札幌高等裁判所 平成17年(行コ)6号 判決 2007年12月20日
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 控訴人が平成14年11月6日付けで被控訴人に対してした原判決別紙物件目録記載の建物に係る不動産取得税の賦課決定のうち,課税標準額1億4192万9000円,税額567万7100円を超える部分を取り消す。
3 被控訴人のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は第1,2審を通じてこれを5分し,その2を控訴人の負担とし,その3を被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は控訴人の負担とする。
第2事案の概要
次のとおり補正し,当審における当事者の主張を追加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の補正
(1) 原判決2頁7行目の「評価」の次に「等」を加える。
(2) 同3頁15行目の「花崗岩(以下「本件花崗岩」という。)」を「中華人民共和国(以下「中国」という。)産花崗岩(600mm角で厚さ20mmの本磨きのものである<甲37,乙13の4,弁論の全趣旨>。以下「本件花崗岩」という。)」と改め,同頁24行目の「標準評点」の次に「数」を加える。
(3) 同7頁9行目の「形成」を「成形」と改める。
(4) 同8頁10行目から11行目にかけての「このほかに」の次に「普通作業員の作業とされる」を加える。
2 当審における当事者の主張
(1) 原判決がした補正について
ア 控訴人
原判決は,結局のところ,被控訴人が提出した平成15年11月ないし平成16年5月ころの被控訴人宛の見積書及び平成16年8月ないし同年9月ころの被控訴人と取引関係がある業者等に宛てた見積書により資材費評点数を補正し,平成11年11月ないし平成15年5月ころの労務費の見積価格及び平成16年8月ないし同年9月に施工された別の家屋の推計労務費等により労務費評点数及び下地その他の評点数を補正している。しかし,資材費評点数の補正については,平成10年1月現在の東京都(特別区の区域)における物価水準により補正すべきであるが,上記見積書によって平成10年1月現在の東京都の物価水準を把握することは,およそ不可能であるし,労務費評点数及び下地その他の評点数の補正についてみると,本件評価基準においては,単位当たりの標準評点数について所要の評点項目及び標準評点数がないとき,その他家屋の実態からみて特に必要があるときは,単位当たりの標準評点数に所要の補正を行い,これを適用することができるものとされているが,本件評価基準上,床仕上げの花崗岩張り労務費評点数及び下地その他の評点数は,国産石,輸入石の別にかかわらず,それぞれ一律に1万0427点,616点と定められているから,労務費等については中国産花崗岩と国産花崗岩とで別個に取り扱う必要性はなく,所要の補正を要する場合には当たらない。したがって,原判決がした補正は,本件評価基準が予定する補正の範囲を逸脱しており,実質において,本件評価基準自体を否定するものと異ならない。
イ 被控訴人
本件評価基準に所要の評点項目及び標準評点数がないとき,その他家屋の実態からみて特に必要があるときは,所要の補正を加えたうえで評価を行うことが可能とされており,本件評価基準自体が多種多様な工事内容に対応できる仕組みを用意している。また,再建築評点基準表に示されていない資材についていかなる評点を定めるべきかについて,旧自治省から各自治体に対し,①他の用途別から(評点を)転用する方法,②類似の評点項目の標準評点数を補正する方法,③取得価格等を参考に標準評点数を求める方法が示され,取得価格の調査方法については必ずしも積算資料等のいわゆる物価本に限られず,また,最新の物価基準によるべきとの考え方がとられ,さらに,市町村間の均衡にも十分な配慮が求められている。
原判決は,価格時点の相違にも注意を払いながら,多種多様な資料から一般的な市場価格を認定しているのであり,上記のような本件評価基準や固定資産評価基準の運用に関する行政庁の指針にもむしろ合致するものである。
(2) 本件評価基準の適用の誤り,本件評価基準によっては本件建物の再建築費を適切に算定することができない特別の事情について
ア 被控訴人
