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札幌高等裁判所 平成17年(行コ)14号 判決 2007年2月09日

以下において,控訴人兼被控訴人(1審原告)らを「1審原告控訴人ら」と,1審原告控訴人らに,被控訴人(1審原告)A(以下「1審原告A」という。)及び被控訴人(1審原告)B(以下「1審原告B」という。)を加えた者らを「1審原告ら」と,被控訴人兼控訴人(1審被告)を「1審被告」と,被控訴人兼控訴人(1審被告)補助参加人民主・市民ネットを「参加人民主・市民ネット」と,被控訴人兼控訴人(1審被告)補助参加人公明党函館市議団を「参加人公明党」と,被控訴人兼控訴人(1審被告)補助参加人C1を「参加人C1」と,被控訴人兼控訴人(1審被告)補助参加人らを「参加人ら」という。

主文

1 1審原告控訴人らの控訴に基づき,原判決主文第1項,第2項及び第4項を次のとおり変更する。

(1) 1審被告は,参加人民主・市民ネットに対し,76万2370円及びこれに対する平成15年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。

(2) 1審被告は,参加人公明党に対し,22万4000円及びこれに対する平成15年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。

(3) 1審被告は,市政クラブに対し,9万5040円及びこれに対する平成15年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。

(4) 1審被告は,新政21に対し,7万7760円及びこれに対する平成15年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。

(5) 1審原告控訴人らの新緑クラブに関する請求を棄却する。

2(1) 1審被告の控訴に基づき,原判決主文第3項を取り消す。

(2) 上記取消しにかかる1審原告らの請求を棄却する。

3 1審被告の1審原告らに対するその余の控訴を棄却する。

4 訴訟費用は,1審原告控訴人らと1審被告との間に生じたものは,第1,2審を通じ,20分し,その1を1審原告控訴人らの,その余を1審被告の負担とし,参加により生じた費用は,第1,2審を通じ,参加人らの負担とし,1審原告A及び1審原告Bと1審被告との間に生じた控訴費用は,これを10分し,その3を1審原告A及び1審原告Bの,その余を1審被告の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  1審原告控訴人ら

(1)  原判決主文を以下のとおり変更する。

ア 主文1(1)と同旨

イ 主文1(2)と同旨

ウ 主文1(3)と同旨

エ 主文1(4)と同旨

オ 1審被告は,新緑クラブに対し,9960円及びこれに対する平成15年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。

カ 1審被告は,市民クラブに対し,7万0770円及びこれに対する平成15年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。

(2)  訴訟費用及び参加費用は,第1,第2審とも1審被告の負担とする。

2  1審被告

(1)  原判決中,1審被告敗訴部分を取り消す。

(2)  1審原告らの請求を棄却する。

(3)  訴訟費用は,第1,第2審とも1審原告らの負担とし,参加費用は,参加人らの負担とする。

第2事案の概要

1  本件は,函館市の住民である1審原告らが,函館市議会の6会派が平成13年度に支給された政務調査費について使途基準に違反する違法な支出を行っており,上記各会派は函館市に対して上記支出に係る政務調査費相当額を不当利得として返還すべきであるにもかかわらず,函館市長は上記各会派に対する返還請求を違法に怠っているとして,地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,函館市長である1審被告に対し,上記各会派に対して当該支出額に相当する金員及びこれに対する不当利得返還請求権発生の後であり,訴状送達の日の翌日である平成15年3月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求することを求めたところ,原審が,その一部を認容したことから,1審原告控訴人ら及び1審被告が,それぞれ控訴の趣旨の裁判を求めて控訴した事案である。

なお,1審原告A及び1審原告Bは,1審原告ではあったが控訴はしていない。

2  争いのない事実等(証拠等の摘示のない事実は当事者間に争いがない。)

(1)  当事者等

ア 1審原告らは,いずれも函館市の住民である。

イ 平成13年度当時,函館市議会には,参加人民主・市民ネット,参加人公明党,市政クラブ,新政21,新緑クラブ及び市民クラブ(以下「本件各会派」という。)を含む10会派が存在した。なお,市民クラブは,C2議員(以下「C2議員」という。)の一人会派であった。

ウ 参加人C1は,平成13年度当時,函館市議会議員を務めていた者であり,当初は市政クラブに所属していたが,その後,平成13年7月ころまでに,新政21に移籍した(甲7,8,26,乙9,証人参加人C1,弁論の全趣旨)。

(2)  法令の定め等

ア 法100条13項は,普通地方公共団体は,条例の定めるところにより,その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として,その議会における会派又は議員に対し,政務調査費を交付することができる旨を定め,これに基づき,函館市においては,函館市議会政務調査費の交付に関する条例(以下「本件条例」という。)及び函館市議会政務調査費の交付に関する条例施行規則(以下「本件規則」という。)が制定されている。

イ 本件条例には,次のような規定がある。

(ア) この条例は,法100条12項及び13項(平成14年法律第4号による改正前のもの,現在は13項及び14項)の規定に基づき,函館市議会議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として,議会における会派に対し政務調査費を交付することに関し必要な事項を定めるものとする(1条)。

(イ) 政務調査費は,議長を経由して市長に代表者,経理責任者等を記載した会派結成届を提出した会派(所属議員が1人の場合を含む。)に対して交付する(2条)。

(ウ) 会派に対する政務調査費は,各月1日における当該会派の所属議員数に月額7万円を乗じて得た額を半期ごとに交付する(3条1項)。

(エ) 会派は,政務調査費を本件規則で定める使途基準に従って使用するものとし,市政に関する調査研究に資するため必要な経費以外のものに充ててはならない(5条)。

(オ) 政務調査費の交付を受けた会派の代表者(会派が消滅したときは,代表者であった者)は,当該政務調査費に係る収入及び支出の報告書を作成し,議長に提出しなければならない(6条1項)。

(カ) 会派は,政務調査費の交付を受けた年度において,交付を受けた政務調査費の総額から当該会派がその年度において市政に関する調査研究に資するため必要な経費として支出した総額を控除して残余がある場合は,当該残余の額に相当する額の政務調査費を市長からの交付額の確定の通知のあった日から起算して14日以内に返還しなければならない(7条1項)。

市長は,政務調査費の交付を受けた会派が第5条の使途基準に反して政務調査費を支出したと認めるときは,当該支出した額に相当する額の政務調査費の返還を命ずることができる(7条2項)。

ウ 本件規則6条は,「条例第5条の規則で定める使途基準は,別表のとおりとする。」と定め,別表において,以下のとおり,政務調査費の使途を6項目に区分し,内容を記載している(以下,本件規則の別表で定める使途基準を「本件使途基準」という。)。

区分

内容

研究研修費

会派が行う研究会および研修会の実施に要する経費

ならびに他の団体が開催する研究会,研修会等への

参加に要する経費

調査旅費

会派が行う調査研究に必要な先進地調査または現地

調査に要する経費

資料作成費

会派が行う調査研究に必要な資料の作成に要する経費

資料購入費

会派が行う調査研究に必要な図書,資料等の購入に

要する経費

広報広聴費

会派が行う調査研究活動,議会活動および市の政策

について市民に報告し,および広報するために要す

る経費ならびに会派が市民からの市政および会派の

政策等に対する要望および意見を聴取するための会

議の開催等に要する経費

事務費

会派が行う調査研究活動に係る事務遂行に要する経費

エ 函館市議会の各会派は,平成13年度当時,本件使途基準の具体的な運用について申合せをした書面を作成しており,それによれば,旅費の算出基準は,函館市職員等の旅費に関する条例を準用することとされている(甲3)。そして,同条例(平成16年11月17日条例第65号による改正前のもの)は,旅費のうち日当(旅行中の昼食代及びこれらに伴う諸雑費並びに目的地を巡回する交通費に充てる費用)は,旅行中の日数に応じ1日当たりの定額により支給し,宿泊料(宿泊料金,夕食代,朝食代及び宿泊に伴う諸雑費に充てる費用)は,旅行中の夜数に応じ1夜当たりの定額により支給する旨定めている(甲26)。

(3)  1審被告は,本件条例に基づき,平成13年度の政務調査費として,参加人民主・市民ネットに対し,合計924万円を,参加人公明党に対し,合計420万円を,市政クラブに対し,合計406万円を,新政21に対し,合計266万円を,新緑クラブに対し,合計336万円を,市民クラブに対し,合計84万円を,それぞれ交付した。

本件各会派は,上記のとおり交付を受けた政務調査費から,別紙政務調査費支出一覧表(以下「一覧表」という。)の「支出日」欄記載の各日付けで,本件各会派に所属していた同表「対象議員」欄記載の函館市議会議員に対し,当該議員が研修会参加,調査旅行,資料購入等の調査研究活動に要した経費として,同表「支出金額」欄記載の各金額を支出した。上記各支出の際に作成された支出伝票には,各支出に係る旅行の目的ないし摘要として,同表「支出目的」欄のとおりの記載がある。

(甲5ないし9,12,13,26)

(以下,一覧表の番号1ないし18の各支出を併せて「本件各支出」といい,また,個別の支出を「番号1の支出」,「番号2の支出」などという。)

(4)  1審原告ら並びにD,E,F,G及びH(以下「監査請求人ら」という。)は,平成14年11月21日付けで,函館市監査委員に対し,本件条例に基づき函館市議会の各会派に交付された平成13年度の政務調査費のうち合計664万2380円について,本件使途基準を逸脱して違法・不当に支出されているとして,上記相当額664万2380円について函館市に返還させるなどの必要な措置を講ずるよう1審被告に勧告することを求める旨の住民監査請求を行った(以下「本件監査請求」という。)。また,監査請求人らは,同年12月12日付けの書面をもって,違法・不当な支出であるとする政務調査費相当額を合計1235万5550円(この中には,本件各支出も含まれていた。)に変更する旨の補正をした。

上記監査委員は,平成15年1月20日,平成13年度に交付され,各会派において使用された政務調査費のうち,9件の支出,使用額合計6万7920円については,本件条例及び本件規則に違反するものであるとして,1審被告に対し,該当する会派に対して収支報告書の金額の訂正を求めること,政務調査費の額が減額となるものについてその返還を求めることなどの必要な措置を講ずるよう勧告し,その旨を監査請求人らに通知した。

(甲26,27の1,2)

(5)  1審原告らは,平成15年2月18日,本件訴訟を提起した。

3  争点及びこれに関する当事者の主張

(1)  適法な監査請求前置の有無(本案前の争点)

(1審被告の主張)

1審原告らを含む監査請求人らは,平成14年11月21日に本件監査請求を行ったが,1審原告らにおいて監査の対象とする財務会計行為は,本件監査請求の日の1年前である平成13年11月21日よりも前になされたものと考えられる。そうすると,本件監査請求は,法242条2項所定の監査請求期間である1年を徒過したものであるから不適法であり,したがって,本件訴えは適法な監査請求の前置を欠くから不適法である。

(1審原告らの主張)

本件条例によれば,政務調査費は議会における会派に対し半期ごとに交付され(3条),交付を受けた会派の代表者は,当該政務調査費に係る収入及び支出の報告書を作成して議長に提出し(6条1項),提出を受けた議長はその写しを市長に送付するものとされ(同条4項),収支報告書の写しの送付を受けた市長は,政務調査費の交付を受けた会派が本件条例5条の使途基準に反して政務調査費を支出したと認めるときは,当該支出した額に相当する額の政務調査費の返還を命ずることができる(7条2項)。

したがって,市長の各会派に対する返還請求権は,平成13年度の政務調査費に関しては,議長から収支報告書の写しの送付を受けた平成14年4月30日以降に発生するものと解され,法242条2項所定の1年の監査請求期間も同日から起算されることとなる。そして,1審原告らは,上記起算日から1年以内である平成14年11月21日に本件監査請求を行っているから,上記監査請求期間を徒過していない。

(2)  本件各支出が本件使途基準に反し違法であるか

(1審原告らの主張)

ア 会派が調査研究を行っていない点について

(ア) 会派とは,議会内に形成された議員の同士的集合体であり,議員は地方公共団体の議会の構成員であって,両者はあくまでも別個の概念である。

そして,法100条13項は,政務調査費の交付の対象を会派又は議員のいずれか一方(あるいは両方)であるとし,会派と議員のいずれに交付するかは条例で定めなければならないとしており,これを受けて本件条例1条は,「議会における会派に対し」政務調査費を交付する旨を規定し,本件条例の他の条項もすべて会派が交付の対象であることを前提として規定されている。このことは,会派が,議会の中で極めて重要な役割を果たしていることに着目し,政務調査費による会派活動の強化を通じ,議会全体の審議能力のレベルアップにつなげることを目的としており,それゆえ,本件条例5条は,「会派は,政務調査費を規則で定める使途基準に従って使用するものとし」等と定め,本件規則6条の別表は,「調査旅費とは,会派が行う調査研究に必要な先進地調査または現地調査に要する経費」と定義するなど,政務調査費を使用して調査する主体は議員個人ではなく会派である旨を定めている。

このように,本件条例においては,政務調査費の交付の対象はあくまで会派であって議員ではない以上,会派と議員を混同させ,交付先を会派としつつ,実際には議員個人に好きなように使わせることを肯定するような裁量は認められない。

(イ) 調査研究を会派が行ったと言えるためには,以下の各要件を具備することが必要である。

a 当該調査と市政との関連性及び必要性について,会派として意思統一が図られ,会派から調査研究を担当する議員に対し,指示が出されること

b 会派からの要請にこたえる内容を記載した報告書の提出

c 会派内に分野別に報告書をまとめたファイルを備え置き,調査によって得られた情報を内部蓄積し,関係議員がそれを閲覧して活用でき,aの事前審査にも役立てられるような仕組みが作られていること

d 会派としてのその後の活動に役立てられたこと

なお,1審被告,参加人民主・市民ネット及び参加人公明党は,会派の構成員が議員であり,議員の独立性や裁量権から,会派の承認の下に,当該会派に所属する議員が個別に行う調査研究活動も,会派としての調査研究活動に該当すると主張するが,それでは代表者の承認さえ得られれば支出可能となってしまい,議員個人の使途基準適合性の判断により,会派が責任を負うことになりかねず,責任の主体が分離してしまい相当ではない。

また,代表者のチェックも全く不十分である。

(ウ) そして,函館市議会の各会派においては,当該調査と市政との関連性及び必要性の判断を最初から完全に議員個人に委ねており,会派としての事前審査を一切行っていないため,各議員がそれぞれ市政と関連があり有益であると思った調査・研究を繰り返し,歳費によって賄うべき研究との区別はおろか私的な観光旅行等との区別も消滅してしまったのである。その結果,会派に提出される報告書は,同僚議員が読んでも全く参考にならないものであり,情報の共有化も図られない。

したがって,本件各支出に係る調査研究はいずれも上記(イ)の各要件を欠き,会派が行ったものとは言えないから,本件各支出はいずれも本件使途基準に反して違法であると言うべきである。

イ カラ出張の疑いがある支出について

C3議員(以下「C3議員」という。)の東京都への出張及びC4議員(以下「C4議員」という。)の金沢市への出張は,いずれもカラ出張である疑いが強いから,上記各出張に際して支出された政務調査費(番号4及び5の各支出)は本件使途基準に違反して違法であると言うべきである。

