札幌高等裁判所 平成18年(ネ)314号 判決 2009年3月26日
主文
1 本件控訴に基づき,原判決中被控訴人A,被控訴人B,被控訴人C及び被控訴人Dに関する部分をいずれも取り消す。
2 被控訴人A,被控訴人B,被控訴人C及び被控訴人Dの請求をいずれも棄却する。
3 被控訴人Eの本件附帯控訴に基づき,原判決中被控訴人Eに関する部分を次のとおり変更する。
(1) 控訴人は,被控訴人Eに対し,150万円及びこれに対する平成15年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人Eのその余の請求を棄却する。
4 控訴人の被控訴人Eに対する本件控訴並びに被控訴人A,被控訴人B,被控訴人C及び被控訴人Dの本件各附帯控訴をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,第1,2審を通じて,控訴人と被控訴人A,被控訴人B,被控訴人C及び被控訴人Dとの間においては,全部同被控訴人らの負担とし,控訴人と被控訴人Eとの間においては,これを2分し,その1を控訴人の負担とし,その余を同被控訴人の負担とする。
6 この判決は第3項(1)に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨等
1 本件控訴
(1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
2 本件附帯控訴
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 控訴人は,被控訴人A,被控訴人B及び被控訴人Cに対し,各300万円及びこれに対する平成14年10月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 控訴人は,被控訴人D及び被控訴人Eに対し,各300万円及びこれに対する平成15年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は第1,2審とも控訴人の負担とする。
(5) 仮執行の宣言
第2事案の概要
1 本件は,控訴人の従業員(以下「社員」ともいう。)であり,又は従業員であった被控訴人らが,控訴人の被控訴人らに対する配置転換(以下「配転」ともいう。)命令は違法であるとして,不法行為に基づく損害賠償請求として,配転命令によって生じた精神的苦痛に対する慰謝料各300万円及びこれに対する不法行為の日の後である各控訴の趣旨記載の日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審は,被控訴人らの請求を被控訴人A,被控訴人B,被控訴人C及び被控訴人Dにつき各50万円,被控訴人Eにつき100万円並びにこれに対する各控訴の趣旨記載の日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払の限度でそれぞれ認容し,その余をいずれも棄却したので,控訴人は本件控訴を提起し,被控訴人らは本件附帯控訴を提起した。
2 前提となる事実,争点及び主張は,次のとおり訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決4頁10行目の「乙3」を「乙2,3」に改める。
(2) 同5頁10行目の「営業系会社」を「サービス系会社」に改め,同6頁21行目の「給与加算によって」の次に「減額となる分の」を加える。
(3) 同6頁末行から7頁1行目にかけての「当該OS会社」から同頁2行目の「加算し」までを「平成14年4月30日の控訴人退職時における退職金に一時金を加算して支給し,さらに当該OS会社退職時に退職金を支給することにより」に改める。
(4) 同頁7行目の「配置転換」を「配置換等」に改める。
(5) 同8頁10行目の「平成15年4月1日付」を「平成15年4月1日付け」に改める。
(6) 同頁11行目の「原告A」を「被控訴人A」に,同頁17行目の「原告B」を「被控訴人B」に,同頁22行目の「原告C」を「被控訴人C」に,同9頁2行目の「原告D」を「被控訴人D」にそれぞれ改め,同頁7行目の「(以下「原告E」という。)」を削り,同頁10行目から11行目にかけての「法人営業本部サービスマネージメント部NWソリューションセンタ」の次に「(以下「NWソリューションセンタ」という。)を,同頁12行目の「東京支店営業企画部光IP販売プロジェクト」の次に「(以下「光IP販売プロジェクト」という。)」をそれぞれ加える。
(7) 同11頁20行目の「特定して募集されて」を「特定した募集により」に,同頁22行目の「労働者」を「労使間」にそれぞれ改める。
(8) 同15頁1行目の「平成12年9月7日」の次に「判決」を加え,同頁2行目から3行目にかけての「就業規則不利益禁止法理」を「就業規則不利益変更禁止法理」に改める。
(9) 同17頁11行目の「会社の分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」を「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」に改める。
(10) 同19頁6行目の「みなされた」を「みなされて」に,同頁15行目から16行目にかけての「異議申立てを取り合わず」を「異議申立てに取り合わず」にそれぞれ改める。
(11) 同頁20行目の「本件配転」を「本件配転命令」に改める。
(12) 同23頁7行目の「ということで」を「を選ばせることにより」に改める。
(13) 同24頁12行目の「確立した国際法規」を「確立された国際法規」に,同25頁15行目の冒頭から同頁16行目の末尾までを次のとおりそれぞれ改める。
「本件構造改革等により控訴人における業務の一部が外注委託され,被控訴人らの従事していた業務がなくなり,被控訴人らを他の業務に配転せざるを得ない状況が生じていたのであり,かつ,一方では,激変する通信環境に対応して固定電話専業の装置産業からITブロードバンド社会に適応した提案型営業を中心としたサービス産業として脱皮するべく事業の再構築を行い,かつそのための人員配置を多数の従業員が新会社に移行した状況のもとで行う必要に直面していたのであって,かような状況下において行われた本件各異動にはそれぞれ業務上の必要性が認められることは明らかである。」
(14) 同頁17行目の「不当な動機,目的の存在」を「不当な動機,目的の不存在」に,同26頁20行目の「免除する」を「免除される」にそれぞれ改める。
(15) 同27頁10行目の「札幌の異動」を「札幌への異動」に,同頁11行目の「札幌となっていた」を「札幌に限定されていた」にそれぞれ改め,同頁22行目の「SO業務」の次に「(SOとはサービスオーダーの略称。顧客から依頼された注文に対して電話回線の状況や各種サービスの利用状況を社内システムであるCUSTOMを利用して確認し,顧客の申込みに応じることができるかなどの調査を行った後,顧客から受け付けたサービスや商品の注文等の内容をCUSTOMに入力するなどして工事部門へ工事の手配等を行う業務)」を加え,同28頁4行目の「職場であった」を「職場であったといえる」に,同頁5行目の「苫小牧」を「苫小牧営業支店」に,同頁11行目の「介護認定の申請をして2級となり」を「要介護認定の申請をして要介護2級となり」にそれぞれ改める。
(16) 同30頁10行目から11行目にかけての「アカウントマネージャー」の次に「の略称」を加え,同頁19行目の「同支店」を「苫小牧営業支店」に,同31頁4行目の「本件配転」を「本件配転命令」に,同頁8行目の「同支店」を「苫小牧営業支店」に,同頁22行目の「苫小牧」を「苫小牧営業支店」にそれぞれ改める。
(17) 同32頁20行目の「Lモード」の次に「(専用の電話機又はファクシミリ等から文字や簡易な画像を中心とした情報の検索や電子メールの送受信が利用できるサービス)」を,同34頁14行目の「バックヤード業務」の次に「(割引サービスの料金シミュレーションやマイラインの申込みに関する事務処理等)」をそれぞれ加える。
(18) 同35頁14行目の冒頭に「被控訴人Cが見習社員として雇用された」を,同36頁4行目の「SE」の次に「(システムエンジニアの略称。AMに対して技術面におけるアドバイス及び提案等を行う者)」をそれぞれ加え,同頁23行目の「活かしてきたの技術」を「活かしてきた技術」に改める。
(19) 同37頁16行目の「MCP」の次に「(マイクロソフト認定技術資格)」を,同行の「CCNA」の次に「(シスコ技術者認定資格)」をそれぞれ加える。
(20) 同38頁15行目の「札幌管内に変更された。」を「札幌管内に変更され,同管内に限定された。」に,同39頁7行目の「家族のコミュニケーションがなくなり」を「家族とのコミュニケーションがなくなり」にそれぞれ改め,同頁9行目の「大幅に超える」の次に「出費を余儀なくされる」を加える。
(21) 同41頁8行目の「苫小牧116センタ」を「北海道支店お客様サービス部苫小牧116センタ(以下「苫小牧116センタ」という。)」に,同頁22行目の「SO担当」を「NWソリューションセンタSO推進担当」に,同頁末行から同42頁1行目にかけて,同頁2行目の各「光IPプロジェクト」をいずれも「光IP販売プロジェクト」に,同頁20行目から21行目にかけての「現在は老人保健施設に入所している」を「その後に老人保健施設に入所した」にそれぞれ改める。
(22) 同43頁25行目から末行にかけての「サービスマネージメント部」を削り,同44頁15行目,同頁19行目から20行目にかけて,同頁末行の各「IP販売プロジェクト」をいずれも「光IP販売プロジェクト」に改める。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)(本件配転命令の無効)について
次のとおり訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の1に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決46頁6行目の「193,」の次に「291,」を加える。
(2) 同47頁1行目の「外注委託化する」を「外注委託する」に改める。
(3) 同頁9行目から10行目にかけての「被告を退職して」の次に「同年5月1日に」を加える。
(4) 同頁11行目の「激変緩和措置として,」の次に「OS会社定年退職後の再雇用による契約社員期間における」を加え,同頁12行目の「被告の退職金に一時金が加算される」を「控訴人の退職金に一時金が加算され,OS会社における退職金も支給される」に改め,同頁18行目の末尾に「ただし,この場合は,前示のような激変緩和措置は行わない。」を加え,同頁22行目の「考えられた」から同48頁1行目の「とはしないこととした。」までを以下のとおり改める。
「考えられたことによる。そして,50歳以上の従業員を雇用形態選択の対象とすることによりOS会社に再雇用される従業員の大多数が50歳以上になるため,50歳未満の従業員については雇用形態選択の対象としないで当面はOS会社において従前の業務に従事させることによって,OS会社における年齢上のバランスを考慮するとともに,あわせて事業の継続性の維持も企図したものである。また,控訴人は,満了型を選択した50歳以上の従業員をOS会社への在籍出向の対象としなかったが,それは,OS会社に在籍する50歳以上の従業員の大部分が控訴人を退職してOS会社に再雇用され所定内給与が従前に比べて減額となる繰延型又は一時金型を選択した者であるから,満了型を選択した50歳以上の従業員をOS会社に在籍出向させることは,OS会社で再雇用された従業員の不公平感をあおり,その勤労意欲を削ぐことにもなりかねないので,これらの点に配慮したことによるものである。」
(5) 同49頁15行目から16行目にかけての「と書かれていた。」の次に「被控訴人らの雇用通知書にも同様の記載がされていた。」を加え,同50頁8行目の「配転」を「転用又は配置換」に,同頁15行目から16行目にかけての「配転に伴い家族を帯同して赴任することを希望する者に対しては,」を「業務上の必要がある場合には,独身・単身赴任の従業員以外の従業員に対し,」に,同頁23行目の「原則」を「原則として」に,同頁24行目の「介護の休職」を「介護休職」にそれぞれ改める。