(ア) 本件評価基準における国産品並級品の標準評点数は,財団法人a(以下「a」という。)発行の「○○」(以下「○○」という。)及び財団法人b発行の「△△」(以下「△△」という。)を参照して決定されたが,とりわけ○○に大きく依拠していた。ところで,○○作成のための価格調査は,取扱高が比較的大きく信頼度の高い業者4社前後からのヒアリングのみによって行われたものであって,非常に限られた条件の中で小規模に行われたものであり,また,調査対象となる製品がいわゆる注文品に限られていたのであるから,本件建物取得時の花崗岩石材全般の価格が○○の掲載価格と同一水準にあったとはいえない。特に,本件花崗岩はいわゆる規格品に該当するものであって,いわゆる注文品に比べて安価なものであるから,本件花崗岩には本件評価基準は妥当しない。
また,本件建物に適用される本件評価基準の価格調査時点となった平成10年1月には,中国産花崗岩は輸入花崗岩資材のほとんどを占め,決して新種のマイナーな資材であった訳ではないにもかかわらず,本件評価基準は,このような資材を全く想定せず,国産石を下回る価格で取引されている資材について標準評点数を定めることがないのはもちろん,輸入石が国産石よりも高価であるとの前提の下に標準評点数を定めており,このこと自体に不備がある。
(イ) 固定資産評価基準が依拠している○○によれば,花崗岩・並級・磨き仕上げ・厚さ20mmの東京都における価格は,本件評価基準の価格調査時点である平成10年1月が2万3000円であるのに対し,本件建物取得の1月前である平成14年5月が1万3700円である。このような事後における価格変動は,本件評価基準作成時には何ら想定されていなかったものである。
(ウ) 本件評価基準は,下地となる砂を敷き詰めた後,一度資材を仮に配置し(仮据え),これをはがした後に「ノロ」と呼ばれる接着剤をまいて石を接着させる(本据え)という工程が前提となっているが,本件建物を建設する際には「仮据え」を行っておらず,各工事請負会社の労務単価も1m2あたり,せいぜい3000円~4000円程度にとどまっていた。このような工事方法を前提とすると,本件建物の床工事は,仮据え,本据えが行われた床工事に比して,明らかに仕上げのレベルが異なっているのであるから,補正項目のうち,「仕上げの程度」について減点補正を加え,0.9を評点数に乗じるべきである。
イ 控訴人
固定資産評価基準に定める方法によっては再建築費を適切に算定することができない「特別の事情」とは,固定資産評価基準に従って再建築価格方式により家屋を評価するという枠組自体の正当性を失わせるような事情を指すものと解される。
(ア) ○○の掲載価格は,所定の条件下で調査した結果,原則として最も頻度の高い取引価格(最頻値)をもって決定されており,掲載価格の決定に当たっては会議の場で最終検討を行うほか,調査内容に関する内部審査も行っており,さらに,○○の発行者であるaは,品質マネジメントシステムの国際規格であるISO9001について,第三者である登録審査機関の認証を取得し,この規格に基づいて行った調査の結果を掲載している。したがって,○○は,極めて信頼性の高い,客観的な統計資料であって,○○の掲載価格は十分信頼に値するものである。
(イ) 不動産取得時において課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産については,固定資産評価基準によって,当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定することとされているのであるから,固定資産税の評価額が基準年度から第3年度までの間据え置かれるのと同様,同基準に定める標準評点数も,基準年度から第3年度までの間に当然個別資材の価格変動があることを前提としつつ,原則として同一の評点で評価することが法の趣旨に合致した統一的な固定資産評価基準の運用であり,その見直しは3年に1度行われるものである。また,平成10年1月の東京都における△△を指標として作成されている本件評価基準を用いることについては,固定資産評価基準の標準評点数の積算の基礎となっている価格を決するにあたり,市場の調査を行うには相当程度の時間を要する一方で,どんなに精緻な調査を行ったとしても,市場で行われている全ての取引価格の調査を行うことなどおよそ不可能なのであるから,固定資産評価基準の標準評点数自体,一定程度の誤差を内包するのは避けられないのであって,法は,この程度の誤差については制度上やむを得ないものとして許容しているものというべきである。