(ア) 番号4の支出

C3議員の平成13年5月30日から同月31日までの東京都への出張はカラ出張の疑いが強い。その理由は以下のとおりである。

a C3議員は,上記出張のきっかけとなった総理府の担当者が誰か,また,その人から紹介を受けた東京都の担当者が誰か,について覚えていないし,それらの担当者の名刺もない旨を証言しているが,本件監査請求が行われるわずか1年半前に,わざわざ総理府まで行って面会した担当者及びその担当者から紹介を受けて事前連絡を取って訪れた東京都の担当者の名前を忘れて思い出せないというのは,不自然極まりない。

b 上記出張の目的は,函館市の防災計画と東京都の防災計画の比較検討にあるとされるが,C3議員は,函館市と東京都の防災計画の相違点は,防災センターの有無と規模の2点であり,他は覚えていないなどと述べるにとどまり,東京都の担当者から受けた説明の内容について具体的に述べておらず,結局,東京都の何がどのように参考になったかについて不明確で抽象的な報告しかされていない。

c C3議員は,出張先で受領した資料を紛失した旨を証言するが,実際に出張して調査したのであれば,受領した資料は必ず保管しているはずである。

d C3議員は,函館市議会において東京都への上記出張を前提とした質問を全くしていない。

e C3議員は,出張先で宿泊したホテル名を記憶していないが,これは極めて不自然である。

(イ) 番号5の支出

C4議員の平成13年10月14日から同月16日までの石川県金沢市への出張も,カラ出張の疑いが強い。その理由は以下のとおりである。

a C4議員は,金沢市議会事務局担当者から金沢市内において運行されている「金沢ふらっとバス」(以下「ふらっとバス」という。)の運行方法等について説明を受けた旨述べているが,金沢市議会事務局担当者は,そのようなことを説明できる立場にはない。ふらっとバスについて詳しく知りたければ,金沢市議会事務局を通じて金沢市都市政策部交通政策課を訪ねなければならず,そのことを熟知している金沢市議会事務局が上記交通政策課の担当者を呼ばないで自ら説明するということはあり得ない。

b C4議員は,金沢市議会事務局担当者の名刺を持っていないし,その名前もメモしておらず,覚えていない。さらに,C4議員の再調査によっても,対応者は不明であったなどと不合理な答弁をしている。なお,金沢市議会事務局は,1審原告ら代理人からの問い合わせに対し,C4議員の訪問の有無は確認できなかった旨を回答している。

c C4議員は,金沢市議会事務局に対し,行政視察依頼書等の文書を提出して事前の連絡を取っていない。市議会議員が公務で調査のため出張するに際し,調査先に対し,いつどのような目的で調査に行くのかを事前に文書で依頼しないことなどあり得ない。

d C4議員は,金沢市議会事務局担当者からふらっとバスの収支状況等に関する資料は公表しておらず存在しない旨の回答を得たと証言しているが,1審原告らの調査によれば,議員の身分のない者であっても金沢市議会事務局担当者に会ってふらっとバスの収支内容,運行状況等が記載された資料を入手することができたのであり,C4議員が「資料がない」旨の説明を受けたとは考え難い。

e C4議員は,ふらっとバスが導入された経緯,運行状況,運行収支,費用負担状況,利用者からの反応等について聴き取った内容を具体的に報告していない。

f C4議員がふらっとバスに関心を持っていたのであれば,同じ会派のC3議員が平成13年4月14日から同月17日までの間に小浜市,輪島市及び金沢市に出張した際に,同議員に調査を依頼することが十分可能であった。同じ年に同一会派の議員が二度金沢市に調査に行くこと自体不自然である。

g C4議員は,出張先で宿泊したホテル名について記憶にない旨証言するが,本件監査請求が行われるわずか1年前のことで2泊もしたホテルの名前を忘れることなどあり得ない。1審原告らが金沢駅付近に所在するホテル8軒に対して照会した結果によっても,C4議員の宿泊の事実は確認されていない。

ウ 本件各支出に係る調査研究に公益性がない点について

政務調査費を使用した調査出張に公益性があると言えるためには,①普通地方公共団体の施策等についての見聞を広めることを目的として日程,訪問地が選定されていること,②上記目的に沿って訪問調査が実施されていること,③訪問先で中味のある説明や質疑応答がされていること,④訪問調査が行程の主要な部分を占めていること,⑤旅行の費用が目的・効果との関係で著しく高額ではないこと,という各要件を満たしていなければならない。特に,上記①ないし③の各要件が重要であり,言い換えれば,調査の目的及び内容が市政との関連性を有していることが必要である。

しかし,本件各支出に係る調査研究は,以下に述べるとおり,いずれも上記①ないし③の各要件を満たしておらず,公益性を有していないから,本件各支出は本件使途基準に違反して違法であると言うべきである。

(ア) 番号1,2の支出

C5議員(以下「C5議員」という。)は,平成14年2月7日から同月9日まで東京都において開催された研修会に参加した後,いったん函館に帰還し,同日から同月11日までの間,再び東京に出張してシンポジウムに参加したとして,その旅費を政務調査費から受領している。

しかし,前後の日に東京において予定が入っている場合に,間の1日が非用務日であるからといって,いったん函館に帰還し,その日のうちに東京に戻る理由も必要性も存在しないし,C5議員が平成14年2月9日に東京・函館間を往復したことを裏付ける証拠は存在しない。したがって,C5議員は,実際には平成14年2月9日に東京・函館間を往復していないものと言うべきである。

仮に,東京・函館間を往復した事実があるとしても,公務ではないわずか2時間の美原町会三役会議に出席するために多額の公金を支出して東京・函館間を往復するのは論外である。

よって,東京・函館間を飛行機で往復するために政務調査費から支出した費用4万5900円は返還すべきである。

(イ) 番号3の支出

C3議員は,平成13年4月14日から同月17日までの間,福井県小浜市,石川県金沢市及び輪島市に出張している。

しかし,C3議員は,小浜市に出張した目的について,函館の魚市場について上屋の建設等に関する協議がされていたことから,小浜市の魚市場を調査した旨述べるが,これはC3議員が会派に提出した報告書に記載されている調査事項とは異なっており,しかも,当時函館市においては新しい市場の建設計画が進んでいたというのであり,上屋を増設する必要性はなかったはずである。また,C3議員は,小浜市の魚市場の関係者から上屋建設の費用や効果等について説明を受けたり,魚市場の上屋を写真撮影することもなく,単に魚市場の外観を見たにすぎない。さらに,C3議員が小浜市に出張した際に利用した飛行機及びJRの時刻,宿泊したホテルから推測して,移動経路が,いったん逆方向の金沢駅へ向かい,接続時間も少ないなど不合理であり,C3議員が小浜市に行ったこと自体,極めて疑わしく,C3議員は小松空港から小浜市には行かず,加賀市内のホテルに直行した疑いが強い。

また,C3議員は,函館市の朝市に関する問題の解決策を探すために輪島市の朝市に調査に赴いたと言うが,同朝市の関係者から説明を受けたり,同朝市と輪島市の行政当局との関わりを調査することもなく,同朝市を見て回り,買った品物とそれに伴い送られた品物とが同一であることを確認したにすぎない。

金沢市においても,行政担当者からの聴取等を行わずに,再開発事業の調査と称して再開発ビルに入居している喫茶店の店主と雑談したり,武家屋敷の整備の調査と称してトイレや案内板を見て歩いたにすぎない。

以上によれば,C3議員による小浜市,輪島市及び金沢市への出張は,観光旅行を調査出張に見せかけたものであり,公益性は全くないと言うべきである。

(ウ) 番号4の支出

C3議員が,平成13年5月30日から同月31日にかけて東京都へ出張したことが認められるとしても,上記イ(ア)のとおり,C3議員は面会した東京都の担当者の氏名すら覚えておらず,東京都の防災計画が函館市の防災計画にどのように役立つかについて具体的に報告していないことなどに照らせば,上記出張について函館市政との関連性は認められず,公益性はないものと言うべきである。

(エ) 番号5の支出

C4議員が,平成13年10月14日から同月16日にかけて金沢市へ出張したことが認められるとしても,C4議員は,ふらっとバスの運行を企画した金沢市都市政策部交通政策課及び運行主体である北陸鉄道の各担当者とも面談せずに,単に同バスに乗車したにすぎないものであり,これで調査の目的を達することができたとは到底考えられない。したがって,上記出張について函館市政との関連性は認められず,公益性はないものと言うべきである。

(オ) 番号6の支出

C6議員(以下「C6議員」という。)及びC4議員は,平成13年11月12日から同月16日までの間,鹿児島市,山口市及び富士宮市に出張している。

しかし,鹿児島市においては,函館市の課題である廃棄物処理問題等の環境行政の検討のために,鹿児島市の市街地整備や廃棄物処分場を視察したと言うが,提出された資料を見ても同処分場の所在地,規模,機能,運営方法等は明らかではなく,これでは調査の目的を果たしたとは言えない。富士宮市における日本語学校の視察も函館市政との関連性が希薄である。

また,山口大学を訪問した目的は,I学長(以下「I学長」という。)への表敬訪問であり,鹿児島まで来たついでに顔を出しておこうという程度にすぎないのであるから,明らかに政務調査費の目的外の出張である。しかも,事前連絡もせずに訪問して結局面会できなかったのであるから,調査として無駄と言うほかない。

以上によれば,上記出張について函館市政との関連性は認められず,公益性はないものと言うべきである。仮に,鹿児島市及び富士宮市への出張に公益性が認められるとしても,少なくとも山口大学を訪問したことに伴い増加した調査旅費(1泊分の宿泊費)は目的外支出である。

(カ) 番号7の支出

C7議員(以下「C7議員」という。)は,平成13年5月21日から同月24日までの間,東京都に出張し,「目黒寄生虫館」(以下「寄生虫館」という。),「谷内田デザイン研究所」(以下「デザイン研究所」という。)及び「晴海アイランド トリトンスクエア」(以下「トリトンスクエア」という。)を視察している。

しかし,C7議員は,珍しいなどという理由で視察の対象に寄生虫館を選定し,寄生虫館の職員等から説明を受けることもなく,その後,博物館の調査をしたことも函館市における博物館の建設について何らかの提言等をしたこともないことなどからすれば,寄生虫館の視察は個人的趣味のための視察であり,公益性は全くない。

C7議員が,市会議員になってから博物館に着目し,これまで国内方々の博物館を視察して,調査研究を重ねてきたことは聞いたことはなく,それをまとめた報告書や提言書も見たことはない。

また,デザイン研究所及びトリトンスクエアの視察についても,当時函館市においてトリトンスクエアのような大規模な開発計画はなく,構想としても必要性がなかったこと,C7議員は,大規模な開発計画について調査研究の成果品を作成したことはないこと,その後,同種の開発の現場を調査したことはないこと,トリトンスクエアを引き合いに出して議会において質問したことはないこと,カメラを持って行かなかったことなどからすれば,函館市政との関連性は全く認められない。

なお,上記出張には2日あれば十分であるから,仮に公益性が認められるとしても,同月23日及び24日の宿泊費分は本件使途基準に違反する支出と言わざるを得ない。

(キ) 番号8の支出

C7議員は,平成13年10月20日から同月21日までの間,札幌市に出張し,札幌ドーム及び「平山郁夫展」を視察している。

しかし,上記視察の際に札幌ドームではイベントは開催されていなかった上,そもそもC7議員はイベントの開催の有無について事前調査をしていないこと,札幌ドームの運営及び管理について関係者から調査していないこと,札幌ドームの調査を市政に役立てたことはないし,その後,同種施設を調査したこともないことなどからすれば,函館市政との関連性は全くない。

また,「平山郁夫展」の視察は,完全に趣味の領域であり,やはり函館市政との関連性は全くない。

(ク) 番号9,10の支出

C7議員は,平成14年1月20日から同月21日までの間,札幌市に出張して「『住宅のル・コルビュジェ 全プロジェクト模型』札幌巡回展」(以下「ル・コルビュジェ展」という。)を視察しているが,この視察も,結局,目下の函館市の課題とは何の関係もない調査であったのであり,函館市政との具体的関連性はなく,個人的な興味を満足させるものでしかない。

(ケ) 番号11の支出

C7議員は,平成14年3月3日,廣瀬量平氏の作曲にかかる楽曲等が録音されたCDを購入しているが,このようなCDを購入することは,個人的な趣味の範疇に属するものであり,函館市政との関連性は認められない。

音楽CDを聞いたり,絵画の展覧会巡りをしたり,その絵を購入することは,あくまで本人のためのものであり,それが即座に文化芸術振興に結び付くとするには無理があり,政務調査費の中の「資料購入費」は函館市政に直接結び付くものに限定すべきである。

(コ) 番号12の支出

C8議員(以下「C8議員」という。)は,平成13年4月13日,全日本司厨士協会函館支部主催の「食の祭典」に参加しているが,これは1万円もの会費を支払って料理を食べる催し(懇親会)であるから,政務調査費の使途として不適正であり,私費で参加すべきものであって,政務調査費の中の「研究研修費」と認めるべきでない。

(サ) 番号13の支出

参加人C1は,平成13年4月30日から同年5月2日までの間,東京都に出張し,品川区に所在する戸越銀座商店街及び「船の科学館」に展示されている「旧青函連絡船羊蹄丸」(以下「羊蹄丸」という。)を視察している。

しかし,参加人C1は,戸越銀座商店街に対して東京都から補助金が出されているかといった同商店街と行政との関係について何ら調査をしていないこと,羊蹄丸の視察についても,上記科学館の経営に携わる者等と面談して同科学館の経営状況,羊蹄丸を展示した理由等について説明を受けたことはなく,見学者の一人として案内人から多少話を聞いたにすぎないことなどからすれば,上記各視察も函館市政との関連性はないものと言うべきである。

なお,上記各視察には1日あれば十分であり,宿泊費1泊分の支出は無駄である。

(シ) 番号14の支出

参加人C1は,平成13年9月22日から同月24日までの間,釧路市の漁港調査及び旭川市の観光調査のため出張している。

しかし,参加人C1は,釧路漁港の調査の目的について,サンマ船が漁獲したサンマの鮮度を保持して運搬する技術を調べるためであると主張するが,その種のことはサンマ船の船主が工夫すれば済むことであり,函館市政とは何の関連性もない。しかも,調査当日は休漁であったというが,そのようなことは事前に調査すれば分かるのに,漁港の関係者等に事前連絡をしないまま釧路漁港を視察し,もう1泊するなどして初期の目的を達成することもなく,目的を変えて「MOO」の視察に切り替えているのであり,このような調査で効果的な調査などできるはずがない。また,旭川市の観光調査も,3経路の観光用の循環バスに乗車したにすぎず,まさに観光そのものである。函館発着の航空便の搭乗率については,実際に搭乗しなくても調査が可能であるし,搭乗したからといって搭乗率が分かるわけではない。

これらの事情からすれば,参加人C1は釧路市及び旭川市への観光旅行について,後から視察の名目で政務調査費として費用を請求したものと考えられ,函館市政との関連性は全く認められない。

(ス) 番号15,16の支出

C9議員(以下「C9議員」という。)は,平成13年8月22日から同月24日までの間,福島県いわき市及び須賀川市に出張し,いわき市に所在する展望台「マリンタワー」及び須賀川市で開催された「うつくしま未来博」を視察している。しかし,C9議員とともに視察したとされる他の3名の議員は,政務調査費を使用せず自費で視察しており,一貫性がなく不可解であり,他の3名とはC9議員の家族であったのではないか,懇親旅行だったのではないかとの疑惑も残る。したがって,番号15及び16の各支出も違法であると言うべきである。

