大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 平成18年(ネ)208号 判決 2006年11月21日

東京都新宿区西新宿8丁目2番33号

控訴人

三和ファイナンス株式会社

同代表者代表取締役

●●●

同訴訟代理人弁護士

●●●

旭川市●●●

被控訴人

●●●(以下「被控訴人●●●」という。)

旭川市●●●

被控訴人

●●●(以下「被控訴人●●●」という。)

上記両名訴訟代理人弁護士

富川泰志

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決中控訴人の敗訴部分を取り消す。

(2)  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

(3)  訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。

2  被控訴人ら

主文同旨

第2事案の概要

本件は,①貸金業者である控訴人との間で金銭消費貸借取引をした被控訴人らが控訴人に対し,利息制限法所定の制限を超える割合の利息等を弁済したことについて,民法703条及び704条に基づく不当利得の返還等として,過払金及び過払金に係る商事法定利率年6%(以下,利息又は遅延損害金の利率は「%」をもって表示する。)の割合による利息の支払を求め,②さらに被控訴人●●●が控訴人に対し,控訴人に全取引履歴の開示が拒絶されたことについて,民法709条に基づく損害賠償として,慰謝料20万円,弁護士費用10万円の合計30万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

原判決は,被控訴人●●●の請求についてはこれを認容し,被控訴人●●●の請求については,上記①についてはこれを認容し,上記②については慰謝料10万円,弁護士費用10万円の合計20万円及び上記の遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容し,その余を棄却した。

原判決について,控訴人は本件控訴に及んだが,被控訴人●●●はその請求の一部が棄却されたことについて不服を申し立てていない。

1  請求原因

(1)  控訴人は,貸金業者である。

(2)  被控訴人らの過払金返還請求

ア 被控訴人●●●は,控訴人から,別紙1「利息制限法に基づく法定金利計算書(債務者;●●●)」の「年月日」欄記載の日に,同別紙の「借入金額」欄記載の金額を利息制限法所定の制限利率を上回る利率による利息を支払う旨の約定により借り入れ,又はその元利金の弁済として同別紙の「弁済額」欄記載の金額を支払った。

イ 被控訴人●●●は,控訴人から,別紙2「利息制限法に基づく法定金利計算書(債務者;●●●)」の「年月日」欄記載の日に,同別紙の「借入金額」欄記載の金額を利息制限法所定の制限利率を上回る利率による利息を支払う旨の約定により借り入れ,又はその元利金の弁済として同別紙の「弁済額」欄記載の金額を支払った。

ウ 被控訴人らの控訴人に対する上記の各弁済は,それぞれ,これを利息制限法の制限利率年18%の割合により算出した利息,元金の順に充当すると,ある時点で残元金が零円未満と算出される,いわゆる過払となる。

すなわち,控訴人は,法律上の原因がないのに,被控訴人らの損失において,その過払金を利得したものというべきであるから,民法703条に基づき,被控訴人らそれぞれに対し,不当利得(過払金)の返還債務を負う。

エ また,控訴人は,被控訴人らから元利金の弁済を受けた際,利息制限法の制限利率を超える割合の利息を受領したことを認識しており,悪意の受益者に該当するから,民法704条に基づき,被控訴人らそれぞれに対し,上記の不当利得(過払金)の返還に当たり,これに利息(以下,民法704条の利息を「過払利息」ということがある。)を付さなければならない。

しかるところ,控訴人が商人であり,商事法定利率である年6%を基本として営業していることなどを考慮すると,本件における過払利息は,少なくとも年6%の割合で算出されなければならない。

オ そこで,被控訴人らの控訴人に対する前記の各弁済について,これを利息制限法の制限利率年18%の割合により算出した利息,元金の順に充当し,ある弁済によって残元金が零円未満のいわゆる過払となった場合には,その過払の金額に対する当該弁済の日から次の弁済の日まで年6%の割合による過払利息を累積し,また,過払となった後に借入がなされている場合(被控訴人●●●の場合)には,その借入金額を,過払利息の累積額,過払金の順に充当して計算すると,被控訴人●●●については,別紙1「利息制限法に基づく法定金利計算書(債務者;●●●)」に記載のとおり,その最終弁済日である平成15年1月18日の時点で,過払金は23万0431円,過払利息の累積額は1万6577円と算出され,被控訴人●●●については,別紙2「利息制限法に基づく法定金利計算書(債務者;●●●)」に記載のとおり,その最終弁済日である平成16年3月9日の時点で,過払金は77万7905円,過払利息の累積額は9万0650円と算出される。