(6) 同52頁12行目の末尾に改行して以下のとおり加え,同頁18行目の「上記認定」を「前示(1)ア(ウ)」に改める。
「 かえって,前記認定の固定電話事業の減退,電気通信事業の自由競争化に伴うシェアの低下等を通じて,控訴人の財務状況が悪化し,これにより従業員の雇用確保も危ぶまれるという事態が懸念されたことからすると,控訴人の事業構造を電話中心から情報流通へ転換するとともに法人営業を中心としたIT機能の強化等による収益を獲得することなどを目的とした本件構造改革にはその必要性が認められるというべきであり,かかる本件構造改革を達成するために作成及び実施された本件計画についても相応の合理性が認められるといわなければならない。」
(7) 同53頁4行目の「事情とはならない」の次に以下のとおり加える。
「(被控訴人らは,控訴人が平成14年以降も安定して多額の利益を計上し続けていたことからすると,控訴人の事業の存立自体が早晩危機に瀕する状況にあったという控訴人の主張が虚構であったことが明らかになったのであり,本件構造改革の必要性はなかった旨主張する。確かに,証拠(乙47,54ないし56,401,402)によれば,控訴人の平成11年度(控訴人が設立された平成11年7月1日から平成12年3月31日まで)の営業収益は2兆1547億円,経常利益は567億円,平成12年度(平成12年4月1日から平成13年3月31日まで)の営業収益は2兆7945億円,経常利益は141億円,平成13年度(平成13年4月1日から平成14年3月31日まで)の営業収益は2兆5736億円,経常利益は75億円,平成14年度(平成14年4月1日から平成15年3月31日まで)の営業収益は2兆3522億円,経常利益は633億円,平成15年度(平成15年4月1日から平成16年3月31日まで)の営業収益は2兆2671億円,経常利益は978億円,平成16年度(平成16年4月1日から平成17年3月31日まで)の営業収益は2兆1809億円,経常利益は976億円,平成17年度(平成17年4月1日から平成18年3月31日まで)の営業収益は2兆1253億円,経常利益は842億円,平成18年度(平成18年4月1日から平成19年3月31日まで)の営業収益は2兆0613億円,経常利益は903億円であることが認められ,控訴人の平成14年度以降の経常利益は数百億円に上る黒字であったことが認められるけれども,控訴人の平成11年度ないし平成13年度の経常利益はいずれも黒字であったものの,減少を続けており,特に平成11年度はその対象期間が9か月間であったにもかかわらず567億円の経常利益があったのに対し,平成12年度の経常利益は141億円,平成13年度の経常利益は75億円と著しく減少しているのであり,このことは控訴人の業績が悪化しつつあったことを示しているところ,本件構造改革がされた後の平成14年度以降の経常利益は上記のとおり数百億円に上る黒字となっているのであり,本件に顕れた控訴人の経営状況からみる限り,控訴人の業績が改善されたのが本件構造改革がされたことによるものであろうことは否定できないのであって,本件構造改革がなくても一層の業績悪化から脱却することができたはずであるとすべき十分な根拠があるとは考え難い。したがって,控訴人の平成14年度以降の経常利益が黒字であったからといって,本件構造改革の必要性がなかったとはいえないというべきであって,被控訴人らの主張は採用できない。)」
(8) 同頁4行目の末尾に改行して以下のとおり加える。
「被控訴人らは,NTTの宮津社長が控訴人の従業員を本件構造改革の前に立ちはだかる障害物である「大きな石」にたとえ,この「大きな石」を排除しなければ本件構造改革は完遂しないと考えていたことなどから,本件構造改革は従業員のリストラを図るための目的のみで行われたものであり,本件構造改革の必要性はなかった旨主張する。確かに,証拠(甲39,40)によれば,NTTの宮津社長は,平成14年4月29日付け通信興業新聞において,「進路に横たわっている大きな石,すなわち『人の問題』を構造改革によって退けたわけである。まともな経営をやる上での大きな課題が,何んとか解決されたといっていい。」などと,「日経ビジネス」2002年(平成14年)5月27日号において,「赤字が増えるばかりの構造に陥った。でっかい石が横たわっていてその先に一歩も進めなくなってしまった。」「いらない人間を『いらない』と言えること,『これだけの事業をやるために何人必要』ではなく『今の人数で儲かることだけをやる』という発想に切り替えること。この2つが,NTTが独占者ではなく競争者になるということの意味だ。」などとそれぞれ述べていたことが認められるけれども,これらの発言は,上記新聞及び雑誌の記事全体の論調に照らすと,NTTの経営課題について触れる中で,控訴人及び西日本電信電話株式会社の財務が苦しくなり,希望退職だけでは対応できず,本件構造改革が必要になったことについて述べる中などにおいてされたものであり,NTTの競争力を維持するために本件構造改革が必要であることを強調しているものと認められるのであって,控訴人の従業員を石にたとえたことについては措辞が適切を欠く面がないではないが,この発言が本件構造改革が従業員のリストラを図るための目的のみで行われたものであることを示すものとは認められず,本件構造改革の必要性がなかったとまでは認められない。したがって,被控訴人らの主張は採用できない。」
(9) 同54頁23行目の「主張」を「被控訴人らの主張」に改める。
(10) 同55頁24行目の「選択を強いられたとまでいうことはできない」の次に以下のとおり加える。
「(被控訴人らは,証拠(甲335の1・2)によれば,株式会社エヌ・ティ・ティ エムイー四国愛媛支店のF課長が同支店の従業員であるGに対して退職・再雇用に応じるよう威迫していたことが認められるのであり,控訴人の従業員が雇用形態の選択を強いられていたことは明らかである旨主張する。しかしながら,上記課長と従業員との間のやり取りは,控訴人とは別の会社で行われていたものであり,この会社において上記課長と従業員との間で上記証拠により認められるやり取りがされていたからといって,そのことから直ちに控訴人においても同様のやり取りがされていた事実を推認するのは困難であり,他にこれを認めるに足りる証拠はないから,控訴人の従業員が雇用形態の選択を強いられていたとの被控訴人らの主張は採用することができない。)」
(11) 同頁24行目の末尾に以下のとおり加える。
「しかも,後記のとおり,被控訴人らは,いずれも本件選択通知書を提出せず,繰延型,一時金型又は満了型の雇用形態を選択することなく,控訴人との間で従前の内容の雇用契約が継続されることになったのであるから,年齢差別の主張をする前提に欠けるというべきである。」
(12) 同56頁2行目の「いうことはできず」の次に以下のとおり加える。
「(被控訴人らは,本件選択通知書を提出しなかったために満了型を選択したものとみなされたが,その結果,被控訴人らは,控訴人との間で従前の内容の雇用契約が継続されることになったのであるから,これをもって被控訴人らについて整理解雇又は就業規則の変更があったといえないことは明らかであり,被控訴人らについては,端的に配転命令の適否を論ずれば足りるものである。)」
(13) 同頁8行目の「勧告」の次に「違反」を加える。
(14) 同57頁10行目の冒頭から同58頁21行目の末尾までを以下のとおり改める。
「(ア) 上記のとおり,使用者と労働者との間に勤務地や職種の限定の合意が認められないとしても,転勤,特に転居を伴う転勤は,一般に,労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから,使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく,これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ,当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても,当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等,特段の事情の存する場合でない限りは,当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。そして,上記の業務上の必要性についても,当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく,労働力の適正配置,業務の能率増進,労働者の能力開発,勤務意欲の高揚,業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは,業務上の必要性の存在を肯定すべきである(最高裁判所昭和59年(オ)第1318号同61年7月14日第二小法廷判決・裁判集民事148号281頁参照)。
これを本件に照らしてみるに,本件構造改革による業務の外注委託のような場合は,被控訴人らが従事していた業務を控訴人から失わせるものであるから(ただし,被控訴人EのNWソリューションセンタへの配転については,後述するように事情を異にする。),業務の外注委託により,被控訴人らの担当業務が存在しなくなった場合に,その結果として,被控訴人らが従前と異なる職種に従事しなければならなくなることはやむを得ないところであるし,その際に,従前の勤務場所における職種の変更が種々の事情により困難であるときには,被控訴人らが遠隔地への配転を余儀なくされたとしても,そのことが直ちに不当とはいえないのであって,当該配転が控訴人の合理的運営に寄与する面があり,業務上の必要性があるか否かを判断するに当たっては,この点を度外視することはできない(労働者が従事していた業務が存続するものの個々の事情に基づいて当該労働者を配転する場合と,労働者が従事していた業務が存在しなくなった結果やむを得ず当該労働者を配転する場合とでは,上記業務上の必要性の判断にも自ずから差異が生じてしかるべきである(最高裁判所昭和63年(オ)第513号平成元年12月7日第一小法廷判決・労働判例554号6頁参照)。)。この場合でも,配転対象者全員を一斉に他の特定の勤務場所の同一の部署に配置換えするものでない以上,本件各配転に伴う被控訴人らの業務上の必要性については個別にその有無が判断されなければならない。
そして,業務上の必要性をめぐる事情は,被控訴人らごとに異なるものであるから,下記2ないし6(争点(2)ないし(6)に対する判断)において,被控訴人らの配転障害事由とあわせて,被控訴人らの個別事情を検討することとする。
(イ) 不当な動機,目的について
被控訴人らは,本件各配転は,控訴人の意向に従わなかった被控訴人らに対する報復として行われ,被控訴人らが控訴人を退職してOS会社に雇用されることに応じなければ控訴人により異職種や遠隔地への配転が行われるという見せしめの意味をもっていたと主張する。しかしながら,選択すべき雇用形態及び処遇体系のうち,満了型ではなく,繰延型又は一時金型を選択させることこそが控訴人の意向であることを認めるに足りる証拠はなく,被控訴人らに対する本件各配転が被控訴人らに対する報復として行われたとか,あるいは見せしめの意味をもっていたというべき根拠は十分でないから,被控訴人らの主張を採用することはできない。
被控訴人らは,控訴人は,H労組との団体交渉において不誠実な団体交渉に終始していることなどに照らし,H労組を嫌悪かつ敵視していることは明らかであり,H労組の組合員である被控訴人らを差別的に扱い,被控訴人らをねらい打ちにして本件各配転を行ったものであり,これは,H労組の弱体化ないし無力化を図ったものである旨主張する。しかしながら,雇用形態及び処遇体系の多様化は,労働者の所属組合のいかんによって実施されたものではないし,証拠(乙45)によれば,移行対象業務に従事していた満了型選択者約300名のうち,I労働組合の組合員が約160名,H労組の組合員が約140名であるところ,上記約300名のうちたとえば首都圏に異動となった者130名の内訳をみると,I労働組合の組合員が約90名,H労組の組合員が約40名であったことが認められるのであり,この事実に照らしても,控訴人がH労組の組合員である被控訴人らを差別的に扱い,あるいは被控訴人らをねらい打ちにして本件各配転を行ったものであるとは認められず,本件各配転がH労組の弱体化ないし無力化を図ったものであることを認めるに足りる証拠もない。したがって,被控訴人らの主張は採用できない。