(セ) 番号17,18の支出

C2議員は,平成13年5月11日に英会話教材「英語スピードラーニング」を,同月6日に上記教材を利用するための機器であるCDプレーヤーを,それぞれ購入しているが,自らの資質向上のために研修,研さんに努めることは,自己の負担で行うべきであり,公費である政務調査費を使用することは許されない。また,CDプレーヤーは,汎用性があり,英会話の習得にしか利用できないものではない。

よって,これらの支出も公益性を欠くものと言うべきである。

エ 以上のとおり,本件各支出はいずれも本件使途基準に反して違法であるから,本件各会派は,一覧表の請求金額欄記載のとおり,それぞれ各支出相当額(ただし,番号1及び2の各支出については,その支出金額の合計のうち東京・函館間を往復した交通費相当額である4万5900円,番号15及び16の各支出については,それぞれC9議員を除く3名分の入場料相当額である960円及び9000円)を不当利得として1審被告に返還すべき義務がある。

(1審被告の主張)

ア 政務調査費は,平成12年法律第89号による法の一部改正によって制度化されたものである。これは,いわゆる地方分権一括法の制定に伴い法の改正等がなされ,地方公共団体の自己決定権及び自己責任が拡大する中,その議会が担う役割がますます重要となっていることから,地方議会議員の調査活動基盤の充実を図るため,議会における会派又は議員に対する調査研究費の助成を制度化したものであるが,その趣旨は,議員の調査研究活動の基盤の強化を目的とするものであって,会派のそれを目的とするものではなく,政務調査費の交付先が議員でなく,会派とされる場合であっても,変わりがないことは,法100条12項(当時)が,「議会の議員の調査研究に資するため」としている以上明らかである。そして,政務調査費の交付先が会派とされるのは,議員の調査研究活動の基盤強化の言わば手段にすぎないのであって,本件使途基準の定める「会派が行う調査研究」等の意義,内容については,そのことを前提としてこれを解釈すべきである。

また,地方公共団体の議会及び議員は,その活動について原則として他から干渉されないという独立性が保障されなければならず,政務調査費による調査研究活動は,議員の意向が最大限尊重されるべきである。そして,議員の職業,経歴,社会経験,興味,得意分野,性別,年代などはそれぞれ異なるのであり,それぞれの議員が異なる視点から調査研究することは政務調査費の調査研究の活性化にとってきわめて有意義である。現代の議会においては,会派が存在し,議員の意見は会派を単位として集約され,議会活動が行われるなど,会派が重要な役割を担っていることからすれば,会派の独立性も尊重されなければならないが,一方,会派が,議員の調査研究に対し,議員を会派の手足のごとく扱い,指示を出すことは相当ではない。そして,同一会派に属する議員であるとしても,個々の議員の自主性,独立性が尊重されなければならないことは,地方自治法,ひいては憲法上の要請であり,会派が,政務調査,研究を実際に行い,担う議員に対し,事細かに口出しするのは相当ではない。

さらに,地方公共団体の行う施策及び事業は広範多岐にわたり,これに伴い,議員及び会派の市政に関する調査研究事項も広範多岐にわたる。そして,議員及び会派が積極的に政策を提言,提案することが期待されていることからすれば,その調査研究事項は,地方公共団体が現に自ら取り組み,あるいは取り組もうとしている施策,事業に限らず,いまだ取り組むに至っていない事項,当該地方公共団体に所在する地域における民間の事業や他の都市の事例に関する事項にも及ぶものと言うべきである。また,結果的に,調査研究事項が地方公共団体の施策,事業に直ちに結び付かなかったとしても,その調査研究事項としての適格性が否定されるべきではない。

それゆえ,政務調査費の使途については,地方公共団体ないし議会の議員の個別,具体的な政治課題に直接的関連性を有する事項の調査研究活動に限られる必要はなく,当該地方公共団体の議会の議員としての政治活動全般に必要な知識を得るための調査研究活動に使用されるものでも何ら差し支えなく,調査研究のために有益な費用もこれに含まれるのである。

このような政務調査費が制度化された趣旨や地方公共団体における議会,議員及び会派の独立性の保障の観点からすれば,政務調査費については,会派及びこれに所属する議員に,その支出(使用)についての広範な裁量権が認められるべきである。このことは,政務調査費の収支報告書の提出先が市長ではなく議会議長とされていること(法100条13項(当時),本件条例6条)にも表れている。

そうであれば,1審被告は,原則として会派及び議員による政務調査費の支出についての裁量権を尊重すべきであり,調査研究の目的,その目的との関係における合理性,必要性を広く解し,明らかに使途基準に反して使用したと認められる場合でなければ,その返還を命じるのは相当ではない。

イ 会派は,その所属議員によって構成され,会派の活動は具体的には所属議員の行動によることとなるが,いかなる所属議員の行動をもって会派の活動とするかについては,基本的にその会派に任せられるべきものである。すなわち,会派が,所属議員の調査研究活動について,これを会派の活動とする旨を承認し,これに基づき,当該所属議員に対して当該調査研究活動に必要な金員を政務調査費から交付していれば,「会派の活動」と認めるに支障はなく,あとは当該調査研究活動における上記金員の使用が本件使途基準を逸脱していないかをチェックすれば足りると考えられる。

ウ 1審原告が前記で(2)ア(イ)主張する4要件についても,本件各支出は,以下のとおりその要件を満たしている。

(ア) 会派としての意思の統一,指示については,①参加人公明党に係る番号7ないし11の各支出は,下記の参加人公明党の主張欄に記載のとおり,所属議員で事前の打合せを行っており,会派の調査研究活動とすることを承認していることが明らかであり,②新緑クラブに係る番号15及び16の各支出は,同クラブの所属議員全員が調査研究に参加しており,会派としての意思統一が図られていることは明らかであり,③市民クラブに係る番号17及び18の各支出は,1人会派であるから会派としての意思統一は問題にならず,④参加人民主・市民ネットに係る番号1ないし6,市政クラブに係る番号12及び13並びに新政21に係る番号14の各支出は,具体的な調査研究活動ごとに,その活動内容及びこれに必要な政務調査費からの支出を求める金額を会派に申請し,会派代表者及び経理責任者からその活動内容及び金額の承認を得た上で,経理責任者からその金員の交付を受けており,会派代表者及び経理責任者は,その承認権限に基づき,会派として,申請した議員との間で,具体的な調査研究の内容の検討,チェックを行ったのであり,いずれも,会派としての意思統一,指示があったと言える。

(イ) 報告書の提出については,番号1ないし10及び13ないし16の調査研究については,いずれも,調査研究後間もなく報告書が提出され,番号11,17及び18については,物品購入費であり,領収書を添付した支出伝票が提出され,物品の受領があり,各会派に保管されていることから,報告書の提出は意味をなさない。

(ウ) 報告書の保管,閲覧,活用についても,各報告書は,ファイルにまとめられて,議会内の各会派控室に備え置かれ,当該会派に所属する議員は随時これを閲覧できることとなっていた。

(エ) 政務調査費による調査研究が会派のその後の活動に役立てられたことについては,調査研究又は研修について,その結果及び成果がいずれも,函館市の施策に関連するものであり,会派内での討議に取り上げた上(ただし,1人会派である市民クラブを除く。),会派として議会で質疑に取り上げており,会派としての政策の提言に取り入れているのであって,会派としての活動に役立っていると評価することができる。

エ 本件各支出は,函館市の定める「函館市総合計画」の主要施策と関連性を有する上,以下に述べるような事情からすれば,番号3ないし10,13及び14の各支出は「調査旅費」,番号1,2,12,15ないし18の各支出は「研究研修費」,番号11の支出は「資料購入費」に当たり,いずれも本件使途基準に違反しないと言うべきである。

(ア) 番号1,2の支出

C5議員は,平成14年2月9日に開催された美原町会三役会議に出席するため,東京・函館間を往復する必要があったことからすれば,上記往復に要した航空運賃分は研究研修費として相当である。

(イ) 番号3の支出

C3議員は,函館市と類似した水産都市である小浜市において水産物市場の上屋を視察し,函館市において建設が検討されている市場上屋の参考となった。また,函館市と同様に観光都市である輪島市において朝市を,金沢市において商店街再開発,街並み等を視察し,函館市の街作りの参考となった。

(ウ) 番号4の支出

C3議員は,かつて総理府の担当者から,東京都の防災計画の調査が有益である旨の指摘を受けたことから,函館市の防災計画と東京都の防災計画を比較検討するため,東京都総務局災害対策部防災計画課を訪問し,防災計画及び災害対策本部を調査した。

(エ) 番号5の支出

C4議員は,新しい時代の都市機能及び街作りの検討のため,高次都市機能を目指し,人・町・環境に優しい街作りの交通施策である「金沢オムニバスタウン構想」の重点施策として導入された「ふらっとバス」を視察した。現地で同バスに乗車し,運行状況をつぶさに視察することに意義があった。

(オ) 番号6の支出

C6議員及びC4議員は,函館市の課題である廃棄物処理問題を中心とする環境行政の検討のため,鹿児島市において市街地整備や大規模な廃棄物最終処分場を,公立はこだて未来大学(以下「はこだて未来大学」という。)の検討のため,山口市の山口大学を,国際交流の検討のため,富士宮市の中国人日本語学校(ACC国際交流学園)を,それぞれ視察した。山口大学のI学長と面談できなかったこと及び富士宮市議会を訪問できなかったことで,視察の意義が失われるわけではない。

(カ) 番号7の支出

C7議員は,博物館の改革が函館市の社会教育施設整備計画に位置付けられ,また,ウォーターフロント開発も函館市の重要課題であることから,東京都内の寄生虫館並びにウォーターフロント開発の先進例であるトリトンスクエア及びその開発計画を作成したデザイン研究所を視察した。上記各視察に2日を要し,航空便の都合で東京における前後泊が必要となったため,3泊を要したものである。

観光は,函館市の基幹産業であり,博物館は,観光の重要な資源であるところ,C7議員は,議員になって以来,国内方々の150を超える博物館を視察し,調査研究を重ねてきた議員であり,特に寄生虫館の展示物が特異であり,数少ない民営であることなどに着目して視察を行ったものであって,トリトンスクエアも,その発想,主題等のコンセプトが函館市にも参考になるものである。

C7議員は,上記視察後,参加人公明党の団会議で,視察内容を報告し,会派内で討議し,共有化し,これに基づき,参加人公明党所属議員は議会で質疑を行った。

(キ) 番号8の支出

C7議員は,函館市の市政上,大規模なイベントホールの建設が大きな論争点となっていることから,その検討に資するため,大規模アリーナである札幌ドームにおけるアリーナの管理及びイベント運営の実際を視察した。

C7議員は,上記視察後,参加人公明党の団会議で,視察内容を報告し,会派内で討議し,共有化し,これに基づき,参加人公明党所属議員は議会で多数回にわたって質疑を行った。

(ク) 番号9,10の支出

函館市においては,都市景観の形成が重要な課題になっているところ,伝統的建物の保全は,重要な施策であり,伝統的建物群とそれからなる歴史的街並みの景観は,函館市の基幹産業である観光の重要な資源である。そして,C7議員が視察したル・コルビュジェ展は,20世紀を代表する建築家であるル・コルビュジェ氏が設計した住宅の模型を展示した展覧会である。C7議員は,伝統的建物と新しいデザインの建物が融合して新たな価値が付加されることについて関心を持ち,ル・コルビュジェ展が,函館市の施策,課題にとって参考になると考えて,同展覧会を視察し,函館市における同展覧会の開催を検討するため,主催者関係者と話をし,函館での同展覧会の交渉相手となる管理者を確認するまでした。ル・コルビュジェ展は,北海道大学で開催され,観光客等一般の人が多く集来するものではなく,個人的な見学とは異なるものである。

C7議員は,上記視察後,参加人公明党の団会議で,視察内容を報告し,会派内で討議し,共有化し,これに基づき,参加人公明党所属議員は議会で多数回にわたって質疑を行った。

(ケ) 番号11の支出

廣瀬量平氏は,函館出身で「はこだて賛歌」を作曲するなどした著名な音楽家であり,度々函館において同氏のコンサート等のイベントが開催されているところ,C7議員は,廣瀬量平氏を中心とするイベント等について考えるべく,同氏の作にかかる楽曲を理解し検討するため,その楽曲が収録されたCDを購入した。

(コ) 番号12の支出

函館市民の食生活を通じた健康作りや函館市における食文化の向上は,函館市における政策課題であるところ,全日本司厨士協会函館支部は,毎年食文化の研究発表会である大会を開催しており,C8議員が参加した「食の祭典」も,在札幌カナダ領事,市立函館保健所長も参加するものであって,その内容は市立函館保健所が課題として取り組んでいる政策「健康はこだて21」に関して参考となるものであり,輸入食品の活用と安全性等について参加者や主催者との意見交換がなされ,今後の食生活を考える上で資するものであったし,高額とも言えない。

(サ) 番号13の支出

参加人C1は,函館市における商店街の活性化の参考とするため,成功例として著名な東京都品川区に所在する戸越銀座商店街を視察し,商店主及び買物客から意見を聴取した。また,函館シーポートプラザに係留中の「旧青函連絡船摩周丸」(以下「摩周丸」という。)の保存・活用は函館市の大きな課題であることから,「船の科学館」に展示されている羊蹄丸を視察した。なお,ゴールデンウィーク中に視察したのは,その間の商店街への人出及びこれに対する商店街の対応を視察するためである。

(シ) 番号14の支出

参加人C1は,函館市の基幹産業である漁業との関係で,釧路におけるサンマ漁,特に漁獲魚の鮮度をいかに保つかを,ウォーターフロント再開発に関連して,経営破綻状態で摩周丸の函館市による買取りが検討されていた函館シーポートプラザとの関係で,同様の状態で釧路市が買取りをしたウォーターフロント観光施設「MOO」や観光施設としての和商市場の状況を,函館市の基幹産業である観光や水族館計画との関係で,旭川市の観光の現状,特に観光循環バス,木工展示場及び旭山動物園を,それぞれ視察した。釧路のサンマ漁は,生産調整のため突然休漁となったため視察は果たせなかったが,それによって,この視察旅行の妥当性が損なわれるものではない。

(ス) 番号15,16の支出

新緑クラブに所属するC9議員及びその他の3名の議員は,ウォーターフロント開発及び観光振興が函館市の重要課題であることから,いわき市の小名浜港近くに所在し,福島県が設置して財団法人が管理している海洋科学館「アクアマリンふくしま」及び市が設置して第三セクターが管理している展望台「マリンタワー」を視察し,また,観光振興の観点から,福島県が主催し,須賀川市が協力して開催された博覧会「うつくしま未来博」を視察した。

(セ) 番号17,18の支出

C2議員は,函館市においては,カナダのハリファックス市,オーストラリアのレイク・マコーリー市,ロシアのウラジオストク市及びユジノサハリンスク市と姉妹都市,中国の天津市と友好交流都市の関係にあるなど国際交流が市政上の重要課題であり,初当選以来その推進を提言し,自らも議員の立場でウラジオストク市やユジノサハリンスク市を訪問してきており,その際,国際交流に英語が有用であることを知ったことから,市議会議員としても資質向上のため英会話研修の必要があると考え,その教材及び機器を購入した。