(3)  被控訴人●●●の損害賠償請求

ア(ア) 被控訴人●●●は,控訴人以外の合計12社の貸金業者等に対して合計461万2049円の負債(ただし,利息制限法の制限利率による利息の引き直し計算前の金額。)を抱えた多重債務者であったことから,本件の被控訴人ら訴訟代理人弁護士(以下「被控訴人ら代理人」という。)に対して債務整理を委任し,被控訴人ら代理人は,控訴人の旭川支店宛の平成17年6月10日付け受任通知(甲2)をもって,控訴人に対し,同月24日までに全取引履歴を開示するよう求めた。

(イ) しかるに,控訴人から取引履歴の開示が全くなされないので,被控訴人ら代理人は,平成17年8月30日,控訴人の本社に連絡をし,担当が●●●であること,同人は外出中であることを聞き,同人が戻り次第連絡をくれるよう頼んだ。

(ウ) その後数日経っても●●●からの連絡がないので,平成17年9月12日,被控訴人ら代理人が●●●に対して連絡をとったところ,同人は,同月中には開示すると答えた。

(エ) しかし,平成17年10月になっても取引履歴の開示がなされないので,同月7日,被控訴人ら代理人が●●●に対して再度確認すると,●●●は,同月中には開示すると答えた。

(オ) 控訴人は,平成17年10月11日,被控訴人ら代理人に対し,ファクシミリ(甲3)で平成13年からの取引履歴を開示した。

被控訴人ら代理人は,被控訴人●●●から,平成13年以前にも控訴人との取引があったとの報告を受けていたので,●●●に対し,全取引履歴を開示するよう求めたが,当審に至るまで,全取引履歴の開示は拒絶された状態にあった。

イ 貸金業者は,債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り,貸金業の規制等に関する法律の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として,信義則上,保存している業務帳簿(保存期間を経過して保存しているものを含む。)に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負うと解すべきところ,本件に上記の特段の事情は存しないから,控訴人は上記の義務に違反して取引履歴の開示を拒絶したものであり,その行為は違法性を有し,不法行為を構成するというべきである。

ウ 被控訴人●●●は,被控訴人ら代理人の複数回の開示要請にもかかわらず,最初の開示要請から3か月以上が経過した後に取引履歴の一部が開示されたにとどまり,控訴人に全取引履歴の開示を拒絶されたことから,債務整理が遅滞し,不安な日々を送ることになっただけでなく,訴訟提起を余儀なくされ,著しい精神的苦痛を被ったものであり,かかる被控訴人●●●の精神的苦痛を慰謝するのに相当な金額は20万円を下るものではない。

また,被控訴人●●●は,上記のとおり,訴訟提起を余儀なくされたものであり,そのために生じた弁護士費用は,控訴人の不法行為と相当因果関係のある被控訴人●●●の損害というべきところ,その額は10万円を下るものではない。

(4)  よって,①被控訴人らは控訴人に対し,民法703条及び704条に基づく不当利得の返還等として,(ア)被控訴人●●●においては,過払金23万0431円,商事法定利率年6%の割合により算出した過払利息累積額1万6577円及び上記過払金23万0431円に対する最終弁済日の翌日である平成15年1月19日から支払済みまで上記年6%の割合による過払利息の支払を,(イ)被控訴人●●●においては,過払金77万7905円,上記年6%の割合により算出した過払利息累積額9万0650円及び上記過払金77万7905円に対する最終弁済日の翌日である平成16年3月10日から支払済みまで上記年6%の割合による過払利息の支払をそれぞれ求め,②被控訴人●●●は控訴人に対し,前記不法行為についての民法709条に基づく損害賠償として,慰謝料20万円,弁護士費用10万円の合計30万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成17年12月3日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する認否,反論

(1)  請求原因(1)は明らかに争わない。

(2)ア  同(2)アのうち,被控訴人●●●との取引履歴は認め(控訴人は,被控訴人●●●との取引履歴は乙4号証のとおりであると主張するところ,乙4号証に記載された取引履歴は,請求原因(2)アと同一である。),その余は明らかに争わない。

イ  同(2)イのうち,平成8年9月27日以降の取引履歴は別紙3「控訴人主張の被控訴人●●●の取引履歴」(乙5)に記載のとおりであり,これに反する部分は否認し,その余は明らかに争わない。

ウ  同(2)ウは明らかに争わない。

エ  同(2)エは争う。

仮に過払金について利息が発生するとしても,その利率は年5%である。

オ  同(2)オは争う。

過払利息の利率を年5%の割合とするほか,後記(3)ウのコンピュータシステム上の被控訴人らとの取引履歴を前提として被控訴人ら主張の方法による充当計算を行うと,被控訴人●●●について,その最終弁済日である平成15年1月18日の時点で,過払金は23万0558円,過払利息の累積額は1万3828円と算出され,被控訴人●●●について,その最終弁済日である平成16年3月9日の時点で,過払金は76万5050円,過払利息の累積額は7万4000円と算出される。控訴人は,この過払金については,被控訴人らに対して支払う用意がある。

