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札幌高等裁判所 平成15年(ラ)64号 決定 2003年8月12日

抗告人

○○住宅株式会社

同代表者代表取締役

甲野太郎

同代理人弁護士

齋藤祐三

齋藤隆広

相手方

乙山次郎

同代理人弁護士

藤原秀樹

主文

原決定を取り消す。

相手方の本件申立てを棄却する。

理由

1  抗告の趣旨及び理由

本件抗告の趣旨は,主文と同旨であり,その理由は,相手方の給与所得者等再生手続開始又は小規模個人再生手続開始を求める本件申立てには,民事再生法25条4号所定の事由(不当な目的で再生手続開始の申立てがされたとき,その他申立てが誠実にされたものでないとき)があるというものである。

2  当裁判所の判断

(1)  一件記録によれば,次のとおりの事実が認められる。

ア  相手方は,平成15年2月3日,主位的に給与所得者等再生手続の開始を求めて,予備的に小規模個人再生手続の開始を求めて,本件申立てをした。

イ  相手方は,本件申立ての際に,債権者一覧表を提出した。同一覧表によれば,相手方に対する債権者数は,9社であり,相手方の債務総額は,554万円余である。

この債権者一覧表には,株式会社××の債権が235万円余,抗告人の債権が100万円と記載され,株式会社××の債権については,抗告人に移転する予定である旨が記載されている。

上記債権者一覧表によれば,相手方に対する債権のうち,抗告人の有する債権(株式会社××の債権が抗告人に移転した後のもの)の比率は,約60パーセントになる。

ウ  抗告人の相手方に対する債権は,既に株式会社××の債権が移転しているところ,抗告人の再生債権届出書によれば,その金額は,294万3980円である。

エ  抗告人の相手方に対する債権は,故意の不法行為に基づく損害賠償債権であり,その発生経過などは,次のとおりである。

(ア) 相手方は,いわゆるサラ金からの多額の借金の返済に苦慮し,友人であるAに相談したところ,家屋のリフォーム工事をしたことを仮装して資金を得る方法がある旨教えられた。

(イ) 相手方は,そこで,下請負人となるB(以下「B」という。)と共謀のうえ,Bが,抗告人の下請業者として相手方の家屋のリフォーム工事をすることを仮装することとした。

(ウ) Bは,平成12年12月9日ころまでに,抗告人に対し,相手方の家屋のリフォーム工事をする旨の連絡をした。

また,相手方は,そのころまでに,販売店(立替払金受取業者)を抗告人,信用提供業者(立替払業者)を株式会社××,契約申込人(立替払委託人)を相手方,工事代金額を290万円,分割手数料を含めたローン総額を407万6530円,分割金支払期間を平成13年1月から平成22年12月までとする「リフォームローン契約書」に署名捺印し,これが,そのころまでに,抗告人に送付された。

これを受けて,抗告人の担当者は,同日,相手方の勤務先に電話をかけたところ,相手方は,抗告人の担当者に対し,リフォームローンを利用して相手方の家屋のリフォーム工事をする旨を話した。

以上の経緯などによって,相手方と株式会社××との間で,平成12年12月9日,上記契約書記載のとおりの立替払契約が成立した。

(エ) Bは,平成12年12月15日ころ,上記リフォーム工事をしていないにもかかわらず,抗告人に対し,上記リフォーム工事が完成した旨の虚偽の通知をした。抗告人は,これを受けて,株式会社××に対し,上記リフォーム工事が完成した旨を通知した。そして,株式会社××は,これを受けて,相手方に対し,電話をかけたところ,相手方は,間違いなく上記リフォーム工事が完成した旨の虚偽の回答をした。

(オ) 株式会社××は,平成12年12月20日,抗告人に対し,立替払金として290万円を振込送金した。

抗告人は,同日,Bに対し,リフォーム工事下請負代金として280万円を振込送金した。

Bは,上記280万円のうち,80万円を自ら取得し,200万円を相手方に渡した。

(カ) 相手方は,平成13年1月から平成14年9月ころまで,株式会社××に対し,分割金の支払をしたが,その後の分割金の支払をしなかった。

(キ) 抗告人は,平成14年12月3日,株式会社××に対し,同社との間の「リフォームローンクレジット制度取扱に関する契約書」所定の約定に基づき,同社が相手方の不法行為によって受けた損害のうち265万1592円を支払う旨を約し,これを平成14年12月16日までに同社に対して支払った。

(2)  以上の事実によれば,抗告人の相手方に対する債権は,故意の不法行為に基づく損害賠償債権であるところ,相手方提出の債権者一覧表によれば,相手方の債務総額は,554万円余であり,相手方に対する債権のうち,抗告人の有する債権の比率は,約60パーセントになるものであって(なお,届出債権比率では,届出債権者6社の総債権額が405万0084円であり,抗告人の届出債権額が294万3980円であるから,抗告人の債権の総届出債権額に対する比率は,約72パーセントとなる。),相手方に対する債権のうちのこのような高い比率を占める債権が故意の不法行為に基づく損害賠償債権であることその他本件に顕れた事情に照らすと,抗告人の本件申立てには,民事再生法25条4号所定の再生手続開始申立棄却事由(不当な目的で再生手続開始の申立てがされたとき,その他申立てが誠実にされたものでないとき)があるものと解するのが相当である。

そうすると,相手方の本件申立て(予備的申立てを含む。)は,これを棄却すべきものである。

3  結論

よって,本件抗告は理由があるから,原決定を取り消し,相手方の本件申立てを棄却することとして,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官・山﨑健二,裁判官・橋本昇二,裁判官・森邦明)

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