被控訴人らは,H労組の組合員であるJについて「H労組,FNCの文化を否定するような人物」と記載されている(甲140)ことからすると,控訴人はH労組に対して不当労働行為をする強い意思を有していたものと認められ,ひいては本件各配転については,控訴人の本社が各配転先に対して満了型選択者を受け入れるよう指示しており,各配転先は本社から満了型選択者を人選するよう指示されていたものであって,各配転先が積極的に人員を要請していたのではないことが明らかであり,本件各配転は不当な動機,目的に基づくことが推認される旨主張する。しかしながら,証拠(甲140)によれば,平成14年6月12日付け「60歳満了型選択者のFNC内の配置の基本的な考え方(案)」と題する書面には,被控訴人らが主張するような記載があることが認められるけれども,同書面は,Jの上長であったKが当時のサービス開発部ブロードバンド推進室フレッツネットワークサービスセンタ所長であるL及び部長であるMに対してJほか4名を異動者とすることについての了承を得るために作成し送付したものであり(乙396),確かに,KがJの人物像をコメントするに当たって適切でない表現を使用したといえなくはないが,かかる個人が使用した表現をもって会社組織である控訴人がH労組に対して不当労働行為をする意思を有していたと認めるのは飛躍があるし,ましてや本件各配転について各配転先が人員を要請していなかったと推認すべき根拠として十分ではなく,かえって後記で検討するとおり,本件各配転はいずれも各配転先における人員の要請に基づくものであって,控訴人において各配転先に被控訴人ら各人を配置する具体的業務上の必要性があったとみるべきであるから,本件各配転が不当な動機,目的に基づくものとは認められない。したがって,被控訴人らの主張は採用できない。」
2 争点(2)(被控訴人Aの個別事情)について
(1) 被控訴人Aの職歴等,苫小牧営業支店における職務,被控訴人Aの家族状況等は,次のとおり訂正するほかは,原判決58頁23行目の「証拠」から同62頁3行目の末尾までに記載のとおりであるからこれを引用する。
ア 原判決58頁23行目の「142,」の次に「306,」を,同頁24行目の「146の1ないし5,」の次に「204の1,286,287,291,314の1ないし5,315の1ないし6,316の1ないし6,317の1ないし3,491ないし497,」をそれぞれ加える。
イ 同59頁11行目の「全面委託化される」を「全面的に委託される」に改める。
ウ 同頁18行目の「商品の訪問販売等の業務を行った。」の次に「これにより,被控訴人Aは,顧客に対して控訴人の商品や通信回線の各種サービス等の提案及び折衝を行うなどの販売経験を有するようになった。」を加える。
エ 同頁24行目の「業務」を「SO業務」に改め,同行の「行っていた」の次に「被控訴人Aの具体的な業務は,CUSTOMを操作して顧客からの電話回線の申込等の注文内容を確認した上で工事部門へ工事の手配等を行うものであった。」を加える。
オ 同60頁2行目の末尾に改行して以下のとおり加える。
「なお,被控訴人Aが従事していた札幌116センタのフロント担当の業務は,本件構造改革により,平成14年5月1日にOS会社に移行される予定であり,北海道支店には被控訴人Aが従事していた業務は存在しなくなることになった。」
カ 同頁4行目の「部門への人事異動を受け」を「部門に異動となり」に改め,同頁7行目の末尾に改行して以下のとおり加える。
「苫小牧営業支店では法人営業担当の秘書サポート業務が繁忙となっており,苫小牧営業支店は,北海道支店に対し,同業務への人員の増員を要請し,その際,CUSTOMを使って顧客の電話回線の状態及び各種サービスの利用状況を確認し,工事手配及び社内事務処理をすることができる上,AMや顧客の信頼を得ることができるような販売経験のある人材を要請した。これに対し,北海道支店においては北海道内で再配置を必要とする対象者のうち被控訴人AのみがCUSTOMについての相当程度のスキル,知識及び経験を有し,かつ,販売経験もあったことから,北海道支店は,被控訴人Aを苫小牧営業支店に配属すると選定したものである。(乙134,142,204の1,287,291,証人N,同O)」
キ 同頁9行目の「北海道支店営業企画部の法務担当」を「北海道支店営業企画部法務担当」に改める。
(2) 上記認定事実を踏まえ,被控訴人Aの個別事情について検討する。
ア 業務上の必要性等について
前記認定のとおり,被控訴人Aが従事していた札幌116センタのフロント担当の業務は,本件構造改革により,平成14年5月1日にOS会社に移行され,北海道支店には被控訴人Aが従事していた業務が存在しなくなるのであるから,北海道支店は,被控訴人Aを他の業務に配置せざるを得ない状況にあったといわなければならない。そして,前記認定のとおり,被控訴人Aは,平成11年1月から滝川営業所営業担当に配属され,商品の訪問販売等の業務を行っており,顧客に対して控訴人の商品や通信回線の各種サービス等の提案及び折衝を行うなどの販売経験を有しており,平成13年1月からは札幌116センタにおいてSO業務に従事し,CUSTOMを操作して顧客からの電話回線の申込等の注文内容を確認した上で工事の手配等を行うなどのスキルを有していたところ,苫小牧営業支店では法人営業担当の秘書サポート業務が繁忙となっており,苫小牧営業支店は,北海道支店に対し,同業務への人員の増員を要請し,その際,CUSTOMを使って顧客の電話回線状態及び各種サービスの利用状況を確認し,工事手配及び社内事務処理をすることができる上,AMや顧客の信頼を得ることができるような販売経験のある人材を要請し,北海道支店においては北海道内で再配置を必要とする対象者のうち被控訴人AのみがCUSTOMについての相当程度のスキル,知識及び経験を有し,かつ,販売経験もあったことから,北海道支店は,被控訴人Aを苫小牧営業支店に配属すると選定したというのであるから,被控訴人Aが選定された経緯は合理性がないとはいえない(被控訴人Aは,北海道支店が被控訴人Aを苫小牧営業支店に配属すると選定するに当たって,被控訴人Aに販売経験があったことは格別重要視されていなかった旨主張する。しかし,苫小牧営業支店が法人営業担当の秘書サポート業務に従事する人員としてCUSTOMについてのスキルのほか,販売経験を有する人材を要請し,北海道支店が同要請に適う人材として被控訴人Aを選定したことは前記のとおりであり,このような被控訴人Aが選定された経緯に照らし,被控訴人Aに販売経験があったことが格別重要視されていなかったとはいえないし,実際にも,過去に販売経験のある従業員の方が単に接客の経験を有するにすぎない従業員よりも秘書サポート業務を効率よくこなすことができると考えられるのであって,秘書サポート業務に販売経験のある人材が求められたことについて特段不自然な点は見当たらないというべきである。したがって,被控訴人Aの主張は採用できない。)。そして,被控訴人Aが札幌116センタにおいて従事していたSO業務と苫小牧営業支店において従事していた秘書サポート業務とは,顧客から電話回線の申込等の注文を受けた際,CUSTOMを操作して工事部門への工事手配等を行うなどの点で共通していた(この点につき,被控訴人Aは,札幌116センタにおいてCUSTOMを使用した業務は主に個人の顧客を対象としたものであり,苫小牧営業支店においてCUSTOMを使用した業務は法人の顧客を対象としたものであって,上記各業務の内容には大きな違いがある旨主張するけれども,個人の顧客からの注文を処理する際のCUSTOMの操作方法と,法人の顧客からの注文を処理する際のCUSTOMの操作方法とでは,回線の本数の多寡によってCUSTOMを操作する回数等が異なるのみで,基本的な操作方法は共通している(乙205の1ないし3)のであるから,被控訴人Aの主張は採用できない。)上,被控訴人Aは,苫小牧営業支店において,顧客からの通信回線の申込等の処理を行うなどして秘書サポート業務を行っていたのであって,苫小牧営業支店における秘書サポート業務が被控訴人Aにとって適性のないものであったということはできない。以上によれば,被控訴人Aにつき,本件配転は,労働力の適正配置,業務の能率増進及び業務運営の円滑化の観点から控訴人の合理的運営に寄与するものであったと認められるから,業務上の必要性が認められるものというべきである。
イ 配転障害事由について
被控訴人Aは,本件配転命令により,持病の喘息の発作が起きる可能性があること,夜間や休日に両親の世話ができず,両親がともに自宅で療養することができなくなったこと,肝がんで入院していた夫の見舞いなどができなったこと,世帯が2つとなり経済的負担が大きくなったこと,以上の不利益を被ったところ,これらの不利益は,労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせたものである旨主張する。
しかし,持病の喘息に関しては,被控訴人Aが苫小牧に異動することによって具体的な支障を生じ,又は生ずるおそれがあったことを認めるに足りる証拠はない。また,前記のとおり,被控訴人Aは,既に札幌116センタに勤務してから両親が居住する滝川を離れて単身又は長女と同居して生活していたことからすれば,本件配転命令の時点では両親の介護に関し本件配転命令によって大きな影響を受けたとは認められない。さらに,被控訴人Aの夫が肝がんにより入院したのは平成15年12月のことであることは前記のとおりであり,被控訴人Aの夫の入院は本件配転命令後に生じた事由であって,被控訴人Aに対し本件配転命令により通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせたか否かを判断するに当たって,これを考慮するのは相当ではないというべきである。被控訴人Aが主張する経済的負担についても,控訴人には,単身赴任手当,帰郷実費の支給の制度があり,社宅の用意もあったことからすれば,被控訴人Aの経済的負担が大きかったとまでは認められない。
以上の事情に照らせば,本件配転命令により被控訴人Aに生じたという各種の不利益が配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超えるものとは認められないといわざるを得ない。
(3) 以上の検討結果によれば,被控訴人Aに対する本件配転命令は,業務上の必要性が認められ,本件配転命令により被控訴人Aに生じた不利益は,配転に伴い労働者が通常甘受すべき程度を著しく超えるものとは認められないから,本件配転命令が権利の濫用になるとはいえない。
(4) 以上によれば,被控訴人Aの請求は,その余の点を判断するまでもなく,理由がない。
3 争点(3)(被控訴人Bの個別事情)について
(1) 被控訴人Bの職歴等,室蘭営業支店における職務,被控訴人Bの家族状況は,次のとおり訂正するほかは,原判決64頁6行目の「証拠」から同66頁5行目の末尾までに記載のとおりであるからこれを引用する。
ア 原判決64頁6行目の「153,」の次に「305,」を,同行の「103,」の次に「134,」を,同頁7行目の「148の1ないし5,」の次に「204の2,207,208の1・2,253ないし259,291ないし293,358,390ないし392,」を,同行の「証人」の次に「N,同」をそれぞれ加える。
イ 同頁25行目の末尾に以下のとおり加える。
「これにより,被控訴人Bは,顧客に対して控訴人の商品や通信回線の各種サービス等の提案及び折衝を行うなどの販売業務に従事するようになった。」
ウ 同65頁7行目の冒頭から同頁8行目の末尾までを以下のとおり改める。
「(キ) 被控訴人Bは,平成13年1月1日から,北海道支店営業部エリア営業部門営業担当に在籍して販売業務に従事した。
被控訴人Bは,留萌営業所営業担当及び北海道支店営業部エリア営業部門営業担当における販売業務を通じて,控訴人の商品や通信回線の各種サービス等に関する知識を備え,顧客のニーズを把握して顧客に対して提案及び折衝を行うことができる営業スキルを有するようになった。(乙143,293,証人P)」