確かに,本件においては,○○によると花崗岩の価格が本件評価基準の基礎となった平成10年1月には2万3000円であったものが,本件建物新築時の平成14年6月には1万2400円と約46パーセント低下しているが,仮にそれを前提として評価したとしても,本件建物全体の評価額自体は,約8.5パーセントの減少にすぎない。この程度の価格の変動は,法自体が許容していると解されるのであり,そうでないとすれば,課税庁は全ての個別資材について毎年度価格調査を行い,標準評点数を補正した上で,評価を行わなければならないこととなり,大量に存在する課税対象となる固定資産について,税負担の安定を図り,課税事務の簡易・迅速化を図るために固定資産評価基準を設けた法の趣旨を没却することとなる。
したがって,本件においては,個別資材の価格変動があったとしても,上記の法の趣旨から,本件評価基準に定める標準評点数をそのまま適用することも許容される範囲であって,固定資産評価基準が定める方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情があるとは認められない。
(ウ) 本件評価基準において示される標準評点数は,標準施工のもとにおける工事費を基礎として積算されており,再建築費評点基準表に定められた標準量と異なる施工量又は施工方法による家屋については,実態に適合させるための補正項目として,床仕上げについては「床仕上げ面積の大小」又は「施工の程度」が示され,また,床仕上げ・花崗岩・国産石・並の標準施工については,その下地がモルタルとして積算されているものである。
控訴人は,本件建物について,現地調査の結果等に基づき,床仕上げについては,下地をモルタルとする施工方法がとられていることを確認した上で,石材の割れ,床仕上げの著しい不陸等が見られなかったことから,「施工の程度」による補正については普通1.0と評価したものである。
本件建物の床仕上げの評価については,上記のとおり,本件評価基準に則り適正に算出されたものであって,被控訴人が主張するような「人造石」の基準を利用したり,花崗岩の標準評点数に対し減額補正を加えるような必要性は認められないし,かつ,最高裁判所平成19年3月22日第一小法廷判決が判示するとおり,安価な労務費で足りる工法を採用して床仕上げを行ったとしても,それらは不動産の評価を左右するものではないのであるから,被控訴人の主張は理由がない。
第3当裁判所の判断
1 本件建物は,平成14年6月24日に新築された建物であり(前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の第2の1の(2)のア),本件課税処分時(同年11月6日)には,固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていなかったところ,このような不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格については,法388条1項の固定資産評価基準によって決定されることとなる(法73条の21第2項)。
ところで,法は,不動産取得税の課税標準となるべき不動産の価格とは,不動産を取得した時における適正な時価(法73条5号,73条の13第1項)をいう旨規定し,固定資産税の課税標準である土地又は家屋の価格の意義について定める法341条5号,349条1項と同様の規定を置いている。そうすると,法73条の21第2項により決定されるべき上記の不動産の価格とは,固定資産税の課税標準である土地又は家屋の価格と同様に,正常な条件の下に成立する当該不動産の取得時におけるその取引価格,すなわち,客観的な交換価値をいうと解される。そして,法は,固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を総務大臣の告示である固定資産評価基準に委ね(法388条1項),市町村長は,同基準によって固定資産の価格を決定しなければならないと定めており(法403条1項),固定資産評価基準が適正な時価を算定するための1つの合理的方法であるとするものであるから,同基準に従って決定された不動産の価格が上記の客観的な交換価値を上回るものであれば,当該価格の決定は違法となると解される(最高裁判所平成13年(行ヒ)第224号同16年10月29日第二小法廷判決・裁判集民事215号485頁,最高裁判所平成10年(行ヒ)第41号同15年6月26日第一小法廷判決・民集57巻6号723頁)。