これらの物品の購入費は,研究研修費に該当すると考えるべきであり,1人会派を認めていることからすれば,議員1人が行う研究研修活動もこれに含まれると解すべきである。また仮に,そうでないとしても,資料購入費として認められるべきである。

(参加人民主・市民ネットの主張)

ア 地方議会議員の調査活動は,広範多岐にわたるものであり,議員の政治活動の自由の一環として,他から干渉されない独立性が保障されるべきである。したがって,政務調査費を利用した調査研究活動が公益性を有する必要があることは当然であるとしても,何をどのような角度で調査研究するかについては原則として束縛されるものではなく,議員個人の自由裁量に委ねられるべきである。

イ 会派とは,政策や考え方がすべて共通する議員によって形成されているものではなく,おおむね同様の考え方を有する議員がその政策の実現に向けて集合しているものであって,課題によっては意見の違う場合もあるのであり,選挙に立候補するに当たっても,各自の市政に関する考えを市民に訴え,当選後はその実現に向けて努力している。

そして,函館市議会は,政務調査費の交付先を議員とすることや会派とすることの利点,難点等を比較勘案し,政務調査費の執行を会派の総体の意思決定で行うことのほか,会派の方針として,会派代表者が認めるものであれば,所属議員の自主性を尊重して行うこととすることも,各会派の自主的判断によるもののとして,交付先を会派とした。

そこで,参加人民主・市民ネットは,その所属議員が行う調査研究について,会派として調査の必要性を判断し,その範囲を狭めることは個々の議員の政治活動の自由を阻害することにつながるものと考え,政務調査費の使途基準に違反しない範囲において幅広く認めることとし,各所属議員から個別に申請がなされ,代表者が承認した調査研究活動について,「会派が行う調査研究」としている。

さらに,平成13年当時の各会派においては,その所属議員による会派の統一的な意思に基づかない調査研究活動についても承認して政務調査費を支給していたから,本件条例5条及び6条が,政務調査費の使途を,会派内で意思統一が図られた調査研究活動に限定する趣旨であるとは解されず,会派が主体になって行う調査研究に加え,会派の承認の下に,当該会派に所属する議員が個別に行う調査研究活動も,「会派が行う調査研究」に含まれると言うべきである。

ウ 参加人民主・市民ネットが,番号1ないし6の各支出に係る各出張に政務調査費を支出したことは,以下のような各視察の目的,態様等に照らせば,本件使途基準に違反しない。

(ア) 番号1,2の支出について

C5議員は,当初から非用務日は函館に帰還すべきであると認識していたこと,同じ参加人民主・市民ネットに所属するC10議員からも,非用務日は函館に帰らなければならないと助言されていたこと,旅費の計算において議会事務局から特に問題があるとの指摘がされなかったこと等から,用務のない日は函館に帰るべきであると考えて帰ったにすぎない。そして,当時,非用務日に関する条例等の定めは特に存在しなかったことに照らしても,C5議員が非用務日である平成14年2月9日にいったん函館に帰還したことが誤りであるとは言えない。

(イ) 番号3の支出について

C3議員は,函館市の水産物卸売市場の設備について改善を求める要望があったことから,金沢市等への出張の際に,福井県小浜市の魚市場をも視察日程に入れることとし,平成13年4月14日午後3時30分ころから午後4時30分ころまで約1時間,上記魚市場の施設内部やその周辺の仲卸の建物,配送センター等を見て回った。

また,C3議員は,函館市の観光行政や再開発事業の参考とするため,北陸地方の観光地として名高く再開発事業で商店街が整備された金沢市を視察することとし,事前に金沢市の再開発事業等に関する資料を入手して内容を調査した上,実際に現地に行って,商店街や武家屋敷等の歴史的建造物を視察した。

さらに,C3議員は,函館市の朝市は観光客からの苦情が絶えない状況にあることから,他の朝市の実態を調査して比較対照し,対策を検討するため,輪島市の朝市を視察することとし,同朝市を端から端まで歩きながら状況を調査し,商店主から話を聞くなどした。

(ウ) 番号4の支出について

C3議員は,函館市の防災計画の参考にするため,平成13年5月30日及び同月31日に東京都に出張し,事前に連絡を取っていた東京都総務局災害対策部災害対策課の担当職員と面談して東京都の防災計画全般等について説明を受け,その後,都庁8階の防災センターを視察し,説明を受けるなどした。

(エ) 番号5の支出について

C4議員は,従前から交通事業について調査研究を行っていたところ,金沢市の交通施策である「金沢オムニバスタウン構想」の重点施策として導入された「ふらっとバス」の収支状況,運行状況等について調査し,函館市においても同様の交通機関を導入することの可能性等について検討するため,平成13年10月14日から同月16日にかけて金沢市に出張し,金沢市議会事務局から「ふらっとバス」の導入の経緯や収支状況の概要等について説明を受けたり,実際に「ふらっとバス」に乗車したり,アーケード街で「ふらっとバス」の利用者の声や反応を聴取するなどした。

なお,1審原告らは,その提出証拠について,証人尋問後に提出されたことをもって信用性がない旨主張するが,そもそも,1審原告らは,当初,視察旅行の不存在までは主張しないとしていたため,視察旅行の存在自体についての証拠の発見,収集に差し迫った必要を感じず,提出しなかったにすぎない。

まず,報告書については,平成13年当時の各会派の申合せで,写真や資料,対応した職員の名刺の添付や宿泊ホテル名の報告書への記述は義務付けされておらず,後にカラ出張の疑いを掛けられ,現地に赴き調査したものであるが,金沢市議会事務局では,C4議員と面接した職員の特定はできなかったものの,議会事務局職員でもおおまかな説明をできる旨回答を得ており,面接担当者の氏名が明らかでないことや独断的に議会事務局職員が「ふらっとバス」について説明できないと決め付けて,C4議員が調査に行っていないと判断することは誤りである。また,パンフレット等も,そのコピーを会派に提出しており,その資料は,書証として提出しているのであって,後から作成等したものではない。

C4議員は,もともと函館市交通局に勤務し,交通事業に長年従事していたため,交通事業を最大の研究課題としていたところ,交通事業の民間移管問題と市民の足の確保は会派内で大きな課題とされており,C4議員が調査研究するのが適任であったのであり,観光目的であったなどということはない。

(オ) 番号6の支出について

C6議員は,鹿児島市の街作り等について調査するため,鹿児島市に出張して,鹿児島市役所を訪問したり同市内を視察するなどし,また,函館市の国際交流事業を深め,日本語学校の建設等を検討するため,富士宮市に所在し,通訳等として面識のあった中国人が勤務する日本語学校を視察した。さらに,上記視察の行程の途中で,はこだて未来大学発足の推進役となるなど函館市の教育文化の発展と関わりの深いI学長を表敬訪問し,はこだて未来大学等への今後の支援を依頼しようと考え,山口大学を訪れた。C4議員も上記各視察に関心を示して同行することとなった。

結果として,I学長が不在で面会できなかったからといって,上記出張が無駄であったとは言えない。

(参加人公明党の主張)

ア 函館市議会は,調査研究費の交付先を議員とすることや会派とすることの利点,難点等を比較勘案し,政務調査費の執行を会派の総体の意思決定で行うことのほか,会派の方針として,会派代表者が認めるものであれば,所属議員の自主性を尊重して行うこととすることも,各会派の自主的判断によるものとして,交付先を会派とした。

イ 会派は,市の政策等について共通する考えを有する議員が,議会活動を通じてその実現を図るために結成しているのであり,先に会派としての意思があるのではない。そして,政策の実現を図るためには,幅広い知識や調査研究が必要であり,個々の議員が様々な角度から行う調査研究は,会派としての意見をまとめる際に当然いかされるものである。

このことから,参加人公明党としては,政務調査費を利用した調査研究については,個々の議員が個別に調査の目的,場所等を定め,会派間の協議で様式を統一した支出伝票を会派に提出し,経理責任者が使途基準に合致するかどうかを判断し,会派の代表者の承認を得た上で,調査研究を行うという扱いをしてきたのであり,「会派が行う調査研究」と言える。そして,所属議員が他都市の調査に行く際には,週1回月曜日に開催している会派の会議(団会議)で,調査地,目的等が報告され,その結果についても同様に報告されているのであり,さらに,団会議において,共通の課題の調査研究を目的として会派所属の全議員や複数の議員が調査を実施することもある。

そして,調査研究活動の成果は,会派及び議員の行う議会や各委員会での質問や提言,市から提案される施策や予算案の審議,毎年市に提出している「予算編成及び市政執行に対する要望書」に幅広く生かされている。

ウ 参加人公明党が,番号7ないし11の各支出に係る各視察や資料の購入に政務調査費を支出したことは,以下のような各視察ないし資料購入の目的,態様等に照らせば,本件使途基準に違反しない。

(ア) 番号7の支出

C7議員は,かねてから博物館は重要な観光資源であると考え,公営の博物館の建設,民間の博物館への支援の在り方等について,幅広く情報を収集し,調査研究をしており,その一環として,東京都目黒区に所在する世界でただ一つの珍しい寄生虫館を視察した。

また,C7議員は,函館市の臨海地域の再開発を検討する上で,その実例を調査する目的で,東京都に所在するトリトンスクエアを視察するとともに,その開発計画の作成に関与したデザイン研究所を訪問して,トリトンスクエアの構想から完成に至るまでの概略の説明を受けるなどした。

(イ) 番号8の支出

C7議員は,函館市には大規模なイベントホールがなく,その必要性等について議論されていたことから,大規模アリーナの管理やイベントの運営等を調査するため,札幌ドームを視察した。

また,C7議員は,函館市において芸術文化を振興させる観点から,その政策提言のためには自らも幅広い文化芸術に触れ,能力を高めることが必要であると考え,日本画の当代第一人者と評価されている平山郁夫氏の展覧会を鑑賞した。

(ウ) 番号9,10の支出

C7議員は,歴史的景観を観光資源とする函館市としては,新たに建築される住宅のデザインについても注目すべきであると考え,フランスの建築デザイナーであるル・コルビュジェ氏が設計した住宅の模型の展覧会を視察した。C7議員は,ル・コルビュジェ氏の住宅模型の展覧会を函館市においても開催し,地元の建築家等の参考に資することを企図して函館市都市建設部の職員に相談したが,地元の建築家が,同じ時期に,ル・コルビュジェ氏と同時代に活躍した建築デザイナーであるアルバー・アールト氏に関する展覧会等を企画し開催したことから,今回は見送ることにしたのである。

(エ) 番号11の支出

C7議員は,音楽が街作りにとって欠かせない重要な要素であることから,その研究のための参考資料として,「はこだて賛歌」を作曲し,近年は函館においてフルートによる街作りを提唱するなどしている廣瀬量平氏及び同氏と関係の深い地元演奏家の演奏に係る音楽が収録されたCDを購入した。

(参加人C1の主張)

ア 政務調査費の交付先を会派とし,使途基準の項目が「会派が行う」各種調査研究活動とされている理由は,議員個人に対する支給方法に比べ,支給方法や使途などの経理及び情報公開に関する取扱いが統一的にしやすいことや,会計責任者を設けることにより適切な処理ができること等によるものである。よって,政務調査費の支給対象となる調査活動の主体について,必ずしも会派がその意思決定に基づいて行う調査活動に限定する趣旨ではなく,そのことは,1人会派が認められていることからも明らかである。

したがって,議員の発意に基づき,会派の承認の下に行われた調査研究は,政務調査費の交付対象となる。

そして,参加人C1の所属していた市政クラブ及び新政21においては,会派内の協議で行う活動のほか,所属議員の発意による活動についても,事前及び事後の承認を前提に,会派の活動と認め,会派の代表者の承認の下に,調査研究が実施されていた。

イ(ア) 番号13の支出

参加人C1は,函館市内の商店街の活性化策を検討するため,活性化に成功している戸越銀座商店街を視察した。また,函館港に係留中の摩周丸の保存及び活用は当時大きな課題とされていたことから,「船の科学館」に係留中の羊蹄丸の運営状況等を調査し,摩周丸に関する対策に反映させることを企図して,羊蹄丸を視察し,常任委員会で質疑をするとともに,摩周丸の係留場所の変更などの提言をした。

(イ) 番号14の支出

参加人C1は,函館市の基幹産業の一つである水産業の振興策を市当局に働き掛けるため,まず実態調査を行う必要があると考え,釧路港の視察を行い,また,同港に設置されている観光施設も併せて視察した。視察当日は休漁のため調査が実施できなかったが,豊漁による自主休漁という予測外の事情によるものであり,やむを得ない。

また,参加人C1は,函館市の主要産業の一つである観光産業の振興策との関係で,旭川市の観光産業の現状を調査するため,同市における観光循環バスの運行状況,木工展示場,旭山動物園等を視察した。

さらに,参加人C1は,釧路市及び旭川市への出張に航空便を利用することにより,函館市と上記各都市間の航空便の利用状況や利便性を併せて調査した。

参加人C1は,視察結果を受けて,市の企画部に対し,観光施設の運営方法の見直しの調査を求めるとともに,函館市の観光事業に関し,人物モニュメントの設置構想などの質問を行った。また,市の商工観光部に対し,函館発着の航空便の搭乗率を高めるため,釧路や旭川などの直行便の利用を市内の各団体に要望できないか検討を求めるなど,調査研究の成果を市政に反映させている。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(適法な監査請求前置の有無)について

(1)  争いのない事実等(4)のとおり,監査請求人らは,平成14年11月21日付けで,本件監査請求を行っているが,1審被告は,本件監査請求が,いずれも本件各支出から1年以上経過してからなされており,法242条2項が定める監査請求期間である1年を徒過しているから不適法であると主張する。

(2)  確かに,法242条2項本文は,監査請求の対象事項のうち財務会計上の行為については,当該行為があった日又は終わった日から1年を経過したときは監査請求をすることができないものと規定している。しかしながら,本件監査請求の対象となっている怠る事実については,そもそも,行為の日あるいは行為の終わった日というものが想定できないから,怠る事実に係る監査請求については,原則として,上記規定は適用されないものと解される上,本件においては,特段の事情も見受けられないから,本件監査請求に,法242条2項の適用はない。

(3)  したがって,本件監査請求に監査請求期間を徒過した違法はなく,1審被告の主張は採用できない。

2  本案の検討においては,まず,本件各支出の前提となる事実関係の有無について検討する。

(1)  番号1,2の支出に係る事実関係について

ア 証拠(甲5,乙A1の3,丙A1,5の1ないし3,28の1,2,29ないし31,証人C5)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(ア) C5議員は,平成14年2月7日から同月9日にかけて東京都に出張し,同月8日午前9時10分から午後5時までの間,東京都千代田区の全共連ビルにおいて地域科学研究会が主催して開催された「公共入札の改革-課題と展望」と題する研修会(以下「本件研修会」という。)に参加した。本件研修会では,公共入札の改革について国や地方公共団体の担当者の講演及び質疑応答等が行われた。

C5議員は,同月9日午前8時30分ころにJR浜松町駅付近のホテルを出発し,羽田空港午前10時45分ころ発の飛行機で函館に帰還し,午後1時30分から3時45分ころまでの間,美原町会館で開催された美原町会の三役会議に同町会副会長として出席した。