エ 同頁9行目の「原告Bは」から同頁10行目の「となったところ,」までを「被控訴人Bが従事していた北海道支店営業部エリア営業部門営業担当の業務は,本件構造改革により,平成14年5月1日にOS会社に移行され,北海道支店には被控訴人Bが従事していた業務が存在しなくなることになるところ,被控訴人Bは,」に改める。
オ 同頁16行目の末尾に改行して以下のとおり加える。
「室蘭営業支店では,Lモードを中心とした販売成績が良く,その市場性を見込んで更に販売を伸ばしたいという希望を持っており,販売を拡大するための企画及び立案をし,しかも,Lモードという新しい商品の担当をしてもらう人材を要請した。これに対し,北海道支店においては北海道内で再配置を必要とする対象者のうち被控訴人Bが市場調査,企画提案書の作成及びバックヤード業務に適性があり,最も販売経験が長かったことから,北海道支店は,被控訴人Bを室蘭営業支店に配属するよう選定したものである。(乙134,143,204の2,291,293,証人N,同P)」
カ 同頁22行目の冒頭から同頁末行の末尾までを以下のとおり改める。
「(イ) 被控訴人Bは,室蘭営業支店において,当初は,Lモードの販売促進の企画を担当し,Lモードの販売に関する調査として,Q協同組合への企画及び提案等の担当を割り振られていたが,被控訴人Bに対しては,Lモードの販売に関する調査について書面による指示はなく,販売の拡大についてQ協同組合のほかに特に具体的な指示がされたことはなかった。その後,被控訴人Bは,平成14年10月から,調達物流の業務を行うようになったが,同業務は,AMが顧客から電話機等の通信機器の申込みを受けた際,室蘭営業所に在庫がない物品について,端末等を操作して北海道支店に納品を要求するなどして物品を管理するものであったところ,被控訴人Bは,それまでの販売経験等により控訴人の商品及びその物品コードを把握していたことから室蘭営業支店における物品要求が滞ることがなくなるなど,同支店における物品管理業務の状況を改善させる働きを見せていた。また,被控訴人Bは,平成15年4月からは,通信機器業務支援システム(控訴人が販売する電話機,ファクシミリ等の通信機器に関する業務を支援するコンピューターシステム)の登録及び確認等を担当するようになった。(甲143,乙143,147の1・2,148の1ないし5,293,358,証人P,被控訴人B本人)」
キ 同66頁4行目の冒頭から同頁5行目の末尾までを以下のとおり改める。
「(イ) 被控訴人Bは,平成13年1月に留萌営業所営業担当から北海道支店営業部エリア営業部門営業担当に異動した際,妻とともに札幌に居住することとし,以後,増毛町の自宅に居住しなかった。
被控訴人Bは,平成14年7月から,室蘭において単身赴任生活を始め,同生活は,平成16年3月まで続いた。(甲143,乙258,259,被控訴人B本人)」
(2) 上記認定事実を踏まえ,被控訴人Bの個別事情について検討する。
ア 業務上の必要性等について
前記認定のとおり,被控訴人Bが従事していた北海道支店営業部エリア営業部門営業担当の業務は,本件構造改革により,平成14年5月1日にOS会社に移行され,北海道支店には被控訴人Bが従事していた業務が存在しなくなるのであるから,北海道支店は,被控訴人Bを他の業務に配置せざるを得ない状況にあったといわなければならない。そして,前記認定のとおり,被控訴人Bは,平成7年2月から留萌営業所営業担当として顧客に対して控訴人の商品や通信回線の各種サービス等の提案及び折衝を行うなどの販売業務に従事しており,平成13年1月からは北海道支店営業部エリア営業部門営業担当に在籍して販売業務に従事していたことから,控訴人の商品や通信回線の各種サービス等に関する知識を備え,顧客のニーズを把握して顧客に対して提案及び折衝を行うことができる営業スキルを有していたところ,室蘭営業支店では,Lモードを中心とした販売成績が良く,その市場性を見込んで更に販売を伸ばしたいという希望を持っており,販売を拡大するための企画及び立案をし,Lモードという新しい商品の担当をしてもらう人材を要請し,北海道支店においては北海道内で再配置を必要とする対象者のうち被控訴人Bが市場調査,企画提案書の作成及びバックヤード業務に適性があり,最も販売経験が長かったことから,北海道支店は,被控訴人Bを室蘭営業支店に配属すると選定したのであって,被控訴人Bが選定された経緯は合理性がないとはいえない(なお,被控訴人Bは,北海道内のLモードの販売目標数は8万件であるが,その80%弱の5万4000件の販売をパートナー(主に量販店)に割り付けており,控訴人の販売目標数は3%にも満たない2200件にすぎない(甲156,157)ことに照らすと,控訴人自身がLモードを販売することは全く予定されておらず,このことは室蘭営業支店でも同様であったと考えられるから,室蘭営業支店においてLモードの商品の担当をしてもらう人材を要請していたとは考え難い旨主張する。しかしながら,この点につき,控訴人は,控訴人にはLモードのほかBフレッツ等をはじめとして多数の商品・サービスが存在するところ,これらの商品・サービスを顧客に提案ないし販売するのは控訴人の社員による営業活動だけではなく,控訴人において他の企業との間で代理店契約を締結したり,インターネットを通じて販売したりするなどして様々な販路を活用しながら全体として売上の向上を図っている旨の説明をしているところ,かかる説明が不合理なものであるとまではいえず,控訴人の社員の営業活動による販売目標数そのものがパートナーによる販売目標数に比べて少なかったとしても,そのことのみで控訴人がLモードを販売することを予定していなかったとはいえないというべきである。したがって,被控訴人Bの主張は採用することができない。)。そして,被控訴人Bは,室蘭営業支店において,Lモードの販売に関する調査として,Q協同組合への企画及び提案等の担当を割り振られていたところ,被控訴人Bに対しては,Lモードの販売に関する調査について書面による指示はなく,しかも,販売の拡大についてQ協同組合のほかに特に具体的な指示がされたことはなかったとしても,Lモードの新しい利用方法の調査及び企画というその業務の性質上,当該業務は既存のノウハウをもとに細かい指示が与えられるようなものではなく,また,必要に応じて上長や同僚に助言を仰ぐことも可能であると考えられるから,被控訴人Bは,従前の販売経験を生かして顧客のニーズをくみ上げるべく努力して業務を遂行することが可能であったといえる上,被控訴人Bは,平成14年10月から調達物流の業務を行い,平成15年4月からは通信機器業務支援システムの登録及び確認等を担当するようになったが,調達物流の業務では,それまでの販売経験等により控訴人の商品及びその物品コードを把握していたことから室蘭営業支店における物品の要求が滞ることがなくなるなど,物品管理業務の状況を改善させる働きを見せていたのであって,室蘭営業支店における営業総括担当の業務が被控訴人Bにとって適性のないものであったとはいえない。以上によれば,被控訴人Bにつき,本件配転は,労働力の適正配置の観点から控訴人の合理的運営に寄与するものであったと認められるから,業務上の必要性が認められるものというべきである。
イ 配転障害事由について
被控訴人Bは,本件配転命令により,妻とともに二女の子の世話をすることができなくなったこと,増毛町の自宅の管理をすることができなくなったこと,身内や知人のいない室蘭での生活を余儀なくされたことなどの不利益を被ったところ,これらの不利益は,労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである旨主張する。
しかし,二女の子の世話については,そもそも二女の子の養育を二女自身に代わって被控訴人Bが行うべき立場にあったというような事情はうかがわれないし,被控訴人Bが室蘭に異動することによって二女による養育が不可能又は著しく困難となったことを認めるに足りる証拠はない。また,自宅の管理に関しては,転居を伴う異動によって自宅の管理が必要になることは通常ないわけではなく,前記のとおり,被控訴人Bは,留萌営業所営業担当から北海道支店営業部エリア営業部門営業担当に異動した際に札幌に転居しており,増毛町の自宅には居住していなかったのであるから,本件配転命令によって自宅の管理について新たに支障が生じたものとは認められない。さらに,被控訴人Bが身内や知人のいない室蘭での生活を余儀なくされたことについては,これにより被控訴人Bが寂しさや不便さを感じたであろうことは推察されるものの,そのことのみでは単身赴任が不当であるとはいい難いというべきである。
以上の事情に照らせば,本件配転命令により被控訴人Bに生じたという各種の不利益が配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超えるものとは認められないといわざるを得ない。
(3) 以上の検討結果によれば,被控訴人Bに対する本件配転命令は,業務上の必要性が認められ,本件配転命令により被控訴人Bに生じた不利益は,配転に伴い労働者が通常甘受すべき程度を著しく超えるものとは認められないから,本件配転命令が権利の濫用になるとはいえない。
(4) 以上によれば,被控訴人Bの請求は,その余の点を判断するまでもなく,理由がない。
4 争点(4)(被控訴人Cの個別事情)について
(1) 被控訴人Cの職歴等,函館営業支店における職務,家族状況等及び関連するその他の事情は,次のとおり訂正するほかは,原判決68頁2行目の「証拠」から同70頁3行目の末尾までに記載のとおりであるからこれを引用する。
ア 原判決68頁2行目の「甲125,144,」の次に「288,」を,同行の「105,」の次に「134,」を,同頁3行目の「153の1ないし6,」の次に「204の3,209,212,214,238,261ないし264,289ないし291,408ないし410,418,419,422,」をそれぞれ加える。
イ 同頁14行目の冒頭から同頁16行目の末尾までを以下のとおり改める。
「(ウ) 被控訴人Cは,平成9年8月1日にTE北海道小樽ネットワークサービスセンタに在籍出向となり,平成11年7月1日にNTTから控訴人に雇用関係が承継されたが,TE北海道小樽ネットワークサービスセンタに在籍出向であることに変更はなかった。
TE北海道は,平成12年3月1日,ME北海道に商号変更した。
(乙264)
なお,被控訴人Cは,平成元年4月1日に小樽支店専用線サービス担当に配属されて以降,専用線サービスの構築,保守及び運用管理をする業務に従事し,ME北海道小樽ネットワークサービスセンタに在籍出向していた際には,専用線サービス業務の一環として,ネットワークに関する最新の通信技術であるWDM装置や10Gリング中継装置の仕事をするなど,専用線業務に従事しながらネットワークの保守運用についての知識,技能を身につけた。また,被控訴人Cは,ネットワーク構築スキルに関連するコンピュータについての知識として,平成11年7月にMCPの資格を,平成12年8月にはCCNAの資格をそれぞれ取得した。(甲144,乙134,289,291,証人N,被控訴人C本人)
(エ) 被控訴人Cが従事していたME北海道小樽ネットワークサービスセンタの業務は,本件構造改革により,平成14年5月1日にOS会社に移行される予定であり,ME北海道には被控訴人Cが従事していた業務が存在しなくなることになった。」
ウ 同頁17行目の「(エ)」を削る。
エ 同頁21行目の「平成14年6月4日から同月5日ころにかけて」を「平成14年6月6日」に改め,同頁23行目の「甲144」の次に「,乙238」を加える。
オ 同69頁5行目の末尾に改行して以下のとおり加える。
「函館営業支店ではSE担当の業務が繁忙となっており,函館営業支店は,北海道支店に対し,同業務への人員の増員を要請し,その際,SE担当としてネットワークの構築,維持及び管理の知識を持ち,かつ,これらについて高度のスキルを有している人材を要請した。これに対し,北海道支店においては北海道内で再配置を必要とする対象者のうち被控訴人CがMCP及びCCNAの資格を有しており,ネットワークについて高度のスキルを有していると認められたため,函館営業支店からSE担当の人材として要請のあったニーズに合致する者として被控訴人Cを配置するのが適切であると判断したものである。(乙134,144,204の3,290,291,証人N,同R)」
カ 同頁15行目の「乙155,」の次に「証人R,」を加える。