2 本件評価基準が定める家屋の評価方法は,次のとおりである(乙2,6,18)。
(1) 家屋の評価は,木造家屋及び木造家屋以外の家屋(以下「非木造家屋」という。)の区分に従い,各個の家屋について評点数を付設し,当該評点数に評点1点当たりの価額を乗じて各個の家屋の価額を求める方法によるものとする。各個の家屋の評点数は,当該家屋の再建築費評点数を基礎として付設する。
(2) 非木造家屋の再建築費評点数は,「部分別による再建築費評点数の算出方法」により求めることができる。この場合,非木造家屋再建築費評点基準表(以下「評点基準表」という。)を適用し,主体構造部,基礎工事等の各部分別に標準評点数を求め,これに計算単位の数値を乗じるなどして算出した部分別再建築費評点数を合計して,再建築費評点数を求める。
(3) 評点基準表が定める標準評点数は,評点項目の区分に従い,標準量(標準的な家屋の各部分別の単位当たり施工量)に対する工事費を基礎として算出されたものであり,評点項目は,各部分ごとに一般的に使用されている資材の種別及び品等,施工の態様等の区分によって標準評点数を付設するための項目として定められているものである。再建築費評点数の付設に当たっては,家屋の各部分を調査し,各部分の使用資材の種別,品等,施工の態様等に応じ,該当する評点項目について定められている標準評点数を求める。評点基準表に所要の評点項目及び標準評点数がないとき,その他家屋の実態からみて特に必要があるときは,評点基準表につき所要の補正を行い,これを適用することができる。
(4) 本件評価基準における評点基準表が定める標準評点数は,基準年度(平成12基準年度)の賦課期日が属する年の2年前の1月である平成10年1月現在の東京都(特別区の区域)における物価水準により算定した工事原価に相当する費用に基づいて,その費用の1円を1点として表したものである。
(5) 事務所,店舗及び百貨店用建物について適用される評点基準表(本件評価基準別表12。以下「本件評点基準表」という。)においては,床仕上げの部分の評点項目として大理石,花崗岩,人造石ブロックなどが設けられている。花崗岩(磨き仕上げのものをいう。以下同じ。)については,国産石,輸入石の二つの項目に分けられ,国産石は更に上,中,並の三つの項目に分けられている。このうち,磨き仕上げで標準評点数が最も低いのは,評点項目「国産石・並」の3万3040点(1m2当たりの点数。以下同じ。)であり,最も高いのは,評点項目「輸入石」の4万6640点である。上記の標準評点数は,資材費,労務費,下地その他の評点数の合計として算定されており,上記の評点項目「国産石・並」の花崗岩の標準評点数3万3040点は,資材費評点数2万2000点,労務費評点数1万0427点,下地その他の評点数616点から成る(合計点は10点未満切捨て)。
3 標準評点数のうち,資材費については,○○及び△△だけを参照して決定され,労務費については,労働省(当時)による調査結果である「屋外労働者職種別賃金調査」を参考として得られた石工の単価,財団法人b発行の「●●」等を参考として得られた人員数によって決定された(甲68の2)。
aは,例年4社程度を対象とし,調査先と面接して花崗岩の価格調査を行っているが,業者に対するヒアリングを基にaの判断基準に基づき,花崗岩を上級,中級,並級の3ランクに分類し,並級品の調査対象製品は,○○の平成8年1月号から平成14年1月号までは,藤岡,加平,議院石,抱川,中国361・306・603であったが,平成14年2月号からは,加平,抱川,中国361・306・603となり,平成17年5月号以降はすべて中国産花崗岩となった(甲69の1及び3,73の1ないし10,乙12,54の1ないし4,58。藤岡及び議院石は国産,加平及び抱川は韓国産である<弁論の全趣旨>。)。
△△では,平成8年8月号から平成16年2月号まで,花崗岩・並級品として国産の藤岡,恵那,尾立及び韓国産の加平を価格調査対象としていた(甲48,52の1ないし7,乙54の5ないし11)。
○○及び△△は,全国の主要地区における各種資材価格及び建設工事費等の実態を定期的に調査研究し,取引の実例が最も多かった価格(最頻値)が掲載されており,掲載価格の決定の際には内部的な審査が行われている(乙19,20)。