その後,C5議員は同日中に再び東京都へ出張し,同月10日午前10時から午後4時までの間,東京都において社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会が主催して開催された「難聴者の聞こえと生活についての実態シンポジウム」(以下「本件シンポジウム」という。)に参加して,同月11日に函館に帰還した。本件シンポジウムにおいては,難聴者の聞こえと生活の実態についての調査等に関する報告やパネルディスカッション等が行われた。

(イ) C5議員は,本件研修会及び本件シンポジウムへの参加を決定し,旅行日程を策定するに際して,本件研修会の開催日と本件シンポジウムの開催日との間に公務のない日が1日生じることから,この日については,いったん函館に戻って様々な用務を済ませ,日帰りで東京に戻ることを計画し,実行した。

(ウ) 参加人民主・市民ネットは,平成14年2月1日,C5議員に対し,本件研修会への参加に要した旅費(交通費,宿泊費及び日当3日分)として合計8万6040円及び本件シンポジウムへの参加に要した旅費(交通費,宿泊費及び日当2日分)として合計8万3040円を,いずれも「研究研修費」として政務調査費から支給した。また,参加人民主・市民ネットは,同月8日,C5議員に対し,本件研修会の参加費として2万5000円を「研究研修費」として政務調査費から支給した。

イ 1審原告らは,C5議員が平成14年2月9日に東京・函館間を往復した事実はない旨主張するが,上記認定事実のとおり,上記往復の事実が認められ,これに反する証拠はないから,1審原告らの主張は採用できない。

(2)  番号3の支出に係る事実関係について

ア 証拠(甲5,乙A2の1の1ないし3,丙A2,23ないし25,26の1,2,27,証人C3)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(ア) C3議員は,平成13年4月14日から同月17日までの間,福井県小浜市,石川県輪島市及び金沢市に出張した。

(イ) 上記出張の目的等

a C3議員は,函館市の西部地区の再開発事業について取り組み,函館市議会において函館山ロープウェイの乗降場の移設等を提言したことがあったところ,その再開発事業の参考とするため,金沢市の観光地や同市において再開発事業で整備された商店街を視察することとし,事前に金沢市が作成した「金沢市中心市街地活性化基本計画」と題する資料等を入手した。

b また,C3議員は,函館市の朝市に関し,観光客等の利用者から注文した商品と異なる商品が配送されるといった苦情が多く寄せられていることから,その実態や対策を検討するため,全国的に有名な輪島市の朝市の接客や商品発送の状況等を調査することとした。

c 函館市の水産物卸売市場においては,従前,水産物の競り売りをするための場所が狭く,屋外で競り売り等が行われており,鮮度保持や安全衛生の点で問題があったため,平成13年当時,新たな上屋を建設する計画が持ち上がっていた。C3議員は,従前から上記市場の環境問題について関心を有し,函館市議会の定例会においても,上記市場の設備の改善について提言していたところ,市場の関係者の助言を受けるなどして,小浜市の市場を視察することが函館市の上記市場の問題点の改善を検討する上で有益であると考え,視察日程に入れることとし,事前に小浜漁港のパンフレットを入手した。

(ウ) 当該出張の行程及び内容

a 平成13年4月14日

C3議員は,午前8時50分ころに,函館空港から飛行機を利用し,羽田空港を経由して,午後零時ころに小松空港に到着し,同空港からバス,電車及びタクシーを利用して小浜市に所在する小浜漁港の魚市場に向かい,午後3時30分過ぎころに到着した。上記市場においては,約1時間,施設内部やその周辺の仲卸の建物,配送センター等を徒歩で見て回り,市場の軒先の状況等を調査した。その後,タクシー及び電車を利用して小浜市から加賀市に向かい,午後6時30分ころに加賀市内のホテルに到着して宿泊した。

b 同月15日

C3議員は,午前中,金沢市内に赴き,長町武家屋敷跡等の観光地を訪問して,歴史的建造物の保存・活用状況やトイレの清掃状況を見て回るなどし,その後,電車で金沢市から輪島市へ向かい,同市内のホテルに宿泊した。

c 同月16日

C3議員は,輪島市の朝市へ赴き,露店等を見て回って,販売している商品の内容,販売方法,客層等を調査したり,商店主と会話して,接客態度等に関し,輪島市の朝市では客の呼び込みはなく,客からの苦情はほとんどないこと,注文した商品と異なる商品が配送された場合は,直ちに謝罪の手紙及び代替品を配送して信用回復に努めていること等を聴取するなどした。その後,電車で金沢市に戻り,同市内の再開発事業が行われた商店街を歩いて見て回るなどし,同日は金沢市内のホテルに宿泊した。

d 同月17日

C3議員は,金沢市内から電車及びバスにて小松空港に向かい,同空港から,飛行機にて羽田空港を経由して函館空港まで向かい,函館に帰還した。

e C3議員は,上記視察において,小浜市,金沢市及び輪島市の各行政担当者,小浜市の魚市場の関係者等と面談することはなかった。

(エ) C3議員は,路程の変更を考えて政務調査費は事後精算することにしており,参加人民主・市民ネットは,平成13年4月20日,C3議員に対し,上記出張に要した旅費(交通費,宿泊費及び日当)として合計14万7190円を「調査旅費」として政務調査費から支給した。

イ 1審原告らは,移動経路が,いったん逆方向の金沢駅へ向かい,接続時間も少ないなど不合理であり,C3議員は平成13年4月14日は小浜市には行かず,小松空港から加賀市内のホテルに直行した疑いが強いと主張するが,C3議員は小浜市の魚市場の施設の状況等について具体的に供述していることからすれば,その供述(丙A2,27,証人C3)は信用することができると言うべきである。もっとも,C3議員の旅程に従えば,1審原告らの指摘するとおり,小松空港から,小松駅へ出て小浜駅へ向かう手段が合理的ではあるが,遠方での移動については,交通機関の発着時間,駅での停止の有無及び特急の有無等により,必ずしも合理的な経路を選択した方が利便性に優れているわけでもない。C3議員が,金沢市や輪島市を視察する際を利用して,小浜市まで足を伸ばして視察することは十分考えられる上,事後の精算を行っており,他にC3議員が小浜市へは行かなかったことを示す具体的な証拠も見受けられないから,C3議員が平成13年4月14日に小浜市を訪れた事実を認定することができる。

(3)  番号4の支出に係る事実関係について

ア 証拠(甲5)によれば,参加人民主・市民ネットは,平成13年5月28日,C3議員に対し,東京都への出張に要する旅費(交通費,宿泊費及び日当)合計6万7240円を「調査旅費」として政務調査費から支給したことが認められる。

イ 1審原告らは,C3議員は実際には東京都へ出張していないと主張する。

(ア) そこで検討するに,C3議員は,その陳述書(丙A2,27),説明書(乙A2の3)及び証人尋問において,東京都への出張について,おおむね以下の内容の供述をしている。

a C3議員は,かねてより函館市の防災計画について調査・研究を行っていたところ,以前,当時の総理府の担当者と面談して国の防災計画等について説明を受けた際に,東京都の防災計画が参考になる旨の助言を受けたことから,東京都の担当者から防災計画等について説明を受ける等の調査を行う必要があると考え,平成13年5月30日から同月31日にかけて東京都へ出張することとした。

b C3議員は,電話で事前連絡を取った上,同年5月30日の午後から東京都庁9階に所在する当時の東京都総務局災害対策部防災計画課を訪問し,同課の担当者と面談して東京都の防災計画全般や災害時の傷病者に対する医療体制に関する「トリアージ」という概念について概略的な説明を受けるとともに,東京都の震災予防計画等に関する資料を入手し,また,都庁8階の防災センターを視察し,同センターについて説明を受け,その後,東京消防庁が運営する消防博物館に立ち寄って見学した。

(イ)a 以上のとおり,C3議員は,東京都への出張の目的,日程,東京都の担当者から受けた説明の内容等について具体的に供述しており,格別不自然,不合理な点は見当たらない。

b また,証拠(甲5,丙A17ないし20)によれば,C3議員が東京都に出張した際に入手したとされる東京都の防災計画等に関する資料が存在すること,C3議員は,東京都への出張に関し平成13年6月5日付けで報告書を作成して参加人民主・市民ネットに提出しており,同報告書には,東京都の防災計画を調査する目的や調査内容について簡潔に記載されていることが認められ,これらの事実もC3議員の上記供述を裏付けるものと言える。

c もっとも,C3議員は,証人尋問前に提出された陳述書(丙A2)や証人尋問においては,東京都への出張の際に入手した資料は見当たらない,宿泊したホテル名も記憶にない旨の供述をしながら,証人尋問後に提出された陳述書(丙A27)においては,上記出張の詳細な日程,宿泊したホテル名等を供述し,また,参加人民主・市民ネットは,証人尋問後になって初めて,C3議員が東京都への出張の際に入手したとされる上記資料を書証として提出している。しかし,本件訴訟の当初においては,本件各支出の対象となった視察旅行等の存否自体は主たる争点となっていなかったところ,1審原告らは,C4議員等の証人尋問が行われた後の第12回口頭弁論期日において陳述された平成17年1月11日付け準備書面において,初めて番号4及び5の各支出に係る視察旅行がいわゆるカラ出張の疑いが強い旨の主張を追加したものであり(弁論の全趣旨),本件訴訟の経過に照らし,参加人民主・市民ネットの訴訟態度はやや誠実さに欠けるものの,1審原告らによる主張追加後に,新たに資料が提出されたり,従前とは異なる供述をするに至ったことが必ずしも不合理であるとは言えないし,前述の資料として提出されている書証は,いずれも,平成17年になってから収集するのは困難と思われる平成13年5月ころに出回っていた資料であり,証拠提出時では入手が困難と考えられることからすると,その信用性がないとは言えない。

d 証拠(証人C3)によれば,C3議員は,面談した東京都の担当者の氏名や東京都の防災計画の調査について助言を受けたとされる当時の総理府の担当者の氏名を覚えておらず,名刺も保管していないことが認められるところ,1審原告らは,これらの事実はC3議員の東京都への出張の事実を疑わせる事情であると主張する。

しかし,平成13年当時の函館市議会議員の政務調査を行った際に,調査研究の目的に即し,後の供覧に資するような調査報告書の作成や,面談対象者の名前を記録したり,交通費や宿泊費等の領収書を保管するようなことが行われていなかったことが認められ(弁論の全趣旨),その実態に照らせば,視察旅行に赴いた議員が,視察先の担当者の名刺を保管したり名前を控えておく等の行動を取っていなかったからといって,格別不自然なことと言うことはできず,上記1審原告らの主張に係る事実から,東京都に出張したとのC3議員の供述の信用性を否定するまでには至らない。

(ウ) 以上によれば,C3議員の上記供述は信用することができ,同供述によれば,C3議員は,前記(ア)a,b記載のとおり平成13年5月30日から同月31日までの間,東京都に出張したことが認められる。

(4)  番号5の支出に係る事実関係について

ア 証拠(甲5)によれば,参加人民主・市民ネットは,平成13年10月10日,C4議員に対し,金沢市への出張に要する旅費(交通費,宿泊費及び日当)として合計11万3980円を「調査旅費」として政務調査費から支給したことが認められる。

イ 1審原告らは,C4議員は実際には金沢市へ出張していないと主張する。

(ア) そこで検討するに,C4議員は,その陳述書(丙A4,14),説明書(乙A2の7)及び証人尋問において,金沢市への出張について,おおむね以下の内容の供述をしている。

a C4議員は,函館市交通局において勤務していた経歴を有し,交通事業を議員としての最大の研究・政策課題としていたところ,金沢市において,平成11年3月に従来の公共交通の利用が不便な地域における新しい移動手段の導入,高齢者等の地域内移動の支援,中心市街地へのアクセス改善等を目的として,小型ノンステップバスである「ふらっとバス」が導入されたことから,同バスの路線,収支状況,運行状況等を調査し,同様の交通機関の函館市における導入の可能性を検討するため,平成13年10月14日から同月16日にかけて,金沢市に出張することとした。

b C4議員は,事前に金沢市議会事務局の担当者に電話で連絡を取った上,平成13年10月14日は,函館空港午前10時05分発の飛行機で出発し,羽田空港を経由して,午後3時45分ころに小松空港に到着し,同空港からバスにて金沢市内に向かい,午後5時ころにJR金沢駅近くのホテルに到着して宿泊した。C4議員は,同月15日は,午前10時過ぎころに金沢市役所を訪問して,同市議会事務局の担当者からふらっとバスが導入された経緯,収支状況の概要等について説明を受けるとともに,上記バスの概要等が記載されたパンフレットや金沢市の交通政策に関する資料等を受領し,その後,午後4時ころまでの間,ふらっとバスに実際に乗車して,その運行状況等を調査するとともに,ふらっとバスの利用者から同バスに関する意見,感想等(商店街や狭い道も走るので便利であること,安くて待たずに乗車できること等)を聴取した。C4議員は,同月16日は午前8時過ぎころにホテルを出発し,小松空港午前9時35分ころ発の飛行機にて,羽田空港を経由して函館に帰還した。

(イ)a 以上のとおり,C4議員は,金沢市への出張の目的,日程,金沢市議会事務局担当者から受けた説明の内容,ふらっとバスの利用者から聴取した内容等について具体的に供述しており,格別不自然,不合理な点は見当たらない。

b また,証拠(甲5,丙A8の1ないし3,9ないし13)によれば,C4議員が金沢市議会事務局から入手したとされるふらっとバス等に関する資料が存在すること,C4議員は,金沢市への出張に関し平成13年11月5日付けで報告書を作成して参加人民主・市民ネットに提出しており,同報告書には,ふらっとバスが導入された経緯が具体的に記載され,その運行状況や自らの感想等についても簡潔に記載されていることが認められ,これらの事実もC4議員の上記供述を裏付けるものと言える。

c もっとも,C4議員は,証人尋問前に提出された陳述書(丙A4)や証人尋問においては,金沢市議会事務局の担当者から受けた説明の内容,ふらっとバスの利用者からの聴取内容等について具体的に供述しておらず,また,宿泊したホテル名も記憶にない,金沢市議会事務局からはパンフレットを除き資料を入手していない旨の供述をしていながら,証人尋問後に提出された陳述書(丙A14)においては,金沢市への出張の詳細な日程,宿泊したホテル名等を供述し,また,参加人民主・市民ネットは,証人尋問後になって初めて,C4議員が金沢市への出張の際に入手したとされる上記資料を書証として提出しており,このような事情からすれば,C4議員の上記供述の信用性に疑問を差し挟む余地があるようにも考えられる。

しかし,丙A8号証の1,2として提出された証拠は,いずれも2000年版であったり,2001年6月に製作されたものであり,丙A8号証の2と同種の資料として,C4議員が平成17年1月に入手し,当審で提出された丙A36号証の2が,2002年10月作成のものであることを考えると,丙A8号証の2は,C4議員が,調査研究の際に取得したものと考えるのが相当である上,上記(3)イ(イ)cのとおりの本件の訴訟経過に照らすと,1審原告らから出張の事実の存在すら疑わしいと指摘されたC4議員において危機感を募らせ,更に記憶の喚起や資料の整理に努めた結果,新たな資料が提出されたり,従前とは異なる具体的な供述をするに至ることも十分考えられるのであり,このような供述の変遷等が必ずしも不合理であると言うことはできない(もっとも,1審原告らが,上記主張の追加を行う以前から,1審被告や参加人民主・市民ネットに対して,金沢市への出張の関係資料の提出や宿泊したホテル名を明らかにするよう求めていたことに照らすと,同参加人の上記のような訴訟態度は誠実さを欠くものであると言わざるを得ない。)。

d 1審原告らは,C4議員が実際には金沢市へ出張していないことの根拠として,C4議員が説明を受けたとされる金沢市議会事務局は,ふらっとバスの運行方法等について説明できる立場にない旨主張する。しかしながら,証拠(丙A13,14,証人C4)及び弁論の全趣旨によれば,上記事務局の職員は,金沢市政全般について一定程度の知識を有しており,ふらっとバスについても,その資料に基づいて導入された経緯,運営方法等を説明することができたものと認められ,ふらっとバスについて説明できる立場にないとまでは言えない。