キ 同頁19行目の「原告Cは,」の次に「本件配転に当たって,」を加える。
(2) 上記認定事実を踏まえ,被控訴人Cの個別事情について検討する。
ア 業務上の必要性等について
前記認定のとおり,被控訴人Cが従事していたME北海道小樽ネットワークサービスセンタの業務は,本件構造改革により,平成14年5月1日にOS会社に移行され,ME北海道には被控訴人Cが従事していた業務が存在しなくなるのであるから,北海道支店は,被控訴人Cを他の業務に配置せざるを得ない状況にあったといわなければならない。そして,前記認定のとおり,被控訴人Cは,平成元年4月1日に小樽支店専用線サービス担当に配属されて以降,専用線サービスの構築,保守及び運用管理をする業務に従事し,ME北海道小樽ネットワークサービスセンタに在籍出向していた際には,専用線サービス業務の一環として,ネットワークに関する最新の通信技術であるWDM装置や10Gリング中継装置の仕事をするなど,専用線業務に従事しながらネットワークの保守運用についての知識,技能を身につけており,ネットワーク構築スキルに関連するコンピュータについての知識として,MCP及びCCNAの資格を有していたところ,函館営業支店ではSE担当の業務が繁忙となっており,函館営業支店は,北海道支店に対し,同業務への人員の増員を要請し,その際,SE担当としてネットワークの構築,維持及び管理の知識を持ち,かつ,これらについて高度のスキルを有している人材を要請し,北海道支店においては北海道内で再配置を必要とする対象者のうち被控訴人CがMCP及びCCNAの資格を有しており,ネットワークについて高度のスキルを有していると認められたため,函館営業支店からSE担当の人材として要請のあったニーズに合致する者として被控訴人Cを配置するのが適切であると判断したのであって,被控訴人Cが選定された経緯は合理性がないとはいえない。そして,被控訴人Cは,函館営業支店において,コンピュータ等の更改に伴うインターネット接続確認試験,控訴人が受託した保守業務委託における保守契約先からの故障受付,ベンダー手配等,IT講習会に関する契約等の業務処理手続,受託工事に関する契約等事務処理手続等の業務を行っていたのであって,函館営業支店におけるSE担当の業務が被控訴人Cにとって適性のないものであったとはいえない。以上によれば,被控訴人Cにつき,本件配転は,労働力の適正配置,業務の能率増進及び業務運営の円滑化の観点から控訴人の合理的運営に寄与するものであったと認められるから,業務上の必要性が認められるものというべきである。
被控訴人Cは,本件調査票には「通労1名ほぼ不稼働」との記載があるところ,函館営業支店におけるH労組の加入者は被控訴人Cのみであったことに照らすと,被控訴人Cが函館営業支店において適当な業務が与えられていなかったことは明らかである旨主張する。しかしながら,前記認定のとおり,本件調査票には,函館営業支店の状況につき「案件をわずかSE6名(内1名「通労」でほぼ不稼働)で提案,設計,構築,保守サポートと奔走し」と記載されていたことが認められるけれども,この記載のみでは,H労組に所属する1名のSEが稼働していない理由については詳らかではなく,これから直ちに上記SEに該当すると思われる被控訴人Cが函館営業支店において適当な業務が与えられていなかったとすべき根拠とすることはできないというべきである。したがって,被控訴人Cの主張は採用できない。
以上の事情に照らせば,控訴人が被控訴人Cを北海道支店函館営業支店SE担当に配転したことには業務上の必要性が認められるというべきである。
イ 配転障害事由について
被控訴人Cは,本件配転命令により,単身赴任となり,今まで食事を作ったことがなかったのに生活を新しくやり直すことになったこと,一人暮らしとなった妻の生活サイクルが狂ったこと,被控訴人Cの腎臓の機能が低下したことなどの不利益を被ったところ,これらの不利益は,労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである旨主張する。
しかし,被控訴人C及びその妻の生活の変化については,これらは被控訴人Cが単身赴任することによって生じた不利益というべきであり,これにより被控訴人C及びその妻は従前とは異なる生活スタイルを送らざるを得なくなったものであるとは推察されるけれども,控訴人は,被控訴人Cに単身での赴任を命じたわけではなく,また,家族帯同での赴任の場合の社宅も用意していたのであって,被控訴人Cとしては,単身での赴任か,あるいは家族帯同での赴任かのいずれかを選択する余地があったところ,最終的に被控訴人Cは単身での赴任を選択したものであるから,上記のような不利益が生ずることもやむを得ないというべきであり,この不利益が被控訴人Cの家庭や健康等に深刻な影響を及ぼすまでには至っていないことを併せ考えれば,被控訴人Cの主張する事実は未だ配転に伴い労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益とはいい難い。また,被控訴人Cの腎臓の機能の低下については,これが本件配転命令によってもたらされたものであることを認めるに足りる的確な証拠はない。
以上の事情に照らせば,本件配転命令により被控訴人Cに生じたという各種の不利益が配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超えるものとは認められないといわざるを得ない。
(3) 以上の検討結果によれば,被控訴人Cに対する本件配転命令は,業務上の必要性が認められ,本件配転命令により被控訴人Cに生じた不利益は,配転に伴い労働者が通常甘受すべき程度を著しく超えるものとは認められないから,本件配転命令が権利の濫用になるとはいえない。
(4) 以上によれば,被控訴人Cの請求は,その余の点を判断するまでもなく,理由がない。
5 争点(5)(被控訴人Dの個別事情)について
(1) 被控訴人Dの職歴等,釧路営業支店における職務,家族状況等及び関連するその他の事情は,次のとおり訂正するほかは,原判決71頁12行目の「証拠」から同73頁18行目の末尾までに記載のとおりであるからこれを引用する。
ア 原判決71頁12行目の「274,」の次に「289,」を,同行の「107,」の次に「134,」を,同行の「157,」の次に「204の4,219,220,272ないし282,291,294,295,405,434,」を,同行から13行目にかけての「証人」の次に「N,同」をそれぞれ加える。
イ 同72頁7行目の冒頭から同頁8行目の末尾までを以下のとおり改める。
「(カ) 被控訴人Dは,平成9年4月1日から北海道電報サービスセンタマーケティング担当に,平成10年6月1日からは同センタ営業推進担当にそれぞれ在籍して電報の販売施策の企画及び立案,ユーザへの提案訪問活動並びに販売代理店への指導及び支援業務に従事した。その後,被控訴人Dは,平成11年4月1日から電報事業部北海道電報営業支店営業推進担当に,同年7月1日から同営業支店マーケティング担当に,平成13年1月1日からは同営業支店営業担当にそれぞれ在籍して電報の販売企画業務やマーケティング業務に従事した。これらの業務を通じて,被控訴人Dは,特定ユーザ及び大口利用ユーザを顧客化して個別の提案を実施するなど代理店への提案活動を行うとともに,顧客対応,接客並びに企画及び提案業務の経験を有するようになった。(乙134,157,291,294,295,証人S)
この間である平成11年7月に被控訴人Dの雇用関係は控訴人に承継されているが,被控訴人Dの勤務場所に変更はなかった。
(キ) 被控訴人Dが従事していた電報事業部北海道電報営業支店営業担当の業務は,本件構造改革により,平成14年5月1日にOS会社に移行されることになり,同営業支店には被控訴人Dが従事していた業務が存在しなくなることになった。」
ウ 同頁9行目の「(キ)」を削る。
エ 同頁20行目の末尾に改行して以下のとおり加える。
「なお,釧路営業支店では,販売企画業務,物品管理業務,顧客対応が必要な事務局業務に従事する社員を補充する必要が生じており,顧客対応,接客の経験を有するとともに,企画及び提案業務の経験も有する人材を要請した。これに対し,北海道支店においては,釧路営業支店で補充が必要な業務に適性のある社員が北海道内で再配置を必要とする対象者のうち被控訴人Dを含めて9名いたが,被控訴人Dを除いた社員はAM,SE,秘書サポート業務により適性がある一方,被控訴人Dは釧路営業支店が人材として要請する顧客対応,接客並びに企画及び提案業務の経験をひととおり有していたことから,北海道支店は,被控訴人Dを釧路営業支店に配属すると選定した。(乙134,157,204の4,291,295,証人N,同S)」
オ 同73頁8行目の末尾に改行して以下のとおり加える。
「被控訴人Dは,釧路営業支店において,ユーザ協会関連業務として,情報誌の発送業務,文化講演会の開催等の企画立案業務,電話応対コンクールの企画,連絡及び実施業務,応対研修(新入社員研修,フォローアップ研修,クレーム対応研修)の企画運営業務等を処理するとともに,物品管理業務等として,秘書サポート担当やAMが記入した通信機器の要求伝票に従って電話機,FAX及びモデム等の通信機器物品の払い出しを行う作業に従事していた。(乙157,295,405,証人S)」
(2) 上記認定事実を踏まえ,被控訴人Dの個別事情について検討する。
ア 業務上の必要性等について
前記認定のとおり,被控訴人Dが従事していた電報事業部北海道電報営業支店営業担当の業務は,本件構造改革により,平成14年5月1日にOS会社に移行され,同営業支店には被控訴人Dが従事していた業務が存在しなくなるのであるから,同営業支店は,被控訴人Dを他の業務に配置せざるを得ない状況にあったといわなければならない。そして,前記認定のとおり,被控訴人Dは,平成9年4月1日から北海道電報サービスセンタマーケティング担当に,平成10年6月1日からは同センタ営業推進担当にそれぞれ在籍して電報の販売施策の企画及び立案,ユーザへの提案訪問活動並びに販売代理店への指導及び支援業務に従事し,平成11年4月1日から電報事業部北海道電報営業支店営業推進担当に,同年7月1日から同営業支店マーケティング担当に,平成13年1月1日からは同営業支店営業担当にそれぞれ在籍して電報の販売企画業務やマーケティング業務に従事し,これらの業務を通じて,特定ユーザ及び大口利用ユーザを顧客化して個別の提案を実施するなど代理店への提案活動を行うとともに,顧客対応,接客並びに企画及び提案業務の経験を有していたところ,釧路営業支店では,販売企画業務,物品管理業務,顧客対応が必要なユーザ協会の事務局業務に従事する社員を補充する必要が生じており,顧客対応,接客の経験を有するとともに,企画及び提案業務の経験も有する人材を要請し,北海道支店においては,釧路営業支店で補充が必要な業務に適性のある社員が北海道内で再配置を必要とする対象者のうち被控訴人Dを含めて9名いたが,被控訴人Dを除いた社員はAM,SE,秘書サポート業務により適性がある一方,被控訴人Dは釧路営業支店が人材として要請する顧客対応,接客並びに企画及び提案業務の経験をひととおり有していたことから,北海道支店は,被控訴人Dを釧路営業支店に配属すると選定したのであって,被控訴人Dが選定された経緯は合理性がないとはいえない。そして,被控訴人Dは,釧路営業支店において,ユーザ協会関連業務として,情報誌の発送業務,文化講演会の開催等の企画立案業務,電話応対コンクールの企画,連絡及び実施業務,応対研修(新入社員研修,フォローアップ研修,クレーム対応研修)の企画運営業務等を処理するとともに,物品管理業務等として,秘書サポート担当やAMが記入した通信機器の要求伝票に従って電話機,FAX及びモデム等の通信機器物品の払い出しを行う作業に従事していたのであって,釧路営業支店における業務が被控訴人Dにとって適性のないものであったとはいえない。以上によれば,被控訴人Dにつき,本件配転は,労働力の適正配置の観点から控訴人の合理的運営に寄与するものであったと認められるから,業務上の必要性が認められるものというべきである。