○○に掲載された価格は,現場単位で発注される注文品を対象とするものであり,あらかじめ工場で一定の寸法に整えられた規格石材を対象とするものではない(甲69の1及び3)。
本件花崗岩は,注文品である(乙24)。
本件花崗岩と同じ厚さ20mmで本磨き仕上げの花崗岩のうち最も安価な価格帯に属する並級品の1m2当たりの価格(・※市内現場持込み)は,平成10年2月号(平成9年12月25日~平成10年1月6日調べ)の○○(乙12)によれば,2万3000円(東京都のもの),平成10年2月号(平成9年12月22日~平成10年1月6日調べ)の△△(甲48)によれば,1万8600円(関東のもの)である。
4 前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の第2の1の(2)のとおり,控訴人は,被控訴人から提出された本件建物の不動産取得申告書により被控訴人が本件建物を新築により取得したことを認識し,不動産取得税家屋評価のための調査を実施した。そして,控訴人は,原判決別紙再建築費評点数一覧表記載のとおり,本件評価基準(乙2)に基づき本件建物の部分別評点数を付設し,再建築費評点数を決定した上で本件建物の評価額を算出し,これにより課税標準額及び税額を決定した。その際,控訴人は,本件花崗岩の標準評点数の付設について,○○が中国産の花崗岩(G361,306,603)が国産の花崗岩の並級品と同等に位置付けられていること(乙12)を参酌して,国産石並に係る標準評点数を適用した。
5 本件評価基準に基づく本件建物の評価の方法は,再建築価格方式によるものであるが,再建築価格は,家屋の価格の構成要素として基本的なものであり,個別的な事情による偏差が少なく,その評価の方式化も比較的容易であるから(乙5),同方式は,家屋の評価方法として合理的な方法であるということができる。そして,本件評点基準表に示されている標準評点数も,上記の方法で定められているのであるから,合理的なものということができる。
これらのことからすれば,控訴人が本件評価基準の適用を誤っていない限り,控訴人が決定した本件建物の不動産取得税の課税標準となるべき価格は,一応の合理性を有する価格であるということができるから,固定資産評価基準によっては本件建物の再建築費を適切に算定することができないといった特別の事情がない限り,同価格は適正な時価を反映していると解される(最高裁判所平成11年(行ヒ)第182号同15年7月18日第二小法廷判決・裁判集民事210号283頁参照)。
6 被控訴人は,控訴人が本件花崗岩を評価するに当たり,国産石並として評点数を付設したことは,適正な時価を上回る評価であって,違法であり,これについては,人造テラゾーブロックタイルの標準評点数を用いるべきと主張するので検討する。
(1) 前記3で認定したところによれば,本件評点基準表に設けられた評点項目は,各部分ごとに一般的に使用されている資材の種別及び品等,施工の態様等の区分によって標準評点数を付設するための項目として定められたものであるというのであるから,各部分の資材の種別及び品等,施工の態様等が,ある評点項目及び標準評点数の予定する範囲内のものであると評価することができる限り,当該評点項目の標準評点数を付設することができるというべきである。
(2) これを本件についてみると,前記3及び4で認定したところによれば,本件評点基準表に定められた花崗岩の評点項目「国産石・並・磨き仕上げ」が前提とする資材の標準評点数(2万2000点)は,平成10年2月号の○○(乙12)に記載された国産,韓国産,中国産の花崗岩の並級品の価格(前記4で認定したところによれば,この価格は信頼性を有するものということができ,この認定を覆すに足りる的確な資料はない<品等,時期,引渡場所等が異なれば価格は当然異なってくるところ,控訴人が提出する鑑定書,見積書,カタログ等は厚さ20mmで本磨きの花崗岩の並級品の平成10年1月現在の都市内現場渡しの価格を示すものではない。>。)である2万3000円とおおむね同一の水準にあったというのであるから,上記の評点項目及び標準評点数は,中国産の花崗岩にもあてはまるものというべきである。そして,本件花崗岩は,前記のとおり注文品であったのであり,本件花崗岩について,平成10年1月当時,上記の評点項目及び標準評点数が予定するものと大きく異なる市場価格が形成されていたことを認めるに足りる証拠はない。また,被控訴人が本件建物を取得した当時,その床仕上げの施工の結果は花崗岩による床仕上げとして通常期待されるものよりも劣るものではなかった(弁論の全趣旨)。