確かに,C4議員が,交通政策に通じ,上記調査に最適任であると主張する以上は,C4議員が,金沢市の都市政策部交通政策課等の担当者から直接に話を聞かず,金沢市議会事務局の職員に話を聞き,資料をもらっただけでは,十分な調査ができなかったのではないかとの疑問を生じさせるところではあるが,だからと言って,調査を行わなかったとか,調査に行っていないと言うことはできない。

e 証拠(証人C4)によれば,C4議員は,ふらっとバスについての説明を受けた上記事務局担当者の名刺を受領せず,その名前を覚えていないこと,また,C4議員は,上記事務局に対して文書をもって事前の連絡をしていないこと,さらにC4議員は,同じ参加人民主・市民ネットに所属するC3議員が平成13年4月に金沢市等に出張した際に,C3議員にふらっとバスについても併せて調査することを依頼していないことなどの事実が認められるところ,1審原告らは,これらの事実について,C4議員の金沢市への出張の事実を疑わせる事情であると主張する。

しかしながら,本件各証拠及び弁論の全趣旨によれば,平成13年当時,函館市議会議員が政務調査費を利用した視察旅行を実施するに際し,同じ会派の他の議員との間で意思の疎通を図ったり,視察先の担当者に事前に連絡を取って面談した上,その担当者の名刺を保管したり名前を控えておく等の十分な事前準備や調査を行わなかった事例が多数存在することがうかがわれるのであって,上記のような事実があったからといって,平成13年当時の函館市議会議員による調査旅行の態様として,必ずしも不自然,不合理であると言うことはできないから,これらの事実をもってC4議員の上記供述の信用性を否定することはできない。

(ウ) 以上によれば,C4議員の上記供述は信用することができ,同供述によれば,C4議員は,前記(ア)a,b記載のとおり平成13年10月14日から同月16日までの間,金沢市に出張したことが認められる。

(5)  番号6の支出に係る事実関係について

証拠(甲5,乙A2の8の1ないし3,丙A3,4,6の1ないし3,32,証人C6,証人C4)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア C6議員及びC4議員(以下「C6議員ら」という。)は,平成13年11月12日から同月16日までの間,鹿児島県鹿児島市,山口県山口市及び静岡県富士宮市に出張した。

イ 上記出張の目的等

(ア) C6議員は,従前,行政視察で鹿児島市を訪れた際に,同市の都市計画等について関心を持ち,函館市の都市計画や環境行政について検討する上で参考とするために,再度,鹿児島市を訪れて同市の都市計画等を調査することとした。

(イ) また,C6議員は,従前,函館市と中国の天津市間の航空路の開設調査のために中国の天津市を訪れた際に通訳を務め,平成13年当時は富士宮市の中国人を対象とする日本語学校である「A.C.C.国際交流学園」(以下「ACC学園」という。)に勤務していたJ氏から近況等を伝える手紙が届いたことから,函館市の国際交流事業の一環として同様の日本語学校の設立を検討する上で参考とするため,ACC学園を訪問し調査することとした。

(ウ) フィールズ賞を受賞した経歴を有する数学者であり,平成13年当時山口大学の学長を務めていたI学長は,昭和63年ころから,函館に大学を設置することを提言し,北海道道南地域の高等教育の発展に寄与すること等を目的として設立された財団法人南北海道学術振興財団の理事長に就任し,平成12年4月に開校したはこだて未来大学の設立にも関与していた。C6議員は,当初からI学長が構想する大学の創設を実現するための運動に参画し,市議会において上記大学構想等について質疑を行ったことがあり,I学長が函館を訪れた際に度々面会したほか,平成11年2月ころには山口大学を訪問してI学長と面談したことがあったところ,鹿児島市及び富士宮市への視察旅行の計画を立てるに当たり,鹿児島市から富士宮市へ移動する際に途中で山口大学を訪問し,上記財団の今後の展開等について示唆を受けるためにI学長に面談しようと考えた。もっとも,C6議員は,事前に山口大学やI学長と連絡を取って面談の予約を入れることはしなかった。

(エ) C4議員は,C6議員が鹿児島市,山口市及び富士宮市への視察旅行を計画していることを知って,鹿児島市の交通行政等に興味を持ち,上記視察旅行に同行することとした。

ウ 上記出張の行程及び内容

(ア) 平成13年11月12日

C6議員らは,午前中に函館空港から飛行機にて出発し,羽田空港を経由して鹿児島へ向かい,午後3時ころに鹿児島市内に到着し,JR鹿児島中央駅近くのホテルに宿泊した。

(イ) 同月13日

C6議員らは,午前中,鹿児島市役所を訪問して,約2時間にわたり,同市都市計画課の職員等から,同市の都市計画や環境行政の内容等について説明を受けるとともに,同市が作成した「かごしま都市マスタープラン[概要版]」,「鹿児島市の概要」,「清掃事業概要」等の資料を入手した。その後,鹿児島市に所在する横井埋立処分場に赴いて周囲を見て回ったり,同市内の路面電車に乗車したり,その沿線を歩くなどして,同市の街作りや路面電車の運行状況等を視察した。

(ウ) 同月14日

C6議員らは,午前中,鹿児島から飛行機にて福岡へ向かい,福岡からは電車にて山口に向かい,午後2時ころに山口大学を訪問したが,I学長は不在で面談することはできなかったため,同大学秘書室のK氏と面談し,表敬訪問をしに同大学を訪れた旨等をI学長に伝えるよう依頼した。その後,山口から列車にて静岡に向かい,午後9時ころに静岡市内のホテルに到着して宿泊した。

(エ) 同月15日

C6議員らは,静岡市から電車にて富士宮市に向かい,富士宮市に所在するACC学園を視察し,同学園の副理事長を務めるL氏や上記J氏と面談した。なお,当初は,富士宮市役所を訪問して富士宮市議会事務局の担当者と面談する予定であったが,先方の都合で直前になって面談することができなくなった。その後,富士宮市から電車にて東京に向かい,東京都内のホテルに宿泊した。

(オ) 同月16日

C6議員らは,東京から飛行機にて函館に帰還した。

エ 参加人民主・市民ネットは,平成13年11月7日,C6議員ら各自に対し,上記出張に要した旅費(交通費,宿泊費及び日当)としてそれぞれ19万4030円を「調査旅費」として政務調査費から支給した。

(6)  番号7の支出に係る事実関係について

証拠(甲6,乙B2の1の1ないし3,丙B1の1,2の1ないし3,4,5の1,2,3の1ないし11,6の1,2の1ないし22,7の1,2の1ないし3,8の1ないし3,9の1ないし3,11,原審及び当審における証人C7)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア C7議員は,平成13年5月21日から同月24日までの間,東京都に出張した。

イ C7議員は,博物館について興味を持ち,かねてより,各所の博物館等の視察をしていたが,函館市において観光資源となる博物館等の建設を検討する上で参考とするため,東京都目黒区に所在する寄生虫館を視察することとした。寄生虫館は,民間人によって設立され,現在は財団法人によって運営されている研究機関であり,寄生虫館の建物の1階及び2階の比較的狭い展示室内に寄生虫の実物標本や関連資料等が展示され,無料で一般公開されている。

また,C7議員は,函館市の臨海地域の再開発を検討する上で参考とするため,東京都中央区に所在する複合的商業施設であるトリトンスクエアを視察することとした。

ウ C7議員は,平成13年5月21日は,函館から東京への移動日に費やし,同月22日の午前10時ころから寄生虫館の1階及び2階の展示室を視察して,パンフレット,ガイドブック等を入手したが,寄生虫館の関係者と面談して説明を受けるなどしたことはなかった。同月23日は,トリトンスクエアの設計に関与した株式会社谷内田デザインスタジオの事務所であるデザイン研究所を訪問して,同社の代表取締役であるM氏からトリトンスクエアの開発事業の概略等について説明を受けるとともに同事業に関する企画書等の資料を入手し,その後,トリトンスクエアに赴いて現地を視察し,同月24日に函館に帰還した。

エ 参加人公明党は,平成13年5月10日,C7議員に対し,上記出張に要する旅費(交通費,宿泊費及び日当)として合計10万2840円を「調査旅費」として政務調査費から支給した。

(7)  番号8の支出に係る事実関係について

証拠(甲6,乙2,乙B2の3,丙B1の1,原審及び当審における証人C7)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア 函館市においては,観光及びコンベンションの振興を課題として,各種大会,会議等を誘致するための施設の整備を推進し,また,芸術文化の振興を課題とし,市民が優れた芸術文化に接する機会や芸術文化活動に参加する機会の拡充等を推進している。

C7議員は,大規模なアリーナの管理やイベントの運営について検討する目的で札幌ドームを訪れることとし,また,函館市が観光地として発展するためには,多様な芸術文化の広がりが必要であるところ,札幌市で開催されていた日本画家である平山郁夫氏の展覧会(以下「平山郁夫展」という。)を視察することとしたが,事前に札幌ドームに連絡を取ってイベントの開催の有無等を確認することはなかった。

イ C7議員は,平成13年10月20日から同月21日までの間,札幌市に出張し,同月20日は,札幌ドームを訪れたところ,イベント等は開催されていなかったものの一般市民向けの施設見学会が行われていたため,これに参加して案内人の説明を受けるなどしたが,札幌ドームの運営管理等に携わる関係者や札幌市の行政担当者等と面談してイベント開催時の運営管理等について説明を受けることはなかった。

C7議員は,翌21日には,平山郁夫展を視察したが,同展覧会の主催者等と面談して説明を受けることはなかった。

ウ 参加人公明党は,平成13年10月15日,C7議員に対し,上記出張に要する旅費(交通費,宿泊費及び日当)として合計3万6480円を「調査旅費」として政務調査費から支給した。

(8)  番号9,10の支出に係る事実関係について

証拠(甲6,乙2,乙B2の4,丙B1の1,2,3の1ないし4,原審及び当審における証人C7)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア 函館市は,魅力ある都市空間の創出を図るため,都市景観の形成や都市デザイン政策を推進していたところ,C7議員は,平成14年1月20日から同月21日までの間,札幌市に出張し,北海道大学「遠友学舎」において開催され,20世紀を代表するフランスの建築家であるル・コルビュジェ氏が設計した住宅の模型を展示した展覧会であるル・コルビュジェ展を視察した。その際,C7議員は,同展覧会の主催者とは面談しなかったが,主催者関係者である北海学園大学工学部非常勤講師であるNから,同展覧会を函館市において開催する場合の交渉相手である管理者を確認した。

イ 参加人公明党は,平成14年1月18日,C7議員に対し,上記出張に要する旅費(交通費,宿泊費及び日当)として合計3万6480円を「調査旅費」として政務調査費から支給した。

ウ また,C7議員は,ル・コルビュジェ展の会場において,「ル・コルビュジェの全住宅」と題する書籍(以下「本件書籍」という。)を購入し,参加人公明党はC7議員に対し,その購入費用として3500円を政務調査費から支給したが,その際の支出伝票の「摘要(品名)」欄には「入場料」,政務調査費の使途区分欄には「調査旅費」,支払年月日欄には「平成14年1月18日」という事実と異なる記載がされた。

(9)  番号11の支出に係る事実関係について

証拠(甲6,乙B3の4,丙B1の1,3,原審及び当審における証人C7)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア 廣瀬量平氏(以下「廣瀬氏」という。)は,函館市出身の作曲家であり,「はこだて賛歌」と題する作品を作曲するなどして函館市とも関わりが深く,函館市においてフルートによる街作りを提唱し,フルートの講習会を定期的に開催したことがあった。

イ 平成14年3月3日,函館市芸術ホールにおいて,財団法人函館市文化・スポーツ振興財団などの主催,函館市などの後援による「廣瀬量平の多彩な音楽世界Ⅰ」と題する廣瀬氏の作曲に係る作品の演奏会が開催された。C7議員は,上記演奏会を鑑賞したが,その際,音楽を函館市の街作りにどのようにいかしていくか等を検討する上で参考とするため,廣瀬氏の作曲に係る作品が収録されたCDや,同氏と関係の深い演奏家が演奏した作品が収録されたCD等合計14点を購入し,その費用として合計4万4700円を支出した。

ウ 参加人公明党は,平成14年3月3日,C7議員に対し,上記CDの購入費用合計4万4700円を「資料購入費」として政務調査費から支給した。

(10)  番号12の支出に係る事実関係について

証拠(甲7,乙C1の1,2,3)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア 社団法人全日本司厨士協会函館支部(以下「司厨士協会」という。)は,函館市内の西洋料理や中華料理の調理師によって組織される団体であり,輸入食材の安全性,地場食材をいかした料理の創意工夫等を研究し,函館市の後援を受けて料理講習会や料理コンクールを開催するなどして,函館市民の食生活の向上に寄与している。

イ C8議員は,平成13年4月13日,司厨士協会から案内を受けて,同協会が主催しホテル函館ロイヤルにおいて開催された「総会並びに食の祭典」(以下「食の祭典」という。)に出席し,その会費として1万円を支出した。食の祭典には,他に同協会北海道地方本部会長,在札幌カナダ領事,函館市保健所長等が参加して,主にカナダの食材を活用した料理の発表,表彰,試食,懇談等が行われ,C8議員は,上記北海道地方本部会長から学校給食の在り方等について意見を聴取するなど,主催者や参加者との間で函館市民の食生活,食文化等に関し意見を交換した。

ウ 市政クラブは,平成13年4月13日,C8議員に対し,食の祭典の会費1万円を「研究研修費」として政務調査費から支給した。

(11)  番号13の支出に係る事実関係について

証拠(甲7,乙2,乙C2の1の1,2,4,丙C1ないし3,証人参加人C1)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア 参加人C1は,平成13年4月30日から同年5月2日までの間,東京都に出張した。

イ 上記出張の目的等

(ア) 函館市においては,市内各地区の商店街の整備,活性化等が政策課題とされ,参加人C1は上記課題に従前から取り組み,市議会において質疑を行うなどしていたところ,東京都品川区に所在する戸越銀座商店街は,函館市と同様に,車社会化の影響や他に大きな商店街等の存在により集客力が低下した中で,戸越ブランドの商品の開発,スタンプカードシステムの採用,休日の全店開業等で活性化に成功していることを知り,同商店街を視察することとした。

(イ) 平成13年当時,函館港に係留されていた摩周丸は,入場者数が減少し,いわゆる第三セクター方式の運営会社は経営危機に瀕しており,摩周丸の保存及び活用が政策課題とされていたことから,参加人C1は,摩周丸の運営方法や展示内容について検討する上で参考とするため,東京都品川区に所在する「船の科学館」において展示されている羊蹄丸を視察することとした。