被控訴人Dは,満了型を選択していたTは,平成14年7月に釧路営業支店から北海道支店法人営業部へ異動し,同営業部でユーザ協会業務をしていたことからすれば,Tに被控訴人Dが釧路営業支店で行っていた仕事を行わせることも可能であったと主張するが,既に説示したとおり,異動における業務上の必要性は余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定されるものではないから,Tに被控訴人Dが行っていた仕事を行わせることが可能であるというのみでは,業務上の必要性を否定する根拠にはならないというべきであって,被控訴人Dの主張は採用できない。
また,被控訴人Dは,平成14年5月時点における釧路営業支店の営業総括担当は4名,「その他」が2名とされている(甲274)ところ,被控訴人Dは上記「その他」2名に含まれているものと考えられるから,被控訴人Dが営業総括担当として事実上不必要な存在とされていた旨主張するけれども,被控訴人Dが上記2名に含まれるとする確たる根拠があるとは認められない上,そもそも上記2名に含まれるということから直ちに営業総括担当として不必要な存在とされていた証左であるとはいえないというべきであるから,被控訴人Dの主張は採用することができない。
以上の事情に照らせば,控訴人が被控訴人Dを北海道支店釧路営業支店営業総括担当に配転したことには業務上の必要性が認められるというべきである。
イ 配転障害事由について
被控訴人Dは,本件配転命令により,軽度のうつ病に罹患していた妻を釧路に呼び寄せたが,妻は家族とのコミュニケーションがなくなるなどしたためにうつ病が悪化したこと,予定外の経済的負担を強いられ,生活環境が一変したことなどの不利益を被ったところ,これらの不利益は,労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである旨主張する。
しかし,妻の病気については,仮に被控訴人Dの妻がうつ病の治療のために通院を必要としたとしても,釧路の病院への通院によっては治療の効果があがらないと認めるに足りる証拠はない。また,被控訴人Dが予定外の経済的負担を強いられ,生活環境が一変したことについては,かかる不利益は異動においては付随するものであり,このことのみをもって通常甘受すべき程度を超える不利益を被ったとはいえない。
以上の事情に照らせば,本件配転命令により被控訴人Dに生じたという各種の不利益が配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超えるものとは認められないといわざるを得ない。
(3) 以上の検討結果によれば,被控訴人Dに対する本件配転命令は,業務上の必要性が認められ,本件配転命令により被控訴人Dに配転に伴い労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が生じた特段の事情は認められないから,本件配転命令が権利の濫用になるとはいえない。
(4) 以上によれば,被控訴人Dの請求は,その余の点を判断するまでもなく,理由がない。
6 争点(6)(被控訴人Eの個別事情)について
(1) 被控訴人Eの職歴等,NWソリューションセンタ及び光IP販売プロジェクトにおける職務,家族状況等及び関連する事情は,次のとおり訂正するほかは,原判決75頁13行目の「証拠」から同82頁7行目の末尾までに記載のとおりであるからこれを引用する。
ア 原判決75頁15行目の「213,」の次に「308,」を,同頁17行目の「179,」の次に「187,」を,同行目の「189の1,2,」の次に「224,237,291,296,308ないし312,458ないし462,」を,同行目の「同V,」の次に「同W,」をそれぞれ加える。
イ 同76頁9行目の「苫小牧から」を削る。
ウ 同頁10行目の末尾に改行して以下のとおり加える。
「被控訴人Eは,苫小牧支店お客様サービス部サービス営業担当116担当及び札幌116センタにおいて,CUSTOM等の社内システムを利用するなどしてSO業務を行い,同業務を通じて,控訴人の商品及びサービスの内容や仕組み,これらの商品等を顧客に提供する際に留意すべき事項等についての知識を有するようになっていた。(乙134)」
エ 同頁16行目の末尾に改行して以下のとおり加える。
「被控訴人Eは,上記研修において,光IP販売プロジェクトにおける主力販売商品であるBフレッツ等の光・IPブロードバンド関連の商品に関する知識を習得する機会を得た。(乙296)」
オ 同頁18行目から19行目にかけての「法人営業本部サービスマネージメント部NWソリューションセンタ」の次に「(NWソリューションセンタ)」を加え,同行目から20行目にかけての「SO担当」を「SO推進担当」に改め,同頁22行目の末尾に改行して以下のとおり加える。
「なお,控訴人法人営業本部サービスマネージメント部においては,全国に事業所を有する大規模な顧客からの多様な要望に応えてサービスの質を向上させ,もってIP・ブロードバンド関連の商品及びサービスの提供を図ることを目的として,平成14年7月にNWソリューションセンタを組織することとした。そのため,法人営業本部では,SO業務等に従事した経験を有する社員及び法人営業の知識ないし経験を有する社員の合計約50名を早急に配置する必要が生じたところ,そのうち約20名については法人営業本部内で再配置することで確保することができたものの,残りの約30名については,法人営業本部内で確保することができず,控訴人本社に対して人員を要請していた。これに対し,控訴人は,被控訴人Eについて法人営業本部サービスマネージメント部が要請していた上記の経験及びスキルを有する社員であると判断し,被控訴人EをNWソリューションセンタに配属すると選定した。(乙134,158,187,291,証人N,同U)」
カ 同頁23行目の「本件構造改革リファイン」から同頁24行目の「廃止となった。」までを以下のとおり改める。
「被控訴人Eが従事していたNWソリューションセンタSO推進担当の業務は,本件構造改革リファインにより,平成15年4月1日にOS会社に移行され,NWソリューションセンタは同年3月31日をもって廃止されることになった。」
キ 同77頁1行目から2行目にかけての「以下「IPプロジェクト」という。」を「光IP販売プロジェクト」に改め,同頁3行目の末尾に改行して以下のとおり加える。
「東京支店では,IP・ブロードバンドビジネスの中心となる光ファイバーを利用したサービスに関する顧客への提案ないし折衝をSOHO(小規模な事業者や個人事業者)及びマスユーザ(戸建て住宅や小規模集合住宅の顧客)を対象として喫緊にかつ重点的に行う必要があると認められたことから,同支店営業企画部に光IP販売プロジェクトを設置することとした。そのため,東京支店では約150名の社員を光IP販売プロジェクトに配置する必要が生じたが,東京支店だけではすべての社員を確保することができなかったため,東京支店は,控訴人本社に対し,控訴人の商品及びサービスに関する知識を有し,又は実際に顧客と対応した経験を有し,若しくは控訴人の通信回線及び通信機器に係る知識並びにこれらの設置等にかかわった経験を有する人材を要請していた。これに対し,控訴人は,被控訴人Eの有していた知識及び経験等にかんがみ,被控訴人Eを東京支店に配属すると選定した。(乙158,159,224,296,証人U,同V,同W)」
ク 同頁11行目の冒頭から同頁24行目の末尾までを以下のとおり改める。
「ウ NWソリューションセンタ及び光IP販売プロジェクトにおける職務
(ア) 被控訴人Eは,NWソリューションセンタにおいてSO推進担当の業務に従事したが,同業務の内容は,AMが受注した顧客からの商品及びサービスの新設や変更等の依頼をCUSTOM等の社内システムを利用して顧客の利用状況等を確認し,当該工事を行うエリアの支店等に工事の依頼をするとともに,これらの仕事を処理するに当たって必要な控訴人の通信回線を調査するというものであった。(乙158,証人U)
(イ) 被控訴人Eは,光IP販売プロジェクトにおいては特販担当の業務に従事したが,同業務の内容は,SOHO及びマスユーザ市場に対するブロードバンドサービスの販売活動やアンケート調査等のマーケティング情報収集であった。(乙159,証人V)
被控訴人Eが平成15年度に顧客を訪問した件数は,特販担当として配属された社員76名中33位であった。(乙237,296,証人W)」
ケ 同78頁2行目の「その後は別居していた。」の次に「被控訴人Eが両親と別居していたのは,被控訴人Eの母と被控訴人Eの妻との折り合いが良くなかったことなどによるものである。」を加える。
コ 同頁11行目の「服用している」を「服用していた」に改める。
サ 同頁19行目の「年間174万円程度である」を「年間174万円程度であった」に改める。
シ 同頁25行目から末行にかけての「加療中であり,」を「加療中であった。」に改める。
ス 同79頁5行目の「平日の1,2回」を「平日のうち一,二日」に改める。
セ 同頁13行目の「Xによる」の次に「上記のような」を加え,同頁16行目の「登別市在住」の次に「。以下「Y」という。」を,同行から17行目にかけての「頸椎椎間板ヘルニアのため,」の次に「またY自身の家庭の家事を行わなければならないために」をそれぞれ加える。
ソ 同80頁3行目の「年休」を「年次休暇」に改める。
タ 同81頁11行目の末尾に改行して以下のとおり加える。
「(e) 被控訴人Eの父は,平成20年3月14日,特別養護老人ホーム「a園」に入所したが,同年11月1日に死亡した。(弁論の全趣旨)
被控訴人Eの母は,平成19年10月11日,介護施設「b園」に入所した。(弁論の全趣旨)」
チ 同頁17行目の「SO担当」を「SO推進担当」に改める。
ツ 同82頁3行目の「申告した。」の次に以下のとおり加える。
「この時,被控訴人Eは,高齢で身体の不自由な両親の状態及びその介護の状況等について述べた上,両親の介護の必要があるものの妻だけでは十分に両親の介護ができないため遠隔地への配転には同意できない旨主張した。」
(2) 上記認定事実を踏まえ,被控訴人Eの個別事情について検討する。
ア 業務上の必要性等について
(ア) NWソリューションセンタへの配転について
前記認定のとおり,控訴人法人営業本部サービスマネージメント部においては,全国に事業所を有する大規模な顧客からの多様な要望に応えてサービスの質を向上させ,もってIP・ブロードバンド関連の商品及びサービスの提供を図るため,平成14年7月にNWソリューションセンタを組織することとし,SO業務等に従事した経験を有する社員及び法人営業の知識ないし経験を有する社員の合計約50名を早急に配置する必要が生じたところ,そのうち約20名については法人営業本部内で再配置することで確保することができたものの,残りの約30名については,法人営業本部内で確保することができず,控訴人本社に対して人員を要請していたのであるから,控訴人は,東日本地域の中からSO業務等に従事した経験を有する社員及び法人営業の知識ないし経験を有する社員を選定しなければならない状況にあった。そして,前記認定のとおり,被控訴人Eは,平成9年8月に苫小牧支店お客様サービス部サービス営業担当116担当に,平成13年1月に札幌116センタ加入権担当にそれぞれ配属され,これらの部署において,CUSTOM等の社内システムを利用するなどしてSO業務を行う経験を有していた上,控訴人が実施している従業員のスキル把握システムにおいて,SO業務のスキルレベルはB(独力で業務が遂行できるレベル)であったことから,控訴人は,被控訴人Eについて法人営業本部サービスマネージメント部が要請していた上記の経験及びスキルを有する社員であると判断し,被控訴人EをNWソリューションセンタに配属すると選定したのであって,被控訴人Eが選定された経緯は合理性がないとはいえない。しかも,前記認定のとおり,被控訴人Eは,平成14年10月になされた面談における自己申告において,NWソリューションセンタでの仕事が自分に合っている旨述べていたことに照らすと,NWソリューションセンタにおけるSO推進担当の業務は被控訴人Eにとって適性のあるものであったといえる。以上によれば,被控訴人EのNWソリューションセンタへの配転は,労働力の適正配置,業務の能率増進及び業務運営の円滑化の観点から控訴人の合理的運営に寄与するものであったと認められるから,業務上の必要性が認められるものというべきである(ただし,この業務上の必要性は,被控訴人Eが従事していた札幌116センタ加入権担当の業務が存在しなくなったために被控訴人Eを他の業務に配置せざるを得ない状況になったものではなく,本件構造改革による雇用形態及び処遇体系の選択をさせた結果生じたという側面を有する。)。
