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札幌高等裁判所 平成16年(ラ)88号 決定 2005年4月26日

抗告人

X株式会社

同代表者代表取締役

甲野一郎

同代理人弁護士

河谷泰昌

相手方

Y株式会社

同代表者代表取締役

乙山二郎

同代理人弁護士

向井論

大野慶樹

主文

1  本件抗告を棄却する。

2  原決定主文中に「1憶0906万3500円」とあるのを「1億0906万3500円」と更正する。

3  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第1  本件抗告の趣旨及び理由

本件抗告の趣旨は「原決定を取り消し,さらに相当の裁判を求める。」というものであり,その理由は別紙抗告理由書(写し)記載のとおりである。

第2  当裁判所の判断

1  当裁判所も,本件株式(抗告人の株式1万0500株)の売買価格はこれを1億0906万3500円と定めるべきものと判断する。その理由は,次のとおり付加訂正するほかは,原決定の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」及び「第3 理由」に説示されたとおりであるから,これを引用する。

(1)  上記説示中に「憶」とあるのを「億」と改める。

(2)  原決定1頁25行目の「書面」の次に「(同月13日相手方到達)」を加える。

(3)  同2頁10行目から同12行目までを「(4) これに対し,抗告人の取締役会は,上記本件株式の譲渡を承認しないこと及び譲渡の相手方として抗告人を指定することを決議し,抗告人は相手方に対しその旨を平成14年2月9日付け書面をもって通知した(甲4)。」と改める。

(4)  同13行目の「商法204条の3の2第1項」を「商法204条ノ3ノ2第1項(平成13年法律第128号による改正前のもの)」と,同16行目の「商法204条の3第2項」を「商法204条ノ3第2項」と,同17行目から同18行目にかけての「商法204条の3第1項」を「商法204条ノ3第1項」とそれぞれ改める。

(5)  同18行目の「3538万5000円で」の次に「抗告人に対し」を加える。

(6)  同20行目から同23行目までを「(7) 相手方は,同月18日,商法204条ノ3第4項(平成13年法律第128号による改正前のもの)に基づき本件株式にかかる株券を札幌法務局に供託し(甲8),抗告人に対し,同月19日付けの書面をもって,抗告人の上記売渡請求に対し抗告人の申出価格での売却には応じられず,本件株式を1億1022万9000円で売り渡すことを求めた(甲7)。」と改める。

(7)  同24行目の「商法204条の4第1項」を「商法204条ノ4第1項」と改める。

2  抗告人は,少数非支配株式の価格決定の事案については,配当還元方式を原則とすることが実務的に確定しており,本件において純資産方式や収益方式を併用することが許されるとしても,その組合せ比率については配当還元方式を6,純資産方式及び収益方式を各2とするなど,配当還元方式に重きをおくべきである旨主張する。

しかしながら,本件のように,株式会社が商法204条ノ2,204条ノ3ノ2の規定に基づき自らを株式の先買権者として指定した事案において,その株式会社は自己株式の取得により当該株式についての配当を免れる立場にあり(商法293条),将来配当利益を受けることを目的として自己株式を取得するということはあり得ないから,株式の価格決定に際し,株主が将来受けるであろう配当利益を基礎とする配当還元方式に重きを置くことはできないというべきであるし,またこのような事案についてまで配当還元方式を原則とすることが実務的に確定していることを認めるべき資料もない。

本件株式の買手である抗告人の立場からすれば,本件株式の取得により配当を免れた利益を内部に留保し得るだけでなく,これを活用して更なる利益を直接に受けることもできるのであるから,収益方式を基準として本件株式の価格を評価するのが合理的であるといわなければならない。

他方,売手である相手方の立場からすれば,もともと本件株式を保有していても,配当利益と万が一抗告人が清算段階に至った場合には残余財産の分配を受け得るにすぎないから,配当方式と純資産方式を基準として本件株式の価格を評価するのが合理的であるといえる。そして,抗告人がこれまで高い利益率を確保しながら,利益配当を定額に抑えてきたことなどを考慮すれば,売手である相手方の立場からする本件株式の価格の評価は,配当還元法による配当方式と純資産方式の中間値を採用するのが相当である。

さらには,上記のとおりの買手の立場からの評価と売手の立場からの評価のいずれかを重視するのが相当であるといえるような事情が見当たらないことからすれば,本件株式については,原決定のとおり,上記の各方式による算定額を「配当方式:純資産方式:収益方式=0.25:0.25:0.5」の割合で組み合わせる併用方式によりその価格を定めるべきものと判断される。

したがって,抗告人の上記主張は採用することができない。

3  また抗告人は,本件株式の売手である相手方の残余財産分配請求権を反映させるものとして純資産方式を採用するのであれば,純資産の算定は会社財産の清算価値によるべきである旨主張する。

しかしながら,相手方提出の公認会計士松隈剛作成の株式鑑定意見書(乙6)及び鑑定人佐藤等の株式鑑定評価書のみならず,抗告人提出の公認会計士茂腹敏明作成の「株式価額算定の評価方式選択に関する意見書」(甲17)も一致して述べているとおり,抗告人のように,近い将来における会社の清算を予測させる事情のない,いわゆる継続企業の純資産を評価するに当たり,会社の清算を前提とする評価方法を用いるのは妥当でなく,再調達時価純資産法を用いるのが相当と判断される。

したがって,抗告人の上記主張も採用することができない。

第3  結論

よって,原決定は相当であり,本件抗告は理由がないからこれを棄却し,なお原決定主文中に「1憶0906万3500円」とあるのは誤謬であることが明白であるから,これを「1億0906万3500円」と更正することとして,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官・伊藤紘基,裁判官・北澤晶,裁判官・石橋俊一)

別紙抗告理由書<省略>

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