ウ 上記出張の行程及び内容

(ア) 4月30日

参加人C1は,函館空港午後2時40分発の飛行機にて出発し,午後4時ころに羽田空港に到着し,JR蒲田駅近くのホテルに宿泊した。

(イ) 5月1日

参加人C1は,午前10時ころにホテルを出発し,午前11時ころから午後3時30分ころまでの間,戸越銀座商店街を徒歩で視察し,商店主や買物客から,同商店街における営業の実態や活性化策,問題点等(具体的には,同商店街は3つの組合により構成されていること,各組合が独自にイベントを開催したり,ポイントカード等を発行しているほか,3組合共通のイベントも開催していること,休日における開店や戸越ブランドの商品の開発により,商店街の活性化を図っていること,問題点として,往来人数の減少化への対策,大型スーパーや大型電気店等がなく集客力に劣ること,商店主の高齢化と後継者問題等が指摘されていることなど)を聴取し,実際に戸越ブランドの商品を購入したほか,同商店街の中に設けられた休憩所内を見分するなどした。

(ウ) 5月2日

参加人C1は,午前10時ころにホテルを出発して「船の科学館」に赴き,同館の見学施設である羊蹄丸の保存状況や展示内容等を視察したが,同館の関係者と面談して説明を受けるなどしたことはなかった。その後,午後2時ころに同館を出発して羽田空港に向かい,午後4時40分発の飛行機にて函館に帰還した。

エ 市政クラブは,平成13年4月24日,参加人C1に対し,上記出張に要する旅費(交通費,宿泊費及び日当)として合計8万5040円を「調査旅費」として政務調査費から支給した。

(12)  番号14の支出に係る事実関係について

証拠(甲8,乙2,乙D2の2の1,2,4,丙C4ないし13,証人参加人C1)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア 参加人C1は,平成13年9月22日から同月24日までの間,釧路市及び旭川市に出張した。

イ 上記出張の目的等

(ア) 函館の漁業においては,漁獲したイカ等の水産物の鮮度を保つための運搬や畜養の方策が課題となっていたところ,参加人C1は,釧路港のサンマ漁においては,漁船に滅菌や冷却用の機械を装備して獲ったサンマの鮮度を保持している事例があることを知り,函館の漁業における上記課題の解決に役立てるため,上記サンマ漁を視察することとしたが,事前にサンマ漁の関係者に連絡を取って視察日における出漁の有無等について確認することはしなかった。

(イ) また,参加人C1は,函館市の観光産業の振興策を検討する上で,同様に観光産業の振興に取り組んでいる旭川市における観光産業の現状を視察することとした。

(ウ) さらに,当時,函館市においては,空港施設の整備拡充,航空路線の拡充と運行の充実等が課題とされていたところ,参加人C1は,釧路市及び旭川市への出張に飛行機を利用することにより,函館と釧路及び旭川との間の路線の利用状況や利便性を調査することとした。

ウ 上記出張の行程及び内容

(ア) 9月22日

参加人C1は,函館空港午後2時15分発の飛行機にて出発し,午後3時25分ころに釧路空港に到着し,釧路市内に向かい,JR釧路駅近くのホテルに宿泊した。

(イ) 9月23日

参加人C1は,釧路漁港を訪れたが,サンマ漁は生産調整のため休漁しており,調査することはできなかったため,代わりに,釧路市内の観光施設である「MOO」や「和商市場」を視察したものの,これらの施設の関係者と面談して説明を受けることはなかった。その後,釧路空港午後5時05分発の飛行機で旭川へ向かい,午後5時50分に到着し,旭川市内のホテルに宿泊した。

参加人C1は,事前にサンマ漁が休漁になっていないかどうかの確認はしていなかった。

(ウ) 9月24日

参加人C1は,旭川市内の路線バスに乗車して,同バスの沿線に所在する旭山動物園,旭川市工芸センター,あさひかわラーメン村等の観光施設を視察したが,各施設の関係者や旭川市の行政担当者と面談して話を聞くことはなかった。その後,旭川空港午後6時10分発の飛行機で函館に帰還した。

エ 新政21は,平成13年9月27日,参加人C1に対し,上記出張に要した旅費(交通費,宿泊費及び日当)として合計7万7760円を「調査旅費」として政務調査費から支給した。

(13)  番号15,16の支出に係る事実関係について

証拠(甲9,乙2,乙E1,2)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア 函館市では,水族館等の観光施設の整備,港湾の整備等が課題とされていたところ,C9議員は,同じ会派である新緑クラブに所属していたC11議員,C12議員及びC13議員(以下,上記4名を併せて「C9議員ら」という。)とともに,平成13年8月22日から同月24日までの間,水族館「アクアマリンふくしま」(以下「本件水族館」という。)及び博覧会「うつくしま未来博」(以下「本件博覧会」という。)の視察を主たる目的として,福島県いわき市及び須賀川市に出張した。

イ C9議員らは,いわき市においては,福島県が設置し財団法人において運営管理している本件水族館を視察して,同館の副館長等の関係者から説明を受けるなどしたほか,本件水族館に隣接している小名浜三崎公園内に小名浜港を眺望することができる展望台「マリンタワー」(以下「本件展望台」という。)があることから,同展望台に入場して,小名浜港の港湾整備状況等を視察した。また,須賀川市においては,観光振興,地域の活性化,インフラ整備,自然保護等の観点から,同市内で福島県が主体となって開催された本件博覧会等を視察し,その後,須賀川市役所を訪問して同市長と意見交換を行うなどした。

ウ 新緑クラブは,C9議員に対し,平成13年8月21日,上記出張に要する旅費(交通費,宿泊費及び日当)として合計7万7800円を「調査旅費」として政務調査費から支給するとともに,同月23日付けで,本件展望台の入場料1280円(他の3名の議員と合わせて4名分の合計額)及び本件博覧会の入場料1万2000円(上記と同様に4名分の合計額)を「研究研修費」として政務調査費から支給した(番号15及び16の支出)。なお,他の3名の議員は,個人行政視察として上記出張に参加し,旅費等の支給を受けた。

(14)  番号17,18の支出に係る事実関係について

証拠(甲12,乙2,乙G1)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア 函館市においては,カナダのハリファックス市,オーストラリアのレイク・マコーリー市,ロシアのウラジオストク市及びユジノサハリンスク市と姉妹都市の提携をし,中国の天津市とも友好都市の関係にあり,これらの姉妹都市等との交流の推進,国際会議等の誘致等を政策課題としている。

イ C2議員は,平成14年ころ,天津空港から函館空港への国際便乗り入れを要請することなどを目的として中国の天津市及び北京市を訪問した際,中国側の担当職員と英語で会話をし,交流を深めたことがあったことから,英会話の習得に役立てるため,株式会社エスプリラインが制作した英会話教材「英語スピードラーニング」を購入し,平成13年5月11日,その代金6万0480円を支出し,また,平成13年5月6日,上記教材を利用するためのCDプレーヤーを購入し,その代金1万0290円を支出した。

ウ 市民クラブは,平成13年5月11日,C2議員に対し,上記教材購入費用6万0480円を「研究研修費」として政務調査費から支給し,同月6日,C2議員に対し,上記CDプレーヤー購入費用1万0290円を「研究研修費」として政務調査費から支給した。

以上によれば,本件各支出に関連して,その前提となる事実関係はいずれも存在すると認められる。

なお,本訴訟においては,1審原告らから,調査旅費につき,上記事実の実体がそもそもない(カラ出張)のではないかとの指摘がなされた支出も存在するところ,函館市の市議会議員がカラ出張を疑われること自体がそもそも問題であり,このような疑惑を生じさせないためにも,交通手段を利用した事実や宿泊した事実を明確にする領収書の添付は不可欠であると言うべきであり,また,あらかじめ,訪問先の担当者と連絡を取ったり,訪問先での面談者を記録する等,調査活動による現地調査であることを明白にしておくのが本来の姿であることは言うまでもない。

3  次に,上記各事実に基づいた本件各支出の適法性について判断する。

(1)  まず,その前提として,1審原告らの請求権について検討する。

1審原告らは,1審被告に対して,1審被告が本件各会派に支出した金員の返還を請求することを求めているのであり,その請求の直接の根拠は本件条例7条2項であるが,実質は本件各支出が違法であることを前提とする,不当利得返還請求である。

そして,不当利得返還請求権の根拠となるべき,本件条例7条2項には,「市長は,政務調査費の交付を受けた会派が第5条の使途基準に反して政務調査費を支出したと認めるときは,当該支出した額に相当する額の政務調査費の返還を命ずることができる。」と定められているから,1審原告らが,1審被告に対して,本件各会派の本件各支出相当額の返還を求めるよう請求することができるためには,「本件条例5条の使途基準に反する政務調査費の支出」があったことを,1審被告が本件各会派に対して主張し,それが認められる場合であることが必要である。そして,そのためには,1審原告らは,本件各会派の本件各支出が使途基準に反して違法であることを主張・立証しなければならないと言うべきであり,1審原告らは,カラ出張のように本件各支出に伴う実態がないとか,単なる飲食に費消されたなど本件各支出が本件使途基準に反していることを主張・立証することが必要である。

(2)  そこで,次に,本件条例5条にいう使途基準について検討する。

ア 本件条例及び使途基準の制定経緯について

(ア) 従来,函館市議会においては,法232条の2に基づき,函館市議会市政調査研究費交付要綱に従い,政務調査費と同様な研究費(以下「市政研究費」という。)を,議員個人ではなく,1人会派を含む会派に支出していた。(乙12,弁論の全趣旨)

(イ) その後,地方議会の審議能力を強化して,その活性化を図るため,地方議員の調査活動の基盤を充実させる観点から,議会における会派又は議員に対する調査研究費等の助成を制度化し,併せて,情報公開を促進し,その使途の透明性を確保しようとする趣旨で,平成12年法律第89号による法の一部改正により,政務調査費について定めた法100条12項及び13項(現行法100条13項及び14項)が規定された。(乙3,弁論の全趣旨)

本件条例は,法100条12項(当時)が,政務調査費の交付の対象,額及び交付の方法について条例で定めなければならないものと規定しているのを受けて制定され,さらに,本件条例5条に基づき,本件規則が制定されたものである。(当事者間に争いがない)

(ウ) 法100条12項(当時)では,交付先は「会派又は議員」と規定されていたにもかかわらず,函館市においては,本件条例2条で政務調査費の交付先を「会派」と決めた。本件条例制定時の議事録が証拠提出されていない本件においては,どのような経緯で政務調査費の交付先が「会派」と決められたかは必ずしも明らかではないが,当時の議会運営委員長であったO氏によれば,交付先を「会派及び議員」とすることについては,その運用が複雑になることからこれを採用しないこととし,交付先を「会派」とした場合と「議員」とした場合との利害得失を検討し,結局,①支給方法や使途などの経理及び情報公開に対する取扱いが統一的にしやすい,②会計責任者を設けることにより適切な会計処理をすることができる,③(当時の)制度の市政研究費からの移行が容易であるなどの諸点が勝り,政務調査費の執行を会派総体の意思決定で行うことのほか,会派の方針として,会派(代表者)が認めるものであれば,所属議員の自主性を尊重して行うこととすることも各会派の自主的判断によるものとして,「会派」に決定したという。(丙A35)

イ 会派性について

(ア) ところで,法100条12項(当時)が政務調査費を「会派又は議員」に交付できるとした理由は,前述のように,地方議会の審議能力を強化し,その活性化を図るため,「地方議員の調査活動の基盤を充実させる」観点からなされたものでる。そして,「地方議員」の調査活動の基盤を充実させるためであるならば,政務調査費の交付先は「議員」のみで足りたはずである。しかしながら,法100条12項(当時)は,交付先に「会派」も加えたのであるから,「会派」を加える特別な意味がなければならない。そして,その意図するところは,単に議員個人がばらばらに活動を行うよりも,いわゆる会派に集う多種多様な専門性,経験,背景等を持つ議員がそれぞれの知識経験に基づき,市政に関連する様々な問題を集団により多角的に討議した方が,より良い調査活動が期待でき,その結果,地方議会の審議能力が強化され,その活性化も図られると考えられたものと解される。したがって,政務調査費の交付先を決めるに当たって,会計処理が適切にできるなどの技術的な問題だけにとどめることは相当でないと言うべきである。

(イ) このように,函館市においては,政務調査費の交付先を「議員」ではなく「会派」としたことを受けて,本件使途基準においては,例えば,調査旅費について見ると,「会派が行う調査研究に必要な先進地調査または現地調査に要する費用」と規定されている。そして,調査旅費以外の使途区分以外の使途内容についてもすべての項目について「会派が行う」という限定が加えられている。したがって,函館市における政務調査費の支出に当たっては,「会派が行う」ものでなければならず,この要件を満たさない政務調査費の支出は,違法となると解される。

(ウ) そこで,「会派が行う」との意味について検討するに,政務調査費の交付先を「会派」とした実質的な理由は上記のとおりであるから,政務調査費の支出が,本件使途基準の使途区分に従い,会派としてなされること,言い換えると,会派としての意思統一がなされ,当該調査活動が,「会派」として行うものであるとの会派の了承が存在することが必要でり,このような実態を伴わない政務調査費の支出は,本件使途基準に違反した違法な支出と言うべきである。

なお,この点につき,傍論ではあるが,「政務分担費として,会派を通じて各議員に交付された場合であっても,交付を受けた各議員において,地方公共団体の条例に基づく使途基準に適合した経費に充てた場合には,実質的に当該条例に適合するものと言えるから,違法と評価することはできない。」との当裁判所の見解(当庁平成16年10月20日判決参照)は変更されなければならない。

(エ) なお,会派内での意思統一や了承が必要であるとする考え方に対しては,1人会派の存在を認めている場合には,議員個人への政務調査費の交付を認めるのと差異がないようにも思われるが,会派の構成は固定的なものではなく,構成員の入れ替わりや合従連衡が行われることがあるから,ある時点で1人会派であったとしても,将来的には構成員が複数になる可能性もあり,その時に備えて体制を整えている必要があると考えられるから,1人会派を含めた「会派」への交付を「議員」への交付と異なるものと考えることができる。

(オ) ところで,1審被告や参加人民主・市民ネット及び参加人公明党は,会派の代表者の承認により,会派の了解を得たことになり,いわゆる会派性の要件は満たしていると主張する。しかしながら,会派の代表者の承認があるからといって,会派としての意思統一があるかは疑問であるばかりでなく,このような主張を是認した場合,使途基準の適合性を判断するのは議員個人であるのに対して,その支出に最終的責任を持つのは会派であるということになり,判断と責任との分離を招きかねないから,責任は判断者が負うとの原則に反することになり,会派の代表者の承認があれば,会派性の要件が満たされると言うことはできない。

ウ 会派性に関する1審原告らのその余の主張について

ところで,1審原告らは,「会派としての調査活動」と言えるためには,調査報告書の作成とその保存,調査活動のその後の活用がなければならないと主張するので検討する。

(ア) 政務調査費の交付先を「会派」とする実質的理由が上記のとおりであるとすると,会派としては,会派に集う多種多様な専門性,経験,背景等を持つ議員がそれぞれの知識経験に基づき,市政に関連する様々な問題を集団により多角的に討議することが必要であり,所属の議員個人が行った具体的な調査結果もまた,会派の所属議員の中で共有化する必要がある。そして,その方法としては,報告会などの形式も考えられるものの,報告会では欠席者が出たり,報告会後に会派に加入した者との間で情報の共有化が図られにくく,報告会の記録を残すより,調査研究を行った当該議員が報告書を作成することが,直接的であるし,会派における後の財産ともなると言える。また,調査報告書によって,具体的な調査研究の内容が明らかになり,どのような調査研究が行われたかを明らかにすることができるから,その意味においても調査報告書の作成は不可欠であると言える。