被控訴人Eは,NWソリューションセンタが平成15年3月31日をもって廃止されたことなどに照らすと,被控訴人Eに対するNWソリューションセンタへの配転については業務上の必要性が認められない旨主張するが,NWソリューションセンタが設置される経緯は前記で認定したとおりであり,NWソリューションセンタが必要性もないのに設置されたことも,本件配転時には既に上記時期に廃止されることが予定されていたことも認めるに足りる証拠はないから,被控訴人Eの主張は採用できない。
(イ) 光IP販売プロジェクトへの配転について
前記認定のとおり,被控訴人Eが従事していたNWソリューションセンタSO推進担当の業務は,本件構造改革リファインにより,平成15年4月1日にOS会社に移行され,NWソリューションセンタは同年3月31日をもって廃止される予定であり,被控訴人Eが従事していた業務が存在しなくなることになるのであるから,控訴人は,被控訴人Eを他の業務に配置せざるを得ない状況にあったといわなければならない。
前記認定のとおり,東京支店では,IP・ブロードバンドビジネスの中心となる光ファイバーを利用したサービスに関する顧客への提案ないし折衝をSOHO及びマスユーザを対象として喫緊にかつ重点的に行う必要があると認められたことから,同支店営業企画部に光IP販売プロジェクトを設置することとし,約150名の社員を配置する必要が生じたが,東京支店だけではすべての社員を確保することができなかったため,東京支店は,控訴人本社に対し,控訴人の商品及びサービスに関する知識を有し,又は実際に顧客と対応した経験を有し,若しくは控訴人の通信回線及び通信機器にかかる知識並びにこれらの設置等にかかわった経験を有する人材を要請したところ,前記のとおり,被控訴人Eは,平成9年8月以降,苫小牧支店お客様サービス部サービス営業担当116担当及び札幌116センタにおいて,SO業務を行っていた経験を有しており,同業務を通じて,控訴人の商品及びサービスの内容や仕組み,これらの商品等を顧客に提供する際に留意すべき事項等についての知識を有するようになっていた上,平成14年4月及び同年5月に実施された研修において,光IP販売プロジェクトにおける主力販売商品であるBフレッツ等の光・IPブロードバンド関連の商品に関する知識を習得する機会があり,同年7月1日からNWソリューションセンタにおいて,AMが受けた顧客の依頼を処理するSO業務及び控訴人の通信回線を調査する業務に従事しており,控訴人の商品及びサービスの内容及びサービスに関する知識を有するとともに,控訴人の通信回線にかかる知識を有していたことから,控訴人は,被控訴人Eを東京支店に配属すると選定したのであって,被控訴人Eが選定された経緯についての判断は合理性がないとはいえない。そして,被控訴人Eは,光IP販売プロジェクトにおいて,特販担当に配属され,SOHO及びマスユーザ市場に対するブロードバンドサービスの販売活動やアンケート調査等のマーケティング情報収集を行っていたものであるところ,被控訴人Eは,従前,直接顧客に接する業務に従事していなかったけれども,前記認定のとおり,被控訴人Eが平成15年度に顧客を訪問した件数は,特販担当として配属された社員76名中33位であって,他の社員に比べて劣るものではなかったのであるから,光IP販売プロジェクトにおける特販担当の業務が被控訴人Eにとって適性のないものであったとまではいえない。以上によれば,被控訴人Eの光IP販売プロジェクトへの配転は,労働力の適正配置の観点から控訴人の合理的運営に寄与するものであったと認められるから,業務上の必要性が認められるものというべきである。
被控訴人Eは,光IP販売プロジェクトにおける特販担当の業務は被控訴人Eが有していたスキルとは関連がないから,被控訴人Eに対する光IP販売プロジェクトへの配転は業務上の必要性が認められない旨主張するが,前記のとおり,光IP販売プロジェクトにおける特販担当の業務が被控訴人Eの有していた知識及びスキルと全く関連性がないとまではいえず,しかも,同業務が被控訴人Eにとって適性のないものであったとまでもいえないのであるから,被控訴人Eの主張は採用することができない。
(ウ) 以上の事情に照らせば,控訴人が被控訴人EをNWソリューションセンタSO推進担当に,その後,光IP販売プロジェクトにそれぞれ配転したことには業務上の必要性が認められるというべきである。
イ 配転障害事由について
(ア) 被控訴人Eが平成14年7月1日付けでNWソリューションセンタへの配転を命じられた当時,被控訴人Eの父は,86歳で,緑内障による視力障害により身体障害者等級1級に認定されていた上,要介護3(中等度の介護を要する状態(排便,入浴等の全介助が必要))と認定されており,被控訴人Eの母は,81歳で,変形性関節症による左膝関節機能の全廃により身体障害者等級4級に認定されていたのであって,被控訴人Eの両親,とりわけ父については介護の必要性が強かったものと認められる。
そして,前記認定の事実によれば,被控訴人Eの両親は,苫小牧で二人で暮らしていたところ,被控訴人Eは,平成11年ころから平成12年ころまでにかけて,平日には,両親宅に頻繁に電話をかけて事故がないかどうかを確認し,土・日曜日の夜には,両親宅を訪れて様子をみたり身の回りを片づけたりし,買い物や病院への通院の付添い等をして両親の日常生活をサポートし,平成13年ころからは,札幌に遠距離通勤をするかたわら,平日のうち一,二日について,退社後午後7時30分ころに生活サポートのため両親宅を訪れるようにしていた上,土曜日にも両親宅に出かけて様子をみるなどしていたこと,平成14年ころには,被控訴人Eの母が体力的に被控訴人Eの父の面倒を毎日みることができなくなったことなどから,岩見沢に居住している被控訴人Eの妹であるXが週1回泊まりがけで被控訴人Eの両親を介護したほか,平日には被控訴人E及びその妻が両親宅に寄り,土・日曜日には被控訴人Eが両親宅を訪れて両親の様子をみていたところ,その後,Xの家庭が忙しくなったため,同年3月半ば以降,Xによる両親の介護は週一,二回の割合で日帰りのものになっていたこと,登別に居住している被控訴人Eのもう一人の妹であるYは,頸椎椎間板ヘルニアの持病のため両親の介護が困難であったことなどが認められる。被控訴人Eの母は,被控訴人Eの父と二人で暮らしており,同人の介護を担当することが全く不可能であるというものではなかったと思われるけれども,被控訴人Eの母自身高齢である上,身体的に不自由であり,しかも,排便,入浴等の全介助が必要な状態にある被控訴人Eの父を毎日介護することは精神的にも,また肉体的にも過酷であると考えられ,被控訴人Eの母に被控訴人Eの父の介護を期待することは困難であるといわざるを得ない。被控訴人Eの二人の妹については,いずれも独立した世帯をもっている上,両親が居住する苫小牧からは相当程度遠距離の場所に居住し,Yに関しては頸椎椎間板ヘルニアの持病を有していることなどにかんがみれば,被控訴人Eの二人の妹に両親の介護の主要な部分をゆだねることも現実的ではないといわなければならない。他方で,原判決認定の家族状況等(訂正後のもの)からは,被控訴人Eの両親の介護をホームヘルパーや社会福祉施設等に委託することには困難が伴うことがうかがわれるばかりでなく,そもそも第三者がこれらの社会福祉制度の利用を強いるべきことではない。そうすると,被控訴人Eの両親の介護を主に行うことができるのは,同じ苫小牧に居住する被控訴人E及びその妻しかいないと認められるところ,被控訴人Eの両親と被控訴人Eの妻との親族関係,人間関係,被控訴人Eの父の病状等に照らすと,被控訴人Eの妻が被控訴人Eの両親の精神的な支えになるとは直ちにいえないばかりか,かえって被控訴人Eの両親にストレスを感じさせるということがないではないのであって,被控訴人Eの妻が一人で介護を行うことは困難であるといわざるを得ず,被控訴人Eによる介護が必要不可欠であると認められる。
このような中で,被控訴人Eが東京にあるNWソリューションセンタに配転されることになれば,被控訴人Eが東京に単身赴任することにならざるを得ず(関係証拠からは,被控訴人Eがその両親を伴って東京に赴任することはおよそ考え難い状況にあったと認められる。),その場合には,被控訴人Eの両親の介護を被控訴人Eの妻及び妹らにまかせることになるが,この場合には上記のとおり多くの解決困難な問題が懸念されるのであって,被控訴人Eの妻及び妹のみによる介護には無理があったというべきである。このことは,前記認定にかかる被控訴人Eが東京に転勤した後のその父母の介護の状況に如実に顕れている(控訴人は,被控訴人Eの両親に対する介護の内容は代替性がある旨主張するけれども,被控訴人Eの両親の介護の一部をホームヘルパーや社会福祉施設等に委託するにしても,被控訴人Eの妻及び妹にまかせるにしても,上記で説示した様々な問題点があり,被控訴人Eの両親に対する介護について代替性があるとは認められないから,控訴人の主張は採用できない。)。
このような状況下での被控訴人Eに対するNWソリューションセンタへの配転命令は被控訴人Eないしその親族に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであると認められる。さらに,被控訴人Eに対するNWソリューションセンタへの配転命令が被控訴人Eないしその親族に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであると認められる以上,同配転命令を前提として勤務地を東京としたままで上記不利益が解消されないままされた光IP販売プロジェクトへの配転命令もまた,被控訴人Eないしその親族に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものと認められる。
そして,前記のとおり,控訴人は,H労組が控訴人代表取締役社長に提出した平成14年1月21日付け要求書において,当時苫小牧から札幌へ遠距離通勤をしていた被控訴人Eが両親の介護の必要から苫小牧で勤務したい旨記載していたことを認識していた上,同年6月21日に,被控訴人Eから,高齢で身体の不自由な両親の状態及びその介護の状況等について申告を受け,その際,被控訴人Eが両親の介護の必要があるものの妻だけでは十分に両親の介護ができないため遠隔地への配転には同意できない旨主張していたことも認識していたのであり,上記のような要求書の記載及び申告ないし主張の内容等に照らすと,控訴人は,被控訴人Eに対するNWソリューションセンタへの配転命令が被控訴人Eないしその親族に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであることを認識していたか,又はこれを認識することができたというべきである。
(イ) これに対し,控訴人は,次のとおり,被控訴人Eに対するNWソリューションセンタへの配転命令は被控訴人Eないしその親族に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものではないと主張するので,以下,順次検討する。
a 控訴人は,被控訴人Eは,これまで平日は午前9時から午後5時30分までの間は札幌市で勤務しており,苫小牧にある自宅に帰宅するのは早くとも午後7時30分ころであり,その後に両親宅を訪れるとしても限られた時間しか両親宅に在宅することができないこと,被控訴人Eは,両親と別居していたこと,被控訴人Eの自宅は,両親宅から約10キロメートル離れた場所にあり,自動車で移動したとしても約20分を要することに照らすと,被控訴人Eが両親の介護をしていたとは認められない旨主張する。