そうすると,本件花崗岩は,本件評価基準上は上記の評点項目及び標準評点数が予定する範囲内のものであると評価することができるというべきであり,控訴人が本件花崗岩の評価に当たって本件評点基準表のうち最も安価な花崗岩の評点項目「国産石・並・磨き仕上げ」及び「国産石・並・小叩仕上げ」(中国産花崗岩のうち「小叩仕上げ」についても「磨き仕上げ」について述べたところがそのまま当てはまると推認される。)の標準評点数を付設したこと自体は本件評価基準の適用を誤ったものということはできない。なお,上記のような事情の下においては,仮に被控訴人が本件花崗岩を安価に取得し,安価な労務費で足りる工法を採用して床仕上げを行ったとしても,それらは本件建物の価格の評価を左右するものではなく,本件評価基準が定める方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情に当たるということはできない。
なお,他府県における被控訴人店舗の評価(平成12年ないし平成14年)をみると,床仕上げに使用する中国産御影石が人造テラゾーブロックタイル相当として評価されている例は,原判決別紙評価例一覧表記載のとおり,10数件存在する(甲11の1ないし20)が,他府県の扱い自体が本件に影響を及ぼすものではないから,このことも上記認定判断を左右するものではない。
(3) したがって,被控訴人の主張は理由がない。
7 被控訴人は,本件評価基準が依拠する○○作成のための価格調査は非常に限られた条件の中で小規模に行われたものというべきであり,しかも,調査対象となる製品が注文品に限られているから,注文品に比べて安価な規格品である本件花崗岩には本件評価基準は妥当しない,本件評価基準は平成10年1月当時輸入花崗岩資材のほとんどを占める中国産花崗岩を全く想定していないから,本件評価基準には不備がある旨主張する。
しかし,aによる価格調査の方法等は,前記4で判示したとおりであって,価格調査の方法等として不十分であると認めることはできない。また,本件花崗岩が注文品であることは,前記のとおりである。さらに,○○の平成10年2月号(乙12)に掲載された同年1月時点の価格は,中国産花崗岩も調査対象として決定されたものであるところ,前記のとおり,本件評点基準表は○○にも依拠して作成されたのであるから,本件評価基準が中国産花崗岩を全く想定していないということはできない。したがって,被控訴人の主張は理由がない。
8 被控訴人は,本件評価基準の価格調査時点である平成10年1月から被控訴人による本件建物取得の1月前である平成14年5月までの価格変動は,本件評価基準作成時には想定されていなかった旨主張する。
(1) ○○に掲載されている花崗岩・並級・本磨き仕上げ・厚さ20mmの東京都における都内現場持込みの価格は,本件評価基準の価格調査時点である平成10年1月現在では2万3000円であったものが,被控訴人が本件建物を取得した平成14年6月現在では1万2400円と約46パーセント下落している(乙12,58)。また,△△に掲載されている花崗岩・並級・本磨き仕上げ・厚さ20mmの関東における都市内現場持込み価格についてみても,平成10年1月現在では1万8600円であったものが,平成14年1月現在では1万4100円となり,同年7月には1万2100円と平成10年1月に比べて約35パーセント下落している(甲48,52の7,乙54の9)。
(2) 前記のとおり,固定資産評価基準の評点基準表が定める標準評点数は,基準年度の賦課期日が属する年の2年前の1月現在の東京都(特別区の区域)における物価水準により算定した工事原価に相当する費用に基づいて,その費用の1円を1点として表したものである(乙2)が,このようにされたのは,固定資産評価基準の標準評点数を定めるためには膨大な調査,積算作業,審議等に所要の期間を要するためであると解される。
また,固定資産税の課税標準となる価格は基準年度のものが3年間据え置かれることとされており(法349条1項ないし3項),固定資産評価基準の標準評点数についても3年に一度見直しが行われている(弁論の全趣旨)のは,税負担の安定を図るとともに,課税事務,標準評点数算定事務の簡素化を図ったものと解することができる。