(3)ア  同(3)ア(ア)ないし(オ)は明らかに争わない。

イ  同(3)イ及びウは争う。

ウ  控訴人は,従前は顧客との取引履歴について「取引台帳」という書面に,ひとつひとつ手書入力の方法で記載を行い,それを全国の各支店で管理してきた。そして,弁護士,司法書士等の介入があった場合には,その取引台帳を元にした履歴書を送り,過払金返還や和解(利息を利息制限法の制限利率に引き直しても残債務がある場合)に応じてきた。

しかし,ここ数年,弁護士,司法書士の介入事案が激増し,その結果,取引台帳が控訴人の支店と本社の法務部を頻繁に行き来するようになり,その過程で取引台帳が紛失するという事態が立て続けに起こった。

そのため,控訴人は,平成17年11月から,顧客管理のシステムを大幅に変更し,(ア)取引台帳によるデータの管理を,コンピュータによる管理(電磁的記録での管理)に切り替え,その結果,顧客に関する書面類は全て廃棄し,(イ)取引履歴については,控訴人がコンピュータにアクセスをした時点から10年遡った直近の取引日から最終弁済日までの10年間分がコンピュータの画面上に出るようにし,仮にそれ以前からの履歴があったとしてもその部分は自動的に消去されるシステムを採用した。なお,上記の(イ)は,取引当初からの全ての取引履歴が画面に出る方式にするとコンピュータの容量を超えてコンピュータがシステムダウンしかねず,そうなると控訴人の業務に深刻な影響を与えるからである。また,顧客が債務を完済した後3年経つと,完済前の全ての取引履歴が消去されることとなっている。

このコンピュータシステム上の被控訴人らの取引履歴につき利息制限法による引き直し計算をした結果は,上記(2)オのとおりである。

なお,控訴人が被告となった他の過払金返還請求訴訟の判決(乙9)において,慰謝料として認められたのは1万円であり,本件についてもそれと同額かせいぜい2万円の慰謝料が相当である。弁護士費用も同程度の金額が相当である。

第3当裁判所の判断

1  請求原因(1)について

請求原因(1)(控訴人が貸金業者であること)は当事者間に争いがない。

2  請求原因(2)(被控訴人らの過払金返還請求)について

(1)  請求原因(2)ア(控訴人と被控訴人●●●との取引履歴,利息制限法所定の制限利率を上回る利率による利息を支払う旨の約定の存在)は当事者間に争いがない。

(2)  同(2)イ(控訴人と被控訴人●●●との取引履歴,利息制限法所定の制限利率を上回る利率による利息を支払う旨の約定の存在)のうち,平成8年9月27日以降の取引履歴については争いがあるが,その余(同日以前の取引履歴,上記約定の存在)については当事者間に争いがない。

上記のとおり争いのある平成8年9月27日以降の取引履歴について,被控訴人●●●は,別紙2「利息制限法に基づく法定金利計算書(債務者;●●●)」に記載のとおりであると主張し,控訴人は,別紙3「控訴人主張の被控訴人●●●の取引履歴」(乙5)に記載のとおりであると主張するところ,両者の主張は,(ア)平成8年9月27日から平成9年1月16日までの前後5回の弁済額,(イ)平成9年1月16日の借入(貸付)金額,(ウ)平成9年4月25日の借入(貸付)の有無,(エ)平成9年10月23日又は同月25日の弁済額,(オ)平成9年11月5日の借入(貸付)の有無,(カ)平成9年11月21日又は同月25日から平成11年4月25日又は同月27日までの前後18回又は19回にわたる弁済額が異なるほか,各弁済がなされた日についても若干の相違が見られる。

しかるに,控訴人は,請求原因に対する認否,反論(2)オ,(3)ウにおいて,控訴人のコンピュータシステム上の被控訴人●●●の取引履歴につき利息制限法による引き直し計算をした結果,その最終弁済日である平成16年3月9日の時点での過払金は76万5050円,過払利息の累積額は7万4000円と算出されるなどと主張するとともに,上記主張に係る引き直し計算の過程を表した計算書(乙7)を書証として提出しているが,この計算書(乙7)に記載された取引履歴は,被控訴人●●●が主張する取引履歴と完全に一致している。かかる弁論の全趣旨に照らすと,控訴人のコンピュータシステムなるものの内容が控訴人主張のとおりであるかどうかはともかくとして,平成8年9月27日以降の取引履歴は,被控訴人●●●の主張するとおりと認めるのが相当であると判断される。