しかし,被控訴人Eが,平成13年ころに,札幌へ遠距離通勤をするかたわら,平日のうち一,二日は午後7時30分ころに両親宅を訪れ,土・日曜日には両親宅に出かけて様子をみるなどし,平成14年ころには,平日に妻と分担してではあるが両親宅に寄り,土・日曜日には両親宅を訪れて両親の様子をみていたことは前記認定のとおりであり,被控訴人Eは,限られた時間の範囲内であるとはいえ,自己の時間の許す範囲で両親宅を訪れてその様子をみるなどしていたものというべきである。近親者による高齢者の介護は,身体的な面において生理的生活の維持及び継続を内容とする援助を行うというにとどまらず,心理的,社会的その他すべての面において精神的,情緒的安定を支えることなどを内容とする一切の援助を行うことも含むものであり,被控訴人Eが両親宅を訪れて身の回りの世話をすることはもちろんのこと,居住状況などから危急の場合に速やかに駆けつけることのできる条件(被控訴人Eはこの条件を備えていたと認められる。)のもとでは,離れて居住する場合でも両親からの相談を受けるなどすることも精神的援助として介護の一環としての意義を有するといえるものである(現に,被控訴人Eの父の訪問介護を担当したホームヘルパー並びに被控訴人Eの妹及び妻らにより,被控訴人Eの両親にとって被控訴人Eの役割ないし存在は非常に大きいものであると評価されている(甲175,182ないし184,186,187)。)。そうすると,被控訴人Eがその勤務時間により限られた時間内でしか両親宅を訪れることができず,また,被控訴人Eが両親と離れて別居していたからといって,これらのことから直ちに被控訴人Eが両親の介護をしていたと認められないとはいえない(なお,前記認定のとおり,被控訴人Eが両親と別居していたのは,被控訴人Eの母と被控訴人Eの妻との人間関係上の問題等に基づくものであるし,被控訴人Eの自宅が被控訴人Eの両親宅と離れていた(ただし,地理的関係に徴すれば,上記のような介護が不可能なほど離れていたとは認められない。)のは,被控訴人Eが両親宅の近くに手頃な価格の物件を購入することができなかったからにすぎないのであり,被控訴人Eが両親と離れて別居していたことにはそれ相応の理由があるのであって,これらの事情をもって,被控訴人Eが両親の介護をしていたと認められないということはできない。)。
b 控訴人は,被控訴人Eの平成13年1月における札幌116センタへの異動に先だって,被控訴人Eから異動先の希望等を聞いたが,その際,被控訴人Eは苫小牧を希望せず札幌を希望していたことからすると,被控訴人Eが両親の介護を必要としていたとは認められないと主張する。
しかし,被控訴人Eが苫小牧を希望せず札幌を希望したのは,苫小牧にいれば職種転換を余儀なくされることから,職種転換を求められるのを回避するために札幌を希望したものであって,このような被控訴人Eの意向が不合理なものとはいえないし,その後,被控訴人Eが札幌に転居しないで苫小牧から遠距離通勤をしていたことは前記認定のとおりであり,被控訴人Eが苫小牧からの遠距離通勤を選択したのは両親の介護のためであったことは前記認定のとおりであるから,上記のとおり被控訴人Eが苫小牧を希望せず札幌を希望したことをもって,被控訴人Eが両親の介護を必要としていなかったと決めつけることはできない。
c 控訴人は,被控訴人Eが,NWソリューションセンタへの配転命令に先だって,被控訴人Eが両親の介護をしているなどの事情を上長に申述したことがなかったことに照らすと,被控訴人Eに両親の介護の必要性はなかったと認められる旨主張する。
しかし,前記認定のとおり,被控訴人Eは,苫小牧から札幌に遠距離通勤をしていたころ,H労組が控訴人代表取締役に提出した平成14年1月21日付け要求書において,両親の介護の必要性等を理由に勤務地を苫小牧に変更してほしい旨の希望を述べていたのであり,被控訴人Eが過去に両親の介護の必要性を全く訴えていなかったものではないから,被控訴人EがNWソリューションセンタへの配転命令の直前に両親の介護に関する事情を上長に申述していなかったからといって,それだけでは被控訴人Eに両親の介護の必要性がなかったことの根拠とすることはできない。
d 控訴人は,被控訴人Eは,これまで看護休暇や介護休職を利用したことがなかったことに照らすと,被控訴人Eに両親の介護の必要性はなかったと主張する。
しかし,たとえば両親の具合が突然悪化するといった不測の事態に備えて休暇等を取得する余地を残しておくことは通常考えられることであるし,看護休暇の期間中は給与が支給されず,介護休職についても給与として保険料等の合計額のみが支給されるにすぎない(甲12,乙1)のであり,看護休暇や介護休職の利用が被控訴人Eにとって必ずしも満足できるものともいい難いことに照らせば,被控訴人Eがこれまで看護休暇や介護休職を利用しなかったことをもって,被控訴人Eに両親の介護の必要性がなかったとすることはできない。
e 控訴人は,被控訴人Eは,これまで控訴人の福利厚生プランの一つである介護支援サービス制度を利用したことがなかったが,このことからすると,被控訴人Eに両親の介護の必要性がなかったことがうかがわれる旨主張する。
しかし,控訴人の福利厚生プランの一つである介護支援サービス制度は,利用者も一定程度の経済的負担をしなければならない(乙34)のであり,被控訴人Eにとって同制度が必ずしも利用のし易いものではなかった可能性も否定できないから,被控訴人Eがこれまで介護支援サービス制度を利用したことがなかったからといって,そのことをもって被控訴人Eに両親の介護の必要性がなかったことの根拠となるものではないというべきである。
f 控訴人は,被控訴人Eは,介護休職を利用すれば,所定休日(土曜日及び日曜日)等を利用し,又は有給休暇を取得することなどにより,東京から苫小牧に帰郷して両親を介護することが可能であると主張する。しかし,前記で説示したとおり,両親の健康状態の悪化等の不測の事態に備えて休暇等を取得できる余地を残しておくことは十分考えられるところである。この点について,控訴人は,被控訴人Eが毎週金曜日に有給休暇を定期的に取得し,あるいは介護休職を利用するなどして毎週3日間について帰郷できるよう被控訴人Eの勤務割りを検討している(甲200)というが,この検討結果は,休暇等の取得に関する上記の考え方に沿うものではないし,被控訴人Eの帰郷に際しての肉体的負担等を考慮しない著しく非現実的なものといわざるを得ない。
また,控訴人は,控訴人には「単身赴任者等に対する帰郷実費の取扱いについて」(乙30)が制定されており,被控訴人Eに帰郷に際して経済的な出捐があったとしても,それはかなりの程度補てんし得ることから,被控訴人Eに対して著しい経済的負担を強いるものではないと主張する。しかし,控訴人は被控訴人Eが毎週帰郷した場合の経済的負担を試算している(甲201)ところ,同試算の過程で算出されている帰郷に必要な交通費約290万円は,それ自体,被控訴人Eにとって過大な経済的負担であると推認される上,上記試算においては,被控訴人Eが帰郷に要する交通費から被控訴人Eに支給される地域加算手当及び単身赴任手当を控除することによって,実質的な自己負担額を算出しているのであるが,地域加算手当及び単身赴任手当は,その性質上,帰郷のために必要な費用に充てられることのみを目的として支給されるものではないから,帰郷に必要な交通費から上記各手当の全額を控除する試算の過程も不合理なものであるといわざるを得ない。
g 控訴人は,被控訴人EがNWソリューションセンタへの配転に伴う単身赴任について北海道労働局に相談したことから,同局から対応を求められたが,その際,雇用形態・処遇体系の多様化の内容及び実施に当たっての社員対応等について説明したところ,同局から,控訴人は使用者として労働者の状況について把握しており当該配転命令に違法性はない旨の回答を得たため,被控訴人Eに対するNWソリューションセンタへの配転命令は被控訴人Eないしその親族に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものではないと判断した旨主張する。
しかし,北海道労働局の回答は,あくまでも一行政機関により得られた限られた資料の中で述べられた見解にすぎず,その回答内容のいかんによって,上記配転命令は被控訴人Eないしその親族に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるか否かが決せられるものではないのであるから,控訴人が北海道労働局から上記回答を得たからといって,控訴人が同配転命令について被控訴人Eないしその親族に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものではないと判断したことが正当化されるものではないというべきである。
h したがって,控訴人の主張はいずれも採用できない。
(ウ) 他方,被控訴人Eは,平成14年7月1日付けでNWソリューションセンタへの配転を命じられた当時,頸椎障害を負っており,上記配転命令により,初めての単身赴任生活を強いられ,慣れない仕事を余儀なくされたことによって,同障害が悪化し,ついには退職に追い込まれたのであり,これらの不利益は,労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである旨主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,被控訴人Eは,NWソリューションセンタにおいて,特段の支障もなく業務を遂行していたものであり,被控訴人Eが負っていた頸椎障害がNWソリューションセンタへの配転命令により悪化したことを認めるに足りる的確な証拠はないから,被控訴人Eの主張は採用することができない。
(3) 以上の検討結果によれば,被控訴人Eに対するNWソリューションセンタ及び光IP販売プロジェクトへの本件配転命令は,控訴人の合理的運営に寄与するものであって,業務上の必要性が認められるものの,この必要性は前記のようなものであって,その内容に徴すれば,被控訴人Eに生ずる不利益の如何を問わず,東京への転居が必要となる配転が不可欠であったとまでは認め難いのに対して,本件配転命令により被控訴人Eに生じた不利益は,労働者が通常甘受すべき程度を著しく超えるものであり,配転に伴い東京への転居が必要となる限り避けることのできないものであったというべきであって,このような事態は,事業主に対して,労働者の就業場所の変更を伴う配置の変更に当たり,当該労働者の家族の介護の状況に配慮しなければならない旨定める育児介護休業法26条に悖るものといわざるを得ない。控訴人が,この不利益を顧慮することなく(前示の経過によれば,控訴人はこの不利益を認識することができたというべきである。),被控訴人Eに本件配転命令を発したことは,権利濫用として違法であり,これにより被控訴人Eに東京への赴任を余儀なくさせたことは,不法行為になるというべきである。
(4) 本件配転命令に基づく被控訴人Eによる苫小牧から東京への赴任は,転居を伴うもので,被控訴人Eの家族関係に影響を及ぼすものであったところ,とりわけ被控訴人Eは,ともに高齢で身体に障害をもった両親の介護を十分満足にすることができず,そのために被控訴人Eの妻及び妹において被控訴人Eが介護を尽くせなかった部分を不十分なまま補うに止まることを余儀なくされたのであって,本件配転命令が被控訴人Eの両親に対する介護に与えた影響は大きかったものといわざるを得ず,被控訴人E本人のみならず,その両親及び近親者に物心両面で多大な犠牲を強いたものというべきであり,これらによって被控訴人Eが大きな精神的苦痛を受けたことは容易に推認することができる。
その他,前記認定にかかる被控訴人Eの東京における生活の期間及び態様等の諸事情を総合考慮すれば,本件配転命令によって被控訴人Eが受けた精神的苦痛を慰謝するには150万円が相当であると認められる。
第4結論
以上によれば,被控訴人A,被控訴人B,被控訴人C及び被控訴人Dの請求はいずれも理由がなく,被控訴人Eの請求は150万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成15年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。
よって,本件控訴に基づき,原判決中被控訴人A,被控訴人B,被控訴人C及び被控訴人Dに関する部分を取り消して,同被控訴人らの請求をいずれも棄却し,被控訴人Eの本件附帯控訴に基づき,原判決中被控訴人Eに関する部分を変更して,同被控訴人の請求を上記限度で認容し,その余を棄却し,控訴人の被控訴人Eに対する本件控訴並びに被控訴人A,被控訴人B,被控訴人C及び被控訴人Dの本件各附帯控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 信濃孝一 裁判官 中川博文)
裁判官北澤晶は退官のため署名押印することができない。裁判長裁判官 信濃孝一