対する請求分)のうち,それぞれ865万2913円に満つるまでとの範囲の特定がなされていたことがそれぞれ認められる。
3 抗告人による上記債権差押えの申立ては,債務名義及び差し押さえるべき債権の特定において欠けるところはなく,また差押命令を発することの障害となるべき特段の事情は見当たらない。
なお,原決定は平成11年度における債務者の売上及び経費から,債務者の同年度の実質的な所得が850万円で,同年度における借入金返済額は少なくとも500万円程度と認めた上で,債務者については,以後も毎年同程度の借入金返済を要するものと推認し,本件における抗告人申立てにかかる差押えが債務者の歯科医院経営に重大な影響を及ぼし,差押えの長期継続によって廃業せざるを得なくなるとし,少なくとも本件の差押命令発令後1年を経過した後は廃業せざるを得なくなる可能性が生じ,債務者の診療報酬債権の発生を見込むことは困難となる旨判示するが,原決定の上記推認及び可能性についての予測を客観的に裏付け得るような事実は認められず,本件記録を精査しても,他の債務者の第三債務者らに対する診療報酬債権が差押後1年を超えて平成19年5月末日まで発生する見込みがないと認めるに足りる事情も見当たらない(差押対象債権の将来における発生の可能性については,債権執行手続における密行・迅速等の特殊性を考慮するのが相当である。)。
4 したがって,抗告人の本件抗告は理由があり,また,本件記録によれば,抗告人の本件債権差押申立てにつき債権強制執行の判断に必要な事実をすべて認めることができるから,本件については,当審においてさらに自判するのを相当と認める。
5 よって,原決定を変更することとして,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官・山﨑健二,裁判官・笠井勝彦,裁判官・森邦明)