このようなことからすると,基準年度から第3年度までの間に当然個別資材の価格の変動が一定の幅にあることを前提としつつ同一の評点で評価することが法の趣旨に合致するものというべきであり,価格の変動がこのような幅の中にある限りその変動は固定資産評価基準が許容しているものと解すべきであるが,価格の変動が上記の幅を超えた場合には固定資産評価基準の許容範囲を超えたものというべきであり,もはや固定資産評価基準によっては固定資産の再建築費を適切に算定できない特別な事情があると解するのが相当である。
(3) これを本件についてみると,前記のとおり,花崗岩・並級・本磨き仕上げ・厚さ20mmの価格は,本件評価基準の価格調査時点である平成10年1月から被控訴人が本件建物を取得した平成14年6月までの間に○○の掲載価格では1万0600円(約46パーセント)と大幅に下落(△△では平成10年1月から被控訴人が本件建物を取得した直後の平成14年7月までの間に6500円<約35パーセント>下落)しているのであり,本件評価基準において,磨き仕上げの花崗岩の資材費評点数が,国産石・上で2万6000点,国産石・中で2万3500円,国産石・並で2万2000点,輸入石が3万5600点とされ(乙18),評点項目の評点数の差が最小で1500点(国産石・中と国産石・並),最大でも9600点(国産石・上と輸入石)であり,○○による価格の下落幅が上記評点項目の評点数の差(ただし,評点1点当たりの価格を1円とする。)の最大値を超えている(△△による価格の下落幅によっても上記評点項目の評点数の差の最小値を大幅に超えている。)ことも勘案すると,上記価格下落はもはや本件評価基準の許容範囲を超えるものと認めるのが相当である。
(4) 被控訴人の主張は,この趣旨をいうものとして理由がある。
(5) なお,控訴人は,上記の価格下落を前提として評価したとしても,本件建物全体の評価額自体は約8.5パーセントの減少にすぎないから,この程度の価格変動は法が許容している旨主張する。しかしながら,上記のとおり,本件評価基準においては,花崗岩を細かく分類して評点項目及び評点数を定めているのであるから,本件建物全体の評価額の減少が約8.5パーセントにすぎないとしても,上記の価格下落を法が許容しているということはできない。
9 被控訴人は,本件建物を建設する際には「仮据え」を行っていないのであるから,本件建物の床工事は,仮据え,本据えが行われた工事に比して明らかに仕上げのレベルが異なっているとして,「仕上げの程度」についての減点補正を加えるべき旨主張する。しかし,前記のとおり,被控訴人が本件建物を取得した当時,その床仕上げの施工の結果は花崗岩による床仕上げとして通常期待されるものよりも劣るものではなかったのであるから,被控訴人の主張は採用することができない。
10 前記8で判示したとおり,本件評価基準によっては本件建物の再建築費を適切に算定することができない特別の事情があるというべきところ,本件評価基準の価格調査時点である平成10年1月から被控訴人が本件建物を取得した平成14年6月ころまでの間に○○では約46パーセント,△△では約35パーセントの価格下落があったのであるから,適正な時価を算定するためには,本件評点基準表の評点項目「国産石・並」の資材費評点数は少なくとも上記下落率の平均である約40パーセント程度は減じるのが相当である。したがって,本件花崗岩のうち評点項目「国産石・並・磨き仕上げ」の合計評点数は,次式①のとおり2万4243点となるから,10点未満を切り捨てた2万4240点が標準評点数となり,同じく「国産石・並・小叩仕上げ」の合計評点数は,次式②のとおり2万3583点となるから,10点未満を切り捨てた2万3580点が標準評点数となる。したがって,本件花崗岩のうち磨き仕上げの部分には2万4240点を,小叩仕上げ部分には2万3580点を付設するのが相当である。
① (22,000×0.6)+10,427+616=24,243
② (20,900×0.6)+10,427+616=23,583
以上を前提として本件建物の不動産取得税の課税標準及び税額を算出すると,別紙1及び2のとおり,課税標準額は1億4192万9000円,税額は567万7100円となり,本件課税処分のうち上記金額を超える部分は違法であって,取消しを免れない。
第4結論
よって,原判決の一部は相当でないからこれを変更して本件課税処分のうち上記部分を取り消すこととし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤紘基 裁判官 北澤晶 裁判官 中川博文)
<編注:『※』部分は原文のとおり。>