そして,調査報告書には,市政との関連性,調査活動の目的や調査活動の内容に加え,市政の課題等対してどのように参考になるかなどの事項が記載されることが望ましい。

しかしながら,「会派が行う調査活動」かどうかの判断が,調査報告書の内容によって左右されると考えるのは相当ではない。調査報告書は,事後的に作成されるものであり,事前における会派内での意思統一や了承の下に調査活動が行われる限りにおいては,当該議員の調査活動は,「会派で行う」ものと認められるからである。調査報告書の記載内容は,飽くまでも,当該会派ひいては当該議員の自主性に任せるべきであり,そのため,当該会派ないし当該議員の市政に対する知識が不十分となった場合には,それが市議会等の審議に反映することとなり,市民からの信頼を失い,ひいては,選挙による審判により議員の身分を失うことになる。その意味で,調査報告書の内容は,いわば政治責任の範疇に属するものと解すべきである。

(イ) 調査報告書の保存についても,調査報告書が保存されていれば,当該会派の所属議員は,いつでも調査研究の結果を参照でき,新たな調査研究の参考としたり,過去に行われた調査研究と重複した調査研究を避けることができる等の利点もあることが考えられるから,調査報告書が保存されていることは望ましいことである。しかしながら,調査報告書をどのように保存するかも事後的な問題であり,調査報告書の記載内容に関する判断と同様の理由で政治責任の範疇に属するにすぎず,会派性の有無を左右するとは言えない。

(ウ) 1審原告らは,調査研究が,その後の会派の活動に活用されなければならないと主張する。

確かに,政務調査費が市政を担う議員の調査活動の基盤を充実させるために会派に支給されることからすると,会派の調査活動が市政に役立つものであることが必要である。しかしながら,例えば調査旅費に関して言えば,先進地調査については,調査研究の結果,調査研究をした課題について,会派として取り上げないとか,時機を見て取り上げるなどとの判断があり得るのであって,調査活動の結果をどのように取り扱うかは,独立の存在として会派の存在が認められている以上,各会派が広範な裁量権を持ち,その会派の判断は,尊重されなければならない。したがって,調査活動の結果が議会や委員会の質問や会派の政策提言に盛り込まれないからといって,当該調査活動が会派の調査活動として無駄であったとか,無意味であったとか言うことはできない。調査活動の結果が,その後の会派への活動に役立ったかどうかは,問われないと言うべきである。

このように考えると,会派の調査であれば,政務調査費の支出には成果が問われないとの批判もあり得るが,仮に,具体的な成果をもたらさない調査活動ばかりを行っていると,それが市議会等の審議に反映することとなり,選挙の際に住民の審判を受けることになるのであるから,その意味では,会派としても政務調査費の支出には政治責任を負っているのであり,調査活動の成果を問われないとは言えない。

4  本件各支出の適法性の個別的検討

(1)  本件各支出の前提となる調査活動が「会派の行う」ものと言えるかどうかについて検討する。

ア 参加人民主・市民ネットに係る番号1ないし6,市政クラブに係る番号12及び13並びに新政21に係る番号14の各支出については,1審被告は,具体的な調査活動ごとに,その活動等の内容及びこれに必要な政務調査費からの支出を求める金額を会派に申請し,会派代表者及び経理責任者からその活動内容及び金額の承認を得た上で,経理責任者からその金員の交付を受けていると主張し,それに沿う証拠(乙13)も存在する。

しかしながら,上記1審被告の主張が採用できないことは前述のとおりであり,したがって,上記各支出については,「会派の行う」調査活動と言える要件を満たしていないと言わざるを得ない。

よって,上記の各支出は,本件使途基準に反する支出であると認められる。

イ 参加人公明党に係る番号7ないし11の各支出については,1審被告及び参加人公明党は,調査活動に当たり,所属議員で事前の打合せを行っており,所属する各議員の調査活動の共通認識化を図っていると主張し,証人であるC7議員も,当審法廷においてそのように供述する部分が見受けられる。しかし,参加人公明党も,原審においては,上記アと同様にして,政務調査費の支出をしていたと主張していたこと,C7議員の証言では,上記各支出について,どのようなやり取りがあったのか,通常どのようなやり取りをしているか等について具体的に述べられず,重複しそうな調査についても具体的な調整を行ったことはないというのであるから,参加人公明党が主張するような体制で,所属議員が行う調査活動についても,参加人公明党内で上記各支出の前提となる調査活動についての意思統一がなされ,当該調査活動が会派として行うものであるとの会派の了承があったと認めることはできず,参加人公明党においても,参加人公明党に係る本件各支出が,「会派の行う」調査活動と言える要件を満たしていないと言わざるを得ない。

よって,上記の各支出は,本件使途基準に反する支出であると認められる。

ウ 新緑クラブに係る番号15及び16の各支出は,同クラブの所属議員全員が視察旅行に参加し,マリンタワーやうつくしま未来博に入場しており,「会派の行う」調査研修としての会派内での意思統一が図られ,会派で行うものであるとの会派の了承が得られていることは明らかであると言える。

エ 市民クラブに係る番号17及び18の各支出は,同クラブが当時1人会派であった(乙10)ことから,会派としての調査資料の購入について会派内での意思統一や了承の問題は生じない。

オ 以上によれば,番号1ないし14の各支出は,「会派の行う」調査研究等のための支出と言えるための要件を満たしておらず,本件使途基準に合致しない支出であるから,違法と言うべきである。

(2)  「会派性」以外の本件各支出の適法性の要件について

ア 本件各支出の公益性について

1審原告らは,本件各支出にかかる調査活動に公益性がなく,したがって,本件各支出は,本件使途基準に違反して違法であると主張する。そして,例えば調査旅費について考えると,政務調査費を使用した調査出張に公益性があると言えるためには,①普通公共団体の施策等について見聞を広めることを目的として日程,訪問地等が選定されていること,②上記目的に沿って訪問調査が実施されていること,③訪問先で中味のある説明や質疑応答がされていること,④訪問調査が行程の主要な部分を占めていること,⑤旅行の費用が目的・効果との関係で著しく高額ではないこと,という各要件を満たしていなければならず,言い換えれば,調査の目的及び内容が市政との関連性を有していることが必要であるとする。

そして,各会派や議員が1審原告らの主張する①ないし⑤の内容を実践することは,調査研究に必要な先進地調査や現地調査にとって,望ましいものであることは言うまでもない。

しかし,1審原告らの主張する公益性という言葉は,原審における平成15年8月16日付け準備書面で始めて使用されている。そして,その主張の要旨は,本件条例により各会派に交付される政務調査費は,法232条の2に定める補助金であり,「公益上必要がある場合」にのみ支出することができると言うものである。しかしながら,本件条例に基づく政務調査費の交付根拠は,法100条12項(当時)であって,法232条の2ではないから,上記1審原告らの主張は,その前提を欠き,失当と言わざるを得ない。

イ 函館市政との関連性について

もっとも,政務調査費が地方議会の審議能力を強化して,その活性化を図るために支出されるものであり,地方公共団体の公金から支出されるのであるから,会派が行う調査活動が市政と無関係に行われることは許されない。

したがって,会派の行う調査活動については,少なくとも,函館市政との関連性が必要であると言うべきであり,この関連性を欠く調査活動は,本件使途基準に反する違法なものと言うことになる。

ウ 函館市政との関連性の判断基準

ところで,調査研究の市政との関連性の要件を検討するについては,会派が,議会の中で,政治的な1つの主体となって活動していること,会派の活動は,様々な政治課題や市民生活に係わり,会派の構成員が,議会の議員であり,その専門性や関心も多様であって,議員が全人格的活動を行い,議員活動について政治責任を負っていることを考えれば,その調査対象は極めて広範なものにならざるを得ず,調査活動の函館市政との関連性,その目的,日程,訪問先,調査方法,必要性等も極めて広範な裁量の下に行われるものであると認められる。

そうすると,会派として意思統一がなされ調査活動をすることが了承された以上は,市政との関連性の要件も,原則として,その裁量権が尊重されなければならないから,飲食費であるとか家族旅行の旅費等のように一見明らかに市政とは無関係であるとか,極めて不相当な日程や著しく高額なもの等以外は,これを認めるのが相当である。そして,その裁量権の逸脱がある場合についてのみ,違法の問題が生じると言うべきである。

(3)  そこで,以下においては,本件各支出の前提となる各調査活動について,裁量権の逸脱があるかどうかを個別に検討するが,上記(1)のとおり,本件各支出のうち番号1ないし14の支出については適法性に欠けるから,以下,本件各支出のうち番号15ないし18の支出について検討する。

ア 番号15,16の支出について

前記2(13)で認定した事実によれば,C9議員らは,本件水族館及び本件博物館の視察を主たる目的として福島県いわき市及び須賀川市へ出張(もっともC9議員以外の3名は個人行政視察費による出張である。)し,本件水族館の近隣に所在する本件展望台には小名浜港の港湾整備状況等の視察を目的として入場したと認められる。そうすると,函館市において水族館等の観光施設の整備や港湾の整備が課題とされていたことに照らせば,その目的は市政と関連性を有すると言える。

また,C9議員らは,いわき市においては,本件水族館を視察して関係者から説明を受け,隣接する公園内の本件展望台から小名浜港を視察するなどし,須賀川市においても本件博覧会を視察したほか,須賀川市役所を訪問して同市長と面談するなど,目的に沿った合理的行動もしていると認められるから,C9議員らの視察は,市政に関連するものと認められ,C9議員が,個人行政視察費での出張をしている他の3人分を含めた4人分をまとめて支払い,会派に対して政務調査費の請求をしている点も見受けられるが,裁量権の逸脱がある違法なものであるとまでは認められない。

1審原告らは,C9議員とともに視察したとされる他の3名が政務調査費を使用せず自費で視察しており,一貫性がなく不可解であるなどとするが,他の3名は,個人行政視察費を使用したものであり,議員4名で視察に行っていることは明らかであるから(乙E1),1審原告らの主張は理由がない。

さらに,1審原告らは,会派の議員全員で行く必要性についても,懇親旅行であることを疑い,問題視するが,各議員がそれぞれの立場,見識で視察すること自体が不相当とは言えず,他に懇親旅行であったとの証拠も見受けられない。

イ 番号17,18の支出について

前記2(14)アで認定のとおり,函館市は海外の姉妹都市を多く持ち,国際交流が盛んな都市であると認められ,姉妹都市等との交流の推進,国際会議等の誘致等を政策課題としていることが認められる。

C2議員は,こうした国際交流には,英語の習得が欠かせず,かつ,英語を習得し,英語で会話をすることで,かなりの用が足せると考えており,そのために英語教材や教材のためのCDプレーヤー等を購入したのであり,英語の習得自体が,市政に関連しないとも言えない。

1審原告らは,自らの資質向上のために研修,研さんに努めることは,自己の負担で行うべきであり,公費である政務調査費を使用することは許されないと主張する。

確かに,英会話の上達のために英語を習得する場合,それに掛かる費用は個人で負担すべきであるとの考えも当然あり得るけれども,C2議員は,議員の職務のために英会話を上達させようと思い,職務遂行のために必要な費用と考え,英語教材やCDプレーヤー等を購入したのであり,そのような考え方が全く許されないとも言い難いし,議員の資質向上は,全人格的活動を行う議員にとって望ましいものであって,研修,研さんのために政務調査費を使用することは,研究研修費や資料購入費が認められている以上,市政に関連するものとして許容されていると言うべきである。そして,函館市が国際交流を推進している以上,それに資する英語教材やその利用のための機材の購入も,市政に関連するものと言うべきであり,裁量権の逸脱があったと言うこともできない。

(4)  以上の検討によれば,本件各支出のうち,番号1ないし14の各支出は,会派による調査活動と認められない点で,本件使途基準に反する違法があると言うべきであるが,番号15ないし18の各支出は,本件使途基準に反する違法があるとは言えない。

(5)  なお,政務調査費は地方公共団体の公金から交付されるものであり,その原資は住民等の税金によるところ,昨今において,地方公共団体の中には,財政再建団体に転落するものもあり,函館市においても予断を許さないように仄聞するところであって,各会派に交付される函館市の政務調査費は,そのような財政難の中で支出されるものであるから,政務調査費の使途目的,使途内容や使途金額が明らかにされ,そして,その会派の調査活動の結果が函館市政のためにどのように結実したかが問われなければならない。前説示のとおり,領収書の添付や調査活動の調査報告書が適正に作成,保存され,その後の会派の活動に活用されることが望ましいことは言うまでもない。政務調査費のうち特に調査旅費については,函館市が観光都市を標榜している以上,他の地方公共団体の観光行政を調査する名目で物見遊山を行っても函館市政との関連性があることになるから,先進地調査や現地調査が議員個人の単なる観光見物と誤解されないためにも,訪問先で中味のある説明や質疑応答がされることが必要であり,そのためには,あらかじめ,訪問先の担当者と連絡を取ったり,訪問先での面談者を記録する等,調査活動による現地調査等であることが明白とされるべきである。さらに,現地調査においては,安易に現地に訪れるのではなく,当該先進地調査や現地調査等が本当に必要であるかどうかを厳密に検討し,パンフレットを取り寄せたり,文書によって問い合わせたりするなど他の方法で調査目的が達成されるならば,それによるべきものである。

そして,これまで,本件各会派において,上記の点が必ずしも十分に理解されておらず,提出された証拠上は不十分と見受けられるものもあり,1審原告らの指摘がもっともな面も否定できないが,上記のとおり,その不十分さは,政治責任の範疇にあるのであって,当不当の問題は生じても,本件各支出が違法とまでは言えないことから,上記検討結果に至ったものであるが,今後,政務調査費が,適正に活用されるためには,函館市議会の各会派に,上記検討結果を踏まえた調査活動が行われることを期待する。

5  結論

以上のとおりであるから,参加人民主・市民ネットに係る番号1ないし6の各支出,参加人公明党に係る番号7ないし11の各支出,市政クラブに係る番号12及び13及び新政21に係る番号14の各支出については,その支出にそもそも会派性が認められず,参加人民主・市民ネットは,その支出金額76万2370円を,参加人公明党は,その支出金額22万4000円を,市政クラブは,その支出金額9万5040円を,新政21は,その支出金額7万7760円を,それぞれ函館市に対し返還すべき義務を負う。

したがって,1審原告らの請求は,1審被告に対し,参加人民主・市民ネットに76万2370円及びこれに対する平成15年3月1日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を,参加人公明党に22万4000円及びこれに対する平成15年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を,市政クラブに9万5040円及びこれに対する平成15年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を,新政21に7万7760円及びこれに対する平成15年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を,それぞれ請求することを求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却すべきである。

よって,上記と異なる原判決は変更すべきであり,1審原告らの控訴にはその限度で理由があり,かつ,1審被告の控訴もその限度で理由があるから,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 末永進 裁判官 千葉和則 裁判官 杉浦徳宏)

(別紙政務調査費支出一覧表は添付省略)

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