(3)  同(2)ウ(控訴人が被控訴人らそれぞれに対して不当利得(過払金)の返還債務を負うこと)は当事者間に争いがない。

(4)  同(2)エ(控訴人の悪意の受益者性,民法704条の利息の利率等)について

前記のとおり,控訴人が貸金業者であり,被控訴人らとの間で利息制限法所定の制限利率を上回る利率による利息を支払う旨の約定に下に金銭消費貸借取引を行ったことは当事者間に争いがなく,かかる事実に照らせば,控訴人は,民法704条が定めるところの悪意の受益者に該当するものと認めるのが相当である。

ところで,民法704条が悪意の受益者に利息の付加返還義務を負わせるのは,通常・最小限の損害賠償をさせる趣旨であり,これを別の側面からみれば,損失者にその程度の損害があるということは,その利得物からは通常その程度の付加利得が生ずる可能性があり,利得者も通常それを得ているはずであるから,それも返還させる趣旨であると解される。

このように,民法704条が定める利息の付加返還義務が利得物についての付加利得を考慮したものであるとすると,利得者が利得物を営業のために利用したと認められる場合には,現に利得物から生じた付加利得の利得物にの価額に対する割合が年6%を下回るものであるといった特段の事情のない限り,上記の利息の利率は,年6%の商事法定利率によるべきものといわなければならない。

しかるに,弁論の全趣旨によれば,控訴人が被控訴人らのみならず他の顧客との間においても上記と同様の約定の下に金銭消費貸借取引を行い,それにより得た利息収入等の収益を新たな金銭消費貸借取引の原資として利用し,さらにその金銭消費貸借取引によって利息収入等の収益を得るなどし,もって被控訴人らに返還すべきその過払金を含む利息収入等の収益を営業のために利用したことは明らかというべきであり,他方,上記のような特段の事情を認めるべき証拠は存在しなから,本件において,控訴人が被控訴人らに対して過払金に付加して支払うべき利息(過払利息)の利率は,年6%の割合によるべきである。

(5)  同(2)オ(充当計算等)について

以上により,控訴人は,被控訴人らそれぞれに対し,被控訴人らから受領した元利金の弁済について,利息の額を利息制限法所定の制限利率に引き直して算出し,これに超過して弁済された金額を当該利息,元金の充当した結果生じるいわゆる過払金を,これに係る年6%の割合による利息(過払利息)を付加して支払うべきである。

しかるに,被控訴人●●●は,別紙1「利息制限法に基づく法定金利計算書(債務者;●●●)」に記載のとおり,控訴人からの借入金額の中には10万円未満のものが存するにもかかわらず,利息制限法の制限利率が年18%の割合であることを前提とし,かつ初日不算入の方法により,借入金の残元金に対する利息の額を算出しているところ,控訴人は,これらの点を格別争っておらず,むしろ書証として提出した計算書(乙6。なお,乙6に被控訴人●●●が平成10年9月7日に控訴人に対して1万5000円を弁済したかのように記載されているのは,乙4に照らし,平成10年9月17日の誤記であると認められる。)においても,同様の方法による利息の計算を行っていることから,被控訴人●●●の控訴人からの借入金額のすべてについて利息制限法所定の制限利率が年18%の割合であるものとして扱い,初日不算入の方法によって借入金の残元金に対する利息の額を算出するのが相当であると判断される。

また,被控訴人●●●は,別紙2「利息制限法に基づく法定金利計算書(債務者;●●●)」に記載のとおり,控訴人からの借入金額の中には10万円未満のものが存するにもかかわらず,利息制限法の制限利率が年18%の割合であることを前提とし,かつ初回の平成6年7月1日の借入に対する平成6年8月31日の元利金1万円の弁済についてのみ初日を算入し,その余は初日不算入の方法により,借入金の残元金に対する利息の額を算出しているところ,控訴人は,これらの点を格別争っておらず,むしろ書証として提出した計算書(乙7)においても,同様の方法による利息の計算を行っていることから,被控訴人●●●の控訴人からの借入金額のすべてについて利息制限法所定の制限利率が年18%の割合であるものとして扱い,平成6年8月31日の元利金1万円の弁済を除いて初日不算入の方法によって借入金の残元金に対する利息の額を算出するのが相当であると判断される。

