大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 平成17年(う)360号 判決 2006年6月22日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役1年6月に処する。

この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。

札幌区検察庁で保管中の体感器一式(平成17年領第1970号符号1)を没収する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人福島晃作成の「控訴理由書」及び「控訴理由補充書」と各題する書面に、これに対する答弁は検察官蝦名俊晴作成の答弁書及び同野口敏郎作成の答弁書(補充書)にそれぞれ記載されているとおりであるから、これらを引用する。

論旨は、要するに、被告人の行為は窃盗罪の構成要件に該当せず、無罪であるのに、これを有罪とした原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認がある、というのである。

論旨に対する判断に先立ち、職権により調査すると、平成18年5月28日に平成18年法律第36号刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律(以下「新法」という)が施行され、原判示の所為のうち窃盗の点は、行為時においては改正前の刑法(以下「旧法」という)235条に、裁判時においては新法235条に該当することとなった。そして、原判決は、平成17年11月16日上記窃盗の点につき旧法235条を適用したが、原判決後の法改正により刑の軽い新法235条が適用されることになったから、これは、控訴理由である刑訴法383条2号の刑の変更に当たるというべきである。したがって、原判決は破棄理由がある。

そこで、論旨に対する判断を省略し、刑訴法397条1項、383条2号により原判決を破棄し、同法400条ただし書により当裁判所において更に判決する。

(犯罪事実)

原判決の罪となるべき事実と同一である。

(証拠の標目)省 略

(事実認定の補足説明)

弁護人は、本件電子機器(以下、「本件体感器」という)を使用することは窃盗罪の構成要件に該当しないし、また、本件体感器の使用とメダル取得との間には相当因果関係がない、と主張する。

しかしながら、本件体感器が、主張のように、本件遊技機に直接干渉して誤作動を起こさせないものであっても、「控訴理由書」自体にも、「リプレイ周期との調整さえうまく行えば、ボーナスゲームのJACゲームに入ったときに、俵を揃えるために右押しにすべきか、左押しにすべきかを判別する機能を有するものではある」とある上、関係証拠によれば、本件体感器は、本件遊技機の抽選乱数値を特定することによって、いわゆるJACゲーム中に俵図柄が揃う押し順を判別するという機能を有し、本件遊技機で大当たりを続発させるためのいわゆる押し目が判定できるものと認められ、このことは、本件体感器を使わない場合に比べ極めて高い確率で当選に至ることが可能であることであり、被告人自身、当審公判廷において、俵続発するのは事実ですなどと述べてこれを自認しているのである。そして、本件体感器の利用には相応の技術を要することを考慮しても、本件体感器を使用して俵図柄を8連続揃え、大当たりの連チャンを確定させることは、まさに不正な方法により、メダルの占有を取得することになるのは明らかであって、窃盗罪の構成要件に該当し、その使用とメダル取得との間に因果関係があることも明らかであり、これを処罰することが、窃盗罪の構成要件が予定している範囲を遙かに超え、類推解釈または拡大解釈にあたり、罪刑法定主義に反するとの指摘を含め、弁護人の主張は採用できない。

また、弁護人は、被告人は、本件体感器が本件遊技機自体には何ら影響を与えないもので、むしろ、店の不正を発見するためのものと考えていたから、被告人には窃盗の故意がないといい、さらに、一審の弁護人から、認めればすぐに裁判が終わる、執行猶予も付くなどと言われて自白したもので、任意性がないという。しかし、関係証拠によれば、被告人は、本件体感器を使用することによりメダルを取得したことを十分に認識しているのであって、窃盗罪の故意に欠けるところはなく、この故意と店の不正を発見する目的とは両立するものである。そして、弁護人の勧めにより自白したとの点も、それが自白の任意性を疑わせる事由にならないことはもとより、被告人は、取調検察官から内容が矛盾していると追及されて観念し正直に話すことにしたと述べており(原審乙第4号証)、結局、弁護人の主張は採用できない。その他弁護人がるる主張する点を考慮検討しても、判示の建造物侵入及び窃盗の事実を優に認定することができる。

(法令の適用)

「刑法235条」を「行為時においては平成18年法律第36号による改正前の刑法235条に、裁判時においてはその改正後の同条に当たるが、これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条、10条により軽い裁判時法の刑による」と改め、刑の執行猶予の前に「刑種の選択 懲役刑を選択」を挿入するほかは原判決と同一である。

(量刑の理由)

本件は、いわゆる体感器を使用してパチスロ機からメダルを不正に取得する目的でパチンコ店に入り、実際にメダルを不正に取得したという建造物侵入、窃盗の事案である。利欲的な動機、計画的、常習的な犯行であること、被害店舗の処罰感情や被告人が、るる弁解し、なお反省の情に欠けることなどに照らすと、その刑事責任を軽くみることはできない。

他方、本件被害にかかるメダルは被害店舗に回収されていること、被告人に前科前歴がないことなど、被告人のために酌むことのできる事情も認められる。

そこで、これらの事情を総合考慮して、被告人に対しては懲役1年6月に処した上、3年間その刑の執行を猶予するのが相当と判断した。

よって、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例