そして,その余の被控訴人らの充当計算等の方法も相当なものというべきところ,上記のような充当計算等の結果,被控訴人●●●については,別紙1「利息制限法に基づく法定金利計算書(債務者;●●●)」に記載のとおり,その最終弁済日である平成15年1月18日の時点で,過払金は23万0431円,過払利息の累積額は1万6577円と算出され,被控訴人●●●については,別紙2「利息制限法に基づく法定金利計算書(債務者;●●●)」に記載のとおり,その最終弁済日である平成16年3月9日の時点で,過払金は77万7905円,過払利息の累積額は9万0650円と算出される。

(6)  まとめ

以上によれば,被控訴人らの控訴人に対する前記の過払金返還請求はいずれも理由がある。

3  請求原因(3)(被控訴人●●●の損害賠償請求)について

(1)  請求原因(3)ア(ア)ないし(オ)(被控訴人●●●の控訴人に対する全取引履歴の開示の要請と,これについての控訴人の対応)は当事者間に争いがない。

(2)  同(3)イ(取引履歴の開示の拒絶の違法性)について,貸金業者は,債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り,貸金業の規制等に関する法律の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として,信義則上,保存している業務帳簿(保存期間を経過して保存しているものを含む。)に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負うと解すべきである。

ところで,控訴人は,請求原因に対する認否,反論(3)ウにおいて,控訴人においてコンピュータによる顧客管理のシステムが採用された旨やそのコンピュータシステムの内容等を縷々主張している。

しかしながら,控訴人が主張するところのコンピュータシステムなるものについては,(ア)その内容が控訴人の主張するとおりのものであることを裏付ける証拠が全く提出されていないこと,(イ)控訴人の主張によっても,そのコンピュータシステム上,控訴人がコンピュータによるアクセスをした時点から10年遡った直近の取引日から最終弁済日までの10年間分の取引履歴がコンピュータの画面上に出るはずであるのに,当事者間に争いのない請求原因(3)ア(オ)のとおり,控訴人から被控訴人ら代理人に開示された被控訴人●●●との取引履歴(甲3)は平成13年以降のものに止まり,それ以前の取引履歴は,控訴人のコンピュータシステムに記録されていて容易にこれを被控訴人ら代理人に開示することができたはずであるのに,当審に至るまで,その開示がなされなかったこと,(ウ)コンピュータシステムに記録された取引履歴の内容がその出力の度に変わるはずはないのに,前記2(2)に説示したとおり,控訴人が別紙3「控訴人主張の被控訴人●●●の取引履歴」(乙5)において主張する被控訴人●●●の取引履歴と控訴人が提出した計算書(乙7)に記載された被控訴人●●●の取引履歴とはその内容が異なっていること,(エ)控訴人の主張によれば,コンピュータシステムの採用に際し,いったんは全ての顧客についての取引履歴等のデータがコンピュータシステムに記録されたものと窺われるところ,それにもかかわらず,取引履歴が一部しか表示されないようにしたり,債務の完済の僅か3年後に完済前の取引履歴が消去されるようにした理由が十分に説明されていないこと,以上の事情に照らし,控訴人において,コンピュータによる顧客管理のシステムが採用されているとしても,その採用に至る経緯や内容が控訴人主張のとおりであるとは認め難いものといわなければならない。

また,仮に控訴人が主張するような事実があったとしても,これをもって前記の特段の事情があるということはできず,その他本件において,前記の特段の事情があることを認めるべき証拠は存在しないから,控訴人は前記の義務に違反して取引履歴の開示を拒絶したものであり,その行為の違法性を否定できず,不法行為を構成するというべきである。

(3)  同(3)ウ(損害)について,以上認定の諸事情及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人●●●は,被控訴人ら代理人の複数回の開示要請にもかかわらず,最初の開示要請から3か月以上が経過した後に取引履歴の一部が開示されたにとどまり,控訴人に全取引履歴の開示を拒絶されたことから,債務整理が遅滞し,不安な日々を送ることになっただけでなく,訴訟提起を余儀なくされ,著しい精神的苦痛を被ったものと認められ,かかる被控訴人●●●の精神的苦痛を慰謝するのに相当な金額は,原審認定の10万円を下るものではないというべきである。

また,被控訴人●●●は,上記のとおり,訴訟提起を余儀なくされたものであり,そのために生じた弁護士費用は,控訴人の不法行為と相当因果関係のある被控訴人●●●の損害というべきところ,その額は原審認定の10万円を下るものではないというべきである。

(4)  まとめ

以上によれば,被控訴人●●●の控訴人に対する前記の損害賠償請求は,少なくとも原判決の認容した限度(損害額合計20万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成17年12月3日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払)において理由がある。

4  結論

よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤紘基 裁判官 北澤晶 裁判官 石橋俊一)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例